安倍官邸 vs NHK  相澤冬樹  2019.5.11.


2019.5.11. 安倍官邸 vs NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由(わけ)

著者 相澤冬樹 大阪日日新聞(新日本海新聞社)論説委員、記者。1962年宮崎県生まれ。ラ・サール高卒、東大法卒。87NHKに記者職で入局。山口放送局、神戸放送局、東京報道局社会部記者、徳島放送局ニュースデスク、大阪放送局(大阪府警キャップ)BSニュース制作担当などを経て、12年大阪放送局に戻り、16年司法キャップ。18年退職し、現職へ。本書は初の著書

発行日           2018.12.25. 第1刷発行、  12.30. 第2刷発行
発行所           文藝春秋

世相を反映した話題の本

なぜ放送されないんだ!
政権を揺るがす「森友事件」の報道の最前線で活躍したNHKのエース記者が突如退職した。何があったのか?
著者は「森友事件」の発覚当初から事件を追い続けたNHK大阪放送局の司法担当キャップだった。次々に特ダネをつかむも、書いた原稿は「安倍官邸とのつながり」を薄めるように書き換えられていく。NHKでも検察でも東京vs.大阪のせめぎ合いが続く中、ついに著者は記者職からの異動を命じられた。記者であり続けるために職を辞した著者が、事件の核心、取材の裏側、そして歪められる報道の現在を赤裸々に明かす、渾身のノンフィクション。


はじめに
188月末31年間記者として勤めたNHKを退職
止めたのは、記者を外されたから。記者の仕事を続けるため、森友事件の取材を続けるために、大阪日日新聞に移る
森友事件は森友学園の事件ではない。国と大阪府の事件である。こう言うと違和感も持つ方が多いかもしれないが、おかしなことをしたのは森友ではなく、むしろ国と大阪府の方だ。なぜそう言えるのか? それを読者・視聴者に説明するのが記者の務め。そのためには、根拠を示すことが欠かせない
この本で私は、自分が森友事件をどのように取材し報道したか、そのプロセス、つまり記者の企業秘密を明かすことにする。根拠を示すためにそれが欠かせないと考えるからだ。取材源の秘匿との兼ね合いに配慮しつつ、取材先や関係各方面の方々のご理解もできる限り頂いて、極力明かすことにする。そして、森友事件の報道の背後で何が起きていたのか、森友事件の真の問題点は何かを明らかにしたい

第1章     森友報道は「忖度」で始まった
17.2.8.森友事件の発端となった豊中市議による情報公開請求を拒否されて提訴した記者会見を受けて書いた原稿をデスクが書き換え ⇒ 国有地払い下げの相手先である小学校の名誉校長に安倍昭恵総理夫人が就任しているというのがニュースの最大のポイントだったが、司法担当デスクが削除。全国放送用に東京報道局のネットワーク部署に送るべきと進言したが却下
翌日の朝刊で朝日が大きく報道、森友問題として火をつけたことになり新聞協会賞になったが、関西ではNHKが「ニュースほっと関西」で先に報道
わずか2日後には財務省が大幅値引きした売却額を公表
更に2日後、森友学園の籠池理事長が報道各社に対し個別インタビューに応じる ⇒ 籠池は饒舌にゴミ撤去費用はせいぜい1億円、購入価格も国が提示した134百万円の10回分割を現在の賃料より安いからありがたかったといって受け入れただけと話す
インタビュー原稿も関西だけの報道に留まり、原稿は東京に送られず

第2章     一転して大報道合戦~小学校認可の行方~
民報各局が大々的に取り上げるに至り、17日になって報道局の方針が一転。同日総理が「自分や妻の関与があれば議員も辞める」と発言したのを基に、政治部が原稿を書いたのが全国放送の最初のニュース ⇒ 最大の争点は学校の認可で、22日の臨時私学審議会では認可保留との記者会見だったが、各紙は「認可の方針」と書いてきた
安倍が急に態度を変えて籠池批判に回ったこともあったのか、籠池が逆襲に出て再度著者とインタビューに応じ、昭恵名誉校長就任の件も事前に承認を受けたと、首相答弁とは食い違う内容

第3章     クロ現製作ですったもんだ~けんかの末に仲間に~
「クロ現+」で313日放送が決まる ⇒ 問題は2点、1つは学校認可適当となった背景であり、もう1つは国有地の大幅値引き売却。大勢の公務員が関与しているところから通常の贈収賄事件ではない。途中で認可取り下げもあって揉めたが、疑問は引き続き解明に向けて努力するという形で放映

