数字で分かるオリンピック100の謎  John D. Barrow  2012.9.3.


2012.9.3. 数字で分かるオリンピック100の謎
ウサイン・ボルトはどうすればこれ以上がんばらなくても世界記録を更新できるか
100 essential THINGS YOU DIDN’T KNOW you didn’t know about SPORT  2012

著者 John D. Barrow イギリスのケンブリッジ大学を拠点に活躍する数理物理学者、特に宇宙論が専門

訳者 松浦俊輔、小野木明恵

発行日           2012.7.1. 第1刷印刷        7.15. 第1刷発行
発行所           青土社

『数学でわかる100のこと』の続編
非常に興味深いが、翻訳の誤りが多過ぎる。翻訳語の文章に基づいて、実際の結果を検証すれば、簡単に誤植は防げる。

1.        ウサイン・ボルトはどうすればこれ以上速く走らなくても世界記録を更新できるか
100m走のタイムは、スタート時のピストルへの反応時間と、その後の走る時間の合計
反応時間については、ピストルが成ってから0.1秒以内にスターティングブロックに体重をかけるとフライング。ボルトは遅い方(0.13秒辺りが平均なのに対し、ボルトは0.16)なので、この改善だけでもタイムは上がる
究極の走る速度は10.55m/秒の予想に対し、ボルトは既に10.6m/秒を記録している
追い風を2m一杯に受ければ0.11秒、高地であれば0.07秒短縮可能

2.        何でもできる
一般の動物に比べ、人間の身体能力は群を抜いて幅が広い
身体能力の多彩さが人間の特徴

3.        アーチェリー
70m離れた標的めがけて72本の矢を放つ。標的の直径は122㎝、10本の均等幅の輪で区分け
的に当たる確率は、10点が1%で、外側の輪になるに従って2%づつ上がり、1点に当たる確率は19%。すべてが的に当たったとして、まったくランダムに当てて得られる得点は3.85

4.        平均値の落とし穴
クリケットの話

5.        コーナーを曲がる
コーナーを走る場合、内側のレーンと外側ではどちらが有利か ⇒ 半円形のカーブを走るために内側に向けて掛けなければならない力は、半径が長いほど一定速度を保つのに必要とされる力は小さくなる
昔は200mでも直線コースがあり、コーナーを走るよりもいいタイムが出ていた

6.        バランスの問題
バランス感覚とそれを支える筋肉の制御の仕方
身体の重心を通る垂線が両足で作る支持基底面からはみ出さない、支持基底面を広く、重心を低く、体重を体の中心から出来る限り広く分散
1人の競技では極力バランスを保つことを心掛け、格闘技ではいかに相手のバランスを崩すかに腐心

7.        野球派? テニス派? クリケット派?
クリケットや野球の当主のスピードは約100mph(160kph)、テニスのサービスは男が149mph(233kph:98年のルーゼドスキー)、女が128mph(205kph:98年のヴィーナス・ウィリアムズ)
投手の投球やサーブに対して必要な反応速度は、いずれも0.400.42秒くらい。どのスポーツでも12/100秒の誤差くらいしかないところで勝負している

8.        ベイズ式監視
ドーピング等の検査で引っかかると選手生命が台無しになる以上、検査機関の誤りは許されない ⇒ 検査で引っかかった選手が薬物を使用している確率と、薬物を使用している選手が検査で引っかかる確率との関係が全く異なることを証明したのがベイズ牧師
1200人の選手が検査を受けて5%が引っ掛かり、検査機器の精度が95%の場合:
引っ掛かったのは60人だが、精度を勘案すると、違反者は57
クリーンとされた1140人の5%が機器の測定ミスであれば、57人は違反者
検査結果は114人が違反者と出るが、陽性と判定されても実際に薬物を使用した可能性は50%しかない
薬物検査で陽性と出る事象を         Eとする
選手が薬物を使用している事象を    Fとする
P(E)=検査で陽性が出る確率                                                
P(F)=選手が薬物を使用している確率                                     5
P(E/F)=薬物を使用している選手が検査で陽性と出る確率           95
P(F/E)=検査で陽性と出た選手が薬物を使用している確率           50
P(E/F)P(F/E)はまったく異なるもの。ここで知りたいのはP(F/E)
1200人のうち57人が検査の結果陽性となる可能性がある(1140人はクリーンと出ているのでは?)
P(F/E)={P(E/F)xP(F)}/{P(E/F)xP(F)+P(E/not F)xP(not F)}=0.5
(「検査結果は」以降の結論が意味不明:違反者の57人にしても、クリーンとされた中の57人にしても、氏名を特定できないので、114人は不特定のはず。半数は機器のミスによってクリーンと判定されているので、「陽性と判定された」中だけで考えれば、対象は57人しかいないので「薬物使用の可能性」は95%のはず。一方、検査結果が114人であれば、薬物使用者の比率は5%ではなく9.5(114/1200)になるはず)
裁判でも、検察が陪審に両者は同じであると信じ込ませようとし、「訴追者の誤謬」と呼ばれる ⇒ 被告人の特徴と犯人の特徴とが一致する確率と、被告人が無実である確率を混同してはいけない

9.        三回勝負
試合の数が増えるほど、「強い」ほうのチームが勝っている可能性が高い

10.    高跳び
走り高跳びにしても棒高跳びにしても重力に逆らって体を空中に放り上げる競技では、重心の位置と実際の身体の動きが異なる ⇒ 通常のはさみ飛びでは重心がバーの30㎝上を通らないと越せないが、ベリーロールでは重心がバーの下でも体はバーを越すことが出来る。さらに68年アメリカのフォスベリーによって開発された背面跳び(フォスベリー・フロップ)はさらに重心を下げても越すことが可能

11.    誕生日が物を言う
イギリスでは学齢期の子供の大会の年齢区分は91日に始まる年度で区切られる
ヨーロッパや国際的な試合では11
ズレにしても最大丸1年の年齢差がある選手を同じ年齢としてまとめるので、いつ生まれたかが大きく物を言う ⇒ その後の競技人生にもさまざまな影響を及ぼし、誕生日による有利不利があることが研究の結果出ている

12.    空中の時間
ボールを空中に蹴り上げる場合、目的地点を狙ってどの角度で上げるかによって、滞空時間が決まるので、受け取る方はそれを勘案して目的地まで走ることが出来る

13.    カヤック
カヌー ⇒ 漕ぎ手が片膝をついてシングルブレードのパドルを漕ぐ
カヤック ⇒ 漕ぎ手は座ったままダブルブレード(両側にブレードがついている)のパドルを使い、舟の左右を交互に水をかく。完全防水で転覆しても360度回転して起き上がる
カヤックのほうが、漕ぐ回数が多くなるうえ、船体もより滑らかな流線形をしているので水に乗りやすく推進力も大きくて速い
漕ぎ手を増やすのは効果的か ⇒ ボートを水中で動かすのに必要とされる力は、水によって生じる船体の摩擦抗力を克服するためのもの。漕ぎ手の人数による出力と抗力によってタイムが決まる。その比率は、男女差、距離にほとんど影響されない ⇒ 1人乗り優勝タイムを2人乗りのタイムで割った値も、2人乗り優勝タイムを4人乗りのタイムで割った場合もほぼ1.1に収斂される(本文では分子と分母が逆の誤植あり)

14.    舵手は必要か?
ボートの場合、舵手の体重分だけタイムも遅くなるが、タイムロスを補って余りある役割を果たしているのか ⇒ オリンピックの優勝タイムで見る限りすべて舵手なしが舵手ありのタイムを上回り、その比率はペアが1.05、フォアが1.03
1900年パリ大会のオランダの舵手つきペアが、観客の中から10歳の少年を舵手として乗せて優勝、少年は競技終了後姿を消し身元は不明のまま

