NETFLIX コンテンツ帝国の野望  Gina Keating  2020.2.11.


2020.2.11.  NETFLIX コンテンツ帝国の野望 GAFAを超える最強IT企業
NETFLIXED 20122018

著者 Gina Keating フリーランスの経済ジャーナリスト。米UPI通信、英ロイター通信に記者として在籍し、10年以上にわたってメディア業界、法曹界、政界を担当。独立後は娯楽誌バラエティ、富裕層向けライフスタイル誌ドゥジュール、米国南部向けライフスタイル誌サザンリビング、ビジネス誌フォーブスなどへ寄稿。本書は処女作

訳者 牧野洋 ジャーナリスト兼翻訳家。慶應大経卒、コロンビア大学院ジャーナリズムスクール修士。日本経済新聞でニューヨーク特派員や編集委員を歴任し07年独立。早大大学院ジャーナリズムスクール非常勤講師

発行日             2019.6.25. 発行
発行所             新潮社


1997      ネットフリックス創業
1998      郵便DVDレンタル開始
1999      IPO
2003      会員数100万人突破
2007年    動画配信サービス開始
2009      会員数1000万人突破
2011      海外進出開始
2012      オリジナル作品制作開始
2013      《ハウス・オブ・カード》配信
2014      会員数5000万人突破
2016      中国を除く190カ国に進出
2017      会員数1億人突破
2019      ROMA/ローマ》がアカデミー賞受賞、《KonMari》が大ヒット

「ストリーミング」 ⇒ インターネットに接続しながら映像、音声データを再生視聴

日本語版特別寄稿 史上初のグローバルインターネットテレビ 20122018
世界のエンターテインメント業界に激震をもたらし、業界秩序を完全に塗り替えた
「グローバルインターネットテレビ」のパイオニアとなり、独自コンテンツの制作費とエミー賞へのノミネート数で他社を圧倒。一時株式時価総額で業界トップに
業界の巨人ウォルト・ディズニーと肩を並べる
ネットフリックスがもたらす新秩序によって競争環境が激変、エンターテインメント資産の再評価が行われている。再編の渦中にあるのはディズニーや21世紀フォックス、タイムワーナーなど有力コンテンツを持つ映画スタジオ大手であり、AT&Tやコムキャスト(ケーブル業界最大手)などコンテンツ流通を担う通信・ケーブルテレビ大手で、ネットフリックスが世界のエンターテインメント市場で支配的地位を築くのを防ぐために再編に突き進んでいる
201810月現在でネットフリックスの契約者は全世界で137百万人。バンドル契約に反発し、自由にコンテンツを消費したいと思っているので、バンドルに胡坐をかいていたケーブルテレビ大手など旧来型メディアはジリ貧
毎週決まった日時に決まったチャンネルで視聴する「アポイントメントテレビ」の時代は終わり、否応なしに「ストリーミングの100年帝国」を巡る戦いに突入
Facebook、アマゾン、グーグルとともにFANG()として括られる
創造性に富んだスタートアップ文化から、競争文化に変わり、数字ですべてが決まる優勝劣敗の文化に移行。直言と透明性が何にも増して美徳とされる文化
「ネットフリックス効果」 ⇒ テレビ番組制作も手掛ける映画スタジオ大手は当初、ネットフリックスとの契約は互恵的と考えた。ネットフリックスが放送済みの古いエピソードをストリーミング配信すると、ドラマは大きな反響を呼び、過去の全シーズンを一気見(Binge-watching)する契約者が続出。その後最新エピソードがテレビで放映されると、彼らが大挙してテレビに押し寄せ、視聴率が跳ね上がるというプラスの効果をいう。「アルバニア軍」だなどと見下していた大手は、人気ドラマの配信権をネットフリックスに売っていながらバカにして、どこにも売る相手がいなくなったときに最後に頼る相手だとして「ゴミ収集のような公共サービス」と決めつけていた
ネットフリックスは、リーマンショックの後遺症を引きずっていた映画スタジオに近づき、大枚をはたいて有利な条件でコンテンツを獲得していく。テレビドラマについては、視聴者の一気見需要に応えるため、全シーズンの独占配信権を基本とした
ネットフリックスの視聴者は、一気見によって高揚感を得て、ネットフリックスブランドにほれ込んでしまう ⇒ 一種のストリームチート(だまし)
ネットフリックスの経営者は、映画スタジオはいずれ「インターネットテレビ=テレビの必然的進化形」に目を向けるようになると、コンテンツの供給をストップし、自らストリーミングサービスを始めるはずと考え、自らコンテンツを制作することを考える
映画スタジオの方も、ネットフリックスとの提携によって、多額の収入と視聴率向上を享受してきたが、コンテンツの提供によってネットフリックスのストリーミング拡大を手助けしてきたことに徐々に気づき始めると同時に、不満を強めるケーブルテレビ契約者に対して安くて使いやすいサービスへの乗り換えを勧める格好になっていた
ネットフリックスにとって主な顧客となる若い消費者は、ミレニアル世代であれば経済的事情から家庭を持つことができなかった。家庭を持てば当然ケーブルテレビを契約し月128ドルも出費を強いられるので、ミレニアル世代の多くはブロードバンド回線だけを導入し、ストリーミングなどインターネット上のエンターテインメントに流れていったため、ネットフリックスではインターネットに繋がるあらゆるデバイスに、ネットフリックスのストリーミングアプリを組み込むよう働きかける。家庭用ゲーム機、スマホ、インターネット対応テレビなど対象となるデバイスは枚挙にいとまがない
ネットフリックスは、無数のデバイスから送られてくる膨大な顧客データを蓄積することで、契約者の視聴パターンを細かく把握できるようになり、個々の契約者について複雑なプロフィールを作り上げる。ビッグデータとアルゴリズムを駆使して、契約者の好みや行動がどのように変化していくのかを驚くほどの精度で予測できる。それがコンテンツ制作に直結
12年までにネットフリックスはハリウッドとの蜜月の終わりを確信 ⇒ ネットフリックスを阻止するために、映画スタジオ大手は最新DVDのリリースを遅らせ、デジタル配信権料の引き上げる。漸くネットフリックスの脅威に気付き始める
ネットフリックスは、いち早く次の目標を、「HBOがネットフリックスのビジネスモデルを真似るよりも先に、HBOに匹敵するコンテンツ企業になること」に切り替え
オリジナルコンテンツへの最初の大型投資は、イギリスの政治テレビドラマのリメーク
リメークを模索していたのはアカデミー賞監督賞にもノミネートされたこともある映画監督のデビッド・フィンチャー。ドラマ初挑戦ということもあってテレビ各局が一斉にラブコールを送るなか、ネットフリックスは契約者のデータを見せ、予測アルゴリズムから多くの視聴者にアピールできると説得。フィンチャーと主演に予定されていたケビン・スペイシーは、一般視聴者の知名度はいまいちだったが、いずれのファンも作品を1つ見るとすべての作品を見たがるという共通点があり、さらに90年にイギリスで放送された政治テレビドラマ《ハウス・オブ・カード》に興味を持っていて、これこそフィンチャーがリメークしようと思っていた作品だった
ビッグデータを活用すれば、新しいオリジナルドラマを作成しようとするとき、適任の監督・俳優を割り出せるし、潜在的視聴者の人数も割り出せる
ネットフリックスは、新しい先駆的なものに挑戦できることをアピールしただけでなく、ハリウッドでも破格の1億ドルを用意、さらにコンテンツ内容の全権委任を確約
テレビ業界の常識を覆して、《ハウス・オブ・カード》の第1シーズンの全話を一気に配信し、アポイントメントテレビに痛烈な一撃を見舞う。アナリストは、全話を見終わった新規加入者はすぐに契約を切ると予測したが、逆に契約者数は拡大し続ける
この成功を追い風に、ビッグデータ主導のオリジナルコンテンツ制作を加速 ⇒ 同年、専門家からは高い評価ながら低視聴率だったコメディドラマ《アレステッド・ディベロップメント》の新エピソードを制作・配信。初のホラードラマ《ヘムロック・グローヴ》も登場
制作現場の在り方も一変。ベテランプロデューサーの直感や過去の常識に縛られず、ビッグデータを信じて監督や俳優を選び、海外展開を加速させていたこともあって、海外向けでもビッグデータを全面活用
15年のテレビ界のアカデミー賞とも称されるエミー賞では、HBO126部門でノミネートされたのに対し、ネットフリックスは26部門に留まり、世界全体の契約者で見てもネットフリックスはHBOの半分に過ぎず、これを見て映画スタジオとケーブルテレビ両業界は安心したが、明らかに市場環境は変化しており、消費者の嗜好は「アラカルト的に質の高いコンテンツを個別に買いたい」方向に振れ、「いつどこで見るかはもとより、どのデバイスで見るかも自分で決めたい」と思うようになってきた
HBOを傘下に持つタイムワーナーは、ミレニアル世代もいずれまともな住居に引っ越してテレビを買えばHBOを契約すると豪語。ウェブサイトで消費者調査をした上で、HBOに対してケーブルテレビと縁を切り、単独でストリーミングサービスを始めるよう呼び掛ける消費者運動も起きたが、HBOが親会社にとっても数十億ドルの収入をもたらすドル箱であり、受け入れるわけにはいかなかった。そんな中HBOの人気ドラマ《ゲーム・オブ・スローンズ》が大規模な海賊行為に遭い、世界で最も違法にダウンロードされたテレビドラマシリーズになる
15年半ばには契約者数が世界40カ国で5000万の大台に乗り、内アメリカ3600万で、アメリカ全体のケーブルテレビ契約世帯数5600万に迫る
さすがにワーナーも静観できず、153月にはアップルと組んだストリーミングサービス「HBOナウ」を開始すると発表。ケーブルテレビ業界は猛反発
翌年初にはネットフリックスが中国を除く全世界190カ国に進出すると同時に、オリジナルコンテンツの大幅強化を発表。対応言語も20か国語以上へ増やす
これはエンターテインメント業界全体への警鐘であり、HBOは制作費を大幅に拡大、テレビネットワーク大手のCBSはコンテンツ予算を40億ドル投下、アマゾンはストリーミングサービス「プライムビデオ」用コンテンツに45億ドルを支出と、各社が敏感に反応
安定的な利益や配当を期待される旧来型のメディア大手は、目先の赤字を厭わず長期的な成長を目指すIT系に太刀打ちできず
各社がコンテンツ強化に乗り出したことで、テレビ黄金時代が再来。今回のブームは多種多様。映画スタジオ大手のストリーミングサービスの共同出資会社Hulu向けの新ドラマシリーズ《ハンドメイズ・テイル/侍女の物語》は、17年にエミー賞ドラマ部門の作品賞受賞、ストリーミング専用作品で初の受賞。テレビドラマは広告の制約から解放され、同質的な視聴者にアピールする作品である必要がなくなって、第2のテレビ黄金時代が到来
ストリーミングの世界であれば、コンテンツの形式やテーマについて大きな自由があり、限界に挑戦できるとして、監督や俳優など映画界のクリエイターがこぞって参入
インターネット企業によるストリーミングサービス参入も相次ぎ、ユーチューブは有料のサブスクリプション型サービス「ユーチューブ・プレミアム」をスタート、ツイッターもNFLと提携し、レギュラーシーズン木曜夜の試合を独占配信する権利を獲得
「スキニーバンドル」というストリーミングサービスも続々と登場。インターネット経由で地上波テレビやケーブルテレビなどの番組を配信するサービスで、バンドル化されているチャンネル数が少ない代わりに月額料金が格安なのが特徴
ネットフリックスの株価は急上昇 ⇒ 13年時価総額100億ドルが、17年末には880億ドルに
伝統的なメディア企業の再編が始まり、ディズニーは713億ドルで21世紀フォックスを買収、AT&T850億ドルでタイムワーナーを買収、バイアコムとCBSは合併交渉に
ネットフリックス・キラーの最右翼はディズニーで、独自のストリーミングサービス「ディズニープラス」を19年開始予定。21世紀フォックスの買収で過去の大ヒット映画を入手してコンテンツが充実するとともに、ネットフリックスへのコンテンツ供給を全面停止
キラーの二番手はタイムワーナーを買収したAT&Tで、ストリーミングサービス「ウォッチTV」を開始予定 ⇒ スキニーバンドル型で月額15ドル
監督や映画プロデューサーの大物がこぞってネットフリックスと手を握ったことでハリウッド全体が驚愕
大きな不確定要素がアップル ⇒ シンプルさでは突出したユーザーインターフェースを備えたテレビとして「アップルTV」を開始、大規模なスタジオを開設して、新ドラマシリーズの制作に向け大物と契約している
アメリカ全体で制作されたテレビドラマシリーズは18年に500本以上に達し、明らかに供給過多。これからは量より質が重視されるはず
いずれ地上波テレビは30年には終わりを迎え、インターネットテレビの時代になる
これからも激しい競争が続き、エンターテインメント、メディア、IT各業界の勢力図を大きく変えていくだろう。ただ1日は24時間しかないので、限られた時間を各社で奪い合う競争でもあるのだ