第4章     注目を集めた籠池理事長夫妻の人物像
著者の考える籠池像とは ⇒ 自身の信念に基づく独自の教育理念があり、その実現に全精力を傾けてきた教育者。伝統的価値観を重んじ、古典などの典籍に通じた教養人

第5章     国有地問題から補助金詐欺へ~焦点を移す検察の捜査~
国有地の格安売却は、財務省や近畿財務局の背任の疑いがあり、検察の捜査もそこが焦点になるべきだが、その頃から大阪府が森友の補助金不正を巡る情報をリークし始める
大阪府・市とも安倍官邸に近い維新の会がトップで、国のためにアシストした陽動作戦としか見えないにもかかわらず、検察の捜査は背任から詐欺優先に切り替わる

第6章     背任の実態に迫る特ダネに報道局長激怒
国有地売却前に、近畿財務局が森友との売却交渉の過程で、いくらまでなら買えるのか聞き出し、実際にもその価格以下で売っていることを突き止め、これまでの理財局長の説明とも食い違い、法令などに基づく国有財産売却手続きにも違反した可能性を突く内容の原稿を書いたが、国会会期中に加えて、新たに報道局長になった政治部出身の小池は安倍官邸に近く、政権にとって不都合なネタを歓迎するはずがないと言って上にあげてもらえず
会期終了後に検察の詐欺事件でのガサ入れがあり、その後漸く検察当局も内容を承知しているということを確認して記事を書き、726日特ダネとして放映されたところ、小池局長から聞いていないとのクレームが入り、忖度報道の本格化が始まる

第7章     籠池前理事長逮捕の舞台裏
特ダネの放送当日、籠池夫妻が事情聴取で検察に出頭
朝日以外は臆測でものを書き、その都度あり得ないとは知りつつ振り回された
最後逮捕をスクープしたのはNHKだが、現場の言うことを聞かずに出した東京社会部の勇み足により罪名を取り違えたため特賞は出なかった

第8章     取材体制変更で担当を外された私
7月の異動で通常2年やる司法キャップを、しかも森友の取材進行中にもかかわらず、突然外され、遊軍となる ⇒ 後任は、最初から検察回りはしないと宣言、森友事件でネタをとらず、原稿も書かなかったため、著者は1記者として取材を続ける許可だけ辛うじてもらう
大阪報道部内の忘年会では、大盤振る舞いの部長賞、取材特賞に値し、森友関連では受賞はおろか一言も言及がなかったのは、明らかに上の意向が働いたと思われるが、さすがにまずいと思ったのか年明けにワンランク上の大阪放送局長賞が関わった記者全員に出たのはせめてもの慰め

第9章     森友事件追及弁護団(仮称・阪口弁護団)の活躍
詐欺事件で籠池夫妻が起訴され、背任事件に次の焦点が移ろうとするときに出てきて存在感を増したのが、大阪を中心に弁護士や学者の有志200人余りが結成した「国有地低額譲渡の真相解明を求める弁護士・研究者の会」で、中心は坂口徳雄弁護士(71年学生運動華やかなりし頃、司法修習生を罷免され、2年遅れて弁護士になった人)
背任の要件をすべて満たしてはいないとして公務員の立件に及び腰の検察に対し、学者の意見も添えて法理論的に成り立つことを証明したが、不起訴処分は変わらず

第10章 近畿財務局職員の自殺が残した謎
1832日朝日が財務省による公文書改竄のスクープ
5日後に近畿財務局職員自殺、2日後に判明 ⇒ 亡くなったのは件の国有地売却交渉担当者の1人。半年前から心身耗弱で休職中だったが、改竄報道直後に財務局に呼び出されたという情報があり、更に遺書と詳細なメモが残され、メモには佐川理財局長など実名入りで改竄が強制されたことが記されていたため、実名は伏せて独自ネタとして放送
財務省は検察にも改竄後の文書を提出、改竄前の文書は破棄
遺族の許には、かつて近畿財務局に金融証券検査官として勤務していたという弁護士が張り付き、取材を拒否 ⇒ 近畿財務局からの手が回ったのか?

