サムライと愚か者 暗闘 オリンパス事件  山口義正  2012.6.28.


2012.6.28. サムライと愚か者 暗闘 オリンパス事件

著者 山口義正 1967年愛知県生まれ。法政大法卒。日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト。日本経済新聞証券部記者などを経て、現在は経済ジャーナリスト。月刊誌「FACTA20118月号で初めてオリンパスがひた隠しにしてきた不透明な買収案件を暴いて大きな反響を呼び、第18回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の「大賞」受賞。その記事は、解任された元社長ウッドフォードがオリンパスを告発する引き金となる

発行日           2012.3.28. 第1刷発行
発行所           講談社

1919年創業。当初は体温計や顕微鏡のメーカー。36年に初めてカメラの製造を手掛け、49年東大から「患者の胃の中を写せるカメラ」との要望がきっかけとなって内視鏡分野に進出。ICレコーダーでも世界市場を席巻、ハイテク部品の検査機器でも定評
2008/3期決算 暖簾代が787億円から2,998億円へと急増
         ジャイラス(英国医療機器メーカー)TOBで買収 ⇒ 2,117億円
         2010/3期には599億円の追加出資
他に未公表だが、海外投資ファンド経由で下記3社を734億円で買収し、翌年には買収額の大部分が損失処理されている
   アルティス ⇒ 医療廃棄物処理
   News Chef ⇒ 電子レンジ用プラスチック容器製造
   ヒューマラボ ⇒ 健康食品の通信販売
同一住所、本業に無関係、債務超過、実質的な業務スタート(①②は休眠だったもの)2005年と共通
①②はグローバル・カンパニーという経営コンサルティングの会社が保有、その社長横尾宣政は元野村証券で、オリンパスの上場子会社ITX社長の実弟
2008/2 3社の株買い増しにより経営権取得 ⇒ 売却したのはジェイ・ブリッジ(旧日本橋倉庫、2010年にはアジア・アライアンス・ホールディングスに社名変更)傘下のファンド
2009/5 決算役員会で、その他事業部門が700億の売上に対し80億の営業赤字に転落したことの説明がつかないと指摘されたが、詳細の説明ないまま承認を取る ⇒ 1,104億円の特別損失計上
ジャイラスが、買収前に行った企業買収により500億円余りの暖簾代を計上しており、それは暖簾代ではなく「その他」に計上されていた ⇒ 一括償却すべきと指摘されていた
ジャイラス買収の際の手数料250億円というのも法外 ⇒ 内155億円は暖簾代に計上
ITX ⇒ 日商岩井の子会社だったものを、同社の経営危機にあたって、新規事業の立ち上げを模索していたオリンパスに売却されたもの ⇒ 当初700億の投資に対し500億の損失を出し、それを飲み込むかのようにTOBで完全子会社化した
2011/4 ウッドフォード社長就任 ⇒ 執行役員から抜擢。買収された会社キーメッドの生え抜き社長で、オリンパス在籍30年、交通安全の分野での社会貢献活動によりナイトの称号を持つ、直情径行型
2011/6 関連資料を発行部数2万部の月刊誌「FACTA」に持ち込み

