ウーバー戦記 Mike Isaac 2024.1.7.
2024.1.7. ウーバー戦記 いかにして台頭し席巻し社会から憎まれたか
SUPER PUMPED
~ The Battle for Uber 2019
著者 Mike
Isaac 『ニューヨーク・タイムズ』のテクノロジー担当レポーター。カリフォルニア大学バークレー校卒。「フォーブス」などの記者・編集者を経て2014年から現職。ウーバー、フェイスブックなどのシリコンバレーの巨大テックをカバーし、CNBCやMSNBCなどにもたびたび出演している。「ニューヨーク・タイムズ」に掲載されたウーバーに関する一連の記事で2018年にジェラルド・ローブ賞を受賞。サンフランシスコ在住
訳者 秋山勝 翻訳者。立教大学卒。日本文藝家協会会員。訳書にホワイト『ラザルス』、ミシュラ『怒りの時代』、ローズ『エネルギー400年史』、バートレット『操られる民主主義』(以上、草思社)、ウー『巨大企業の呪い』、ウェルシュ『歴史の逆襲』(以上、
朝日新聞出版)など
発行日 2021.12.30. 第1刷発行
発行所 草思社
カバー袖裏
創業からわずか数年でGAFAに次ぐハイテク企業に成長した配車&デリバリーサービスのウーバー。急激な拡大は、創業者でCEOのトラビス・カラニックの法律さえ踏みにじる異様な強気と好戦的な企業文化の賜物だったが、進出先の各都市や自社の内部で、さらにグーグルやアップルを相手に様々なトラブルを起こした。そして2017年、取締役はついにクーデターをおこしてカラニックからCEOの座を奪いあげる。モバイル時代を迎えたシリコンバレーの急激な変化を背景に、たしかに「世界を変えた」もののスティーブ・ジョブズにはなれなかった若き起業家の半生とウーバーの劇的な闘争の全貌
プロローグ
2014年冬、ウーバーはタクシー業界の古い制度や仕組みに風穴を開けるために、ポートランド当局と交渉をしていたが、見切り発車で市民が自分で所有する車を使ってお客を運ぶ「ライド・ヘイリング」サービスの開始を強行
黒塗りのハイヤーの配車サービスは法令に従っていたので問題なかったが、ライド・シェアリングに関する法律はまだ存在していなかった
クレイグリストCraigslistで募集した運転手を使い、グレイボールGreyballをユーザーが登録したアカウントに忍ばせ交通局の規制官など自社にとって脅威となる人物を特定して識別するシステムで、囮捜査などを回避し、3年にわたって営業を続けた。『ニューヨーク・タイムズ』がグレイボールの存在を暴き、当局が全容を知った時には営業許可が下りていた。グレイボールはドライバーを当局の摘発から彼らを守るために開発された
ウーバーの成功を見ていると、カラニックが正しかったという見方もできるが、創業物語は必ずしも成功とは見做されていない。2017年には危うく破綻しかけた。カラニックをめぐる物語は、スタートアップの創業者たちだけでなく、資金を提供するベンチャーキャピタルの間でも、ある種の教訓として囁かれ続け、シリコンバレーの最良の部分と最悪の部分の双方を象徴する物語になっている。カラニックの物語であると同時に、テクノロジー革命に対して尊大で過剰に反応した物語にほかならない。急激に発展していくテクノロジーが、既存の労働システムに激震をもたらし、都市整備を混乱に陥れ、ほんの数年の間で1つの産業を転覆させた。深刻なセクハラが横行する産業界の物語でもある
スタートアップに対する投資の物語でもあり、出資の結果、急成長を遂げる企業のリーダーや社員、顧客にどのような影響を与えるのかが本書で語られる。同時に、ユーザーデータと個人情報を巡る醜悪な意思決定の物語であり、IT企業は顧客データを利用しようと躍起になっている
スタートアップ企業の創業者への妄信がどれほど大きな堕落をもたらすのかを記した物語であり、最後はとてつもない大失敗に終わることを諭す教訓の物語でもある
カラニックとウーバーの経営陣が生み出したのは、中毒性の高い企業文化で、創業者は倫理的にも法的にもまともな監視下に置かれないまま経営を続けた
Part I
第1章
10の10乗
創業当時、ウーバーの社員は自分たちを「ウーバーレット」と呼んでいた
大きな数字を達成するごとに、全社員を旅行に連れ出し「10の10乗」パーティーと呼ぶどんちゃん騒ぎをするのが通例
アマゾンに憧れ、アマゾンの14項目の「リーダーシップ・プリンシプル」を検討
①
Customer
Obsession――リーダーは顧客を起点に考え行動する
②
Ownership――長期的視野で考え、会社全体のために行動
③
Invent
and Simplify――イノベーションとインベンションを求めシンプルな方法を模索
④
Are
Right, A Lot――優れた判断力と経験に裏打ちされた直感を備える
⑤
Learn
and Be Curious――常に学び、自身を向上させる。好奇心を持ち探求する
⑥
Hire and
Develop the Best――優れた才能を見極め、積極的に活用
⑦
Insist
on the Highest Standards――高い水準を追求し、常に水準を引き上げる
⑧
Think
Big――大胆な方針と方向性を示す
⑨
Bias for
Action――スピードが重要
⑩
Frugality――より少ないリソースでより多くのことを実現する
⑪
Earn
Trust――注意深く耳を傾け、率直に話し、相手に敬意をもって接する
⑫
Dive
Deep――すべての業務に気を配り、詳細な点も把握
⑬
Have
Backbone; Disagree and Commit――同意できない場合は、敬意をもって異議を唱える。信念を持ち、安易に妥協しない
⑭
Deliver
Results――重要なインプットにフォーカスし、適正な品質で迅速に行動
カラニックの言い換え――男性優位がはびこる企業の言葉に自動翻訳したようなもの
①
いつも押しまくれ(Always be Hustling)
②
借家人ではなく、オーナーであれ
③
大胆かつ大きく賭けろ
④
町の繫栄を讃えろ(Celebrate Cities)
⑤
顧客にこだわり抜け(Customer Obsession)
⑥
裏返しの発想
⑦
好きなように作れ
⑧
マジックを生み出せ
⑨
実力主義/衝突を恐れるな
⑩
楽観主義のリーダーシップ
⑪
信念に基づく対立(Principled Confrontation)
⑫
超気合を入れろ(Super pumped)
⑬
チャンピオンの気構え
⑭
自分らしくあれ
第2章
創業者の作り方
1976年、ロスの北部郊外ノースリッジで誕生、中流階級の白人家庭。父は土木技師
中学からギーク扱いされいじめにあい、体制への反発心を会得。サバン症候群(特定分野に特異の才能を示す症状)で数学分野が得意、SATは1600点中1580点
1998年UCLAでコンピュータサイエンスと経済学を専攻、学生に開放された大学の通信回線を使い、ネット上のファイル(主に音楽関係)検索ソフトを開発してスカウアというビジネスを立ち上げた。ベンチャーキャピタリストに資金を頼ったが、裏切られた挙句、全米レコード協会や映画協会から2500億ドルの賠償を請求され破産
第3章
心に刻まれた教訓
1990年代からサンフランシスコの2nd Street付近やシリコンバレーのドットコム企業集積地からスタートアップが次々と株式を公開、市場評価は急騰したが、FRBが2000年にかけて金利を引き上げて引き締めにかかると、多くのスタートアップはたちまち破綻
カラニックは似たような企業レッド・スウッシュを立ち上げ、メディア企業の提供するファイルのやりとりを行うソフトを売るが、バブル崩壊直後とあって投資家は現れず
自転車操業の後、2007年に競合相手に20百万ドルで売却。手元に200万ドル残る
第4章
ニューエコノミー
リーマンショック後のシリコンバレーは、ふたたび新世代の起業家を輩出することになるが、その要因は、①コンピューターの普及で高速インターネット回線へのアクセスが一般化したこと、②アマゾン・ウェブ・サービスが起業家に安価なスタートアップのためのインフラ支援を提供、③iPhoneの開発・普及とモバイルアプリ作成のソースコードの開放
第5章
揺るぎない上昇志向
サンフランシスコ市内でタクシーが捕まらずにイラついていたのがカナダから来た若き起業家ギャレット・キャンプ。SNSに似たサイトを2000年に立ち上げ、07年にeベイに75百万ドルで売却
カラニックは、手にした資金をエンジェルとしてスタートアップ支援するほか、自宅を彼らに開放、ジャムパッドという愛称で呼んだ。キャンプもジャムパッドに集う1人で、そのうちウーバーキャブのアイディアについてカラニックと話すようになり、カラニックを説得
Part II
第6章
「好きなように作れ」
2010年、キャンプとカラニックは直接仕事にはかかわりたくなかったので、ツイッターでCEOを募集、起業家を夢見てIT企業でインターンとして働いていたライアン・グレイブスが応募、社員第1号となったが、出資に応じたベンチャーキャピタルの要求でカラニックが持ち株を増やしてCEOに就任
当初のウーバーキャブは、サンフランシスコでアプリを使わずパソコンからウーバーのホームページにアクセスして配車を手配、黒塗りの高級車が来て料金はイエローキャブの1.5倍。「みんなのプライベートドライバー」と謳い、iPhone用のアプリを外注し、スカウトしたキャブのドライバーに無償で提供すると、市内はウーバーに登録した運転手たちで溢れる。たちまち口コミでサービスが広がったのは、キャンプとカラニックがユーザー体験(UX)に時間をかけて徹底的に考え抜いたからで、徹底して滑らかな乗り心地、クレジットカードだけの支払いにして支払いの煩わしさから解放、チップなどの面倒なことも一切撤廃。次の市場として選んだのが富裕層の暮らすマリン・カウンティのミルバレー
すぐに市の交通局から事業停止命令が出されるが、カラニックは社名からキャブを外しただけで無視
第7章
ベンチャーキャピタルでもっとも背の高い男
テキサス出身のベンチャーキャピタリスト、ビル・ガーリーはアマゾンのIPOでドイツ銀行のアナリストとしてベゾスの信認を得た後ベンチマークに引き抜かれ、ウーバーに着目
第8章
2人のステップ
クリステンセンは『イノベーションのジレンマ』(2001)で、素早く変化していく競合企業の脅威が見抜けないほど巨大化した企業が待ち受けている危機について明言
ガーリーとカラニックの意見が一致、企業価値を50百万ドルとして20%の株式を11百万ドルで買い、ガーリーは取締役として事業に関わる
第9章
チャンピオンの気がまえ
ウーバーのゲリラ戦略は、市当局者やタクシー会社の経営者の機転や技術的な読みを遥かに圧倒。乗客やドライバーの好奇心を煽った後、町のハイヤー会社に売り込みをかけ、ドライバーに特別収入が得られる方法を伝授すると触れる。当局が気付いた時には市民の絶大な支持を得ていたので、審理して操業停止に追い込むことは不可能。利用者が一旦臨界質量に達してしまうと、市交通局のマンパワーでは営業中の車両を止めることはできない
この時点では、認可を受けたハイヤー会社の運転手で、車両の手入れも万全、保険も入っていて、無駄な客待ち時間に副収入を稼ぐだけなので違法には当たらない。全米の大都市に広がると、サービスが人気を博し、操業に歯止めをかけるのはますます困難になる
各地のマネージャーの奔放なほどの自主性を重んじ、100万ドル単位の経費の裁量権を与え、担当地区の創業者として育てる。「征服せよ」「押しまくれ」と叱咤激励
