恐怖の男  Bob Woodward  2019.7.5.


2019.7.5. 恐怖の男 ――トランプ政権の真実
FearTrump In The White House            2018

著者 Bob Woodward 米国を代表するジャーナリスト。1943年生まれ。イェール大卒。47年にわたりワシントン・ポスト紙の記者、編集者を務める。同紙の社会部若手記者時代に、同僚のカール・バーンスタイン記者とともにウォーターゲート事件をスクープし、ニクソン大統領退陣のきっかけを作ったことで知られる。この時の2人の活動から「調査報道」というスタイルが確立され、また同紙はピュリツァー賞を受賞。ウッドワードはその後も記者活動を続け、02年には9.11テロに関する報道でピュリツァー賞を再度受賞。『大統領の陰謀』『ブッシュの戦争』『ディープ・スロート 大統領を葬った男』など、共著も含めた18冊の著作すべてがノンフィクション書籍のベストセラーリスト入りを果たしている。そのうち12冊は全米No.1ベストセラーとなった。現在はワシントン・ポスト紙副編集長

訳者 伏見威蕃(いわん) 翻訳家。1951年生まれ。早大商卒。ノンフィクションからミステリー小説まで幅広い分野で活躍中。ウッドワードの『ブッシュの戦争』『ディープ・スロート 大統領を葬った男』も翻訳

発行日           2018.11.30. 11
発行所           日本経済新聞出版社

19-06 炎と怒り』参照

真の力とは――この言葉は使いたくないんだが――恐怖だ(163月末ウッドワードらとのインタビューに答えたトランプ大統領候補が言った言葉)
感情的になりやすく気まぐれで予想のつかないアメリカ大統領の言動に世界が翻弄されている
ホワイトハウスのスタッフは大統領の危険な衝動と思いつきを故意に妨害し、国を動かしている
世界一の強国の意思決定はいま狂気に満ちている。本書は、その物語である
ニクソンを退陣させた伝説の記者ボブ・ウッドワードだから書けたトランプとホワイトハウスの真実