第11章 「口裏合わせ」の特ダネに圧力再び~プロの記者はこうして取材する~
著者の取材の手法と取材先とのやり取りを明かす
公文書改竄の特ダネで、クロ現に替わる緊急特番を出そうとしてディレクターやプロデューサーが集まったが、まだ事実関係がはっきりしないと横やりが入り頓挫。漸く4月初めのクロ現での放映が決まる ⇒ 新事実としては、ごみの搬出について財務省側から虚偽の口裏合わせを持ちかけていたことで、直接担当していた財務省担当課長補佐の裏も取ったが、小池に妨害されニュース7の最後に目立たない形で流されただけで、クロ現からも落とされた
更には、自殺した職員の扱いで、麻生大臣の国会での発言に疑問を呈する趣旨の言葉をスタジオでデスクが解説する形にまでなっていたが、公文書管理の新たな取り組みという本筋とは無関係の話を入れて本題をぼかしてしまった。解説するデスクを番組から外すということまで言い出し、さすがにそれは元通りとなったが、これだけ露骨な圧力は初めての経験

第12章 強者(つわもの)記者列伝~5本の指に入る記者と、もう一人の優れもの記者~
記者の取材一般について
デスクの仕事は記者を取材すること
97年神戸連続児童殺傷事件で少年A逮捕の特ダネをキャッチした女性記者。発達障碍の特集シリーズで坂田記念ジャーナリズム賞獲得。過労から倒れ、復帰はしたが後遺症が残り、労災は認められたが著者は管理者として責任

第13章 個性豊かな検事たちとの愉快なやり取り

第14章 急転直下の検察捜査、財務省は全員不起訴 ~そして私は記者を外された~
毎日が「全員不起訴へ」との記事掲載。また振り回されるが、観測記事と判明するも、検察の意向は依然不透明 ⇒ 最終は5月末に全員不起訴処分確定
その直前、著者は記者を外すとの内々定を受けた ⇒ 他の番組の提案票に著者の名前が載っていると報道局長が敏感に反応していたことから異動は覚悟していたが、考査部と言われて退社を決意
最後の特ダネが「全員不起訴処分」、テレビ画面にスーパーが出て、取材特賞
「ニュースほっと関西」で記者解説のため出演、その時使える言葉を引き出そうと直前の検察山本特捜部長の記者会見に臨んで質問をしたが、真相を解明したと言いながら、その真相は明らかに出来ないとはぐらかされた。だからこそ公判に持ち込んで明らかにすべきにも拘らずだ。不起訴で検察庁が説明をするのは異例だが、問題の真相が明らかになっていないというのは変わらず、一連の問題を提起したグループは近く検察審査会に申し立てを行なう方針だ、と生放送のアドリブで説明

終章 NHKから大阪日日新聞へ~森友事件の取材は続く~
転職先として朝日を紹介してくれる人がいたが、朝日は森友で使うつもりはないところから、それではNHKを辞めた意味が無いので破談。
大阪日日の吉岡社主に知人を通じて面会し、取材費と他の媒体に大阪日日新聞記者の肩書と実名で記事を書く副業を認めてもらって入社。オーナーは90歳で再建を何件も手掛けて来た人で、鳥取の地元紙、日本海新聞を発行する日本海新聞社のオーナーでもある。NHKの言論封殺の不条理に憤り、自由に書くことを認めてくれた
最後に小池にも挨拶して退社。小池は鳥取を出発点サツネタで全国放送の特ダネを飛ばす管内ピカ一の記者だったが、上に行ってからは制作現場にあまりにも細かく口出ししすぎる。Kアラートと揶揄されるに留まらず、NHKの報道を蝕んでいるとの懸念を禁じえない
森友事件は、小学校をつくるために国と大阪府が動いたもので、両者の責任者には説明責任がある。著者がNHKを辞めた最大の目的はその謎を解明すること。大阪日日で解明を続ける

あとがき
転職を決めた後、旧知の神戸新聞記者に森友関連で雑誌に記事を書きたいと相談、紹介してくれたのが週刊文春の編集長から編集局長に昇格していた新谷氏。すぐに本を書くことに話が拡大
プロの記者の仕事よりネット上のあやふやな情報の方が信じられている世の中の現状は、報道への不信であり、民主主義の根幹を揺るがすものだが、マスメディア側の責任も大きい。31年間マスメディアにいた者として、説明責任を果たすためにこの本を書いた




