生き抜くための数学入門  新井紀子  2019.7.1.


2019.7.1. 生き抜くための数学入門

著者 新井紀子 1962年東京生まれ。一橋大法卒。イリノイ大数学科博士課程終了。理学博士。現在、国立情報学研究所および東工大教授。専門は数理論理学及び情報科学。情報共有基盤システムNet Commons(国立情報学研究所が開発したコンテンツ管理システム)の作者
東大合格を目指すロボットを開発するが偏差値57.1まで行って断念(櫛部情報)
19.7.7.サンデープロジェクト出演。小池百合子似
19.7.7.付け朝日新聞『シンギュラリティにっぽん』 ⇒ 子どもたちが文章や図表の意味をどれだけ早く正確に理解できるかを診断する「リーディングスキルテスト」を作り、教師たちと一緒に授業のあり方を考える活動を始めた


発行日           2007.2.5. 初版第1刷発行            2008.1.31. 初版第4刷発行
発行所           理論社

授業のまえに そもそも、それってなーに?
数学ギライの数学者
円周率とは、円周の長さが直径の長さの何倍になっているかを表す数/円周と直径の比の値
定義を指す「○○とは」は、人類が獲得した最も大切な知恵
暴力は避けたい。だけど、自分の主張も通したい。自分の大切なものは、ちゃんと自分で守りたい。そういう人に必要なのは、「とは」と「なぜ」の力
本書の目標は、「とは」力と「なぜ」力をつけること

1回目の授業        かけ算を宇宙人に教えよう
個数や長さでは0という数は「何もない」状態を示すが、負がある量では0は基準を表す

2回目の授業        数学的な構えをチェック
式は、「それはそもそも何か」という定義、「答えをどうやって出すか」という計算、「どんなことに使えるか、どんな意味があるか」という解釈の3つの要素からできている
数学で扱う概念の多くは、実際に存在するものではないが、論理的に考える訓練を受けてきた人であれば、文化や年齢にはよらずに、ほぼ同じイメージに到達することができる。論理だけで「だから」「どうして」「どうなる」というのを考え続けることができ、みんなで共有することができるというのが数学の最大の特徴
見えない抽象的なものを見る方法は、禅や詩などいろいろな方法があるが、見えないものを見て、それを誤解なくどの文化に属する人とも共有する、ということになると、それは論理であり数学なのだろうと思う
見えないもの、たとえば、権利やリスクや未来について、「だから」「どうして」「どうなる」を考えることが出来なければ、この社会で幸せになれる確率は相当に低い。それは現代社会が、情報量と選択肢の多い民主主義社会だから ⇒ 目に見えない概念について「だから」「どうして」「どうなる」を論理的に考え、比較検討できる個人を前提とした社会であり、その能力を身につけておかないとどんどん不幸になる。見えないものについて「だから」「どうして」「どうなる」を論理的に考え、そこにリアルを感じるための別の目を獲得する、その訓練をする時間が数学の時間
「なぜ」と自分自身にたずね、「それは…だから」と論理的に順序良く考えて結論を出すことが習慣になっているようなら、数学的な構えが出来ているということ

3回目の授業        俳句の可能性は無限大か?
無限とは、その物事の数量・程度などについて、限度があると認めることができない様子(こと)

4回目の授業        億万長者になる方法
可能性と確率は違う ⇒ 可能性はあるが、確率0というケースもある
数学では、「さらに」「その上」(and)はかけ算、「または」「~か、・・・・」(or)は、内容に重複がない限り、たし算になる。「~ではない」(not)はひき算で表現される
宝くじを100万回買った時、1度は2億円のくじを引き当てる確率は10%、1000万回だと64%まで上がるが、同じ1000万回買うのであれば、1000万本に12億円の入った年末ジャンボを買う方が100%当たるので効率がいいが、前後賞を含めても回収率は50%以下で、必ず当たる一方で必ず損をする仕組みになっている