本書の成り立ち
共同創業者リード・ヘイスティングスに本書向けに取材を申し込んだが、協力は得られなかったが、記者時代に20回以上も単独インタビューしていたうえ、決算発表の場などで何度も話は聞いていた
彼は現役員・社員に取材協力の許可を与えなかったが、元役員・社員に圧力をかけることもなかった。本書の取材を進めている時期、ヘイスティングス株は急上昇、多くの人々が彼のような有力者を怒らせてはいけないとびくびくしていた

プロローグ
1997年、サンタクルーズの北の17号線沿いの町スコッツバレーで、ヘイスティングスとランドルフがオンラインの映画レンタル事業の先駆となる郵便DVDレンタルを開始
当時はVHSのビデオテープが全盛だったが、友人からDVDの時代になると言われ、試しにDVDの代わりにCDを郵送してみる
2004年、ビデオレンタル業界はブロックバスターが最大手チェーンとして君臨、独自のオンラインレンタルサービスを始めようとしていたし、オンライン書店のアマゾンも同様にオンラインレンタルサービス開始に向けて技術者を募集、ヲルマートも巨大なDVD店頭販売事業を守る狙いでオンラインレンタルサービスに参入、ハリウッドの映画スタジオ各社も遅ればせながら共同出資会社を設立して、映画のダウンロードサービスの可能性を探り始めた。ネットフリックスはサブスクリプションの契約者数がやっと190万人を記録したばかりで、勝ち目のないアンダードッグと言われながら、急成長するオンラインレンタル市場でどんどんシェアを拡大していった
ネットフリックスは、自ら主催した科学コンテストで生み出された人工知能AIによって飛躍的な技術進歩を遂げ、潜在顧客の開拓方法に多大な影響を与え、2010年には海外展開にも着手、世界中の消費者の映画鑑賞習慣を変えた
成功の秘訣は、経営チームの規律と集中
ヘイスティングスこそビジョナリーであり、アメリカ流のアントレプレナーシップのお手本。ただ、その成功物語にはかなりのフィクションがある
共同創業者でありながらネットフリックスを飛び出したランドルフによれば、《アポロ13》のビデオの延滞料40ドルが創業の端緒だというのはまったくのフィクション。2人がサンタクルーズからサニーベールの勤務先ピュア・エイトリアへ向かう車の中でビデオの新規格であるDVDを使ってウェブサイトのオンライン店舗経由での映画レンタルサービスができないかと考え、試しに第1種郵便でDVDを自宅宛てに送ってみたことからすべてが始まる

第1章       暗闇でどっきり “A Shot in the Dark” 199798
エイトリアが買収されると知って独立を考えた2人は、「書籍以外の何かを扱うアマゾン・ドットコム」を念頭に、何が売れるかを考えた
ランドルフはいくつかのスタートアップを渡り歩いていたマーケティングの専門家。オーストリア出身の核技術者の移民の息子、フロイトの親戚筋にあり、ニューヨーク生まれで専攻は地質学。音楽関係の事務職に就いたが、ダイレクトマーケティングの世界に興味
ヘイスティングスは、60年生まれで上流階級の出身。母方の家系はアメリカ版紳士録『ソーシャル・レジスター』の原メンバーであり、曾祖父は29年の大恐慌で大儲けしている。スタンフォードの大学院に進みコンピュータサイエンスの修士号を取得、30歳でコンピュータのバグ発見を専門にするソフトウェア開発会社ピュア・サイエンスを創業、95IPO96年ランドルフのエイトリアを買収。97年ラショナル・ソフトウェアに850百万で売却。当時シリコンバレーで過去最大のM&Aだった ⇒ 株価急落で585百万まで下落
2人はオンライン取引に適した商品として、ビデオレンタル・販売に着目
業界トップのブロックバスター(バイアコム傘下)2位のハリウッドビデオはオンライン取引に興味を示さず
ヘイスティングスがベンチャーキャピタルとして投資、ランドルフがスタッフを集めてビジネスプランを立ち上げ。最初はVHSだったために、在庫コストと配送コストがかかりすぎて成り立たず、諦めたところにDVDが登場。カギを握るのはウェブサイトのインターフェースで、ビデオレンタル店向けの顧客データベース管理用ウェブサイトの構築プロジェクトに出会いスタートアップに誘い込む
ハリウッドの映画スタジオは、ホームエンターテインメントの勃興を追い風にして、何のリスクも取らずに急成長を遂げるビデオレンタル業者を「侵略者」として毛嫌い
97年末の時点では保有DVD500タイトルに過ぎず、しかも古い作品が中心で、新作映画のDVDに踏み切ったのはワーナー・ホームビデオだけ。配送に手間がかかりすぎること、DVDプレーヤーが高価なこと、DVDの方式が標準化されていないために、どのプレーヤーも再生できるとは限らないことなど障壁が多数存在
98年春、オンライン上で映画の在庫を確認して注文できるシステムが完成
ネット上のインフルエンサーを動員してウェブサイトをローンチするとたちまち注文が殺到し、サイトもプリンターもパンク状態

第2章       続・夕陽のガンマン “The Good, the Bad, and the Ugly” 19981999
ネットフリックスはローンチの日から注文が入らないくらいに大混雑。DVDプレーヤーが97年春に
登場して以来、異常な販売ペースが続き、当初はDVD規格採用に慎重だった映画スタジオも市場のDVDシフトを無視できなくなり、月100タイトルのペースでリリースをはじめ、ネットフリックスの在庫も開始数か月で3倍に膨れ上がる
ブロックバスターとハリウッドビデオは店舗にDVDを置くことを拒否したため、夏の間はネットフリックスがDVDレンタル市場を独占
見たかった映画を思い出させる英マインド機能や、新作映画の在庫コストを抑えるために旧作に顧客を誘導する仕組みなど、従来のビデオレンタル時代の経験をもとに次々と新機能を搭載
初期利用者の中にインド系留学生が多いことから、外国映画などニッチ分野にも注力する一方、成人向けX指定は州ごとに規制が異なることから一切扱わなかった
当時ネット通販は全米小売売上高の1%未満、その上DVDプレイヤーを保有していなければならず、顧客開拓のハードルは高かった
ソニー追い落としとのセールストークに東芝が乗ってきたのが契機となって、ヒューレット・パッカードやアップルとの提携も実現、パソコンにDVD-ROMドライブが搭載されていた。DVDプレイヤーの売り上げも02年までの4年間に10倍増と急伸
99年、ヘイスティングスがネットフリックスの経営に共同CEOとして参画するようになり、ランドルフによる家庭的職場が競争至上主義のプロスポーツチームへと変貌
98年末、アマゾンのベゾスがネットフリックスとの提携を模索していることが分かり会談、DVD事業を譲渡する代わりにアマゾンの顧客にネットフリックスのオンラインDVDレンタルを宣伝してもらう取引を考え、場合によっては身売りも視野に入れていたが、提示された価格は12百万ドルで投資回収できず、クロスプロモ―ションで合意し提携を発表
ブロックバスターやハリウッドビデオとも提携交渉したが、いずれからも拒否される

第3章       黄金狂時代 “The Gold Rush” 19992000
99年、アマゾンと提携してDVD販売事業を手放したために資金繰りが逼迫、投資家の間では高い評価を得ていたヘイスティングスは仲間の投資家に協力を求める
DVDプレイヤーが年末商戦で飛ぶように売れ、そこに無料レンタルクーポンを入れていたために、DVD在庫を積み増す必要に迫られたが、同時に顧客データの収集にも注力
エイトリア売却で圧倒的名声を得たヘイスティングスの前に、ランドルフは経営の第一線から退き、本社もロスガトスに移転。LVMHのアルノーからの資金協力取り付けに成功、アルノーが筆頭株主に。ランドルフのチームは大半が退社
最初に解決しなければならなかった問題が配送コストで、顧客から2ドルしか取っていないのに実費は6ドル
次いで、顧客行動の収集・分析 ⇒ 配達スピードと顧客獲得率や維持率に相関関係がないことを突き止め配送センターを集約しようとしたが、翌日配達情報が魔法のように拡散し新規顧客獲得が劇的に増加。集配郵便局の近くに物流センターを設置することで翌日配送を広げていく
マーケティングに3つのプランを取り入れ、統合プラン(マーキープラン)を提供
プラン① ホーム・レンタル・ライブラリー ⇒ 定額のサブスクリプションのプランで、延滞料なし、返却し終えた段階で新たにレンタルできる
プラン② シリアライズド・デリバリー ⇒ 返却すると自動的に次の映画を郵送し課金するプランで、アラカルト
プラン③ 予約リスト方式(キュー) ⇒ 顧客が見たい順番に予約しておき、それに従って自動的に配送されるプラン
事実上のビデオオンデマンドVODのスタート
99年末には、DVD市場の先行きに強気の見方が広がるが、既存のビデオレンタル業界はDVDへの移行に躊躇。一方で映画スタジオ大手6社はDVDの将来性を認め、そろってDVD規格を受け入れ、ビデオレンタル業界を敵視していたこともあって、DVD規格を試すうえでネットフリックスとの提携に前向き
レコメンドエンジンを開発し、顧客維持に役立てると同時に、映画ライブラリーの効率的活用を目指す ⇒ 00年「シネマッチ」としてプロモーション開始
00年、IPO86百万ドル調達のため、ビジネスプランを「DVDレンタル、劇場公開のマーケティング、映画チケット販売のための映画ポータルサイト」として投資家に売り込み
当時契約者12万人、毎月80万枚のDVDを発送、前年売上5百万に対し赤字が29.8百万
ドットコムバブル崩壊でIPOは延期されたが、IPOで株価急上昇を見込んだ投資家からの追加出資で資金繰りをつける
大手映画スタジオとの間でレベニューシェアの契約が成立し、在庫コストが1/21/3に低下し、増大する需要に対応する体制を整える
ブロックバスターから提携交渉を受け入れるとの回答が来て、ネットフリックスをブロックバスターのオンライン部門にしてはと提案、ブロックバスターの顧客へのアクセスを狙ったが、元々ブロックバスターはインターネット企業全般に懐疑的で交渉は頓挫。50百万で買収しないかと打診してみたが笑い飛ばされた

