炎と怒り  Michael Wolff  2018.8.25.


2018.8.25. 炎と怒り トランプ政権の内幕
Fire and Fury: Inside The Trump White House              2018

著者 Michael Wolff ジャーナリスト。USA Today紙やガーディアン紙に寄稿するほか、メディア王ルパート・マードックの評伝The Man Who Owns the Newsなどの著作で知られる。02年、04年に全米雑誌賞受賞

訳者
関根光宏、藤田美菜子ほか 翻訳家

発行日           2018.2.20. 初版印刷  2.25. 初版発行
発行所           早川書房

この本でトランプ政権は終わるだろう――著者 マイケル・ウォルフ(BBCのインタビューより)
ドナルド・トランプ政権の知られざる内情を、1年半にわたる200件以上の関係者取材をもとに明かす。発売3週間で全米170万部を突破した大ベストセラー、緊急出版!

はじめに
本書を執筆した理由は、就任の日が近づく中、同時代を生きる者の臨場感をもってこの物語を語り、政権の内情をその最も近くにいる人々の目を通して観察するために動き始め、当初は就任後100日間を記録しようとしたが、政権第1章の幕が下りたのは7月末にケリー将軍が首席補佐官に任命され、その3週間後に首席戦略官のバノンが退任した時となり、165月末以降1年半にわたる大統領との会話、政権幹部との会話などを基にしている
就任式の直後から、ホワイトハウス西棟のカウチを指定席に、200回を超えるインタビューを重ねた ⇒ 政権はメディアに対してオープン。誰の許可もなく居続けた
政権の取材には特有の難しさがあった ⇒ 政権内に正式な手続きが存在しなかった理、責任者が経験不足だったりしたことが原因
大統領は公の場でもプライベートでも、野放し時状態で絶え間なく発言を続け、それらがあっという間に拡散されていく
本書で描いたのは、それぞれの形で、「トランプの下で働くこと」に何とか意味を見出そうと奮闘してきた人たちの姿

プロローグ――エイルズとバノン
エイルズ(76)は、FOXニュースの初代CEOで右派メディアの最重要人物、バノンのかつての良き助言者
トランプの予想外の当選によって、エイルズはバノンとブライトバートに右派の灯火を手渡さざるを得なくなる
トランプは自分を律することなど出来ず、政治的戦略を立てる能力も皆無、どんな組織の中でも歯車の1つにはなれず、どんな計画や原則にも従うとは思えない。168月トランプはエイルズに無残な状態の選挙運動に力を貸してほしいと頼んだが、他人の助言通りに行動するのを好まないことを知っているエイルズは、その申し出を断り、その1週間後バノンがその仕事を引き受けた
バノンがトランプと初めて会ったのは10年、トランプの名前が大統領候補として出たり消えたりしていたころ

1.    大統領当選当日
陣営内の誰もがトランプが大統領になるわけがないと考えていた
トランプと彼のささやかな戦士たちは、こんな選挙など「不正だ!」と、炎と怒り"をもって敗北する準備を進めていた
トランプ陣営では、初代の選対本部長始め皆が能無しで、トランプの嵐のような罵詈雑言が響き渡っていた
選挙の敗北は必至で、トランプ自身も選挙運動に私費を投じようとはしなかった。最終的に10百万ドルだけ投じたが、それも陣営が別口から調達することが出来ればすぐに返済するという条件付きでの話で、財務責任者だったムニューシンは、トランプが都合よく送金を忘れたりしないよう、すぐに電信送金させて資金を取り込んだ
選挙活動の実態もなきに等しく、まともな選対組織など存在していない
NBCの司会者ビリー・ブッシュに対し、トランプがマイクがオンになっているのも知らずに、「こちらがスターなら向こうもやらせてくれる」と発言したビリー・ブッシュ事件で、折からのセクハラ議論の渦の最中にあってすべてが消し飛んだ
トランプの結婚生活は、周囲の誰にとっても謎に満ちていた。お互い同じところに住んでいてもどこにいるのか知らない
トランプの女好きは有名だが、とりわけ選挙中は世界で最も名の知れたプレイボーイとなった
メラニアは、トランプが大統領になることを信じていた数少ない人間の1人で、イヴァンカが継母への反感を隠そうともせず、「メラニアったらパパが勝つと信じているの。つまり、そういう人なのよ」、と笑い話にしていた。ただ、メラニアにとってトランプが勝つことは恐怖でしかなかった。それまでトランプ一家からも距離を置いて1人息子とともに静かに暮らしてきた生活が脅かされることになる
トランプ陣営が目論んでいたのは、自分たち自身はない一つ変わることなく、ただトランプが大統領になりかけたという事実からできるだけ利益を得ること。生き方を改める必要もなければ、考え方を変える必要もない、自分たちはありのままでいい
トランプ・チームのほぼ全員がトラブルの種を抱えていた ⇒ 後に大統領とそのスタッフに痛手を与えることになる。後に国家安全保障問題担当大統領補佐官となるマイク・フリンは、ロシアからの講演料をもらわない方がいいと友人に忠告されたにもかかわらず、「彼が勝たなければ問題にはならない」と言って、高額を受領している
不動産業自体怪しげな職業で、マネーロンダリングの温床であり、クシュナーなどは脱税その他で前科まである ⇒ 現代の政治家とその側近は普通、自分たち自身を身辺調査の最も重要な対象として来た
自分のビジネスと大統領職とは利益相反を起こすということについてなど思いを巡らせたこともなかっただろう ⇒ 負けても、トランプは世界一有名な男になるだろう――いんちきヒラリーに迫害された殉教者として