5回目の授業        国語と数学のふかい関係
論理的な文章を読み解く力が、数学の力にも深く関係

6回目の授業        数直線は変な線(前編)
数直線を2つに切ると、片方にしか端がない ⇒ 数直線上には、数が無限に隙間なく並んでいる。異なる2つの数a,bの間にはa>bb>aかのいずれかだけが成り立つ
無限というのは論理の世界の話であり、論理的には0.9999・・・・=1というのが結論(なぜなら、1/3x3=1だから)

7回目の授業        数直線は変な線(後編)
数直線上の数は、かならず少数で表すことができる。その一部は分数で表すことができる。分数で表せない数を無理数

8回目の授業        四角形って何だっけ
トポロジー(位相)とは、図形の違いに注目して分類をしたり、その性質を研究したりする数学の分野
四角形とは、4本の線によって囲まれており、内部のどの2点を結んだ線分もその内部に含まれるような図形 ⇒ 凸である四角形の定義

9回目の授業        ゲームを定義する
ある目的をもって一連の作業をするときの手順を明確に表現したものをアルゴリズムといい、出てくる用語の定義と作業の手順の2つの部分からなる
アルゴリズムの形で習ったものを、他の人にアルゴリズムとして伝えるのはまだ易しいが、見よう見まねだけで覚えたことをアルゴリズムで伝えるのは、論理的な思考が必要

10回目の授業    かけ算の筆算はなぜ正しい?
かけ算する前に、大体いくつになるか見積もる習慣が大切

11回目の授業    累乗のこわさとおもしろさ
先祖の数を計算すると、総人口より多くなる

12回目の授業    あんなグラフ、こんなグラフ、どんなグラフ?
グラフとは、「関係」を対で表したもので、表は有限の「対」を表すのに使うグラフの一形態
データから関係を読み取る方法を開発することをデータマイニングという

13回目の授業    計算できない関数

14回目の授業    みんなだいっきらいな三角関数(前編)
三角関数とは、半径1cmの円周上の出発点からアリがd cm進んだ時、どこにいるかを表す関数 ⇒ 横軸のx座標をcos dと書いてコサインdと呼び、縦軸のy座標をsin dと書いてサインdと呼ぶ。円の中心を座標軸x,yの交点としたときのアリの位置を(cos d, sin d)と表示する

15回目の授業    みんなだいっきらいな三角関数(後編)
17世紀のイングランドの数学家テイラーが、関数をたし算・かけ算だけの数式に直して近似値を求めるやり方を考える ⇒ テイラー展開

16回目の授業    博士の愛した数式に「挑戦」
オイラーの等式 eπi+1=0 (eは自然対数、iは虚数)
数学の中で最も重要な5つの数が収まった式

17回目の授業    数学があきらかにするもの
整数÷自然数の答えが有理数 ⇒ m(整数)/n(自然数)
20世紀の半ば頃から、数理論理学(ロジック)の分野では、どれくらい複雑な論理が現実の数学で使われているか分析してきたが、現在までに使われている論理は、限界の遥か下の部分に留まっているということがわかってきた
                                       
谷川俊太郎からの4つの質問に対する答え
1.    何が一番大切か ⇒ フェアプレー。社会がフェアであること。楽しく仕事を続けること
2.    誰が一番好きか ⇒ 答えるのに一番苦労した問い。〇○さんですと言っても通じないし、○○さんは誰かと聞かれたら、それは私の一番好きな人です、としか答えようがない
3.    何が一番いやか ⇒ いやだと思うことを、「いやだ!」と言えなくなること
4.    死んだらどこに行くか ⇒ 何も思いつかない