第4章       宇宙戦争 “War of the World” 20012003
ドットコムバブルの崩壊で、総額5兆ドルが失われた
ネットフリックスは、バブル崩壊を乗り切ったものの、契約者の8割はなお「若い男性」「高給取り」「平均以上のコンピュー技能者」といったパソコンオタク系
ブロックバスターのCEOアンティオコは、複数の大企業で経営再建を主導し、46歳でブロックバスターのトップに ⇒ 最初がニューヨーク市内のセブン・イレブン加盟店の再建、20年後にはサウスランドのマーケティング担当副社長。90年独立。有名企業を転々とするうちに経営再建請負人としての評価を確立。眼鏡チェーン大手パール・ビジョンの経費削減、サークルKの再建・再上場、ペプシコが外食部門のタコベル、ケンタッキー・フライド・チキンなどを「ヤム・ブランズ」としてスピンオフした時には新会社の経営トップの候補に。そんなときバイアコムから声が掛かる。バイアコムは3年前にブロックバスターを買収、総額100億ドルでパラマウントを買収して借金返済の原資としてブロックバスターの現預金とキャッシュフローが魅力だった。バイアコムはブロックバスター将来性に疑念を持ちIPOにより売り逃げを企図、アンティオコはIPO後のCEOの座を約束され経営を刷新、1年後には上場に成功し時価総額26億ドルとなり465百万ドルを調達、全米に6500店舗を展開、市場シェア31%。更なるシェア拡大を期してネットフリックスに狙いをつけるが、延滞料金を不当とした消費者が23件ものクラスアクションを起こしていた
01年時点でブロックバスターは、光ファイバー網の構築によってアメリカの一般家庭にブロードバンド回線が普及し本格的なデジタル配信時代が到来することを予測し、中央管理サーバーから一般家庭のテレビに映画を直接配信するVODを検討、エンロンと共同出資会社の設立で合意していたが、エンロンのブロードバンド子会社が必要なインフラを持っていないことが判明したため、計画は挫折
01年には、音楽ファイル共有サイトのナップスターに対し、加州地裁が著作権侵害を理由に業務停止を命じ、デジタルコンテンツの運命がますます読めなくなったが、判決に対し消費者が猛反発、抗議の意味を込めて映像ファイル共有サイトに飛びついて違法ファイルを交換し始める ⇒ 映画スタジオ各社は海賊行為の急増を恐れると同時に、高速インターネット接続が可能となって消費者がいつでもどこでもデジタルコンテンツを見たいと要求するようになったのに応えて、海賊行為を防ぐための代替策としてディズニー以外の各社の共同出資会社「ムービーリンク」を立ち上げ、映画のダウンロードサービスを開始したが、技術的なハードルは高く、1本のダウンロードに40分もかかった
ナップスター事件を契機に、映画スタジオはデジタル配信権については柔軟に対応するようになり、アンティオコもユニバーサル・スタジオなどから次々にデジタル配信権を獲得したが、関連技術が追い付かず、VHS在庫のDVD化に乗り出し、巨額の評価損を計上
ネットフリックスは、DVDプレイヤーの普及を背景に順調に契約者を増やしていたが、01年第3四半期には現金が枯渇の危機に瀕し、4割の従業員をカットしてコスト削減を実現
02年、創業以来4年で「郵便DVDレンタル」業務に絞って漸くIPOを実現、82.5百万ドルを調達
創業立役者の1人ロウは、キオスク(自販機)を通じたDVDレンタルという新しいコンセプトを開発、ヘイスティングスが却下すると、独立してマクドナルドと提携し、マックでキオスク事業「レッドボックス」を展開
ランドルフも、世界を変えようと同じ夢を見る仲間による家庭的なチームでの仕事が叶わず、退職を決意

第5章       レオン “The Professional” 20032004
02年半ば、アンティオコもオンラインレンタルを開始すべく小規模の会社を買収したが、的確な実態把握ができないまま、03年には契約者数が100万を突破したネットフリックスの魅力と脅威を理解できずにいた
ブロックバスターが出した新しいコンセプトは、実店舗とオンラインを1つのサブスクリプションサービスに統合するプランだったが、実店舗経営者の反発を恐れて規模を縮小して準備を進める ⇒ 「ブロックバスター・オンライン」としてネットフリックスのクローンが誕生。統合サービスはブロックバスターの既存顧客ベースへのアクセスを考えると新会社とはいえネットフリックスにとって大きな脅威となるはずだが、店舗とオンライン統合という複雑なテクノロジーを使いこなすにはブロックバスターには無理と高を括っていた
連邦法であるビデオプライバシー保護法VPPA ⇒ 契約者のレンタル歴をアマゾンと共有するとVPPA違反と指摘される恐れ
04年インターネット企業の株が再び人気となり、ネットフリックスが時代の寵児として躍り出る ⇒ 株価が400%上昇、売上の伸び率も年100%を超えた。サブスクリプションモデルの完成度向上を目指して微調整を怠らず、新規申し込みは13千件近いペース
オンラインレンタル市場の潜在規模は巨大。ネットフリックスの最初の市場であるベイエリアでは住民の5%以上がネットフリックス会員

第6章       お熱いのがお好き “Some Like It Hot” 20042005
ブロックバスター・オンラインはネットフリックスと瓜二つでローンチ。特許侵害でも株価は敏感に反応して、ネットフリックス株は猛烈な売り浴びせに遭遇
アマゾンがオンラインDVDレンタル進出の噂も

第7章       ウォール街 “Wall Street” 200405
バイアコムはテレビ局CBS買収に伴いブロックバスターの切り離しを企図、株式交換方式で04年後半に実施
独立後のブロックバスターで、アンティオコは店舗の統廃合を計画、業界2位のハリウッドビデオに7億ドルで買収を持ち掛けると、著名投資家のカール・アイカーンが参戦
3者に競り負けると、アイカーンがブロックバスターを攻撃、経営を混乱に陥れる

第8章       キック・アス “Kick Ass” 200405
アップルのデジタル配信サービス「iTunesストア」の登場で音楽CDが売れなくなったのを目のあたりにして、DVD販売で大きな利益を得ていたアマゾンがいよいよ独自のオンラインレンタルサービスを立ち上げるとの噂に、ヘイスティングスはアマゾンの参入阻止のためベゾスに、アマゾンの顧客を手数料ベースで紹介する仕組みを提案したが、ベゾスの要求する手数料が高すぎて物別れに
ネットフリックスでは、アマゾンの進出に対抗してサブスクリプションの価格引き下げを発表
ブロックバスターがそれを上回る値下げで対抗、ネットフリックスが4年かけて築き上げたものを開始から4か月で達成
ネットフリックスでは、一部の契約者が差別されているとブログに書き込んだのが広がって04年末にはクラスアクションに発展 ⇒ 順番待ちを無視して、予約を入れたばかりの人を優先して映画を届けている(スロットリング=不正行為)との疑惑で、最終的にネットフリックスもその存在を認める
ブロックバスターでは、延滞料金終了のキャンペーンを謳いながら、一部の店で不履行が発覚、マスコミまでが騒ぎ出し、全米48州の司法長官が虚偽広告だとして提訴
新世代ブロガーの先駆けともいえるカルトシュネーが、新しいブログ「ハッキング・ネットフリックス・ドット・コム」を立ち上げ、ビジネスモデルの解明を目標として動き出すと、25万のフォロワーを得て、想像以上のパワーを手にする ⇒ 商品や企業について自由に発信できる立場を活かし、場合によっては公然と企業を挑発して改善を求めるので、企業側としても無視できない。在庫の割り当てがおかしいと狼煙を上げたのもカルトシュネーのブログ

第9章       我等の生涯の最良の年 “The Best Years of Our Lives” 200506
ハリウッドビデオ買収を断念したアンティオコの決断に不満を爆発させたアイカーンが、アンティオコの会長職剥奪を狙ってプロキシファイトを仕掛け、アンティオコが無視する途に出たため、アイカーンが過半数を獲得、危うくアンティオコは会長職を剥奪されかけたが、取締役会がアイカーンと妥協して定員を増やしアンティオコを会長に引き留める
競争激化を理由に格付機関がブロックバスターをジャンク債に格下げ
ブロックバスターは新規契約者が増え続ける一方で解約が止まらず、資金繰り悪化が深刻化、軌道に乗りかけたオンラインサービスへの支援継続が不可能となる
ウォルマートはオンラインレンタルサービスを閉鎖して、顧客をネットフリックスへ誘導したこともあって、ウォール街はようやくオンラインレンタル市場の重要性を認めざるを得なくなり、店舗型レンタルの廉価版ではないことを理解
アイカーンが入ってきたブロックバスターの取締役会は機能不全となり、マーケティング攻勢も休止したため、相対的にネットフリックスが優位に立つ
ディズニーも、DVD映画は劇場公開と同時にリリースすると予測し、映画館オーナーを激怒させたが、どのようなフォーマットで映画を観るのか決めるのは消費者であるべきとの主張も出てきた
ブロックバスターは上場以来初の無配に転落。一般消費者が店舗型ビデオレンタルに見切りをつけつつあるという市場の構造変化が進む。ブロックバスターはリストラを断行、スリム化に踏み切り、時価総額でトップが入れ替わり、15億ドルでネットフリックスが首位