2012年、パリ進出を皮切りにロンドン、シドニー―、ミラノにも拡大
スニル・ボールは、サイドカーというスタートアップを拠点にサンフランシスコでライドサービス提供をテスト、自家用車を持つ一般ドライバーを利用するもの。ジョン・ジマーたちもジムライド(後にリフト)という相乗りサービスも開始。市場の有望性を察知したカラニックは、彼らに真っ向から挑戦、市場を独占するために湯水のごとく資金を投じる
第10章
ホームショー
ガーリーがカラニックに最高業務責任者(CBC、社外交渉の責任者)としてエミール・マイケルを紹介。2人が開発したのがロードショーに代わる「ホームショー」による資金調達で、ベンチャーキャピタルとの力関係を完全に逆転させる
ウーバーは、「ネガティブ・チャーンNegative Churn」を達成(一旦その製品を使った顧客は、その後も定期的に同じ製品を使う可能性が高まること)しているので、目標数字の達成は容易。ウーバーのデータでは、2.7回利用した時点で終生ウーバーを利用する
経営資料の公開を拒否、複数議決権株を保持し続け、ベンチャーキャピタル側にプレゼンをさせる
2013年のシリーズCの企業評価額は35億ドルで、1社の投資額は2.5億ドル
グーグル・ベンチャーズとTPGキャピタルからの出資を受け入れ、それぞれからデービッド・ドラモンドとデービッド・ボンダーマンを取締役に招聘
Part III
第11章
兄と弟
カラニックは、若いころから憧れていたグーグルのラリー・ペイジとの会食を実現させ、グーグル差し回しの自動運転の車両に夢中になり、ペイジを兄とも思った
ペイジは輸送機関に並々ならぬ関心を抱き、空飛ぶ車のために個人資産を注ぎこんでいた
グーグルで自動運転の開発を担っていたレヴァンドウスキーは、ウーバーへの投資に幻滅
第12章
成長
「成長」こそカラニックが無意識に唱える信条(マントラ)
メダリオン(営業免許)制度によって寡占状態にあった各都市のタクシー業界は、ウーバーの出現により屋台骨を揺るがされる。マンハッタンでは2011年1個100万ドルで取引されていたメダリオンが、6年後には18.6万ドルに暴落、高額なメダリオンの返済から逃れられないタクシードライバーは廃業や自殺に追い込まれた
ウーバーは、規制をものともせず、タクシー業者からの暴力的な反発にも屈せず、規則違反の罰金は必要経費と見做し、車両没収は全額補償して対抗
多くの州で法律を左右するようになると、”ドライバー・パートナー”に対するウーバーの雇用上の問題に口を出す議員はいなくなり、「フリーランサー」として自社のドライバーを規定できるようになり、失業保険料、保険料などの支払い義務から免れる
それぞれの市場に対して、ウーバーは交渉よりも顧客を人質にした状況を作って対応。「プロダクト・マーケットフィットPMF」の状況を完璧に近い形で生み出していた
2015年、ニューヨーク市長デブラシオがウーバーに規制をかけると迫った時には、ドライバーのアプリに待ち時間を長くするようなソフトを仕込み、車内には規制反対の行動を促すよう広告を出し、顧客がボタンをクリックすれば自動メール発信で反対意見が市長に直接怒りの市民の声として届くようにしたため、規制法案は見送られた
第13章
魅力攻勢
ネット上ではカラニックを”体育会系brother”のパロディだと書かれたが、「体育会系」という言葉はテック業界では禁句で、カラニックの好戦性は歓迎されなかった
競合相手の出現や、彼らを出し抜いたり貶めたりするためにスパイ網を張り巡らせる
女性蔑視発言を含め、世間の人たちにはとんでもない自分勝手なゲス野郎と映る
自らの力を頼みとして、公権力を侮蔑するリバタリアンたちに支持された小説『水源』のカバー写真をツイッターのアバターに使用するという傲慢さに、テック業界のベテラン・ジャーナリストは激しい怒りをぶつけた記事を書き、カラニックをイラつかせる
カラニックとガーリーの当初の蜜月関係に溝が入り始め、2014年には中国進出をめぐる問題で衝突、財務も法務も無視したカラニックの行動にガーリーはバブル崩壊を警告
ウーバーが魅力攻勢のためにメディアを集めたオフレコの夕食会での、批判的なジャーナリストの身辺調査のための特別チームを作るとの発言が、バズフィード・ニュースに暴露され、大手メディがこぞってウーバーとその経営陣たちを強欲で卑劣な変質者だと非難
第14章
文化戦争
MBAたちが金融危機のあと目指したのはシリコンバレーでの起業。ウーバーでもMBAの全能の称号は称賛されていたが、会社の要求する残酷非情で剥き出しの闘争本能は、「チャンピオンの気がまえ」を全く別のものに変容。「殺(や)るか、殺られるか」が会社公認の原則となり、権力への飽くなき意志こそカラニックの恩寵に預かれる唯一の手段だった
人事も法令順守同様、業績を上げ続ける限り、リーダーシップなど問題ではない
ドライバーや乗客を獲得するために自由に使える金をインセンティブとして計上、湯水のごとく使いまくったために赤字を出していたが、それは問題ではなく、弾みをつけて十分な需要を一気に高めることでウーバーへの乗車習慣をつければ、利用が続く。2015年には総額20億ドルにも及ぶ資金を投じている
第15章
帝国建設
西海岸のテック企業にとって、中国本土でソフトウェアビジネスを成功させることは、数十年来の夢で、カラニックも14億の人間を無尽蔵のユーザーと認識
2012年設立の同業者、滴滴出行DiDiが大きな成功を遂げている市場に2014年参入
数十カ所の都市に進出し急速にサービスを拡大するが、無料乗車券の提供によって毎週のように40~50百万ドルの支出を強いられた。ドライバーと乗客が結託してウーバーの販促資金をかすめ取る詐欺行為に悩まされる。中国では支払い手段としては、クレジットカードよりモバイル・ウォレットが一般的だが、テンセントが滴滴出行に出資しているため、ウィーチャットの決済サービスが使えなかった。配車にはグーグルのマップを使ったが、中国はグーグルにとって盲点の地域だった
東南アジアの他の国でも苦戦を強いられ、10億ドル余りを垂れ流した末に地元の競合相手に事業を丸ごと売却せざるを得なかった
そんな状況の中でカラニックが始めたのが本社屋ほか一連の新社屋建設、巨費を投入
第16章
アップル問題
2012年、アップルは個々のiPhoneの識別番号に外部からのアクセスを制限する機能、国際移動体装置識別番号IMEIを搭載したiOSをリリースしたのは、個人の利用データは不要だったアップルが個人のプライバシーを尊重することを信条としていたからだが、フェイスブックやグーグルは顧客の日常生活を示す詳細なデジタルデータを漏れなく突き止める必要があり、ウーバーもそれによって詐欺行為者を特定していた。新しいiOSに対し、ウーバーはアップルに内緒で識別番号を追跡するシステムを開発、ハッカーに暴露されるに及んで、ウーバーがアップデートした最新のアプリをアップストアが拒絶
アップルは、ウーバーの業務での使用に満足していたが、アップストアでの売り上げトップになるに至って、改めてトップ会談をし、カラニックほかの経営陣の傲慢さ、不遜さに辟易、取締役会も無視するやり方に不信を抱く。さらにウーバーがアプリのアップデート(ビルド)をするたびに不正な仕掛けがよく忍び込ませてあることにも苛立ちクレーム
2014年、ウーバーがアップルの裏をかくビルドの承認を申請したのがアップストアに見破られ、ウーバーに引導が渡されたが、辛うじて再起の機会を与えられ生き延びたカラニックは、恐怖が失せると、尊大と思えるほどの自信に置き換わる
第17章
「最大の防御とは・・・・」
フェイスブックのセキュリティ責任者ジョー・サリバンをスカウト、若いころ地方検事でサイバー犯罪の捜査に従事、デジタル空間で暗躍する犯罪人のキックアウトの専門家だが、ウーバーの顧客情報や競合他社情報収集ソフトには驚愕、ウーバーがドライバーの採用基準を引き下げたために、車内での暴行事件も頻発、ほかからのウーバーへの大規模な不正侵入による深刻な被害も社内では放置され、情報漏洩についての当局への報告義務も懈怠
大きな問題は、メキシコなどでウーバーのドライバーがタクシーカルテルから命を狙われていること。ウーバーが防戦一方に留まらないという条件を付けてサリバンに対応を一任
第18章
自律走行車の衝突
2014年、グーグルが完全な自律走行車のプロトタイプを公表。カラニックは自分の支援者だと思っていたグーグルが敵対しているような衝撃を覚え、自動運転への焦燥感を抱く
グーグルで長年自律走行車開発を担っていたレヴァンドウスキーは、グーグルの待遇に不満を抱き2016年独立・起業、長距離トラックに自律走行の装置を載せ試験を開始
グーグル退社前からカラニックはレヴァンドウスキーに接触、意気投合して独立後に起業した会社を6.8億ドルで買収、カーネギー・メロン大のロボット部門からも大量の人材を引き抜き、グーグルに対して宣戦布告
第19章
前途洋々
2016年、リフトとの合併を模索したが破談に終わった頃、サウジの政府系投資ファンドからの投資話がまとまり、35億ドルを調達するが、推定企業価値は625億ドルに高騰
ひどい労働条件でこき使われた挙句使い捨て同様の扱いを受けたドライバーたちからの苦情や反発が急激に高まるなか、カラニックは「勝ち組切望症候群」に罹患した様に贅沢な生活を始め、ウーバーの株式をちらつかせながらセレブの注目を惹く
ウーバーの企業文化の気風は、カラニックによってきめられていた。カラニックが社員に求めた条件は、20代の白人男性で、採用基準はカラニックの好み、彼に似たものばかりが集まり、カラニックは進んで社員に権限を与え、「好きなように作れ」と自分の専門領域に責任を持つように促す。カラニックのクローンが世界各地にいるようなもので、支社は乱痴気騒ぎの温床になり、ハラスメントは当たり前、それ以上に最悪なことが横行。マッチョ、女性蔑視、攻撃性が標準的なオフィス。40歳の誕生祝は空前のドンチャン騒ぎ
Part IV
第20章
3カ月前
2016年11月トランプが大統領選に勝利し、アメリカの企業の歴史において史上最悪の12カ月が始まる。テクノロジー業界が有権者の心理を操作することさえ辞せず、悪辣なプロパガンダ組織になっていたことに気付いた議会のメンバーやメディアは、テック企業を名指しで批判する。トランプは、アーンド(ソーシャル)メディア、いわゆる口コミで獲得するメディア露出のために巨額の費用を投じ、彼のツイートはいまや”大統領告示”に
ビッグ・テックが国家ぐるみのハッカーとして、蓄積してきた膨大な個人情報を利用し、選挙さえ左右するようになったという物語に人々は憑りつかれていった。突然、シリコンバレーの邪悪な勢力がこの国を崖っ縁に追いやり、そのどさくさに紛れてビッグ・テックは利益を得ている。カラニックはトランプに次のビジネスチャンスを期待
2016年8月、ウーバーは、滴滴出行の株式17.7%と引き換えに中国市場から撤退
第21章
#デリートウーバー
ネットの匿名性を重視し、密かにトランプ批判をしていた根っからの民主党支持者が、移民制限に署名したトランプに反対してデモをしたことによる渋滞のため、割増料金を一時的に停止するとのウーバーのツイートに反発、スト破りだとして「#デリートウーバー」のハッシュタグをつけたのをきっかけに、ウーバーに不満を抱く人々が一斉に呼応、解約の申し出にウーバー本社は大混乱に陥る。カラニックは大統領戦略政策フォーラムのメンバーを辞退する一方、瀕死のリフトはウーバーからの乗り換えで蘇生
第22章
「ウーバーで過ごしたとてもとても奇妙な1年・・・・・」
