「安倍晋三」大研究  望月衣塑子  2020.2.1.


2020.2.1. 「安倍晋三」大研究

著者 
望月衣塑子(いそこ) 1975年東京都出身。慶應義塾大学法学部卒。東京新聞記者。千葉、埼玉など各県警担当、東京地検特捜部担当を歴任。2004年、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の事実をスクープし自民党と医療業界の利権構造を暴く。社会部でセクハラ問題、武器輸出、軍学共同、森友・加計問題などを取材。著書に『新聞記者』(角川新書)『THE独裁者』(KKベストセラーズ)『安倍政治100のファクトチェック』(集英社新書)他
特別取材班 佐々木芳郎(よしろう) 写真家・編集者。1959 年生まれ。関西大学商学部中退、 在学中に独立。元日本写真家協会会員。梅田コマ劇場専属カメラマンを皮切りに、マガジンハウス特約カメラマ ン、『FRIDAY』専属契約、『週刊文春』特派写真記者他を経て、現在は米朝事務所専属カメラマン。アイドルからローマ法王までの人物撮影取材や書籍・雑誌の企画・撮影等を行う。立花隆氏との共著『インディオの聖像』(講談社) 30 年のときを経て制作予定。

発行日           2019.6.5. 初版第1刷発行
発行所           KKベストセラーズ

「初の憲法改正」を目指す政治家・安倍晋三とは?
誕生から第1次内閣辞任までを、知られざるエピソードと事件満載の漫画で紹介。
また思想家・内田樹氏と、安倍政権の強さの秘密である「安倍マイレージ・システム」と日本の政治を激論!
今知っておきたい日本の政治の歴史と未来――。

まえがき
安倍の嘘のつき始めに気付いたのは191月のこと。NHK放映の辺野古への土砂投入に際し、環境への配慮はしているのかと問われた安倍が、「あそこのサンゴは全て移している」と回答、翌日琉球新聞が検証記事を配信、海域全体にある最低移植が必要な74,000群体のサンゴのうち、県の許可を得て防衛局が移植を終えていたのは僅か9群体だったことが判明するも、安倍は発言の撤回はせず、「南側の埋め立て海域に生息する保護対象のサンゴは移植した」と言い換え、事実上発言を修正した
なぜ安倍はこうも簡単にをつき続けるのか、その自覚がそもそも本人にあるのか。本書の出発点は、私が抱いたこんな素朴な疑問から
1章は、写真家の佐々木芳郎氏が集めた膨大な資料を基に、第1次安倍政権終了までを、政治風刺漫画の漫画家ぼうごなつこが絵を完成させた
2章は安倍話法を分析
3章では、「民主主義と安倍政権」のテーマで、内田樹氏に解説してもらう
なぜ安倍政権はこうも長く続くのか、安倍首相とは一体、何者なのか。首相を支える日本社会の変質、政治やメディアの在りようについて、本書を手に取った読者の方々が様々な視点で、考える契機になることを祈る

