クレプトクラシー 資金洗浄の巨大な闇  Casey Michel  2023.3.7.

 2023.3.7.  クレプトクラシー 資金洗浄の巨大な闇

  世界最大のマネーロンダリング天国 アメリカ

AMERICAN kLEPTOCRACY How the U.S. Created the World’s Greatest Money Laundering Scheme in History   2021

 

著者 Casey Michel ニューヨークを拠点に活動するアメリカ人ジャーナリスト。ライス大学を経て、コロンビア大学でロシア・東欧・ユーラシアに関する研究で修士号を取得。マネーロンダリングをはじめオフショア口座、ペーパーカンパニー、国外からの政治介入に関する調査報道を行い、『ワシントン・ポスト』『フォーリン・アフェアーズ』『アトランティック』などの主要メディアに寄稿している。ワシントンの非営利シンクタンクであるハドソン研究所のクレプトクラシー・イニシアティブの諮問委員会のメンバーでもある

 

訳者 秋山勝 立教大学卒。日本文藝家協会会員。出版社勤務を経て翻訳の仕事に

 

発行日           2022.9.5. 第1刷発行

発行所           草思社

 

 

 

プロローグ――大きすぎて見えない

l  赤道ギニアの恐怖政治

テオドリンは、1970年以降赤道ギニアの残忍な独裁者である大統領の息子。無限に湧き出る原油が見つかり、資金に不自由しなかったが、肝心の息子に後継者となる資質が欠如

所有する資産は違法ではないが、国庫から収奪された金

生まれた1968年当時、億万長者といえばヨーロッパジンカアメリカ人を意味し、白人に集中。非白人ではハイチのデュバリエやコンゴのモブツなど誇大妄想家たちばかり

1980年代半ば、富豪は白人だけではないことを証明したのがマイケル・ジャクソンで、アフリカでは子供たちはマイケルに成功した黒人の姿を見ていた

2009年、マイケルが亡くなった時、テオドリンはいかがわしい彼の金をクリーンで合法的な資産に変えることを思いつき、マイケルの遺品を買い集めることで、世界的な有名人になることを夢見る。彼の金を受け入れてくれる国としてアメリカに狙いをつける

l  マイアミの不動産王とウクライナのオリガルヒOligarch

2010年、オリガルヒの投資の代理人でマイアミに住む不動産投資家のショチェットはクリーブランドに投資物件を物色に来る。クリーブランドは、2000年代後半のGreat recessionから立ち直り、ニューヨークやサンフランシスコ、ダラスに次ぐ不動産の「第2の市場」と考えられていた。歴史的建造物だったハンティントン・ビルを現金で購入

オリガルヒの名はコロモイスキー、ウクライナのプリヴァトバンク代表で、パートナーとともに銀行から融資・投資名目で50億ドル以上を騙し取っていた

彼は、その金をアメリカで洗浄するだけでなく、自分の意のままにこの国の外交政策を歪める方法、この国の歴代の政権の中でも最も不正を極めた政権を言いなりにする方法、アメリカのクレプトクラシーに付け込んで脅かす方法を確立することに関心が向けられた

l  世界最大のマネーロンダリングの国

前記2つの物語が果たしている役割は、アメリカが世界最大のマネーロンダリングと金融取引の守秘サービスを提供する国になり、誰がそれを利用し、それが私たちにとって何を意味するのかという物語を説明する上で必要な、ケーススタディとしての役割

アメリカでは汚れた資金の洗浄行為は合法的とされる

「オフショア」の定義――冷戦終結に向かう移行期、共産党の政治局員に代わって旧共産圏の支配層となったオリガルヒは、植民地独立後の国で支配者に富が集中していく姿と瓜二つだったが、彼らに提供されたアメリカならではの私有財産権と金融の秘密保持条項を結びつけたタックスヘイブンのメリットは、オフショアとオンショアの区別を消滅させた

訃報は資産頭皮の問題に取り組むアメリカの民間団体GFI: Global Financial Integrityによれば、1980年以降国外に持ち出され、開発途上国が失った資金は16.3兆ドル

「汚れた金Dirty money」――本書では「違法な資産」「不正利得」と同義に用い、違法または反道徳的な手段で得た金の意味だが、必ずしも違法とは断言できない場合もある。汚れた金は、慣性の法則で、洗浄装置に向かって動き出す

「資金洗浄」――汚れた金が正当な金/資産に変わるプロセス。多くは物品の売買が関連

「クレプトクラシー」――トランプの台頭と彼が確立した慣例と傾向がこの用語を復興。この用語は19世紀初頭に現れ、当初はスペインの組織犯罪を表す言葉で、「泥棒の支配」を意味したが、その後、国民を食い物にし収奪に専念する政治体制を意味するようになる。トランプ政権をクレプトクラシーと呼ぶことが流行ったが、1つのシステムであり、いくつもの組織が複数の法域をまたいで関与しているのが特徴

本書では、アメリカがどのような経緯を経てクレプトクラシーを支援する業界の世界的リーダーに変貌していったのか、その結果なにが起きたかを描く。さらにこのシステムを改革するために闘ってきた中心人物についても触れる。トランプの時代は一連の軌跡の当然の帰結であり、これほど腐敗した政権は存在しなかった

 

第1部        定住強盗

第1章        唯一の奇跡

l  独裁政治を敷く赤道ギニアの初代大統領

1960年代後半、アフリカ全土で脱植民地化の波が最高潮に達すると、スペインの植民地でも独立の動きが高まり、1968年赤道ギニアが独立、マシアス・ンゲマが大統領に就任して独裁政治を敷き、略奪と人権侵害の横行するパーリア国家(Pariah state:国際社会から疎外された国家)。国家警備隊の監督だった甥のテオドロ・オビアン(テオドリンの父)1979年マシアスを処刑して大統領となり、恐怖政治を敷く

l  独裁政権に莫大な富をもたらした石油

サウジや北朝鮮と並び世界で6番目に抑圧的な政権で、国富の収奪や涜(とく)職に対する規範意識の欠如では金正恩やアサドを上回る。1990年代石油が発見され、国際社会に迎えられるとともに政権批判がかき消され、パーリア国家ゆえに国際監視の目も届かず

l  放蕩三昧の大統領の後継者

テオドリンは、1990年代初めにカリフォルニアに留学し、学業そっちのけでセレブの生活に浸るが、そのスポンサーはヒューストンの石油会社ウォーラー・インターナショナル

オビアンは、テオドリンを連れ戻し、赤道ギニアの固有の産業だった林業担当大臣に据え、後継者に育てようとする

l  不当な金を要求する伐採大臣

赤道ギニアの石油に目を付けたアメリカの石油会社は、あからさまな賄賂は「連邦海外腐敗行為防止法」で禁止されているため、搦手を使ってオビアンに接近

赤道ギニアは、1968年のスペインからの独立以来、独裁政権を敷き、他国からの干渉を拒んできた。カカオとコーヒーのプランテーションが主産業だったが、90年代初めに油田が開発されて以来、一躍注目を集めている(アフリカ第3の産油国)。スペインの植民地だったことからキリスト教徒が多く、イスラムの影響をあまり受けていない赤道ギニアはアメリカにとっては理想の「第二のクウェート」。さらにスペインや石油資源のない南アフリカなどもその利権を虎視眈々とねらい、1979年から独裁を続けるオビアン・ヌゲマ大統領に有形無形のプレッシャーをかけて続けてきた。2004年、ヌゲマ大統領の政敵でスペインに亡命中のセベロ・モトと手を組んだ元イギリス軍人のサイモン・マンがクーデターにより政権の転覆を謀る。マンは、西側諸国にも働きかけ、秘密裏にさまざまな援助を受けながら計画を進めたが、傭兵部隊とともにいよいよ赤道ギニアに乗り込む直前、ジンバブエで逮捕され、クーデターは失敗に終わった。そして、欧米諸国がこのクーデター計画を知りながら阻止しなかったことを知ったヌゲマ大統領は、これを機に中国へと傾倒していったのだ。

略奪的な政権は、流れ込んだ莫大な富を政権基盤の強化につぎ込み、富を集中させる。違法ではないが腐敗を極めた行為。テオドリンは、父の真似をして、自ら担当の林業に同じ手を使って賄賂を要求したり、伐採した木材に税金を賦課したりして私腹を肥やした

l  きれいな金に変える方法

テオドリンは、手にした金の洗浄先を探して回る

 

第2章        アメリカ人のようにやってみませんか

l  「匿名のペーパーカンパニーAnonyms Companies

金融の秘密を保持するために生み出された最大の装置には実体がない。全くの虚構で、書類上のみに存在し、作成者と資金の出所を隠すことだけを目的にしている

1986年、デラウェア州は『ウォール・ストリート・ジャーナル』の東アジアの読者に向けた全面広告を出し、「アメリカへの投資を考えてみませんか」「アメリカ人と同じようにやってみませんか」と呼びかけ、「匿名のペーパーカンパニー」を使った資産の匿名化を売り込む