2015年に珍しくもウーバーのエンジニアになる夢を叶えた女性が、その後1年のウーバーでの経験をブログに掲載。初日に直属の上司からセクハラを受け、人事に訴え出たが、上司が優秀な社員だったために、人事からは担当部署を変えるよう示唆される。他にもセクハラを受けた女性が大勢いて、社内状況のひどさを知る。組織も仕事内容も混沌として訳の分からない状況に加え、あまりにもひどい性差別に嫌気して1年で辞める
第23章
殴り続けられても倒れない The harder they fall
女性の内部告発ブログは瞬く間にウーバー社員の間に広まり、怒りや興奮、混乱した声が飛び交い、メディアも注目して動き出し、ウーバーにとって過去最大の衝撃となる
世間は、「ウーバー」という語は倫理に悖る「緋文字scarlet letter」と見做した
カラニックは、オバマ政権の司法長官に調査委員会を依頼、ダイバーシティ・レポートの公表も約束。取締役(2016)だった作家のアリアナ・ハフィントンに解決を依存する
第24章
誰もラリー・ペイジから盗むことはできない
2015年、アルファベットを設立したラリー・ペイジは、個人的に進めてきた自律走行プロジェクトに集中、退社したレヴァンドウスキーには1.2億ドルのボーナスを支払い、別途ウェイモという企業で車の開発を行う。レヴァンドウスキーが退社に先立って自律走行に関わる1.4万件を超える機密ファイルを違法にダウンロードしていたことが発覚、直後にウーバーに会社を売却したことから、ペイジはウーバーを提訴
第25章
グレイボール
女性のブログは、2017年後半、『ニューヨーク・タイムズ』などがワインスタインのセクハラの調査報道を公表したのを契機に、ワインスタインは提訴され、「#me too」運動に火が付くが、その嚆矢となるもの。著者のところにも、ウーバーの従業員から電話があり、「グレイボール」の存在を知らされる。囮捜査をしようとしたポートランドの市交通局の職員がウーバーを呼んでも、ウーバーアプリがすぐにキャンセルして掴まらない
グレイボールの起源は2014年のフィラデルフィアで、ウーバーのドライバーに応じた一般車両の持ち主が、当局の摘発に音を上げて、ウーバーから手を引いたためにパニックになったウーバーのマネージャーが本社に対応を要請、その結果生まれたのがグレイボール
新規のユーザーアカウントの詳細を照合して、警察関係者だと確信できれば、そのアカウントからウーバーの車両を消すことができるソフトを開発、車両の摘発率が一気に下がる
『ニューヨーク・タイムズ』は定期購読者にプッシュ通知を送って、ウーバーが規制当局を欺いていることを知らせると、全米の州検事総長たちが動き出し、ウーバーを問い質す
ウーバーも観念して、グレイボールの使用を禁じるとともに、過去に遡って使用歴を調査
カラニックにとって、ドライバーの労働状況は眼中になく、ただ利用者の需要の高まりだけに関心があったため、ドライバーたちは非公式に組合を結成、ウーバーピープル・ネットのようなフォーラムをア立ち上げ、情報を共有し抗議活動を組織
カラニックと別れたバイオリニストのガビ・ホルツワースは、かつて韓国に同行した際、部下がコールガールと遊ぶのを黙認したことを目撃しているが、今になって口止めの電話をしてきたことに憤慨して、ウーバーの渉外担当に連絡、驚いた担当者はハフィントンも含む幹部に報告
第26章
致命的な失敗
創業以来8年のカラニックの行動の調査レポートが取締役会に出される予定
レヴァンドウスキーのサンフランシスコ市内での自律走行の無許可試験が摘発され、自動走行ではなかったというマスコミへの虚偽発表が指弾されるに及んで解雇に追い込まれる
競合他社情報担当部署では、会社と切り離したサーバーを使って、FBIやCIAの元職員で構成された組織があらゆるスパイ活動や防諜活動に従事。自社のドライバーはもとより、競合他社に限らず、政治家や警察まで、自分が脅威と見做したものすべてを監視
2017年、ボートが岩壁に衝突して母親が即死、父親も重傷を負ったのに衝撃を受けたカラニックは、人生で初めて自分の欠点について文字に記した謝罪文を全社員宛に綴る
Part V
第27章
「ホルダー・レポート」
ブログをきっかけに始まったホルダーによる調査結果の公表を前に、ウーバーは関係者の解雇を含む処分を発表。取締役会の過半はカラニックを支持していたが、報告書の内容を見て、世界中で起きている違法行為やセクハラ、暴力行為などの数々に一様に愕然。機構改革案の筆頭にカラニックの退陣が掲げられていた。取締役会は勧告を受け入れ、カラニックの退陣とNo.2マイケルの解雇を決定。全社会議で公表される時刻にカラニックは全社員にメールで一時的な休職を伝える。全社会議でハフィントンがもう1人女性の独立取締役が増えるというと、TPGから取締役に入っていたボンダーマンが、「女性取締役が増えると話がますます外に漏れる」と断言、女性侮蔑発言に会議が凍り付く。全社会議は密かにツイッターで実況中継され、ホルダー・レポートは直後に別のウェブサイトで公表され、ボンダーマンは辞任を余儀なくされ、予てから何事につけ邪魔をしてきたボンダーマンにイラついていたカラニックはまた敵を1人減らし、すぐに業務への介入を始めた
第28章
シンジケート
カラニックは、投資家に対しては複数議決権株で、取締役会では過半の取締役を自分の味方につけ、自分のやり方への不満を封鎖するなか、ついに義憤にかられたベンチマークのガーリーが立ち上がる。バックにはベンチャーキャピタリストのシンジケートがあり、彼らは裏でつるんで連絡を取り合い情報を共有していた。カラニックに退任を迫り、拒否されれば直ちにマスコミにリークされることになっていた
第29章
ベンチャーキャピタリストたちの復讐
2017年6月、発行株式の26%、議決権の39%を持つシンジケートがカラニックに、「直ちに、しかも永続的」な辞任を要求。企業カルチャーとガバナンス、トップの姿勢が企業価値に深刻なダメージを与えるとした。最後はハフィントンもカラニックに辞任を促し、取締役に残ることを条件に辞任を応諾。ガーリーは退任
情報提供者からの知らせで『ニューヨーク・タイムズ』は購読者にプッシュ通知を発信したためネット上で騒然となり、平穏な退任劇を予定したカラニックには屈辱に変わる
ベンチャーキャピタルを手玉に取ったカラニックだったが、最後は彼を笑いものにした
第30章
ダウンはしたがまだ敗れたわけではない
途方もないエネルギーを向ける場所を突然なくしたカラニックは、デザイナーのダイアン・フォン・ファステンバーグの招きでタヒチに向かう。追放劇が直後にリークされ、世界の主要紙に詳細が報じられるに及んで、カラニックの闘争心に火が付く
新たなCEOが決まる前の取締役会による集団指導体制の間隙をついて、カラニックは取締役を個別に切り崩し、取締役会に圧力をかけ続け、社員とも連絡を取り続けたため、執行幹部は連名で取締役会にカラニックの行状を報告、カラニックが法的な権限を得た場合には14人全員が辞任すると伝えたため、取締役会はCEO選任を急ぎ、eベイを400億ドル企業にしたあとHPのCEOだったメグ・ホイットマンを指名。すでにウーバーの投資家でもあり、経営幹部とも交流があり、カラニックにも中国進出の断念を忠告
カラニックとその盟友はGEのイメルトを推す。ホイットマンが就任を拒絶したため、ベンチマークは次の一手として、カラニックを株主を欺いた忠実義務違反で告訴。そこに割って入ったのがソフトバンクの孫正義で、企業価値が大きく損なわれれば安価で支配権を手に入れることができる
第31章
大取引
イメルトは、GEで失脚、ウーバーで名誉挽回を図ろうとしたが不適任なことは明らかで、取締役会での不評を知らされ自ら辞退を発表、ベンチマークからの懇請で決意を翻したホイットマンも、取締役会でホイットマンに投票すればカラニックに対する訴訟を取り上げると最後通牒を突き付けた対応に取締役が不快感を示して反対に回る
新CEOにはエクスペディア・ドット・コムの現役CEOだったダラ・コスロシャヒが、カラニックの影響力を排除すると約束して選出されたが、カラニックをウーバーから最終的に切り離したのは、2017年末の孫正義とのTOBによる発行株式の17.5%買い付けの合意。企業価値を480億ドルとし、1株33ドルは孫にとって掘り出し物。一方、裏では企業価値維持のため、孫は評価額685億ドルを前提とした新規発行株式を2.5億ドル追加購入し市場の評価を維持。新たにソフトバンクからの2名を含む6人の取締役が加わり、同時に複数議決権株を廃止したことで完全にカラニックの会社に対する影響力から脱却
2年で1200億ドルの企業として上場させることが新CEOの目標となった
エピローグ:尽きせぬ闘争心
まずは企業評価額に200億ドルの打撃を与える出資条件の受け入れ
次いで、ドライバーとの関係修復――アプリ内のチップ機能の実装により、会社に対するドライバーの信頼は大いに高まる
財務とコンプライアンスの充実
企業理念の再構築――14のバリューは、「正しいことをする」など月並な8つの行動原則に置き換え
企業イメージの回復、ブランド再構築
浪費体質の変換と、施策とその成果についての検証により不採算部門から撤退、見境のない賃金バラマキによる他社からの引き抜きの根絶
カラニックは、州所得税のないマイアミに移住。次の起業に向け行動を開始。不動産事業を舞台に、遊休建物を購入してマイクロキッチンを整備し、そこで作った料理をウーバーいーつでデリバリーするというもの
2018年、ウェイモが自動運転技術盗用によりウーバーを訴えた訴訟の公判でカラニックが証言に立つが、陪審員には好印象を与えたものの、ウーバーが245百万ドル相当の自社株を譲渡することで和解
追記:裏切られた期待
ウーバーは、2019年5月の上場を発表。直前にリフトが上場、初値は72ドル、終値78ドルでそれ以上を期待。幹事会社はモルガン・スタンレーとゴールドマン・サックス。企業価値は1200億ドルまで到達していたが、直前にソフトバンクが、ウーバーで最も成長著しい南米のような地域で、ウーバーの競合企業や様々なフードデリバリー業界に資金提供を開始したこともあって、投資家の反応に陰り
公募・売出の想定価格は45ドルに下方修正したが、終値は42ドルと、前代未聞の新規上場に。カラニック54億ドル、キャンプ41億ドル、グレイブス16億ドルを手にする
結びにかえて:アルターコロナのユニコーンたち
シリコンバレーでは、ウーバーの急速な衰退は、経営者がスタートアップとしての大罪を犯した好例、企業に対する戒めの物語、あるいは年若いコンピューター技術者が経営に関わってはいけない典型例だと指摘されてきた
2019年秋にはウィワーク(WeWork)が内部から崩壊しつつあった。創業者のアダム・ニューマンが語る夢が投資家の心を揺さぶり、ソフトバンクの莫大な出資を得て、最盛期470億ドルの企業評価まで膨張したが、経営者としての常軌を逸した行動が明らかになってくると、上場は撤回に追い込まれ、創業者は会社から追放された
ウーバーとウィワークは、ベンチャーキャピタルが支援する世代のスタートアップの精神を象徴。両者の相次ぐ破綻は、シリコンバレーに2000年代のドットコム・バブル崩壊に匹敵する大きな変化をもたらす。2020年4月にはウーバーの企業価値は1/3に、ウィワークも50億ドルに下落。さらにコロナで壊滅的な打撃が始まる
金融の世界では、マーケットで予想不可能な大事件が起き、業界に致命的な影響を与える出来事を「ブラックスワン」と呼ぶが、ベンチャーキャピタルの世界でもブラックスワンが来ていた。投資の世界でも、生き残るのは「最も変化に適応できる者」