第1章     まんが・安倍晋三物語
~誕生から、第一次安倍内閣総理大臣辞任まで~
人物相関図 政財界に広がる華麗なる安倍家の閨閥
1.    未来の大宰相誕生 ~岸信介の孫に生まれて~
次男なのに晋三。3番目は男の子だったら岸家に養子と決められていて、3男信夫は岸家へ。現在衆院議員、衆院安全保障委員長
2.    寂しがりやだった幼年時代
両親の放っておかれ、お手伝いの久保ウメに甘えて育つ
3.    強情だった成蹊小学校時代
最初の家庭教師が東大生の本田勝彦。後の日本たばこ社長。13年安倍がNHK経営委員に推薦。そのあとが平沢勝栄。よく映画に連れて行ったのが安倍の映画好きのもと。平沢は東京17区で公明党の山口那津男に2連勝したため、連立政権後は不遇
卒業文集に拾った子犬の長編物語を描き、担任の絶賛を得たが、宿題すらしなかった安倍が書いたとは思えず、お手伝いの作品ではとの疑惑がある
4.    反抗期を迎える中学校時代
父親にまで手を上げたことがあり、その時母親から「おじいちゃまがどんなに悲しむか考えろ」と言われて以来母親に頭が上がらない
軍部に無力な既成政党を痛烈に批判して特高に追われた父方の祖父安倍寛(46年死去、享年51)に言及したことはほとんどない
5.    成蹊高等学校時代 ~安保とおじいちゃま~
国のために安保改正した祖父を悪しざまに言われるのに反発
6.    成蹊大学へ ~勉強は好きじゃない~
周囲から東大を目指せと言われ反発、ボンボンの優雅な学生生活を満喫するが、就活の段になって祖父から高文受験を勧められ困った息子を見かねた父が勧めたアメリカ留学にのってロスへ
7.    アメリカに留学 ~英語に磨きをかける~
77年、地元の家に下宿して通ったのはUCLAの語学学校。寂しくて家にコレクトコールしたのが月10万以上。78年にはUSCに入学するが政治学の単位を取れないまま1年余りで退学 ⇒ 洋子の著書『わたしの安倍晋太郎』には、晋三がUCLAUSC1年づつ学んだとあるのは虚偽事項公表で公職選挙法違反の疑い濃厚
8.    社会人デビュー ~神戸製鋼時代~
79年、岸と晋太郎の秘書の口利きで神戸製鋼に行ったのは、晋太郎の地元山口1区でのトップ当選が至上命題だったため、晋太郎は反対したが、キーとなる地元の神鋼長府製造所を抑えるための政略就職。中途入社のため1年はニューヨークに預かり、翌年正式入社

l  Interview: 政治ジャーナリスト 野上忠興氏に訊く! 「安倍晋三とは何者なのか?」
野上忠興 ⇒ 福田派と安倍派の番記者。安倍の評伝3冊を上梓している政治ジャーナリスト
乳母・久保ウメとの出会い ⇒ 安倍と同郷、晋太郎とは同級生。岸の長男の嫁と同窓だったことが縁で両家に仕えることに。56年宇部興勤務の長男が東京に転勤した時に始まる
安倍自ら「勉強しなかった」「学歴コンプレックスがある」と言っている通り、その裏返しとして自分を大きく見せようとするパフォーマンスに執心・執着するタイプで、国会の党首討論でもポツダム宣言について問われ、「アメリカが原爆を落とした後に叩きつけたもの」と間違った答弁をしている
負けず嫌いで、一度言い出したら絶対に後に引かない頑固さがある ⇒ 政策実績を語る時でも「過去最高」「歴史上初めて」とかの大仰な「冠言葉」をつけたり、厳しい質問を受けると「私が最高責任者だ」「私が行政府のトップだ」など傲慢と映る「睥睨言葉」を返す
自身の自伝的政治観を綴った『美しい国へ』(06年刊)、『新しい国へ 美しい国へ 完全版』(12年刊)では、初版の略歴から「成蹊大法卒、神鋼勤務を経て晋太郎外相の秘書官」を削除。もちろん米国留学も見当たらない
学歴詐称で議員辞職に追い込まれた民主党衆院議員がいて、その時追及したのが安倍だが、自らの詐称が問題にならなかったのは強運そのもの

9.     政治家への道
82年、外相になった父から秘書を命じられ神鋼を退職

10. 昭恵夫人との出会い
87年、結婚
12年、昭恵が居酒屋「UZU(古事記に登場する女神アメノウズメから命名)を出店して、嫁姑の関係悪化、昭恵が洋子の元に寄りつかなくなる

11. リクルート事件と父の死
88年、リクルート事件。晋太郎のみならず洋子にまで金が渡っていたことが暴露されたが、91年晋太郎の死去により、洋子も含め追及が終わる

12. 拉致問題への取り組み
88年の衆院予算委員会の共産党からの質問に対し、政府が初めて拉致事件の存在を認める
被害者家族の訪問を受け、安倍が義憤を感じ解明に動くが、金丸自民党は静観を決め込む
97年の衆院外務委員会で、安倍が初めて拉致問題を取り上げ。国家としての対応を迫る