15.    カードについて
スポーツ選手などのカード集め ⇒ 50枚で1組とすると、最初に手に入れるカードは必ず持っていないカードになるが、2枚目のカードについては、まだ持っていない確率が49/50。全部手に入れるために買う必要のある総数は
50/50+50/49+50/48……+50/1=50(1+1/2+……+1/50) ⇒ ( )内は「調和」級数
全部の枚数が多くなるほど上記の答えは、ほぼ0.58+In(50)=4.48In(50)=3.950の自然対数》となり、平均して買う必要のある枚数は504.48=224
最初の25枚を集めるには35枚必要で、残り25枚集めるために190枚必要
友人がいて交換すれば、友人一人の場合では156枚に圧縮できる

16.    すてきな車輪
自転車の装備の改良により重量を減らした効果 ⇒ ホイールを軽くした方が、フレームを軽くするより3,4倍も有利なところからディスクホイールが発明された
ホイールの半径は関係なく、質量が問題(通常のホイールの質量を1とするとディスクの場合は1/2)。ホイールを回転させるために必要なエネルギーは通常のホイールでは質量の4倍、ディスクでは3倍に比例

17.    得点計算
十種競技の得点は、1912年に作成され、時折更新され、1984年のトンプソンのように、後に改定された得点表によって世界記録保持者となるケースも
すべての種目で世界記録を破れば得点は12500点、実際の競技の各種目最高得点の合計は10485点。当時の世界記録をおよそ1000点として決める
各種目の得点の計算方法は単純なので、各種目で900点を取ろうとすればどのくらいの記録が要求されるかの目安が分かる ⇒ 距離走が最も累進的(いいタイムほど得点を挙げやすい)、跳躍がそれに次ぎ、投擲はほぼ中立
トップ100の男子選手の種目別得点を見ると走り幅跳び、ハードル、短距離走といった全力疾走の速度に関係する種目での得点が高く、1500m走や投擲の得点は低い ⇒ 過去の十種競技の実績に基づいて得点が決められた結果であって、得点方式が変われば全く違った競技となる
運動エネルギーは、速度の二乗に比例するから、「累進性」をすべて同じとすれば、突出した記録を出す選手のほうが有利

18.    飛び込み
高飛び込みの滞空時間は約1.4秒、着水時の速度は時速50(秒速14m)
飛び板飛び込みの滞空時間は約1.8
宙返りの時は体をしっかり抱え込み、半径と慣性を小さくして回転を速くし、着水の時は体をまっすぐ伸ばして慣性を増せば回転が止まって静かに入水できる

19.    もっとも極端なスポーツ
ドラッグカーレースのドライバーこそ最も過酷 ⇒ ロケットに車輪を付けたような乗り物で、400m4.5秒で走る。最高速度は530kphを超え、ドライバーが体感する加速度や源速度は6G(パラシュートが開いた段階ではさらに大きくなる)にも達する

20.    つるつる滑って
摩擦の役割への理解 ⇒ 足を踏ん張るのも、踏み切るのもすべて摩擦
サッカーやラグビーでは、芝の表面の摩擦が大きいと疲労を感じ始めるのが早くなる
靴と地面の間に発生する摩擦の大きさは、体重の他に、接する2つの面の固有の性質で決まる ⇒ 最少がテフロンの0.04、最大がシリコーンゴムの12。革かゴムのスポーツシューズで0.3(体重の1/3以上をかけると滑る)

21.    性差の研究
男女の区別のない競技 ⇒ 馬術とセーリングの一部
1900年近代オリンピックに採用された馬術競技は、高跳び(優勝は1.9m)と幅跳び(6.1m)1912年から馬場馬術、総合馬術、障害飛越の3種追加
馬場馬術は、軍隊の将校に限定、軍服着用が定められ、将校以外でメダル剥奪された者もいた ⇒ 1952年規制廃止、女性や民間人に門戸開放
障害飛越は、女性、民間人を認め、軍人・軍馬は許されなかった
総合馬術は最も過酷な競技で、52年から女性に門戸開放されたが、実際に出場したのは64年のアメリカのヘレナ・デュポンが最初
現在は全ての競技で男女の参加が認められ、チーム競技でも男女人数は自由 ⇒ 女性メダリストの最初は1972年以降 ⇒ 種目によってはかなり体力が必要なものもある
セーリングも男女混在の種目がある ⇒ レーザー級、49er級、トルネード級、フィン級
射撃も、1980年までは全て男女混在だったが、84年に女子のみの種目導入。女子限定の競技がない種目には出場可能で、過去に2人のメダリストがいる
1900年のパリ大会で標的とされたのは鳩、300羽以上の鳩が撃ち落された ⇒ 現在はクレー

22.    グラウンドキーパーのための物理学
どのくらいの頻度で散水し、撒いた水や降った雨が蒸発するのにかかる時間は?
芝生が太陽光を吸収するのは75% ⇒ 1日当たり1.5㎝の速さで蒸発
水を撒くのは午前4時がベスト

23.    上がったものは必ず下がる
鉄棒で大車輪をする場合、真下にいる時に最大の重力がかかり、ほぼジェットコースターの最大重力と同じ6Gにもなる ⇒ ただし、頭部はもっと小さな円を描くので頭で感じる力はもっと小さい

24.    左利きと右利き、どちらが得?
左利きの割合は10%。スポーツ選手も同じ割合だとすれば、利き手の違う相手との対戦経験がより豊富な左利きの方が有利

25.    究極の棒高跳び
イングランドの沼沢地で農地間の移動に棒を使ったのが起源、ただし、競うのは距離
1896年からオリンピックの競技種目に加わる
100m10.05秒の助走でいくと、重力加速度g=9.8m/s2とすれば、重心を元の位置から最大4.6m引き上げることが出来るので、選手の重心地上1.2mとの和5.8mまであげられる。さらにグラスファイバーのポールは、柔軟性が増す分ポールを曲げることで失われるエネルギーを減らせるので跳び越えられる高さを5080㎝引き上げるし、腕を使ってまっすぐ立った姿勢からポールを放してさらに上に放り上げることも加味すると、重心は1.8mも上がることになり、最高で7.6m越えも夢ではない

26.    ベスト・キッドの逆襲
武術のうち、柔道(1964)、テコンドー(2000)はオリンピック種目だが、空手は2005年以降申請されたが却下 ⇒ 流派が多過ぎて一本化できない
空手で煉瓦や板を割るのはたやすい ⇒ 一流の黒帯なら質量3.4㎏の片腕を秒速7mで突き出すが、そのエネルギーは4800ニュートンとなるが、厚さ4㎝の煉瓦を割るのに必要な力は3200ニュートン。的に当たる時に拳が最大の速さになることが前提

27.    てこ
レスリングという競技は、梃の支点をどこにするか選び、自分自身の筋力や仕事率を釣り合わせて、重い物体や相手選手の体を動かそうとする

28.    ボールに手を伸ばす
ラグビーのラインアウトで投げ入れたボールをキャッチするために2人のプロップがジャンパーを持ち上げる ⇒ ジャンパーの太ももをもって垂直に持ち上げれば4.55m位の高さまで届く。届くまでの時間は約3/4秒。そのタイミングでボールがジャンパーの最高到達点に届くよう投げ入れなければならない

29.    マラソン
紀元前490年ペルシャ軍敗退の知らせを伝えるため、戦場のマラトンからアテネまでを走りぬいたフェイディッピデス(フィリッピデスとも)の故事によるが、距離は23マイルとも26マイルとも言われ、1896年の第1回は長い方で争われた ⇒ 1920年までは全員が同じ距離を走ればよく、距離そのものは一定していなかったが、24年から42.195㎞に固定 ⇒ 1908年ロンドン大会の際、イギリス王室からの要望でスタート地点をウィンザー城の子供部屋から観戦できる地点に、ゴールをエドワード7世の貴賓席前と変更したことから生まれた距離。そのロンドン大会のマラソンでは1位でスタジアムに入ってきたイタリアのピエトリがゴール直前倒れ込み、役員の助けでゴールしたため失格、アイルランド生まれのアメリカじんヘイズが優勝となったが、ピエトリの不運に心を痛めたアレクサンドラ王妃が翌日特製のカップを贈ったという

