自民党総裁選 2018 安倍政権と官僚  朝日新聞社  2018.7.31.


2018.7.31. 自民党総裁選 2018 安倍政権と官僚

朝日新聞連載
自民党総裁選では、「安倍政権と官僚」が問われる。政と官のいまをみる

「官邸官僚」握る実験
24日政権が承認した人事で、内閣府政策統括技官の新原浩朗(にいはらひろあき)が経産省の経済産業政策局長に就任。近い将来事務次官候補が座る枢要ポスト
84年入省の新原にとっては古巣への凱旋。首相の政務秘書官で先輩の今井(82年、経産省)が手腕を高く評価
働き方改革や幼児教育の無償化など、政権の目玉政策を進めてきた。政権5年半で大きく様変わりした霞が関で権力を持つ「官邸官僚」の象徴的な1
3か月前、消費税を来年10%に上げる際の対策を検討する省庁横断の特命チームが内閣府で初会合開催。新原がまとめた「検討事項()」を見てのけぞる。すでに、増税駆け込み需要や反動による消費の落ち込みについての対策が13項目にわたって列挙、増税後の値引きセール推奨、自動車減税、合理的な購買行動の推奨など、それぞれに担当省庁の割り振りまで記してあった。対応策は「再調整」とはなったが、安倍との間で「話がついてるのでは」と憶測が広がる
安倍が政権に復帰して以降目立つのは、新原のように安倍に近い官僚らが主導して政策の方向性を決めていくスタイル。首相秘書官の今井や佐伯耕三(経産省、98年入省)、内閣情報官の北村滋(警察庁、80年入庁)、官僚OBの首相補佐官の長谷川栄一(経産省、76年入省)、和泉洋人(旧建設省、76年入省)はこの5年半変わらず安倍の周辺にいる
安倍の以心伝心の「官邸官僚」たちの指示は、省庁幹部から「首相の意向」と受け止められ、それは「最強官庁」と呼ばれた財務省でも例外ではない

首相を取り巻く主な「官邸官僚」
l  内閣府 ⇒ 内閣の重要政策を推進 01年度2412人→今年度3318
政策統括官8人、重要政策のまとめ役
l  内閣官房 ⇒ 首相の補佐 併任含む職員数01年度1054人→今年度2971
首相秘書官6(今井、佐伯:首相演説のライター)、首相補佐官5(長谷川:内閣広報官を兼務、和泉:官房長官の側近)、内閣情報官1(北村:首相面会数最多)
「官邸中心 森友・加計問題の背景」
内閣官房と内閣府の職員数は倍増。90年代以降、縦割り行政への批判を背景に、官邸の実務を担う内閣官房の機能を強化。首相がトップの内閣府は01年の省庁再編で新設。第2次安倍政権では、内閣人事局や国家安全保障局も内閣官房に置かれた結果、人員は急増。官邸が重視する案件ごとに内閣官房や内閣府に会議や事務局を立ち上げたことも拡大の要因
政策立案機能や人事権が省庁から内閣官房や内閣府に移り、官僚は省益より官邸の意向を中心に考えるようになってきた。森友・加計問題の背景も、こうした事情があるから