13. 新人議員時代
93年、山口1区から出馬し当選。終戦50周年国会議員連盟の事務局長代理となり、95年の先の大戦への深い反省の念を込めた国会の平和決議に反対して採決を欠席
厚労族のメンバーでありながら、第1次安倍内閣時に「消えた年金問題」の責任を、先行き不明のシステムを作った民主党のせいにしようとした

14. 火炎瓶放火未遂事件
99年、下関市長の選挙を巡る金の不払いから地元の暴力団が起こした現職国会議員への放火未遂事件だが、取材したのは『噂の真相』だけ

15. タカ派の貴公子として
00年、第2次森内閣で内閣官房副長官となるが、実績ないまま舌禍だけ起こす ⇒ 02年、ゲストで呼ばれた講演で核保有・使用容認の発言し物議を醸す
この発言がタカ派議員に受け、「タカ派の貴公子」の称号をもらう

16. 幹事長に抜擢
03年、小泉総裁の幹事長に抜擢
前年、日朝首脳会談で北朝鮮が13人の拉致を認め、口頭で謝罪。平壌宣言に署名し、拉致問題の解決と国交正常化交渉開始で合意。
日朝交渉を進めていたのは外務省アジア大洋州局長の田中均で、安倍は蚊帳の外
04年、岡崎久彦との共著『この国を守る決意』で、軍事同盟とは血の同盟であり、日本人も血を流さなければアメリカと対等な関係にはなれないと主張

17. 戦後最年少の総理大臣
05年、小泉内閣の官房長官
06年、総裁選で勝利し首相に就任。お友達内閣誕生 ⇒ 秘書官の今井尚哉はエネ庁課長からの横滑り。叔父の善衛は戦前岸の部下。安倍家と今井家は昭恵夫人を通じて縁戚
閣僚の不祥事続きで辞任

18. 内閣総理大臣を辞任
07年、臨時国会で所信表明演説をした2日後に辞意。潰瘍性大腸炎を発表

l  岸・安倍家三代年表

第2章     最強首相・安倍晋三を考える ~安倍話法と安倍史観
Ø  「ご飯論法」で論点をずらす
答えたくないときは「論点をずらす」
質問の趣旨を曖昧にして煙に巻く方法 ⇒ 利害関係者とのゴルフは慎むべきとの追及に対し、ゴルフはなぜいけないかと反発する
相手が利害関係者であっても、以前からの友人だから問題ない、という独特の論理を展開(披露)するとともに、加計は過去に加計学園の関係者に、「安倍には年間1億ぐらい使っている」と発言、一方の安倍も「加計は俺のビッグスポンサー」とコメントしたとされる

Ø  「一」「1」で強調して否定する
「一」「1」を使う時は、根拠なき事実を強調しようとしている傾向がみられる
07年の参院選政見放送で消えた年金問題につき、「最後の1人に至るまで調べて支払う」といい、加計問題についても「一点の曇りもなかったのは間違いない」と言っている

Ø  Yes(はい) No(いいえ)で答えない
二者択一の質疑に対してはどちらとも答弁しないのが安倍話法の特徴
自民党の憲法草案の主要点3点を変更するのかと問われて、「自民党総裁としての考え方は読売新聞に書いてあるので熟読してほしい。ここでの答弁する義務は内閣総理大臣として負っている」と長々と答弁し、予算委員長に「簡潔に」と遮られてもなお、関係のないことをダラダラと話し始める

Ø  「印象操作」は時間稼ぎのテクニック
野党の質問を「印象操作だ」といって正面から質問に答えず、質問の内容が「間違っている」との印象を国民に植え付けようとするとともに、時間稼ぎをしながら野党を批判するという安倍のテクニック
相手が聞きたい核心部分、答えたくないがゆえに、議論や質問に関係のない答弁をわざわざ行う「安倍話法」の1つで、17年の森友を巡る朝日のスクープをきっかけに、安倍は27回も「印象操作」という言葉を発している
安倍の答弁は、相手が知りたいことに誠実に答えようとするのではなく、「はぐらかすための答弁」のように見え、官邸全体に浸透 ⇒ 辺野古のサンゴの移設答弁はその典型

