悪だくみ  森功  2018.7.29.


2018.7.29. 悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞

著者 森功 1961年福岡県生まれ。岡山大文卒、出版社勤務を経て、03年フリーランスのノンフィクション作家に転身。08年『ヤメ検――司法に巣喰う生態系の研究』、09年『同和と銀行――三菱東京UFJの闇』で2年連続「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞受賞。11年『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』で第33回講談社ノンフィクション賞候補、『なぜ院長は「逃亡犯」にされたのか 見捨てられた原発直下「双葉病院」恐怖の7日間』で12年に第11回新潮ドキュメント賞候補、13年に大宅壮一ノンフィクション賞候補

発行日           2017.12.15. 第1刷発行
発行所           文藝春秋

はじめに問題
3選を見据えた首相の権勢が急速に衰え、無残に色褪せた。177月に入り急降下した内閣支持率に狼狽える安倍晋三、その最大の要因が「加計学園」の獣医学部新設問題だったのは疑う余地がない
安倍が9月末の臨時国会の冒頭解散という暴挙に出た裏には一体何があったのか
加計学園獣医学部の開校条件とは、市が造成した約37億円相当の土地を無償で譲り受け、施設整備費用192億円のうち、市と県合計で96億円を助成するというもの。その背景には安倍政権下で新たに作られた「国家戦略特区制度」があるが、民泊などの他の経済特区構想とも事情が異なる ⇒ 加計のためだけに規制緩和のレールが敷かれた依怙贔屓の原点
「加計ありき」は、当事者間では共通認識
腹心の友に対する首相の依怙贔屓疑惑には、もっと長く深い歴史がある。52年ぶりの獣医学部新設に向けたそのレールをだれが敷き、そこで何が起きていたのか。疑惑の核心はそこである

第1章        2の加計学園
172月森友問題発覚 ⇒ 豊中市会議員が極端に右傾化した教育方針を問題視したのが事の始まりで、前年の小学校用地の取引について近畿財務局に情報公開請求をしたが応じないため新聞記者に漏らし、朝日が隣の土地の1/10で払い下げられたことをスクープ
安倍を支える後援組織「日本会議」に所属する籠池理事長が「安倍晋三記念小学校」と命名、昭恵夫人を名誉校長として生徒募集を始めたことで一気に火がつく
元は昭恵が名誉職を引き受けていた加計学園グループ「御影インターナショナルこども園」の教育に感銘を受けて、小学校新設を計画していた籠池を誘ったのが始まり
森友の最大の問題は、小学校の新設認可と土地代の値引き ⇒ 自前の土地があることが条件だったにもかかわらず、私学審議会が「認可適当」のお墨付きを出したため、籠池は国との土地取引に臨めたし、法外な値引きについても安倍夫妻の影をちらつかせながら勝ち取る
当初安倍も籠池夫妻に気を遣っていたが、次第に距離を置くようになり、7月には籠池夫妻が国の補助金を騙し取ったことで逮捕

第2章        悪友サークル
加計と安倍の付き合いは極めて濃厚
13年首相の肝いりで閣議決定され発足した「教育再生実行会議」で、文部省出身で元愛媛県知事の加戸が唐突に、「今治市に加計学園が獣医学部を作りたがっている」と言い出した
安倍と加計と住友の高橋(副頭取)は、77年からUSCのロングビーチ校に留学した同窓生 ⇒ 昭恵が「男たちの悪巧み」としてFBに載せる
そこに入っているのが鉄鋼ビルのオーナーで、広島の中堅ゼネコン「増岡組」の創業一族の増岡(曾孫)で、安部を中心とする2世、3世の素封家メンバー。鉄鋼ビルの土地は同郷の池田勇人との持ちつ持たれつの関係のお陰で国から払い下げ。母親は鳩山兄弟と従姉妹
増岡と安倍の関係は、昭恵が短大時代に多分合コンで知り合った同年生まれの増岡を結婚後安倍に紹介したもの
学生時代の友人関係をこれほどまでに大事に保ち、情愛を示してきた安倍のような国会議員は稀。ましてや首相ならなおさらのことだろう。ことさら加計に対し不変の友情を示す