第10章   帝国の逆襲 “The Empire Strikes Back” 200607
ブロードバンド回線がアメリカ人家庭に普及し始め、映画スタジオ業界はインターネット経由のデジタル配信を検討せざるを得なくなる ⇒ VODに活路
これまで各社はHBOやスターズ、ショータイムなどのプレミアムケーブルチャンネルに新作映画の独占放映権を与え、見返りに合計で毎年15億ドルの支払いを受けていて、旨味の大きいビジネスだった
DVDレンタル・販売の売上総額は06年にピークの270億ドルを記録、翌年以降は徐々に市場規模が縮小すると予測、対照的に映像コンテンツのデジタル配信市場は前年比3桁の伸び率で拡大。ただし映画業界の年間売上高に占める割合はまだ12%に過ぎない
インターネット上ではコンテンツはタダ、という考えを最初に受け入れたハリウッドの大物はディズニーのCEOアイガー ⇒ ジョブズのピクサー・アニメーションを買収したばかりでデジタル戦略に前向き、iTunes上で映画やテレビドラマをデジタル形式で販売する映画スタジオ第1号になる
映画スタジオ大手は競ってデジタル形式のダウンロードサービスに進出したが、コストと規制に加えた、ブロードバンドの普及が50%未満だったためどれも失敗に終わる
ネットフリックスにとっては、機能性に優れた低料金のストリーミングサービスであれば脅威だったが、機が熟していなかった ⇒ ユーチューブのソフトウェアが使い勝手がよく、どんなデバイスでも再生できて持ち運びができることから、ビデオ再生機にダウンロード可能な無料メディアプレイヤーを作れば広く普及すると考えた
ネットフリックスは、ビジネスモデルの特許侵害を理由にブロックバスターを提訴、同社のオンラインの閉鎖を求めていたが、一時金支払いで和解
アンティオコのリストラが奏功、アイカーンも大人しくなって株価も復活、再びオンラインサービスへマーケティング予算を集中 ⇒ 実店舗でも無料レンタルと配達スピードの速さを武器にネットフリックスの顧客を切り崩そうとしたが、ネットフリックスはインディー映画(自主制作映画?)など質の高い低予算映画に積極的に投資して成功
07年、ネットフリックスが新ストリーミングサービス「インスタントビューイング」のデモを行う ⇒ 20秒ほどで映画の読み込みが終わって再生が始まる。画質はDVD並み。ストリーミングで映画鑑賞中の顧客行動を観察すれば、鑑賞中に顧客が何を考えているのかリアルタイムで把握できるということが判明。どのシーンでストップボタンを押して巻き戻したのか? 好きでない映画を選んだときにどのくらいの時間で見るのをやめるのか? 一時停止ボタンをどこで押したのか? 早送りでどんなシーンを飛ばしたのか? 人間の行動について個人的なレベルにまで落とし込んだ深い分析が可能になり、比べ物のないほどの強力な武器になる。映画評価システムに頼らなくても顧客の好みを把握できるようになる

第11章   Mr. インクレディブル “The Incredibles” 200609
レコメンドエンジン「シネマッチ」のアルゴリズムこそ、強力な武器に ⇒ 膨大な映画ライブラリーの中で道先案内人となり、非常に興味深くて思いもよらないような景色を顧客に見せる。いわば「映画発見の旅」にいざなう。ネットフリックス会員の予約リスト「キュー」に入るタイトルのうち、70%がシネマッチの推薦作品
06年、ヘイスティングスは、シネマッチの精度向上を狙ってアルゴリズムを一段と飛躍させるために賞金100万ドルでコンテスト開催を決定 ⇒ 5年間を区切って最初に10%精度を向上させたチーム・個人を表彰。当初は5000チームが、3年後には世界中で4万チームが参加
AT&Tシャノン研究所(通称AT&Tラボ)でデータマイニングチームを率いて顧客行動を予測するシステムの研究を続けていた研究部長ポリンスキーとベルのチーム・ベルコアが参加
ネットフリックスがレコメンドエンジンの開発を始めたのは1999年だが、初期のものは属性による映画の分類が難しく、予測不能の結果しか出てこず、ウォルマートが「黒人歴史月間」と名打ったキャンペーンで《猿の惑星》を勧め謝罪に追い込まれた ⇒ 映画内容の複雑化とともに、視聴者の好みも微妙な違いで複雑にしていた
ベルコアは2年目からレースのトップを走り始め、3年目に漸く精度10%向上を達成。ネットフリックスはその使用権を確保、信じられないような成功を遂げる礎となった
「郵便DVDレンタル」から本格的なビデオストリーミングへ移行する準備が整う

第12章   真昼の決闘 “High Noon” 200708
毎年冬にユタ州パークシティで開催されるサンダンス映画祭は、ネットフリックスやブロックバスターがインディー映画制作者と交歓する習わしがある
07年の映画祭でヘイスティングスとアンティオコが会談、ブロックバスターの実店舗とオンラインを組み合わせた「トータルアクセス」というハイブリッド商品が年末商戦で遂にネットフリックスを打倒、ヘイスティングスは負けを認めたうえで、共倒れを回避するためにブロックバスター・オンラインの契約者を丸ごと買い取ることを提案
ブロックバスターは、新規契約者200万人に対して無制限に無料レンタルを認めていることが資金繰りを逼迫させ、ネットフリックスはブロックバスターの捨て身の攻勢の前に新規契約者数の伸び悩みから苦境に陥っている
ウォルマートがハリウッドの映画スタジオ大手の全面支援を受けて、レンタルではなく購入形式のビデオダウンロードサービスを始めようとし、格安を武器にダウンロードサービスで先行するアップルのiTunesとアマゾンのUnBoxを追いかける格好になり、デジタル配信市場はまだ小さいのに早くも群雄割拠状態
ネットフリックスの買収提案を拒否したブロックバスターだが、目標達成を背景にボーナス倍増を要求するアンティオコと株価低迷を理由に反発する取締役会を牛耳るアイカーンが対立、アンティオコは提訴したが、実績を評価しない取締役会に嫌気して退職条件交渉に切り替え、すぐに07年末での退任を公表
実店舗の売り上げが大幅に低下し始め、同業他社も経営が悪化。ムービーギャラリーの株は「ホールド」から「セル」に引き下げ
オンラインレンタルを初体験する消費者は1000万の大台に乗せ、ウォール街の予想より市場規模がずっと大きいことが裏付けられるが、大半はブロックバスターに流れネットフリックスは苦戦していたにもかかわらず、いずれストリーミングが主流になるとみて、携帯や家庭用ゲーム機、DVDプレイヤーなど多様なプラットフォームにソフトウェアを埋め込んでいった。その第1歩となるのがインターネットとテレビを繋ぐセットトップボックスで、08年中の商業化を目指していた

第13章   大脱走 “The Great Escape” 200709
アンティオコの後任にセブン・イレブンの元CEOジム・キーズがスカウト ⇒ 日本のセブン&アイによる総額14億ドルでの完全子会社化に伴う総額64百万ドルのゴールデンパラシュートで退任していた
アンティオコは、元同僚のキーズが後任だと知って、デジタル配信に大きく舵を切らなければいけないタイミングで適切な人事とは思えなかった ⇒ キーズはアンティオコの部下だった時代に敵対心を抱くようになったようで、年央にCEOに就任すると経営戦略を一から見直すと宣言、前任者の痕跡をすべて消し去ろうとしているようだった
実店舗の赤字経営に対し、トータルアクセスによって店舗ビジネスが破壊されつつあると判断したキーズは、歴代のCEOがやって失敗したのを省みず店舗で食品から家電までを扱わせるよう戦略を転換しようとしたため、オンラインレンタルの幹部は揃って持ち株売却に動き、それをキーズが自腹で買い上げていく
オンラインレンタルの扱いでキーズと意見対立したオンラインの幹部はこぞって退社
トータルアクセスの実質終了で、ネットフリックスは08年に入ると再び成長路線に入る
ネットフリックスにとってストリーミングサービス急成長のネックとなるのは、DVD映画ライブラリーにある75千タイトル全てについてストリーミング配信権を獲得しなければならないこと ⇒ 映画スタジオは06年時点で売上全体の41%DVD販売で、その旨味を手放すつもりはなかった
もう一つ見逃せない要素は、高画質の次世代DVD(HD DVDとブルーレイディスク)を巡る規格争いで、争いが決着しても映画鑑賞の手段としてのDVDの寿命は少なくとも数年延びると予想され、ネットフリックスとしてはDVD市場がゆっくりと縮小していくのは何の問題もなかった
08年、ネットフリックスは韓国LGエレクトロニクスと提携し、同社製セットトップボックスにストリーミング専用ソフトを組み込む(商品名:Roku)ことに合意。消費者はこのボックス経由でインターネットから必要な信号を取り込み、自分のテレビ画面上で好きな映画をストリーミング再生できるようになる。画質はケーブルテレビや衛星放送と遜色ない
Roku199ドル。アイスホッケー用パックとほぼ同じ大きさ。用意されたのは12千タイトル。再生開始まで20秒しかかからず、画質もDVD並みと好評
ロスでの世界最大級のゲーム見本市E3の場で、マイクロソフトの最新ゲーム機Xbox360でのネットフリックスのストリーミングサービス提供を発表
RokuXboxの成功をきっかけに、ネットフリックスには次々に提携話が舞い込み、DVDプレイヤー、テレビ、ノートパソコン、携帯情報端末などにネットフリックスのストリーミング専用ソフトがインストールされた状態で販売されるようになる。インターネットに繋がってビデオ再生が可能なデバイスのうち、ネットフリックスに対応したデバイスは3年で200種類以上に達する
コンテンツの面でも進展、ネットフリックスはテレビ局のCBSやディズニーと契約、同社のテレビ番組をネットフリックスで配信できるようにする。有料テレビチャンネルのスターズ・エンターテインメントと3年契約で、映画やテレビ番組、コンサートなど計2500タイトルのストリーミング配信権を獲得
ウォルマートは、08年末に映画のダウンロードサービスを閉鎖。開始から僅か1年未満
ブロックバスターは、家電製品は店舗型ビデオレンタル事業に不可欠として、家電量販店大手サーキット・シティを10億ドルで買収提案したが、挫折するとビデオストリーミングに目を向け始める。既に映画スタジオ大手の共同出資会社で映画ダウンロードサービスの「ムービーリンク」を6.6百万ドルで買収、豊富なコンテンツが強味
ネットフリックスに遅れること1年、08年末にはブロックバスターもセットトップボックス事業への参入を発表
08年秋のリーマンショックで、節約に走って自宅に籠る消費者がネットフリックスに加入して格安のエンターテインメントを楽しむ動きである「コラボ消費」の波に乗って快走、映画をストリーミングできるデバイスの種類の広がりにも乗って、ネットフリックスのアプリが雨後の筍のように増殖、09年初前後の新規申込件数は11万件前後に達し、契約者ベースは1000万人を突破。12年までに2000万という数字すら出てきた