Ø  印象操作 実践編「メディア・コントロール」 大新聞で「印象操作」された元文科省事務次官
官邸がメディアを使った「印象操作」をしたように見えるのが、前川元文部次官に関する読売の「出会い系バー通い」の記事。報道の3日後に前川は、加計学園の認可に関し「総理のご意向」などと記された文書が文科省内に「確実に存在」「公平公正であるべき行政のあり方が歪められた」と、証人喚問にも応じる意向を示す。菅官房長官は、1週間前の記者会見で、当該文書を信憑性に疑問ありとして怪文書と切り捨てた

l  Interview: 元文科省事務次官 前川喜平氏に訊く! 読売新聞報道の舞台裏
読売の記事を見て、官邸に書かされたと直感。政府の常套手段で、嘘は書いていないが、印象操作。記事の出る直前にも官邸から、文科省内の例の文書についてこれ以上喋らなければ記事は押さえてやるという様なニュアンスの声掛けがあった

安倍史観①     「戦後レジームからの脱却」を謳う安倍首相の歴史認識
安倍が発する言葉は強く、それだけに常に注目されてきた
「憲法は占領憲法、押しつけ憲法」
「侵略に学問上の定義はない」
「侵略という定義については、これは学問的にも国際的にも定まっていない」
「国のために尊い命を落とした尊いご英霊に対して尊崇の念を表する。これは当たり前のこと」
安倍の歴史観について、大学の恩師、成蹊大名誉教授の加藤節は、「戦後の日本が築いてきた歴史を踏まえていない…安倍を表現するのは「無知」と「無恥」という言葉に集約される」
日本が過去に引き起こした戦争について、日本の首相としての善悪の判断を問われ、安倍はどちらとも回答せず、「『村山談話』『小泉談話』を全体として受け継いでいく」と明言を避けた抽象的な答弁を行う
さらに、戦後レジームの起点ともいえる「ポツダム宣言」では日本の戦争について間違った戦争だという認識を明確に示しているが、それを認めないのかと問われて、その部分を「つまびらかに」は読んでいないので直ちに論評することは差し控える、と回答。憲法改正を提唱しながら、改正の契機に繋がったポツダム宣言を読み込んでいなかったとは!
「ポツダム宣言」が原爆の後に叩きつけてきたものという発言も、靖国参拝を止めろと言われて逆上した時の発言で、06年刊の『対論集 日本を語る』からこの部分は削除され、対談内容も加筆修正されている
言語学者の金田一秀穂も『安倍政治の言葉と心理』(18)の中で、「万一の時を委ねることは到底できない。絶望を越えて、恐怖である」と危惧している

安倍史観②     自衛隊と核戦術
安倍の自衛隊と「核兵器」に対する歴史認識は、前述02年の舌禍事件で暴露
曰く、「占領されても我慢するという決意があれば法整備に反対しても構わないが、自衛隊を認めている以上、法整備をしないとおかしい」。「有事法制ができても先制攻撃ができないから北朝鮮の基地は攻撃できない」と言われてさらに、「撃たれたら撃ち返すことができてはじめて抑止力となる。憲法上は原爆だって小型であれば問題ではない」と言い返し、「それは個人的見解と見た方がいいのでは」と質問されると、「60年の岸総理も戦術核の使用は違憲ではないと答弁している。戦術核使用はやらないが、法律論と政策論は別」と述べ、「合憲」との持論を展開
岸が核兵器の保持の合憲性について語ったのは、「防衛的な核兵器等は9条の禁止するところではない、という場合の核兵器の概念とはどういう内容のものか」と問われて、「核兵器というだけで一切禁止というのは、憲法解釈としては適当ではない」としたもので、その後の答弁でも何度も、「自衛権の範囲内での核保有も認めないという憲法上の解釈は成り立たないが、核武装はしないという考えに立つ。自分は軍事的知識がないので、具体的に何が憲法上適否かという解釈はしない」
これを踏まえれば、「核戦術の使用が違憲ではない」と岸が言ったという安倍の認識は間違いであり、独自の戦術核への認識を岸の発言に言及することで誤って確立した