広告掲載の1か月後、フィリピンのマルコスが失脚、略奪した資金源の追跡が始まったことと相俟って、デラウェア州には匿名会社設立の申し出が殺到、州には100万ドルの収入が舞い込む。設立に100ドル程度しかかからないことを考えると驚くべき金額

l  汚れた金を合法的な金に変える

企業サービスプロバイダーCSPが設立を代行する時点では、実態のある会社もない会社も区別がつかないが、唯一の違いは匿名性で、企業の「受益所有権者」が不明

ペーパーカンパニーこそ、大規模な不正行為を実現する上で最も一般的で、不可欠な要因

l  ペーパーカンパニーは独裁者の隠れ蓑

ペーパーカンパニーとは、金に関してあらゆることが許される免罪符

カザフスタンでは鉄道事業は独占。国民から金を搾り取り、鉄道に依存する企業が蓄えた内部留保を吸い上げるには格好の仕組みで、蓄えた汚い金をペーパーカンパニーを使って洗浄する。それもアメリカに設立されたペーパーカンパニーなら痕跡を辿りようがない

l  アメリカは最も容易に幽霊会社を設立できる国

アメリカには世界40か国のタックスヘイブンを併せた数を遥かに上回るペーパーカンパニーがあるのは、その効率性と使い勝手の良さによる。申請者本人の身分証明書を求めず、申請者本人と確認できる公的書類の提出さえ要求しない

必要であれば、ノミニーという名目上の第三者を株主などとして登録することもできる

オフショアのタックスヘイブンの国の方がよほど多くの書類を要求している

規制緩和がもたらしたのは、クリーンで合法的な資本の流れだけではなく、世界中の国から流れ込む汚い金に対しても、この国は快く門戸を開いてきた

l  州政府の「底辺への競争」

2020年アメリカ財務省は、政府が取り組む資金洗浄規制に対し、ペーパーカンパニーが抜け穴を提供していると強く非難。海外の金融犯罪を曖昧にするだけでなく、国防総省でもこの手口で何度も騙されてきたと認める

幽霊会社の登記を拒み、せめて匿名性だけでも規制しようという試みは何年にもわたって続けられてきたが、結局埒が明かないのは、アメリカならではの制度上の特性に根差している――会社設立の規制は州政府が監督しているため、法人誘致をめぐって州政府が連邦政府の規制を気にすることなく互いに底辺に向かって競い合い、その底辺がどこにあるのか誰にも分からない(「底辺への競争」:企業誘致や産業育成のため、政府が減税、労働基準・環境基準の緩和などを競うことで、労働環境や自然環境、社会福祉の水準が低下していく現象を意味)

 

第3章        すべてをコントロールして、何ひとつ所有しない

l  経済活動に関与しない連邦政府

独立当時、現地で設立された会社はイギリス政府の管理下に置かれていたが、監督は植民地の住民によって行われており、独立後も会社の監督は連邦政府ではなく、従来通り旧植民地が行うと決めた。当時は設立に際し州議会で個別に法案を作るなど面倒な手続きがあり、会社そのものが希少。その後連邦政府に移管する案も出たが、ジャクソン流民主主義で連邦政府の関与は最小限とされたため、州政府の監督負担軽減の方向で検討が進み、会社設立に伴う煩わしい要件が徐々に緩和されていき、その動きは州の経済活動に連邦政府を関与させない精神をアメリカ国内で育んでいく

l  法人登記の規制緩和で潤うニュージャージー州

19世紀後半、アメリカ経済は大きな変貌を遂げ、金ぴか時代(資本主義が急速に発展し、独占が兆し始めた南北戦争終戦の18651893年恐慌までの期間をさし、政治と経済の癒着が進み、拝金主義が始まり、成金趣味が横行、経済格差が拡大。マーク・トウェインの共著小説の題名に由来)を生み出すと、それを是正する革新主義時代を迎え、企業の設立は新たな時代に突入するが、その動きを利用して法人設立という産業の支配を目指したのがニュージャージー州。1870年代法人の設立規制を緩和して州経済振興の財源を確保しようと考え、企業存続年限の規制を撤廃、持株会社の設立を可能にしたのが効果的に働く。さらには、州内での操業を義務付ける規制も撤廃したことが大きく、企業が同州に殺到

州の財政は潤い、企業への資産税を撤廃、住民への減税も始まる

続いて企業に優しい規制をめぐるルネサンスの時代が到来、各州での規制の撤廃が進む

規制緩和の中で売れ筋の特典となったのが匿名性で、ニュージャージー州知事のウッドロウ・ウィルソン(在位191113)が規制緩和の悪用を懸念して一部規制を戻したため、デラウェア州がその間隙をついて企業保護の王座を奪った

l  デラウェア州の企業誘致産業

デラウェア州は、地理的な条件もあって、会社法を整備して誘致を図るとすぐに効果を表す、中でも取締役の賠償責任を会社が肩代わりすることを許可したり、州税を免除したりした措置が企業にとって魅力的。1792年設立の衡平法裁判所が会社法の細部の見直しを図ることに特化した裁判所として複雑な紛争を迅速に解決する能力を提供したのも貢献

国内各州が企業誘致で狂奔状態にあったため、典型的なタックスヘイブンに課された汚名を回避でき、1930年代以降登記した企業から得た利益は州歳入の42%を占め、現在でも不変。登記した企業は現在150万に及び、なお年間22.5万件超の設立が続く

l  秘密主義の実験室

設立手続き完了まで1時間とかからず、深夜まで受付が行われ、規制強化に対してロビイストを使って対抗しているのはデラウェア州だけ

アメリカ各州は「民主主義の実験室」を自称してきたが、この州は「秘密主義の実験室」

l  「死の商人」と結びつくペーパーカンパニー

タジキスタン生まれで旧ソ連崩壊のどさくさに紛れて武器密売で帝国を築いたビクトル・ボウトもデラウェア州に駆け込んだ国際犯罪組織の首領の1人で、2008年逮捕・収監

ジャック・エイブラモフもポール・マナフォート(選挙コンサルタントでトランプ陣営にも参加)と並ぶ悪名高いロビイストで、デラウェア州のダミー会社を使い、議会関係者と犯罪組織との間の不正な簿外取引を仕切っていたように、同様のケースは枚挙に暇がないが、誰が恩恵を受けているのかについて同州が気にかけてきた形跡は窺えない

他の州でも、資金に関する機密を保持する帝国を独自に築き始めているのが現実

l  ネバダ州の企業サービスプロバイダーCSP

リノ郊外でCSPを営む男にとって、疚しいことに関わっているという意識は全くない

l  ペーパーカンパニーの設立で毎年1億ドル以上の歳入

ネバダ州は近代資本主義のあらゆる実験が行われてきた場所として知られるが、巨大なタックスヘイブンに変貌した事実は、州の歴史的な軌跡に刻み込まれている

1990年代初頭、深刻な予算不足に直面していたネバダ州議会は、同州を「西のデラウェア州」にと考え、企業規制を全て撤廃した結果、20年後には毎年1億ドル以上の歳入をもたらしたが、「ネバダは魂を売ってしまった」と嘆く元議員もいる

l  デジタルの棚に陳列される合法的な会社

ネバダ州のCSPが提供するサービスの1つが「シェルフカンパニー」――売却目的で何年も前に作られた会社のリスト。扱っているのは州外の人間

l  「パナマ文書」流出の影響

2016年、パナマの法律事務所から1000万件を超える内部文書が流出、資金洗浄をしていた著名人の名が含まれていただけに留まらず、アイスランドやパキスタンでは政権崩壊の契機となったが、その法律事務所が顧客に進めていたのがネバダ州の匿名性だった

当時ブラジル政界を揺るがせていた石油と賄賂の横領スキャンダルに関連していた企業名が暴露され、政権の失墜につながり、極右思想のジャイル・ボルソナロ大統領が誕生

l  モサック・フォンセカとネバダ州の関係

2010年代初頭、アルゼンチン国債を大量に保有していたビリオネアが債務再編の申し出を拒絶し、同国資産を差し抑えようとした際、パナマ文書の流出から芋づる式に法律事務所(フォンセカ)とネバダ州の癒着関係も明らかとなり、アルゼンチンの腐敗した支配層が同州を利用して横領していた金を隠したり、洗浄したりしていた事実が露見