第3章        加計の野望
01年加計の千葉理科大誘致事業の始まり ⇒ 加計が東京進出の夢実現のため、過疎化に悩む銚子市の私大勧誘に乗り、市長選に立候補を予定していた自治省出身の元岡山県副知事を岡山理大の客員教授に迎え、立候補の公約として私大誘致を掲げさせた。そのとき対象となったのが危機管理学部、薬学部と並んで獣医水産学部だった
加計学園は、55年広島に設立した予備校「広島英数学館」が始まり、61年学校法人認可、64年岡山理大開校
安倍と加計の急接近は2人の帰国後。高橋が神鋼の安倍を誘い、そこに加計が合流して面倒を見、さらに安倍の結婚後は昭恵の面倒まで見る
岩盤規制とされた獣医学部新設を認めないということを文科省が告示したのは03年のこと、それまでは獣医師が旨味のあるビジネスと認められずに申請がなかった
76年の農水省の獣医師の需要調査結果を踏まえ、84年文部省が拡充は予定しないと決定
00年に入って、少女漫画をきっかけにペットの医者がクローズアップされたが、安倍も官房副長官として関わった03年の告示のために、新設は却下
千葉理大については、地元から環境アセスや建築費用の巨額助成に対し反対があり、安倍が中に入って仲裁したり、教員の斡旋をしたりして支援、学校側も自民党の総裁レースで頭一つ抜け出した安倍を将来の総理がバックアップする学校だと宣伝利用して学生を募集
14年千葉科学大は、10周年で獣医水産学部に代わって看護学部増設

第4章        海外戦略の手助け
6年前学校経営を巡って姉弟の確執があり絶交 ⇒ 安倍を頼りに教育をビジネスとして拡大していく弟のやり方が許せなかった。母親も息子の再婚相手とうまくいっていない
加計は、さらに米国の小学校との事業提携を企図、06年昭恵や下村夫人を同道して姉妹校提携を実現させる
ミヤンマーの小中学校建設でも昭恵が張り切って前に出る ⇒ ブッシュが、まだ米国は正式に国として認めていないため、苦言を呈された
加計はフィリピンでも小学校を建設するが、安倍は夫妻して関係 ⇒ 安倍の東南アジア外交の最中立ち寄り、加計が政府専用機に同乗したことが問題となる
先代の没後、孝太郎は派手に事業を拡大、地味な妻と離婚し、20歳も若い後妻を連れてきたため、家庭内で揉めるが、強行した披露宴には安倍夫妻も出席

第5章        政治とビジネス「商魂」
加計は、中小企業のワンマン経営者然として学校経営を切り盛りし、教育の規制緩和に即応してビジネスを拡大 ⇒ 政権近くにいることを最大限活用、グループ内の3大学に6年制になった薬学部を開設、その後他大学にも拡大し、薬学部新設ラッシュとなる

第6章        国家戦略特区というレール
04年岡山大獣医学部新設が今治市の学園都市構想の対象として持ち込まれる ⇒ 07年に国の特区構想に載せて市が申請したが、獣医師会では相手にしなかった
2次安倍政権発足まで15回にわたる申請が却下され続け、申請内容に変化はなかったにもかかわらず、突然のように学部新設の環境が一変したのは、首相とその周辺の政界におけるポジションが変わったからに他ならない。時の政権の強力な後押しが、国家戦略特区制度の中で働くようになったということに尽きる
安倍は下村を文科大臣に据え、加計自身もめまぐるしく動き始める ⇒ 加計が文科省から天下った事務長を連れて獣医師会を訪問、安倍の存在を匂わせる場面も含め仁義を切り、それを契機に下村が動き出す

第7章        下村文科大臣の献金疑惑
14年加計と下村の密談の席で下村が「おろしました」と言った ⇒ 獣医学部と教育学部新設の申請に対しての回答と思われるが確証はない
1214年の献金疑惑が下村に ⇒ パーティ収入に加計学園の名があり、闇献金との内部文書が発覚するが、下村は記者会見で、それまでの自分と妻の行状についても全否定で押し通す
1316年下村の公設第1秘書だった平慶翔(愛梨、祐奈の真ん中)が事務所の内実を暴露
更に日報が出てきて、下村と加計の関係が浮き彫りになる

