有職装束大全  八條忠基  2020.3.7.


2020.3.7.  有職装束大全

著者 八條忠基 綺陽装束研究所主宰。日本風俗史学会会員。古典文献の読解研究に努めるとともに、敷居が高いと思われがちな「有職故実」の知識を広め、広く現代人の生活に活用するための研究・普及活動を続ける。全国の大学・図書館・神社等での講演多数。

発行日                2018.6.13. 初版第1刷発行
発行所                平凡社

序 
本書は有職装束、つまり「有職故実」に関わる装束についての書
有職故実は、古くは「有識故実」と書き、「古の事実の知識があること」を意味した
古の事実とは、儀礼・服装・調度品・食事・殿舎・乗り物その他、朝廷・公家社会の生活に関わるすべての事物についての先例のこと
平安中期以降、安定した地位を得た公家貴族たちは「故実」すなわち先例を踏襲することを第一に重んじるようになり、一生涯の日常生活全般がその影響下にあった
有職装束とは、「朝廷・公家社会における服装」と言い換えても間違いない
時代の流れの中でいくらかの変容はみられるものの、大筋のところでは1000年前からの伝統を連綿と受け継いでいる。世界の服飾史全体から見て奇跡的なことだが、日本人の中でもあまり普及していないので、広く一般に紹介するのが本書の目的
有職故実の文献にしばしば登場する単語が「可依人可依便」(人によるべし便によるべし)で、一定の決まりごとがあったとしても、その人の官位や年齢、体型、体調などによって装束の着付けは変化する。TPOによっても適宜変わる。そうした例外を許容するのが公家の有職故実であり、融通性が魅力でもある
「有職故実は生き物である」ということに注意。例外が多く「絶対」はなく、本書も「代表的な一例」を示すだけに過ぎない
有職装束の研究は、主として文献資料から実相を探ろうとする歴史学の手法だけでなく、フィクションを扱う国文学や美術史、実物について探求する服飾史や染色技術史、さらには宗教史や民俗学といったさまざまな学問成果を横断・包括して行わなければならない

束帯 朝廷に出仕するときの標準服。のちに儀式における礼装となる
狩衣(かりぎぬ) 貴族たちのスポーツウェア。のちに日常着となった
武官束帯 朝廷を守った武官の正装
褐衣(かちえ) 上級貴族のボディガード「随身(ずいじん)」が着用。行列の花形
五衣唐衣裳(いつつぎぬからぎぬも) 平安中期以降、貴人に仕える女房の正装。通称十二単
五衣小袿長袴(いつつぎぬこうちぎながばかま) 十二単に次ぐ宮中の正装
汗衫(かざみ) 平安中期以降の童女の正装
袿袴(礼服)道中着姿(けいこどうちゅうぎすがた) 明治以降の宮中儀式服

第1章        装束の歴史
装束と呼べるほどの服制(服装の制度)が日本でいつ確立され、それがどの様なものであったのか、よくわかっていない。『魏志倭人伝』によれば、男子は横幅衣(ミヤンマーの僧衣のようなタイプ)、女子は貫頭衣を着ていたとある
古墳時代初期に、百済から衣服の製法が伝わってきた
服制として最も古い記録は、聖徳太子が603年に定めた「冠位十二階」の制度で、官人を12の階級にわけ、それを冠の色で表示したとされるが、何色かは不明

