なぜ女性管理職は少ないのか  大沢真知子他  2019.7.10.


2019.7.10.  なぜ女性管理職は少ないのか 女性の昇進を妨げる要因を考える

編著 大沢真知子 1952年東京都生まれ。日本女子大人間科学部教授。日本女子大学現代女性キャリア研究所所長。専攻は労働経済学。著書に『女性はなぜ活躍できないのか』『日本型ワーキングプアの本質』など
日本女子大学現代女性キャリア研究所 2008年設立。現代の女性キャリアを取り巻く諸問題を調査・研究し、その成果を広く社会へ発信して女性が持てる能力を全面的に発揮できる社会の実現に貢献することを目的とする

発行日           2019.3.27. 第1
発行所           青弓社

女性が管理職になれない/なりたがらない要因は何か――
男性中心のリーダーシップ像や女性が抱える心理的な葛藤、職場に根強い差別などをインタビューや統計から明らかにして、公平な評価制度や新たなリーダーシップ像の確立を訴える

序章 女性と管理職をめぐる現場 大沢真知子
潜在能力には男女差よりも個人差が大きいが、日本ではリーダーのポジションに女性が少ないことが国際的に見てもジェンダー格差が大きい国と見なされ、経済発展の阻害要因にもなっている
本書は日本女子大現代女性キャリア研究所が17年に開催したシンポジウム「女性はなぜ管理職になりたがらないのか」の議論をもとに、新たな一章を加えたもの
結婚・子供の誕生後も今の会社で長く働き続けたいと思っている女性は管理職志向が維持されるが、そう思わない場合は意欲を失うケースがみられ、女性が働きやすいと感じられる組織風土があることが重要だとわかる
男性は高い年収を得ている人の方が、女性は職を失う不安を持つ人の方が管理職志向が高いということから、女性の昇進意欲を高めるためには、①チャレンジングな仕事や昇進に結びつくような経験をすることで自己効力感や自信が高まること、②上司や組織からの承認や支持が得られていると感じられていること、つまり職場の中で承認や受容を得ることによって組織での所属感が得られることが重要
自己効力感とは、自分の行為の主体が自分であるとの信念や確信のことであり、困難に直面したときにどれだけ耐えられるのかを決定づける力のこと
女性のパフォーマンスを高めるためにはジェンダーごとのステレオタイプのイメージや脅威から解放されることが必要。男性は作動性や道具性(=生計を維持する役割)であり女性は表出性や共同性(=愛情を注いで家族の世話をする役割)という概念の打破が急務
今の脳科学では脳機能に関する男女の平均に差が出る事はあるが、個人差の方が大きいことが定説
性差別には敵対的性差別主義hostile sexismと行為的性差別主義benevolent sexismがあり、一見差別だと認識されにくい行為的性差別の方が深刻な影響を及ぼしやすく、女性に自己疑念や自尊心の低下をもたらしやすい
女性の昇進意欲を減退させる要因を緩和させるためのポイント
    女性自身が経験を積んで自己効力感を高めること
    状況に合わせて自身の考え方を柔軟に変えていく女性管理職としての考え方を変える ⇒ 「管理職」や「リーダーシップ」の役割イメージそのものを変える
    ロールモデル提示の必要性
    好意的(ママ)性差別をなくすための管理職研修の実施
日本は今社会の役割革命の入り口にある ⇒ 男性も女性も仕事と家事を行う
企業組織におけるリーダーシップのあり方にも変化が見られ、個人の成長を促す新たな変革型リーダーシップを求めている。そのためには社会感受性やコミュニケーション能力が必要であり、女性はその能力が優れていると言われる。性差を超えてそれぞれが自分の潜在能力を伸ばして活躍できる社会が実現できれば、男性中心社会の限界を超えて日本の組織に漂う閉塞感を打ち破ることができる。性差を超えて多様性を生かした新たなリーダーシップを構築する時代が今来ている