l  Interview: 『アクセスジャーナル』編集長 山岡俊介氏に訊く!
「昭恵夫人も語る、安倍邸放火未遂事件の真相」とは?
ü  安倍事務所・秘書が選挙妨害を依頼 ⇒ 03年安倍邸の非現住建造物等放火未遂容疑で暴力団など容疑者を逮捕。『噂の真相』が「安倍事務所・秘書が選挙妨害を依頼!」との衝撃的な記事を掲載。取材したのが山岡氏。03年末に武富士会長を塀の中に追いやったジャーナリストとして名を馳せる
ü  大スクープの掲載を止めた共同通信 ⇒ 共同通信も特集班を組んで取材していたが、突然出稿停止に。背景は3年後に2人の元共同記者が「権力に擦り寄るメディアの腐敗体質を問う」として暴露。平壌支局開設を餌に圧殺された
ü  「これがあるから、わしは捕まらん」 ⇒ 18年、山岡氏が真相を暴露。放火事件の主犯格が、安倍事務所秘書(元県警幹部)が選挙妨害を依頼した念書があるので捕まらないと吹聴していたという。当時山岡氏は安倍事務所からの回答を得られなかったので疑惑として報道したが、共同は念書の現物を確認していたので安倍の資質を問うスクープだったはず
ü  三つの証拠文書があった! ⇒ 主犯格は、選挙妨害の報酬500万が満額支払われなかったことに怒って放火に及んだものだが、念書など3つの文書で事実は明確
18年の国会で山本太郎が放火未遂事件を取り上げ、その背景に迫ろうとしたところ、安倍は寝ていたところに火炎瓶を投げ入れられたと「被害者」であることを強調したが、で印象操作を行い視点を逸らせようとしている
ü  放火未遂事件について赤裸々に語った昭恵夫人 ⇒ 元安倍の番記者に当時の模様を明るく語っている
ü  安倍氏は犯人は誰かを知っていた ⇒ 昭恵の話から、具体的な金額も含め安倍から脅迫されていることを聞き知っており、火事と同時に騒いだが、安倍本人は消火活動を尻目に布団に入っていたということは、犯人を知っていたはず
下関市の公共工事で巨額の利権に絡む主犯格の男に入れ込み過ぎたための行き違い
ü  小山氏と安倍氏は何を話したのか? ⇒ 手打ちをしたということのようだが、肝心の秘書が亡くなっているので真相究明は困難

3章 民主主義と安倍政権 思想家・内田樹氏に訊く!
「安倍晋三はなぜ、〝嘘〟をつくのか?」
ü  日本の政治機構の致命的な欠陥 ⇒ 内閣支持率調査で、最大の不支持理由が、常に「人柄が信用できない」で、政府答弁は言質を取られないようはぐらかすのが歴代政権の常套手段だが、安倍政権はひどすぎる
反対者と対話する能力がないのは深刻
野党の質問に対し冷笑するのは、対話も交渉も端からやる気がないことの意思表示
森友問題の冒頭の「国会議員を辞める」発言を契機に、財務省の組織的な改竄が始まる
「シナリオのない嘘」に始まって、「シナリオのある嘘」へと移っていく。もろもろの不祥事のきっかけは安倍の意図せざる失言。自制心の欠如が原因
「シナリオのある嘘」は違法行為だが、実行犯は政治家の移行を忖度した官僚
安倍の非を認めない頑なさは常軌を逸しているし、人格的な脆弱性において、ここまで未成熟な為政者は戦後日本にはいないため、どうやってこの為政者がもたらす厄災を最小化するという技術の蓄積がない ⇒ 日本の政治過程に一番欠けているのはレジリエンス(復元力)であり、元老や長老たちの「スクリーニング」の仕組みは今の自民党では機能していない
安倍の強味は、人間の卑しさと弱さについて熟知している点。どうすれば人の弱みにつけこんで、操縦できるかということについては確かな知識と技術を持っている