第2章        装束の種類
礼服(らいふく) ⇒ 唐の服制を模倣して701年成立した「大宝律令」の「衣服令」により制定され、大祀・大嘗祭・元日朝賀に用いる
束帯 ⇒ 律令の制度における「朝服(ちょうふく)」が変容したもので、朝廷に出勤するときの標準服
武官束帯 ⇒ 律令で定められた武官制度は、平安時代に「六衛府」に整理統合された
布袴(ほうこ) ⇒ 麻製の袴の意だったが、上流階級が絹で仕立てて利用するようになり、平安中期には束帯の簡略装束を布袴と呼ぶようになった
衣冠 ⇒ 平安中期に、宿直(とのい)のために束帯から下着類を大幅に省いて、立ち居振る舞いの楽な服装が作られた。束帯が「昼装束」と呼ばれ、衣冠が「宿(とのい)装束」となる
直衣(のうし) ⇒ 「雑袍(ざっぽう)」とも呼ばれ、上流貴族の日常着
狩衣 ⇒ 中流階級のお洒落着程度だったが、野外の行楽や鷹狩用に着用
小直衣 ⇒ 院政期に狩衣が院参に用いられたが、高位身分の者がより威厳のある装束を必要として出来たもの
水干(すいかん) ⇒ 平安時代庶民が用いたのは布()で、水で洗いよく叩いて皺を伸ばし、日に干すことから「水干」と呼ばれた
直垂(ひたたれ) ⇒ 平安中期までの公家社会では寝具や掛布団のようなものを指したが、後期になって地方の武士が上京し公家侍として勤務するようになると、彼らは故郷で愛用した衣類としての直垂を持ち込む
天皇の御装束 ⇒ 黄櫨染御袍(こうろぜんごほう)

第3章        装束の構成具
冠と烏帽子
(ひとえ) ⇒ 裏をつけない衣類の総称だが、装束では下着のこと
(きぬ) ⇒ 中間衣
(あこめ) ⇒ 単と同じで、単の上に重ね着するもの
(うちぎ) ⇒ 中間着で衵より上に着るもの

第4章        有職の色彩と文様
束帯や衣冠装束の袍(ほう)は「位袍(いほう)」とも呼ばれ、その色彩は着用者の位階に応じており、「当色」と呼ぶ。 ⇒ 冠位十二階に決められた
律令の当色と変遷 ⇒ 天皇が白、皇太子が黄丹(おうに)、親王が深紫とおおよそ決まっていた



みやびな装束「ヤベェ本」 7千円でも代替わり特需?
2020114 1300分 朝日
女性の装束を紹介したページ=『有職装束大全』(平凡社)から
 天皇陛下の代替わり行事が続いた昨年、皇族のみやびな装束に注目が集まった。そんななかで奈良・平安以降の朝廷や公家社会で用いられた装束を解説した高額書籍が異例の売れゆきを見せた。
 「ヤベェ本を買ったぞ」
 きっかけはこんな、ツイッターの投稿だった。
在庫「一瞬でなくなった」
 「ヤベェ本」とは、百科事典で知られる平凡社2018年に刊行した『有職装束大全』のこと。有職故実(ゆうそくこじつ)を研究する八條忠基(ただもと)さんが著した。写真や図版をオールカラーでふんだんに用いた全320ページで、値段は7480円(税込み)。図書館などの需要を見込んで、初版は3千部。毎月数十部が着実に売れていたという。
天皇陛下のみが身につける「黄櫨染御袍」を紹介するページ=『有職装束大全』(平凡社)から
 ところが、昨年9月に「ヤベェ本を買ったぞ(中略)絵描き字書き立体屋問わず全創作者にオススメ」という投稿があり、約3万件のリツイートと約6万件の「いいね」が押されるほど拡散した。
 平凡社には、全国の書店から問い合わせが押し寄せた。
 「数百部あった在庫が一瞬でなくなった。本当にびっくりした」
 そう語るのは、同社の下中順平さんだ。反響が大きかった理由については、「代替わりで装束が注目されていたことも関係していると思う」と推測する。
「即位礼正殿の儀」で、即位を宣言する天皇陛下。奥は皇后さま=20191022日、皇居・宮殿「松の間」、代表撮影
 この後、1022日には「即位礼正殿(せいでん)の儀」で、天皇陛下のみが身につける「黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)」という束帯が話題となった。すると、さらに重版が決まった。昨年末には47500部に達した。平凡社によると、購買層の具体的な分析はできていないが、クリエーターの需要はあるのではないか、とみている。
著者は「研究所」主宰
 著者の八條さんに、反響の大きさについて尋ねると、「ビジュアルを重視したので、漫画家やイラストレーターの方らにも活用してもらえればうれしい」と語ってくれた。
 八條さんがこの研究を始めて30年余りだという。
 かつて、海外留学生が集まる機会があり、持っていた装束を見せたことがあった。留学生たちから「素晴らしい」「初めて見ました」と賛美の言葉が送られた。この時、八條さんは痛感したという。「装束、服装の文化は、日本人のアイデンティティーを端的に示すもので、互いに尊重し合うことが国際交流なんだと思いました。日本人の多くが知らないからこそ、広く伝えなければと思い、活動してきました」
 現在は、神社の祭りがある際に呼ばれて、衣冠の着付けを全国各地でしている。
 東京都内で「綺陽(きよう)装束研究所」という教室も主宰する。月に3回ほど開き、束帯や十二単(ひとえ)などの着付けなどを一般の人に教えている。全国に約50人の会員がいるという。
束帯の着付け方を教える八條忠基さん(左)
生徒には古文の先生も
 昨年12月下旬、記者が訪れると、雅楽が流れる一室に8人がいた。
 参加しているさいたま市の宮尾和歌子さんは、2年ほど前から通う。普段は着物のリメイクなどを手がける仕事をしているという。「装束を間近で見たいと思ったのがきっかけです。綿々と続く文化を、後世に残していく大切さを感じています」
 都内の国語教諭をしている大関友里恵さんは、古文を高校生に教えている。「美しい装束を実際に身にまとうことで、古文の読み方や教え方が変わったと思う」
 八條さんは「源氏物語でおなじみのように、こうした装束は千年以上にわたって受け継がれている。日本文化をもっと知りたいという人の役に立てれば」と話す。(宮田裕介)
八條忠基著『有職装束大全』(平凡社)









