問題だらけの女性たち  Jacky Fleming  2019.4.27.


2019.4.27. 問題だらけの女性たち
The Trouble with Women             2016

著者 Jacky Fleming 漫画家、イラストレーター。リーズ大卒でファインアートを学んだあと、独自の漫画ポストカードで注目を浴びる。長年にわたり様々な新聞や雑誌に作品を発表、これまでに本書を含め7冊の漫画を刊行。ヨークシャー在住

訳者 松田青子 兵庫県生まれ。作家、翻訳家。同志社大文英文科卒

発行日           2018.3.20. 初版印刷         3.30. 発行
発行所           河出書房新社

「誰の言葉も鵜呑みにするな」 王立協会のモットー

かつて世界には女性が存在しなかった。だから歴史の授業で女性の偉人について習わない。男性は存在し、その多くが天才

その後、女性が少しだけ誕生したが、頭が小さかったので、刺繍とクロッケ以外のことは何もうまく出来なかった

女性は時には試験を受けることを許されたが、何の資格も取得できなかった。頭が小さかったから

ごくまれに、外国語を学び、留学し、医者の資格を得て帰国する女性もいたが、女性を外に出すとろくなことにならないのが証明されただけ

女性は夜よく目が見えなかったので、外出は許されず。どこに連れて行くにも感情的過ぎたので、たいていは家の中でしくしく泣いていた、時にはヒステリックに

ダーウィンによると、女性を家に閉じ込めておけば、男性のように結果を残すことが出来ないので、女性が生物学的に劣るのも必然だそうです

長い間黒人女性はいなかった。例外はヴィクトリア女王に育てられたサラ・フォブス・ボネッタで、知性に溢れ気が強かったので悪いお手本にならないようさっさと結婚させられたため、歴史の授業でも習わない

ヴィクトリア女王自身も珍しい例。誰の手助けもないのに何か持てている

当時の女性たちは「家庭の玉」の中で生き、育児やボタン付けなど大して大変じゃない仕事をしていた

使用人のいる女性たちは刺繍に打ち込む余裕があった

家庭の玉から飛び出した女性な堕落した女性として知られる。6722人いた

堕落する方法は、髪を横分けにする、自分の意見を持つ、思うだけに留まらずはっきりと口に出す、出産して処女じゃなくなるなど

ルソーによると、娘たちには人生の初期に挫折させてやる必要がある。そうすれば男性を喜ばせるという女性の自然な役割がより自然にできるようになるから。ルソーは自分の子どもたちを孤児院に入れ挫折させてやった

少数派の女性は、馬などに乗って家庭の玉から飛び出したが、性に目覚めないように横乗りしなければならなかった

スカートが車輪に巻き込まれるのが煩わしくなった女性は、ブルマーをはいて自転車にまたがり、レズビアンになった。ブルマーの着用は、アメリカのチャタヌーガで違法になる

女性は運動に不適。速く走れず、すぐ熱くなりやすい体質に加え、運動中の事故によって永久に処女喪失する危険もあった

水泳も自然なことではなかった。フランネルの分厚い水着で溺れた。この水着は風邪を引くのを防いでくれると同時に貞操も守ってくれた

クーベルタン男爵によると、女性の姿はボールを投げるより拍手をしている方が自然

オリンピックも第5回になると女性の水泳チームが出来た

女性が水中で手をばたつかせるのは、1960年に入ってから、非常事態の時だけ許されるようになった

その頃アメリカには、アニー・オークレーが、夫が手に持った煙草の灰を撃ち落とすことが出来た。オリンピックの試合じゃなかったのが残念

ナン・アスピンウォールは馬に乗ってアメリカを横断。ゴールはニューヨーク市庁舎の12階で、これもオリンピックの試合ではなかった

当時の女性は精神薄弱で教育を必要としなかった

娘たちは刺繍のステッチを60種類覚えてしまうと脳みそがパンパンになった

兄弟がいる場合は、兄弟の受ける教育を盗み聞きし放題。耳を覆う髪型は盗み聞きの邪魔

ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの時代から、ジェイン・オースティンの時代にわたる700年間、女性がものを書くことは冷ややかな目で見られた。書くことは考えることでものを考えることは出産の妨げになるから

女性たちはペンを持ち上げると疲れてしまい、それが原因で貧血症になり血液の循環を妨げられ、子宮脱になることもあった  コルセットのせいでは?

