パワー・オブ・クリエイティビティ  Sir Ken Robinson  2019.5.8.


2019.5.8.  パワー・オブ・クリエイティビティ 個性と才能を思いっきり引き出そう
Out of Our Minds ~ The Power of Being Creative (3rd Edition 2017)

著者 Sir Ken Robinson 人や組織の「創造のエネルギー」を解放するために、政府、教育施設、国際機関、国際的企業、世界有数の文化財団と協力して活動。イギリスはじめヨーロッパ、アジア、アメリカで、創造と文化の教育に関する全国及び国際的なプロジェクトを率いてきた。名高いTEDカンファレンスでの06年の講演「学校教育は創造性を殺してしまっている」は、インターネットで4600万回以上再生され、160の国で推定4億に視聴されている。『The Element: How Finding Your Passion Changes Everything』は、ニューヨークタイムズ紙のベストセラーリストに掲載。23か国に翻訳され、世界中で100万部売り上げ。Finding Your Element: How to Discover Your Talents and Passions and Transform Your Lifeもニューヨークタイムズ紙のベストセラー

訳者 尼丁(あまちょう)千津子 翻訳家。神戸大理学部数学科卒

発行日           2018.10.29.  1版第1刷発行
発行所           日経BP

すべての人間には大きな想像力がごく自然に備わっているというのが私の議論の出発点
課題は、その能力をどう伸ばすかです

はじめに――第3版発行によせて
最初に書いたのは2000年のこと。全面改定の第2版が2011年、第3版も全面改訂
本書を書こうと思った一番の理由は、変化の速さや状況により、私たちが自分自身について、教育について、企業や団体の運営方法について、考え直さなければならなくなったからで、変化の速さはかつてないほどすさまじくなった
2つ目の理由は、過去の版で指摘していた問題の緊急性がますます高まったこと ⇒ 世界の複雑化により、問題への対処にますます創造性の発揮が求められる

第1章        創造性を解き放とう ~ 「自分には創造力がない」という人は、想像力が何であるかをまだわかっていない
どこに行っても不思議に思うのは、子どもたちの大半が自分は創造力が豊かだと思っているのに対し、大人たちの多くは自身には創造力が欠けていると感じていること
社会の動きがより早くなるにつれて世界中のどんな組織も、創造的に物事を考え、意思疎通能力に優れ、チームを組んで仕事ができる人材、何事にも柔軟に対応して素早く適応できる人材を求める
本書の目的は以下の3点:
    創造力を豊かにすることが、なぜ最優先の課題なのか?
    問題は何か? 何が問題で、成長するにつれて「自分は創造力に欠けている」と思うようになってしまうのか
    創造力とは? 創造力は誰にでも備わっているのか、それを高めるための方法とは?
すべての人間には大きな想像力がごく自然に備わっているというのが私の議論の出発点
課題は、その能力をどう伸ばすか
創造する文化を根付かせるためには、選ばれたごくわずかな人だけではなく、あらゆる人を巻き込まなければならない
この本のテーマは以下の3つ:
    いま大きな変革の時代に生きていること
    才能や能力に対する考え方を改める
    学校や企業の運営方法、社会での活動方法を変えなければならない
直近の課題は、21世紀に本当に求められていることに応えられるよう、教育制度を全く新しいものへと生まれ変わらせること。そのために必要なのは、人間の知性と創造力に対する、これまでとは根本的に異なる視点
昔の時代の常識は今の時代にそぐわない。新たな事態に対処するには新たなる思考と新たなる行動が必要、そのためには自らを解き放たなければならない ⇒ 将来を予測できなくても、より良い未来を形作るための役に立てる

第2章        変革に向かって ~ 2040年頃には、我々の脳はどこかのコンピュータにバックアップされているだろうから、死ぬことは精神が生き続けるための大きな障害ではなくなるはず
インターネットは、これまで考案された中で最も普及していて影響力の大きい意思疎通の手段
進化の過程が加速するのは、一つの進化がさらなる進化への手段を自ら講じるから
技術の発展は、変化の原動力の1
人類の直面する難題解決に向けて、人間だけに備わっている能力、即ち、想像する力、創造する力、革新を起こせる力を磨くことが重要であり、教育や訓練の最優先課題

第3章        教育の問題点 ~ 現行の教育制度は、私たちがいま直面している難題に対処するために考え出されたものではない。それは、前の時代の必要性を満たすために作られたもの。つまり、教育制度を改革するだけでは不十分で、一新しなければならない
教育を将来起きることに対する準備と見做してしまうと、「人生の最初の1618年間はリハーサルではない」という事実を見落とし兼ねない。若い人たちは、今この瞬間の人生を生きているのだ
現行の国による集団教育制度は、別の時代の別の課題を解決するためにつくられたものであり、現在直面している課題に対応するためには新しく作り直さなければいけない