「官邸人事で支配」 ~ 以前は省内の力学、安倍政権で完全に変わった
大阪地検から財務省に届いた森友問題に関する決裁文書の改竄は14文書に及ぶ。安倍の妻昭恵や複数の政治家秘書との関りなどが削除。理財局幹部も愕然とし、財務省は初めて書き換えの事実を認める。が、改竄を主導した当時の理財局長の佐川(82年入省)はその後の国会証人喚問でも刑事訴追の恐れを理由に答弁拒否を繰り返し、官邸の関与はきっぱりと否定。世論は反発したが、「官邸は防波堤になった佐川を評価」し、昨夏の人事で次官級の国税庁長官に昇格。対照的に、売買価格算定の答弁でしどろもどろだった当時の国交省航空局長佐藤(82年入省)は退官
官邸の意向を反映させるため、各省庁の幹部約600人の人事は、14年から内閣人事局が判断。正副官房長官ら主要幹部の7割の賛同を得られなければ各省の人事案を受け入れないという「7割ルール」で運用。今夏退官が決まった金融庁の森信親長官(80年入省)は菅官房長官の信任厚く、3年にわたり務めた。一方で前任の横溝清史(78年入省)1年で交代。農業改革が持論の菅の協力依頼を断ったため
「官邸人事」は、政権と沖縄県の対立が続く米軍普天間飛行場の辺野古への移設を巡っても行われた。和泉が中心になって練られた人事で、県の抵抗で移設先の埋め立て工事が滞っていたため、防衛省だけでは無理として、和泉が国交省から埋め立てのプロを呼び寄せ、これ以降国側は工事を加速、専門家だけに県や住民との協議はなるべく少なく、法律すれすれの行動をとれるという。今夏の国交省人事では、防衛省に部下を送り込んだ港湾局長の菊池(85年入省)が技術系最高ポストの技監(次官級)に昇格。旧運輸省出身の技監就任は初。後任には2年半前埋め立てに駆り出された下司()が就任、「論功行賞」と囁かれた。国交省の幹部は言う。「以前は省内の力学で人事ができたが、安倍政権で完全に変わった。官邸の意を受けた政策を成し遂げた人こそが評価される」

「主導」するが責任不在 結論急ぎ混乱する政策も
官邸が官僚を従える力の源泉は人事だけではない。重要案件ごとに内閣官房や内閣府に省庁横断の組織や会議を次々と設置、各省庁から政策立案の権限を奪い、一部の「官邸官僚」が政策を動かすことが常態化
昨年9月立ち上げの「人生100年時代構想会議」はその典型。内閣官房に各省庁から約30人を集め、政策の骨格は新原や今井が検討、財政悪化につながる35歳児の教育・保育無償化を財務省にのませ、安倍の衆院解散表明に合わせて打ち出した
結論を急ぐあまり、担当省庁による十分な政策検証は置き去りにされ、無償化で待機児童が逆に増えるなどの批判が噴出しても、官邸は公約実現に向けて突き進んだ
昨年末改革の大きな道筋がつくと、推進室の多くの職員が席を引き払った。寄り合い所帯で作業が終われば散っていく組織の責任は曖昧になりがち。政策決定を主導する首相秘書官や補佐官も国会答弁に立つことはまずない
官邸主導は本来、2大政党間で政権交代があることを前提に、短期間で政治の結果を出せる仕組みを目指した姿だったが、5年半を超える長期政権で政権交代の緊張感は薄れた。「政治主導」を掲げながら、公文書改竄など大きな不祥事が起きても誰一人政治責任を負わないいびつな構造が出来上がった
組織防衛を本能とする官僚たちはいま、安倍に近い甘利が党行政改革推進本部長として旗を振る「省庁再々編構想」に怯える。国家予算の1/3を使う厚労省の解体などが現実味を帯びつつある。安倍も「それはそうだな」と巨大官庁の分割案を受け入れる姿勢

「経産省"下請け化」 ~ 外交手土産 官僚が奔走
今年5月以降、経産省貿易経済協力局長の石川は、民間企業数十社に、総理の訪中時に中国企業との覚書締結を披露するよう協力依頼をして回る。現地で開く交流フォーラムの事務局長は和泉が務め、20件くらいの覚書を用意したいという
安倍政権では、日米、日中、日ロと、首脳外交の予定が持ち上がるたびに「手土産」づくりのため、経産官僚が企業に協力依頼することが定着。そこでは経済合理性に基づいた投資戦略などの検討より、目先の案件集めが優先し、ほとんど中身がなく疑問の声も漏れる
「経産省内閣」と呼ばれるように経産省出身の官僚が重用されてきた。第2次安倍政権発足ウジには、財務省の影響力が強い経済財政諮問会議とは別に、「日本経済再生本部」を立ち上げ、前経産次官の菅原や同審議官の柳瀬ら経産官僚主導で成長戦略もまとめた
みな安倍との個人的な親密さから起用された「官邸官僚」。最近の経産省本体はその下請けになる場面が目立ち、政権発足当初の高揚感は薄れつつある
成長戦略も、成果を見ると134の評価指標で目標達成が明確なのは半分以下の60。本来なら、省内でじっくり戦略を練り直すところだが、毎年新たな目玉施策を求める官邸の要求は厳しくなる一方で、若手は官邸からの宿題をこなすのに精一杯で「成長戦略疲れ」