パナマ文書は同時に、アメリカがタックスヘイブンの憧れの地に堕落していくうえで決定的な役割を果たすとともに、そもそも一般的な資金洗浄の手段を世界に広めてきた州の存在を浮き彫りにした

l  隠れ蓑になったワイオミング州のLLC

1970年代、西半球で「ワイルドキャット」と呼ばれる石油の試掘をしてきたフランク・バークは、市場独占を狙う大手のエネルギー会社の攻勢から、自分と自分の仕事を守るために、パナマで見つけた「リミターダ」という企業形態を利用、法人に負わされた責任から企業の所有者を守るだけでなく、税制上の優遇措置を受けることも出来た。アメリカでも同様の会社形態ができないかと考えて誕生したのがLLC(有限責任会社)で、1977年ワイオミングがそのアイディアに飛びついたが、全く異なる目的での悪用が現実に起きる

l  ペーパーカンパニー設立費用が100ドル

ワイオミングの話は、デラウェア州やネバダ州の物語と多くの点で同じで、法人税もなく、さらには会社に関する記録の州内保の義務もない、しかも100ドルで設立できる

l  大平原地帯に浮かぶ小さなケイマン島

1990年代にはワイオミングに汚い金が本格的に流入。その代表が当時2年にわたってウクライナの首相だったラザレンコで、ソ連崩壊のどさくさに国の財源に手を付けた

汚職の罪で起訴されるとアマリカに潜伏しようとしたが、米司法当局は資金洗浄の罪で告発、アメリカの「国外の汚職官僚にたいする強いメッセージ」を判決に込めた

CSPはあくまで合法なサービスを提供しており、弁護士を顧客の会社の取締役に斡旋すれば、顧客との通信を裁判の証拠から除外できる秘匿特権が発生するので、捜査の実態解明は不可能になる

l  パナマ文書が炸裂しても効果なし

パナマ文書の流出で、さすがの州政府も取り締まりを開始すると思われたが、結局何も起こらなかっただけでなく、逆に匿名性保護強化の法案を作成

 

第4章        首まで浸かる

l  アメリカ史上最大のマネーロンダリングを行ったオリガルヒ

コロモイスキーは、国際的なマネーロンダリングの中心にいる強欲なオリガルヒ

l  ソ連崩壊で莫大な富を築いたウクライナのオリガルヒ

彼は1963年ウクライナの生まれ。ソ連崩壊後に友人とプリヴァトバンクを立ち上げ、一気に預金を吸収し、その資金で、政府が全国民に配布した国有企業の資産を見合いにした私有化証券(バウチャー)を買い集め、場合によっては暴力的な手段を用いて、国有企業の独占支配を広げ、21世紀を迎えるころにはウクライナを代表する鉄鋼王の地位を築き、持ち株会社は石油や天然ガスを支配、テレビ局も買収、世界のマンガン取引の過半を占める

l  2人のユダヤ人

コロモイスキーは、ウクライナに人道支援でやってきたアメリカ生まれのユダヤ人コルフと、同じ宗派のつながりで親しくなり、アメリカとの間のパイプを結ぶ

l  鉄鋼業の工場を次々と買収

その友人を通じて、オハイオ北東部のスチールバレーにあるウォーレン製鉄所を手始めに、アメリカの製鉄所を次々に6つ買収するが、その際買い手になったのがコロモイスキーがデラウェア州に登記したいくつかのLLC

l  クリーブランドの不動産市場に首まで浸かる

ショチェットもコルフと同様、マイアミ生まれのユダヤ人で、コルフの妹の主人

製鉄所に代わる資金の投資先として不動産に目をつる。大不況にあえぐクリーブランドにとって、不動産業界に初めて入ってくる外からの資金だったが、あっという間に町全体を支配、町の再興に貢献する素振りを見せる

 

第5章        納税者に対する侮辱

l  国際商業信用銀行BCCIの破綻で資金洗浄と横領が発覚

1970年代半ば、パキスタンの銀行家とアブダビ首長国主張によって設立された国際商業信用銀行は、第三世界の大黒柱として忘れられた市場の安定と成長に貢献に特化し、小規模の預金者を大切にするとして売り込み急成長したが、1991年経営破綻し、前代未聞の総額100億ドルの資金洗浄と横領が発覚。1988年の米大統領選では、民主党候補の資金調達にも関わり、事件を調査していたジャーナリストが襲撃されるなど世間を騒がせる

直後からクレプトクラットや国際的な犯罪組織が、BCCIの手口を真似し始める

l  防止効果のない法律

国際的なマネーロンダリングに対し、アメリカ政府はまともに応じてはこなかった

1970年銀行秘密法が漸く制定されたが、銀行は慣習法と制定法で顧客が何をしようが免責されてきたこともあって、銀行業界は激怒したが、今から振り返れば、高が知れていた1986年制定の資金洗浄規制法は、国境を越えたマネーロンダリングの規制の転機となる法律で、世界で初めてマネーロンダリングを独立した犯罪と認定し、資産の「民事没収」が可能となったが、銀行が連邦政府に「疑わしい取引報告SAR」の提出を義務付けても、それ以上の法的義務がなければ、阻止効果は期待できない

l  マネーロンダリングの規制というビジネス優先の精神

BCCIの破綻で明らかになったのは、各種のマネーロンダリング規制が働いていなかった現実が明らかになったことで、早速ブッシュ政権は金融活動作業部会FATFを立ち上げ、資金洗浄防止の国際基準を策定し、部会を国際機関として機能させ各国政府に勧告を行う

ビジネス優先の見地からの反対を押し切って、クリントン政権でも規制強化が続く

l  腐敗政権の背後にはシティバンク

上院の常設調査小委員会PSIでも、BCCI問題をきっかけに不正資金流入問題を取り上げ、ミシガン州のカール・レビンが委員会に加わったことで反マネーロンダリングの活動が加速。きっかけは1995年メキシコで失脚した大統領サリナスの実兄による殺人事件で、逮捕後に国際的な巨額の資金移動が発覚、そこにシティバンクが一族の金庫番として絡んでいたことが判明。他にも資金洗浄の顧客が続々と発見され、他の銀行でも同じような業務が、合法的に公然と行われていた事実に、レビンは米国民を侮辱していると憤慨

l  世界中の汚い金を集める巨大な磁石

1999年レビンは、マネーロンダリングに対して立法措置を講じる法案を提出、「架空銀行Shell bank」のえいぎょうきんし、外国からの流入資金に対するDue diligenceの義務化などを企図したが、テキサス州などの委員の反対で実現せず、反対の動きは急速に萎む

l  9.11同時多発テロ以降、風向きが変わった

テロの資金的裏付けを捜査する中で、犯罪者たちがアメリカの金融機関を悪用していることが判明、野放図に流れ込む汚れた金がもたらす脅威がようやく理解された

レビンの法案は息を吹き返し、国家安全保障に関する改革法案(「愛国者法」)に、資金洗浄防止案として組み込まれ、シティバンクの猛烈な反対にあいながら、何とか法案は成立、国外の汚れた金をアメリカの銀行が取り扱うことが刑法上の罪として扱われるようになる

l  一時的な規制の適用除外措置

愛国者法にも抜け穴があり、アメリカが世界最大のオフショア取引の安息地へと大変貌を遂げる上で、新たな章の始まりを告げる――財務長官に規制の適用除外を認める権利があり、規制を潜り抜けて新たな適用除外の金融部門が突然現れ、資金洗浄が本格化する

2002年、適用除外に多岐にわたる複数の業界が指定され、不動産業者やエスクロー口座、プライベート・エクイティ・ファンド、超高額商品の販売業者などで、銀行が流入する資金を合法か非合法か区別できるようになるまでの経過措置だったが、いまだに除外は続く

 

第2部        富裕な有名人のライフスタイル

第6章        シャベルでキャビアをすくう

l  ワシントンの老舗銀行リッグスの破綻

リッグス銀行は1836年設立の小さな銀行だが、「大統領の銀行」として格式と名声を誇る

テロ資金捜査の過程で、サウジ大使夫妻の資産がリッグスの多数の口座に隠されている事実が発覚、大使と実行犯をつなぐ無視できない関係をめぐる疑問が噴出。他にも赤道ギニアの独裁者オビアン一族などから汚い金が流入しているとの噂が流布

PSIとレビンの調査で入手した資料は、制度改革を手掛ける社会や政治基盤を根底から揺るがすもので、その範囲も世界各国に及び、2005年に老舗の銀行は倒産

l  明らかになったオビアン一族とリッグスの関係

オビアン一族の口座は1996年に開設、石油で得た富が口座に流れ込んできたが、それとともに一族関連の口座が無数に発見され、銀行担当者が金庫番として不正資金の洗浄に積極的に関与していたことが判明、担当者が赤道ギニアに亡命したため、銀行も一転被害者としてすべての情報を提供したため、銀行の姿勢も厳しく糾弾された

