「英文法」を疑う  松井力也  2012.9.21.


2012.9.21. 「英文法」を疑う ゼロから考える単語のしくみ

著者  松井力也 1967年三重県津市生まれ。90年早大一文卒。在学中から音楽評論、レコード・レビューを執筆。卒業後高校の英語教論に、現在桑名高校勤務

発行日           1999.3.20. 第1刷発行
発行所           講談社(現代新書)

『お言葉ですが。。。。第4巻 広辞苑の神話』で著者が面白い本として勧めていた

英語の動詞も「モノ」である――英語の動詞に関して1つの特徴的なのは、動詞がそのままの形で名詞化したり、あるいはその逆が行われたりすることが頻繁にあるということです。Play, talk, swim等の例を挙げるまでもなく、英語の動詞はそのまま名詞として用いられることが非常によくあります…・
本来、英語の動詞というのは、私たちの考える名詞のイメージにかなり近い性質を持ったものではないでしょうか。例えば、次のような文などは、私たちの発想では絶対に出てこない、珍妙な感じさえする表現です。He gave me a look.(彼は私を見た)
この様な英語特有の表現に出くわすと、生徒のほとんどが拒絶反応を示します。「彼は私にlookを与えた…?」
ここでは、look(見るという行為)が、まるでHe gave me a camera. などと言った時のcameraと同じように、まるで具体的な存在物であるかのように扱われているのがわかると思います

日本人には英語は無理。やらずに済むのならやらない方がいいような類のもの
向いていない人が無理にやっているように思える
日本人の都合で歪められた文法を用いることで、自ら苦手だということを意識しないまま苦手なことに取り組んでいる
日常英語に感じている違和感の原因を探すのが本書の目的

第1章     英語と日本語は相性が悪い
1      「英語が苦手」であたりまえ
英語を和訳するときに、いく通りもの訳があって、どれが当て嵌まるかは、前後の文脈による ⇒ 日本語と英語の、それぞれの言語としての本質的な差異の問題
言語間の相違とは、言語が目の前の世界を切り取る、その切り取り方の相違であり、外国語習得の困難さとは、その言語の世界認識のパターンに馴染むことの困難さである
日本語では「水」と「湯」は違うが、英語ではいずれも”water”
「米」には生育段階に従って色々な表現があるが、英語では全て”rice”
他方、「麦」は区別しないが、英語では「小麦」、「ライ麦」、「大麦」それぞれに別の語となる
「コミュニケーション」や「アイデンティティ」が英語をそのままカタカナにして用いているのは、英語で”sushi” “tofu” “karaoke”というのと同じで、未知の概念だから
Furnitureは、集合名詞で、本来「家具類」とでも訳すべき名詞なので、単数・複数の区別がない ⇒ 同じ「家具」と言っても、捉える対象が異なる
単複同形の単語や、対になった2つの部分からなるものが常に複数形を取るのも、なぜそうなのか理屈がない
1つの言語によって生み出される固有の世界認識があり、異言語との間では共有不能
英語で思考する ⇒ 英語に基づいた発想で世界を認識する
Mustは、「ねばならない」「に違いない」「将来の勧誘」、notが付くと「してはいけない」と訳すが、あくまでも今現在、内的に差し迫って意識されている話者のみにとっての必要性・必然性のイメージを表現する言葉

2      英語のしくみ
英文が単語毎に区切って表示されているのは、それぞれが独立した単語だから。品詞による区別は不明瞭。英語の文章は、単語をおくだけの作業なので、置く順番が重要だが、日本語は助詞の使い方さえ正しければ語順はかなり自由(必ず文頭に主語が来る必要なない)
日本語の動詞は、常に動作主と関係づけられた上でしかありえないので、主語が省略されても、動作だけが存在するわけがないので、当然存在するにきまっている主語は省略できるが、英語の動詞は、動作主という前提なしに認識される、行為そのものを指示する概念なので、常に動作主が明示されないと文をなさない


第2章     名刺・代名詞がわからない
1      日本語の名詞・英語の名詞
英語の名詞が日本語の名詞と決定的に異なるのは、冠詞を必要とするところ
英語の名詞は、「物」を指示する。存在物全般を意味し、atheの冠詞が付くことによって初めて名詞として完成。Boyと言えば、「少年というモノ」そのものずばり
日本語の名詞は、「事」を指示する。周囲との関係性・連続性の中での一定の状態を示すので、「少年」といえば、赤ん坊・幼児・青年・大人の中での一定時期の状態を指す
英語の名詞は、常に「1つの」という数量をつけた形で認識される概念ではあるが、重要なのは、それが存在物としての「数」を確認させるというよりは、むしろ「物、物体としての輪郭」を常に意識させる作用を持つということで、これこそが名詞に冠詞をつける意味