2.    トランプ・タワー
トランぷには良心のやましさという感覚がない。反逆者であり破壊者。無法の世界からルールというルールに軽蔑の
ビル・クリントンと酷似。1つ違うのは、クリントンは表向きを取り繕っていたのに対して、トランプはそうではないこと
選挙に勝つためにロシアと共謀したのではないかという疑惑をトランプは鼻で笑うが、よりによってプーチンのご機嫌を取ろうとした言動は、後に政治的にも高くつく可能性が高く、エイルズが早く解決しておけと警告したが、「万事解決済み」というだけだった
当選とともに、ホワイトハウスの機能がトランプ・タワーに政権移行チームのオフィスが設けられたが、少しでも政治に役立つ経験を積んだ者など一人もいなかった ⇒ 選挙運動の最後の18か月間、彼の組織の中心には3人しかいない。選挙参謀のコーリー・ルワンドウスキ(共和党全国大会の1か月前に追い出された)、トランプの広報担当兼個人秘書でインターンのホープ・ヒックス(選挙のために雇われた最初の人間で当時まだ26歳の女性) とトランプ本人
トランプは専門家を軽視、ホワイトハウスについての学術的研究でも現代の首席補佐官が果たす役割とはいかなる性質のものかに焦点が集まっているように、ホワイトハウスとその行政部門は4百万人が働き、うち1.3百万が軍事部門に所属、その全体をいかに運営するかを決定するのは大統領自身でだけでなく首席補佐官の役目にも拘らず、トランプは自己流のマネジメントと自分自身の経験で補おうとした
トランプの不動産事業のブレーンを務めていたレバノン移民の孫であるトム・バラックは、伝説的な眼識を持つ不動産投資家と言われるが、有名人好きで、マイケル・ジャクソンのネバーランドの現所有者。8090年代トランプと共に夜の三銃士として鳴らし、世界中の不良債権を投資対象として財を成し、トランプが窮地に追いつめられた時にも資金注入をするなどして彼を助け、トランプを全面的に有能と認める数少ない人間の1人。トランプも、バラックこそ首席補佐官に適任と考えたが、4度目の結婚をしていたバラックは今更倫理監視機関を満足させられるよう身辺整理をすることなど考えられなかった
次いで身内のクシュナーに目を付けたが、利益相反でありえないと言われ、次がバノンで、彼はトランプ陣営の重要人物。トランプはバノンの話しぶりに心酔していたが、バノンは極端なまでに整理の出来ない男で、1つのことに心をとらわれていると、それ以外のことはどうでもよくなってしまう
最後に出てきたのがプリーバス、集票組織の資金調達係から共和党の全国委員会委員長だったが、押しの強いタイプではなかったところから、名ばかりで力のない首席補佐官と、力のある多彩なメンバー、この人事こそが混沌を生み出し、それと同時にトランプ自身の紛れもなく独立した立場を可能にした
当選確定後最初の記者会見の直前にCNNがスティール文書を暴露。民主党の影響下にあったフュージョン社が16年に元英国諜報員スティールを雇ってトランプとプーチンの交流を暴いた文書で当時は問題にされなかったが、トランプが訪露中に売春婦たちとの常軌を逸したセックスの模様をビデオに撮られて脅されロシアに買収されていたというもの
111日トランプ・タワーのロビーでトランプとメディアが直接対決。政界の反キリスト、闇深くも滑稽なスキャンダルの主人公、アメリカの大敵の言いなりであるトランプ。対するは、正義感と確信と陰謀論に酔った、革命的大衆気取りのメディア。両者とも、互いにとってはまるで信用ならない虚構(フェイク)”の象徴でしかない

3.    就任1日目
周囲からの最初の重要なアドバイスが、FBICIA17ある情報機関を敵に回してはいけないというもの ⇒ トランプは選挙期間を通してずっと、当選後は一層強硬に、アメリカの情報機関は役立たずの嘘つきだと批判していた

4.    バノン
バノンの目標ははっきりしていた。まずはトランプを選挙で勝利させること、2つ目がトランプ政権の陣容を整えること、3つ目がホワイトハウスの実権を握ること
『ベスト&ブライテスト』を愛読し、壮麗な物語に感動したロマンチスト
同書によって大統領のイメージを創り出したのがハルバースタムなら、それを打ち壊し、冒涜したのがトランプ
トランプ陣営の選対本部長に指名されたことで、一躍報道機関に知られることになるが、首席戦略官という政府内で最も大きな権力を持つ1人となった人間について、メディアがほとんど何も知らないということは一体どういうことなのか