【写真】
l  副大統領マイク・ペンス ⇒ 過去のテレビ番組における猥褻発言が1610月に報じられると、ペンスがトランプに「憤りを感じた」との厳しい声明を発表。ライス元国務長官を副大統領候補にしてペンスが共和党大統領候補になるつもりかもしれないと確信する者もいた
l  国務長官レックス・ティラーソン ⇒ 1612月トランプに指名。エクソン・モービルの元CEO。世界を舞台に演じる役柄にふさわしいと、トランプが補佐官たちに告げる。エクソンに40年勤務し、官職の経験という汚点がない。「最もトランプ主義的な人選」だと、テレビでコンウェイが言った。「大きな衝撃を与えるはずです」。両者は頻繁に衝突。ティラーソンはトランプのことを、「知能がものすごく低い」と言った。183月ツイッターで解任を発表
l  退役海兵隊大将で国防長官に就任したジェームズ・マティスは、国家経済会議NEC委員長のゲーリー・コーンと大統領秘書官のロブ・ポーターが、韓国との重要な通商協定である米韓自由貿易協定KORUSを維持する必要があることをトランプに強調するのに手を貸す。マティスは、「大統領、金正恩は私たちの国家安全保障に直接関わりのある脅威を保有している。韓国との同盟関係を維持する必要がある。貿易はそれと関係ないように思えるかもしれないが、実はそれが中核・・・・韓国のためにやっているのではない。韓国を支援しているのは、それがアメリカに役立つから」と言った
l  ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長(制服組のトップ)は、NATOを弁護し、韓国とのKORUSから離脱することに反対。トランプが北朝鮮に対する軍事攻撃の新しい計画を要求したので、ダンフォードは動揺。「大統領に計画を提出する前に、もっとマシな情報が必要」と言った
l  元共和党下院議員のマイク・ポンペオCIA長官は、トランプのお気に入りになる。アフガン戦争について中間の立場をとろうとして。アメリカ軍の増派ではなく、CIAの軍補助工作部隊の増強で代替できると考えたが、古参局員にCIAは深入りすべきでないと説得され、CIAにはアフガンで正規軍の代わりを務める能力はないと大統領に告げる。ティラーソンの後任として国務長官に就任
l  ジェフ・セッションズ司法長官は、16年の大統領選挙にロシアが介入したという疑惑に関するモラーの捜査を自ら忌避。トランプはそのことでセッションズに裏切られたと思い、「ジェフはどんな苦しい時でも私を支持するような人間ではない」と言った。捜査忌避したセッションズのことをトランプは、愚か者"裏切者で、頭の中が空っぽと言い、「どうしてあんな奴を司法長官にするように説得されたのだろう?」と秘書官に聞き、「アラバマで個人経営の弁護士にもなれなかった奴だぞ。司法長官が務まるわけがない」
l  トランプの最初の首席補佐官ラインス・プリーバスは、ホワイトハウスは医療や規制改革のような重要課題で指導力を発揮できないし、外交政策は一貫性を欠き、しばしば矛盾していると考えた。政敵のチームがなく、捕食者のチームしかなかったと結論を下す。「へびとねずみ、ハヤブサとウサギを壁のないところに入れたらむごたらしく血みどろになる。そういうことが起きている」。177月辞任
l  退役海兵隊大将のジョン・ケリー国土安全保障長官は、ホワイトハウスの無秩序と混乱を密かに批判。自分なら立て直せるとトランプに約束したが、177月にツイッターで首席補佐官任命を告げた時、ケリーは何も知らされていなかった。じきにトランプによって傍観者的な立場に追いやられた
l  退役陸軍中将マイケル・フリンは、トランプの最初の国家安全保障問題担当大統領補佐官だったが、ロシア大使セルゲイ・キスリャクとの会話について嘘をつき172月解任。その後FBIに対する虚偽供述容疑について有罪を認めたが、反逆罪は否定
l  トランプの2代目国家安全保障担当大統領補佐官H. R.マクマスター陸軍中将は、マティス国防長官とティラーソン国務長官を二人組と呼んでそこに加わらず。二人組はトランプとホワイトハウスは正気ではないと判断したに違いないと確信した結果、2人は大統領はおろかマクマスターの干渉や関与抜きで政策を実行したり立案までしたりしようとしていた。「大統領を避けてやるのではなく、説得しようとする方が、ずっと忠実だ」と言った
l  トランプはマクマスター、ケリー、ティラーソンと衝突。ペンスは逆に衝突を避け、目立たないようにしていた
l  ゲーリー・コーン国家経済会議NEC委員長は、ロブ・ポーター秘書官と同盟を組み、マティスも味方につけ、トランプの極めて危険な衝動的行動を抑制しようとした。「国の為にやっていたというよりは、あの男がやらないように救ってやったんだ」と言った
l  トランプの娘婿で上級顧問のジャレッド・クシュナーは、トランプの初の海外訪問先としてサウジとイスラエルを推し、ほとんど1人で手配。175月にサウジで首脳会談を開催したことで、サウジ、湾岸協力会議GCC、イスラエルが、対イランで団結。政権の外交顧問たちは一様にこの計画には反対
l  スティーブ・バノンは、168月にトランプ陣営の選対本部CEOに就任。選挙運動で掲げたテーマは3つ。①大量の違法移民を阻止し合法的移民を制限して国家の主権を取り戻す、②製造業の雇用をアメリカに取り戻す、③無意味な海外での戦争から撤退
l  トランプの娘イバンカ(35)は大統領補佐官に。ホワイトハウスの他のスタッフから父親への影響力を恨まれ、抵抗を受けた。バノンはイバンカと怒鳴り合いの喧嘩をする。「たかがスタッフ風情で、自分が指揮しているかのように行動するが、とんだ思い違いで、スタッフなんだ!」と言うとイバンカは、「スタッフなんかにならない。大統領令嬢First Daughterだ」と言い返した
l  ケリーアン・コンウェイは168月に選対本部長になり、隠れトランプ投票者という言葉を造る。「全米に隠れヒラリー投票者はいない。すべて姿を現わしている」
l  ホープ・ヒックスは、選挙運動中はトランプの広報官で、ホワイトハウスの戦略広報部長に就任。他のスタッフ同様トランプのツイートを制限できず。「政治的にまずい」とトランプに言い、「ツイッターで誰彼構わず攻撃するわけにはいかない。こういうことばかりやっていると命取りになる。自分の足を撃つようなもので、大統領は大きな間違いを犯している」
l  ロブ・ポーター秘書官は、決定通知書など大統領の重要な書類について、トランプにブリーフィングを行う。コーンと同盟を組み、トランプが衝動的に極めて危険な経済・外交政策を打ち出そうとするのを阻止しようとした。「第3の仕事は、彼の物凄く危険な思いつきに対応して、名案ではなかったかもしれないと思い直すような理由をいくつも教えることだった」
l  ハーバードで経済学博士号を得ているピーター・ナバロ(67)は、ホワイトハウスの要職に招かれ、トランプ同様貿易赤字がアメリカ経済を損ねていると熱烈に信じ、政権内部の他の人間がほとんど支持しないトランプの鉄鋼とアルミへの輸入関税案に賛成
l  リンゼー・グラム上院議員(共和党、サウスカロライナ)は、北朝鮮に対して強硬路線をとるようトランプを促す。「大統領在任中に、北朝鮮が核保有国になり、アメリカに到達するミサイルを開発したと、履歴に書かれることはお望みでないでしょう」とトランプに言い、トランプも「それもずっと考えていた」と答えた。「北朝鮮が核兵器を完成させ、ミサイルがアメリカを射程に収めるようになったら、北朝鮮を叩き潰さなければなりません」
l  ジェームズ・コミーFBI長官は、トランプによって175月解任。止めようとするプリーバスとマクガーン大統領法律顧問に、「もう決めたから、説得はやめろ」と言った。コミーはスタンドプレーをするし、コントロールできないとトランプは考え、複雑化したクリントンの私的メール捜査に手落ちがあったことを解任の理由にした
l  FBI長官のロバート・モラーは、ロシアの大統領選介入と、トランプの選挙運動との関与を調査する特別検察官に任命された。トランプは、コミーの後任候補だったモラーをFBI長官に再指名しなかったので、「それを恨んで仕返しをしようとしているに違いない」と言った
l  ジョン・ダウドは、175月トランプの法務チームに参加。モラーの捜査で証言しないようにとトランプを説得したが、トランプが考えを変え、それを説得できなかったために183月辞任。「大統領がこれらの質問に答えるのに同席することはできない。大統領に質問をこなす能力がないのが、わかっているからだ」とトランプに直言
l  大統領法律顧問ドナルド・マクガーンは、モラーの捜査に大統領特権を行使するよう求め、書類の提出に抵抗。ダウドは反対し、捜査を早めるためにモラーに協力。「酢より蜂蜜の方がずっと得るものが大きいでしょう」と、ダウドはトランプに進言
l  トランプは、中国の北朝鮮に対する経済制裁は、自分と習近平との個人的な関係がもたらしたと信じていた。習に利用されているだけと警告されたにもかかわらず、「私が習と素晴らしい人間関係を結んでいなかったら、中国は制裁に賛成しなかったはず」
l  北朝鮮の最高指導者金正恩(34)は、核兵器とミサイルの開発計画については父・金正日よりも有能な指導者だった。アメリカが収集した情報によれば、兵器やミサイルの実験に失敗はつきものだということを金正恩は受け入れている。父親とは異なり、失敗後に科学者や役人の処刑を命じることはない。トランプは、アメリカと北朝鮮の紛争はどちらが意志が強いかの競い合いだと考え、「リーダー対リーダーではそれが重要だ。男対男。私対金正恩だ」と言った
                                                                                 

本書のためのインタビューは、ジャーナリストのディープ・バックグラウンド"という基本ルールの下で行われた。情報はすべて使用していいが、情報提供者については何も明かさない。
トランプ大統領は、本書のためのインタビューを断った


プロローグ
179月大統領の経済政策の首席顧問である国家経済会議NEC委員長のゲーリー・コーンが、大統領執務机の上に韓国大統領宛の大統領親書の草稿を発見、米韓自由貿易協定を破棄するという内容に驚愕
50年代に締結された防衛条約の下で、アメリカは韓国に28,500の米軍兵力を駐留させ、国家機密に属する特別アクセス・プログラムSAPを行ってきた ⇒ 北朝鮮のICBMはロス迄38分で到達するが、SAPによって7秒以内に探知できれば撃ち落とす時間があるところから、SAPはアメリカ政府の最重要秘密作戦であり、米軍の韓国駐留はアメリカの国家安全保障の要であり、KORUS破棄によって最重要情報資産を失う危険を冒そうとしている
トランプの激怒の原因は、米韓貿易赤字の180億ドルと米軍駐留経費の35億ドル
コーンはこの草稿を隠し、大統領も含め周囲は気づかなかった ⇒ 草稿の出所すら不明
草稿は忘れても、KORUSの破棄は念頭にあったトランプが、クシュナーに口述筆記させようとしたが、タイプの段階でコーンと秘書官のポーターが阻止、更にマティス国防長官を巻き込んで協定破棄を思いとどまらせようと躍起になり、トランプも不服そうに同意しかけたが、それは一瞬だった
17年のアメリカは、感情的になりやすく気まぐれで予想のつかない指導者の言動に引きずり回されている。ホワイトハウスのスタッフは、大統領の危険な衝動から生まれたと見做した事柄を、故意に妨害している。世界で最も強大な国の行政機構が、神経衰弱を起こしている。以下はその物語である