30.    光り輝くもの必ずしも金にはあらず
古代ギリシャではメダルがなく、勝者にはオリーブの花冠がかけられ、2,3位は何もなし
1896年近代オリンピックでは、優勝が銀メダル、2位が銅
1900年のパリはメダルはなく、カップなどの記念品のみ
1904年優勝者に純金のメダル ⇒ 1912年以降金メッキに

31.    先に動くな
サッカーのPKの成功率は、ナッシュ均衡(ノーベル経済学賞受賞の数学者の理論)を当て嵌めると、
キッカーは、37%を左に、29%を中央に、34%を右にシュートするのが良く
キーパーは、44%は左に跳び、13%は中央に留まり、43%は右に跳ぶのが最適な戦略
両者が最適な戦略を取れば、PKの成功率は約80%となり、PK戦では2本が外れる

32.    里帰りする卓球
世界一のプレー人口を持つのはイギリス生まれの卓球 ⇒ 1988年からオリンピック種目になり、観客の興味を惹くために最近ルール変更(1ゲーム11点、7ゲームで4ゲーム先取制、サーブは2本交代へ)
勝負に勝つ確率で重要なのは、「1ゲームに必要な得点数」x「勝つために必要なセット数」
旧来の21x2≒現行の11x4 ⇒ 運より技量が物を言う点では新旧ほぼ同じということ

33.    ワイルド・サイドを歩け
競歩では、様々な制約を設けて歩行と走行の違いを定めている ⇒ 地面に接している側の脚は垂直になった状態で体重を支えているときは真っ直ぐでなければならない(膝を曲げてはならない)
進む速度は、歩幅に1秒当たりの歩数をかけたもの、いかに歩幅を広げるとともに歩数を増やすか。トップレベルの選手の歩くピッチは400m走者と同じ ⇒ 毎秒186
重心の上下動がほとんどない
片足を地面に接触したまま速く歩こうとするために、腰を水平に振って足の有効長さを伸ばすことが出来るが、それでも世界記録の速さを出すには足の有効長さが2.3mになるまで腰を振らないと不可能。ということはリフティング(両足が地面から離れるルール違反)が恒常的に行われていることを示す

34.    大本命
本命馬に細工をして1位を外れることが確実な場合は、オッズ通りに掛ければオッズの総計は1より小さくなり、掛け金+αが戻ってくる
1より大きくなったとしても、差額を手数料と考えれば、マネーロンダリングの手段として利用できる

35.    失格になる確率
2011年の世界陸上の100m走で、フライングの新ルールが適用され、ボルトが1発で失格となったが、ルール改正の理由は、テレビ放送のためだった ⇒ フライングが発生すると予定が遅れ、短期なプロデューサーが怒るから
どの選手もフライングする確率は等しく1/32とすると、新ルールなら各選手が1/32の確率で失格となるが、旧ルールならその確率は 1/32(81/32)=1/128だけ

36.    勢いにのって漕ぐ
ボートの漕手は左右互い違いに乗っているが、小刻みに左右に首を振る ⇒ 1956年コモ湖のレースでイタリアのクラブチームが半分の左右を入れ替える配置をテストした結果揺れが無くなり、メルボルンで金メダルを取り、「イタリア式」リグと名付けられた
エイトの場合はいくつかの組み合わせがあるが、それぞれ試され成果を上げている

37.    ラグビーと相対性
スローフォワードは、ボールが敵陣のゴールラインの方向に投げる反則をさすが、誰が見るかによって違って見える ⇒ 選手の走る速度を秒速8m、受ける方と投げる方の間隔は5mで受ける方は1m後方にいて、秒速10mのパスを出したとする。地面に対するボールの速度は秒速12.8mとなり、受け手に渡るまで0.4秒かかる。その間受ける方は8x0.4=3.2m走る。パスが出された地点で見る線審からは、パスをキャッチした時は出した選手の前方3.2-1=2.2mの所にいるように見えるのでスローフォワードの旗を振る。主審はプレーに併走しているので、ボールは前方に出されたようには見えず試合続行となる

38.    ラン率
クリケットの話

39.    スカッシュ――とても変わった習慣
スカッシュのラリーポイント制になる前のルールについて

40.    見せかける
統計についての誤解の中でランダムにまつわる話 ⇒ コイントスの結果は表ばかりが連続して出ることはないと思い込んでいるが、実際の裏表が出る確率は、まったく毎回独立に1/2なので、N回トスした時 N=2rの場合r回連続して裏か表が出ると予測される
32回トスすれ場、5回連続して表や裏が出る可能性が高い ⇒ Nが大きいほど当て嵌まる

41.    比例の感覚
体重や体の大きさが増すにつれて、どのくらいの比率で力が強くなっていくか
重量挙げの持ち上げる重量(=選手が持ちこたえられる強度)の三乗と選手の体重の二乗が正比例するという相関関係(*)がみられる ⇒ 体重別で見ると重いクラスのほうが体重を考慮に入れると最弱という結果が出ている
(*) 筋力は体重の2/3乗に比例して強くなる ⇒ 体重を三乗すると筋力は二乗になる

42.    衝撃を和らげる
スイートスポットは、押し込んでくるボールからかかる力によって生じるバット(ラケット)全体の動きが、バットの重心を中心とした回転運動と大きさが同じで、方向が逆になるような位置にある

43.    平泳ぎ
競泳の中で平泳ぎだけ異質 ⇒ 水の抵抗を受けストローク1回の間の速さと加速度が極端に変化する
56年のメルボルンで古川は最初の150mすべてと、最後の50mの大半を潜水したままで泳ぎ優勝 ⇒ 重症の酸欠になる選手が続出して禁止された

44.    流れを変えるポイント
テニスのサーバーにとって重要なポイントは1530の時と言われていたが誤りだろう
得点の数え方は、中世フランスで初めてプレーした時、コート脇の時計の文字盤の15分を1点に見立てたことに由来
テニスの用語には古風なものが多く、フランス語からきている ⇒ デュースはフランス語で2を意味するdeuxに由来、あと2ポイント取れば勝つという意味。ゼロを表すラブは形がゼロに似ている「卵l’oeuf」に由来(英語でも競技で零点のことをgoose eggとかduck’s eggと言う)。テニスの名称もサーブを打った時に相手に向かって叫んでいたフランス語のtenez(これを取ってみろ)が起源
両選手の力が拮抗している場合、セット数の多い方が運より技量の差が出る。女子が3セットしかないという不平等を説明するもっともな理由は見当たらない(賞金額は同額)

45.    答は風の中に
投擲競技に与える風の影響 ⇒ 砲丸やハンマーは重いので軌道は変わらないが、槍や円盤は空気力学的な原理を応用しているので、風を最大限利用する力も技能のうち
槍投げ ⇒ 29度の角度内に制限されるので、トップクラスの選手だと的は45m幅。投射速度のうち助走によるものは1/4(3,4歩の助走で金メダルという選手もいた)、残りは腕の速度によるもの。槍の重さは800g(女子は600)、かなり強い風の中では35(無風状態で最適とされる4445度より小さい投射角度)の軌道を描く方が空中に長く留まり飛距離が伸びる。槍の重心が描く軌道から下に10度だけ槍が傾く(この角度をアタック角という)ように投げると必ず槍の先端が下を向き落下した時に地面に刺さり易くなる(刺さった痕跡がないとファウル)
槍の軌道を決定する要因の1つは重心の位置 ⇒ 1984年に100mを超す投擲が記録され危険なところから86年に重心を4㎝後ろにずらすとともに下端のデザインを修正し、急降下して芝に刺さり易くした。それでも96年には98.48mの記録が出て問題が再燃したが、それ以降この記録に迫る記録は出ていない

46.    天国と地獄
1981年イングランドサッカー協会が、より攻撃的なプレーに報いることを狙って、リーグ戦での勝ち点を2から3に変更、各国も追随
旧方式では全試合引き分けでも上位1/2に入れたが、新方式では降格の危機になり兼ねない ⇒ 13チームのリーグ戦で、1チームのみが57敗、残りの試合は全て引き分けとしたら、旧方式では勝ち点10で最下位となるが、新方式では勝ち点15で優勝