第8章        前川の乱「疑惑の核心」
15年国家戦略特区での申請に衣替え、一気に動き出す ⇒ 文教族の実力者森喜朗は馳を文科大臣に推薦したが、下村がごり押しして就任。国立競技場新設についても費用負担について都知事と公開協議となり、ザハ案が白紙撤回されたのも森を不快にしている
地方創生の内閣府特区担当大臣で農水族議員の石破は獣医学部新設に異を唱え、下村と協議のうえ出したのが「石破4条件」で、かなり高いハードルだが、レールが敷かれたとも言える
15年今治市が加計関係者とともに官邸を訪問、首相秘書官の柳瀬が異例の応対、国家戦略特区への申請に切り替えるよう示唆、総理の認定を受けて石破4条件クリアを期す
週刊文春が下村の献金疑惑を追及、地検も動いたこともあって、不起訴とはなったものの省内でも官僚を信用せず評判の悪かった下村は、新国立競技場建設の杜撰な管理の責任もあって辞任に追い込まれる
代わりに加計とのパイプ役にたったのが官房副長官となった萩生田光一
国家戦略特区を仕切ったのは経産省から出向している首相補佐官の和泉洋人
15年末特区諮問会議で今治市が特区として指定され、あとは諮問会議が獣医学部の容認を決定し、文科省の告示の見直しを経て認可申請すれば完成するばずだったが、京都産業大を擁する京都府が諦めなかったために官邸の出した指示が「総理のご意向」文書
文科相は存在を否定したが、前川次官が「文書を見た。あるものをないとは言えない。行政が歪められている」と発言し、疑惑の薪に油を添える
巷間言われる「総理の意向」を忖度した結果の行政の捻じれどころではなく、第1次安倍政権で発案された獣医学部の特区構想が、第2次政権で復活し、無理筋を通しながら実現寸前まで漕ぎつけた所に文科省の文書が出てきて、必死に隠してきた裏話が一気に漏出したもので、首相側近が能動的に関わってきたことが発覚

第9章        内閣府vs文科省
165月新任の前川次官に内閣府参与で文科省の先輩の木曽から、特区の獣医学部新設については諮問会議の決定に従えばいいとアドバイス。木曽は加計の千葉科学大学長でもあったが、前川はその肩書を知らず、官邸からの圧力と受け取ったし、その後も和泉から呼び出され、「総理の口からは言えないので、私が代わって言う」と加計の話を聞かされた
官邸の意向に必ずしも同意しない前川に対し、讀賣が前川の出会い系バー通いを報道
関係4省庁でスケジュールや担当の割り振りの確認を行い、184月開学への作業が進むが、そのモデルとなったのが、17年成田市の国家戦略特区により開校した国際医療福祉大の医学部で、「特例告示」と呼ばれた。その前が、11年の震災復興のシンボルとして安倍政権が位置づけ宮城県に新設した東北医科薬科大で、30年ぶりの医学部新設
国際医療福祉大の時は、国際医療人育成を目的に留学生を一定数入れ授業は英語とされたが、国家試験は日本語なので、卒業時までに合格できるか疑問
そもそも文科省は、首相や内閣府の「ご意向」に逆らう気などなく、このまま認可を下ろすと、自分たちが全責任を負わなければならなくなるのを恐れたに過ぎない
今治の地元も、加計ありきは当然と受け止めている。過疎に苦しむ地方の悲痛な叫びでもあり、安倍や加計はそこに乗じてビジネス展開を目論んできた
にも拘わらず安倍は、今治の獣医学部が加計と知ったのは171月と言って墓穴を掘る

第10章     延期された学部の設置認可
官邸は安倍を庇い、たまたま加計が総理の友人だったが、元々申請者は今治市と言っていたところ、安倍も今治が特区申請した156月に知ったと言い、構造改革特区に申請されたことは承知していたと答えており、申請の際は事業者として加計が記載されていた
私立大学で新設学部を設置する場合、文科省は事前に指導をしてはいけないことになっているにも拘らず、事前に申請に関する細かい指導・指示があった
173月加計からの学部設置申請が文科省に出されたが、大学設置・学校法人審議会は世論の動向も勘案したのか、認可答申を見送り、10月に再審議となった
192億円の建設費用は坪単価150万円で通常の大学の2倍以上、医学部でも100万円を切るというので、検証が必要だし、加計グループの建設を一手に担ってきたのが加計の後妻が重役を務める加計のファミリー企業SID創研というのも胡散臭い

終章 政権延命の末
179月臨時国会の冒頭で衆院解散 ⇒ 大儀なき解散と安倍は非難されたが、小池が希望の党を立ち上げたものの、意見を異にする者を「排除する」と傲慢に語った失策に救くわれ、息を吹き返して圧勝
設置審は、特別国会開催の翌日、学部新設認可の答申を決定、14日には認可 ⇒ 理由等は非公表で議事録もなく具体的な議論も一切開示されない
加計問題の本質は、忖度政治ではない。教育の自由化や特区という新たな行政システムを利用した権力の私物化安倍を取り巻く人間たちの政治とカネにまつわる疑惑である



(短信)大宅賞に森功さん
日本経済新聞 朝刊
2018510 2:00 
2回「大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞」(日本文学振興会主催)は9日、森功さん(56)の「悪だくみ 『加計学園』の悲願を叶えた総理の欺瞞」(文芸春秋)に、読者賞は清武英利さん(67)の「石つぶて 警視庁二課刑事の残したもの」(講談社)に決まった。
賞金は、大賞が100万円、読者賞が50万円。











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