Zoomも、コロナをきっかけに利用者を一気に拡大したが、無数のプライバシー侵害を行っていることが判明、脆弱性のある暗号化方式が欠陥となって悪質なデータ共有が行われていたが、時価総額は350億ドルを超えた
前世代の創業者たちを鼓舞した、テクノロジーで世界を救うという夢のような精神は、案外正しかったのかもしれない。カラニックのいう「いつも押しまくれ」の精神は既に暗黙の了解になっていて、「テックラッシュtechlashと呼ばれるビッグ・テック」への反発で、テクノロジー業界はこれまで以上に閉鎖的になり、身構えるようになって、内省的に考える機会さえ失いつつある。スタートアップの王国を守ろうとする者は、若い創業者が批判者の冷笑の餌食にならないよう、ますます強固に彼らを庇うようになった
テクノロジー業界の発するカルチャーは、今もなお健在だが、唯一の問題は、どうやってユニコーンに変貌するのか、実はその方法なのだ
訳者あとがき
表題の「Super
Pumped=超気合いを入れろ」とは、勝つことに憑りつかれた創業者が、常にハイテンションであれと、自分ばかりか部下にも迫る、ウーバーの行動基準の第1番目
サブタイトルの「ウーバーを巡る戦い」とは、2017年のウーバーの覇権を巡る戦いを指し、著者曰く「米企業史上最悪の12カ月」だが、カラニックの半生を俯瞰すると、その「戦い」とは、ウーバーのCEOに就任した2010年から取締役退任の19年までの10年戦争
勝つためなら法令遵守やコンプライアンス無視を辞さず、”グレー”な領域に付け込んでそれを足掛かりに一点突破を目指すのが流儀。社内でも絶えず緊張感を煽り、競争心を駆り立て、勝ち残った者だけに称賛を授ける。若い白人男性支配の、野卑で子供じみた男尊女卑の”ブロ(brother)カルチャー”(体育会系/男子校のノリ)がはびこり、セクハラが横行
積年の問題が一気に噴出、そこに描かれていたのは、スタートアップのハッスルカルチャーの危うさと、創業者を盲目的に崇拝することがいかに企業を誤った方向に向かわせていくのかという手痛い実例
ウーバーはデジタルテクノロジーで既存の業界の秩序やビジネスモデルを破壊する「ディスラプター」の典型。既成事実を先に作り出し、新しいビジネスモデルで業界を覆して業界のルールを変え、勝った者が成功の果実を総取りする。日本にも2012年上陸、15年いは福岡で検証実験が行われたが、無償の前提が実際は有償で”白タク”の可能性が高く、国交省の行政指導が入って頓挫
1980年代、シリコンバレーの若い創業者たちはサンフランシスコ流の自由奔放な文化と、ハッカーとして自由市場に対する熱烈なビジネスマインドを融合させた「カリフォルニアン・イデオロギー」という価値体系を掲げ、テクノロジーの本質は人間を解放させ、よりよき世界を築くためにあると唱え、自分たちの手掛ける事業は革命であり、文化闘争だと説いて人々を魅了してきた。だが、いまやユーザーの情報やデータを独占し、秘密裏に利用し、巨額な富を得てきたビッグテックに対する怒りは高まり、GAFAはニューモノポリーの象徴と見做され、憎悪の対象。テックラッシュも2010年代後半以降頻繁に目にするようになった言葉で、テクノロジーに対する反感・反発backlashを意味
本書は、2022年からドラマ化され「ショウタイム」で配信
草思社ホームページ
わずか数年でGAFAに次ぐ成長を遂げたウーバー。手段を選ばぬ強引な手法で世界の様相を変え、自らは排除された創業者トラビス・カラニックの劇的な軌跡を描く。
ウーバー戦記 マイク・アイザック著
創業者の情熱と暴走の帰結 2022年3月19日 日本経済新聞
成功した企業とその創業者の物語は数多い。しかし、本書はウーバーとその創業者の失敗の物語である。ベンチャー企業の失敗は当たり前なので、通常は書籍にならない。本書がアメリカでドラマ化までされたのは、創業者であるトラビス・カラニックがウーバーを経営した約10年間があまりにも劇的だからだろう。本書で描かれる、創業者の成長に対する情熱と、それ故の暴走は、凄まじい。
ウーバーは、人間の移動がリアルタイムで把握できるモバイル時代のテクノロジーを用いて初めてユニコーンになりえた企業だろう。アナログ世界に安住してきたタクシー業界を根本から変えようと試み、世界各国に進出して短期間に考えられなかったほどの成長を遂げる。時代に取り残された業界を破壊し、21世紀にふさわしい姿に創り変える試み自体はすばらしい。
しかし、テクノロジーで世界を変えることを拒む法律、既存の運輸業界とその意向を受けた政治家や行政機関、世界中の競合他社、成長資金を供給した投資家をも敵とみなして戦いを挑む。そして、敵に勝つためなら法令を無視することも、社会の規範に反することも辞さない。
「信念に基づく対立」という行動基準を掲げ、成長を阻害する法を守る必要はなく、他人を犠牲にしなければ成功しないという態度を社内に浸透させる。諜報機関の元職員を採用して政府関係者のデジタルライフを洗い出し、自宅まで尾行するといったスパイ行為は、企業活動の範疇を超えており、スリラー小説を読んでいる気さえする。
法的規制以前の行政指導に従順な日本企業には、ウーバーのふるまいは到底理解できないだろう。そして、成長に必要だと考えれば、アップルやグーグルをも欺こうとする。しかし、こうした行いが暴かれるにつれ、企業としての評価は暴落し、創業者も会社を追われることになる。
成功したベンチャー企業の創業者たちは、官僚的で時代遅れのシステムを運用する支配者層から権力を奪い、我々の生活を一変させてきた。このために使われたのがテクノロジーである。そして、創業者たちはその偉業と獲得した富によって周囲から崇拝される存在になる。本書は、こうした創業者崇拝がいかに企業を誤った方向に向かわせていくのかという実例を描いている。
《評》昭和女子大学教授 湯川 抗
原題=SUPER
PUMPED(秋山勝訳、草思社・3300円)
▼著者は米カリフォルニア大バークレー校卒。ニューヨーク・タイムズ紙のテクノロジー担当レポーター。
Wikipedia
ウーバー・テクノロジーズ(英: Uber Technologies, Inc.)は、一般的にUber(ウーバー)として知られているアメリカ合衆国のテクノロジー企業である。同社のサービスには、ライドシェア・フードデリバリー (Uber Eats)・宅配便 (クーリエ便含む)・貨物輸送・ライム(英語版)との提携による電動自転車や電動スクーターのレンタルなどがある。同社はサンフランシスコに本社を置き、世界900以上の都市圏で事業を展開している。ギグエコノミーの最大手企業の一つである。
Uberは月間のアクティブユーザー数が世界中で9300万人を超えると推定されている。米国では、2021年2月時点でUberがライドシェア市場の68%、食品配達市場の21%というシェアを占めている。Uberはシェアリングエコノミーで突出しており、Uberが引き起こした各業界の変化は「ウーバー化」(Uberisation)とも称されている。スタートアップ企業が自社の事業を「○○分野のUber」と説明する例も多く見られる。
Uberは、運転手を独立請負業者として扱っている点や、タクシー事業の混乱、交通渋滞増加といった理由で批判されている。とりわけトラビス・カラニックがCEOだった時期の同社は様々な非倫理的慣行や現地の規制を無視したことで批判された。
サービス概要[編集]
Uberは、乗客や積荷を運転手が運ぶ際の料金や条件を(その時の需給に応じて)決定している。そして同社が各運賃の分け前を取っていく仕組みである。Uberは変動料金制を採用しており、サービス時の需要と供給によって運賃が変動する。顧客には事前に運賃や配送料の見積もりが知らされる。
サービスは通常モバイルアプリ経由で依頼される。利用者は、名前、電話番号、その他の情報、支払いの優先順位(クレジットカード、電子商取引決済システム、現金など)といった個人プロファイルを設定する。サービスが完了すると、顧客にはドライバーにチップを渡す選択肢があり[注釈 1]、それも顧客の支払い方式に従って請求される。
独立請負業者としての運転手の地位は未解決の問題である。運転手は車両(所有のほか、レンタルやリースも可)を提供する。運転手は、年齢・健康・車両の年式や種別といった各種要件を満たしたうえで運転免許証とスマートフォン(又はタブレット)を持っている必要があり、身辺調査に合格することが必要になる場合もある。多くの都市で、車両は年一回の安全検査に合格する必要があり、乗客席の窓にエンブレムを掲示しておく必要がある。一部の都市では、運転手にビジネス ライセンス[注釈
2]所持が必要とされる。45分以上の移動となりそうな場合は、そのことが業務依頼の受諾前に運転手に通知される場合もある。各取引の後、運転手と顧客は相互評価を実施し、低評価のユーザーは以後断られる場合もある。
サービスの選択肢[編集]
UberXがサービスの基本的レベルである。これは最大4人の乗客に対応する運転手つき車両での走行などである。Uberはそれ以外のレベルも様々な価格で提供している。具体的には、黒い高級車、新車やプレミアム級の車、レザーシート付の車、SUV、ミニバン、バン、ハッチバック、電気自動車、ハイブリッド車、オートバイ、三輪タクシー、実際のタクシー、同じ方向に行く他の乗客と一緒の低コストな共同輸送 (Shared transport) (新型コロナウイルス流行期間は中断)、チャイルドシート車両、ペットの搬送、スペイン語話者の運転手を保証したもの、高齢者や身体障害を持つ乗客への補助がある車、車いすで乗降可能な車などがある。
介助動物付きの人は、法律による義務付けが(米国だと)あるためどんな種別のUberサービスも利用して構わない。
LimeBikeとの提携を通じて、利用者は電動自転車や電動スクーターをレンタルすることができる。
Uberは、米国にいる医療従事者に予約患者の往来輸送サービス(HIPAAに準拠)を提供している。スマートフォンを持たない患者は、メール文書や医療従事者の事務所を通じて乗降場所の情報を受け取ることができる。
Uber
Freightは、乗客と運転手のマッチングと同じ手法で、貨物荷主とトラック運転手をマッチングしている。
現地の事業者と提携して、Uberは1年のある時期限定で特定箇所でボート輸送を提供している。
沿革[編集]
2009年、Uberはギャレット・キャンプ(コンピュータプログラマー。StumbleUpon共同創設者)とトラヴィス・カラニック(2007年にスタートアップ企業Red
Swooshを1900万ドルで売却した人物。起業家。)によってUbercab[注釈
3]として設立された。
キャンプは友人とともに私設運転手を雇った時に800ドルものお金を費やしてしまった経験がきっかけとなり、直接輸送のコストを削減する方法を模索していた。彼は、経費を他人とシェアすれば価格を抑えられる、というアイディアを思いつき、それがUberという形になった。その試作版がキャンプと彼の友人達によって立ち上げられ、カラニックが会社の上級顧問役(mega advisor)に据えられた。
2010年2月、ライアン・グレイブスがUber最初の従業員となった。グレイブスはまずはゼネラルマネージャー役となり、始動直後に最高経営責任者(CEO)に任命された。 2010年12月、カラニックがCEOとしてグレイブスの後を継ぎ、グレイブスは同社の最高執行責任者(COO)となる。2019年までに、グレイブスは3,190万株を保有していた。