47.    何たる騒ぎ!
物の動かし易さは、重量よりも質量が集中しているか否かで、フィギュアのスピンも腕を体にくっつけるに従ってスピードが増してくる
このような運動への抵抗を惰性/慣性(イナーシャ)という ⇒ 物体の質量の合計と、質量の分布によって決まる。質量の分布は物体の形によって決まる。異なった動きの回転をするのは軸を中心とした質量の分布が違っているため、それぞれの軸を中心とした運動の慣性が違うから。正確な中心線から少しでもずれると必ずひっくり返るが、体操選手のように姿勢をうまく調節すれば不安定であるがゆえに捻りが自然と加わることもある

48.    大きさが物を言う
体重別に階級を分かる理由は、身体が大きいほど力が強いはずだから ⇒ 各階級内の体重幅の上限の選手が多いのもそのため
体重を三乗すると筋力は二乗になる(#41)
陸上の投擲競技(槍投げを除く)では階級がないので、選手はみな巨体で筋力をつける、体重の軽い人には向かない ⇒ 巨体だからといってのろまというわけではなく、3000mの世界記録保持者と砲丸投げの選手が200m走を競った時、勝ったのは砲丸投げの方であり、短距離走とは筋力を競う競技
体重の効果がどのように投擲能力に換算されるかは簡単に見積もれる ⇒ 投射物の飛行距離は初速の二乗に比例、速度の二乗は選手の筋力に比例、筋力は体重の2/3乗に比例して強くなるため、他の条件が等しければ体重が重くなるにつれて飛距離も長くなる
1912年のストックホルムオリンピックでは砲丸、槍、円盤で両手を使った試合が行われ、合計の飛距離を競った
1904年のオリンピックでは、ボクシングで2階級制覇が出た

49.    本当に奇妙きてれつなサッカーの試合
1994年のシェル・カリビアン・カップでのグレナダ対バルバドスのサッカー試合
延長でのVゴールで勝ったチームに対する得失点差をもっと公平にするため、Vゴールを2ゴールとした。その結果、バルバドスが2点差以上でグレナダに勝たないと次のステージに進めない試合で、バルバドスは20で勝っていた試合の終盤グレナダにゴールを決められ21となったところで終了間際にオウンゴールで同点に。グレナダもオウンゴールで1点差に持ち込もうとしたが、バルバドスがグレナダのゴールを死守して延長に持ち込み、最初の5分で決勝のVゴールを挙げ次のステージへと進んだ(YouTube参照)

50.    ねじれる回転
物体の慣性は、中空の球体(慣性に換算した数値が2/3)のほうが中身の詰まった球体(2/5)より大きくなり、回転も遅くなる
自転車の車輪も同じで、レース用の車輪は円盤状だが、前輪には直線状を真っ直ぐ走るか、トラック面に対して常に垂直の状態で走るのでなければ通過する空気を受けて車輪がねじれて転倒してしまうので使えない

51.    気まぐれな風
選手にとっては、雨や寒さより風のほうが嫌われる
1人に対してだけ突風が吹いたとしても競技は成立
ハードルや跳躍競技では、風向きによって、踏切りのタイミングが狂う
トラックを1周する場合、向かい風の不利な影響は、追い風の効果では絶対に埋められないので無風状態で走るより必ずきつくなる
風力の計測制度 ⇒ 秒速±0.9mの精度しかない。測る場所や場合によってはレーンごとに差が出ることもあり得る

52.    ウィンドサーフィン
ウィンドサーフィンは1984年にオリンピック種目となったが、装備のコストが高騰して残すかどうか揉めている
ウィンドサーフィンの選手にかかる力は、水面から56度の傾きで、体重の56%の力を長時間(1レース3040)出し続ける必要 ⇒ 風と波を勘案すれば更に大きな力が必要

53.    メダル争奪戦 ⇒ 中国の北京オリンピックでの実績を分析
まずは競争う相手が少ない競技が狙い目 ⇒ 飛び込み、ボート、自転車
勝つためにどれだけのことが必要か ⇒ 生来の才能より訓練やチームワークが物を言う競技のほうが結果が出しやすい ⇒ ボート、重量挙げ(種目の多い競技でもある)
アフリカのランナーのように、国内に競い合う人気スポーツがなければ、多くの才能ある人材が1つのスポーツに集中するというメリットもある

54.    女子陸上競技で世界記録が出ない理由
女子陸上競技の多くの種目で世界記録の更新が男子に比べて少ない ⇒ この20年間に更新された記録は、男子が22種目中20種目に対し、女子は11種目
幅跳びはもっと極端で、1988年以降破られていないが、それまでの6年間で6回更新されている ⇒ 89年以降薬物検査が厳格化したことと関連。ドイツ統一後東独の資料によりドーピングが計画的に行われていたことが発覚。短距離は幅跳びの勝者ドレクスラーはその事実さえ否定し、名誉棄損の訴訟を起こし敗訴

55.    ジグザグに走る
攻撃する選手はディフェンダーに会う毎に左右真ん中の3通りの選択肢があるので、ゴールにたどり着くまでN人のディフェンダーに会うとすると3D 通りのジグザグを進む ⇒ 8人のディフェンダーがいるとすると3853万通りの動きが考えられる
ディフェンダーをすり抜けて進む経路は、古典的物理学のランダムウォークの問題となり、出発地点からN 歩の距離に到達するにはN2歩かかる

56.    シンデレラスポーツ
オリンピックには1896年以来ずっと行われてきた競技が9つで、あとは入ったり出たり
2012年のロンドンでは26種目で36種類、合計300種目が行われる
IOCではほかにも多数のスポーツを公認しているが、オリンピック憲章を守るということを保証する監督団体がなければならないし、ブリッジやチェスのように身体で競う面がないものは除外(別途IOCが後援して4年に1度世界大会が行われている)
ダンスやペタンクに交じって綱引きもある ⇒ 190020年まで団体競技としてオリンピックの種目となったが、参加国は最大でも5か国しかなかった

57.    車いすレース
競技用車いすには細かい規定が設けられているが、重量についての制限はない
自転車は6.8kg以上と決められている
車いすの最高速度は、100m走でも秒速10mを越えることはない
転がり摩擦が重要で、その値は車いすと選手の重量の合計によって決まるので、より軽量の椅子が有利 ⇒ 100m走だと、1㎏減らせれば0.1秒短縮(5㎏なら0.6)短縮可能 ⇒ 長距離ではもっと影響が出るが、選手の体重を減らす方が簡単にタイムを縮められる

58.    均等配分トライアスロン
圧倒的に自転車の時間が長い ⇒ 水泳16.7%、マラソン28.3%、自転車54.2%、種目から種目への切り替え時間0.8%の配分が標準的 ⇒ 同じ時間になるように距離を調整すれば種目間の得手不得手が無くなるが、水泳が一番技術と効率を求められるきつい種目なので選手が嫌がる
オリンピックでは、水泳1.5㎞、自転車40㎞、長距離走10
時間を均等にしようとすると、水泳3㎞、自転車24㎞、長距離走12㎞となる

59.    群衆の狂気
観戦中の厖大な数の観衆の動きは、水の流れに似ている

60.    疎水性ポリウレタン水着
水中を動く体にかかる抵抗の大きさは、空中を動く場合の780倍もあるので、水中で抵抗を少なくする水着としてポリウレタンの水着が開発され、09年の世界水泳では20もの世界記録を生んだが、コスト面と着用に1時間半もかかり、企業の開発競争に選手が巻き込まれるという悪弊から、2010年禁止 ⇒ 新型水着の記録には星印がつけられている(追い風参考記録と同じ扱い)

61.    近代五種競技
射撃、フェンシング、乗馬、水泳、ランニングの5種。クーベルタンが考案した種目で12年からオリンピック種目に。12年の大会では上位7名のうち6名までがスウェーデン人、唯一の例外がアメリカ人陸軍将校のパットン(後の著名な第3軍司令官)で、射撃で的を外したと判定されたが、前に撃った弾丸の開けた穴を再度通過したので痕跡がなかったと抗議したが却下、もしその通りだとすれば金メダルだった
水泳の強い選手が有利 ⇒ 合計得点中の比率では水泳の得点が24%を占めている