投資事業の失敗 
2000年に新規事業の強化を目指して3,000億円の基金を設け、ITやバイオのベンチャー投資を開始 ⇒ グローバル・カンパニーが絡んでおり、ITX株取得も2000年で、グローバル・カンパニー傘下のファンド経由だった
2011/7 暴露記事を載せた「FACTA8月号発売 ⇒ 株価には響かず、2,685
証券アナリストやトレーダーの中には、不透明なM&A処理に疑念を抱く人もいたが、買い推奨は変わらず
オリンパス社内でウッドフォードに「FACTA」の記事を知らせるメールが届く ⇒ ウッドフォードが菊川会長と森常務に説明を求めるが、心配はいらないと一蹴される
「解体屋」 ⇒ アングラの金融業者と結託して経営が悪化した上場会社に出資し、株価を上げるための虚偽の発表をさせて吊り上げた後、ばらばらにして売り捌く
FACTA」の記事に対して、オリンパスの内部告発があり、3社の出資者にジェイ・ブリッジが絡んでいることが判明 ⇒ 「FACTA10月号で暴露第2弾を掲載。ウッドフォードが再度質問状を森に送り、取締役、監査役、監査法人にも回付。菊川はCEOをウッドフォードに禅譲するが、さらに会長退任を迫られ、逆襲に出て、臨時取締役会でウッドフォードを解任(全会一致となっているが、社外取締役の来間紘は欠席?) ⇒ ウッドフォードがフィナンシャル・タイムスの記者に状況を話しスクープになり、海外で急展開。ウッドフォードはイギリスで重大不正捜査局(SFO)に通報、一気に「不正疑惑事件」へと昇格
講談社のビジネスニュースサイト「現代ビジネス」が取り上げ、株価が下がり始める ⇒ 11月には424
ウッドフォードが提供した資料によれば、3社の買収のデューディリジェンスは取締役会決議の後、しかも個人の会計事務所による査定だった
公益通報者保護法(06.4.施行) ⇒ 社内、監督官庁、マスメディアという順序を踏まなければならない上に、社内は菊川が握っていたので頼りにならない ⇒ 取引先社員の引き抜きを内部告発したオリンパス社員が左遷されたケースでは、11.8. 会社が逆転敗訴したものの社員の被った被害は大きく、回復はほとんど不可能 ⇒ 密告制度を嫌った経団連の圧力で骨抜きにされたが、会社に自浄能力がなければ、保護法の改正は企業の規律を高める有力な方法だろう
10月には、ニューヨークタイムズ紙電子版が、「FBIが捜査を本格化させる」と報道
買収の仲立ちをしたファイナンシャル・アドバイザー2社 ⇒ 野村OBが設立、傘下の証券会社と併せて手数料658億円をせしめている
10.26.菊川が突然の退任、監査法人も第2四半期決算の適正意見を出せず決算発表で行き詰まる ⇒ 社内に第3者委員会(元東京高検検事長の甲斐中弁護士が委員長)設置するも、会社側に都合のいい人選では期待薄
会社は、過去の有価証券投資での損失隠しを認める
オリンパスは、新規事業立ち上げのため、野村から独立してグローバル・カンパニーという投資顧問を始めた横尾に300億の資金を預け、ベンチャーへの投資を始める
ジェイ・ブリッジの桝沢は、解体屋、マネーロンダリングで名をあげ、3社の買収案件では横尾と手を組んで資金の迂回路を提供
オリンパスの社外取締役・林純一 ⇒ もと野村証券事業法人部のオリンパス担当で、パリバ証券債券部長に転じた林が、1999年大手スーパーのマイカルが自社店舗を証券化した日本で最初期の商業不動産担保証券(CMBS)の優先出資証券30億円をオリンパスに買わせたが、賃借者マイカルが01年に破綻し回収が危ぶまれた。買収したイオンとの間でCMBSの債権性が争われ、最終的に投資は回収されたが、当時すでに10億円ほど利益を生んでいたにもかかわらず、林らが画策してオリンパスには元本のみ返還し、利益を着服
12月 ウッドフォードが取締役退任と委任状争奪戦開始宣言
3者委員会調査結果公表 ⇒ 意外にも詳細な報告で、バブル崩壊後に拡大し始めた損失が、雪だるま式に膨らんだことを報告。2000年に960億、03年には1,177億円の損失を分離。金融資産の時価評価主義導入時点で、巨額の含み損を連結対象外の海外投資ファンドに飛ばす。投資ファンドには海外の借り入れを充て、その期日にはジャイラス買収等の手数料名目で捻出した資金を充当して返済。同時に国内3社を高額で買い取り、暖簾代として計上した実際の価値との差額を海外ファンドに流し、暖簾代は通常の償却ルールに従って処理すれば含み損は表に出ない ⇒ 最終的に投じられた資金は1,348億円
厳しい内容ではあったが、組織的な不祥事ではないと結論、東証の上場判断でもそのまま踏襲、監査法人の責任は追及せず
会社側も事実を認める ⇒ 取締役責任調査委員会の報告によれば、「07.4.以降に実施された剰余金の配当に関し、取締役が支払い義務を負う金額は38,795,141,452円」と認定
東京地検、警視庁捜査2課、証券取引等監視委員会の合同家宅捜索開始 ⇒ 有価証券報告書の虚偽記載による金融商品取引法違反容疑 ⇒ 経営トップ3人が逮捕されたが、会社は上場契約違約金を払い、特設注意市場銘柄に指定するだけで上場維持
ウッドフォードは、大株主の賛成が得られないまま委任状争奪戦を断念
ジャイラス買収の際の隠れ暖簾代は未解決のままであり、連結ベースで債務超過の可能性もあり、会社存続という最終判断に、好感噂されているような政治サイドや中央官庁の意向が働いているとすれば、日本の経済社会が総ぐるみで過ちを隠した「官製粉飾決算」といえる