第14章   勇気ある追跡 “True Grit” 2009~10
08年秋のリーマンショックはブロックバスターの新店舗戦略を直撃。実店舗の総合エンターテインメント施設化を目指したキーズの戦略は完全に世界の趨勢と逆行
08年、全世界で見てデジタルメディアの売上高が900億ドルに達し、映画とホームビデオの合計831億ドルを初めて上回る
キーズは09年に入るとブロックバスターブランドの使用権を情報システム大手のNCRに与え、NCRを通じて自社ブランドのビデオダウンロード用キオスクを各地のスーパーやコンビニに配置しようとしたが、キオスクではレッドボックスが既に2万か所を超える設置を完了しており、時代遅れなのは明らか
ブロックバスターの店舗売上は急降下し、09年に入ると経営再建策の協議に入る
年末商戦で、ハリウッドの映画スタジオはコンテンツの販売や配信のタイミングを流通チャネルごとに「ウィンドウ」と称して規制、ネットフリックスなどのビデオレンタル業者に対してはレンタル用DVDを購入できるのはDVDのリリースから28日後としていたため、規制を厳守してくれれば、ブロックバスターのようにDVD販売も手掛けていればウィンドウ規制にかからずに新作ビデオを提供できるので有利だったが、規制は厳守されず、ネットフリックスなどは大規模小売店のウォルマートなどに駆け込んで最新のDVD映画を格安価格で仕入れていた
キオスクでも出遅れたブロックバスターは09年決算で巨額の赤字を計上、アイカーンは全株式を売却し取締役を辞任。株価は1ドルを下回り、NYSEの上場廃止基準に抵触
レッドボックスは、ロウがネットフリックスを辞めた後、外食のマックが03年試験的に始めた新規事業のコンサルタントを引き受けて立ち上げた会社。事業はDVDレンタル自販機「ティックトックDVDショップ」と巨大コンビニ自販機「ティックトック・イージーショップ」で、後者は間口6m・奥行き3m・高さ3mの箱で食料品から洗剤まで何でも取り扱ったが顧客の関心を集めたのは最初だけ。前者は外観が真っ赤にペイントされ「レッドボックス」と呼ばれて広まったが、05年マックがキオスクからの撤退を決定、代わりの出資者として自販機メーカーのコインスターが出資、最終的にはマックの株も引き受け完全子会社に。低所得者層に受けて徐々に拡大、07年までにブロックバスターの店舗数を上回るまでに広がるが、人気の新作映画が全レンタルの100%を占めていたため、映画スタジオによるウィンドウ規制が障碍となっていた
ネットフリックスでは、ストリーミングへのシフトが急ピッチで進む ⇒ サービス開始から18か月で、サブスク契約者の半分がストリーミングサービス利用者
ケーブルテレビと衛星放送、通信会社の3勢力と渡り合いながらインターネットテレビとしての機能を果たそうとする ⇒ 先行3者では事前に決められた放映スケジュールを消費者に押し付けるやり方だったが、インターネットテレビであれば、好きなチャンネルだけ視聴可能になる。ケーブルテレビが複数のチャンネルをパッケージにしてまとめて提供する「バンドル」は音楽でいえばアルバムに相当し、iTunes経由であればアルバムをバラバラにして好きな曲だけ購入することが可能になるのと同じように、ネットフリックス経由であれば、好きな映画やテレビ番組だけ視聴できる
ネットフリックスにとっては、ストリーミング用コンテンツの拡充が必須で、そのためにはスピーディーかつ大胆な行動が必要で、まずは人気テレビ番組を選別して個別に獲得に走る。伝統的配給システムの枠外に置かれた立場を活用し、ストリーミング配信権を格安で獲得できた ⇒ プレミアムケーブルチャンネルのスターズとライセンス契約を締結、破格の25百万ドルで2年間の映画配信権を獲得するほか、映画スタジオ大手3社パラマウントとライオンズゲート、MGMが共同で設立したエピックスと10億ドルで5年間のライセンス契約を締結、3社の膨大な映像コンテンツが最新作も含めてネットフリックス上で見放題となる
10億ドルの契約料のインパクトは大きく、映画業界関係者が一斉にストリーミングの世界に目を向け始める
ネットフリックスはトロイの木馬 ⇒ 地方のケーブルテレビ局より小さな存在を見くびっていたら2年で様変わりし、契約者数でケーブルテレビ業界最大手のコムキャストに匹敵する規模に成長。さらに景気悪化で有料テレビ契約者数が減少してくると、消費者はネットフリックスなどインターネット経由で映画やドラマを見るようになった
ネットフリックス警戒論の高まりとともにライセンス料も跳ね上がり、数億ドルが当たり前となったうえに、DVD販売への悪影響を懸念する映画スタジオ各社はストリーミング配信に制限を加え、視聴可能な契約者数に上限を設け、上限に達するとネットフリックスの映画ライブラリーから唐突に人気作品を削除
ウォール街は、コンテンツのコスト上昇と同時に、アマゾンやグーグルのデジタル配信市場への参入で、ネットフリックスはコンテンツを流通させるパイプの1つに過ぎないとしてその先行きに懸念を示し始める
ネットフリックスはそれでも急成長 ⇒ ストリーミング配信の6割を占め、ゴールデンタイムのアメリカ全体のブロードバンド回線トラフィックの20%を消費していた
映画スタジオ大手を傘下に持つタイムワーナーは、あからさまにネットフリックスを見下し、「アルバニア軍が世界を制覇することなどあり得ない」と公言
ブロードバンド回線を握るインターネットサービスプロバイダ―ISPがネットフリックス対策に乗り出し、データ使用料に上限を設け、データ使用料1GBごとに課金する方針を示す ⇒ 最初に手を打ったのはNBCユニバーサルを買収中だったケーブルテレビ最大手コムキャストで、ネットフリックスの契約先通信業者レベル3コミュニケーションズに対して追加料金を課したのは、ネットフリックスのストリーミング配信によってデータ量が急増し、レベル3経由でコムキャストのブロードバンド回線に負担がかかっていたから
ネットフリックスはコムキャストの対応に対し全面対決を決め、ヘイスティングスは消費者団体を動員して、ISPはインターネット上のデータを公平に扱わなければならないという「ネット中立性」を主張して連邦政府に圧力をかける ⇒ 10年後半には連邦通信委員会FCCが新ルールを導入、ISPに対して特定のコンテンツやアプリをブロックしないよう求めたため、ネット中立性の旗振り役だったヘイスティングスはフォーチュン誌の「Business Person of the Year」に選ばれ同誌の表紙を飾る。それまで保守的なビジネス誌のフォーチュンが、ネットフリックスのような若いハイテク企業のCEOを特殊したことなどなかったのに、特集を組んで「シリコンバレー起業家の新世代を率いるグル」として紹介
ヘイスティングスが個人的に採用した経営チーム(マッカーシー初代CFO、ディロン(フルフィルメント・物流業務担当、マッコードの元同僚)、マッコード(女性、人事担当)、ハント、キルゴア(女性、マーケティング担当)、ロス)は結束が強く、投資家にとって、同社がブロックバスターとの長くて苦しい戦いの中で荒波から守る錨の役割を果たしていたが、勝ち組になると経営チームはバラバラになって縄張り意識を強め、ヘイスティングスは環境変化に対して以前より鈍くなり、批判に対しては以前より頑固になる。失敗の責任を部下が取らされる風潮が強まり、説得よりも威嚇による経営が横行、不作為の経営リスクも高まる
06年トム・ディロンが退社、次いで今回の広報担当ケン・ロス、さらに経営チームの年俸交渉シーズンが始まるとマッカーシーまでが退社を決意
経営幹部に昇進するためには「与しやすい」は重要な要素になり、社内の多くがヘイスティングスは表紙に載ってから変わってしまった。自分の意見を押し通し、異なる意見を受け付けなくなる。幹部の退社でリアリティチェック(現実を直視すること)が働かなくなり、ネットフリックスCEOは「エコーチェンバー(自分と同意見を持つ人のみが集まる閉じた空間)」の中に籠るようになる

第15章   ニュー・シネマ・パラダイス “Nuovo Cinema Paradiso” 2011
ブロックバスターが倒産したことで、同社のカナダ事業も共倒れとなり、ヘイスティングスは6年前に断念したグローバル展開を復活させ、カナダでストリーミングのみのサービスを開始すると公表。英語以外にポルトガル語とスペイン語のサービスも開始して中南米を中心に43カ国へ進出
国内では、不況の最中に値上げしてソーシャルメディアで叩かれ、株価も急落、解約が100万に上る ⇒ 郵便DVDレンタル事業のスピンオフを決断するが、契約者の意向や手間暇を無視したやり方に批判が殺到
株価が305ドルの最高値から65ドルに急落したのを受け、分離計画を断念
顧客にとってネットフリックスとは、近所にある昔ながらのビデオレンタル店では店員が顧客の好みをなんでも知っていて、顧客が見たいと思う映画はいつも在庫にある、オンラインレンタルの世界で同じような存在になっていた。単なるDVD宅配便ではなく、見たい映画を見つける最高の手段、自分の好みについての秘密を共有する友人、会うたびにもっと秘密を共有してますます信頼関係を深める永遠のパートナーだ

エピローグ 2012
ネットフリックスはアメリカ郵政公社USPSの最大の顧客で、赤い封筒専用のプラスチック箱が用意され特別扱いを受けている
契約者数では、ケーブルテレビ最大手コムキャストを上回る
夕方から夜にかけてアメリカ全体のインターネット帯域の35%を占める
映画、テレビ番組のデジタル配信市場では、iTunes(シェア32%)を抜いて業界トップ44%
今や世界最大のサブスクリプション型映画配信サービス
契約者は、「ネットフリックスは信頼できる家族の一員と同じ」と思い込むようになった
顧客の声に熱心に耳を傾け、顧客とともに完璧なユーザーインターフェースを構築
消費者の映画鑑賞の習慣を変え、年商50億ドル企業に発展、DVDライブラリーは20万タイトル。ストリーイングも4.5万タイトルに。再生できるデバイスは700種以上
インターネット上に巨大な映像ライブラリーを築き、そこから顧客のデバイスまでコンテンツを届けるという信念を貫いた結果
複数のチャンネルをパッケージ化したバンドルを押し付け、事実上のカルテルで独占的利益を得てきたケーブルテレビ業界が、ネットフリックスを起点にした消費者の反乱に見舞われるのは必至