第1章        女性の昇進を阻む心理的社会的要因 坂田桐子(1964年広島県生まれ。広島大大学院総合科学研究所教授。専攻は社会心理学)
社会心理学と産業・組織心理学の観点から、女性がなぜ昇進を拒むのかを考える
全就業者に占める女性の割合は43.2%と先進国並みだが、管理職に占める女性の割合は12.5%止まり
組織運営や経営管理の仕事に対する興味には、基本的に男女の差はなく、管理職になれる可能性の点で、男女間に本質的な差があるわけではないところから、就職後に女性の昇進意欲が男性よりも低くなるのは、職場環境の要因や出産・育児などのライフイベントなどに起因している可能性がある
「有能な管理職」のステレオタイプは、男性ステレオタイプと類似、両者の間には強い正の関連がある ⇒ ステレオタイプ脅威の原因
女性の昇進を阻む心理・社会的要因のうち、「リーダーシップ≠女性」というステレオタイプ、ステレオタイプ脅威、好意的性差別の3点を取り上げたが、女性の昇進意欲を促進するために4つの提案をしたい(序章参照)

第2章        女性管理職の声から考える――管理職志向の変化と職場重視モデル
大槻奈巳(1962年東京都生まれ。聖心女子大文教授。専攻は社会学、労働とジェンダー、キャリア形成)
政府の掲げる目標 ⇒ 2020年までに指導的立場の女性の割合を30%にする
管理職志向を職場重視モデルから考える必要性 ⇒ 従来は家族重視モデルから考え、女性が家族責任を負っているので管理職になっていないとされてきたが、職場の中にその原因があるのではないかと考えることも必要
管理職志向の下落傾向が女性の方が高い
職場内に、女性職を割り当てられ、リーダーシップを求められない状況があって、女性の管理職志向を下げていた。仕事の専門能力を高めたいという意識や仕事満足度、担当している仕事の状況にも影響されている ⇒ 男性の「将来」を踏まえた管理職志向のように、女性も「将来」を見据えた管理職志向ができるような育て方が必要ではないか
男性は現在持ってる人がもっと得るため、女性は現在手元にあるものを維持していくために管理職志向に繋がっている ⇒ 女性のほうが男性よりも働く状況が厳しい状況がある
女性の非正規雇用の比率が高い
転職は男女とも半数近くが経験しているが、転職理由は男性がより良い仕事という前向きな理由に対し、女性の場合はマイナス要因で転職する傾向がある
管理職になった女性から若い人へのメッセージ:
    やってみる。断らない。できないときは助けてと言えばいい。女性は完璧にできないとダメと思い込んでいる
    女性だから、育児があるからと言って仕事を辞めない方がいい。辞めたら戻るのは大変
    先駆者になることを恐れない。新しいことに積極的にチャレンジ
    想定外の波に乗る楽しさを考える。自分の枠を決めないで身を委ねる
    まずやってみる。人それぞれなので、自分なりの働き方で管理職を務める
管理職志向は置かれている状況に影響される ⇒ 仕事のあり方、仕事を通して求められるもの、得られるものなどに左右される
前提を持たず、職場のあり方を変える ⇒ 仕事と家庭の両立が大きな障害となっているが、実際に管理職になった女性の事例からはそうではない可能性が高い。管理職になると自分の裁量が増え、タイムマネジメントも自分で出来るようになる
真の女性活躍は、女性が現在の男性の基準に沿って仕事をして管理職になっていくことではない。女性が活躍できないことを考えるのは、男性の働き方や生き方を見直す機会でもある。女性が普通に働き続けることができる、そうして管理職になっていくことができる社会は、男性にとっても働きやすい社会である