5.    ジャーヴァンカ
イヴァンカとジャレッドの夫婦を一緒にした呼び名で、バノンの造語。2人はトランプが大統領になったことを奇貨として、その後を追ってトップに昇り詰めるという共同事業を秘かに企み、ことあるごとにホワイトハウスの中でファースト・ファミリーが持つ不可侵の特権を持ち出した
2人がトランプの直属の部下として事実上の首席補佐官になったのは、トランプの行動に影響を与えようと思えば、そこに全精力を動員しなければならないことを知っていたからで、トランプを動かすのに個々の議論や陳情が果たす役割は小さく、トランプは妄想好きだが、その頭の中では固定された見解は存在せず、トランプの頭の中で起きていることと目の前にいる人間の思考を結びつけることが大事で、その誰かが誰であろうとどんな考えを持っていようと構わない。それゆえ、ホワイトハウスの中で正式なポストに就くことが必要で、外部で顧問をするのとでは大違い
トランプには熱意と機敏さ、計算ずくでない自由さがあり、敵の弱点を抉り出す鋭い嗅覚と、敵が心の底に秘めた欲望を見極める直感が備わっている
クシュナーはニュージャージー出身で、クイーンズ出身のトランプ同様マンハッタンで自分の価値を証明することに躍起になっていたが、周囲からは傲慢、独りよがり、不遜とみられていた。早くからメディアビジネスに参入するために業界の重鎮ルパート・マードックに教えを乞うていたが、トランプもクシュナーもマンハッタンという世界から、とりわけ生きた声であるメディアから拒絶された。メディアは、メディアに対する最大の罪である過度に取り入ろうとしたトランプのことを、有名になりたいだけの浅薄な男とこき下ろしたし、クシュナーに対しても、マンハッタン発の週刊社交情報紙である『ニューヨーク・オブザーバー』紙を06年に10百万ドルで買収したが、どの資産を見ても実際の価値よりも10百万ドル高値で買ったようだとあざ笑っている
トランプは新興成金の常として、メディアから取材されることを心待ちにしていた。『ニューヨーク・オブザーバー』紙が、トランプがどのようにして自分自身を記事にしようとしたのかを記事にした。トランプは気取り屋の恥知らずだったが、そこに教訓を見ることが出来、恥をかくことさえ厭わなければ有名になれる。やがてトランプはメディアのことなら何でも知っていると思い込むようになり、メディアのさらなる関心を惹くためならどこまでも恥知らずになれる
新聞を買収したクシュナーは、上流階級の社交サークルに足を踏み入れ、そこでイヴァンかと出会い09年に結婚するが、ビジネスではコストカットで利益を出そうとした挙句に、カプランという名編集長を追い出し、カプランから新聞を奪ったばかりか、情け容赦なく無能なやり方で潰した男と見做すようになり、さらにカプランが癌で死んだためクシュナーがカプランを殺したとまで言われた。メディアのめに長く晒され続けた人間には過酷な運命がしばしば待ち受けている。メディアの裁きはヒラリーでさえ回避できなかった
トランプは賢くもニューヨークから、価値判断の基準がずっと緩いハリウッドへと拠点を移し替え、リアリティ番組《アプレンティス》の主役スターとなり、そこで芽生えたトランプ流理論、「アメリカの田舎ではセレブリティであることは最高の武器」であり、有名であることは愛されること、少なくとも媚びへつらいを受けることというもので、これこそが選挙期間中大いに役立つことになる ⇒ そこでなんとも信じがたく不可解なトランプ一家のアイロニーが炸裂。メディアは一家を嫌悪してきたが、彼らは不朽の名声をあたえられようとしている。2人とも自分たちがジョークの的にされていることを自覚していたが、それがなぜなのか、心の底から理解したことはなく、なぜこれほどの怒りをぶつけられなくてはならないのかも分かっていない分かっていない
バノンがホワイトハウスでの初仕事として、入国禁止令発令に向けて準備を進める裏で、クシュナーもリーダーとしての最初の業績を記すべく動いていた ⇒ 選挙期間中トランプが侮辱と威嚇し続けてきたメキシコ大統領との会談の実現で、キッシンジャーに媚びを売りその威光にあやかろうとして助言を求め、"国家の壁の問題を移民に関する二国間協定にすり替えて仕舞えばトランプのそれまでの発言の真の意図が伝わると考えたが、就任式の翌週メキシコ政府高官との話し合いが筋書き通りに行きかけたところで、トランプはツイッターで、「貿易赤字は膨大で壁は絶対必要であり、その費用を負担する気が無ければ会談はキャンセルしたほうがいい」とつぶやき、メキシコ大統領は言われた通りにしたため、クシュナーの交渉も政治的手腕も紙屑同然となった
イヴァンカは、父親が沼地(スワンプ)”と呼んで攻撃してきたワシントンDCに集う有名人の世界に入りたいと願い、そのために努力してきた。様々な顔を持ち、様々な売り方ができるブランドへと成長させてきた。父親が大統領になる気配など全くなかったころ、すでに女、そして母"が中心のビジネスへとスタイルを変え、『働く女たち――成功のルールを書き替える』と題した著書をヒットさせ100万ドルを稼いでいる
イヴァンカは、トランプのことを受け入れるのみならず、時に皮肉を込めて笑いの対象にもしている。クシュナーを引き合わせたのはマードック夫人
イヴァンカのみならず、トランプ・ファミリーにとっては、自分がプロデュースすべき"商品であり、自分こそが自分のベンチャービジネス
ディナ・パウエルのホワイトハウス入りが決定 ⇒ 政権発足に当たっては、「プロの助けを借りるべき」との助言が数多くある中で、よく名の上がった女性で、エジプト出身、共和党内でキャリアを築き、ブッシュ政権では人事担当の大統領補佐官と教育・文化担当の国務次官補を歴任、07年ゴールドマン・サックス入社、10年からパートナーとして最高クラスの地位と報酬を得ていた
         
6.    アット・ホーム
メディアが大統領を取り上げるときは、最悪と見做されるスキャンダルにおいてさえ、スーツにネクタイ姿といったビジネス的フォーマルさで登場、トランプがキャリアの大半を通じて作り出そうとしていたのもそう言ったイメージだったが、就任後間もない時点で『ニューヨーク・タイムズ』紙は、新大統領を「異常」と呼んで憚らず、一面まで使って滑稽で哀れでときにあまりに人間くさい大統領の姿を報じるようになった
ホワイトハウスの中を夜な夜なバスローブでウロウロする大統領という噂がたったネタ元はバノンだと報じた。バノンは公式の底なしの声として喋りまくっていたし、それ以上にトランプ自身も、誰彼となく電話をかけまくり、川のように不平不満を垂れ流した