GAFA 誰も無視できない 「個人の自由」確保が課題  昭和女子大学教授 湯川抗
日本経済新聞 朝刊 2019119
グーグルやアップルなど、世界規模でプラットフォームビジネスを展開し、様々なデータを収集する「GAFA」にはその影響力の大きさから様々な懸念が示されている。しかし、電子商取引やソーシャルメディアを通じた情報取集・発信が当たり前になった現在、GAFA同様の影響力をもちつつある企業は他にも生まれている。
巨大データ活用
その一つは、今や世界最大のエンターテインメント企業とも評されるネットフリックスだろう。『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』(牧野洋訳、新潮社・2019年)の著者、ジーナ・キーティングは、1990年代後半から2011年の間の同社の成長物語を緻密なインタビューを基に描いている。同社の成功は、データを活用することで、ユーザーの好みや行動は驚くほどの精度で予測可能だと証明した結果である。
著者は、創業当初から、同社がいかにデータやアルゴリズムを駆使して、ライバルを破綻に追い込み、アマゾンの脅威を跳ね返し、エンターテインメント業界を再編しつつあるのかを、経営チームの規律を中心に描いている。
また、田中道昭の著書『GAFA×BATH』(日本経済新聞出版社・19年)では、GAFAと同等の影響力をもちつつある、BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)の4社の中国企業をそれぞれGAFA各社と比較し、様々な観点から分析している。これら8社の共通点は、プラットフォーム思考と、「ビッグデータ×AI」思考である。各社共に、創業者のビジョンを重視することでカスタマーエクスペリエンスを向上させ、競争優位性を高めてきた。一方で、これらの企業が巨大になりすぎたことから、新たなシステミックリスクの可能性を指摘する。
GAFAの発展は企業のマネジメント以外にも、大きな環境変化が起こっているためであろう。高木聡一郎の著書『デフレーミング戦略』(翔泳社・19年)では、パッケージ化されていた商品やサービス等の要素を分解、再編成して、ユーザーニーズに応えることを「デフレーミング」と定義する。ユーザーへの提供価値を個別にカスタマイズしても、一度ソフトウェアで仕組みを実現すれば、追加コストは不要になる。多くのユーザーを惹(ひ)きつけるほどデータが集まり、それをAIの学習データとすることで更なるカスタマイゼーションが可能になる。クラウドコンピューティングの時代にGAFAはこうしてユーザーを増加させてきた。一方で、データの特定企業への集中によって競争優位が長期的に固定化することが懸念される。
ソーシャルメディアの発展を自然界の生物に見られるパターンになぞって考察した、オリバー・ラケットとマイケル・ケーシーの共著『ソーシャルメディアの生態系』(森内薫訳、東洋経済新報社・19年)は、プラットフォームの成功は有機的にネットワークを成長させられるかに左右されると指摘する。ソーシャルオーガニズムともいえるこの生物の健康を保つにはユーザーのプライバシーを含む国民の自由の保障が重要になる。
透明な枠組みを
国家の人口を超えるアカウントを管理するGAFAには分割論もある。しかし、既にGAFAに並ぶ企業が生まれ、今後も生まれる可能性を考えると、重要なのは国家や企業が個人データの扱いに関する透明で公正な枠組みを整備することだろう。個人データの保護は、個人にとっても、それを活用することで影響力を強めてきた巨大IT企業が繁栄するためにも重要なことである。
当時グーグルの会長だったエリック・シュミットらが著した『第五の権力』(櫻井祐子訳、ダイヤモンド社・14年)は、オンラインで繋がった個人が、立法、司法、行政、報道機関と並ぶ権力を手にしていると論じた。これはGAFAが切り拓いた世界ともいえる。これらの巨大IT企業には、今後は自らが与えた権力を獲得した個人が自由に活動できる世界をさらに広げることが求められている。


(書評)『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』 ジーナ・キーティング〈著〉
20198240500分 朝日
 映像メディアの世界で巨大な存在になったネットフリックスフェイスブックグーグルと並び、FANGと呼ばれるIT大手の一角を占める。その黎明期を描いたのが本書である。
 最近では潤沢な資金を背景に、作り込んだコンテンツを投入することで知られるネットフリックスだが、出発点はDVDの郵送レンタル。全米に店舗網を持つレンタルビデオチェーンと繰り広げた激闘を軸に、驚くほど泥臭い生き残りのための競争が、具体的エピソード満載で描き出される。
 武器の一つは、視聴履歴から次に薦める作品を選び出すアルゴリズムへの注力だった。データを牛耳ることによる覇権は、他の巨大IT企業と共通する。ネット配信の時代を見通し、業態を切り替えたのも果断だった。新たな競争に勝つために乗り出したコンテンツへの投資が今につながる。
 原著は7年前の刊行だが、日本ではあまり知られていない“原点”だけに、いま読んで興味深い。
 石川尚文(本社論説委員)
    *
 『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』 ジーナ・キーティング〈著〉 牧野洋訳 新潮社 1944円


勝ち続けるネットフリックス 個性の対立が磨く経営力『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』
2019/9/12  日経 ひらめきブックレビュー
話題になった映画を自宅で見たいと思ったとき、テレビで放映されるのを待ち切れない人は、かつてはDVDレンタルの店に出かけ、借りてきて楽しむのが一般的だった。しかし、わざわざ行ったのにお目当ての作品がレンタル中で、すごすごと帰る羽目になることも。決められた期限までに再び店におもむき、返却しなければいけないのも面倒だった。しかも遅れれば延滞料金を取られる。
今なら、そんな煩わしさは味わわなくてもいい。VOD(ビデオ・オン・デマンド)方式の動画配信サービスのおかげで、自宅から一歩も出ずに見たい映画を楽しめる。群雄割拠の定額制動画配信サービスの中でも近年、急速に日本でもシェアを伸ばしているのがネットフリックス(NETFLIX)だ。
本書『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』(牧野洋 訳)は、ネットフリックスによる創業からの波瀾万丈の物語を描くノンフィクションだ。同社は1997年に米国で創業し郵送による「延滞料金なし」のオンラインDVDレンタル事業をスタート。今ではオリジナル映画製作も手がけ、190カ国以上で15100万人もの有料会員を抱える(2019年第2四半期)、世界最大級のエンターテインメント企業の一つとなった。
著者のジーナ・キーティング氏は、米国UPI通信、英国ロイター通信などの記者として経験を積んだフリーランスの経済ジャーナリスト。本書の原書は2012年に出版されたものだが、本書では、その後2018年までの状況を「日本語版特別寄稿」として追記している。
精緻なレコメンドエンジンが強みに
ネットフリックスの創業者は、リード・ヘイスティングス氏(現CEO)とマーク・ランドルフ氏。2人ともすでに起業家として、起業を志す若手の間で「天才」とあがめられていたという。
ランドルフ氏の「(アマゾンのように)インターネット上で何かを売りたい」という思いつきに、ヘイスティングス氏が賛同したことから始まったネットフリックスだが、2人の共同創業者の性格や思考の方向性は、正反対だったという。
マーケティングの専門家だったランドルフ氏はフレンドリーな性格で、「消費者との感情的なつながり」を重視した。一方のヘイスティングス氏は理性を重んじ数学に魅了されていた。冷徹で頑固な性格の彼は、人間行動を数理的に分析することに熱中した。
この2人が一緒につくったネットフリックスは、使いやすいユーザーフレンドリーなウェブサイトのインターフェースとともに、ユーザーの視聴行動の精緻な分析によるレコメンドエンジンなど数々の「強み」を手に入れることができた。
2人の共同創業者をはじめ、彼らに協力する多くの人々は、対立や葛藤を乗り越え、外部環境に振り回されながら、いかに世界有数の「コンテンツ帝国」を構築できたのか。ぜひ本書で確かめてみてほしい。
今回の評者=吉川清史
情報工場SERENDIP編集部チーフエディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」の選書、コンテンツ制作・編集に携わる。大学受験雑誌・書籍の編集者、高等教育専門誌編集長などを経て2007年から現職。東京都出身。早大卒。


「あなたの番です」 番外編が促す暇つぶし争奪戦
2019/7/25 11:30 日本経済新聞
日本テレビ系のドラマ「あなたの番です」には驚いた。まさか主人公が死んでしまう展開とは。企画したのは作詞家にして作家の秋元康プロデューサー。予定調和を嫌い、いい意味で期待を裏切る秋元氏ならではの芸当だ。
Huluの日本事業を営むHJホールディングスの於保浩之社長は「どれだけ視聴者の日常に入り込めるかが勝負」と話す
さてそんなドラマの番外編を意味するスピンオフ作品を数多く放映し、会員数を200万に伸ばしたのがHulu(フールー)の日本事業を営むHJホールディングス。スピンオフドラマ自体は珍しくないが、おおむね一定の人気があることが制作条件だった。
Huluが面白いのはドラマの放映と同時にスピンオフも流すことだ。「あなたの番です」だけでなく、大人気となった「今日から俺は!!」もそう。番外編でドラマの広がり、深さを紡ぎ出し、コアファンを獲得するのが狙いだ。
スピンオフはマンガでも増えている。格闘マンガ「バキ」、ヤンキーマンガ「クローズ」「WORST」などはスピンオフ作品だけで10巻を超える人気作品も。主人公よりキャラが立つ脇役の人気は今に始まったわけではないが、主役の座を奪うような脇役の魅力がないと読者に刺さらない。
往年のヒット作品をスピンオフにして話題になったケースもある。ドラマにもなった「金田一少年の事件簿」は犯人側からの視点で描いた作品が出ている。ウルトラマンをテーマとしたスマートフォンゲームで、主役を怪獣にしたコンテンツも登場している。情報過剰の今は新作よりなじみのあるブランドを活用した方が投資効率もいい。
それにしても表と裏でコンテンツ量は膨張するばかりだ。ユーチューブのスーザン・ウォジスキ最高経営責任者(CEO)は「毎分500時間の動画が投稿されている」と話す。HJホールディングスの於保浩之社長は「ネットフリックスのドラマも面白いし、どれだけ視聴者の日常に入り込めるかが勝負。時間の奪い合いが激しくなる」と話す。
NETFLIX コンテンツ帝国の野望」(新潮社)でネットフリックスのリード・ヘイスティングスCEOは「死ぬほど見たい映画やドラマがあったらどうしますか?夜更かしするしかないでしょう。つまり競争相手は睡眠」と語っているくだりがある。膨大な情報があふれ出る今、まさに時間の効果的な使い方、習慣作りが消費ビジネスの生命線になる。
こうしたニーズを反映し、旭化成ホームプロダクツや永谷園、マルコメなどが「ゆとりうむプロジェクト」なる企業連携を発足していた。これからは時短ではなく、時間を作る「時産」が必要との問題意識だ。内容は今のところ、「下味冷凍」など料理方法の提案にとどまるが、あらゆる分野に広がりそうだ。
時産だけでなく、消費者にとって最も満足度が高まるコンテンツやサービスを探し出すサービスが登場するかもしれない。暇つぶしを巡る高度な戦い。「これこそあなたの"番外編"です」と人工知能(AI)が教えてくれるのかも。
中村直文(なかむら・なおふみ) 1989年日本経済新聞社入社。産業部、流通経済部で百貨店・スーパー・食品メーカーなどを担当。日経MJ編集長などを経て20184月から経済解説部編集委員。専門分野は流通・個人消費など。