呼吸が困難になっても、コルセットをしないとまっすぐ立っていられないし、そのおかげで病的に可愛らしく見えた。内臓が少しぺちゃんこになったくらいなんだっていうのか

自転車に乗ると、女性の足は男性の足になって、とても見られたものではない

男性の足をしていると、計り知れない衝撃を初夜に引き起こしかねず、結婚の成立が危ぶまれた

勉強をすると、目だって毛量がへるふくさようもあった。アンナ・マリア・ファン・シュルマンも若いころ髪の毛はふさふさしていたが、多数の外国語やガラス工芸、肖像画技法も学んだ後の肖像画ではどう見ても髪が減っている

アフリカ人の奴隷、フィリス・ホイートリーが詩を書くと、18人の男性が現れ、そんなことが可能なのか見極めようとした、男性のふりをする方が楽ちんだった

ラスキンの言葉「女性の知能は発明や創造には向いていない。男性を讃えるのが天職だ」

女性の脳には創造性をつかさどる部分が欠けている。広く知られている女性の芸術家は2人、いや3人しかいない。女性らしい手による弱々しさが特徴

弱々しい手は限られた時間しか絵筆を握っていることが出来ない

まあまあの芸術を生み出すことは出来ても、傑作は無理で、傑作は男性だけのできること

批評家たちは絵の作者が分かった瞬間、女性の手による弱々しさを直ちに見つけ出した

マリアンヌ・ノースのような少数派の女性は、世界中の花の絵を描いて回った。付き添いなしで

女性による芸術は時として、うっかり評価されてしまうことがあったが、その間違いは歴史のごみ箱に捨てることで簡単に修正できた

女性たちは何千年にもわたり、歴史のごみ箱の中からお互いを回収し合っている

ピカソのような女性画家が生み出されなかったことは、ピカソのミューズたちの自殺率を鑑みると、ホッとすべきことなのかもしれない。ピカソによれば、女性の存在価値は苦しむことだそうで、針仕事や拍手することよりは斬新なアイディア

ショーペンハウアーによると、女性は芸術や他のいかなる分野においても、真に優れた、独創的な偉業を成し遂げることが出来ないという。それは天才の髪型をしていないせいで、アインシュタインやベートーヴェンを見ればわかる

ダーウィンの同僚ジョージ・ロマネスによると、女性は脳の大きさが5オンス分小さく、知的に劣る存在ではあるが、カーテンやクッションを作ること、がっかりすることにかけては秀でているそうだ

女性が天才の髪型をしていると、情緒不安定に違いないと疑われ、精神病院に入れられる恐れがあった

ダーウィンの提唱した性選択により、馬(の尻尾)みたいな髪型が流行

マリー・キュリーは女性の誕生以来、唯一の女性科学者。女性の生殖器は理性を失わせるので、娘たちは科学を学ぶことが許されなかったし、抽象的思考を用いてもカーテンは壁にかからない。昆虫採集は自宅の庭でもできるので、認められていた

メアリーポールの標本は膨大な量だったので、男性科学者たちが見物に訪れ、メアリーの観察眼の確かさを認めた。こんな女性もいる

ハーヴァード大教授のエドワード・クラーク博士によると、若い娘が熱心に学んで成功することは可能だが、その後の人生において健康を損なうことになり、生まれてくる子供たちは萎びているだろうとのこと

科学を学ぶ女性は、髭が生える危険をも冒していた。カントが指摘したように、もし女性に髭が生えていたら、「異性を惹きつける最大の魅力を失う」ことになっただろう

エミリー・デュ・シャトレは、9桁割る9桁の計算式を暗算したので、危うく髭が生えたり、生殖器を駄目にしかけたそうです

ダーウィンは、男性の髭は自然選択によるものかもしれないと示唆したが、ハゲやハゲる理由についてどう考えていたかはわからない

科学を学ぼうとする女性にはほかにも障害があった。大きなスカートの幅とか

女性は概して科学界から歓迎されていなかった。場違いに見えたから。女性は科学が出来る、なんて間違った印象を与えかねなかった

モーパッサンが指摘したとおり、いかなる女性のいかなる試みもやるだけ無駄だった。彼によれば女性には2つの役割があり、愛情と母性というどちらも微笑ましいものだ。ラジウムとポロニウムを単離させることではなく

女性はヴァチカン天文台に入ることを禁止されていた。昼間は入れた。女性が機材に近づくことが出来るようになったのは、衣服が柔軟な素材になってから

持ち物を背中の側に動かせば女性は人の手を借りずにものに触れることが出来るようになったが、18811889年の間は座ることが出来なかった

ショーペンハウアーによると、男性だけが天才に不可欠である完璧な客観性を備えており、過度に精神的だったり肉体的な労働に女性が向いていないのは体型からも明らか

数学者エミー・ネーターはがっしりした体型の持ち主。アインシュタインはエミーのことを最も重要で、創造的な、数学の天才だと評したが、、、、、どうせ女性の誕生以来という意味であり、世界が誕生してからという意味ではないだろう。エミーは実のところ全くの無償で教えていた