7.    ロシア
トランプはいわゆる職業官僚の人間の気質や行動原理は理解不能で、彼らとの間には根本的に深い溝があった
司法副長官のサリー・イェイツは、なぜか政権発足後もセッションズが議会からの承認を得るまでの間長官代行を務めていて、ある情報機関が認可のもとに行っていた盗聴において、国家安全保障問題担当補佐官に承認されていたフリンが駐米ロシア大使キスリャクと連絡を取っていたことをホワイトハウスに報告したが、同時に外部へもリークされメディアが取り上げる
トランプ陣営は、何の根拠もない政権叩きだと言って反論、対する反トランプ側、特にメディアも打倒トランプの最終兵器にしようと企む
あらゆる意味で問題となったのはロシアではなく、本当の問題は、強さであり、洞察力であり、忍耐力だった ⇒ 明らかにトランプに欠けている資質
171CIAFBI、国家安全保障局が、「プーチンが16年の米大統領選挙に対する干渉工作を命じていた」とする統一見解を発表
ホワイトハウス側が懸念していたのは、全容の解明が進むにつれ、トランプのよろしくないビジネスが明らかになること
フリンは、退役中将、選挙戦中のトランプからのお世辞に酔いしれ、何でも言いなりになるトランプの操り人形

8.    組織図
トランプの組織ほど、軍隊式の規律から遠い存在はそうはない ⇒ 事実上あるのは、1人のトップと彼の注意を引こうと奔走するその他全員という図式のみ
各人の任務が明確でなく、場当たり的な対処しか行われず、ボスが注目したものに全員が
目を向ける
トランプ率いるホワイトハウスにおいて、中核となる正当化理論とは、専門知識は過大評価されているというもので、物事の神髄に迫るうえで、直観も同程度以上に有効

9.    CPAC
保守政治行動会議(CPAC)は、1964年の大統領選におけるゴールドウォーターの歴史的大敗後に、保守運動の生き残りにより発足された、保守運動の活動家が集まる毎年恒例の大会で、中道右派の中の右派の集まり ⇒ そこからそれている保守派には、どんな方向性を持つ保守派であれ曖昧な態度を示してきた
CPACは、これまでトランプをいかがわしい保守派と見做していたが、トランプは11年保守派に忠誠を誓い、CPACの中でのスピーチ枠を求める活動を開始しており、多額の寄付をして15分の枠を確保していたが、今回は大統領就任により大手を振って大会に参加しスピーチを行うことになり、新保守として受け入れられる
バノンもプリーバスと共にインタビューに登場。バノンは前年までブライトバート・ニュースの名でCPACに招かれなかった人を呼んで隣の会場で別の大会を開催していた

10. ゴールドマン・サックス
逆にジャーヴァンカ陣営は、バノンやその仲間たちが漏らした噂により立場が危うくなりつつある
トランプは、ユダヤ人やイスラエルと奇妙な縁がある ⇒ 不動産業界においてははっきり非ユダヤ人派ではあるが、ユダヤ人の支配するニューヨークで成長し事業を成功させたイディッシュ語を織り交ぜた物言いが、トランプに思いがけない表現力を与え、08年の民主党予備選でヒラリーが「痛い目に会った」ことを「shlongされた」と言っていたり、イヴァンカがユダヤ教に改宗し、ホワイトハウス初のユダヤ教徒となっている
トランプは、ヨーロッパの反ユダヤ主義団体とともに、ヨーロッパに台頭する右翼に味方して、その火を掻き立て、不穏な空気やマイナスの感情を煽っている
トランプがクシュナーにイスラエルを預けるのは一種の試験であり、ユダヤ人としてのクシュナーを試すテストだったが、バノンはクシュナーをこき下ろし、右派的な視点からイスラエルを擁護
クシュナーは反撃に出るためにゴールドマン・サックスのユダヤ人の力を利用。国家経済会議委員長及び経済担当大統領補佐官に、当時ゴールドマン・サックスの社長だったゲイリー・コーンを推薦、ウェストウィングでは唯一大組織の運営に携わった人間で、一躍バノンの対抗馬となった
イヴァンカに口説き落とされたディナ・パウエルもゴールドマン・サックス出身で、コーンとともに、いつかジャーヴァンカがホワイトハウスを自分たちのものするという確信があったからこそ、自分たちでホワイトハウスを方向付け管理する手助けをしようと決断
就任2か月目に入った両院合同会議でのトランプの初めてのスピーチを、ジャーヴァンカ陣営が支配、リセット演説としてバノン色を一掃することに成功し、新たなテーマを手を差し伸べるとした

11. 盗聴
両院合同会議の翌日、新任司法長官セッションズが駐米ロシア大使と面会したとの報道
ドタバタ喜劇のように次々と関係者が増えていくトランプ政権の馬鹿馬鹿しいロシア疑惑のために自分の仕事を危険に晒す気のなかったセッションズは、捜査から外れたために、トランプは自分を守らない司法長官に激怒
選挙期間中にトランプ・タワーが盗聴されていたという話題が出たテレビを見ていたトランプは、すぐに「オバマが盗聴していた。これはマッカーシズムだ」とツイート

12. 撤廃と代替
共和党急進派の牙城になりかけていた下院の動きを止めたのが議長のポール・ライアンで、特に選挙期間中トランプはライアンに散々こき下ろされてきた。ライアンは16年春の時点でもトランプに対抗できる位置にあり、名乗りを挙げれば党大会でも指名を獲得できただろうが、ライアンはそれよりトランプが本選で歴史的な敗北を味わわせれば、その後は誰の目にも明らかなリーダーとして自分が党を主導していけると考えた
トランプは、バノンが手のひらを返したように従順になり有用な存在になると考えていたが、バノンは共和党のエスタブリッシュメントの一掃を考えていたので、大きな隔たりがあり、結局ライアンは据え置かれ、白紙委任状を与える。トランプが対人関係で時折見せる奇妙で予想のつかない反応を示す好例となった
オバマケアの撤廃という共和党最大の目標に、トランプは関心がなかった。そのトランプをうまく丸め込んだのがライアンで、単なる撤廃ではなく、撤廃と代替を唱えて問題を曖昧にした
3月になってFBIのコミー長官が下院の情報特別委員会に出席して、対諜報活動の一環として、16年の大統領選へのロシア政府の介入について捜査してることを認めたため、それまでトランプは単なるでっち上げだと相手にしなかったが、政権を揺るがす一大スキャンダルに発展
次席補佐官だったケイティ・ウォルシュが辞表を提出。僅か10週間でフリンに続いて2人目の上級スタッフを失う