オビアン一族のようにあからさまに資金洗浄を要求するのは例外で、通常のクレプトクラットは合法的な資金の波に紛れ込ませることができれば、何も規制を恐れることはない

l  石油の採掘代金をオビアン一族の口座に

石油の採掘細菌を支払うために、アメリカの石油会社が直接一族に支払うよう、リッグスが口座開設を手伝うことにより、赤道ギニアの政府はリッグスにとって唯一最大の顧客になっていた。何れの口座も当局に報告もせず、規則通りの精査さえ実施していない

l  規制の虜――官僚と業界の癒着

シティバンクとリッグスは同じことをやっていたが、その差は愛国法の施行前か後かの違いで、リッグスは新法施行後も規制を無視して資金洗浄に手を貸していた

それをさらに財務省通貨監督庁OOCの主任検査官が、リッグスの擁護者のように振舞っていたのみならず、当該検査官は退職後2年の禁止期間を無視してリッグスに迎えられた

l  チリの独裁者ピノチェットの隠された資金

PSIの調査官は、リッグスの預金勘定元帳にピノチェットという名前があることに気付く

1990年大統領を辞任した直後から、様々な似たような名義の口座に洗浄目的と思われる資金が出し入れされたのを突き止める。リッグスが進んでこの金を取り込もうとして、資産隠しから資金洗浄にも手を貸していた事実が記録されていた。1998年イギリスの裁判所で全資産の凍結を命じる決定が下された後も、凍結を回避するために協力していた

ピノチェットは愛国者として評価され、冷酷な独裁者だが、少なくとも正直な人間で、金に汚い政治家ではないとされていたが、そうした彼の評価は自壊

l  アメリカのクレプトクラシーの縮図

大統領の銀行は、40百万ドルの罰金と、最大の顧客を失って、事実上の倒産に追い込まれ、他の銀行に身売りされるが、担当の上級副社長はわずか2年の刑期、窓口の担当者は無罪、会長はすでに退任しており、後継者の息子は事件の全容を知らなかったと主張

リッグスは潰れたが、オビアン一族は他の抜け穴を探すだけ

テオドリンも、次の資金洗浄場所としてカリフォルニアを選び、装飾品やがらくたを買い漁る。その行為を「ありったけのキャビアをシャベルで掬って食べるようだ」と形容された

 

第7章     メンサ(人口の上位2%のIQを持つものが参加できる国際グループ。1946年イギリスで創設、現在100か国以上で、10万人以上の会員がいる)が認めた天才

l  南カリフォルニアの広壮な豪邸

2004年テオドリンが目を付けたのは、南カリフォルニアのマリブで、16エーカーの土地に1991年築の420坪の建物だったが、リッグスの口座の金を動かすために弁護士を雇う

l  規正法の抜け穴だった弁護士

愛国者法でマネーロンダリングが禁止されたが、弁護士は適用除外

米国法曹協会ABAは、資金洗浄回避のための助言を授けてきた。心理学でいう「enabler=ダーティな資金がアメリカに流入するのを「可能にする」者」にならないための対処法だが、遵守するかしないかは任意。他の国では弁護士も例外扱いはされていなかった

l  不動産業者は愛国者法の適用除外

テオドリンが頼った弁護士がマイケル・バーガー

l  追いつ追われつのゲーム

ペーパーカンパニーの口座を開設し、弁護士事務所の口座から資金を移動

バンカメなどは口座の怪しげな資金の動きを察知していち早く口座を閉鎖したが、銀行はいくつもあるし、同じような仕事を引き受ける弁護士もいくらでもいる

l  マリブの豪邸を手に入れたテオドリン

2006年、豪邸は家具付き30.75百万ドルで買収され、LLC名義で、エスクロー口座経由のため、資金洗浄の例外で、流入する資金の出所をチェックする義務はない

関係者相互間に締結される守秘義務契約も極めて一般的なもの

 

第8章        鯉の医者

l  捜査部隊の新しいリーダー

2003年ブッシュ政権は、「腐敗の防止に関する国際連合条約」(国際腐敗防止条約)の採択を支持、汚職で利益を得たと告発された外国公務員(と家族)のアメリカ入国を禁止

アメリカでは、FBIは国内の汚職行為を監視し、CIAは国外の汚職行為を追跡、2002年安全保障局が設立されると、翌年にはその下部組織として合衆国移民関税執行局ICEが配置され、次々に資金洗浄の痕跡を捉えるが、活動を阻む官僚主義の壁や匿名性が担保されたペーパーカンパニーの内実開示の難しさなどに直面

l  高級車から船舶まで贅沢三昧

テオドリンの度を越した贅沢三昧の生活がマスコミの注目を浴び、経費のなかには7500ドルの鯉の医者への支払いもあった

l  自家用ジェット機GV(ジーファイブ)の購入

船の次はジェット機で、オクラホマに機体登録されていた中古機を買うことになり、同州の弁護士事務所を使ったが、たまたま事務所が独自のマネーロンダリング防止プログラムを持っていて資金の出所を追求、返事がないと契約をキャンセルしたが、すぐ代わりのエスクロー・エージェントが現れ、無事に売買契約は完了。抜け穴はすぐに見つかる

l  マイケル・ジャクソンの死

ジャネット・ジャクソンと友人関係ができ、憧れのマイケル死後はその遺品を買い占めた

オークションを使えば、反資金洗浄に伴うデューディリジェンスも法的にはない

l  マネーロンダリングに利用されるオークションハウス

マイケルの遺品の多くの売買の権利を獲得したのはロスのオークションハウスのジュリアンズ・オークションで、2001年設立、メモラビリア(記念品)市場の波に乗って成長、他方でその波には犯罪者たちも関心を寄せていた(当時のオークションはクラシックカーが主流で、麻薬の金をロンダリングする手段として利用されていた)

ジュリアンにとってテオドリンは熱心なマイケルの遺品コレクターであり、申し分のない顧客

l  マイケル・ジャクソンの手袋

ICEの海外腐敗行為捜査部隊は壁にぶつかっていたが、売買されたボートの支払いから、マイケルの手袋を落札した話が飛び出し、一気に足がつく

 

第9章        アメリカ合衆国 vs 「スリラー」のジャケット

l  汚い金で購入されたマイケル・ジャクソン・コレクション

捜査官はすぐにオークションハウスとコンタクトし、義務のないジュリアンも召喚状で脅されると、すべての落札品のリストが出来上がる

l  クレプトクラシーからの資産回収戦略

リッグスの立件以降、ワシントンのオバマ新政権は、金融システムの修復を謳って民意を獲得した後だけに、資金洗浄の全体的な視点に基づいてこの問題を捉えようとした

1弾がアフリカ連合の首脳会議で、米司法長官が汚職撲滅に取り組むことを国内最優先事項とし「クレプトクラシーからの資産回収戦略KARI」開始を宣言

不正に取得された資産を回収するために司法省刑事局が動き出す――「市民資産没収」はアメリカで古くから認められる手続き

l  インフラ事業に関わった外国企業の惨状

刑事局はICEと連携し、テオドリンの捜査を始める

裁判官に腐敗した金であることを納得させるための証言は、権力者に口封じをされたそれぞれの国の関係者からは得られなかったが、国のインフラ事業にかかわった関係者の口からは、不当な税金の賦課や賄賂の要求で、いい加減な請負業務の実態が暴露された

l  アフリカの腐敗政府の実態

2010年、上院のPSIが不正取引の全容を報告。ガボンやアンゴラ、ナイジェリアなども摘発されたが、大半はテオドリンで、その実態の全容が解明されていた

l  暴かれたテオドリンの不正

アメリカ国内の全資産凍結のための訴状が準備される。最初はマイケルの遺品コレクション。ジェット機、高級車、不動産と続き、一部は訴訟開始までに国外に運び出されたが、30百万ドル相当の資産の差し押さえに成功。ただ、本国に返還したところで、政権が私物化されていれば、どうやって資産を返還するのかは不明のまま

l  クレプトクラットに対する見せしめ

アメリカのマネーロンダリング対策と、テオドリンのケースは、その後に続くクレプトクラットに対する見せしめの効果を持った

 