2010年5月のベータ版始動を経て、2011年にサンフランシスコでUberのサービスとモバイルアプリが正式に始まった。当初、このアプリが利用者に配車できたのは黒塗り高級車1台だけで、価格はタクシーの1.5倍だった。2011年、同社はサンフランシスコのタクシー事業者からの苦情を受けて、社名をUberCabからUberに変更した。
同社の初期の採用には核物理学者や計算論的神経科学者や機械の専門家などがいて、民間ハイヤー運転手に対する需要予測に取り組んでいた。2012年4月、Uberはモバイルアプリを介して利用者が通常のタクシーやUber 運転手を要請できるサービスをシカゴで開始した。
2012年7月、同社は身辺調査・登録要件・車両基準を条件に高級でない車両(自家用車含む)を人々が使うことが可能になる安価なオプションのUberXを導入した。2013年初頭までに、世界の35都市でこのサービスが運用されていた。
2013年12月、USAトゥデイ紙がUberを今年のハイテク企業に選出した。
2014年8月、Uberはサンフランシスコ湾岸地域の共有輸送サービスをするUberPOOLを立ち上げ、すぐに同サービスが世界じゅうの様々な都市で開始された。
2014年8月、Uberは食品配達サービスのUber Eatsを開始した。
2014年にUberは优步(Yōubù)という名称で中国での事業を開始していたが、厳しい競争に直面したため2016年8月、Uberは滴滴出行株式18%と引き換えに中国での事業を滴滴出行に売却した。
2017年8月、エクスペディアグループの前CEOダラ・コスロシャヒがUberのCEOに就任した。2017年7月、Uberは電子フロンティア財団から5つ星のプライバシー評価を受けたが、乗車終了後も顧客の位置を追跡するという方針が物議を醸して2017年9月にこの団体から厳しく批判され、同社はこの方針取り消しを余儀なくされた。
2018年2月、UberはCIS諸国での事業をYandex.Taxiと提携し、この新規事業に2億2500万ドルを投資した。2018年3月、Uberはグラブ (企業)の株式27.5%と引き換えに東南アジアでのサービスをグラブの事業と合併させた。
2019年5月10日、Uberは新規株式公開 (IPO) を通じて上場企業となった。上場するやUberの株価は11%下落し、米国IPO史上最大となる公開初日での下落幅を記録した。上場1か月後、バーニー・ハーフォード最高執行責任者 (COO) とレベッカ・メッシーナ最高マーケティング責任者 (CMO) が辞任した。Uberは2019年第1四半期に10億ドルの損失を計上し、同第2四半期の損失は52億ドルとなった。
2019年7月、マーケティング部門が1/3に縮小するも同社が引続き損失を出したことで、400人の整理解雇が行われた。エンジニアの採用は凍結された。2019年9月上旬、Uberはさらに従業員435人を(265人はエンジニア部門から、170人はプロダクト部門から)整理解雇した。
2020年1月、UberはCareemを31億ドルで買収した同月、ウーバーはインドのUber Eats事業をZomatoに売却し、Zomato株の9.99%を購入した。
2020年5月5日、新型コロナウィルス (COVID19) の流行期間にUberは従業員3,700人(全勤務者の約14%)を整理解雇する計画を発表した。同月18日、さらに3,000人超の人員削減と45件の事務所閉鎖が発表された。
2020年6月、Uberはマリン郡 (カリフォルニア州)の公共バス事業局Marin Transitの保有するバスをオンデマンド管理すると発表した。この提携はUberにとって初のSaaS共同事業となる。
2020年7月、Uberは過半数所有のCornershopと提携して、ラテンアメリカ (中南米)・カナダ・マイアミ・ダラスでUberの食料品配達サービスを開始した。
2020年11月、Uberは58億ドルの損失を出したと発表した。
2020年12月1日、UberはPostmatesを26.5億ドルで買収した。
以前あった事業[編集]
自動運転車両[編集]
Advanced
Technologies Group (Uber ATG) は、自動運転車を開発しているUberの子会社である。Uber ATGには、ソフトバンク・ビジョン・ファンド (SVF)、トヨタ、デンソーが少数ながら出資している。
2015年初頭、同社はカーネギーメロン大学のロボット学科から約50人を雇用した。
2016年9月14日、Uberはフォード・フュージョン車を複数台使ってピッツバーグで顧客を選別する最初の自動運転車サービスを開始した。各車両には、20台のカメラ、7台のレーザー、GPS、LIDAR、レーダー機器が装備された。
2016年12月14日、Uberは故郷サンフランシスコで自動運転ボルボ・XC90SUVの運用を開始した。同月21日、カリフォルニア州陸運局は、Uber が試験使用していた車両の登録を取り消し、カリフォルニアでの事業運用中止を余儀なくされた。2か月後、Uberはアリゾナ州に計画を移し、そこで車が乗客を迎えに行くことに成功したが、安全上の予防措置としてUber技術者2名が常に各車両の前部座席にいた。2017年3月、Uberの自動運転車が道を譲らなかった別の車両に衝突されて横転した。同年10月、Uberはテストドライバー1名だけで運用を始めた。
2017年11月、Uberは異なる種類のステアリング機構とブレーキ機構とセンサーを含む自律制御テクノロジーを受け入れる設計のボルボXC90 SUV車を最大24,000台購入する拘束力のない計画を発表した。
2018年3月、Uberの自動運転車による死亡事故 (Death of Elaine Herzberg) がテンピ (アリゾナ州)で起こった後、Uberの自動運転車試験は一時中断した。警察によると、この女性は通りを横断しようとしてUber車両に轢かれ、車両のUberエンジニアは携帯電話でビデオを見ていた。Uberは被害者遺族と和解した。車か被害者のどちらに過失があるかについては現地当局で意見が揃わなかった。2018年12月、現地の承認を受けた後Uberはピッツバーグとトロントで、日中かつ低速のみでの自動運転車試験を再開した。2019年3月、Uberは先の死亡事故に関して刑事責任を負わないことがヤヴァパイ郡 (アリゾナ州)地方検事局から明言された。同社は自動運転車への取り組み方を変更し、Uberの配車ネットワーク上で車両を運用させるべくウェイモとゼネラルモーターズ双方の自動運転車部門を招聘した。2020年2月、Uberは自動運転車の許可を再び取得し、サンフランシスコで試験を再開する計画を発表した。
2019年初頭、Uberは自動運転車の研究開発に月額2,000万ドルを投じた。ただし、自動運転車の事業費が四半期あたり2億ドルにもなるとする資料もある。
2021年1月、Uber ATGはAurora社に買収され、Uberは4億ドルをAuroraに投資した。
自律走行トラック[編集]
Uberは自律走行トラックの開発に9億2500 万ドル超を投じた後、2018年7月に同事業を中止した。2016年にUberはOttomotto
LLCを6億2500万ドルで買収した。Google関連会社が所有するウェイモによって提訴された2017年2月の訴訟によると、元Google従業員のアンソニー・レヴァンドフスキは、Uber に買収されたOttoを見つけるため辞任する前に「ウェイモの青写真を含む機密性の高いファイルおよび企業秘密ファイル9.7GBをダウンロードした」と報じられている2017年5月の裁定では、Uberはウェイモに文書を返却することが義務付けられた。裁判は2018年2月5日に始まり、同月8日に、Uberがウェイモに2億4400万ドルのUber株式を提供し、ウェイモの知的財産を侵害しないとの合意による和解が発表された。
空輸サービス[編集]
2019年、HeliFlite社と提携してUberは米国でマンハッタンとジョン・F・ケネディ国際空港を結ぶヘリコプター空輸タクシー事業を手掛けた。HeliFliteによる運航で、Uber Copterは約8分間の飛行を乗客1名あたり約200ドルで提供していた。
UberのElevate部門は、VTOL航空機を使用した短距離飛行を提供するUberAirを開発していた。 2020年12月、ジョビー・アビエーションがUberElevateを買収した。
Uberワークス[編集]
2019年10月、Uberは非正規雇用を希望する労働者と企業をつなぐUberWorksを立ち上げた。 このアプリは当初シカゴでのみ利用可能だったが、2019年12月にマイアミに拡張された[124][125]。このサービスは2020年5月に突如停止された。
日本におけるUber[編集]
Uber
Japan株式会社 |
|
市場情報 |
非上場 |
本社所在地 |
|
代表者 |
代表取締役 キア・デヴォン・ガムス |
資本金 |
1800万円 |
純利益 |
▲8145万0309円 |
総資産 |
34億2101万0840円 |
決算期 |
12月末日 |
日本では、2013年9月に日本法人「Uber Japan株式会社」が第2種旅行業者として登録され、同年11月より台数限定でのトライアルサービスを行い、2014年8月より東京都内全域で本格的にタクシーの配車サービスを開始。その後、青森市・仙台市・郡山市・横浜市・名古屋市・京都市・大阪市・神戸市・広島市・福岡市などでもタクシーの配車が利用可能になっている。また、2015年2月には、福岡市において諸外国同様に一般人が自家用車で運送サービスを行う「みんなのUber」のテストを開始するが、国土交通省から「自家用車による運送サービスは白タク行為に当たる」として、サービスを中止するよう指導が入り、同年3月にサービスを中止した。
2015年10月4日、リサイクル可能な衣類を回収して東北に届けるというチャリティーイベント「UberRECYCLE」を開催した。イベント期間中、対象エリア内でウーバーのアプリを開くと、配車に加え「RECYCLE」メニューが出現し、前日に講習を受けてドライバーアプリをインストールしたボランティアドライバー(一般人)が自家用車で向かい、衣類を回収するというもので、ウーバードライバーの体験ができた[131]。
2015年10月20日、国家戦略特区諮問会議で、当時の内閣総理大臣であった安倍晋三は「過疎地などで観光客の交通手段として、自家用自動車の活用を拡大する」と述べ、一般の人が自家用車で有償送迎する「ライドシェア(相乗り)」を可能にする規制緩和を検討するよう指示したが、対象は地方を中心とする国家戦略特別区域であるため、日本で一般ドライバーによる、本来のUberサービス開始時期は未定である。
2016年5月25日、トヨタ自動車とライドシェア領域における協業を検討する旨の覚書を締結した。5月26日には、京都府京丹後市のNPO法人がUberの仕組みを採用して、一般人による有償旅客輸送を開始した。これに対し、タクシー業界側は対抗手段として京都市内の事業者が営業所を開設している。
2020年7月3日、Uber Taxiは東京都内でサービスを開始した。対象範囲は千代田区・中央区・港区・新宿区・文京区・台東区・墨田区・江東区・品川区・目黒区・渋谷区全域と世田谷区の一部エリアがサービスエリアとなっている。迎車料金は各タクシー会社規定料金を徴収する。
批判[編集]
運転手の扱い[編集]
独立請負業者という分類[編集]
法律で別途要件のない限り、運転手は一般的に独立請負業者であり、従業員ではない。この指定が税制や勤務時間や残業手当に影響を及ぼしている。雇用法(日本でいう労働契約法)の下で「従業員」とみなされる権利と救済を受ける資格があると主張する運転手たちによって、複数の訴訟が起こされている。 しかしながら、運転手たちは従業員には一般的ではないある種の柔軟性(時間拘束の少なさ等)を享受している[138]。