春秋
2019/6/21付 日本経済新聞
サイン、コサイン、タンジェント。振り返れば、あれが高校数学のつまずきの石だった。サインは「咲いた」。コサインは「コスモス」。咲いたコスモス、コスモス咲いた――。三角関数の意味も理解せず、テストの直前に語呂合わせの公式の暗記に走ったものである。
何の役にたつのか。と嘆き、教科書を放り出そうとしている皆さん。挫折した身で偉そうなことは言えないが、ぜひ学んでほしい。社会の広い領域で必要な知識なのだから。歴史をひもとけば、江戸幕府は黒船来航による沿岸警備のため、外来の三角関数表を幕臣に筆写させたという。船までの距離を測り砲撃するためだ。
国防を担う組織の失態である。地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の秋田市への配備をめぐり防衛省が作成した調査報告書だ。別の候補地から山までの距離と、山の高さから角度を導く三角関数の計算を間違えた。実際は4度の仰角を15度と算出。レーダーの障害になるとして「不適」と結論づけた。
計算の前提となる地図の縮尺を間違えたことが原因だった。でも待てよ。仰角が15度なら山の高さは? 高校の教科書に類似例題が載っていた。解けそうだ。新井紀子さんの著書「生き抜くための数学入門」は大切なものを守り、平和に暮らすためにこそ数学は必要と説く。怪しげな統計もはびこるご時世だ。勉強しよう。


20195161630分 朝日 「Around Tokyo
 AIを考える@中央区
 「AIがもたらす人間と社会の未来」と題し、新井紀子・国立情報学研究所教授=写真=が6月10日午後3時半~5時(開場は3時)、東京都中央区時事通信ホール(定員約300人)で講演する。新井教授は数理論理学が専門で、2011年から人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」のプロジェクトディレクターを務める。著書に「生き抜くための数学入門」「数学は言葉」など。入場無料、申し込み不要。


(フロントランナー)新井紀子さんプロフィル
20147260330分 朝日
1962年、東京生まれ。父は航空機設計のエンジニア、母は主婦だが「娘には自立してほしいと思っていたようです」。弟が1人。近所の玉川上水でカブトムシをとるなど自然に親しんだ。「協調性がないから一人遊びが多かったかも」
自転車で通えることがポイントで一橋大法学部に入学。数学を学ぶため在籍のまま米国留学。留学中に結婚し、90年に帰国。一橋大に復学し、長女を出産後に卒業した。94年に広島市立大助手、2001年に国立情報学研究所助教授に着任。06年に教授、08年から社会共有知研究センター長。
夫の敏康さんも数学者。都内の自宅の壁にはホワイトボードがあり、数学の問題などについて式を書きながら議論することもある。休日は午前中に夫婦で気功の教室へ行き、午後は料理などをして過ごす。
研究室にはカエルのオブジェやマスコットが並ぶ。自覚していなかった「カエル好き」に気づいた夫が出張先などで買ってきてくれる。
著書に『ハッピーになれる算数』『生き抜くための数学入門』など。『ロボットは東大に入れるか』(イースト・プレス)が8月刊行の予定。


2019.7.5. 櫛部先輩からのメール
新井紀子氏は、小生がAIを勉強する中で知りました。彼女を知ったきっかけは、彼女が東大合格を目指すAIロボット「東ロボくん」開発の中心人物だった時です。
その時は、彼女を応援する気持が強かったのですが、「東ロボくん」の偏差値が57.1までしかならず、問題文が理解出来ない点が決定的な問題として「東ロボくん」開発を止めてしまったので、現在はむしろ彼女に批判的な立場です。
と言うのは、AIプロジェクトの成否はすべからくビッグデータを如何に収集するかによるわけで、彼女は、折角「東ロボくん」で集めたビッグデータを、その後の研究に活用していないためです。「東ロボくん」は、日本では数少ないビッグデータ収集プロジェクトでしたので、そのプロジェクトは止めずに、別の形でも良いから生かして欲しかった、との思いです。
彼女の著書「AI vs 教科書を読めない子どもたち」など興味深いものもありますが、是非今後の活動に「東ロボくん」のビッグデータを活用して欲しいものです。

2019.7.7. 新井氏がサンデーモーニングに出演したのを見て櫛部先輩へのメール
そうですか、やはり見ておられましたか。小生も最初は小池百合子の若い時かと一瞬ぎくっとしました。朝日新聞で今「シンギュラリティーにっぽん」という連載をしていますが、今日そこにも彼女が登場し、子供たちの読解力や図表の意味をどれだけ早く正確に理解できるかを診断する「リーディングスキルテスト」というのを作って教師たちと一緒に授業のあり方を考える活動を始めた、とありました。好意的に考えれば、東大もいいけどもっと裾野を広げたということではないでしょうか。




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