Wikipedia
Netflix(ネットフリックス、NASDAQNFLX)は、アメリカ合衆国オンラインDVDレンタル及び映像ストリーミング配信事業会社。アメリカ合衆国の主要なIT企業で、FAANGの一つである。201712月の時点で190ヵ国以上で配信事業を展開し、2018年の売上は157億ドル(1.57兆円)、契約者数は世界で12500万人。
本社はカリフォルニア州ロスガトスに置かれている。10万種類、延べ4200万枚のDVDを保有し、レンタル向けに1,600万人の顧客を得ている。また、ストリーミング配信では既存のコンテンツに加え、独占配信やオリジナル作品も扱っている。
l  歴史[編集]
創業期:1997年~1999[編集]
Netflix1997829、現CEOリード・ヘイスティングス英語版)と、ソフトウェア会社の役員だったマーク・ランドルフ英語版)によって、カリフォルニア州スコッツバレーにて設立された。創業時の資本金は250万ドルで、初代CEOにはランドルフが就任した。
オンラインでのDVDレンタルサービスを事業とすることを思いついたのはヘイスティングスで、かつて彼が『アポロ13』のビデオテープをレンタルした際、返却期限に間に合わず40ドルの延滞料金を支払った経験がきっかけとなっている。
1998Netflixはわずか30名の従業員と共に、ウェブサイトによるDVDレンタルサービスを世界で初めて開始。当初扱っていた作品数は925タイトルで、1週間レンタルにつき4ドル、送料・手数料として2ドル(追加でレンタルする場合はさらに1ドル)を支払う仕組みになっていたが、19999月、定額制のレンタルサービス「マーキー・プログラム」を開始。月額15ドルでDVDを本数制限なしにレンタルできるこのサービスは、延滞料金、送料・手数料が全て無料という当時としては画期的なアイデアだった。
以降、ウォルマートなどのライバル企業が同様のサービスで参入したが[注釈 1]2012キオスク型でのレンタル事業を展開するレッドボックス英語版)に明け渡すまで、DVDレンタル業界1位の座を守り抜いていた。この年には本社を、現所在地のロスガトスに移している。
成長期:2000年~2005[編集]
2000Netflixは会員の評価に基づき、各会員にお勧めの作品を提示する「レコメンド機能」を導入。同年にはレンタルビデオ店チェーンのブロックバスターに、5000万ドルで自社を売却するという旨の申し出を行っているが、ブロックバスター側が断ったことにより、買収はされなかった。この時期、Netflixはアメリカ国内に60万人の会員を抱えるまでに成長しており、2002年には新規株式を公開してNASDAQに上場。普通株式550万株を15ドルで売却し、さらに追加で825千株を同額で売却した。
2003度の会計では、売上高27200万ドル、純利益650万ドルを計上しているが、2004に取締役員を務めていたランドルフが職を退き、会社を去った。
2005には会員数が420万人を突破。扱う作品数も35千タイトルにまで増え、毎日100万枚ものDVDNetflixを通じてレンタルされるようになった。
変革期:2007年~2014[編集]
20071月、Netflixは自社のコアビジネスを、それまでのDVDレンタルサービスからビデオ・オン・デマンド方式によるストリーミング配信サービスに移行。2008から2010にかけては、大手メーカーと提携し、ゲーム機(Xbox 360プレイステーション3Wii)ブルーレイディスクプレーヤー、インターネット接続テレビ、アップル製品(iPhoneiPadなど)およびその他デバイスでの配信に対応していった。
しかし20119月、Netflixは自社のサービスからDVDレンタルサービスを独立させ、「クイックスター」(Qwikster)というブランド名で提供することを発表。DVDだけでなく、Xbox 360Wii、プレイステーション3専用のゲームタイトルもレンタル可能にする予定だったが、利用者からは同社がストリーミング配信サービスと合わせてそれぞれ7ドル値上げしたことについて不満の声が上がり、第3四半期には約80万人もの会員がサービスを解約。さらに「クイックスター」という名前自体が、既にTwitterの個人アカウント名として使われていることが判明。翌月には計画全てを廃止することとなった。
201210月にはエミー賞より、ストリーミング配信を世に広めた功績が讃えられ、同賞の技術開発部門であるプライムタイム・エミー・エンジニアリング賞英語版)を受賞。また、第4四半期にはアメリカ国内でのストリーミング配信サービスの利用者は2,710万人に増え、売上高は94500万ドルとなった。2013、インターネット界のアカデミー賞とも呼ばれるウェビー賞Media Streaming部門 (音声・映像ストリーミングサービス対象) Webby Award (審査員投票) People's Voice Webby Award (一般投票) のダブル受賞を果たした。20144月、Netflixはアメリカでのストリーミング配信市場において32.3%のシェアを獲得。同年6月には企業ロゴのデザインおよびウェブサイトのUIを一新するリブランディングを行い、7月には全世界の会員数が5000万人を突破した。
ストリーミング配信で成功を収める一方、Netflixは既存作品の配信だけでなく、オリジナル作品の製作にも乗り出すようになる。中でも同社が2013に配信を開始したドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』は、ケヴィン・スペイシーロビン・ライトら有名俳優を主演に据え、映画監督のデヴィッド・フィンチャーがシリーズの製作総指揮を務めたほか、製作費として1億ドル(123億円)もの巨額が投じられたことで話題となった。また、従来のテレビ放送のように毎週1話ずつではなく、1クール全話での一挙配信を行ったことにより、アメリカ国内では俗にいう「一気見」をする人が続出、社会現象となった。続いて製作された『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 塀の中の彼女たち』もヒットし、同2作はドキュメンタリー映画『ザ・スクエア』も含めて、プライムタイム・エミー賞31のノミネートを獲得。『ハウス・オブ・カード 野望の階段』は3つのプライムタイム・エミー賞を受賞し、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 塀の中の彼女たち』は2014年に7つのクリエイティブアート・エミー賞を受賞。これにより、映像コンテンツ製作会社としての地位を確立していった。
発展期:2015年~現在[編集]
20152月、Netflix2016年末を目標とするグローバル展開の一環として、日本でのストリーミング配信サービスを開始することを発表。それと同時に日本法人としてNetflix株式会社が設立され、ストリーミングおよびパートナーシップ最高責任者であるグレゴリー・K・ピーターズが同社代表に就任した。6月にはフジテレビとのコンテンツ制作提携を発表し、同局の人気番組『テラスハウス』の新シーズンおよびオリジナル番組『アンダーウェア』の製作・配信を行うとした。8月には大手通信キャリアであるソフトバンクと業務提携を行い、ソフトバンクのユーザーを対象に申込受付から料金請求までを一貫して提供するサービスを開始。9月に、日本でのストリーミング配信サービスが開始された。
20161月には、国際家電見本市コンシューマー・エレクトロニクス・ショーにおいて、新たに130か国以上の国での展開を行い、全世界にストリーミング配信サービスを提供すると発表。同年末には、会員がオフラインで選択した動画をダウンロードして視聴できる機能が追加された。
20177月、同年度の第2四半期決算の発表と共に、全世界の会員数が1億人を突破したことを発表。8月にはアメコミ原作者であるマーク・ミラーが代表を務める大手漫画出版社ミラーワールド英語版)を買収した。
オリジナル作品においては、20152月に行われた87回アカデミー賞において、俳優のレオナルド・ディカプリが製作総指揮を務めたドキュメンタリー作品『ヴィルンガ』(オーランド・ヴォン・アインシーデル英語版)監督)が長編ドキュメンタリー賞にノミネート。同年10月に配信されたNetflix初のドラマ映画『ビースト・オブ・ノー・ネーション(キャリー・フクナガ監督)は、同作に出演したアブラハム・アター英語版)とイドリス・エルバが、英国アカデミー賞ゴールデン・グローブ賞ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞での男優賞や、ヴェネツィア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞など、数多くの栄誉ある賞を受賞またはノミネートを獲得した。
20172月には『ホワイト・ヘルメット -シリアの民間防衛隊-(アインシーデル監督)89回アカデミー賞において短編ドキュメンタリー賞を受賞。『13th -憲法修正第13-(エイヴァ・デュヴァーネイ監督)が長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた。同年5月には『オクジャ/okja(ポン・ジュノ監督)、『マイヤーウィッツ家の人々 (改訂版)(ノア・バームバック監督)70回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に、ウェブ配信の作品としては初めて出品されたものの、フランスでの劇場公開が確約されなかったことによる現地興行界からの反発や、審査員長を務めた映画監督のペドロ・アルモドバルが記者の質問に対する形で「個人的には、劇場公開される予定のない映画は、最高賞パルム・ドールのみならず、他のどんな賞を受賞するべきではないと考える」との発言をするなど、大きな波紋を呼んだ(アルモドバルはのちに自らの発言を撤回し、公正な審査を行うと宣言してポン監督に謝罪をしたという。)
また、20178月に東京国際フォーラムで開かれたイベント「Netflixアニメスレート 2017」では、自社のアニメ作品への取り組みを紹介。プレゼンでは50社以上のスタジオと制作を進めている他、オリジナルも含む日本発のアニメ作品を2018に配信していくことを発表した。
20201月、201912月末時点での世界全体の有料会員数が同年9月末時点より約876万人増の16709万人になった事が明らかになった。
2020120日、Netflixスタジオジブリ21作品[注釈 2]の配信権を獲得。北米(アメリカ・カナダ)[注釈 3]と日本を除く世界190カ国で2月から4月にかけて順次配信すると発表した。
l  ロゴ[編集]
旧デザイン(2000年~2014)
 現行デザイン(2014年~)
l  各国での運営[編集]
20161月現在の提供地域: 茶提供中、黒: 現時点で提供予定なし
アメリカ以外では5国にオフィスを置き、中華人民共和国シリアクリミア北朝鮮を除く世界190以上の国で配信サービスを行っている。ただし、中華人民共和国ではiQIYIにオリジナル作品のライセンス提供を行っている。
カナダ[編集]
2010年より、ストリーミングのみのサービスを開始[81]した。
中南米[編集]
2011には、カリブ海地域、メキシコ中南米でもストリーミングサービスを開始。
日本[編集]
Netflix株式会社 2015年設立 非上場
上記の通り、201591夜からストリーミングのみのサービスが開始された(4Kコンテンツも同日配信開始)。同年以降に発売される一部のテレビはNetflix対応となり、リモコンには専用ボタンが設けられた(後述)。配信される作品はフジテレビとの共同製作による『テラスハウス』の新シーズンや『アンダーウェア』『火花』といった日本オリジナルの作品がラインアップされた。
サービス開始告知には、Netflixが制作会社と直接契約し、海外での独占配信権を取得しているアニメ『シドニアの騎士』の本編映像を使った動画が配信された。
また2016年には日本放送協会NHK)と『ドラマ 東京裁判』でパートナーシップを結んだ。
2018823日、日本進出後の3年間で初めてとなる値上げを発表した。但し、この時点ではiTunes Store経由でNetflixを契約しているユーザーに関しては値上げの対象外だったが、20196月下旬から順次、該当ユーザーに関しても値上げを行っていく事をメールにて通知した。
201891日、ドキュメンタリー番組「ダークツーリスト」にて福島県を取り上げたが、一般の食堂で出された料理に「被曝食材かもしれない」とコメントし、場所も示さないままツアーを断念せざるを得ない高い放射線を検出した、などの内容での放送だった。これらはネット上や海外メディアでも取り上げられため、福島県と復興庁が風評被害を煽るかのような表現に対応するため検討[何の?]を始めた、と報道された。