62.    クールに決める
暑さとの闘いが一番長くなるのは50㎞競歩とマラソン ⇒ 身長が低く、痩せている(ウェスト周りの太さが細い)ほうが、熱の出入りの平衡を保ち身体が過熱状態にならないようにしてくれる ⇒ 身長よりウェスト周りの太さのほうがより大きく影響

63.    車いすの速さ
健常者と障碍者の世界記録の比較 ⇒ 400mまでは健常者が速いが、それ以上の長さでは車いすの方が速い
男子       世界記録  秒速(m/)    女子      世界記録   秒速(m/)
        100m            9.58     10.44              100m         10.49       9.53
        200          19.19     10.42              200m         21.34       9.37
        400m          43.18       9.26              400m      47.60       8.40
        800       1:41.01       7.92              800m       1:53.28       7.06
      1500m       3:26.00       7.28             1500m       3:50.46       6.51
      5000     12:37.35       6.60             5000     14:11.15       5.87
    10000m     26:17.53       6.34           10000m     29:31.78       5.64
  マラソン         2:03:02       5.72         マラソン          2:15:25       5.19
男子車いす       世界記録  秒速(m/)    女子車いす     世界記録  秒速(m/)
        100m          13.76       7.27              100m          15.91       6.29
        200          24.18       8.27              200m          27.52       7.27
        400m          45.07       8.88              400m      51.91       7.71
        800       1:32.17       8.68              800m       1:45.19       7.61
      1500m       2:55.72       8.54             1500m       3:24.23       7.34
      5000       9:54.82       8.41             5000     11:39.43       7.15
    10000m     20:25.90       8.16           10000m     24:21.64       6.84
  マラソン         1:20:14       8.77         マラソン          1:38:29       7.14
車いすの場合、100mは合計タイムに対するスタート時と加速部分の影響が大きいため外すと、平均速度は男女とも距離が増しても遅くならない ⇒ 早い時点で最速の回転率に到達し、長い距離に渡ってその速さを持続できる
距離の違う多くの種目に出られる ⇒ マラソンで優勝した選手が、直後のパラリンピックで100mから5000mまでの5種目に優勝した例がある
マラソンの方が速いのは、比較的直線で平坦のコースが多い ⇔ トラック競技ではコーナーの影響が大きいのでタイムが遅くなる

64.    誤差との闘い
誤差とは、ものごとの真の状態が確実には分かっていないということ ⇒ 多数の段階を踏むプロセスでは、段階を経るごとに誤差が倍になったりする
プールを何往復もしたりトラックを何周もする場合は誤差の影響が大きい ⇒ トラックでは+4㎝、プールでは+3㎝までの誤差許容、マイナスは不可。トラックの場合はゴールをずらすことで調整可能
競技のタイムは0.01秒単位まで計測されるが、トラックの場合は100秒継続すれば+4㎝の誤差が記録上は0.01秒以上の誤差が生じ、同じく50mプールの場合は16.7秒で0.01秒の誤差となる ⇒ 10000mの世界記録も0.16秒遅くなる
人為的なエラーは防げない ⇒ 1932年のオリンピックでは3000障碍で役員が周回数を数え損ねあと1周走らされたために、2位の選手が3位に落ちた

65.    重力の問題
多くの競技は重力に打ち克とうとする ⇒ 影響が大きいのは地球が地軸を中心にした自転で、両極に近い方が赤道直下より重量(質量にかかる重力の大きさ)は大きくなり、最大で0.5%重くなる ⇒ 赤道近くの高地に行けばなお軽くなる

66.    グーグル風勝ち点方式
リーグ戦の成績を決める際、事後的に負かしたチームが得た勝ち点の合計を勝ち点として集計し直すと、上位を食っていたチームが上位に繰り上がる ⇒ グーグルの検索エンジンの基礎と同じ考え方、ウェブリンクの数に応じて順位(重要度)を決めるやり方

67.    フィギュアスケートの逆説
何かを選ぶとき、すべての選択肢の中から最善のKを選んだあと、他に選択肢Zのあることが判明した場合、KZだけの比較でどちらかに決め、すでにKを選択した段階で却下したXが選択されることは起こりえない ⇒ 関係ない選択肢のために好みの順序が変わる状況はあり得る。交通局が自家用車通勤の代わりに赤いバスに乗ろうと勧めたとき、ほぼ半分の人がバスに乗り換えたが、その後青いバスが導入されると、バスの色など気にしないのでバスに乗っていた人の半分が青いバスに乗ると予測されるが、実際は赤青のバスと自家用車が各1/3になったという
フィギュアスケートの旧採点方式(2002年オリンピック) ⇒ 実際の得点に関係なく順位の得点を決めたために、フリーの最終演技者の結果でそれまでの順位がひっくり返った
ショートの結果クワン0.5      スルツカヤ1.0    コーエン1.5     ヒューズ2.0
フリーの結果:     ヒューズ1.0   クワン2.0         コーエン3.0
合計:                クワン2.5      ヒューズ3.0      コーエン4.5
最終のスルツカヤが滑り、フリーで2位になった結果、それぞれの得点は
                      ヒューズ3.0 スルツカヤ3.0    クワン3.5        コーエン5.5
フリーで上位だったヒューズが金メダルとなったが、スルツカヤの演技によって順位が入れ替わった

68.    円盤を投げる
ボール投げと槍投げは共通するが、円盤投げはサークル内での回転運動を最大限に利用する力が必要 ⇒ 世界記録は男子(2㎏の円盤)1986年の74.08m、女子(1)1988年の76.8mで、いずれも旧東独の選手、以後更新されていない
円盤を放すときに人差し指か中指で時計回り?(右利きの場合)の回転をかける技術や、風向きの計算、放す角度等経験が物を言うので、高齢者が多い ⇒ アメリカ人のアル・オーターは56年から4連覇(いずれの大会でも優勝候補ではなかった)
円盤は動力のない飛行機の翼のような動きをする ⇒ 空気抵抗のため減速するが、押しのけられる空気により揚力が生じ、円盤の空気に対して小さな仰角があれば揚力のほうが抵抗よりも大きくなる
向かい風の方が有利に働く場合があり、向かい風が弱くなるにつれて距離は落ち、最悪は追い風7.5m、それ以上追い風が強くなると距離は急速に伸びる(向かい風10m遠い風20mが同じくらいの距離を飛ばせる)。最適な状況は秒速10mの向い風、秒速10mの追い風では距離が2mほど落ちる
風の影響が短距離走より遥かに大きいにもかかわらず、記録では考慮されないのは不思議

69.    得失点差
同点の問題を解決する方法は様々 ⇒ サッカーの試合は1/4が引き分け
Vゴール(サドンデス) ⇒ サッカーでは0204年のみ
シルバーゴール方式 ⇒ 延長前半だけで決定、同点の場合のみ延長後半を行う
アウェーゴール+PK戦 ⇒ アウェーの得点を2倍にして同点の場合はPK
得点率方式 ⇒ 得点と失点の比で決める
得失点差方式 ⇒ 70年のW杯決勝戦で導入。攻撃的なプレーを奨励
得失点差方式が最適かどうかは分からない ⇒ 単純に得点数だけで決める方がシンプル

70.    プレミアリーグはランダムか?
サッカーはまったくランダムな展開をするスポーツのように見える ⇒ 単純に引き分け試合が1/4あるとし、ホームの有利さを無視してホームでもアウェーでも勝つ確率を3/8とする。プレミアリーグに20チームあれば各チームは38試合をこなす
20チームを試合をランダムに戦わせた結果の勝ち点順位と実際のリーグ戦の結果を比較すると、上位3チームを除きよく似た結果が得られる。実際にぶっちぎりの上位3チームの勝率は3/8より遥かに高いので当て嵌まらない
どのチームがか勝かがランダムだという特徴
上位3チームを除いてみると、上位と下位の数チームについてはランダムモデルと相似しているが、中位チームについては若干乖離がある ⇒ ホームとアウェーの差
法外なお金をかけたビジネスが、単純なランダムに生成するゲームで代替できる