2013年8月16日、カリフォルニア州の地方裁判所で行われたオコナー対Uber Technologies裁判で、Uber運転手はカリフォルニア州労働法に従って従業員に分類され、ガスや車両メンテナンス費用といった事業費の払い戻し(経費精算)を受けられて然るべきだと主張した。2019年3月、Uberは訴訟を解決するため2000万ドルを支払うことに合意した
2016年10月28日、アスラム対Uber BV訴訟にてロンドン中央雇用裁判所は、Uber運転手が自営業者ではなく「労働者」であり、1998年の英国最低賃金法に基づく最低賃金、有給休暇、その他の権利を受ける資格があると判断したUber運転手2人は、GMB組合の支援を受けてロンドンの運転手たちを代表して雇用裁判所に試訴(判例となる訴訟案件)を持ち込んだ。Uber は英国最高裁判所に上告し、2021年2月に同裁判所は、運転手が自営業者ではなく労働者として分類されるべきであるとの判決を下した。Uberの運転手は、最低賃金、休日の賃金、および判決における差別からの保護を受ける権利を獲得した。 以前の訴訟3件で敗訴した後、同社はその運転手が独立業務請負人であると主張して最高裁判所に上告した。
2018年4月、カリフォルニア州最高裁判所は、配達会社Dynamexが自社の配送ドライバーを従業員ではなく独立請負業者だと分類するのは誤りだとDynamex西部事業対上級裁判所で判決を下した。これが最終的に2019年9月11日にカリフォルニア州での法案通過 (Assembly Bill 5) につながり、任務遂行者を従業員に分類するのならば最低賃金保護と失業給付が必要とされるかなどを判断する試験をもたらした。 2019年12月、UberとPostmatesはカリフォルニア州を訴え、AB5は違憲であると主張した。2020年、彼らはカリフォルニア州の提案 (2020 California Proposition 22) を支持する活動に数千万ドルを投じ、それが議会通過して、運転手を「独立請負業者」として分類するAB5の特例が認められ、雇用主は上述の提供を免除された。
2019年11月、ニュージャージー州の労働当局は、運転手は従業員に分類されるべきもので延滞失業と障害保険税について罰金6億5000万ドルを科すと裁定した。
最低賃金法の遵守[編集]
ニューヨーク市などの一部管轄区で、運転手たちには最低賃金が保証されている。こうした法律がないと、多くの運転手たちが得る収入は最低賃金よりも少ないことが複数の分析で示されている。経済政策研究所の2018年5月報告書によると運転手たちの平均時給は9.21ドルであることが判明した。賃金が乏しいとの報道は、Profil誌、Trend誌、ガーディアン紙で発表されている。2017年の報道では、主に低賃金のため1年経ってもこうした働き方をしているUber運転手は4%だけだったと主張した。
しかし、2019年の調査では「ドライバーは柔軟性の低い取り決めで2倍以上の剰余金(黒字)を得ている」ことが判明した。
安全上の課題と問題[編集]
犯罪はライドシェア運転手によって行われるだけでなく、自分の車にステッカーを貼ったり乗客の期待に沿った運転手だと主張することで、その車を疑わずに乗り込む乗客を誘いこむライドシェア運転手を装った個人によっても行われている。後者はサマンサ・ジョセフソン殺害事件[注釈 4]が起こって、彼女の名を冠したサミ法 (Sami’s Law) の導入に繋がった。この訴訟では、ライドシェア企業が性的暴行を防ぐための必要な措置を講じなかったと断じられている。2016年2月、カラマズー (ミシガン州)で6人が死亡した銃乱射事件 (2016 Kalamazoo shootings) はUber運転手によって実行された。Uberは身辺調査の件で批判されたが、この運転手には犯罪歴がなく身辺調査では問題点が出てこなかった[155]。
2017年11月、コロラド州公益事業委員会は同州の運転手57人が身分確認で違反していたと判明したことで、Uberに890万ドルの罰金を科した。この罰金額は、無資格運転手の勤務1日につき2,500ドルと同額である。
2017年9月、ロンドンにおけるUberの新たな許可申請は同社の手法や過去の行為(運転手の身元調査、診断書の取得、重大な刑事犯罪の報告に関する企業責任の欠如)を理由にロンドン交通局から却下された。2019年11月、ロンドン交通局はUberが運転手、保険、安全に関するチェックの問題に適切に対処できなかったという理由で、ロンドンで事業を行うUberの許可を更新しないと発表した。ロンドン当局が Uberの許可を削除する根拠の一部には、Uber運転手の アカウントが無資格の運転手によって使用されていたという証拠がある。2019年11月、身元を偽って他人の運転手アカウントを使用し、身辺調査の手続きを回避していた人達がいたことなどを理由に、ロンドン交通局はUberの認可を更新しなかった。
より安全な交通手段の代わりに自動車に乗る人の数が増加しているとして、シカゴ大学の研究は、ライドシェアを歩行者死亡を含む交通事故死者の増加に結び付けた。
ライドシェアは運転中の電話使用を推奨または要求することでも批判されている。運賃授受のため、運転手は通常だと通知が届いてから15秒以内に携帯電話の画面をタップする必要があり、つまりUberのドライバーたちは違法な「ながら運転」をUberから強要されている(近年ではながら運転は世界の多くの地域で法律で禁止されており、日本でもながら運転は違法であり厳罰の対象である。)
他にも多くの都市でライドシェア車両は乗客の乗り降りさせる際に自転車用レーンを日常的に塞いでおり、自転車利用者を危険に晒す行為となっている。
ライドシェア車両がタクシーよりも安全性が低いのか高いのかは不明瞭である。 米国の主要都市にはタクシー関連の事件に関するデータがあまり存在しない。ただしロンドンでは、Uber運転手の性的暴行事件がタクシーおよびUber運転手による同事件総数の20%を占めている。
変動価格と価格操作の疑惑[編集]
変動価格制のため、要求された時の乗車需給に応じて同じルートでも料金が異なることがありうる。特定地域で乗車需要が高くなって、そこの地域が運転手不足になると運賃は上昇する。2012年のハリケーン・サンディ、2014年シドニー人質立て籠もり事件[176]、2017年ロンドンテロ事件といった緊急時には、極端な追加料金が生じる結果となった。
米国では、請求する運賃を運転手が一切管理していない。このことは1890年シャーマン法違反にあたる取引上の違法な拘束だと、複数の訴訟案件が主張している。
アクセシビリティの悪さ[編集]
ライドシェアは、公共交通機関と比較して障害者へのアクセシビリティ対策が不十分であると批判されている。
一部地域では、ハイヤー事業に車椅子対応バン (WAV) を一定量持っておくことが法律で義務付けられている。しかし(Uberに登録する)運転手の大半はWAVを所有しておらず、その法律を遵守することは難しい[180]。
企業には介助動物を搬送する厳格な要件があるが、Uber運転手が介助動物の搬送を拒否して、これが米国の障害を持つアメリカ人法違反にあたると批判されている。ある事案では訴訟沙汰となり、裁判外紛争解決手続という結果に至った。
2022年7月18日、アメリカの司法省はUberが車に乗車する際に2分以上かかる障害者の乗客に対して待機料金を請求しているが、この請求行為は障害者法に抵触していると指摘した。Uberはこの請求を開始した2016年以降の全ての乗客に対して、障害を理由に車に乗車するのに追加の時間が必要と証明した場合はその同伴者を含む待機料金を返金すると共に今後これらの乗客には待機料金を請求しないことを発表した。
反トラスト価格操作の疑惑[編集]
Uberは幾つかの反トラスト法違反事件の対象である。一般的に反トラスト法では、事業会社内での価格設定活動が許されているが、企業の垣根を越えたものは禁止と定めている。Uber は消費者に直接サービスを提供してはいない。代わりに同社は運転手と乗客を結び付けて、サービス条件を設定したり運賃を徴収している。
反トラスト法の企業免除は、従業員など会社が直接管理権を持つ構成員団体に厳密に適用される。Uberはいずれの反トラスト法問題の訴訟もうまく回避している。マイヤー対Uber Technologies, Incの訴訟も、裁判外紛争解決手続へと移すことに成功した
Uber・Lyft・Handy・Amazonホームサービス・ドアダッシュ・インスタカートといったごく短時間な非正規雇用オンラインマーケットプレイスは、雇用側が雇用主の標準的な義務を負わない単発仕事を両者間で扱いながらも雇用事業者 はそれ自身の利益のために労働市場全体を運営するという手法を完成させており、一部の反トラスト専門家はこれを「営利目的の雇用集会場(for-profit hiring hall)」と呼んでいる。
Uber運転手は従業員ではないため、運転手と客とが取引する条件をUberが設定すること(顧客に請求する価格を操作する等)は1890年シャーマン法の取引制限違反に該当するとの説もある。Uberが共同謀議での価格操作なのか、またその価格操作が横並びであるかといった問題は、裁判でまだ解決されていない。Uberは「法律は我々の味方であると考えており、その理由として反トラスト機関が4年にわたりこれを問題提起しておらず、米国で同様の訴訟は起きていません」と公言している。
不祥事[編集]
物議となった事案の多くは、カラニックCEO時代 (2010 - 2017) のものである。具体的には以下のものがある。
対決主義[編集]
トラビス・カラニックが率いていた頃のUberは、規制当局を含め障害に対処するにあたって攻撃的な企業戦略を敷いていた。2014年に「君達(従業員)は私が言うところの対決主義(principled confrontation)を持つ必要がある」とカラニックは述べた。Uberの戦略は一般的に、現地の規制などお構いなしに都市で運用を開始することだった。 規制当局の反対に直面した場合、Uberは自社サービスへの公的支援を呼びかけたりロビイスト団体を後ろ盾に政治活動に乗り出して、規制を変更していく方針だった。 例えば、2014年6月にUberは自社に否定的なバージニア州行政官のメールアドレスと電話番号を記載した通知を乗客利用者達に送信、その当局者にロビー活動を行うよう利用者達に指示しており、その行政官は何百もの苦情を受けることとなった。2017年11月に新就任したCEOダラ・コスロシャヒは、カラニックの「どんな手段を使っても勝つ」戦略の終了を宣言し、この企業に「我々は正しい事をする」などの新たな価値を植え付けた。Vice誌は、2019年カリフォルニア州法案 (Assembly Bill 5) でのUberの対応が「規制を無視したり対決するというUberの戦略が従来のまま残っている」と主張した。
競合他社への攻撃[編集]
ニューヨーク市のUber従業員が競合他社のGettに乗車注文しては故意にキャンセルしたと主張する文書が漏洩し、2014年1月24日にUber社が謝罪した。Gett運転手たちの時間を浪費させて本来の顧客に対するサービスを遅らせることが、この虚偽注文の目的だった。