八條忠基さん「有職装束大全」  みやびな装束知る「ヤベェ本」
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 著者の八條さんは「ビジュアルを重視したので、漫画家やイラストレーターの方らにも活用してもらえればうれしい」と語る。
 八條さんは東京都内で、束帯や十二単(ひとえ)などの着付けを教えている。「装束は千年以上にわたって受け継がれている。日本文化をもっと知りたいという人の役に立てれば」と話す。(宮田裕介)=朝日新聞202018日掲載


みやびな装束知る「ヤベェ本」 八條忠基さん「有職装束大全」
202018 1630分 朝日
 天皇陛下の代替わり行事が続いた昨年、皇族のみやびな装束に注目が集まった。そんななかで奈良・平安以降の朝廷や公家社会で用いられた装束を解説した高額書籍が異例の売れゆきに。きっかけは、ツイッターで話題になったことだった。
 百科事典で知られる平凡社2018年に刊行した『有職装束大全』。有職故実(ゆうそくこじつ)を研究する八條忠基(ただもと)さんが著した。写真や図版をオールカラーでふんだんに用いた全320ページで、値段は7480円(税込み)。図書館などの需要を見込んで、初版は3千部だった。
 ところが、昨年9月に「ヤベェ本を買ったぞ(中略)絵描き字書き立体屋問わず全創作者にオススメ」という投稿があり、約3万件のリツイートと約6万件の「いいね」が押されるほど拡散。全国の書店から問い合わせが平凡社に押し寄せた。同社の下中順平さんは「代替わりで装束が注目されていたことも関係していると思う。数百部あった在庫が一瞬でなくなり、びっくりした」と話す。
 この後、1022日に行われた「即位礼正殿(せいでん)の儀」で、天皇陛下のみが身につける「黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)」という束帯が話題となった後に重版が決まるなどして、昨年末には47500部に達した。
 著者の八條さんは「ビジュアルを重視したので、漫画家やイラストレーターの方らにも活用してもらえればうれしい」と語る。
 八條さんは東京都内で、束帯や十二単(ひとえ)などの着付けを教えている。「装束は千年以上にわたって受け継がれている。日本文化をもっと知りたいという人の役に立てれば」と話す。(宮田裕介)


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