第4章        学問という幻想 ~ あらゆる真実は真実と言われるまでに3つの段階を経る。まず、嘲りを受ける。次に猛烈に反論される。そして、昔から当然であったかのように受け入れられる
コペルニクス、ガリレオ、ケプラーは過去の問題を解決したわけではない。彼らは新たに問いかけたのだ
好成績には、生まれつきの才能と同じくらい、解決に必要な手法を知っているかどうかが関わっている

第5章        頭と心のなかを知る ~ 現在の人間社会は、これまでにも増して、一つの意味に限定された能力ではなく、様々な才能に依存している
あなたを通じて動きに変換される生命力がある。それは活力、エネルギー、胎動ともいえるかもしれない。どんな時もあなた1人しかいないので、その表現はあなたにしかできないもの。もしあなたが阻んでしまうと、それは他の誰かを通じても存在することはできず、失われてしまう
子どもたちが成長するにつれて、脳は使われている能力とそうでない能力に応じて変化していく
現在の人間社会は、これまでにも増して、1つの意味に限定された能力ではなく、様々な才能に依存している

第6章        創造性豊かであるとは ~ 人は何らかの表現手段を持って、自分の中の真の創造的な力を見つけて本来の能力を発揮できる。自身の創造性に気付けるよう支えることが、その人の最高の力を引き出す最も確かな方法だ
人間は少なくとも1つの点において、地球の他の生物と根本的に異なる。私たちには想像する能力がある。その結果、私たちは無限の創造力を手に入れた
想像力は知覚を通して認められない物事を思い浮かべられる能力であり、創造とは、想像をかたちにすること。ある意味、創造は想像の応用
創造とは、価値のある独自の発想を発展させる過程
間違える覚悟がなければ、誰にも真似できないものを創り出せる可能性は極めて低い
正しいタイミングと正しい方法であれば、批判的な評価は極めて重要。しかし、タイミングを間違えると、新たな発想の芽を潰し兼ねない
創造力を発揮する過程には様々な段階がある。一度に最終版をつくりだそうとするのは、たいてい無理。これが理解できないと、自分には創造性が全くないと思うようになり兼ねない
知性は多様性が高く、動的かつ特徴的。創造力を発揮する過程も同様。人間が知的活動を行ういかなる分野でも行われ、その中から活発な繫がりをつくることが重要で、生み出されるものは常に何らかの形で独創的。創造力はその人が単に持っているかいないかだけの単独の能力ではなく、心の様々な動きや能力、技能の組み合わせ、その人の特性が関わってくる。創造力は基本的に人間にしか備わっておらず、私たちの物の見方、考え方、物事のやり方に別の可能性を絶えず与えてくれる

第7章        これまでよりいい感じ ~ 創造性を発揮するということは、考えるだけではなく、感じることでもある
どんな創造的取り組みにおいても、美は強い力。音楽家、詩人、ダンサー、デザイナーにとってそうであるように、科学者や数学者にとっても同様
自己啓発の2つの試金石は、個性と真正性
感じることは人間の意識の側面の1つで、途切れることはない。存在することは感じることでもある
どんな分野においても、考えることと感じることの関係は創造性を発揮する過程の中心をなす。それは芸術や科学でも同じ
芸術家と科学者で異なるのは、興味の対称ではなく、その対象にどういった興味を抱くか
私たちは理性だけではなく、理性と感情の両方を通じて漸く、自分の本当の創造力を見つけられる。この2つを通じて人々と繋がることで漸く、人間の文化という複雑で変化の激しい世界を創造できる

第8章        あなたはひとりぼっちではない ~ 個々の創造性はほぼ必ず、他の人々の取り組み、発想、成果に刺激される
人間の文化が複雑で多様なのは、人間の知性そのものが豊かで創造性に満ちているから。知性と同じく、文化も多様性が高いだけではなく、動的でもある
文化的な変化の興味深い特徴は、新しい技術がいっとき、それまでの決まりきったことを繰り返すために使われがちだということ
技術と創造性には、絶えず続く相乗効果がある ⇒ 新しい技術は、創造的な取り組みにかつてない可能性をもたらす
文化の動的な特徴の中で最も鮮明な例は、使用されている言語が進化する速度 ⇒ もしシェークスピアが、現代のロンドンに現れたとすると、彼はほとんど読み書きが出来ないと思われる
theoryと価値体系ideologyの相互作用 ⇒ 説が受け入れられるのは、有効だからというだけではなく、需要を満たすものでもあるから
文化cultureという言葉には、成長や発達という有機的な意味も含む ⇒ 人間の文化はそこに暮らす人々の思考、感動、行動を通じて常に進化している
創造とは、つながりを作ること。通常は単独での取り組みよりも共同での作業のほうが、その原動力になる