71.    凝ったウェアは役に立つ?
空気抵抗を減らすためにウェアが開発され、それがどんどん派手になっていったが、一方で女子陸上はセパレーツが普及している理由は解せない
空気抵抗で選手が制御できるのは、空気に当たる面積。労力の3%ほどを風の抵抗を克服することに費やしている ⇒ レオタードやスパンデックス素材のウェアは表面積を小さくするとともに、運動する物体の表面近くで乱流を発生させ、抵抗力を抑える効果を出す

72.    水中の三角形
水球(ウォーター・ポロ) ⇒ ヴィクトリア朝時代の英領インドで「ポロ」という言葉を「ボール」という意味で用いていたことに由来、馬とは無関係。1900年からオリンピック種目に(女子は2000年から)7人で各8分の4ピリオドを戦う体力は相当のもの
重大なファウルを犯すと20秒間の「退水」となり、相手側の人数が増え得点のチャンスが来る ⇒ 6人の選手をゴールに向かって4-2のフォーメーションで配置し、選手間にできる三角形を有効に使ってパスしてゴールを狙う。真横に投げるのは受け取りにくい

73.    浮遊マジック
力学の法則では、投げ上げられた物体が、空中に一定時間[浮かび]、それから重力で地面に引かれて落下するという運動はありえない。質量の中心は放物線の軌道を描き、投射物自体がその軌道を変えることはできない。体の一部を動かして質量の中心に対する体の部位の位置を変えることはできる
バレリーナのグランジュテ(空中で両足を大きく開く跳躍) ⇒ 空中で両手足を広げることにより、質量の中心が頭に近づき、落ちる時は質量の中心が頭に対して下がるので、跳躍の途中で頭が水平に動いているように見えるが、それは重心がバレリーナの身体を上に動くから。頭部が同じ高さに留まるのはおよそ0.4秒間

74.    反マタイ効果
ドラフトの手順を調整することにより、特定のチームが一方的に支配することへの対抗措置としている  その効果は、遅延微分方程式を用いてモデル化できる
遅延モデルから出された答によれば、ドラフトの影響だけと考えると、8年の周期で強さが変化することが分かり、実際のチームに当てはめてみても8.3年という結果が出ていることから、アメリカンフットボールのようにドラフト順を成績の最も低いチームから順に指名権を与えることにすれば、チーム間の力の差は平準化される

75.    トーナメントのシード
Nチームが出場する大会では、N=2Rとして、r回戦が必要。出場チームのうち2R-Nチームが1回戦不戦勝となる

76. トーナメントの仕込み
あらかじめ対戦相手が決まる方式のトーナメントでは、比較的弱い選手が優勝するような対戦表を作ることが可能
8人によるトーナメントでは、3回の対戦に勝てば優勝なので、ランク5位の選手でも優勝は可能

77.    風に助けられたマラソン
2011年のボストンマラソンで男子が2時間32秒の世界記録、2位も4秒差
片道コースの場合、ゴールがスタートより42m以上低いコースは記録として認められない ⇒ ボストンのコースの高度差は139m。高度差が600mあるツーソンマラソンでは自分の体重の0.014に相当する重力によって後ろから押されているようなもの
さらにボストンでは、追い風が記録を助けていた可能性も高い ⇒ 風速6.75m/秒で、走者の平均速度は5.7m、多数の選手がコースの大部分で風を感じなかったと言っていた
追い風の効果は、最大で222(342)。前半は集団の中にいたとして、後半だけプラスに働いたとしても110秒。と言っている間に2時間338秒に更新された
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78.    上り坂
身体と自転車の質量合計が75㎏で、秒速10mの場合、3ニュートンの摩擦力を克服するための仕事率は29ワットが必要、空気抵抗15ニュートンを克服するためには150ワットの仕事率が必要なので、合計180W
自転車で坂道を上り下りする際の速度 ⇒ 10分の1の勾配を上るために必要な力は73.5ニュートンとなり、上り下りと平坦の3つの速度には単純な関係がある
上りの速度=平坦速度3/下り速度2 
⇒ 平坦速度が10m/秒なら、上りが2m/秒で下りが22m/
平坦速度10m/秒を維持できれば、坂道のルートを走るには2.5倍の時間がかかる

79.    精神的な勢い
テニスの勝負を確率的に考えると、1点を取る確率は0.5+u(同じ力量ならuはごく小さな値)だが、ゲームを取る確率は0.5+5u/2となって、僅かの差でも大きく左右。さらに3セットでは11uに拡大
精神的な因子を勘案 ⇒ 第1セットを取るオッズOは、セットを取る確率Sを、セットを失う確率で割ったもの O=S(1-S) (賭け金に対する配当を表す場合には、この逆数が用いられる)。セットをとった時に精神的な後押し(B)が得られ、次のセットを取るオッズがOBになったとする。セットを落としたときは次のセットを取るオッズはO/Bと小さくなる。さらに第2セットもとるとオッズはOB2と大きくなる。B1だとセットを取るたびに優位性が累増倍に増大
樹形図ではO0と誤記
セットカウント20で勝利する確率はB2倍ではなくB倍、20から30になる確率がB2
セットカウント21で勝つ確率もB倍ではなく1倍で、21の後に勝つ確率がB倍のはず

80.    ゴール、ゴール、ゴール
ゴールのあるオリンピック競技が4つ ⇒ 長方形の境界内の区域にボールを押し込むことを目的(「ゴール」とも言う)とする
ペナルティ・ゴールの難易度 ⇒ ゴールの面積をボールの断面積で割る(シュートの決まる範囲がボール何個分かわかる)とホッケーが最大で2000倍を超し、水球が最少で71倍、シュートする距離をゴールの面積の平方根で割った値をペナルティゴールの難易度とすると、4競技とも3以下になりかなり易しいのが目につく ⇒ やさしい順にホッケー(2.3)、サッカー(2.6)、ハンドボール(2.9)、水球(3.0)
ヨーロッパ大陸で誕生したハンドボールは、ゴールの寸法も2mx3m、シュートの距離も7mときりのいい値になっているが、そのほかの競技はイギリス発祥でヤード・フィートで表示されている(サッカーのゴールは幅8ヤード高さ8フィート)ため、メートルに換算すると半端な数字

81.    どっぷり浸かる
競泳の自由形では、選手の前進する動きに抵抗する抗力は、摩擦、圧力、波の3つによって引き起こされる ⇒ 速度が増すにつれ、圧力や波がきいて来る。秒速1.3mの場合波による抗力は約56%を占める
推進力の85%以上は腕と手で出すので、ランナーの1/4の速度しか出せない
水泳を科学的に研究することで、水の掻き方の効率向上が大きく作用して記録が大幅に更新されている ⇒ 64年との比較では男女とも56秒短縮、陸上400mの記録は同期間内に1.7()3.4()しか短縮されていない事実からも、水の掻き方を最適化する余地が大きかったことが分かる

82.    サッカー、イギリス代表チーム
この世の最大の謎の1つは、サッカーのイギリス代表がオリンピックに出場しようとしないこと、にもかかわらずベッカムがオリンピック招致の広告塔になっているのも不思議 ⇒ 1900年初めて種目が取り上げられた年は参加、3か国のみだったが優勝。1904年のセントルイスは渡航費用が掛かり過ぎるとして地元とカナダの2チームのみ出場。1908年のロンドンでは6チーム(うちフランスが2チーム)参加、イギリスが優勝。76年以降不参加が続いている ⇒ 連合王国を構成する本土4か国が個別にFIFAに加盟(そのためFIFAの加盟国は国連の加盟国数より多い、ルールを管理する国際サッカー評議会の8人のメンバーは4人がFIFAで残りは連合王国の本土4か国から1人づつ)74年にプロの参加も認められた時に出場を取りやめたが、オリンピックで代表チームが出るのであれば、プロチームでも代表チームに統一すべきと他のFIFA加盟国から圧力がかかるのを恐れた。統一されれば途端に国際大会に出られる回数が1/4に減ってしまい、ましてや今の時点ならイングランドの選手ばかりになってしまう。大昔から対立関係にある4か国間での統一チームという考え方はとても受け入れられない
2012年の開催国は予選免除、統一チーム結成へと首相もイギリスオリンピック委員会会長も後押し、FIFAもこれを先例としてイングランドサッカー協会に吸収されることはないと保証したが、イングランド以外の3か国は信用せず参加を拒否 ⇒ 最終的には統一チーム編成に合意