2014年7月にLyftがニューヨーク市に進出した後、Uberは参加者の「個人的な奮闘」に基づいた「高額手数料の機会」を提供するメールを複数の請負業者に送信した。この勧誘に応じた人達には、Lyftの事業開始計画や運転手募集に関する情報の収集部隊 (street team) を作ろうとしたUberのマーケティング管理者との会合が用意された。採用者にはUberブランドのiPhone2台(1台はLyftに識別された場合の予備)と、偽のLyftアカウントを作成するのに使える一連のクレジットカード番号が与えられた。参加者達は秘密保持契約への署名を義務付けられた。
2014年8月、177人のUber従業員が2013年10月以降に約5560回Lyft乗車を注文してはキャンセルしており、関与していた電話番号をたどった結果Uber採用者との繋がりがあることが判明した、とLyftが公表した。その報告書では、2014年5月26日-6月10日の間に300回乗車キャンセルしていた客が、Lyft運転手たちによりUber採用者だと特定されていた。Uberは謝罪しなかったが、今回の試みが金儲けを企んだ独立の当事者であることを示唆した。
運転手を誤解させる[編集]
2017年1月、Uberは米国政府に2000万ドルを支払うことに合意して、収益可能性について運転手らを誤解させているという連邦取引委員会の告発と和解した。
運転手による過少報酬の告発[編集]
2017年、運転手の弁護団がクラスアクションを起こし、運転手に権利付与されている項目の80%をUberが提供していないと告発した。
2017年5月、ニューヨークタクシー労働者同盟 (NYTWA) が同市の連邦裁判所にクラスアクションを起こした後、Uberは手数料の総額を再計算して、ニューヨーク市の運転手にこの2年半で数千万ドル規模の過少支払いがあったことを認めた。Uberはこの未払額に利息を付けて支払うことに合意した。
タクシーストライキ期間に運行[編集]
2017年1月下旬、ニューヨーク市で大統領令13769号に抗議するタクシーストライキ期間に運賃を徴収していたことで、Uberは(GrabYourWallet活動の団体から)批判の標的にされた。Uberは、入国時に難民が拘留されていたJFK空港発での急騰価格を控えていた。カラニックが政権の経済諮問委員会に加わったため、Uberが標的にされた。抗議として#DeleteUberというソーシャルメディア活動が起こり、約20万人の利用者がアプリを削除する事態となった。その後アカウント削除した元利用者にはUberの声明が電子メールで送信され、同社は難民を支援しており、カラニックの委員会入りは(トランプの)政権支持ではないと主張した[209]。2017年2月2日、カラニックは同委員会を辞任した [210]
自社開発ソフトの悪用[編集]
Greyball[編集]
2014年より、Uberは自社ソフトウェア「Greyball」を使って、サービスが違法な地域にいる法執行官の乗車を回避していた。現実には存在しない「ゴーストカー」をUberモバイルアプリで対象の個人に表示させ、実在の運転手らにはそれら個人によって要求された乗車をキャンセルさせる手法で、Uberは自社サービスが違法とされる地域にいる既知の法執行官を乗車させないようにすることが可能だった。2017年3月3日のニューヨークタイムズ記事がUberのGreyball使用を公表し、それをポートランド (オレゴン州)・オーストラリア・韓国・中国の市条例執行官を回避する方法だと説明した。この報道への回答として当初、Uberは利用規約違反者(おとり捜査に関与する人達も含む)の乗車を拒否するために設計されたものだと主張していた。Uberによれば、Greyballは「乗客個々に対して標準の都市地図アプリを非表示にして別バージョンを表示させる」ことが可能だと言う。報道によると、UberはGreyballを使って、利用者が政府機関付近で頻繁にアプリを開いたりしていないかに着目したり、利用者のソーシャルメディアにある個人情報や、Uberアカウントに関連付けられたクレジットカードから法執行官を特定していたという。
この記事から数日後の3月6日、ポートランド運輸局が「UberはGreyballを使って運輸局役員を意図的に回避し、同執行官による乗車要求29件を拒否した」との調査結果を発表した。この監査発表を受けて、ポートランドの警察長官はUberに対して同ソフト使用で規制当局を回避している方法に関する情報を提出させる方針を示唆した。3月8日にUberは政府の規制当局を妨害するためにGreyballを使っていたことを認め、この目的での使用をやめると宣誓した。2017年5月、現地の法執行活動を回避する目的でUberがGreyballを使用した件で米国司法省が犯罪捜査を開始した。
Ripley[編集]
警察によるUberブリュッセル事務所へのガサ入れ捜査が行われた後、2018年1月のブルームバーグニュース報道が「Uberが海外で警察のガサ入れを邪魔する目的でRipleyを日常的に使用していた」と伝えた。Ripleyは一種のパニックボタンシステムで、ガサ入れ捜査の時にコンピュータのロックや電源オフ、パスワードを変更してしまうものだった。2015年春から2016年後半までに、Uberはこのボタンを少なくとも24回使用したと伝えられている。
God
View[編集]
2014年11月19日、アル・フランケン上院議員がプライバシー懸念の書簡を当時のCEOカラニックに送達している。その懸念とは社内データの内部的な誤用、特に「God View(神の視界)」と通称される顧客の動きを追跡するUber従業員の職権に関するものだった。2011年、Uber職員がこの機能を使って報道記者や政治家を追跡していること、またこの機能を娯楽目的で使用していることをあるベンチャー投資家が明らかにした。職員達はUberに追跡されることを対象人物に肯定的な評価だと見なしていたという。
セクハラ疑惑に絡む経営陣の退陣[編集]
2017年2月、元Uberエンジニアのスーザン・ファウラーは上司からセクシャル・ハラスメントを受け、その後この事案を報告しようとしたところ別の上司から解雇含みの脅迫を受けた。カラニックCEOはこの問題を認識していたと報じられている。
Uberは元司法長官のエリック・ホルダーを招聘して調査を行い、またUber取締役員のアリアナ・ハフィントンが調査を監督した。
2月27日、Uberエンジニア担当の副社長幹部アミット・シンハルがGoogle副社長時代 (2015) に起こしたセクハラ事案の告発を開示していなかったと分かり、彼は辞任を余儀なくされた。
同年6月、Uberは調査の結果20人以上の従業員を解雇した。カラニックにはUberから無期限の出勤停止処分が下ったが、投資家からの圧力を受けて彼は1週間後にCEOを辞任した(カラニックが同社の取締役会を辞任したのは2019年)。
2019年、カラニックは会社の取締役会を辞任し、彼の所有株を売却した。
醜聞とエイミル・マイケルの退社[編集]
2014年11月の私的な夕食会で副社長幹部のエミル・マイケルは、100万ドルの予算を組んでUberが敵対する研究者と報道記者の一団を雇い、Uberについて否定的に報道したメディア関係者の個人的な生活と背景について「醜聞をかき集める(Dig up dirt)」ことを提案した。具体的には、2014年10月の記事でUber広告における性差別と女性蔑視を非難したPandoDailyの編集者サラ・レイシーを標的に定めた。マイケルは公的に謝罪を表明し、レイシーには個人的な電子メールで謝罪して、Uberは断じて計画を実際に移すつもりはないと主張した。ソウルにおける女性同伴カラオケバーでの醜聞やインドにおける強姦被害者の医療記録への疑問視など、マイケルが関与するスキャンダルが相次いだ後、彼を擁護していたと伝えられるカラニックが辞任した2017年6月に、マイケルは会社を辞めた。
被害者との和解[編集]
2018年8月、Uberは作業員480人に総額700万ドルを支払うことに合意して、性差別、セクハラ、敵対的な労働環境の告発と和解した。
データ漏洩の公表遅延[編集]
2015年2月27日、Uberはその9カ月以上も前にデータ漏洩があったことを認めた。運転手5万人分の氏名やナンバープレート情報が流出し、Uberは2014年9月時点でこの漏洩に気付いていたが、5カ月以上待ってから流出した本人たちにそのことを伝えた。
2017年11月の発表では、さらに運転手60万人と顧客5700万人分の個人情報が2016年に漏洩していたことが明らかとなった。このデータには、氏名・電子メールアドレス・電話番号・運転免許証情報が含まれていた。ハッカーは前回の流出情報を使ってUber開発者のGitHubデータにアクセスしており、利用者や運転手のアカウント情報を含む様々なデータを抜き取っていた。Uberは盗まれたデータを削除するという約束で、ハッカーに10万ドルの身代金を払っていた。
このデータ漏洩を隠蔽していたことでUberは批判を浴び、(カラニックに代わって就任した)CEOコスロシャヒが公的に謝罪することになった。2018年9月、この案件でUberはデータ漏洩の多国間和解としては最大となる1億4,800万ドルを連邦取引委員会に支払うこととなり、消費者の個人情報への内部アクセスが常に綿密に監視されているという自社の主張が誤りだったと認めたほか、消費者データに合理的なセキュリティを提供する約束を果たせなかったと述べた[261][262][263]。2018年11月、Uberの英国支部も個人情報保護監督機関 (Information Commissioner's Office) から30万ポンド超の罰金を科された。
オフショア企業を使った課税最小化[編集]
2017年11月のパラダイス文書では、Uberが納税を最小限にするべくオフショア企業を利用していた企業の一つであったことが判明した。
データ[編集]
顧客サービス[編集]
経済学者のジョン・A・リストは、企業データを分析して顧客の問題と会社の対応が将来の顧客注文に及ぼす影響を調査した。例えば、乗車に9分かかると予測されたのに実際は23分かかったとする。分析によると、悪い経験をした人はその後Uberに費やす時間が最大10%少なくなり、収益が非常に大きく損なわれることが判明した。その後リストは、将来のUber使用におけるUberによる異なる反応の影響を実験した。一部顧客には単純な「陳謝」が行われた。他の人には会社が顧客を失敗したことを認めたり「二度とこうした事が起こらないようにする」との約束文を追加した。謝罪は顧客の維持には効果的でなかった。5ドルの割引券が事業損失を少なくした。とはいえ、繰り返される悪い経験と謝罪は顧客をさらに遠ざけた。
男女による収益の違い[編集]
データ分析によると、男性運転手の方が女性よりも約7%多く稼いでいる。男性は(女性よりも)平均2.5%速い速度で運転するので、より多くの顧客にサービス提供していることが判明した。女性の乗客は平均4%のチップを与え、男性乗客は5%を与えていた。ただし、女性運転手は65歳以下であればもっと多くのチップを受け取っていたことが判明した[265]。
脚注[編集]
注釈[編集]
1.
^ アメリカ合衆国をはじめチップ文化がある国で必要なオプション。
2.
^ ビジネスを行うにあたり国・自治体が発行する生業の認可証で、米国では税務申告や口座開設など様々な場面で必要となる[18]。ただし日本では、飲食業ほか一部業種で営業許可や届出が必要になるものの[19]、事業を行う誰しもが申請するビジネスライセンスというものは存在しない。
3.