第3部        アメリカで暗躍する者たち

第10章     優良投資家

l  大不況に見舞われ、さびれた町

2000年代後半さびれきった町クリーブランドは、20年前から人口減少が進み、1世紀前の半分以下に落ち込んで、その後も減少が止まらなかった

l  マネーロンダリングの餌食になったクリーブランド

コロモイスキーはコルフを通じてラストベルトへの投資を加速させていたが、より有効に資産を隠すために目を付けたのが目立たない町での商業用不動産。町の再生を熱く語って不動産を買い進めるショチェットに、地元業者は好感を抱くが、不審を感じた人もいた

l  クリーブランドのビルを次々と買収

次々と高値で買収、不審に思って素性を調べても、実績がないので尻尾はつかめない

アメリカには、外国人投資家を対象にしたゴールデンビザEB5”があり、100万ドル程度の費用を払えば、米国内で雇用創出プログラムの開始を誓約すれば、永住権と最終的な市民権へのパスを得られる制度があって、世界中の汚い金をアメリカに引き寄せていたが、いまだにビザの申請書は手書きで、申請者の経歴についてはほとんど何もわかっていない

l  クリーブランドの不動産王となったウクライナのオリガルヒ

瞬く間に何億ドルも使ってこの町きっての物件の所有者になるが、物件は将来性の見込めない物件ばかり、その上支払方法が現金と奇妙だったが、誰も止める者はいなかった

l  モトローラの巨大なクジラを買収

オハイオ州ウォーレン、バッファロー、などでも製鉄所や関連工場を買収、ラストベルトを活性化させるように見えたが、その中にシカゴとミルウォーキーの中間にあるハーバードという小さな田舎町に建てたモトローラの巨大な携帯電話製造工場もあり、完成時にはすでに無用の長物と化していたが、これにも高額の値段をつけて買い取っていった

 

第11章     西部開拓時代にも法律はあった

l  ウクライナの騒乱

2000年代半ばには親欧米派の政権が続き支配層の汚職に終止符を打つと約束していたが、2000年代終わりには改革派が疲弊して分裂、2010年の大統領選では野党のヤヌーコヴィチが、ポール・マナフォートの支援を受けて勝利を収める。元々彼は隣国ロシアの独裁政治を羨望し数年前には政府を追われた人物で、すぐに化けの皮が剝がれ、マイダン革命によってロシアへと逃亡、彼の不正蓄財の証拠が次々と発見された

l  自前の資金で国民防衛軍を組織したオリガルヒ

騒乱に乗じてロシアはクリミアとウクライナ東部に侵攻、それを見てコロモイスキーは、愛国者に国民防衛軍を組織するための支援を申し出て、東部の州知事を任され、愛国的なオリガルヒといわれたが、真の目的は自らの資産を守ることにあった

l  軍事力を背景にした凶暴なオリガルヒ

2015年、新たに大統領になったプロシェンコもオリガルヒの1人。新たな改革でコロモイスキーから石油・ガス複合企業の支配権を取り上げようとすると、殺し屋を雇って阻止しようとした

l  スイスのタックスヘイブン銀行が大打撃

スイス銀行の大手UBSの元社員がもたらした情報により、彼らがアメリカの富裕層に働きかけて海外に資産を隠すよう説得していた事実が発覚、同様の隠匿は他行にも及び、巨額の制裁金が課された

2010年には追い打ちをかけるように、連邦議会が「外国口座税務コンプライアンス法FATCA」を可決、国外の金融機関に対し、アメリカ人顧客の保有する資産をIRSに報告することを義務付けた

l  金利制限を廃止したサウスダコタ州

16年間サウスダコタの州知事を務めたウィリアム・ヤンクロウは、1978年最高裁が金利上限を撤廃した際、シティバンクと合意して金利上限の廃止を指示

l  「永久信託」という資産隠し

1983年ヤンクロウは、信託の存続期間を制限する規制を廃止し、「永久信託/ダイナスティ信託」という新たな信託手段を提供したため、自分を受益者にした匿名信託が続々と登場、スイスに代わって富裕層の資産の隠し場所となった

l  大富豪となったコロモイスキーの協力者たち

コルフを始め、コロモイスキーのアメリカの協力者たちは大邸宅を購入、「コルフ家族財団」を設立してユダヤ人の非営利団体に資金を流し込んでいる

 

第12章     ぽっかり空いた穴

l  プリヴァトバンクが残した崩壊寸前の大きな穴

2014年、ウクライナでは改革派の新政権が発足、組織の透明性を掲げる機関がいくつも組織され、国立腐敗防止局は高官の汚職防止を担当。国立銀行の新総裁は初の女性で、プリヴァトバンクのマネーロンダリング業務に目をつけ、融資先の99%までがでっち上げの企業だと判断し、国有化してその穴埋めに奔走

l  史上最大のマネーロンダリング

この詐欺事件の鍵は、影の銀行と呼ばれる銀行の中のもう1つの銀行の存在で、傀儡として設置した行内の審査委員会で承認された案件の融資を行うため、キプロスの租税回避地の銀行に開設した口座に送金。いくつもの口座に複数の融資を混ぜ合わせ一瞬にして資金洗浄を行ったうえで、さらに資金をヨーロッパの複数の銀行の複数の口座に送金し、様々な不動産を購入。当初の融資の利払いや返済には、新規の融資を充当するという、ポンジ・スキームの典型で、総額5000億ドルの資金を洗浄していた可能性がある

ポンジ・スキームは、投資詐欺の一種であり、そのなかでも「出資してもらった資金を運用し、その利益を出資者に(配当金などとして)還元する」などと嘘を語り、実際には資金運用を行わず、後から参加する出資者から新たに集めたお金(の大半)を、以前からの出資者に向けて配当金などと偽って渡すことで、あたかも資金運用によって利益が生まれその利益を出資者に配当しているかのように装うもののこと。名称は詐欺師チャールズ・ポンジCharles Ponzi)の名に由来する。

チャールズ・ポンジ(Charles Ponzi, 188233 - 1949118)は、1910年代から1920年代にかけてアメリカ合衆国で活動したビジネスマン詐欺師。不特定多数に出資を求める詐欺ネズミ講を含む)の総称であるポンジ・スキームという言葉の由来として名を残す。

本名はカルロ・ピエトロ・ジョヴァンニ・グリュエルモ・テバルド・ポンツィ

l  複数のペーパーカンパニーで迂回路を築く

コロモイスキーに協力する者は「オプティマ・ファミリー」と呼ばれ、アメリカとウクライナ両国当局からの追及を受けても、匿名性と資金洗浄のお陰で、お互いの無関係を主張

l  ビルは荒廃し、不動産市場は破綻

投資対象とされた不動産の大半は荒廃し、不適切な管理もあって高い空き室率に苦しむばかりで、不動産市場そのものが破綻

l  資金洗浄で狙われる内陸部の町

クリーブランドのオプティマのビルは次々に売りに出され、一部は収益まで出している

アメリカの不動産市場は比較的安定し拡大を続けているので、手堅い投資が可能

アメリカのハートランド(中西部)が資金洗浄のために狙われている。さらには、商業ビルだけでなく、住宅専用の物件も枚挙に暇がないくらいの数に達している

 

第13章     呪われた工場

l  ウォーレン製鉄所の爆発事故

2010年と翌年、ウォーレン製鉄所で冷却パネルの水漏れ発生、溶けた鋼に水が触れて水蒸気爆発を誘引、負傷者を多数出し、連邦監督官の調査が始まり、何件もの看過できない違反行為が発覚、2014年一旦操業を停止するが、再開時期になると閉鎖を宣言し廃墟に

l  マネーロンダリングの犠牲になる工場と労働者

ウォーレンの工場にはほかに2人のオリガルヒも関与。そのうちの1人がコロモイスキーに騙されたと訴える。融資を引き出しては、コロモイスキーが私腹を肥やしていたという

他の都市でも同じようなことが頻発、労働者が職を失っている

l  資金洗浄のために複数のネットワークで取引

イリノイ州ハーバードのモトローラ工場も、200817百万ドルで買収された時は、地元は再開を歓迎したが、2014年には電気代が払えずに閉鎖に追い込まれた

2016年、今度はコロモイスキーが連れてきた中国系のクレプトクラットが投資家として登場するが、1年後にはマネーロンダリングが露見し、カナダ政府が訴追したため、工場は再び廃墟に戻る。クレプトクラットたちが資金洗浄のために共有する資産になっていた

l  残されるのは煤けた残骸のような町

ワシントンでもようやく、汚い金に手を出すことがこの国がどれほどのダメージを与えているのかについて理解を示すものが現れる。海外のクレプトクラットが中西部の小さな町に魔の手を伸ばし、町自体を傷つけ残骸にしていく

l  クレプトクラシーの脅威に対応しないホワイトハウス

40年近く上院議員だったレビンも引退し、高まる一方のクレプトクラシーの脅威に対し、変化に気付く者はほとんどいない。ロシアの汚職官僚を狙い撃ちした「マグニツキー法」は成立したが、マネーロンダリングやクレプトクラシーそのものに対する政府の関心は弱まったようで、モスクワやダマスカスのような収奪的な独裁政権への対応で政治資源を消耗させてしまったようで、オバマの後のトランプも汚い金への依存と執着を示す

 