83.    名選手必ずしも…
いくつものレベルでクラブチームを運営しているときの昇進昇格の選考基準 ⇒ 「ピーターの法則」によれば、上位のレベルに上がると異なる能力が要求されるので、必ずしも技量の上の人を昇格させればいいというものではない ⇒ 昇進を重ねた挙句、最終的には無能力の程度が最大になる地位に辿り着く、ただし、組織内の様々なレベルで必要とされる能力には関連性がないという前提での話
能力の最低の人を昇進させるという方法が、組織の全体的な能力を最大にする

84.    ブレードランナー
南アの両足義足のピストリウスの夢は、オリンピックで健常者と競うこと
健常者は、足首の関節に蓄積されたエネルギーのうち次の動きの補助として還元されるのは4050%に対し、ピストリウスの場合は9095%であることが判明して、2008年には参加が認められなかった ⇒ 2008年は予選を通らなかったので問題は起きなかったが、その後スポーツ仲裁裁判所に提訴して、今後の参加が認められるようになった
その後新たな事実が判明 ⇒ 障碍者のほうが次の1歩に備えて足を踏み出すのにかかる時間が0.1秒短い。膝から下の質量が1/2しかないためで、100mの世界記録経験者5人より18%も速かった
ピストリウスの得意種目は400mで、記録は4501200m2104
健常者の場合、400m45秒台で走る選手の200mの記録は、20762101
義足はスタート後の加速が難しく、400mの場合は後半に大きく貢献していることが分かる ⇒ 健常者は後半に0.72.7秒遅くなるがピストリウスは1秒あまり速い

85.    ペアを作る
選手数が多い場合に、どの試合でも必ずそれまでに対戦していない相手と戦えるような組合せの作り方 ⇒ 14人いて7試合行う場合、7人づつを左右に並べる
2回目の組み合わせは、左を1つづつ下げて右上を左にずらす
順次それを続けて、全員が自分以外のすべての選手と対戦するまで繰り返す。この方法であれば、選手の人数が何人でも使える。ダンスのパートナーを決めるのもこれでできる
H   A         A   B         B   C
I    B         H   C         A   D
J    C         I    D         H   E
K   D ⇒    J    E ⇒    I    F
L   E         K   F          J    G
M   F          L   G         K   N
N   G         M   N         L   M
(8試合目で同じ組み合わせになる)

86.    ダフ屋

87.    スカイダイビング
体重による落下速度と空気抵抗の関係は、速度が増せば、その二乗に比例して抵抗が増すので、2つの力が拮抗したところでダイバーに架かる正味の力はゼロとなり、あとは一定の速度で落下するだけ ⇒ 終末/終端速度terminal verocityと呼ばれ、60㎏のダイバーで手足を水平に広げた上体なら秒速50m、真っ直ぐ下を向いた状態なら80mを超える。その速度はダイバーの落下方向と垂直に切った断面積に比例する ⇒ 断面積を変えることにより落下スピードをコントロールできるので、別々の高度から飛び出したダイバーが空中の同じ場所に集まることもできる

88.    高地を走る
1968年のメキシコオリンピックで初めて「高度」と言う言葉が運動選手の語彙に加えられた ⇒ メキシコシティは高度2240m、ランナーの酸素の摂取量が1015%減少
800m以上の種目はきつく、全ての長距離種目は高地に住む選手(主にアフリカ人)が優勝 ⇒ タイムは平地に比べて劣る
逆に短距離や幅跳びは空気抵抗が少ない分有利に働き、ほぼすべての種目で世界記録誕生
高地による抗力の影響は、記録を0.08%短縮できるが、それ以上の好記録が生まれているのは、追い風によるもの ⇒ 追い風2mなら100m走で0.11秒短縮可能。実際各種目で規定一杯に近い追い風が吹いていた
メキシコ大会の残した最大のものは、長距離走への高地の効果 ⇒ 今後高地でオリンピックが開催されることはないだろう。1000m超の高地では世界記録が認められない
この大会以後、長距離走での高地訓練が導入された ⇒ 効果は一時的なので、どのタイミングで平地に戻るのか慎重な調節が必要
初めて精度1/100秒の全自動電気計測器が採用されたり、薬物検査を導入したり、陸上が全天候型の人工トラックで実施されたり、革命的な大会

89.    アーチェリーのパラドックス
的を真っ直ぐに狙っても、弓が邪魔になるので、矢は当たらない、右利きの場合、矢は的の左にずれるが、これをアーチェリーのパラドックスという
矢が射手の指を離れると、突然弓に押し付ける力を受ける。この接触と、指を弓弦から話す動作によって、矢が曲がり、振動しながら高速で前方に飛ぶ。矢が弓の軸と当たる衝撃を無くすことは出来ず、矢がゆれる振動数は矢の質量の分布と矢の硬さ(スパイン)に依って決まる ⇒ 硬ければ矢がしならず、弓を通過するときに左に押し出され、柔らかいと矢が曲がり過ぎて右に逸れる。その中間でちょうど良いスパインに会うと矢の振動によって弓が作り出した偏りが相殺されて、その後は弓に巻きつくように進み、振動が1往復すると矢は狙った的へと真っ直ぐ飛ぶ ⇒ 射手の腕の見せ所は、放たれた矢の振動によって最初に生じる偏りがちょうど相殺されるように、矢の硬さと重さ、弓の構え、指の離し方の適切な組み合わせを決定するところにある。すべて練習と感覚による

90.    ベッカムみたいに曲げる
ボールに過度の回転をかけて蹴ると、ボールの周囲の空気の流れを利用して曲げたり落としたりすることが出来る
10年のワールドカップ南ア大会では通常より軽いボールが導入され、選手がボールを曲げる技術を習得しないままに終わり、フリーキックやロングシュートで得点に結びつくものが少なかった

91.    ストップゴー作戦
ダッシュと停止を何度も繰り返す場合、ランナーの運動エネルギーは生理学的なブレーキ機構として働いている筋肉や腱や脚を伸ばしたり熱したりするために使われて消えていく
それ以外の時は空気抵抗を克服するために仕事をしている
体重の重い選手は、停止するときにエネルギーの損失が多くなる
長距離走者の場合、質量を65㎏とすると、111m走った場合に、空気抵抗を克服するエネルギーと停止によって失われるエネルギーが拮抗する ⇒ 長い距離をゆっくり走るより、短い距離で停止と始動を繰り返す方がよりエネルギーの消費を促すので、トレーニング効果が上がるだろう

92.    ダイビングに行きたい
スキューバダイビングには「気体法則」の理解が必須
   ボイルの法則 ⇒ 密閉された気体の圧力は、その容器に反比例する ⇒ 水深10mごとに1気圧増すので、潜る時には体内の空気が圧縮されて体積が小さくなるため、耳の中にも空気を余計に入れておく必要があり、浮上するときには体内の空気が膨張するので、それに合わせて息を吐かないと、肺を損傷したり破裂まで起こりかねない
   ヘンリーの法則 ⇒ 液体に溶けている気体の質量はその気体の圧力に比例する ⇒ 潜るときは体内の血流や組織内に吸収される気体が多くなるため、空気タンクの窒素が大量に体に吸収されるので、浮上する際は窒素の保持量を安全な範囲に抑えておく必要がある
   ドルトンの法則 ⇒ 混合気体の比率は、全体の圧力が変化しても変わらない ⇒ 酸素と窒素の混合気体は圧力の変化に別々の反応をしない
浮上するときの方が遥かに危険 ⇒ 余分な窒素や酸素が血液中に溶解していると、毎分10mより速いスピードで浮上すると、圧力が低下して動脈の中に小さな泡が出来、関節が痛んだり命に関わる塞栓症が起こる場合もある ⇒ 減圧室に収容して調整する