13. 闘士バノン
10週間もしないうちにバノンは、トランプの方針に対して、少なくともトランプ自身に対して、コントロールを失っているように見えた ⇒ 自分こそがこの国を本当に変えていこうとして働いていると思い込み、それを実際口に出さないではいられなかったために、大統領の信頼はどんどん低下、トランプの残酷さに苦しめられた。トランプは普段から無慈悲だったが、敵対する相手には鼻持ちならないほどの残酷さを発揮
現在の合衆国は敵対する2つのグループに分かれているが、それを5565年代の姿に戻そうというのがバノンの理想であり、アメリカの製造業を支えた貿易協定やアメリカ人労働者を守る移民政策、アメリカの資源を保護し、支配階層が国際的孤立を実現していた社会を再現する
バノン解任の声が高まると、急進的な政府の打倒に投資した資金とバノンの将来を守るために当初彼を選対に送り込んだマーサー家が猛反発、トランプにしてもブライトバートを支配しているマーサー家と敵対しては政権が持たないと考え妥協する代わりに、バノン追い落としを計ったジャーヴァンカにさらなる権限を与える ⇒ 新たに行政組織の改革を実行するために米国革新局を新設しクシュナーをトップに据えバノンの影響力低下を狙うとともに、イヴァンカを正式に大統領補佐官とする
トランプの不動戦略を生み出すきっかけになったロックフェラー・センターに倣って、父親をロックフェラーに変身させようと目論むイヴァンカ夫妻は、ホワイトハウスをトランプ一家のもとに結束させようという野望を抱き、そのためにはバノンが邪魔になってきた
両派の闘争の間に、大統領はバノンが慎重に進めてきた取り組みの1つである環境政策の修正案となる大統領令第13783号に署名、従来の国家環境政策法を骨抜きにし、パリ協定に対する国の立場についての議論を生み出すきっかけとなった
クシュナーが突然イラク駐留米軍の前に大統領代理として現れた映像を見ながら、バノンは歯ぎしりしながら見守りながらも、それでも政権に真の推進力をもたらすのは自分だという確信を持ち続けていた

14. 危機管理室
44日シリア政府軍が反乱軍を化学兵器で攻撃し、多くの子供が犠牲になったが、国外の事件がトランプ政権に影響を及ぼした初めてのケースとなる ⇒ 外部からもたらされる危機に対処することこそ、大統領の最も重要な役割であり、それによって政権は形作られていく
トランプ政権はアメリカ史上類例がないほど不安定な政権だが、外交政策や世界全体に対する大統領の考え方もまた実に出鱈目、知識に乏しく、気紛れにさえ見え、大統領顧問たちでさえ予測不可能、外交政策に関する経験は皆無に等しいというのに専門家への敬意も持ち合わせない
トランプのホワイトハウスには独特の問題があった。文章を読もうとしない人間、自分が知りたい話にしか耳を傾けない人間に、どのように情報を届けるかという問題
国家安全保障担当大統領補佐官になったばかりのマクマスターに対し、元々面接の時からトランプは好印象を持っておらず、推薦してきたクシュナーに文句を言って解任を考えていた
シリアの攻撃の証拠が明らかになると、行動を起こす絶好の機会と思われ、国家安全保障問題担当間の大半が力を誇示するために異議を唱えるべきと主張したが、バノンだけが解決の難しい問題への関与に反対、トランプも基本的には融和主義者で、何の利益にもならない上にロシアに逆らって何になると考えていた
攻撃の翌日、既定路線に従ってバノンが国家安全保障会議から外される
イヴァンカとパウエルは、トランプが名声や大物というイメージを好み、そんなイメージを与えてくれるインパクトが好きだというところを突いて、口から泡を吹く子供たちの写真を見せると、俄かに興味を示し他の軍事的選択肢にも多大の興味を示すようになった
翌日、クシュナーがキッシンジャーの助けを借りて準備した習近平とのフロリダでの会談に向かう機内で化学兵器攻撃への対応を決定し、大統領が空爆を命じる ⇒ パウエルの発案でフロリダの別荘に仮設した危機管理室で全員揃って写真を撮影