森友スクープ記者の内部告発本『安倍官邸vsNHK』 NHKの反論後に売上アップ
 安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由
相澤 冬樹 
価格:1,620円(税込)
 1226日トーハンの週刊ベストセラーが発表され、単行本 ノンフィクション・教養書他第1位は『日本国紀』が獲得した。
 第2位は『新・人間革命(30)(下)』。第3位は『安倍官邸vsNHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』となった。
 3位の『安倍官邸vsNHK』は元NHKの記者がNHKの内部事情を明かした一冊。著者の相澤冬樹さんは2017年に大きく報道された森友問題を追いかけ続けてきたが、NHK内部では政権への忖度が働き続けていたと綴る。NHK内部では上層部からの命令で記者たちの原稿が書き直させられることや、報道順を下げ目立たないようにするなどの様々な手段で政権への忖度がなされてきたことが当事者の言葉でリアルに綴られている。同書が発売された約一週間後の今月19日にはNHKの編成局計画管理部長が「虚偽の記述が随所に見られる」(朝日新聞報道より)と反論し話題となっている。この反論が報道されたことで同書にもさらに注目が集まり、先週5位よりランクアップで今回の順位となった。


NHKが“森友スクープ記者”告発本に卑劣攻撃! 圧力暴露を「虚偽」「ルール違反」とイチャモン恫喝、内部では口止め会議
2018.12.21 12:30
『安倍官邸vs.NHK』をめぐり、“Kアラート”報道局長が会議で…
「民進党(当時)のO議員がなぜか永田町で『きょうNHKが森友の特ダネを出すから見ろ』と言って回っているらしいんですよ。そのことが政治部を通して報道局長に伝わって、局長が『野党に』情報が漏れていると激怒しているんです。今、(K)社会部長が懸命に説得していますから、ちょっと待ってください」
 結果として、放送開始10分前にXデスクから再び電話が入り、なんとか『ニュース7』で報じられた。しかし、これだけの特ダネにもかかわらず、トップではなく、なんと6番目の扱い。「東京で初夏日観測」という話題よりも後ろだった。それだけではない。その日の『クローズアップ現代+』には、結局、この特ダネは使われなかったのだ。相澤氏はXデスクから電話でこう告げられたという。
「クロ現にはこのネタは入りません。O議員が『ニュース7にもクロ現にも出る』と言っていたので、(小池)報道局長が『野党議員の言うままに放送できるか!』ということで、クロ現での放送は流れました」
 このように、相澤氏の著書には、不可解にスクープを弱められたり、上層部からの圧力が相次いだことが克明に記されている。
 しかし、前述のとおり、NHKは今回、同書に対して「虚偽の記述が随所に見られる」などと異例の攻撃を展開した一方、定例会見でも具体的な記述については一切触れず、本サイトの取材に対しても「お答えしていない」と突っぱねるだけだった。なぜなのか。NHK関係者が声をひそめる。
「どこが『虚偽』だなんて具体的に言えるわけがないんです。実は、相澤さんの本については、発売日の13日に報道局の編集会議で取りあげられていて、小池報道局長の『私の意向で報道内容が恣意的に歪められたことはない』という発言に続き、例の『虚偽の記述が随所に見られる』という発言があったんです。しかも発言したのは他ならぬ、本で、特ダネを出すために小池報道局長と駆け引きをした『K社会部長』とされている人。いまはその上の編集主幹というポストです。当然、相澤さんと一緒に仕事をし、苦楽をともにしてきた同僚は、小池報道局長からの圧力などを身をもって知っている。でも、組織の人間ですから……。上司から詰められて『はい、本の内容は事実です』とは口が裂けても言えない。編集主幹(元社会部長)の発言も、そう言わざるを得なかったんでしょう。会見で述べた計画管理部長のコメントはそれを繰り返しただけ。がんじがらめですよ」
 巨大組織の同調圧力──。そのNHKの内情こそが、政治権力を忖度した上層部を、現場が忖度するという“負の連鎖”を生んでいる。こうした体制から変わらなければ、政権にマイナスな報道はどんどん“自粛”されていくばかりだ。なにが「公共放送」か。NHKを辞めざるをえなかった一人の記者の話ではない。このままでは、わたしたちの「知る権利」は完全に闇に葬られてしまうだろう。
(リテラ 編集部)




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