「エネ政策官邸の軍門に"
「看板」である通商政策も同じ。70年の日米繊維交渉以来、工業製品を巡る米国との通商を主導してきたのは通産省だったが、8月の日米2国間交渉に臨むのは、内閣官房のTPP対策本部を率いる茂木だ。TPPへの米国復帰を最優先とする政権は、TPP をまとめた茂木にそのまま対米交渉を担わせることにした
米トランプ政権は、鉄鋼・アルミに続き、自動車関税の引き上げも検討している。産業界を代弁する経産省が出れば農業分野が犠牲になり兼ねず、政府内でまとまらない懸念もある。TPP交渉でも、首席交渉官を外務省出身の梅本が務めるなど、影響力の低下は否めない
政権との関係に縛られ、エネルギー政策を巡る議論も思うに任せない。7月閣議決定の「第5次エネルギー基本計画」に、経産省が狙った「原発新増設の必要性」が明記されなかったのも、内閣支持率への影響を気にする官邸官僚に門前払いされた。専売特のエネルギー政策さえ、官邸の軍門に下ったと嘆く
自由闊達な議論を重んじる経産省では、多少の「個人プレー」も大目に見られ、他省庁担当分野への「領空侵犯」も厭わない。そこから生まれる大胆な構想や突破力が強みと言われてきたが、5年半にわたる長期政権を経て、今の経産省には、官邸がはめた枠の中で動かざるを得ない閉塞感が漂う


「政策裏付け ゆがむ分析」 ~ 沈む官庁エコノミスト
内閣府は01年の中央省庁再編で、首相をトップに政権の重要政策を推進する機関として新設、経企庁も統合されたが、その結果、内閣府には政策を担う部署が次々と置かれ、業務範囲が拡大、純粋な経済分析に専念することが難しくなった。政権内での内閣府の権限強化が、エコノミストの質を低下させた
かつて「政府内野党」とも言われた経企庁だが、政権中枢との距離が近づくほど分析内容の中立性は揺らぎ、政策の正当性をデータで裏付けるような作業が中心となる
7月内閣府発表の来年度経済成長率は、名目2.8%、実質1.5%と試算。民間予測1.8%0.8%を大きく上回る高成長の予測。以前から政府見通しは甘いと指摘されてきたが、第2次安倍政権下では毎年名目が2.5%以上というバブル期以来の高成長の見通しを掲げる。予算の前提となる成長率見通しが高ければその分、高い税収が想定でき、予算案を膨らませる余地も生まれる。安倍政権への配慮が見え隠れするが、内閣府幹部も認めている

~ 官邸に配慮 データ集め
憲法15条には、すべて公務員は全体の奉仕者とあり、官僚に公平、中立を求めるが、安倍政権は、歴代尊重してきた官僚の専門領域にも容赦なく踏み込む
法務、財務、総務、経産の4省出身者が次長を経て就くのが慣例だった内閣法制局長官人事にも介入、憲法解釈の変更に前向きな外務官僚を起用し、集団的自衛権の行使を認める「解釈改憲」を果たす
16年のサミットでも内閣府を差し置いて、今井らが作成した説明資料が各国首脳に示され、消費増税再延期に向けた地ならしに使われた
先の国会でも、裁量労働制の対象範囲拡大を狙って、適用された人の労働時間を実態より低くみせるかのような厚労省の分析内容が首相答弁に使われ、批判を浴びた。旧労働省時代は、政策の検討に使う客観的データ分析を担う部署があったが、独自の分析はしなくなり、先にやるべき政策があって、それに見合ったデータを集める傾向が強まる
治療法である政策は政治判断で決まる。だが、そもそも病気が何かの診断は、政治抜きの専門家による客観的分析で決めないと、正しい判断はできない(吉川洋東大名誉教授)