右派政治映画プロデューサーのバノンは、2010年クリントンのスキャンダルを追っていた友人から大統領選に立候補しようとしているトランプを紹介される
大統領選立候補に際しての障壁がいくつもあった
    中絶擁護派の否定 ⇒ プロライフ
    過去の大統領選での投票記録 ⇒ 予備選で1回したことがあるだけ
    過去の献金記録 ⇒ 80%が民主党向け
    予備選が最初に行われる3州で、知事選に立候補しているように振る舞う
    すべての上下院議員宛てに、合計で2530万ドル相当の小切手を個人献金として渡し、目星を付ける
    政策集の公表 ⇒ アメリカの国家観とその政策の立案
どれ一つとってもトランプがやるはずがなく、立候補の可能性はゼロ以下と考えた

167月トランプが16人以上の候補を破って共和党の使命を受け入れ
右派のオンライン・ニュース『ブライトバート・ニュース・ネットワーク』の会長になっていたバノンは、同社の出資者でもあり、共和党の最大の政治資金源となっていたマーサー一族に連絡を取ると、選対本部長になってトランプを応援しろと言われ、マーサーはトランプにもバノンを推薦する
トランプに不安を抱いていた政治家に共和党全国委員会RNC委員長のプリーバスがいた
トランプにつているのは、FOXニュースの創業者ロジャー・エイルズ、ニュージャージー州知事クリス・クリスティ、ルディ・ジュリアーニ
バノンは選挙など仕切ったことがなかったが、選対本部CEOに就き、選対本部長に共和党員で世論調査の専門家ケリーアン・コンウェイを任命、新人候補者を新人の2人が支える体制で出発

8月マナフォートが辞任、『タイム』がトランプの顔が溶ける表紙イラストにメルトダウンという見出しを付けた

15年夏、国家安全保障局NSAがロシアの偵察と呼ぶ、デジタル侵入の前兆が、はじめは地方と国の選挙管理委員会のコンピュータ化された有権者登録名簿――有権者の住所氏名のリストに現れた。最初はイリノイで、その後21州に拡散
167月には、『ウィキリークス』などが、ロシアのハッカーが民主党全国委員会のサーバーから盗んだメールを公表し始める
トランプのなんでもできる"との猥褻発言に、ロシアの選挙介入の記事は消滅
同時に大口献金者が皆手を引き、共和党下院議員が離れていく。党全国委員会のメンバーが逆上。バノンだけが100%勝利を信じていた
                                    
メディアを使った焦土作戦で、クリントン陣営の恥部を徹底攻撃。元大統領の破廉恥行為と、ヒラリーの同性の脅迫の被害者をテレビに生出演させる
選挙資金については、無制限に認められる候補者自身による献金を5,000万ドル出させようとしたが、勝敗の不透明なものに拠出することをトランプが拒み、1,000万ドルまで値切って漸くしぶしぶ小切手にサイン
投票日の午後5時、トランプは出口調査の結果を受け取ったが、悲惨な結果で、オハイオとアイオアで同点、ペンシルベニアで9ポイント負け、ノースカロライナで7ポイント負け。その夜、『ニューヨーク・タイムズ』」のウェブサイトの当選予想ダイヤルの針は、最初ヒラリーの勝つ確率が85%だったがすぐにトランプ有利に変わり、劣勢予想のノースカロライナ、オハイオ、フロリダ、アイオアも勝ち取る
AP通信が午前
229分にウィスコンシンでトランプが勝ち、トランプの当選を宣言
その直後に、ヒラリーがトランプに電話をかけて敗北を認める
トランプが数ブロック離れたヒルトンで聴衆向けに発した第一声は、善政を敷く政府の台本そのもので、「分断の傷を治す時が来た。すべてのアメリカ人のための大統領になると誓う。この国の勇猛果敢で壮大な運命と夢を取り戻す。敵意ではなく共通の地盤を、対立ではなく協力を模索する」
大統領になる準備を全くしていなかったトランプ・チームだったため、バノンがプリーバスと異例の取り決めをする ⇒ バノンは新設の首席戦略官に、プリーバスが首席補佐官に就任、プレスリリースではバノンの名前が上に載るが、伝統的に一番上に記載される首席補佐官にバノンが就任することを防ぐためにプリーバスは同意

1週間後トランプは退役陸軍大将のジャック・キーンを国防長官にするため招く。チェイニーの親しい顧問でFOXニュースの常連の73歳だが、個人的問題から固辞、代わりにマティス(66)を推薦。中東担当の中央軍司令官だったが、マッド・ドッグ“と呼ばれ強硬なタカ派でイランとの軍事対決を望んでいたとみられ、13年オバマに解任
エクソンのCEO10年務めたティラーソンをトランプに推薦したのは、ジェームズ・ベイカーIII世元国務長官とロバート・ゲーツ元国防長官。生粋のテキサンで自信たっぷりのティラーソンにトランプは感銘を受け、ビジネス界のエスタブリッシュメントを受け入れ、国務長官に指名

クシュナーが、ゴールドマン・サックスでリスク・テイカーとして名高いゲイリー・コーンを推薦。コーンはトランプにアメリカ経済は税制改革と過度の規制による制約を取り除けば経済成長は約束されるとトランプの聞きたがっていたことを言う一方で、ニューヨークの民主党員としてトランプが聞きたくないような話もした。それは国際的な貿易協定に反対していたトランプに対し、アメリカ経済は貿易を基盤としており、自由で公平で開かれた市場が不可欠というもの
移民についても、世界の移民の中心として、国境を開放し続けなければならないとも進言
トランプはコーンの話に惹かれて政権入りを打診、ムニューニンを財務長官に予定しながら、本人を前にして財務長官になるべきだと公言したが、その直後にテレビのニュース速報がムニューニンの財務長官指名を報じていた
コーンは、ゴールドマンの先輩の助言に従って、経済問題を掌握する重職である国家経済会議NEC委員長を要求。プリーバスなど周囲は、ヒラリーに投票した民主党員を政権に入れることに懸念を抱くが、トランプは押し切る
国家安全保障問題担当大統領補佐官に指名したマイケル・フリンは情報の専門家で、18か月前の15年にトランプと出会い、選挙中は外交政策顧問として親密な関係。共和党大会では群衆を扇動して、「ヒラリーを刑務所に入れろ」というスローガンを叫ばせたが、後にそれを謝罪。オバマ時代、管理職として不手際があり国防情報局DIA長官を解任され、選挙後にも安保担当補佐官にすべきではないというオバマの忠告を無視。核兵器実験再開についても強硬な意見を具申。15年にロシアの国営テレビで講演をおこない、33,750ドルの謝礼を受け取って批判を浴びた