第9章        創造性を引き出すリーダーとは ~ 革新を起こせる文化を創造するためには、組織のトップが主導権を握らない限り上手くいかない。環境を整えるのであれば、リーダーの支援と関わりは極めて重要
革新を起こせる文化が実現できるかどうかは、互いに関連する以下の3つの過程を身につけることにかかっている
    想像 ⇒ 知覚では認められない物事を思い浮かべられる能力
    創造 ⇒ 価値のある独自の発想を持つこと
    革新 ⇒ 独自の発想を実行に移すこと
組織は機械ではないし、人は部品ではない。人には価値観、感情、感覚、意見、動機、これまで生きてきた証があるが、歯車や鎖歯車の歯にはそうしたものはない
創造性豊かなリーダーの仕事は、組織外と組織内の文化の持続可能な関係を促進すること
創造性を引き出すリーダーになるためには、「個人」「集団」「文化」という3つの分野で戦略的な役目を果たさなければならない
    革新を成功させるためには、1つの部門が単独で行うのではなく、組織全体で行うものと考えることが重要 ⇒ 全構成員の創造力を高める
自分の「エレメントにある」ということは、才能だけではなく、情熱、つまり自分の仕事を愛することも関係している
    革新は想像の産物 ⇒ 創造性を発揮するために必要なのは、ひらめきだけではなく、技能、策、材料の管理と活用、厳しい検討を繰り返す過程が必要
    創造性をより豊かにする方法は習得できる
    想像力は多様性によって成長 ⇒ 創造性豊かなチームや社の全従業員にとって、多様性は有力な財産
    創造には共同作業が必要 ⇒ 大半の人にとって、自分の創造への欲求に対して否定的な意見を出されたり、冷笑されたり、素っ気ない反応をされたりすると、その欲求は抑え込まれてしまう
    創造は時間がかかる ⇒ 創造性は、関係がないと思われているところから来たアイディアはまともに受け止めないという姿勢によっても抑制され兼ねない
    創造的な文化は柔軟 ⇒ どんな場合でも、革新を起こすためには、リスクの計算が必要
    創造的な文化は問いかけの場
    創造的な文化には創造できる空間が必要 ⇒ 従来のオフィスビルや職場のデザインは、19世紀のものに基づいている
自身に属する人々を最大限に活用している組織では、その人々も組織を最大限に活用できる。それが革新の力であり、創造性を引き出すリーダーに常に期待される力

第10章     創造性を発揮する方法を学ぶ ~ 教育は将来の準備のための、単なる連続的な過程ではない。才能や感性を育てながら現在の自分が今を最高に生きるためのものであり、将来を自分の手で創造するためのものでもある
教育を一新する ⇒ もし生徒が学んでいなければ、教育は成立していない。目的をはっきりさせることが極めて重要
すべての生徒に個別の教育を受けさせることは可能。その方法の1つは、新しい技術を創造的に利用すること
どんな教科においても、創造性は発揮できる。だからこそ、教育全体にわたってそれを推し進めなければいけない
「励ます」「見極める」「育むは、創造性を目指して教えるための教師としての3つの務め

おわりに ~ 教育と訓練は未来への鍵。鍵は1つの方向に回すと、能力を閉じ込めてしまうが、もう一方に回せば、能力を解放して、それぞれの持ち主に返すことができる
教育、ビジネス、社会において、これまでとは異なる能力の捉え方が必要
産業革命以後の教育は、生産性を高めようとして、創造や革新に当然必要とされる極めて重要な人としての要因である才能や資質の一部を過小評価していた ⇒ 異なる才能や情熱がいかに支え合って互いを高めているかに気付かず、社会のバランスを台無しにしてしまった


パワー・オブ・クリエイティビティ ケン・ロビンソン著
伝統教育から生まれぬ発明
日本経済新聞 朝刊
201915 2:00 [有料会員限定]
発明やイノベーションは既存の、あるいは規定の教育からは生まれにくいことを全編を通じて書いている。
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196070年代のロックンロールは当時の伝統的な音楽学校の枠外で生まれ、世界中に広がった。ビル・ゲイツのパソコン用基本ソフト(OS)やスティーブ・ジョブズのスマートフォン(スマホ)もそうだった。「すべては伝統教育の否定から始まる」という著者の主張は絶対的真理ではないにせよ、説得力がある。
面白いのはロックの担い手の話だ。彼らのうち、音楽活動の後に大学など高等教育に進んだ者が選んだコースは、多くがサイエンス(自然科学)ではなくアート(芸術・教養)だったという。「自然科学は頭でっかちだ」と受け止められ、イノベーションの担い手には不人気なのだそうだ。
それで思い出されるのが、経営学修士(MBA)の人気低下だ。背景にあるのが、ファインアートの修士コースの人気らしい。「経営にもストーリーやデザインを」というのが最近の欧米での潮流なのだそうだ。著者が優れているのは、原著第1版を書いた2000年時点でそれを予言していた点だ。それほど前からデザイン経営の時代を見抜いていたとしたら、その眼力には敬服したい。尼丁千津子訳。(日経BP社・2000円)
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