行政の中立性が疑問視された案件
1.    内閣法制局の長官人事(13)
2.    消費増税の再延期(16)
3.    森友学園問題(17) ⇒ 首相夫人が名誉校長を務める学園に国有地を大幅値引きして売却。決裁文書改竄、交渉記録破棄
4.    加計学園問題(17) ⇒ 首相の友人が運営する加計学園の獣医学部新設につき、文科省が内閣府から「総理のご意向」など言われたと記録する文書が発覚
5.    裁量労働制の不適切データ問題(18) ⇒ 首相が、裁量労働制で働く人の労働時間が一般労働者より短いデータもあると国会で答弁。その後比較できないデータを比べていたことが判明

時々刻々 首相、会ってない 言ってない 記録ない 
「なかったことに」次々 口つぐむ県議ら/岸田氏会見と矛盾/河村氏、一夜で撤回
安倍首相と面会した事実が伏せられたり、首相官邸が否定したりする事態が相次いでいる
面会中に首相が語ったとされる発言が、あとで否定されることもある
「あったことをないことに」する姿勢は、政治不信を招きかねない
1.    725日山口から県議30人を招いて公邸内で歓談 ⇒ 県連幹事長は面会を否定したが、取材に応じた他の県議は夕食を楽しんだといい、首相も水害対策として全国的に川の浚渫をしないといけないと言ったという
2.    724日党総裁選への立候補を見送った岸田政調会長が記者会見で、首相に会って話をしたと言ったが、官房長官が翌日否定。岸田氏はその後表立った反論を控えている
3.    76日官房長官に近い無派閥の議員との会食に首相が出席したと報道されたが、首相動静には載っていない
4.    620日首相、麻生らとの夕食会に出席した河村衆院予算委員長が記者団に、首相が集中審議は勘弁してくれと言ったのでそうもいかないと応じたとの会話を紹介。野党から不適切との批判を受け、河村は翌日発言自体間違いと撤回、首相も衆院予算委員会で発言を否定したが、他の出席者によれば、首相が軽く言ったのをそのまま紹介したと明かした
最高権力者の動静は、国民が政治の動きを知る上で重要な情報
首相動静は、加計学園問題で焦点に。首相が加計氏との面会を否定する際、首相動静に記載がないことを根拠の1つに挙げた
首相は加計学園の新設を17年に知ったと言い、愛媛県が学園からの報告で15年に首相が加計氏と面会して、いいねと言ったという文書を国会に提出し、食い違いが問題となった
首相は国会で、15年の面会を否定したうえで、首相動静を根拠にしている
首相動静に載っていないから会っていない、ということはあり得ない
首相動静は、総理番記者が主に官邸の正面玄関や首相が出席する会合の会場前で、出入りする面会者に確認して執筆している。首相動静は、国民が政治の動きを知る上で必要な情報であり、権力監視の基本
通信社の記者だけが代表取材することもあるほか、官邸や公邸の入り口は正面玄関以外にも複数あるため、面会の全てを完全に把握しているわけではない。通信社の記事を引用したり、首相秘書官に面会の有無や相手を問い合わせたりして、間接的な情報で記事化することもある

「責任は官僚 離れる学生 ~ キャリア志望者減る」
7月「官庁訪問」開始。東大新聞によれば、去年の学部生の就職先で、中央省庁の1位は国土省の16人、財務省は6位の11(前年は17人と最多)
安倍政権では政治主導、官邸主導を進めながら、問題が起きると、官僚に責任を押し付け、政治家は責任をとらない、という対応が繰り返された。そんな光景が学生の公務員離れに拍車をかける。公務員試験の申込者は1000人近く減少して70年以来初めて2万人を割った。今年度合格者1797人のうち東大卒は329人、最多は04年の498

「~ 遅い昇進 残業にも不満」
昇進の遅さも公務員離れの背景の1つ。「天下り」禁止で定年退職まで出身省庁にとどまる人が増え、昇進ペースは遅くなるばかり。人事院のモデルケースでも、課長職が45歳から50歳に引き上げ
常態化する長時間労働への不満も大きい。政府の調査では15年の民間企業の残業時間が154時間に対し、中央省庁の官僚は363時間。残業代も予算の範囲内でしか払われない
残業の大きな理由が国会対応。人事院は残業規制を検討しているが、国会運営の改革なしに実効性ある対策は無理






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