選挙後にオバマ大統領は、ロシアの選挙介入に関する報告書の提出を情報機関の責任者たちに命じ、退任前に公表されることになった ⇒ 国家情報長官のクラッパー、ブレナンCIA長官、コミーFBI長官、ロジャーズNSA長官がトランプへの説明方法を検討
年末には、イギリスMI6のロシア課長が、ロシアの大統領選関与、ヒラリーに対する妨害を報告書にまとめ、併せてトランプがオバマが泊まった同じモスクワのホテルのベッドでロシアの売春婦に放尿golden shower”させたという猥褻行為の描写が含まれていた
FBIは既に、トランプの選挙運動とロシアの間に共謀があったかどうか機密の対諜報捜査を開始
当然トランプは猛反発、政治の魔女狩りだとして、インテリジェンス・コミュニティ内で警報を鳴らしているのはイラクの大量破壊兵器の存在を主張したのと同じ人々だと主張して、インテリジェンス・コミュニティ全体を敵に回す
なおかつコミーは、大統領へのブリーフィングの席上、自らの確実な情報内容に加えて、MI6の報告書を裏付けも確認しないままトランプに見せるというミスを犯し、自らの報告書の正当性にミソをつけ、トランプのその後の情報機関との戦い、とりわけFBIとコミーを目の敵とする戦いの勃発に大きな役割を果たす

就任宣誓の5日後の国家安全保障チームとの晩餐会でマティスがアルカイダに協力するイエメンのテロ組織に対する作戦計画を説明、トランプも承認したが、29日の急襲で海兵隊に初の犠牲者が出る ⇒ 軍人遺族との面談の経験がなかったトランプは殊勝に振る舞い、2月の上下両院合同会議での初演説には寡婦をバルコニー席に招待、イバンカと並んで座らせ戦没戦士に対し最大限の称賛の言葉を述べる。さらにほかの戦没兵士の家族と電話で話をした時は、家族が聞かされたい話を勝手に作って褒め称えた
トランプ新政権に国際秩序の基盤が根付くかどうかが、最初の1か月の間に試された。選挙期間中から、欧米諸国結束の基礎と見做されていたNATOは時代遅れだと主張、その根拠は費用の負担で、マティスや外交政策のエスタブリッシュメントはトランプの反NATO思想を正気の沙汰ではないと批判。最後にトランプは対応をマティスに一任したが、「家賃は君が取り立てろ(各国に公平な負担をさせろとの意)」と釘を刺す

2月ワシントン・ポストが、大統領就任前にフリンがロシア大使と会い、オバマが選挙干渉への報復としてロシアに課した制裁について話し合っていたことをスクープ。フリーバスはフリンに何度も確かめたが、フリンは話し合ったことを否定するも、司法省には傍受情報があり、フリンを解任

フリンの後任選びでは、リストの上にいたマクマスター陸軍中将がまず呼ばれてトランプと面談。戦争のヒーローであり学者でもあった稀有な組み合わせの人材で、ベトナム戦争で文民の指導者との対決に失敗した軍の指導者を告発しベトナムの二の舞を避けるための現場の手引書となっている労作『職務怠慢』(97)を著し、誠実さでマスコミにも評判が良かったが、面談で喋りすぎてトランプは親近感を抱かず
次いで極右の元国連大使ボルトンと面談。イエールを最優等で卒業、イラク戦争を支持、イランと北朝鮮の政権交代を唱え、FOXニュースの常連。トランプは応答を気に入ったが口髭が気に入らなかった
最後が陸軍士官学校長のカスレン。陸軍きっての拳銃使い。トランプは親近感を抱くが、政界での経験が皆無
最後は、再度面接をしてその場で、「この仕事をやりたいか‽」との質問に即答したマクマスターに決まると、トランプはレポーターに「素晴らしい才能と経験の持ち主」だと紹介

北朝鮮が安保上の最大の難題。169月に地下核実験を強行し、国営テレビで誇らしげに発表。世界の核兵器削減を断固唱えるオバマ政権には、核廃絶に向けた強硬方針しかなく、北朝鮮問題を隠し続けてきたが、政権以降に伴い、オバマはトランプに予定の時間を大幅に超過してまで、最大の問題は北朝鮮の核兵器だと告げる

トランプは、統合参謀本部議長のダンフォードに北朝鮮を先制攻撃する新たな戦争計画の提出を命じる。ダンフォードは北に関する必要な情報の不足を嘆き、軍事問題に最も熱心に取り組むサウスカロライナの上院議員で予備選の前まで大統領候補としてトランプと競り合っていたリンゼー・グラムに相談。プリーバスはいち早くグラムに政権入りを勧め、トランプとの関係修復に動き、トランプはグラムから北朝鮮問題への対応を聞き、グラムはミサイルがアメリカを射程に収めるようになったら北を叩き潰さなければならないと進言、超党派の議会対策に走る
グラムは、上院軍事委員会委員長だったマケインの永遠の相棒で、トランプとの仲直りを働きかけ、マケイン夫人が人身売買との戦いに生涯を捧げていたことをトランプに告げ、夫人を人身売買対策担当の特使に任命させることでマケインを感激させた
韓国国内に終末高高度空域防衛システムTHAADの配備への反対があることがオーバル・オフィスで話題となり、韓国大統領選の争点にもなっていたが、トランプはその代金は韓国が払ったのかと聞き、設置費用はアメリカ負担で韓国は99年の無料租借権を提供したといわれて逆上、ほとんど無価値な土地を無償で借りて10年で100億ドルものコストを負担するのは間違った取引だと主張、あわせて年間180億ドルの赤字を計上する対韓国貿易にも言及し、自由貿易協定破棄を通告しようと言う。北の問題が火を噴きそうな時こそ交渉の好機だと言い張り、後に韓国も貿易協定の再交渉開始に同意

2月に元陸軍大佐でアメリカ政府で最も優れたデータ分析・情報アナリストの1人であるデレク・ハーベイが国家安全保障会議の中東担当上級ディレクターに任命。9.11の前にビンラディンとアルカイダのテロ組織がアメリカにとって戦略的脅威だとの報告書を書いている。アメリカの侵攻後もアフガンとイラクで反政府勢力が存続して勢力を保ち続けると予想したのはハーベイだけ。彼の主張は攻撃的な事が多く、現実的には実行不可能なことが多い。そのハーベイが中東で最も懸念しているのはイランが全面的に支援するテロ組織ヒズボラで、レバノンに48,000人の部隊を常駐させイスラエルの存在を脅かしているとして、トランプがネタニヤフに約束したように、新たな中東の現実に立ち向かうための戦略的対話を考える必要があるとクシュナーをたきつける
クシュナーは、大統領の初の外国訪問をサウジにしようと画策。若い副皇太子MBSをたきつけてアメリカから1100億ドルの武器購入を約束させ、外交儀礼に反して副皇太子をホワイトハウスの大統領の公式晩餐会室での昼食会に招待。トランプもサウジとイスラエル訪問に同意し、サウジでは豪華な歓迎を受ける。サルマン国王はMBSを昇格させる