15. メディア
アメリカは政治と同じくらいメディアによっても分断されたというか、メディアは政治の化身だと言ってもいい ⇒ ブライトバートを中心とする右派メディアがトランプは伝統的な保守精神には反するかもしれないなどと言い訳しながらも猛烈な勢いで彼と一体化した一方、伝統的なメディアはそれにひけを取らないほど激しく彼に抵抗する存在になった
エイルズに言わせると、「トランプにとってメディアは政治以上に権力の象徴。だからこそメディア界で権勢を振るう人たちの注目と尊敬を欲しがった。自分とドナルドは25年以上も仲の良い友だちだったが、今はマードックの方を選んだようだ」
政権発足から100日目に開催される記者夕食会は、トランプにとってはオバマに侮辱されて大統領選出馬を決意した因縁の場だけに周囲はどう対応するか苦慮
トランプは典型的な女性蔑視者(ミソジニスト)だが、職場では男性より女性を傍に置いていた:
l ケリーアン・コンウェイは、マーサー家からトランプの選対に投入され本部長となり、バノンの下でトランプが重要視していたケーブルテレビ向けの広報担当を務める。政権発足でホワイトハウス報道官になるはずだったが、ジャーヴァンカに嫌われたためわきに追いやられた。トランプは彼女の忠誠心を高く評価
l ホープ・ヒックスは、トランプ陣営が選対で最初に採用した女性。イヴァンカの会社で働き、選対に派遣され、大統領就任後は大統領付きのメディア担当チーフとなった。大統領が自分以外の誰にも任せようとしないメッセージとイメージを取り扱う代理人
最終的に大統領は記者夕食会欠席に同意し、副大統領とともに別の予定をこなしたが、トランプは夕食会でどんなジョークが飛ばされているかを何度も報告させたがった

16. コミー
FBIのコミーが、ロシア疑惑で一家の財政状態にまで捜査の手を伸ばしていることに対し、解任で対峙しようとした
大統領はみな、FBIが入手した情報の人質になる恐れがあるところから、FBIに服従しなければわが身を危険に晒すことになる(フーヴァー症候群)ので、FBI長官を解任できなかったし、今回も周囲は家族や私設顧問団の富裕層も含め口をそろえて諫めたがトランプは聞き入れず、強権を発動

17. 国の内外で
キッシンジャーはニューヨークの社交界を通じてトランプと親交があったが、今はクシュナーの後ろ盾となって首尾よく政界に復帰し、中国やロシアとの会談をアレンジしている
だが、従来の同盟国の多くはそれに不安を覚えている
トランプの考え方は単純で、「敵の敵は味方」というもの。フリンから「悪玉はイラン」と叩き込まれていたのでイランと対立する国はみな善玉ということになる ⇒ 基本的にプレイヤーはイスラエル、エジプト、サウジ、イランの4か国で後は無視してよい。最初の3者が団結しイランと対決する。次にエジプトとサウジに対してイランに関してそれぞれが求めるもの、アメリカの利益を損なわない範囲であれば何でも与えレば、エジプトとサウジがパレスチナに対して取引に応じるよう圧力をかけてくれるだろうと考えた
効果的なトランプ・ドクトリンとして打ち出された新たな外交政策とは、世界を3つに区分、アメリカが協調できる政権、できない政権、弱小国で無視したり犠牲に出来る政権というもので、冷戦構造と何ら変わらず、当時のアメリカは確かにグレートだった
就任後初の外遊となるサウジ訪問は、クシュナーに近づいてきたサウジのサウード王室の皇太子サルマン(通称MBS)との間に仕組まれたもので、大歓迎を受ける。この直後にMBSはライバルでそれまでアメリカがコンタクトしてきたナーイフ(通称MBN)を軟禁し皇太子の称号を放棄させる
リヤドの後エルサレムを訪問、「トランプは必ずや和平をもたらすだろう」と述べた
更にローマ法王と会見の後ブリュッセルでは、自分の掲げるアメリカ・ファースト精神は第2次大戦以後確固として存在する西欧同盟に基づく外交政策とは相容れない、と譲れない一線を示す
トランプの欠点の1つに、因果関係をきっちり把握できないということがある ⇒ 何か問題を起こしたとしても、必ず新たな出来事でそれを塗り替えてきた

18. 帰ってきたバノン
6月大統領はTPPからの離脱を宣言 ⇒ バノン派が復活
同時に、コミー解任からくる困難な問題を扱うべく、特別チームを結成 ⇒ 全ての有力弁護士事務所に断られ、結局もともとトランプの弁護をしていた弁護士が中心

19. ミカって、誰?
トランプの価値を掘り起こしたのはメディアだが、なかでもジョー・スカボロー(元下院議員)とミカ・ブレジンスキー(元大統領首席補佐官の娘)は、それを直接、または個人的に行って見せた最右翼。2人が司会を務めるMSNBCの報道番組《モーニング・ジョー》は、似たような政治観をもっているところから絆を深め、大統領選期間中はこの番組がひと際存在感を放っていたが、政権の実績と共にそれが一変し、今や両者の関係のほころびの方が日々のニュースの種になった
トランプは、誰かが自分をダシにして利益を得るのが我慢ならない。彼の世界観はいわば"ゼロサムで出来ていた
スカボローとブレジンスキーに対し、自分との関係を利用してたっぷり儲けているのに、自分にはびた一文も払っていないと怒り狂い、ツイッターで「IQの低いクレイジーなミカ」と粗野な言葉の暴力でこき下ろしたため、ひと悶着あり、トランプ自身に自制心と判断力が欠如していることを露呈、世界中から非難を浴びるという騒ぎになったが、別の暴言で物議をかもしたため、この件でホワイトハウスのスタッフに質問した時にはすでに、「ミカって、誰?」という返事しか返ってこなかった

20. マクマスターとスカラムーチ
アフガンも大統領につきまとった問題の1つで、この難問を巡って確執が引き起こされた
現状を打破して平和を望むのがバノンで、現状維持やその延長線上での増派を主張したのがマクマスター
マクマスターは、オバマ政権下で元CIA長官だったベトレイアスの子分で、アフガンや中東における既定路線推進の代表者
トランプにとってのアフガンは、オバマとブッシュの責任で、自分はほとんど何も知らないだけでなく、深く考えようともしなかった
バノンにとってのアフガンは、エスタブリッシュメントの思想が生んだ失敗の好例で、失敗への対処能力の欠如を示していると見做した
早くからトランプは、マクマスターを罷免しようと考えていたが、ジャーヴァンカが推薦してきたのがスカラムーチというヘッジファンドの創業者にしてトランプ支持の代弁者であり、政権発足前からトランプ・タワーをうろついて猟官活動をしていた男で、トランプも気に入っていたが、バノンにとっては問題外