201996日、Netflixの日本法人は同日の記者説明会にてこれまで非公開だった日本国内での会員数を初めて一般向けに公表。競合サービスでもあるHulu20193月の時点で202万人)や有料衛星放送のWOWOW201910月の時点で286万人)を上回る約300万人の会員を獲得。更に20189月からの1年間で会員数が約130万人増加していることを明らかにした。
Netflix日本法人では公式ツイッターアカウントが『#ネトフリ』ハッシュタグを用いている。
ヨーロッパ[編集]
2012よりイギリスアイルランドノルウェーデンマークスウェーデンィンランドでストリーミングのみのサービスを開始。2013にはオランダでも開始。
l  オンラインDVDレンタル[編集]
パソコンで手続きできる。ウェブ上からQUEUE(キュー)と呼ばれるレンタル希望一覧リストに登録すると、指定した宛先にDVDが配送されるシステムになっている。キューには借りたい作品を200タイトルまで登録しておき、レンタル可能な作品のうち、リスト上位にある作品が配送されるのが一般的である。
DVD不織布のカバーに入って紙の封筒で届くため、破損することもあるが、その場合は送り返すだけで弁償する必要はない。返却はポストに投函することになる。
映像ストリーミングサービス[編集]
"Watch Instantly(ウォッチインスタントリー)"の名称で始まった映像ストリーミングサービスでは、DVDを借りることなく映画やテレビ番組、アニメ作品などを鑑賞できる、パソコンや家庭用ゲーム機、スマートテレビ、ブルーレイプレーヤー等を使ったインターネット経由のビデオ・オン・デマンドサービスである。ただし、DVDレンタル事業が終了したわけではなく、2011年には同社から双方の事業を将来も併存していくことが発表されている。
オンデマンドでテレビ番組を見る際、エピソードを毎回選び直す必要はなく、任意のシーズンBox内で前回鑑賞し終えたエピソードの次の回がデフォルトで表示される。
また、"Friends"という機能では、登録した友人が現在何のDVDを保持しているのか、またどの映画をキューに入れているのか、鑑賞した映画にどのような点数を付けたのかまでわかる仕組みになっている。
l  日本での映像ストリーミングサービス[編集]
日本への参入では、Netflix"対応するテレビのリモコンに専用ボタンを設けるように"という規定を設けており、2015年から東芝パナソニックなどの一部機種が対応した。また電源がオフでも、専用ボタンを押すとテレビが起動するようにもNetflixにより定められている。一部のコンテンツは4Kでも配信されており、同様の配信サービスである「ひかりTV 4K」や「4Kアクトビラ」、CS放送の「スカパー!4K」と同じ、H.265HEVCエンコードされる。また、他国でのサービスと同様に、パソコン(Windows 8.1Windows 10)、スマートフォン・タブレット(iOSAndroidWindows Phone)、ゲーム機(PS3PS4Xbox 360Xbox OneWii U)、メディアプレーヤー(Apple TV (3世代以降)ChromecastAndroid TVFire TVFire TV Stick)Netflix対応BDプレーヤー(2015年以降発売の対応製品)等でも視聴ができる。
l  レコメンド機能[編集]
革新的レコメンド機能を搭載し、個人視聴履歴だけでなく、6500万人以上の会員を抱えるNetflixオリジナルのアルゴリズムを活用することで、世界各国ではユーザーの75%がレコメンド結果から視聴している。
l  主な配信作品[編集]
配信作品の分類と定義[編集]
配信作品のラインアップはサービスを行う国・地域によって異なるが、以下のように分類される。
Netflixオリジナル作品
Netflix製作作品[注釈 4]
Netflix単独で製作発注 あるいは 他社が製作発注した作品の全世界の独占配信権をNetflixが獲得[注釈 5]
Netflixと他社の共同製作発注[注釈 6]
他社製作作品の続編をNetflixが製作発注[注釈 6]
他社製作作品をNetflixが一部の国で独占配信 (ライセンス取得)[注釈 7]
Netflixオリジナル以外の作品
複数シーズン/シリーズに渡る作品の場合、シーズン/シリーズ毎にNetflixでの配信が契約される [注釈 8]
l  Netflixオリジナル作品の国・地域ごとの配信の仕組み[編集]
Netflixオリジナル作品は全世界的に配信されることが多いが、以下の理由により特定の国・地域に限定されることがある。
Netflixが進出していない一部の国・地域において、Netflixが製作した作品のライセンスを他社に販売することがある[注釈 9]
他社作品を独占的に配信する場合、全ての国・地域ではライセンスを取得できず、一部の国・地域では他社が取得することがある[注釈 10]
作品の言語・内容が特殊なため、オリジナルとしての配信を一部地域に限定することがある[注釈 11]
日本で製作されたNetflixオリジナル作品の配信ライセンスには、以下のようなパターンが存在する。
日本を含む全世界でオリジナルとして独占配信 (BLAME!)
日本ではテレビ放送に先駆けてオリジナルとして独占先行配信し、全世界でもオリジナルとして独占配信(『アンダーウェア』)
日本では非オリジナルとして配信し、日本国外でオリジナルとして独占配信 (シドニアの騎士)
l  Netflixオリジナル作品の歴史[編集]
20081月時点で、金額ベースでNetflixオリジナル作品の約半数に上る買付・製作をRed Envelope Entertainment英語版 (旧社名: Netflix First) が担当していた。当時のNetflixDVDレンタルサービスが事業の中核を占めており、「Netflixオリジナル作品」はレンタル独占買付の意味合いも強く含まれていた。2008722日、NetflixREE社の閉鎖を発表した。
Netflixが単独で製作発注した初の作品は、2013年公開の政治ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』である。以降、Netflixオリジナル作品の本数は急激に増大し、2016年時点で126本のオリジナルテレビ番組・映画が配信された。この本数は、アメリカ国内のテレビネットワーク局やケーブルテレビ局をも凌駕するものである。
l  Netflixオリジナル作品[編集]
オリジナル作品は映画、TV番組、スタンドアップコメディに分けて以下で説明されている。
オリジナルTV番組の一覧は
オリジナル映画の一覧は
オリジナルスタンドアップコメディの一覧は
l  映画の定義[編集]
Netflixではジャンルとして『映画』(Movies)と『テレビ番組・ドラマ』(TV Shows)を定義しており、ほとんどの作品はそのいずれかである。『映画』のうちNetflixオリジナル作品はアメリカのテレビ業界における『テレビ映画』に対応し、「シリーズではなく一話のみからなる作品」であり、その大部分は劇場公開されず配信のみである。複数話からなる作品はほぼすべて『テレビ番組・ドラマ』となる。
Netflixはオリジナル映画を映画祭に出品することがあり、2017年には、劇場公開映画を対象としてきたカンヌ映画祭で審査対象から除外すべきか議論が起き、2018年からは規則改正によりNetflix作品が事実上追放された[97][98]。また、Netflixのオリジナル映画の中には、テレビ番組を対象とするエミー賞のテレビ映画部門に応募するもの(A Very Murray Christmasなど)もあり、テレビ番組と映画を明確に分ける賞の仕組みを揺るがせている。
プロモーションの一環として、あるいは映画祭や映画賞の審査基準を充たすために、短期間の劇場公開をすることもある。91回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『ROMA/ローマ』はNetflixでの配信の3週間前から限定された劇場のみで公開されてエントリー資格を得たが、その興行収入は製作費の13%程度にしかならなかった。2019年、スティーブン・スピルバーグはアカデミー賞からNetflix映画を除外する運動を起こした。2019年現在アカデミー賞はロサンゼルス郡内で最低一つの商業劇場が13回以上の上映を7日間行っただけでエントリー資格が得られ、上映初日以降は配信してもその資格は失われない。大手の映画館チェーンは映画の劇場公開から90日以内でネット配信される作品の上映をボイコットしており、スピルバーグはアカデミー賞のエントリー資格もこれに沿うことを求めた。劇場上映開始後3週間程度で配信された『ROMA/ローマ』のような作品は、プライムタイム・エミー賞のテレビ映画部門で扱うべきだと発言した。だが2019423日、アカデミー賞委員会はこのようなNetflixに不利な規定変更は行わないと決定した。
外部会社が劇場公開をめざして映画を製作したのちに、Netflixが全世界あるいは一部の国での独占配信権を購入し、Netflixオリジナル映画として独占配信する場合も多い。この場合、独占配信権を獲得していない国では劇場公開される場合もある。日本の漫画作品を原作としたBLAME!Netflixオリジナル映画であるが、アニメのファンを増やしていきたいNetflixの意向もあり、プロモーションを兼ねて日本国内のみNetflixの配信開始日から期間限定で劇場公開された。
l  脚注[編集]
l  注釈[編集]
1.    ^ 日本では2000年にDMM.comが定額制DVDレンタルという名称で開始している。
2.    ^ 火垂るの墓』はスタジオジブリが原作の出版権を保有していないため、除外。
3.    ^ 北米地域は競合サービスで20205月から開始予定の「HBOマックス」(ワーナーメディア)が配信権を獲得している。
4.    ^ ネットフリックス「製作」 (「制作」ではない) とは、ネットフリックスがコンテンツ制作会社に作品を発注したことを意味する。
5.    ^ 他社製作作品の全世界独占配信権を獲得した場合はNetflix製作作品だとしても地域による混乱は生じないためにこのように定義する。特に、特に独立系の映画会社が映画作品を制作する場合は、配給のめどがついていない段階で製作し完成したのちに映画祭などで配給権を売却することが多く、Netflixオリジナル映画の約半数(20187月現在)は、他社製作発注の映画の全世界独占配信権を購入したものである。なお、テレビ番組では他社製作作品の全世界独占配信権をNetflixが獲得した例はない
6.    a b 映画ではこの例はない
7.    ^ 第三者が製作発注した作品を対象とし、ネットフリックスが独占的にライセンス取得した作品を指す。対象の国・地域内では他の放送局・配信事業者が取り扱うことが許されない、ONLY ON NETFLIX (ネットフリックス上でのみ視聴できる) 作品をオリジナル作品として定義している。国・地域によってNetflixオリジナルであったりなかったりする場合の混乱を避けるために、Netflix製作作品とは別に定義している。
8.    ^ 例えば日本のアニメ『冴えない彼女の育てかた』の場合、1期はネットフリックスで配信、2期は他の配信サービスと契約したためネットフリックス未配信となっている。
9.    ^ 例えばドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』はNetflix単独発注で製作されたオリジナル作品だが、公開された2013年当時、Netflixは日本未上陸だったため、他社が放送ライセンスを有していた。その結果、Netflixが日本でサービスを開始した20159月当時、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』は日本のNetflixで視聴できなかった。その後、201634日より当作品はオリジナル作品として日本Netflixでも配信されるようになった。
11. ^ 例えば"Zoe"(邦題:ホンモノの気持ち)は英語圏ではAmazonビデオが独占配信権を取得し、その他日本やベネルクスなどの国ではNetflixが独占配信権を取得している。
12. ^ 例えばNetflixオリジナル製作作品でも20192月現在スペイン語の2作品は日本で公開されておらず、またアニメ作品は9作品が日本で公開されていない



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