トランプは、今やアメリカ史上最長の戦争になったアフガン戦争をあからさまに批判。元々11年から再三にわたって大失敗だとツイッターで攻撃、何をしているのかわかっていないとオバマの施策を否定しながら、適切な解決策が見つからない

イランとの核合意からの離脱についてもトランプは16年から主張。最初の90日の更新にはしぶしぶ同意したが、それが最後だと言って譲らない ⇒ 7月の更新期限前の会議でも、イランは違反していないというティラーソンに対し、違反していると宣言するための証拠作りを命じる

選挙運動中からトランプはアメリカの貿易協定をヒラリーに対するのと同じくらい批判
製造業の雇用喪失は、政治家が引き起こした惨事で、アメリカニズムを軽んじてグローバリズムをありがたがる指導者層がもたらした結果だと主張、自由貿易を自分と同じくらい憎んでいる経済学者ピーター・ナバロ(67)を、新設の国家通商会議NTC(後に通商製造政策局に改組)の委員長に据えた
コーンはトランプとナバロを、「勉強が足りない」と言ってたしなめ、時代遅れのアメリカ観にしがみついているとしたが、トランプに理解する知識も心の余裕もなかった
ロブ・ポーターはプリーバスが採用。クシュナーはポーターの父親からハーバード時代授業を受けていた。16年の選挙ではトランプ支持ではなかったが秘書官を引き受け、就任演説の後初めてトランプに紹介された。トランプは秘書官など不要とし無関心
トランプが署名した最初の公式書類は、マティスを国防長官にするための制限免除に関するもの。退役後7年未満だったため法定資格を具備していなかった。同時にTPPからの離脱にも署名。複雑すぎる問題で就任早々にやる必要はないと助言されていたが、選挙運動中からの主張だとして署名を強行
自分の意見が受け入れられないとの不満を意見書にしてトランプに届けようとしたナバロだったが、コーンはポーターと組んで阻止
新たに通商代表に指名されたのがワシントンDCの弁護士でレーガン政権で通商代表次席代表を務めたロバート・ライトハイザーで、ナバロとともに今後の通商政策の進め方について行程表を提示したが、ポーターが反対して何も進められなかった

ホワイトハウスの無秩序はますます顕著になり、バノンはプリーバスの指揮欠如を詰る
クシュナー・イバンカ夫妻の唯我独尊の存在も障碍
バノンとクシュナーは、互いに自分に不利な情報をリークしていると疑心暗鬼
マクマスターは、あらゆるやり方がトランプと合わず、激しやすい性格とあって馬が合わない
4月シリアのアサド政権が反政府勢力に対し化学兵器を使って無差別殺戮を行った惨状を写真で見せられたトランプは、すぐにマティスに電話をかけ、「こいつをぶっ殺す」と言った。公式声明で、化学兵器全廃の約束を反故にしたアサドと化学兵器使用をレッドラインと言いながら何もしなかったオバマの両方を攻撃 ⇒ 最終的に中間の作戦が実行され、60機のトマホークが発射され、政界と世論は積極的に大統領を応援、全世界も絶賛

NAFTAからの離脱の大統領令も、ポーターが懸命に阻止しようとしたが、強権でトランプにせっつかれ、180日間の離脱期間の通知書として署名
商務長官のウィルバー・ロスが17年に中国の鶏肉の輸入とアメリカの牛肉の輸出に関する取り決めをしたところ、『『ニューヨーク・タイムズ』に中国はアメリカに何も譲らなかったと批判されると、トランプはロスをこき下ろし、以後の交渉をライトハイザーに託す
トランプが固執する鉄鋼関税の問題にしても、ロスが独断で提案したのに対し、ポーターが関係省庁との調整未了を理由に引き延ばそうとしたが、トランプは官僚組織の駆け引きにうんざりして即刻進めろと怒った

5月トランプがコミーFBI長官を解任。スタンドプレーとコントロール不能がその真の理由。バノンはFBICIA、国防総省、幅広い軍のエスタブリッシュメントなど永遠に存続する機関の力がわかっていないと説得しようとしたが、聞く耳を持たなかった
トランプがコミーに宛てた解任の手紙では、ヒラリーのメール捜査の手違いを司法副長官が厳しく批判したことを理由としていたが、『ニューヨーク・タイムズ』が爆弾記事を公表。コミーがトランプとの会話を詳細にメモで残しており、それによれば、トランプはフリンに対する捜査で手加減を要求していたことが判明、ニクソンやクリントンが弾劾捜査を受けた際も含めホワイトハウスで長らく顧問を務めたジェルゲンがCNNで「弾劾の領域に属する」と発言、トランプはかなり狼狽
その夜、司法副長官がロシアの選挙干渉とトランプの選挙運動とのつながりがあるかどうかを調べるために、よりによってFBI長官を12年務めたモラーを特別検察官に任命したことを知り、トランプは狼狽え怒り狂った

トランプの離婚や破産などで弁護を何十年も務めてきたカソウィッツが、高名な弁護士に何人も断られた後、ホワイトカラー刑事事件専門弁護士のジョン・ダウドに、モラーが始めたロシア疑惑捜査の件でトランプの弁護を依頼。ピート・ローズ監督の野球賭博の捜査でも弁護を担当。1か月10万ドルの定額で合意。ダウドの通常の報酬のほぼ半額。
捜査の焦点は、ロシア疑惑と、フリンに絡む司法妨害で、捜査を早く終わらせるためにモラーに対し全面協力を申し出る
トランプは、女性にひどい態度で接したことを認めた友人に、密かに助言。真の力とは恐怖だ。力で肝心なのはそれだけ。弱みを見せてはいけない。常に強くなければならない。脅しに負けてはならない。それ以外のやり方はない
誰かに反対意見をぶつけられる時は常に力を駆使しないと負けるというのが、トランプの本能的な何能だとポーターも気づく
セッションズの捜査忌避が、癒えない傷としてトランプに残る

情報と軍の世界には、大統領と軍及び情報機関の重鎮を含めた少数の人間のみが知っている国家機密に属する事柄、情報源、手法が存在。特に9.11テロ後、アメリカの諜報組織は膨張し、秘密の監視が日常茶飯事となる
北朝鮮の核開発について、国家機密に属する情報問題の取材では、関係者は平気で嘘をつくが、今回初めて「私が間違っていたら謝罪する」と言われてびっくり ⇒ ほどなくして北朝鮮が初の大陸間弾道ミサイル火星14の発射に成功したとのニュースがあり、開発には最低でも2年はかかると言われていたものが、飛行距離は930㎞に過ぎなかったが、浅い角度だったらアメリカ本土に到達した可能性があったことを示していた

トランプは選挙公約に基づき気候変動に関するパリ協定から離脱しようとしたが、イバンカが猛反対、パリ協定がアメリカにとって有害だとするバノンと対立
ジャーバンカのホワイトハウスでの傍若無人ぶりには周囲が困惑、トランプに苦情を言うと、「あの2人はニューヨークという都会に根付くリベラリズムに影響された民主党員だ」と言って取り合わず、トランプのホワイトハウスはあらゆる秩序や慣例をひっくり返すように設計されているように見えた