21. バノンとスカラムーチ
最終的にスカラムーチはホワイトハウスの報道官になってしまったが、ブリーバスの後任にバノンの意中の1人だった国土安全保障長官のジョン・ケリーが指名されると、直後にスカラムーチを解任、僅か10日間の報道官だった
ジャーヴァンカは意気消沈、ホワイトハウスの歴史上、最も馬鹿げたものの1つといえる人選について責任追及を恐れ、突如スカラムーチ排除の決断を支持すると言い出した

22. ケリー将軍(67)
トランプもバノンも新しい首席補佐官のことをよく知らなかった
ケリーの立ち位置はおおむね中道右派で、国土安全保障省時代は厳しい移民政策を進んで実行していたが、トランプやバノンほど右ではなかったが、ニューヨーク・リベラルとの接点はない
政治にかかわる気がなく、ホワイトハウスの混乱ぶりに愛想が尽きて辞めようとさえ思っていたが、今はそうした感情に蓋をして、固い決意で臨む
妥協しない厳格な人物で、スカラムーチの次にやらねばならないことは、ジャーヴァンカかバノンの排除
ケリーは直接トランプに、ジャーヴァンカの役割をどう考えているのか質問をしたところ、すべての面で満足していることがすぐに読み取れたため、2人とも大きな組織的規律の一部でなければならず、簡単に列に割り込んではならないことを大統領に認めさせるとともに、実際にも大統領がジャーヴァンカと食事をしている席にけりーが突然割って入り、ジャーヴァンカといえども大統領と話す時には自分を通さなければならないということを暗黙の裡に示した
一方のバノン陣営は、ジャーヴァンカを政権のアキレス腱とみて、一日も早い排除を望んでいたが、効果的な手が打てないでいた
8月の記者会見で北朝鮮問題を聞かれたトランプは、あまり重視しないようにとの忠告を無視して、俄然やる気を出して、「これ以上アメリカを威嚇するのをやめた方がいい。さもなければ世界がこれまで見たこともないような炎と怒りを目の当たりにするだろう」と答えた。北朝鮮問題は非常に複雑に入り組んでおり、答えをなかなか見つけられないでいたが、トランプはそれを意気地のなさと意志の弱さのせいだと信じていた。また、関心を持ち続けるのに苦労する問題でもあったためか、次第に金正恩との敵対関係を個人的なものとして受け止めるようになり、たびたび相手を蔑んだ綽名で呼ぶようになった
バノンも、報道を前提とした電話インタビューで、あざけるような調子で北朝鮮に対する大統領の大言壮語を訂正し、あんなことを実行すれば「10百万のソウル市民」が死ぬことになるだろう、と言い放った。トランプが大統領に相応しい口の利き方が出来ないというなら、バノンも似たようなもので、大統領を補佐するに相応しい話し方が出来なかった
直後にバノンはケリーに辞任を申し出ていた

エピローグ――バノンとトランプ
辞任したバノンは、地球温暖化は本当らしいと笑顔でつぶやいた
ブライトバートに戻ったバノンは、今度はトランプ抜きでトランプ旋風のセカンド・ステージを巻き起こそうとしていた
自ら、ナショナリスト・ポピュリストを率いているという自負を持ち、トランプに対抗しようとした ⇒ セッションズの後任となるアラバマ州上院議員選挙で、トランプがナショナリスト・ポピュリスト派で極右の候補ではなく、自らの喧嘩相手が擁立したエスタブリッシュメントの候補を応援したため、バノンは呆れて愕然とした
トランプは、ひたすら人に好かれたいと思い、どんなことについても勝とうとするし、彼にとって重要なのは、自分が勝利者らしく見られること
最初の9か月間、熟慮や計画もなく、明確なゴールも持たずに勝とうとした結果、もたらされたのは敗北だけだが、その一方で、あらゆる政治のロジックを覆す事態が、彼の無計画さ、衝動性、戦う喜びの精神こそが、分裂を生むことで現状を打破し、多くの人を喜ばせた
アラバマでの応援演説は大失敗だったが、急に話題を変えてNFLでキャパニックが試合開始前の国歌斉唱で片膝をついていた話は拍手喝采を呼び、以後もNFLを叩き続けた
選挙結果で大敗を喫したことについてもトランプはまったく気にしなかったが、それは新たな分裂の兆候だった ⇒ 今やトランプは人々を惹きつけるための新たな話題を見つけた。NFLの国家問題である
ティラーソン国務長官は、トランプに対して愛憎半ばする感情を持っていたのが彼の運命を留保していたが、10月初めの発言が留めになった。能無しと呼んだことが暴露
ムニューシン財務長官とプリーバスは「間抜け」といい、コーンは「はっきり言って馬鹿」、マクマスターは「ウスノロ」、まだまだリストは続く
ティラーソンと足並みをそろえていたのが、マティス、マクマスター、ケリーの3将軍で、彼らは自らを成熟、“安定自制の象徴と考えていたため、トランプからは煙たがられていたし、トランプより遥かにバランスもとれているためにトランプにとっては不機嫌と釈の種だった
ケリーは、大統領に対する反感と同じくらい、大統領一を軽蔑していたし、コーンも同様でシニカルな態度を隠さなかったため、トランプはコーンにあらゆる暴言を浴びせた
注目を浴びているのが国連大使のニッキー・ヘイリーで、正当派の共和党員で明らかに穏健派の傾向を持つ人物だが、トランプに服従を捧げ、イヴァンカの機嫌を取って家族の輪に加えられ、トランプも目をかけてティラーソンの後釜に据えようとしている
トランプ支持者と共和党の未来は既にホワイトハウスを乗り越えて動き出している ⇒バノンはトランプ現象を乗っ取ろうとしているし、連邦議会の共和党主流派はトランプを妨害しようと画策、ジョン・マケイン(188月逝去)もあらゆる手でトランプを邪魔立てしようとしており、特別検察官も大統領とその周辺人物の追及に動いている
バノン側は、ヘイリーの対抗馬としてCIAのポンペオを推す動きに出る
ケリーは、ウェストウィングのカオス一掃に邁進するが、最大の原因である大統領自身の爆発をコントロールできずに甘受、補助的な要因はバノン以下の排除で落ち着き、ジャーヴァンカの天下になったが、小物ばかりの上に、全員がロシア疑惑の捜査線上にある
クシュナーが自身の法務チームに名誉棄損専門の弁護士を入れたのは、暗黙の威嚇
バノンの見立てによれば、モラーの捜査が弾劾につながる可能性が1/3、憲法修正25条により閣僚が職務能力を失った大統領を排除する可能性が1/3、何とか任期満了する可能性が1/3、いずれにしても2期目はありえない
バノンがトランプの大口献金者たちを味方につけるとともに、保守派のリーダーたちとも接触し、いずれ自身で大統領選に出る可能性も出てきた
バノンの焦点は、18年中間選挙の候補者選びに向けられている。トランプは予備選で政敵たちの対立候補を応援すると脅しをかけているが、その敵たちを率いることになるのは猛烈なスタートダッシュを切ったバノンだろう
右翼候補が過激になればなるほど、民主党は右翼のおかしな候補よりもさらに当選の可能性が低い、おかしな左翼候補を立てる可能性が高くなるとバノンは考える。混乱の幕が切って落とされた ⇒ トランプ革命はずっと、二大政党が抱える弱点と結び着いた動きで、真のアウトサイダーたちにチャンスを提供するきっかけを開いただけ