解任 []マイケル・ウッドフォード/サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件 []山口義正
[評者]原真人(本社編集委員)  [掲載]20120422   [ジャンル]社会 

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企業の闇に迫る、内外からの闘い
 昨秋、内視鏡シェア世界一の国際的優良企業、オリンパスで組織的な巨額粉飾事件が表面化する。しかもその発端は、国際企業の証しと評価されてきた英国人社長の突然の解任劇だった。そしてこの2月、元会長はじめ粉飾事件にかかわった関係者7人が逮捕され、事件は一応の決着を見る。
 2冊は事件の「主役」2人の回顧録である。1人は電撃解任された元社長ウッドフォード。もう1人はこの疑惑をスクープしたジャーナリスト山口義正だ。どちらが欠けても、おそらく元会長逮捕という顛末(てんまつ)に行き着かなかった。
 山口はオリンパス社員である友人からのリークを端緒に単独で疑惑取材に乗り出し、ついに昨夏、月刊誌で疑惑を世に問う。ウッドフォードはその記事を読み、社長である自分でさえ知らされていない会社の闇があることに気づく。
 そこから2人の苦闘のドラマが始まる。山口があげた疑惑追及の火の手は大手メディアに広がらない。ウッドフォードは会長ら日本人経営陣に説明を求めるが相手にされず、揚げ句の果てに取締役会から解任される。
 二つの回顧録は図らずも一対のプロットのようだ。別々の視点から同時進行で描いたミステリー小説のようなのだ。主役2人がもがき苦しみながらも、オリンパスという迷宮の秘密を内と外から次第に暴いていく物語である。
 2人は自ら見聞きした事実を可能な限り時系列を追って、正確に克明に描いている。ときに感情を抑えきれなかったり、想像をたくましくしたりした部分もあるが、全体として努めて抑制的だ。それがかえって真実を伝えたいという情念となって迫る。
 意外なのは、お互いが心の支えとしあった2人の対面は、事件の渦中では記者会見後の控室でわずか20分間、それもたった一度きりだったことだ。
 闇を仕切る実力会長はなぜ露見や反逆のリスクを冒してまで外国人社長を抜擢(ばってき)したのか。そこが不思議だったが『解任』で疑問が解けた。隠れ損失を秘密裏に解消するには、早く財務を改善したい。それには稼げる優秀な外国人社長を「雇う」必要があったのだ。
 巻末で2人が投げかける言葉はよく似ている。事件は本当に終わったのか、という問いだ。日本全体に同じ問題が起きていないか。銀行や監査法人に責任はなかったか。反社会的勢力の闇はもっと深くないのか、と。
 マスコミ批判も共通している。2人が危険を冒し、事件と格闘している当初、マスコミが長く沈黙したことが、いかに彼らをしょげさせたか。それは新聞人の一人として、きわめて重く、適切な指摘だと受け止めざるをえない。
    
 『解任』早川書房・1680円、『サムライと愚か者』講談社・1470円/Michael Woodford 60年生まれ。オリンパス元最高経営責任者、やまぐち・よしまさ 67年生まれ。本報道で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の大賞を受賞。

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