7月『ニューヨーク・タイムズ』が、選挙運動中にトランプの長男とクシュナーたちがロシア人弁護士と会って、ヒラリーに対する選挙妨害を話し合っていたとスクープ
ブルームバーグも、モラーがトランプとロシアの諸々の取引、関係を調べているという具体的事例を挙げた爆弾を落とす
強硬な保守派議員30人からなる自由議員連盟が、米軍のトランスジェンダーの性別適合手術とホルモン治療への援助を禁止しないと、予算案に賛成しないとトランプを脅す。選挙運動中トランプはLGBTの権利を支援すると公言していたが、関係者と協議する前に、「トランスジェンダーが米軍で何らかの機能を果たすことは許されない」とツイートしたため訴訟に発展、18年には裁判所の決定に従って国防総省はトランスジェンダーの新兵受け入れを開始

最高裁判事に保守派のゴーサッチを指名、議会承認を得たが、それによりリベラルと保守が拮抗、その後のカバノー判事の任命により保守派が多数派となる
トランプとポーターの関係が変わり、ポーターは実質的にゴーサッチのクローンになった
ポーターはトランプから、プリーバスなど通すことはないと言われ、首席補佐官の悪口を言うことに愕然とした
プリーバスもポーターも補佐官たちはトランプにツイッターを使うのを控えるよう説得するが、トランプは、「これは私のメガホンだ。これこそ国民にじかに語りかける手段だ」と言って取り合わない
6月末トランプはツイートで元共和党下院議員ジョー・スカボローとキャスターのミカ・ブレジンスキーが司会をするMSNBCのモーニングショーを狙い撃ち。選挙運動中は親派でトランプもよく出演していたが、いまは盛んにトランプを非難するのに腹を立て、ミカはフェイスリフトで出血したなどと個人攻撃をしたため、周囲が驚愕して、政権の命取りになると警告、事前校閲を申し入れ、トランプも一旦は納得したが、従うことはなかった
プリーバスはそのツイートを見て、トランプのことを「頭がいかれた」と表現
Trade is Badがトランプの新しい標語に

マクマスターは、ティラーソンとマティスを二人組と呼んで、自分の立場を難しくしていると不満をぶちまける。マクマスターの関与抜きで、政策を実行したり、ことによっては立案したりしようとしている。もちろん大統領も抜き
混沌状態に秩序をもたらそうと努力してきたプリーバスは、重要閣僚が定期的に顔を出すような仕組みを作る
トランプのセッションズ攻撃は留まるところを知らず、エスカレートさえしてきたが、上院の共和党議員の良識を目覚めさせた。ウォーターゲートの悪夢を呼び起こすことになったが、トランプの攻撃に耐えかねてセッションズはとうとう辞表を書く

トランプは、海外の同盟国の重要性や外交の価値を理解していない。外国政府との軍事・経済・情報における協力がどう結び付いているかがわかっていない ⇒ マティスとコーンは、年間5,000億ドルの貿易赤字がアメリカ経済を損ねていると強烈に信じ込んでいる大統領の洗脳に協力して乗り出し、国防総省に大統領を呼んで説得にかかる
その結果をホワイトハウス高官は以下に要約:国防や国家安全保障について何もわかっていないと、大統領は全員に説教し、侮辱した。大統領の上級顧問、ことに安保チームのメンバーは、大統領の不安定な性格、問題に対する無知、学習能力の欠如、危険なものの見方に、極度の懸念を抱いている

ティラーソンは辞任を考えプリーバスに会って、大統領が将軍たちを非難するのをじっと聞いているのに耐えられない。あの男は知能が低いと敵意を剥き出しにする
トランプにとって外交問題で重要なのは、個人的な人間関係で、習近平との関係でも成果を強調
7月大統領経済諮問委員会CEAの元委員長たち15人がトランプに書簡を送り、鉄鋼輸入関税を課さないよう諫める内容だったが、ウィルバー・ロス商務長官はメモに走り書きの反対意見を書き、「ここに署名している人々の助言がアメリカの貿易赤字をもたらした。彼らの政策を受け入れるわけにはいかない」
7月の終わりには更に数々の傷跡が残される
トランプは広報部長に、プリーバスの反対を押し切って、ゴールドマン・サックスにいたことのある軽忽な投資銀行家のスカラムチを採用
オバマケアに代わる制度を公約にしていたが議会にはねつけられ、その責任をトランプはプリーバスに負わせ、プリーバスは辞表を出し、後任に国土安全保障長官で元海兵隊大将のジョン・ケリーを任命したが、交代の時期についいてプリーバスはトランプに一任したところ、会見の直後にツイッターでケリーの任命を発表したのには唖然。ケリーも事前に何の相談もないままツイッターで辞令が出され、引き受けざるを得なかったと夫人に言い訳する羽目に。トランプには思いやりや憐みの感情がなく、そういう精神的能力はゼロ
辞任後にプリーバスはホワイトハウスでの仕事を分析した結果、「生まれついての捕食者がいると物事は進まない。好敵手ではなく敵を食い殺そうとしている人間ばかりだった」と述懐。「ヘビとネズミ、ハヤブサとウサギ、サメとアザラシを動物園で壁のないところに入れたら、むごたらしく血みどろになる。そういうことが起きている」

8月中旬シャーロッツビルで数百人の白人至上主義者と人種差別に反対する集団とが衝突、暴力沙汰になり、アメリカの人種分断がまたしてもありありと強調 ⇒ "血と土"というナチスのスローガンを唱え白人ナショナリストが行進、死傷者を出す騒ぎに、トランプはツイートで平静を呼び掛けたが、声明では暴力非難一辺倒の台本を手にしながら、途中で逸脱し、「様々な側において暴力が長年続いてきた」と言ったことが人々の神経を逆なで、ネオナチも反人種差別も同等だと仄めかしたことに各方面から強硬な抗議の声が上がる
周囲に宥められて漸く修正の大統領演説をやることに同意、最高の演説だと持ち上げられたが、自身はすぐに、「こんな譲歩はするべきではなかった、絶対に謝ってはいけない、元から悪いことはやっていなかった。なぜ弱くみられるようなことをするんだ。最悪の演説だった。もう二度とこういう演説はやらない」と言って怒りが収まらなかった