93.    ばねの気配
飛び板飛び込みにおける「共振」の活用 ⇒ 「固有振動数」(ブランコに一定の力を加えた後、自然に止まるまでの振動数のこと)と同じリズムで力を加え、力を入れる間隔を固有振動数で揺れる間隔と一緒にすれば、エネルギーが効率よく揺れる物体の動きに移される
飛び板の支点をローラーの移動により0.75mの範囲で調節出来る ⇒ 板の上で3ステップ踏み、最初が視点から約1m3ステップ目で上空に飛び出す。体重65㎏の選手の場合、固有振動数は毎秒3.6回となり、選手はこの振動数に合せて板から飛び上がるようにすると、最も大きな「共振性」をもつ上方への推進力が得られる ⇒ 踏み切りの際、板の共振振動数に一致すると板がぴょーんと気持ちよく鳴るが、正しい振動数を捉え損なうと振動でガタガタいう音が聞こえる

94.    コイントス
コイントスは、スポーツの試合であらゆる問題を解決する
ある意味では、真にランダムとは言えない ⇒ 最初に表が向いているというはっきりした出発点があるし、投げ上げる速さを速くして空中で長い距離を移動するようにさせれば裏が出る確率が高まるし、スピンも関係してくる
公平にトスするためには、コインの最初の状態をどう設定するかが重要で、コインの面を見えないように隠せばより公平になる
2002年ベルギーのユーロコインで、表か裏に重量が偏っていることが問題になったが、空中では常に質量の中心を通る軸を中心に回転するので影響はない

95.    どの競技をオリンピックに入れるか
現在26の競技 ⇒ 16年にゴルフが、20年にラグビーが追加され最大限28競技になる
選択の基準は7点 ⇒ 歴史、普及性、人気、イメージ、選手の健康への影響、国際連盟の整備、費用
その競技の世界で、オリンピックで勝つことが選手のキャリアの頂点になるかどうかは、必要条件であるはず ⇒ テニス、ゴルフ、サッカー、バスケット、野球等はオリンピックよりも重視されるタイトルがある。年齢制限があるのもサッカーだけ

96.    猫のパラドックス
ダイビングやトランポリンの演技は、まるで力学法則を無視しているように見える
物体の回転を計る尺度に角運動量と呼ばれるものがあるが、これは運動の過程の中で必ず一定に保たれる。そして全体として差引して残る正味の回転を自然発生的に生み出すことはできない
ところが、一流選手は捻りを加えたり、その間も身体を真っ直ぐに伸ばしたままにしているのはなぜか ⇒ 高い所から落ちる猫の動きに酷似。ただ、猫には特殊な骨の構造と上下を区別する反射運動という人間にはない2つの特徴がある
両手と胴体を別に動かすことで回転しながら捻りが加えられる
角運動量angular momentumとは、運動量モーメントを表す力学の概念
角運動量は、空間の等方性(回転対称性)に対応する保存量である。 空間の一様性(併進対称性)に対応する保存量である運動量、時間の一様性に対応する保存量であるエネルギーとともに、基本的な物理量である。それぞれ「角運動量保存の法則」、「運動量保存の法則」、「エネルギー保存の法則」に関連づけられる

97.    最も軽やかに空中を飛ぶ物
スポーツで使われるボールやシャトルは、大きさ、重さ等様々な工夫が凝らされている
質量や速度によって異なる空気力学的な特性によって決まる抗力と、ボールの材質からくる流れの乱れからくる力の比率を「レイノルズ数」と言い、ボールやシャトルの違いにかかわらず近似値を示す(シャトルの0.2105からサッカーの5.5105) ⇒ どの球技でも、ボールの微妙な動きが選手と観客の双方にとって面白くしている特徴の1つとなっている

98.    お暑いのがお好き
今回の自転車競技では、レース場の傾斜が滑らかに変化するよう最適化の工夫がなされるとともに、トラックを囲む雰囲気の良い観客席を設けた ⇒ イギリスが近年この競技に強くなっていることで特別な配慮をしたが、さらに気温も調整 ⇒ トラックの付近では人工的に2025℃以上と、観客席の温度より高めに維持される予定
空気抵抗は密度に比例し、密度は温度で決まり、温度の上昇とともに密度は低下。抗力は自転車の速さの二乗に比例して増加、気温の上昇に伴う抗力の減少によって、4㎞レースのタイムは約1.5秒短縮される ⇒ 世界記録が出ても、メキシコオリンピックの陸上のように、トラックの気温を付記した記録になるのではないか

99.    スーパーボールの跳ね方
1965年化学者が発明した「スーパーボール」(特許名「高弾力性ポリブタジエンボール」)は反発係数が非常に高く、高いところから落とすだけで落ちた高さの90%まで跳ね上がってくる ⇒ 60年代後半、このボールの動きを見て、アメリカン・フットボールの創設者ラマー・ハントが優勝決定戦を「スーパーボウル」と名付けた
表面の粗いスーパーボールは、面と接触した時にスリップせず、跳ね返るたびに運動エネルギーが熱と音による僅かな損失を除いて保存されるため、最初は前方に投げ出しても、跳ね返った時に運動の向きが反転し、自分の方に戻ってくることもあり得る
回転するボールの運動エネルギーはボールの質量中心の運動エネルギーと、質量中心を軸とした回転エネルギーの2つの成分で成り立っている。跳ね返るたびに角運動量も保存される。この2つのことから運動が予測可能に。
ニュートン的運動の根本原理に従うので、時間的に可逆でなくてはならない ⇒ 時間を逆にした運動の状態は、同じ軌跡を描くので、運動の方向が逆転され、元に戻ってくる

100. 箱の中身を考える
3つの箱(モンティ・ホール)」の問題 ⇒ 3つの箱のいずれかに賞金が入っている。ブラインドで1つ選んだあとで、残る2つのうちの1つを開けると空だったとして、再度選択権が与えられた場合は、選択を変える方が当たる確率は高くなる ⇒ 最初の選択で当たる確率は1/3、残った2つの箱のいずれかが当たる確率は2/3なので、その1つが空となれば残る1つの当たる確率が2/3となるため、選択を変えれば当たる確率が2倍になる
2つの箱の一方に賞金が倍額入っている(額は不明)として、最初の箱を開けた後、選択を変えられる場合の高額の方を引き当てる確率は ⇒ 最初に開けた箱に入っている賞金額をVとすると、もう1つの箱の賞金額への期待値は (1/2xV)+(1/21/2)=1-1/4Vとなり、選択を変えると平均すれば常に得をする。ということはもともと選択した箱を開ける必要もないし、また選択を変えれた後にも同じ論理が成り立つので、また変えるべきということになる ⇒ 逆説 (単に期待値が上がるというだけのこと?)


訳者あとがき
原題を訳せば、「スポーツについて知らないことも知らなかった100の大事なこと」
フェルミ推定ほどには大雑把ではないが、べき乗則と次元解析といった概算で、かなり実際のデータに合う数学的関係が導けたりするのは興味深い
Ø  フェルミ推定 ⇒ 目標となる数を、正式のデータや細かい法則を参照することなく、ごく一般的な推定と算数で概算すること
Ø  べき乗則 ⇒ AはBの○○乗に比例するという関係
Ø  次元解析 ⇒ 考察の対象となる量の単位が、長さ、質量、時間の単位とどう組み合わせて出来ているかを元に、それが導けるような因子の組み合わせを推定する


日本経済新聞社 2012.7.29. 書評
物理学や統計学を駆使して、様々なスポーツに纏わる意外な事実を紹介する。
円盤投げでは向かい風のほうが揚力につながるため記録が出やすい。
幼少期の成長の差が後々まで影響するらしく、一流スポーツ選手には年度の初めのころに生まれた者が多い。
科学的な研究が進んだ水泳では、ここ50年ほどの間に100m自由形の世界記録が56秒も短縮された。
新たな視点からスポーツを見るのに役立ちそうだ。









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