旅のいろいろ 谷崎潤一郎 2012.6.30.
2012.6.30. 旅のいろいろ
著者 谷崎潤一郎
発行日 2001.12.25. 印刷 1.10. 発行
発行所 中央公論新社(中公クラシックス) 中央公論社刊『谷崎一郎全集』第20巻(1982.12.)、第21巻(1983.1.)、第22巻(1983.6.)からの転載
二流三流の場所を漁って歩く方が、遥かに旅行や遊覧の目的に添う
汽車に乗って毎々不愉快を感じるのは、お客の公徳心の欠乏。大阪人はこの点において東京人よりも慥(たしか)にだらしがない。外の人には分からないでも大阪人同士だとすぐに分かる。お花見時の大軌電車や京阪電車で見かけるような乱暴狼藉を、他国へ来てまで平気でやっているのを見ると、大阪人の欠点が露骨に眼に立って、同郷人でありながら、つくづく愛憎がつきる。われわれの公徳心の欠乏は、遠く封建時代の生活様式に胚胎していて由来するところが久しくもあり、我が国の淳風美俗と結び着いている一面もあるから、大いに斟酌して然るべき事情もあるし、かたがた完全に矯正することは容易ではなかろう
少なくとも教養のあるべき人士が一般大衆と同じ無作法を演ずるとしたら、人に与える不愉快さは同日の談ではない
若い時分にはホテルもいいが、年をとるといろいろな点で日本宿屋がなつかしくなる。いろいろな不自由に堪える覚悟が必要。料理なども、二の膳つきで、様々な色どりは並ぶけれども、味はまずいのが普通で、上方語のいわゆる「もみない(味のないこと)」ものと思わなければならない
日本宿屋に泊って味気なく思うことの1つは、座敷の出入りに女中が襖を開け放しにする。汽車のドーアの場合と同じく、日本人の悪い癖
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