週明けの記者会見で、シャーロッツビル関連の質問を受けてはいけないとスタッフが言ったにも拘らず、トランプは記者の質問に対し、前言を撤回し、「双方に非がある。物事には二つの面がある」と蒸し返したため、軍と海兵隊、沿岸警備隊のトップは最高司令官である大統領にSNSで熾烈な非難を浴びせる
大企業では珍しいアフリカ系アメリカ人の企業幹部でメルクのCEOフレージャーは、トランプが設置した諮問機関であるアメリカ製造業評議会AMCの辞任を発表。アンダーアーマーとインテルのCEOも同調。トランプは逆襲に出て、「ぼったくりの薬価を提げる時間が出来た。代わりはいくらでもいる」とし、辞任した人々をスタンドプレー好きと呼んだ
辞任は相次ぎ、トランプはAMCの解散をツイッターで発表。ライアン下院議長とマコネル上院共和党院内総務の共和党トップ2人は、堂々と主張したCEOを密かに称賛
家族にまでとばっちりの来たコーンは耐えられずに辞表を出すが、税制改革だけはやってくれと頼まれ、周囲も称賛する忍耐強さを発揮して残留したものの傷跡は残った
ポーターは、トランプが引き返すことのできない一点を越えたと思った。選挙運動中からトランプが煽ったアメリカの分断を修復しようとしてもほとんど勝ち目はなくなった。反トランプの炎は既に燃え上がっていたが、トランプはそれに油を注いでいた

バノンもケリーに、ホワイトハウスの人間がトランプをもっと擁護しないといけないと注文を付けて、辞任する ⇒ 背景は、北朝鮮に対してトランプが交戦的に炎と怒りを浴びせると脅しているのははったりだと、バノンがリベラル誌に漏らしたこと
アフガンに関わるNSC会議では、トランプがこれまでの無駄な出費の責任の一端は軍にもあると非難して撤退を言い張ったが、結局は米軍の撤退がタリバンのようなテロ組織の温床になり兼ねないと主張する体制に渋々同意せざるを得ず、条件的駐留継続が決まる

新首相補佐官のケリーは、ホワイトハウスに秩序と規律を浸透させるつもりでいた
トランプには、意思決定と調整のプロセスがなく、13人だけしか関与させずに決定を下すことが多かった ⇒ ポーターが駆使した基本的な戦術は、時間稼ぎと引き延ばし、法的障碍の説明で、時には大統領の執務デスクから草稿を持ち去ることもあった
大統領向けの書類はすべてポーターを通すことと、口頭でのブリーフィング後になされた決定は正式な決定通知書が作成されるまで最終的なものではないことが、ケリーとポーターから閣僚とホワイトハウスの上級補佐官に伝達され、確認された ⇒ 最初の数週間はトランプとケリーは同等の仲間のようだったが、すぐに貿易協定や在韓米軍に何かが起こりそうになり気配となり両者は衝突

トランプはモラーの捜査に気が散って大統領としての勤務能力が奪われ兼ねなかった
トランプは弁護士に不満を募らせ、ポーターにホワイトハウスの法律顧問にならないかと打診するも、ポーターは拒否
ライトハイザー通商代表はトランプから、中国の貿易慣行における知的財産権侵害を調査する承諾を得た。貿易協定をぶち壊さずに反貿易の脅しを実行できる案件で、1974年通商法第301条に基づき、大統領はアメリカと不公正な貿易をおこなっている国に、一方的な貿易制裁措置を実行できる ⇒ 中国はありとあらゆる規則に違反、トッランプ政権の試算ではアメリカから6,000億ドル相当の知的財産を盗んだと推定したが、トランプは習近平との良好な関係が壊れるのを懸念して、全世界を対象にしたものとしたがり、声明では1度しか中国に言及しなかった
鉄鋼輸入関税でもトランプは譲らず ⇒ 間違っていたら止めればいいと簡単に片づける
NAFTAもトランプの不変のターゲット
中国のせいで痛手を被っている自動車産業の救済も悲願
すべてナバロがネックで、コーンは機会あるごとに非道い厄災だとケリーに文句を言ったが、トランプのお気に入りだけにやめさせられず、コーンに直属させて口を封じる

トランプの金正恩への個人攻撃がエスカレートして緊張が高まる ⇒ トランプの決意も固まらないまま、9月の初の国連総会の演説では金をロケットマンと呼んで、防御を余儀なくされた時には「完全に滅ぼすほかに選択の余地はない」と述べる
金もすぐにトランプをこき下ろす
トランプは、「力を示さなければならない。男対男だ」と主張
ティラーソンが公式に対話の開始を北に申し出てから1か月後の10月には、トランプが「時間の無駄だ。エネルギーを節約しろ。やらなければならないことをやるぞ」とツイート
トランプは、ケリーの締め付けに反発、徐々にケリーを遠ざけるようになる

税制改革をやるために留任したコーンは、改革を実現しなければならなかった。アメリカの連邦法人税は35%で世界でも高い国の1つであり、引き下げは共和党と産業界の長年の宿願。トランプも減税には積極的で15%に言及、見返りに所得税の最高税率の引き上げを提案。元々共和党はレーガンの時代に最高税率を70%から28%に下げており、引き上げなどできないことは自明
最終案は、企業と富裕層が最も得をする共和党流の法案であることに疑いの余地はなく、18年にはすべての所得層が減税になる内容で、議会が承認 ⇒ トランプ政権の最初の年に成立した唯一の主要法案

18年初頭、『炎と怒り――トランプ政権の内幕』が出版されバノンが著者に詳細な話をしたことは明らかで、トランプはバノンを徹底的に辱めた ⇒ バノンはトランプが改革者としてはほとんど失敗していると決めつけた
トランプは1日に68時間テレビを見ている。テレビばかり見ていたら脳がどうなるか考えてみたらいいとバノンは疑問を投げかける
金が新年の挨拶で核兵器保有を宣言すると、トランプもツイートで「彼の核ボタンよりもずっとでかく強力なものを持っている」とやり返す ⇒ 核戦争を開始するというトランプの脅しは、ツイッターの使用条件に違反しているのではないかと多くのツイッター利用者が思った。16年の民主党大会でヒラリーも、ツイートで執拗に攻撃するのを何とも思わない人間に核兵器を任せてもいいのか」と批判していた
トランプの攻撃は留まらず、在韓米軍の家族の避難命令をツイッターで伝えることを提案それに対し北からは、「アメリカの民間人引き揚げを、直ちに攻撃が開始される兆候だと受け止める」との警告が来たため、国防総省上層部は肝を潰し、必死になってやめさせた

アメリカの軍事作戦に外国の資金を使うのは、トランプの最大の目標の1つで、サウジはシリアでの様々な計画にしばしば巨額の資金を提供していた。今回もサウジから40億ドル出させる交渉をすべくティラーソンとマクマスターが主導権争いをしているというのを聞いてトランプが激怒。マクマスターには全くその才能がないというのがその理由
韓国文大統領とは、貿易赤字と在韓米軍の駐留経費負担を巡って決裂寸前となり、NSCの場ではマティスが軍と情報の能力が軽視されるのにうんざりしている気配を示し大統領に反駁したが、トランプは「他の国が安全保障関連で我々と取引しているのは、私たちの金をたんまり奪うために他ならない」と言って自論を力説 ⇒ 政権上層部の間には、大統領はいつになったら学ぶのかとの憤懣が噴出、特にマティスは腸が煮えくり返り、大統領はまるで小学5,6年生のように振る舞い、理解力もその程度しかないと言った
CIAが、北朝鮮には核弾頭付きのミサイルをアメリカ本土に正確に弾着させる能力はまだないと断定、ミサイルの大気圏への再突入にも成功していないことが判明