生徒たちはエミーの外見に文句を言ったが、エミーは気にもとめず。エミーの小さな脳みそは美しい宇宙の対称性ですでにパンパンだった

代数をやり過ぎて将来をふいにする前のエミーがいかに可愛らしい外見をしていたかは見ての通り。これが女性の問題で、いつでも度を超しちゃう

マリー・キュリーは、その後も研究室で着られるように暗い色のウェディングドレスを注文

何人かのヒステリー症の女性たちは医者になりたがりさえした。必要なのは明らかにペニス羨望の治療だったわけだが、天才ことフロイトにまだ発見されていなかった

フロイトはこの絵を壁にかけていた。シャルコー教授が女性専用の精神病院で行ったヒステリーの実演を描いたもの。医者は男性、催眠状態にある女性の患者は魅力的、シャルコー教授はマーロン・ブランド似であることがこの絵からわかる

フレデリック・カーペンター・スキーは、ヒステリックに関する講義を行い、典型的なヒステリー患者とは、自我の強い女性のことで、度胸に満ち溢れ、恐れ知らずの乗りてだという。それって挫折させられなかった女性ってこと

フロイトの絵の中のヒステリー患者こと、ルイーズ・オーギュスティーヌ・グレーズは、シャルコー教授に写真を撮られたり、火曜日の公開授業で見世物になったりするのにうんざりして、男装して病院を抜けだし、その後消息は不明

ヘンリー・モーズリーは医学を学ぶと胸がしぼみかねないと女性たちに警告。彼はメキシコ后妃カルロータの相談役であり、威厳ある髭を好む。晩年は神の髭が自慢

医師と医学生は女性の胸がしぼむのを防ごうと最善を尽くす。試験会場に入れないよう立ちはだかったり、試験会場に羊を放ったり、誹謗中傷のため匿名の手紙を投函

最初に医者として認められた4人の写真(岡見という日本人もいた)は、性的魅力を失っていた。この悲劇は簡単に避けられた。もうすでに医者はたくさんいたのだから

厳密には、4人は最初の医師ではない。マーガレット・バルクレイは、貧困を乗り越え男装して生きる選択をし、優秀な軍医ジェームス・バリーとなった

ロマネスは「我々が男性的な精神と呼ぶ、逆境をものともしない強靭な持続力や信念を持った女性はほとんどいない」「言い換えれば、女性はたいてい集中力に欠ける。女性の精神は散漫になりやすく、男性が普通に成し遂げられるのと同程度にまで女性が学問や研究に精通していることは滅多にない」という

奴隷だったエリザ・グリアは、教師と医師の資格を習得するまでの14年間、勉強と海神を毎年交互に行っていた。まさにロマネスが言うように男性的な持続力の欠如のいい例なので、エリザのことは学校では習わない

1840年の反奴隷制会議の初日は、女性代表団の参加を許可するかどうかの議論に費やされ、参加は認められなかったが、傍聴人としてカーテンの後ろに座ることは許された

この出来事がフェミニズムの第一波に繋がり、2000年にもわたる女性が特筆すべきことを何一つとして成し遂げていない時代に終わりをもたらした   

第一波の前のたくさんの波はゴミ箱の中

男性だけが意思決定できる進化レベルに達した。男性は何を決定するか決定するほかなく、それから自ら投票した。1875年には、法的に結婚できる年齢を12歳から13歳に引き上げた

女性は大人になっても乳歯が生えたままだったので、「社会の玉」に入れてもらえなかった。どのリボンを買うか、それとも男性として生きるか、選択する自由はあった

ショーペンハウアーは簡潔に、女性は大人になっても子供のままだと述べる。「子どもと本物の人間である大人との中間段階ってとこ」

まあ、女性の進化なんて、まだ途中みたいなもの

ダーウィンによると、著名な男性と著名な女性のリストを比べれば、男性がすべてにおいて優れていることは明白だそうだ

人数で比較するなんて、与えられた証拠と、自然に選択された女性より5オンス分多い客観性をもとに天才がたどり着いた結論としては、首を傾げざるを得ない。でもそれが正しいのだろう。何しろダーウィンは大きなお猿さんだったのだから