第3章        性差を超えた新たなリーダーシップ構築を 本間道子(1941年茨城県生まれ。日本女子大名誉教授。専攻は社会心理学、産業組織心理学)
日本女性は仕事に対し後ろ向きの姿勢で、多くの女性がリーダーになりたい意図がないことが課題
リーダーと管理職との職階・役割・仕事内容は異なる ⇒ 用語を使い分ける必要
国を挙げて女性活躍推進を謳い、「2030」の政策も最近ではめったに聞かれなくなったのは、現実とのギャップの大きさの為か‽
進化心理学からは、女性が競争・支配・権力を望まないことが明らかにされている
女性の仕事に対する満足度は決して低くはなく、性差のパラドックスとなっている
男女の性差を冷静に見極め、前向きに捉える必要がある ⇒ 例えば、長期勤務は女性の生物学的側面から見てその条件は不利になり、昇進・管理職への道の妨げになる
女性の活躍推進が進まないのは女性自身の意欲の問題とする調査結果が多いが、就職前では男女に有意差はない
社会的規範によって差異化されたリーダーシップ役割論
社会的規範としてのジェンダーギャップ ⇒ 強固な性役割観が存在
ダイバーシティへの取り組みの動きも注目 ⇒ 多様な働き方、年齢・性差・国籍・宗教を超えた働き方への認識を高めることが必要
社会通念との闘い ⇒ 社会的バリアを超えること
偏見の原因の1つであるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の克服
偏見は一般的には一方向的で、嫌悪、否定的だが、セクシズムではその間にアンビバレント(相互矛盾関係、相互背反関係)な関係が立ちはだかることで、アンビバレント・セクシズムと呼ばれる
リーダーシップを担う者としての資質の向上は男女を通じて必要
    労働環境の変化で多様で柔軟な働き方が可能に
    性役割の柔軟さとダイバーシティの積極的導入
    Workからjobへ、仕事内容の固定化から流動化へ。女性の場合、特に長期的在職の難しさは、転職、ジョブ選択、組織従属からキャリア従属へと向かう
    個人レベルでは、仕事動機は多様化し、利益追求、拡張追求よりも、安定・自己達成感・自己充足感
    多様な職種・企業組織の導入・展開
よりよきリーダーシップ維持として、①学びの継続、②テクノロジーへの関心と知識、③マネジメント・スキル、④ネットワーキング作り、⑤ビジネスの知識と経験、⑥自信を持つこと、リスクを恐れないこと、⑦社会感受性の認識(企業は社会を構成する一員だという認識、CSR)

第4章        ダイバーシティー&インクルージョンの必要性とその課題 大沢真知子
性別役割分業の時代から、11人が自分に合った人生を選択する時代へと変化
多様な個人がそれぞれに尊重されて社会でその潜在的な能力を生かすためには何が障壁となっているのか ⇒ 社会規範の大きな変化にどう対応するか。既得権との闘い
その障壁を除去するためにはどうしたらいいのか
ダイバーシティー&インクルージョン  企業の命令に従って拘束的に働けるかどうかで従業員を分けるのではなく、従業員のニーズに合わせた働き方を職場が提供することで、すべての人が同じ職場でチームの一員として成果を出すことを目標とする新しい経営方法であり、ジェンダー格差の解消だけでなく、同じジェンダーの中で個人の違いを経営にプラスに活かすための試み
男女ともに既存のジェンダー意識を問い直す新たな段階に入った ⇒ 早い段階からジェンダー教育を行い、性差を超えて、個人の違いを尊重する新しい社会を作ることが必要であり、教育も含めて社会が価値転換をしていくその入口にいま立っている




なぜ女性管理職は少ないのか 大沢真知子編著 昇進阻む要因 多角的に探る
2019/5/4付 日本経済新聞
働く女性の数は増えているが、日本の女性管理職の比率は欧米に比べて低い。何が女性の昇進を妨げているのか。さまざまな研究やインタビューから処方箋を探った一冊だ。
https://www.nikkei.com/content/pic/20190504/96959999889DE6E6E1E7E5E6E1E2E1E2E2E6E0E2E3EB9F8BE5E2E2E2-DSKKZO4435744030042019MY7000-PN1-1.jpg
大きな課題に挙げるのは、性によるステレオタイプだ。男性には自信、強さ、支配などのイメージがあり、「リーダー=男性」という社会の意識も強い。こうしたイメージから解放されることが、パフォーマンスを高めることに必要だと指摘する。
女性自身の意識変革は、もちろん大事だろう。ただ女性が経験を積み、自己効力感を高めていくうえで、管理職の役割は大きい。仕事の割り当てや評価に、偏りが生じていないか。性差よりも多様性のなかの個人差をみるべきだという指摘は、多くの職場にもあてはまるだろう。
注目したいのは、性差別には2種類あると紹介していることだ。女性を敵視するような差別は、ある意味、分かりやすい。だがむしろ危険をはらむのは、一見、女性に好意的なような差別だという。
女性を保護されるべきもの、とみなし、その範囲でしか仕事を与えない、などとなるためだ。結果的に女性の自尊心を低下させ、昇進意欲を阻害する可能性があるという。セクハラ問題や入試差別など、最近の話題にも目配りが利いている。(青弓社・1600円)


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