第4部        匿名の合衆国

第14章     新興財閥はただの隠れ蓑

l  ハイチの独裁者の汚い金が上陸

1971年、ハイチで独裁者だった父の跡を継いで大統領になったデュヴァリエは、200年来の民主主義革命への希望を粉砕、非人道的犯罪にも手を出し反対勢力を圧殺したうえ、8億ドルもの金を国民から収奪し、アメリカで資金洗浄し浪費

アメリカも反共産主義勢力という名目で、マルコスなどと同様デュヴァリエも受け入れたが、1983年トランプも、新築60階建て「トランプ・タワー」の1室を600万ドルで売却

l  資金洗浄に提供される「トランプ・タワー」

トランプが大統領に就任する以前から、国内の不動産に限っても、何十億ドルもの資金洗浄に関与していたのは明らかで、トランプが所有する物件の1/5以上に相当する1300戸以上の物件がマネーロンダリングの相手の手にわたる。多くは匿名名義でまとめ買い

トランプが次々にマンハッタンに建てた不動産の1030%がマネーロンダリングの前歴を持つ買い手にわたっている。中には「トランプ・ソーホー」のように、匿名の顧客に提供する目的のためだけに建設されたと思われる物件もある

トランプが利用したデラウェア州の会社は、わかっているだけでも378

ロシアの組織犯罪の首謀者デービッド・ボガティンもトランプの顧客の1人だし、コロンビアの組織犯罪者エドゥアルド・ネクタロフなども同様

l  クレプトクラシーによって築かれたトランプ帝国

トランプの手口は、海外でも同様な展開を見せ、ジョージアやバリ島などで、家族ビジネスとして発展させていく

l  トランプの選挙参謀

ロビイストのマナフォートは、2016年の大統領選でトランプから選対本部長を依頼されるが、それまでのマナフォートは、マルコスやウクライナのヤヌコーヴィチなどの資金洗浄や独裁者の収奪を助けていた。彼ほど外国の泥棒政治家の体面を繕うことに半生を費やしてきた者はいないし、資金洗浄の天国と化したことで崩壊したアメリカから誰よりも利益を得ていたトランプと組めば、反腐敗体制を崩壊させ、あらゆる汚い金にこの国を開放させることができると知っていた

 

第15章     骨の髄まで腐っている

l  テオドリンの誕生日パーティー

2018年、テオドリンの50歳の誕生日を祝うために大勢のセレブが赤道ギニアに集まった

l  クレプトクラシー撲滅の努力は無駄だったのか

オバマ政権によって、テオドリンはアメリカから追放され、資産は没収され、同国の慈善団体に寄付することで一応合意が成立。同様の措置が他の国にも広がり、資産が没収されたが、突然彼は副大統領になって国連に舞い戻り、アメリカの規制当局の努力を愚弄

l  腐敗防止活動を破壊するトランプ大統領

トランプの反腐敗を破壊する行為は大統領就任直後から始まる――手始めに、アメリカの企業や個人が外国公務員に賄賂を贈ることを禁じた連邦海外腐敗行為防止法の廃止に着手するが、議会の反対で挫折

l  トランプの不動産売買がマネーロンダリングに加担

大統領就任後はビジネスと大統領職の間に一線を画すと説いていたが、実際は自分の会社を介して利得を得続けていたし、さらに多くのクレプトクラットを引き寄せていた

トランプが共和党の候補者として指名を獲得した直後から匿名による不動産売買が急増、ますます不動産の購入者の名前は闇の中で、資金の出所はどこかも皆目見当がつかない

 

第16章     解禁

l  オリガルヒと袂を分かつゼレンスキー新大統領

プリヴァトバンクの捜査は進められ、55億ドルの欠損が見つかり、同行の国有化が進められると、コロモイスキーは国外に脱出、イスラエルの市民権を得たが、愛国者はわずか数カ月でこの国を牛耳る腐敗したオリガルヒの象徴になる

2019年、コメディアンのゼレンスキーが西側との関係強化を公約にして75%の支持を得て大統領になると、変化と透明性を約束、有権者への忠誠を誓うが、彼を大統領に押し上げた放送局を牛耳っていたのはコロモイスキーで、ゼレンスキーは関係断絶を誓う

l  ファンド業界に蔓延するマネーロンダリング

トランプ政権は、発足直後から大統領選をめぐるロシアの干渉と謀議の問題で泥沼にはまり、司法省は特別検察官を任命して、トランプ陣営とロシア政府、さらにはオリガルヒとの関係調査に乗り出す。その間にも、ロシア政府関係者らは新たな抜け穴を見つけて、アメリカの反腐敗活動の中枢に浸透し、アメリカの民主主義そのものを脅かしていた

1つ目の抜け穴は、ヘッジファンドとプライベート・エクイティ・ファンドで、当初は年金基金や富裕層に限られていたため、愛国者法の適用除外とされていたが、20年経ってもまだ規制の対象外のまま放置され、不正資金の安全な隠し場所として狙われた

プライベート・エクイティへの出資を介して外国からの干渉を受ける恐れも顕在化。メリーランド州が選挙データの管理業務契約を締結したLLCの実質的な所有者はロシアのオリガルヒの1人で、プーチンとも極めて親しい人物であることが判明、衝撃が走る

l  社会的評価を洗浄するための多額の寄付

メリーランド州の2016年大統領選の投票結果は変えられておらず、ロシアの影響がアメリカの政策に影響を与えていた事実も今のところは窺えないが、アメリカ非営利組織に対するオリガルヒの介入は別な問題を提起。非営利組織には、大学などの知的資本や文化的資本の供給源などもあり、高い地位を謳歌しているだけに、汚い金を使って自身の社会的評価を洗浄することが可能(reputation laundering)。寄付によって「慈善家」に変わる

2020年の調査でも、オリガルヒから米国非営利団体への寄付金は数億ドルに達している

非営利団体側も巨額資金の流入を歓迎、評議員にしたり、校舎に命名したりしている。アメリカで最も権威のあるシンクタンクの1つ、外交問題評議会ですら非難を浴びながらもオリガルヒの巨額の寄付を受け入れており、汚い金による寄付行為の解禁を物語る

l  政敵の醜聞を捏造する戦略的汚職

こうした浸透性こそ、私たちをトランプの問題に引き戻し、アメリカのクレプトクラシーとこの国の権力、民主主義の終焉の可能性が最終的に1つに結び付いていく

ウクライナのオリガルヒの1人フィルタッシュは、オバマ政権の副大統領バイデンがウクライナの汚職防止改革に肩入れしたことに恨みを抱き、バイデンの醜聞をでっちあげてトランプに接近、その情報との見合いでアメリカからの訴追を免れようとした

l  クレプトクラシーの世界的な中心地になったアメリカ

訴追されたオリガルヒたちがトランプの弁護士に助けを求め、巨額の資金を寄付したり、反バイデンのプロパガンダを流したりと政権の手助けに走る

2020年、アメリカの腐敗防止活動は崩壊、クレプトクラシーの世界的な中心地に様変わりするが、その動きはコロモイスキーの出現で文字通り頂点に達した

ただ、まだアメリカの民主主義は機能していて、最終的にはオリガルヒらの工作も破綻し、未完に終わる

 

第17章     アメリカン・クレプトクラシー

l  制裁を受けるコロモイスキー

2019年、最初のトランプ弾劾訴追では、政敵に対する中傷キャンペーンや自国の外交官に対する暴力的な脅迫、国家権力の私的利用まで、多くの事実が明るみに出て、2020年の大統領選での敗北は不回避となり、弾劾捜査に弾みがつく

コロモイスキーの資産は突然凍結され、2021年ブリンケン国務長官が公式に彼と一族による汚職行為を摘発

l  匿名のペーパーカンパニーの設立を禁止

バイデン新大統領は就任の第一声で、アメリカの指導力と安定の回復に加えて、汚職防止と反クレプトクラシーをこの国の新たな1章の中心に据えることを誓う

アメリカの新世代の政策立案者の間では、この国のクレプトクラシーと国家安全保障、選挙の正統性、さらに権威主義の世界的な潮流が決して無関係ではなく、互いに結びついているという認識が高まっている

「武器化された腐敗=国外において悪意ある活動を定着させ、拡大し、強化させていく収奪政治の存在を許すような腐敗」を国際的な問題として取り上げ、NATO加盟国に重点的に取り組まなければならない「非伝統的脅威」だと訴える

2021年度の国防予算の大枠を決める「国防権限法案」が成立。初の試みとして、匿名のペーパーカンパニーの設立が禁止された

l  不動産業界の匿名性の廃止

一時的な例外措置の恩恵にあずかっていた業界に激震が走る。真っ先にあげられたのが不動産業界で、既にトランプ就任以前の2016年から「取引報告義務命令GTO」というプログラムがスタート、試験的に一部都市には限定されていたが、タイトル・インシュアランス会社に実質的所有者を特定するよう義務付けていたのが功を奏し、取引自体が減少するとともに、不動産価格が値下がり始めた