アフガン問題では、中国がかなりの量の銅を採掘しているという話を聞いてトランプが激怒。なぜアメリカはアフガンの鉱物資源に手を出さないのかと言い、誰でもいいから獲って来いと命じる。ロス商務長官が志願してアフガンと話をしたが、タリバン支配地域にあって誰も手を出せないことが判明、中国の話はフェイクニュースだった
ケリーの在任期間が、史上最短だったプリーバスの189日を超えた
アフガンの見通しが悪化していることに苛立ったトランプは、戦争を始めたブッシュとイラクに抱き込まれているマクマスターを非難し、改めて撤退に言及

不法移民対策では、幼少期に親と不法入国した若者の強制送還を猶予する制度DACAの扱いについて、上下両院の議員20人を集めて政策合意を取り付けることに成功、法案化を約束。グラムは反移民強硬派の領袖だったトランプの豹変に度肝を抜かれた
『ニューヨーク・タイムズ』も『ワシントン・ポスト』も、数百万の移民に市民権を与える方針に賛成した模様と、大きく取り上げた
国境警備のための予算要求に関し、トランプはグラムや上院民主党のNo.2のディック・ダービン上院議員がホワイトハウスに呼ばれて行くと、予算の増額を要求され、他にもハイチなど災害に見舞われている国からの移民のビザに触れたところ、トランヌは、「どうしてこういうクソ壺みたいな国の人間をすべてアメリカが受け入れなければならないのか」と発言。トランプは理性に目覚めたが取り返しはつかず、ダービンがトランプのクソ壺発言を公に暴露したが、クソ壺はトランプの予てからの自論だった
移民について、トランプは「我々が授けるものを受け取るだけで何一つ貢献しないような人々には来てもらいたくない」と言い続ける
トランプとティラーソンの関係は、取り返しがつかないほど壊れ、3月にはいつものツイートで、ポンペオCIA長官の国務長官就任が発表された

トランプは弁護士のダウドに、モラーの捜査が大統領として行動する能力を阻害していると苦情を言い続けていた
モラーがトランプに最大の融資をしているドイツ銀行に対し取引に関する文書提出命令を出したとの報道にトランプは激怒
モラーは大統領から事情聴取しようと16項目の質問を示す。大半がフリン、コミー、セッション時に関係。ダウドはすぐに逆上して余計なことを言い出すトランプに、聴取に応じるべきではないと進言し、文書で回答

関税議論が刺々しくなり、トランプはコーンを忌避、ポーターは1人でトランプに対峙、最後はトランプからコーンと同じグローバリストと蔑まれ、元妻2人からの肉体的虐待を受けたとの告発もあって、2月にホワイトハウスを去る
コーンやケリーの努力も空しく、ナバロとロスが勝手に鉄鋼メーカー幹部をトランプに引き合わせ、その場でトランプは外国産の鉄鋼に25%、アルミに10%の関税を課すと宣言
中国に対する知的財産権侵害の調査を完了させていれば、中国は孤立し衝撃的な貿易問題で同盟国の協力が得られるはずだとコーンは確信していたが、鉄鋼関税がぶち壊した
コーンは辞任し、消費者主導のアメリカ経済ゆえに、経済の先行きが消費者に分からず、可処分所得の見通しが予測できないと、経済も株式市場も混乱するのを恐れた

ダウドの助言にも拘らず、トランプはモラーの召喚請求に応じることを決意、ダウドは辞任を申し出る
トランプとその大統領の地位には、悲劇的な欠陥があるとダウドはみなしていた。自分のせいで不幸になる、悲劇の主人公の性格的な欠陥そのもの。政治論争、逃げ口上、否認、ツイッター、問題点をぼかすこと、フェイクニュースだと叫ぶこと、いわれのない非難にすぐに憤激すること、トランプは何よりも非道い問題点があるのをダウドは知っていたが、それを面と向かって言うことはできなかった。あんたはクソッたれの嘘つきだ




FEAR恐怖の男 ボブ・ウッドワード著
ホワイトハウスの「泥沼」活写
20181222 2:00 [有料会員限定]  日本経済新聞 朝刊
中間選挙後のトランプ政権はどこに向かうのか。本書は、かつてウォーターゲート事件を追ったベテラン記者が、トランプのホワイトハウスに迫った力作である。とはいえ、ロシアゲート事件の追及が目的ではない。トランプの政治的人格と側近たちの混乱や相互不信を活写したものである。トランプはワシントンの「泥沼」を一掃すると豪語したが、本書によれば、彼が恐怖で支配するホワイトハウスこそ、「泥沼」と化している。
何しろ、トランプは米韓自由貿易協定を一方的に破棄しようとし、そのための大統領親書を発見した側近が、事態回避のために、こっそりとこの文書を机から盗んだというのである。幸い、大統領は親書の喪失に気づかず、最悪の事態はいったん回避された。「35億ドル、兵員28000人だぞ」――ほどなく、大統領は在韓米軍の撤退を訴え出した。マティス国防長官ですら、ひどくしおれてしまったという。
トランプがテレビを見ながら、「私のメガホン」と呼ぶツイッターを発信する寝室には、さすがに側近も立ち入れない。プリーバス首席補佐官はここを「悪魔の作業場」と呼んだ。そして、大統領を教育し、管理しようとする者は、遅かれ早かれ排除されていく。プリーバスは辞任を決意し、トランプと辞任発表の時期について合意した。ところが、その直後に、大統領は一方的にプリーバス辞任をツイッターで伝えてしまう。
「トランプとその大統領の地位には、悲劇的欠陥がある」と、彼の顧問弁護士は述べている。だが、この弁護士とて、自分の顧客に最大の問題を面と向かって言うことは憚(はばか)られた。「あんたはクソったれの嘘つきだ」
世界最強の権力の所在地がこのありさまとは、まさに恐怖である。誇張はあるにせよ、これだけ多くの側近たちが内幕暴露を買って出ること自体が、醜悪である。圧倒的な取材力を駆使しながら、著者はホワイトハウスの「泥沼」を活写している。だが、著者は「泥沼」一掃の方途はおろか、その手がかりも示してはいない。たとえ「フェイク・ニュース」と罵られようとも、かくも迫力あるジャーナリズムが機能している――これこそが著者の解答なのである。
《評》同志社大学教授村田 晃嗣
原題=FEAR:Trump in the White House
(伏見威蕃訳、日本経済新聞出版社・2200円)
著者は米ワシントン・ポスト紙副編集長。ウォーターゲート事件をスクープした。
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