^ この"cab"は「タクシー」を意味する一般的な英単語。
4.
^ 2019年3月サウスカロライナ州で、Uberを頼んだ21歳のジョセフソンが自分に配車されたと思った車に(勘違いさせられて)乗ってしまい、そのまま誘拐されて殺害された事件。詳細は英語版en:Murder
of Samantha Josephsonを参照。
Business
Insider Jun.
21, 2017
辞任したウーバーCEOのジェットコースター人生 トラビス・カラニック
トラビス・カラニック氏がUberCabという名のベンチャーをサンフランシスコで立ち上げたのは8年前のこと。今ではウーバー(Uber)は、シリコンバレー発の世界的な大企業になり、同時に多くの問題行動でも有名になった。
世界約600都市で展開する同社の企業価値は、約700億ドル(約7兆8000億円)と言われている。そして、40歳のカラニック氏の純資産は60億ドルを超えるという。
順風満帆と思われたカラニック氏とウーバーだが、この数カ月はスキャンダルにまみれ、4カ月にわたる調査の末、20人以上が解雇されただけでなく、カラニック氏も辞任に追い込まれた。
ジェットコースターのようなカラニック氏の人生を改めて振り返ってみよう。
トラビス・カラニック氏はロサンゼルス郊外の町、ノースリッジで育った。子供の頃の夢はスパイだったという。
Kevork
Djansezian/Getty
Source: Business Insider
学校での成績は優秀で、アメフトや陸上競技をこなす運動神経の良い少年だった。しかし、幼少期に年上の生徒からいじめられたカラニック氏は、他人から圧力を受けまいと強く心に誓った。
Flickr/FortuneLiveMedia
Source: The New York Times
カラニック氏は、広告業を営んでいた起業家の母親の後を追うことになる。10代で調理用のナイフを売り歩き、18歳で初めて起業する。彼の最初のビジネスはニューウェイ・アカデミー(New Way Academy)と名付けた、SAT(アメリカの大学に入学する前に受けるテスト)の準備講座だった。
ウーバーがロサンゼルスで始まったとき、カラニック氏の両親であるドナルド(Donald )とボニー(Bonnie)は、初めてウーバーを利用したユーザーに与えられるタイトル「Uber Zero」を獲得した。
カラニック氏はコンピューター・エンジニアリングを学ぶためUCLAに入学したが、1998年に退学。
大学を辞めたのは、クラスメートのマイケル・トッド(Michael Todd)氏とビンス・ブッサム(Vince Busam)氏と一緒に、仲間同士のネットワーク検索エンジン「Scour」を開発するためだった。
カラニック氏はScourでフルタイムで働きながら、失業者たちを労働力として集めた。Scourは、共同創業者やその家族などエンジェル投資家に支えられた。
Scourは複数のエンタメ企業から訴えられ、総額2500億ドルにも及ぶ法的責任を問われると、すぐに連邦倒産法のチャプター11を申請した。
カラニック氏は、ネットワークソフトウエア開発企業Red Swooshで再起を図る。しかし、またもやトラブルに見舞われる。Scour共同創業者で、旧友のマイケル・トッド氏と対立関係に陥ったのだ。ニューヨークの同時多発テロ(9.11)後に株式市場が暴落したとき、Red Swooshは従業員の所得税分を企業の再投資に回し、法の境界線を越えてしまう。 結果、共同創業者たちは仲たがいし、Red Swoosh社はその後、上場することも企業を売却することもできなくなる寸前に陥った。
その後、両親が住む家に戻ったカラニック氏は、より多くの資金を調達。2007年には、Red Swoosh社をアカマイ社(Akamai)に2300万ドルで売却し、カラニック氏は億の金を手にする。
億万長者(ミリオネア)になったカラニック氏は、世界旅行に出かけた。スペイン、日本、ギリシャ、アイスランド、グリーンランド、オーストラリア、ポルトガル、セネガル、それにカーボベルデ。ハワイとフランスには2回ずつ、旅をした。
2008年、「LeWeb テクノロジー・カンファレンス」に出席したとき、カラニック氏はウーバーにつながるビジネスアイデアを耳にする。そして、ボタン1つで黒塗りの配車サービスのコストを下げる、新たな方法を考え出していく。
カラニックのタクシー嫌いは、過去の経験によるものだ。ある時、運転手と口論になったカラニック氏は、腹を立てた挙句、動く車から飛び降りた。
ギャレット・キャンプ(Garrett
Camp)氏とオスカー・サラザー(Oscar
Salazar)氏、そしてコンラッド・ウェラン(Conrad Whelan)氏の3人が、ウーバーの原形であるUberCabを築いた。カラニック氏の当時の肩書きはチーフ・インキュベーターだったが、むしろ企業を拡大するための「大胆なアドバイザー」の役割を演じた。UberCabは、通常のタクシー料金の1.5倍の金額がかかるが、サンフランシスコ市内であればボタン1つ、もしくはテキストメッセージで、車を呼ぶことができるというものだった。
2010年初め、ライアン・グレイブス(Ryan Graves)氏がUberCabの事業責任者として取締役会に参加。その直後、CEOに指名される。
UberCabは2010年6月、サンフランシスコで始まった。利用者の大きな人気を集めたが、投資家からの出資の申し出はなかなか訪れなかった。
しかし2010年夏、ウーバーは投資家からの資金調達に成功した。ファースト・ラウンド・キャピタルやカラニック氏の友人であるクリス・サッカ(Chris Sacca)氏、ナップスターの共同創業者ショーン・ファニング(Shawn Fanning)氏が125万ドルを出資したのだ。ウーバーのVC投資による調達額は、115億6000万ドルに及ぶ。
2010年12月、カラニック氏がCEOに就任し、グレイブス氏が再び事業責任者となった。2人によると、この人事は友好的に行われたという。
サンフランシスコの後、ウーバーはアメリカ国内で急速にサービスを拡大させていった。2011年5月にはウーバー最大のマーケットであるニューヨークでサービスを開始、1日平均16万8000件以上の利用がある。ウーバーは現在、北米260以上の都市で展開している。
2011年12月、ウーバーは国外では初めてとなるパリに進出した。現在、世界581の都市で展開している。
ウーバーの直近の企業価値は690億ドル。世界で最も価値の高い非上場テック企業だ。
カラニック氏は2015年、ウーバーの共同創業者であるギャレット・キャンプ(Garrett Camp)氏、ライアン・グレイブス(Ryan Graves)氏とともに、フォーブスの世界長者番付に初めてランクインした。カラニック氏とキャンプ氏の資産はそれぞれ63億ドル、グレイブス氏は15億8000万ドルで、保有株の量の違いが金額に表れている。
2015年初め、ウーバーはペンシルベニア州ピッツバーグで自動運転車の走行テストを始める計画を明らかにした。プロジェクトはその後、サンフランシスコとアリゾナ州まで拡大。カラニック氏は、このプロジェクトにウーバーの未来がかかっているとして、特に情熱を注いでいる。
カラニック氏は、彼をよく知る人々によれば、無鉄砲で傲慢。こうした彼の性格がウーバー成功の理由だと考えられてきた。
しかし、それはカラニック氏とウーバーの両方に返ってきた。
ウーバーのスキャンダルが最初に報じられたのは2014年。GQのインタビューで、カラニック氏は、同社のサービスを女性を誘惑するのに役立つとして“boob-er”と呼んだ。(編集部注:“boob”は女性の胸を指す俗語)
2017年2月、ウーバーの元従業員スーザン・ファウラー(Susan Fowler)氏は自身のブログで、社内でセクハラを受けたことや性的偏見にさらされたことを告白。カラニック氏はすぐさま、内部調査を行うよう指示し、元司法長官エリック・ホルダー氏に調査を依頼した。
それ以降、ウーバーに悪いニュースが次々と降りかかった。今年2月、ニューヨーク・タイムズは同社の複数の従業員が社員旅行中にコカインを使用した疑いがあると報じ、また、複数の女性への痴漢行為で幹部が解雇された。
今年3月には、カラニック氏がウーバーのドライバーと運賃の値下げをめぐり、激しく口論する様子を捉えた車載カメラの映像がネットに流れた。カラニック氏は謝罪し、同社のリーダーシップ強化のため、新たにCOOを雇うと述べた。しかし、今だこのポジションは埋まっていない。
以前は自身の移動に、必ずウーバーのサービスを利用していたカラニック氏だが、近頃は専属のドライバーを雇っている。
カラニック氏はバイオリニストのGabi
Holzwarthと2年間にわたり交際していたが、2016年8月に破局。Holzwarthは2017年3月、カラニック氏との交際中に目撃した女性差別を証言した。その中にはウーバーの複数の幹部が受けた韓国のカラオケ・バーでの接待も含まれている。
また、ウーバーは最近、自動運転技術をめぐり、グーグルとの訴訟を抱えている。グーグルは、ウーバーがグーグルの自動運転技術の核である「カバーアップ・スキーム」を盗むため、グーグルの元従業員アンソニー・レバンダウスキー(Anthony Levandowski)氏を引き抜いたと主張。ウーバーは今年4月、レバンダウスキー氏を解雇した。
5月、カラニック氏は悲劇に見舞われる。彼の両親がボート事故に遭遇したのだ。母親は死亡、父親も深刻な状態で病院に運ばれた。カラニック氏は6月初め、自身のFacebookに、父親の状態が徐々に回復していると書いた。
6月、カラニック氏の右腕として知られるウーバーのビジネス担当上級副社長エミール・マイケル(Emil Michael)氏が辞任。
また、ウーバーは同月、215件に及ぶハラスメント(嫌がらせ)の社内調査の結果を受け、20人以上の従業員を解雇。4カ月にわたる調査はアメリカの元司法長官エリック・ホルダー氏の事務所が行い、その結果は13ページの報告書として公表された。報告書は、ウーバーの企業文化の見直しや幹部のアカウンタビリティ向上、社内のダイバーシティ推進などを求めている。
カラニック氏は今月13日(現地時間)、休職を表明。その理由を「自分自身の問題に取り組む」とともに、最近身内に起きた不幸に向き合うためとしていた。 同社は復職後、カラニック氏の権限は縮小され、新たなCOOに移されると述べた。
だが、20日夜半、カラニック氏が辞任するというニュースが流れた。「私はウーバーを世界の何よりも愛している。だが、プライベートで困難な時期にある今、私は投資家たちからの要求を受け入れ、辞任する。そしてウーバーは余計な問題に煩わされるのではなく、本来のビジネスに戻る」とカラニック氏は声明の中で述べた。
ウーバーの投資家の間で「数時間のドラマ」があり、5人がカラニック氏の即座の辞任を求めたと伝えられた。次期CEOに推薦されていると言われるビル・グーレイ(Bill Gurley)氏は、「カラニック氏は、歴史に名を残す人物だ。世界にこれほど影響を与え続けた起業家はいない」とツイートした。
カラニック氏はどうなるのだろうか? それはまだ分からない。カラニック氏は多くの議決権を持っており、取締役には残るようだ。「カラニックは、常にウーバーを最優先してきた。辞任は大きな決断であり、彼の献身とウーバーを愛する気持ちの表れだ。会社から離れることで、個人的な悲劇を癒やす時間を取っており、またウーバーの歴史に新たな一章を加える機会を与えてくれた」と経営陣は声明の中で述べた。
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