透明性に関する要求事項の大半は既に立法化されているので、あとは実際の適用にかかっている。財務省に対しても国際的な決済に関するデータベース構築の権限を認めている

2020年の「フィンセン文書」公開では、巨額の銀行取引の詳細記載の財務省文書がが大量に流出、クレプトクラシーに対するアメリカの基本的な取り組みの有効性に新たな疑義が持ち上がり、財務省の金融犯罪取締ネットワーク部局FinCENの対応の限界が露呈

FinCEN1990年設立、銀行のマネーロンダリング防止機構の大半を監督してきたが、深刻な人手不足は免れず、金融機関が提出する「疑わしい取引奉告SAR」の割合は10年で倍増しているが、監督機関がその対応に追いついていないのが実情

さらなる対策としては、外国人による未登録のロビー活動への司法省の監視強化がある。1938年の外国代理人登録法FARAの執行強化で、何人ものトランプ支持者が投獄された

l  第二の金ぴか時代から革新主義時代へ

クレプトクラシー撲滅には、19世紀末の「金ぴか時代」という先例がある

資本主義の非人間性と悪徳が剥き出しとなった1910年代、広い範囲に及ぶ改革が国中で展開され、腐敗というアメリカの風土病を解消したが、その時代は「革新主義時代」と呼ばれ、様々な対策の相乗効果によって生み出された

革新主義時代: 1890~第1次大戦までの期間、アメリカで実施された改革運動。自由放任経済で生じた貧富の差の増大や労働問題、独占などの問題に対し、政治の革新と経済への政府干渉の必要を説き、反トラスト法の強化や累進課税の実施、婦人参政権の実現、労働条件の改善などの立法措置によって穏健に改革しようとした

2010年代末、革新を求める声が大きくなり始め、左派の活性として顕在化。サンダース上院議員による富の増大と所得格差に重点を置いた公約は、アメリカの政治的言説に取り込まれた

l  飽くなき強欲を基盤とするクレプトクラシー

新たな革新主義時代に向けて、心に止めておかなければならない歴史的教訓は、超党派で、常に新たな事態を想定して準備しておくことが重要だということ

現代の反米活動や反民主主義的政権は、共産主義のようなイデオロギーなどに基づくものではなく、貪欲を基盤にしている。モスクワに根付いているのは泥棒政治家の強欲であり、中国でも共産党政権が底なしの欲望に駆られ国民から富をひたすら収奪し、少数民族のジェノサイドを進めている。クレプトクラシーのこの強欲こそ、アメリカとその同盟国の民主主義国家にとっての最大の脅威。にも拘らずその脅威は、アメリカが次々に提供するサービスに依存して維持されてきた。だからこそ、クレプトクラシーにとどめを刺す戦いはアメリカから始まる。戦いの火ぶたを切るのは、マッサーロやヘルシンキ委員会が策定した政策を支持する議員たち

ヘルシンキ委員会: 人権と民主主義に焦点を当てた超党派の独立した連邦委員会。リーダーが政策アナリストのマッサーロ

 

訳者あとがき

クレプトクラシーは、「泥棒政治」という政治体制を意味する。少数の権力者や政治エリートが国民の資産を収奪したり、国富を横領したりすることで私腹を肥やし、自らの権力の拡大と維持を図る。Kleptoは「盗む」を意味する。クレプトマニア(窃盗癖)、クレプトフィリア(窃盗性愛)は精神疾患として定義されている

「パナマ文書」漏洩は衝撃的。世界50か国以上、140名を超える現職や元職の元首や首相の名前が列記されていたのには唖然とする

近年のマネーロンダリング王国はアメリカ。州政府が財政難に対処するために編み出してきた打開策を通じて、巨額な汚れた資金を吸い込む王国に変貌

 

 

 

 

 

クレプトクラシー 資金洗浄の巨大な闇 ケイシー・ミシェル著

米国への「汚れた金」流入暴く

2022115日 日本経済新聞

バイデン米大統領の地元はデラウェア州である。小さな州だが、多くの大企業が法人登記していることで有名。連邦制の下、企業に好都合なルールを、他州に先んじて導入し続けてきた結果である。

同州の企業誘致の到達点が、匿名でのペーパーカンパニー設立だった。州非居住者でも外国人でも、匿名で設立可能となった。そうした設立が急増し、登記代行業と州財政を潤した。設立した会社向けに、世界中から「汚れた金」が流入した。米国が世界最大の資金洗浄天国になったのである。

他州も傍観していなかった。中西部のサウスダコタ州は人口密度が1平方キロメートル当たり4人という田舎だが、信託の存続期間を無限にして、「プライバシーと財産保全の点ではアメリカで最高、いや世界でもっともすばらしい法律」を制定した。スイスの「秘密口座」から、大量の資金が同州に移動した。

「汚れた金」の流入先は、連邦内「タックスヘイブン」だけではない。不動産業、ヘッジファンド、アート競売業、シンクタンクなど。資金の所有者を確認する義務を免除されていた業界があった。

注目されるのは、トランプ・ファミリーの不動産ビジネスだろう。国内各地や各国に建設された「トランプ・タワー」の買い手にはロシアのオリガルヒ(政商)やマフィアが挙がる。資金洗浄が目的なのである。これが、トランプ・ブランドの内幕だった。

「クレプトクラシー」。政治権力を利用できる少数者が、国家や国民から横領・収奪していることだという。途上国の独裁体制下では当然のことだが、冷戦終了後のロシア・東欧で盛行したため、巨大な資金洗浄が必要となった。

巧みな構成が読み易い。赤道ギニアの独裁者の息子が、マイケル・ジャクソンの「あの有名な手袋」を競売で落札。ウクライナ最大の銀行設立者=詐欺師一味が、米国ラストベルトの工場やビルを多数購入。資金洗浄目的で、管理費用を惜しんだため、どれも荒廃してしまった。

クレプトクラシー対策は、オバマ政権で一進、トランプ政権で一退。金融・ビジネス関連の基本は州政府の管轄なので、連邦政府が黙っていると、資金洗浄が盛り返す。好都合なときには連邦制を隠れ蓑に使う米国だが、バイデン政権は前進できるのだろうか。

《評》関西大学教授 地主 敏樹

原題=AMERICAN KLEPTOCRACY(秋山勝訳、草思社・3080円)

著者はニューヨークを拠点に活動する米国人ジャーナリスト。

 

 

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内容説明

いま世界には「汚れた金」にまみれたクレプトクラット(泥棒政治家)たちがはびこっている。それは自国の国庫や国民から盗んだ金であり、税収の収奪や賄賂などで得た違法の金である。彼らはその金を「洗浄」して合法的な資産に変えようとするが、その最強の受け入れ拠点はなんとアメリカだった。その額は毎年数十億ドル。アメリカはなぜ、いかにして世界最大のマネーロンダリング天国となったか。その仕組みが構築されてきた過程を詳細に分析し、現代世界の奥底を流れるものの巨大な闇を暴く衝撃の書!

 

 

 

 

Wikipedia

泥棒政治、クレプトクラシー(kleptocracycleptocracykleptarchy)は、ギリシア語の「κλέπτης - kleptēsクレプテース」(盗む)と「κράτος - kratosクラトス」(支配)が語源で、官僚政治家などの支配階級が民の資金を横領して個人の富と権力を増やす、腐敗した政治体制を表す言葉である。

公式には民主主義共和制君主制神政政治などの政府であるが、政権を握る人々による公的資金の利己的な背任横領が酷い政府に対する軽蔑語である。

特徴[編集]

泥棒政治は、例えば独裁制寡頭制暫定軍事政権などの権威主義政府にいる、独裁的で外部からの干渉がない公的資金運用を行う権力者たちの下で行われる。まるで彼ら自身の個人財産であるかのように、泥棒政治家は贅沢品などに国庫の資金を使う。多くの泥棒政治家たちは、もし国外追放されても対応できるよう、公的資金を外国の個人口座に移している。

影響[編集]

泥棒政治がはびこる政府は、経済や政治情勢、市民権などは不安定である。泥棒政治の政府は、よく海外投資を失敗し、大幅に国内の市場と海外貿易する力を弱める。泥棒政治は資金洗浄に伴う資金を不正に横領するため、市民の生活の質を下げる傾向がある。

さらに、泥棒政治家はよくアメニティ(例えば病院や学校、道路、公園の建設など)の資金から盗む。そのため、泥棒政治の下にいる市民の生活の質に、大きな影響を及ぼす。泥棒政治の独裁者は、民主主義などのあらゆる政治形態を破壊する。

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トランスペアレンシー・インターナショナル・ランキング[編集]