解説――池上彰
原著の初版部数は15万部の予定だったが、トランプが「出版差し止めだ」と怒ったため、出版を早めて発売、100万部を追加重版した
書名は、大統領が北朝鮮に対し威嚇した言葉から取られているが、もともと『旧約聖書』の中の神の怒りを象徴した言葉
国内の反応は2分、反トランプのCNNは持ち上げ、親トランプのFOXニュースは著者を信用ならないと言い、メディアも完全に分裂
何より驚かされたのは、著者が精神的に大統領には相応しくないと批判したことに対し、トランプが、「人生を通して自分の持つ2つの最上の資質は、精神的安定性と天才であること」とツイートしたこと
就任以来世界は振り回され続けた ⇒ 「アメリカ・ファースト」とは「アメリカさえ良ければ、後はどうでもいい」という意味ということが分かってきた
神は細部に宿るというが、細かい事実の描写が説得力を増す
本書はベストセラーになったが、トランプの支持率は変わらない ⇒ 30%台から下がることのない、岩盤のような強大な支持が存在する。彼らトランプ同様書物を読まない
アメリカはこういう人間を大統領に選んだのだ



2018.3.4. 朝日
(書評)『炎と怒り トランプ政権の内幕』 マイケル・ウォルフ〈著〉
メモする 生々しい内情に潜む真の危うさ
 為政者にとって、メディアに自画像をどう描かせるかは死活的な問題だ。とりわけ、トランプ米大統領は異形の存在である。政策よりも、見栄えが政治そのものだからだ。そのせいか、メディアへの敵視と偏愛が奇妙に同居している。
 寝室で3台のテレビを見つめる日々を送り、バスローブ姿で歩き回るとの報道に激高する。「フェイク」と報道機関をけなす一方、マードック氏らメディア界の大物を敬う。
 本書は、そんなトランプ氏の人間像と政権の混沌(こんとん)を衝撃のディテールで描いた話題作である。
 横紙破りの大統領令や、FBI長官の解任。折々の決断の裏に、家族、側近バノン氏、共和党の3陣営による確執があったのは有名な話だが、本書の凄(すご)みは関係者の会話や言葉の生々しさにある。虚実ない交ぜのドラマ風の筆致も加わり、ホワイトハウスという統治の象徴が安っぽいリアリティー番組の舞台に成り果てたことに驚愕(きょうがく)する。
 ただ、本書は労作ではあるが、政権全体を捉えたわけではない。ケリー首席補佐官、ティラーソン国務長官、マティス国防長官ら、実質的に政策を操るプロ集団の姿は見えてこない。
 思えば、トランプ現象とは既成政治の破壊であると同時に、政治ニュースの大衆化でもあった。畏怖(いふ)すべき権力の中枢に棲(す)み始めた珍獣を見るような目線を、この著者を含む多くのメディアは共有している。
 その期待に応える過激な言動で、トランプ氏は常に衆目を集めることに成功している。話題の清濁を問わず、「視聴率こそ政治力」と信じるナルシスト政治家としては上出来だろう。
 その陰で、語られなくなった米外交の歪(ゆが)みや世界秩序の変動がいかに大きく、危ういことか。大国の堕(お)ちた偶像といえども、いまだに核のボタンを預かる最高司令官に変わりはない。
 メディアが見据えるべき本質は何か。それを改めて考えさせる書でもある。
 評・立野純二(本社論説主幹代理)
     *
 『炎と怒り トランプ政権の内幕』 マイケル・ウォルフ〈著〉 関根光宏・藤田美菜子ほか訳 早川書房 1944円
     *
 Michael Wolff 米国のジャーナリスト。USAトゥデー紙や英ガーディアン紙などに寄稿。


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