(天声人語)迷信と偏見  201812170500
 女性の脳は、小さいだけでなく、柔らかい、スポンジのような軽い素材でできている――。そんな荒唐無稽な説ばかり集めたのが、ジャッキー・フレミング著『問題だらけの女性たち』である。19世紀、英国の女たちを苦しめた迷信の数々を笑い飛ばしている「男性がすべてにおいて優れていることは明白だ」と述べたのは、進化論で知られるダーウィンである。精神科医のモーズリーは、「医学を学ぶと胸がしぼみかねない」と女性に警告した偏見にとらわれる先人たちは滑稽というほかない。しかし、ついこんな言い方をしてはいないだろうか。「女性はお花が好き」「女性は感覚が繊細」。最近のニュースでは「女子はコミュニケーション能力が高い」との言葉もあった順天堂大学医学部の入試で、女子に不利な扱いをしていた理由として責任者が述べていた。女子の方がコミュ力(りょく)が高いので、面接の点数が良くなってしまう。男子を救うためにゲタをはかせた、ということらしい根拠として医学の論文も持ち出したが、論文執筆者は「私の研究内容との関連がわからない」と言っているそうだ。ありもしない性差で切り捨てられた受験生がいたに違いない。個人差よりも性差が先に来るのであれば、19世紀の人たちをどこまで笑えるだろうそもそもコミュニケーションのできる人を敬遠する理屈すら分からない。真ん中にあるのは、実はこんな思い込みではないか。「医療は男が仕切る世界。これまでも、これからも」

(書評)『問題だらけの女性たち』ジャッキー・フレミング〈著〉 『「女子」という呪い』雨宮処凛〈著〉
2018550500分  朝日
 笑って過去に引導、現代にエール
 土俵に女性を上がらせないのは伝統文化だと開き直る相撲協会。前次官のセクハラ行為をなかなか認めなかった財務省
 ムカついていた矢先に、この本を開いたら……
 〈かつて世界には女性が存在していませんでした。/だから歴史の授業で/女性の偉人について習わないのです。/男性は存在し、その多くが天才でした〉
 えっ、どういう意味よ。おそるおそる先を読み進むと……
 〈天才たちは、/著名な男性のリストをつくりました。/それによって、女性の知能がちっぽけで/あることが証明されました〉
 キーッ、こんな本、ゴミ箱行きだわ。いやいや、早まってはいけない。これはそういう本じゃないんです。著者のジャッキー・フレミングはれっきとしたフェミニスト。『問題だらけの女性たち』は19世紀イギリスの女たちがどれほど非科学的な迷信に苦しめられたか、逆にいうと当時の男たちがどれほどトンチキな言説をまきちらかしたかをイラストにして、笑ってやろうという本なのだ。
 並みいる天才たちが残した言葉はそれはもうご立派だ。
 〈娘たちには人生の初期に/挫折させてやる必要がある〉とおっしゃったのは18世紀の思想家ルソー。〈そうすれば、男性を喜ばせるという女性の自然な/役割がより自然にできるようになる〉そうで。〈女性は芸術やほかのいかなる分野においても、/真に優れた、独創的な偉業を/成し遂げることができない〉はショーペンハウアー、〈女性がボールを投げようとしている姿は/見るも無残〉はクーベルタン男爵のご高説。ダーウィンもフロイトもピカソも、こんな調子で、みな形無しだ。
 しかし、トンチキな言説は絶滅したか。雨宮処凛『「女子」という呪い』には21世紀の日本における〈男社会のあまりの「変わらなさ」に、心が折れそうになる瞬間〉や〈昭和に強制的にタイムスリップさせられたような感覚にめまいがして倒れそうになった〉話が満載だ。
 25歳で文筆家デビューするまで、雨宮さんはキャバクラに勤めていた。デビュー後はセクハラを撃退するロリータファッションで武装した。女性を縛る〈「男を立てなきゃいけない」問題、「バカなふりをしなくちゃいけない」問題、「知ってるのに知らないふりしなくちゃいけない」問題〉は〈女性の知能がちっぽけであることが証明されました〉の時代と一直線につながっている。
 『問題だらけの女性たち』が過去の亡霊に引導を渡す本なら、こちらは現代の女性にエールを送る本。合言葉は、#MeToo、#WithYou、そして「さらば、オッサンの呪い」だね。
 評・斎藤美奈子文芸評論家)
     *
 『問題だらけの女性たち』 ジャッキー・フレミング〈著〉 松田青子訳 河出書房新社 1296円
 『「女子」という呪い』 雨宮処凛〈著〉 集英社 1188円
     *
 Jacky Fleming 英国在住の漫画家、イラストレーター。あまみや・かりん 75年生まれ。作家、活動家。著書に『一億総貧困時代』など。



コメント

このブログの人気の投稿

近代数寄者の茶会記  谷晃  2021.5.1.

新 東京いい店やれる店  ホイチョイ・プロダクションズ  2013.5.26.

自由学園物語  羽仁進  2021.5.21.