2004前半、ドイツ非政府組織であるトランスペアレンシー・インターナショナルは、最も私腹を肥やした近年の政治家10名のリストを発表した。

1.    インドネシア大統領スハルト150億ドル - 350億ドル)

2.    フィリピン大統領フェルディナンド・マルコス50億ドル - 100億ドル)

3.    ザイール大統領モブツ・セセ・セコ50億ドル)

4.    ナイジェリア大統領サニ・アバチャ20億ドル - 50億ドル)

5.    ユーゴスラビア大統領スロボダン・ミロシェヴィッチ10億ドル)

6.    ハイチ大統領ジャン=クロード・デュヴァリエ3億ドル - 8億ドル)

7.    ペルー大統領アルベルト・フジモリ6億ドル)

8.    ウクライナ首相パーヴェル・ラザレンコ1.14億ドル - 2億ドル)

9.    ニカラグア大統領アーノルド・アレマン1億ドル)

10. フィリピン大統領ジョセフ・エストラーダ7,800万ドル - 8,000万ドル)

他の人格[編集]

ロシア大統領ウラジーミル・プーチン (アンダース・アスランドはプーチンの財産を1,000億ドルから1,600億ドルと見積もっています)

 

ブッシュ政府の声明[編集]

2006ブッシュ政府は、G8サミットで合意した内容を元に、泥棒政治を排除することを国際的に努力するとの声明を出した。

 

 

 

 

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4回 温故知新 クレプトクラシー(収奪・盗賊政治) 日本のルーツは明治維新

前回は私たちの眼の前に立ちはだかる問題解決のために重要な4つの視点を紹介しましたが、今回は「温故知新」について考察したいと思います。

 本連載第1回で「お上は悪いようにするはずがない」と題し、厚生省官僚が「医療費亡国論」を唱えて医療費削減を主導したことを紹介しました。日本は民主主義国家ですから、政治家ではない官僚が重要政策を決定することは許されないはずです。何故官僚が医療費抑制を唱えることができたのでしょうか。

 実はこの謎を解決するヒントを与えてくれたのも第一回で登場した長崎大学名誉教授の高岡善人先生でした。高岡先生との出会いは20062月でしたが、約2年後の20084月に私はお見舞いで、先生が入院中だった東京都老人医療センター(現東京都健康長寿医療センター)を訪れたのです。病床で先生は「日本資本主義の父」とされ、東京都老人医療センターの前身「養育院」の初代院長でもあった渋沢栄一(18401931)の資料を手渡してくれました。

 残念ながら高岡先生はその3ヶ月後の7月に亡くなったのですが、最後に用意してくれていた資料が気になって、私は渋沢の著書「論語と算盤」(国書刊行会)を手にしたのです。案の定その中には私がずっと疑問に思っていた日本の歴史的背景が明確に記されていました。

 渋沢は「論語と算盤」で「道徳経済合一論」の真骨頂である「金儲けだけでは駄目だ、論語に立ち返って社会貢献も考えなければならない」と経済人に訴え、さらに「時期を待つの要あり」で「官尊民卑」について述べています。

 『私は日本今日の現状に対しても、極力争ってみたいと思うことがないでもない、いくらもある、なかんずく日本の現状で私の最も遺憾に思うのは、官尊民卑の弊がまだ止まぬことである、官にある者ならば、いかに不都合なことを働いても、大抵は看過されてしまう、たまたま世間物議の種を作って、裁判沙汰となったり、あるいは隠居をせねばならぬような羽目に遭うごとき場合もないではないが、官にあって不都合を働いておる全体の者に比較すれば、実に九牛の一毛、大海の一滴にも当らず官にある者の不都合の所為は、ある程度までは黙許の姿であるといっても、あえて過言ではないほどである。これに反し、民間にある者は、少しでも不都合の所為があれば、直ちに摘発されて、忽ち縲絏の憂き目に遭わねばならなくなる、不都合の所為あるものはすべて罰せねばならぬとならば、その間に朝にあると野にあるとの差別を設け、一方は寛に一方は酷であるようなことがあってはならぬ、もし大目に看過すべきものならば、民間にある人々に対しても官にある人々に対すると同様に、これを看過してしかるべきものである、しかるに日本の現状は今もって官民の別により寛厳の手心を異にしている。』

 その後多くの資料を当たってようやく気づいたのですが、渋沢が指摘した当時の官僚こそ、「藩閥政治」と非難された人々だったのです。最近明治の内閣総理大臣を調べて、その予感が当たっていたことを再確認できました。そしてこの流れは敗戦後は岸信介、佐藤栄作氏が、現在は安倍晋三氏がしっかり引き継いでいます。

 歴史は勝者が書くものと言いますが、ようやく還暦を過ぎて日本政治のルーツを知ることができました。明治維新は薩長が皇室を錦の御旗に利用して徳川から政権を奪取したクーデター、戦後は錦の御旗を米国に変えて一部の政治家や官僚が自身の利益を最大化しています。この体制こそ米国議会筋が日本をデモクラシーでなくクレプトクラシー(収奪・盗賊政治)と見ているものでした。

 

 

福岡県弁護士会 「弁護士会の読書」

クレプトクラシー,資金洗浄の巨大な闇

アメリカ

(霧山昴)
著者 ケイシー・ミシェル 、 出版 草思社

 世界最大のマネーロンダリング天国、アメリカというサブタイトルのついた本です。

 ウクライナ、赤道ギニア、ハイチなどの独裁者から押し寄せる違法な超大金を洗浄するシステムがアメリカでものすごく活用されているということを今さらながら強く認識させられる本でした。

 アメリカは世界最大のクレプトクラシーの避難地となっていて、今や史上最大のマネーロンダリングの国だ。世界中に張りめぐらされた犯罪ネットワークに関係する、何兆ドルもの資金が手品のようにクリーンで合法的なお金に一瞬で変わり、実際に使えるようになる。

 アメリカはクレプトクラシーの世界が出現するために手を貸し、その過程で利益を受けている。アメリカでは、匿名のペーパーカンパニーが次々に設立されていて、その背景に誰がいるのか、まったく分からない。ペーパーカンパニーとは、ブラックボックスにも似た汚いお金を変換させる魔法の装置だ。洗浄されたお金は、捜査官も解明できない。アメリカでは幽霊会社を設立するのは、許しがたいほど簡単、容易だ。必要な時には、「ノミニ」と呼ばれる人間が選ばれる。ノミニーは、ペーパーカンパニーの取締役、株主そして共同経営者という登記できる、名目上の第三者。当局の質問に対しては、会社に関わっているのは自分だけだと主張する(できる)。

アメリカでは、連邦ではなく、州政府が法人誘致をめぐって、互いに競い合っている。ニュージャージー州には、企業が殺到した。登記のために駆け込んでくる企業のおかげで、州の財政はありあまるほど潤沢となり、州民に対しては減税するようになった。同じくデラウェア州でも登記した企業から毎年15億ドルもの収入を得て、売上税・資産税を課していない州にとって巨大な財政支柱になっている。年間225000件超の企業が設立され続けている。

 チリの悪名高い独裁者ピノチェトも隠れ資産をもって私腹を肥やしていることが明らかにされた。

 ウクライナでも独裁者がせっせと私腹を肥やしていた。ウクライナの銀行、プリヴァトバンクの融資先の99%は内容のない幽霊のような企業だった。
 トランプ前大統領は、自分の不動産を通じて、何十億ドルもの資金洗浄してマネーロンダリングに関わっていた。トランプの所有する物件はどれも、過去数十年にわたって、アメリカに流入していきた汚いお金の大洪水のおこぼれに預かってきた。トランプの物件の最終的な所有者のうち、身元が公表されているのは、ごくわずか。怪しい買い手の大半は、アメリカで登記したダミー会社を徹底的に利用して、アメリカの不動産を購入していた。大統領に就任したトランプは、アメリカ政府が築いてきた反腐敗という壮大な砦を破壊するような行為を始めた。腐敗に対する規制、先例と伝統をトランプはあくことなく破壊した。

トランプ大統領に快く思われるには、トランプのホテルに宿泊するのが一番だと気がついた首相や大統領もいた。

 ウクライナのゼレンスキーというユダヤ人の俳優が世に出たのは、テレビドラマを通じてウクライナの大統領を数年かけて演じカリスマ性を獲得した。クレプトクラットであるコロモイスキーの支援も受けてゼレンスキー大統領は誕生した。でも今なおウクライナは腐敗とは無縁ではない。

 世界中の汚い大金がアメリカに集中している仕組みがあることを認識しました。それも気の遠くなるほどの大金です。世界中の多くの人が食うや食わずの生活をしているというのに、なんということでしょうか・・・。
20229月刊。税込3,080円)

 

 

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