否定疑問文への受け答えに、顕著な差異が出る ⇒ 英語は「モノ」として捉えるので、「ないモノはない」が、日本語は「コト」として捉えるので、「ないコトもある」となる。yes/noは肯定/否定を表すのではなく、アル/ナシを表す

2      代名詞に見る個の意識
日本語の人称代名詞 ⇒ その場その場における相手との関係として使われるので、1人称として決まった言い方があるわけではなく、相手次第で異なった言い方をする
誰もいないところでは、日本語では人称代名詞は存在しないが、英語では相手の存在や性別、年齢、身分の如何に関わらず、1人称単数は”I”に決まっている
英語の人称代名詞の格変化 ⇒ それぞれを別の意味ある語として捉える。「私は彼女が好き」と「彼女が私を好き」では、同じ「私」でも質的に異なる別モノとしてみている
日本語の会話は、共有される1つの場の中で進むが、英語の会話は、話者が”Iと言った瞬間、世界はその話者を中心とした世界となり、話者が変わるたびに中心が変わる
“it”は、三人称・中性の人称代名詞と言われるが、本質的に指示する内容は、「話し手と聞き手の間ですでに共通して了解されている何か」「互いが前提として共有している観念」といったようなもの
日本語では、「暗い」と言えば通じるが、英語では「何かが(暗い)」と言わないと通じないので、It is dark.となる
英語で「物」や「無生物」を主語とする表現も、「モノ」も「ヒト」も「絶対的存在物」であるという点からは均質と見做すところからきている ⇒ This bus takes you home.

第3章     動詞がわからない
日本語と英語で対比が最も困難なのは動詞
1      英語の動詞と命令文
英語の動詞は、そのまま名詞として用いられるし、その逆も頻繁に起こる
日本語では、述語動詞は必ず主語を想定しているので、主語が省略できるが、英語の動詞は、行為そのものを一般的な概念として捉えるので、必ずしも主語の存在を必要としない

2      Be動詞の役割
「能動的主体として、中心的テーマとなって存在する」ことを表す語
動作主である能動的主体を世界に定着させるためには、その動作・状態を指示する動詞が不可欠
主語によって変化するのは、主語によって「存在」の意識(認識)が異なるため

3      動詞の活用
ナマのままの行為である原形(現在形ではない)に、~ing、~ed、~sなどが付くことによって、英語の動詞は一般性から個々の具体性を示すものへと変貌する
2人の会話のなかでどちらかがする動作と、第三者の動作とでは、行為自体のありようが異なるという考え方 ⇒ 三人称複数になると、同じ行為でも一般化されるので、一人称・二人称と同じ概念となる
過去形が用いられるのは、過去時制と仮定法過去の二通りで、いずれも話者にとっての心理的距離間の表れ ⇒ 視点を現在に固定し、過去は過去として厳密に示す

4      分詞の間隔
ing”は現在分詞でも動名詞でもある ⇒ 現在進行形に用いられる場合も、動詞の変化と捉えるのではなく、be動詞で結ばれた主語の存在を表す語として捉える
過去分詞は、「完了」を基本的な指示内容とする語で、受動的に用いられる場合(be+過去分詞)は動作が完了する時点から遡って捉えた表現(The book was written by him.)であり、完了時制で用いられる場合(have+過去分詞)も元々はI have the work finished.と言ったように仕事の完了を意味するが、あくまでhaveと言う現在時制の文章であり、過去完了も過去時制に他ならない

5      句動詞への発展
語の組み合わせによるイメージの拡大 ⇒ 前置詞や副詞と組み合わせて用いられる動詞を「句動詞」と言い、英語においては語と語の組み合わせが重要 ⇔ 日本語は語自体に意味(イメージ)があるので、どの語を選択するかが重要(相手をどう呼ぶかで意味が全く違ってくる)
“make, take, put” + “in, on, up, down”

第4章     前置詞・接続詞がわからない
英語では名詞も動詞も、全てが即物的な指示内容を持つ「モノ」的なものだが、複数の「モノ」がある場合に、それらの位置関係や繋がりを指示する記号が前置詞・接続詞

1      前置詞の指示イメージ
「モノ」と「モノ」の物理的な位置関係を指示するのが前置詞 ⇒ 抽象的な概念や状態までも視覚的なイメージに転写される You are always on my mind.

2      接続詞を捉え直す
「モノ」と「モノ」を接続する記号が接続詞 ⇒ 等位接続詞(and, or, but)と従属接続詞(after, because, though)

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