ü  余人を以って代え難い統治者・安倍晋三
自国よりもアメリカの国益を優先する統治者
政治的幻想「大日本帝国の再建」の夢を抱く人々
同床異夢と呉越同舟、かつ期間限定

ü  官僚の言い分、メディアの言い分
官僚が安倍を高く評価しているのは信賞必罰 ⇒ 知識人についても同様で、官邸の敵か味方か、その査定は正確でかつきめ細かい。それが官僚の阿諛()追従に繋がる。対米従属マシーンと官邸従属マシーンは同じ原理で作動、自己正当化のロジックに基づいている。面従腹背によって自己利益を確保する。かつての国家戦略が処世術にまで矮小化して反復されている
権力に一番近いメディアですら同じ原理が働き、重大な事実についてもジャーナリストが知っていれば読者は知らなくても問題はないと考える。読者に伝えることより、政権中枢との信頼関係が優先する

ü  行政機構の悪魔のしくみ
「公人」とは、反対者も含めて全体を代表する人で、自分に賛同する人間の利害だけを代表する人間は「権力を持った私人」
敵対者と折り合って統治するというのが民主制の統治原理だが、それを理解している政治家がほとんどいない
「合意の形成」とは、皆が満足する解を見出すことではなく、皆が同じくらいに不満足な解(「落としどころ」)を出すこと ⇒ 原理主義的に運用しようとすると機能しない
多数決の結果というのは、単に過半数を取った方の選択肢が実現されるというだけのことで、結果が正しいかどうかではない

ü  政治家の資質と立法府の空洞化
政治家の質が変わったのは、政治家を育てるシステムが変質したから ⇒ 政党が自前の「養殖場」で政治家を純粋培養しているので、政党間の人脈ネットワークが働かないことが、立法府の空洞化の主因
党営選挙の仕組みがよくない ⇒ 党執行部に対するイエスマンが優先
国会の空洞化を行政府が仕掛けている ⇒ 国会での議論は政治ショーであり、アリバイ作りであり、茶番だと信じさせることで結果的に行政府の力を強め、威信を高める
安倍がたびたび「立法府の長」と発言するのも、議会内で過半数を制する政党の総裁なので、党執行部が決めたことはそのまま法律になるから、最大政党の総裁は「立法府の長」だと言っても過言ではない
法律の制定者と法律の執行者が同一機関であるような政体は「独裁制」そのもの

ü  安倍マイレージ・システム
官僚の信賞必罰が徹底しているのみならず、査定システムの異常なほどの単純さが官僚たちに好感され、首相に対する忠誠心だけで職位が決まる。極めて分かりやすいだけでなく、そのためには何をやっても許されるという破綻したモラルが安倍政権を支える官僚たちの意識に根付いてしまっている ⇒ 森・加計問題で顕著に出た
メディアや有識者、学識経験者などにも同様のシステムが適用される ⇒ 内閣人事局には、政権に批判的な有識者を列挙した「テレビに出すなリスト」が存在

ü  教育改革のベクトル ~大学の自治とスクリーニング~
06年、教育基本法改正はじめ、教育現場への介入をかつてないほど強めている
15年、学校教育法と国立大学法人法を改正し、学長と執行部に、組織や予算、人事ばかりか教育内容の変更まで権限を付与し、教授会は諮問機関に格下げされ決議の強制力を剥奪
教育現場では、道徳の教科化など、教師も子供も「無意味」だとわかっていることをあえて取り上げ、「無意味耐性」をつけさせるとともにその強さをテストする ⇒ 無意味なことに耐えられない子供たちをスクリーニングして排除していく

ü  改憲問題と美しい日本
「美しい日本」と謳った安倍は、戦後73年間の日本の仕組みが嫌いで、「戦後レジームからの脱却」などといっている ⇒ 人権擁護や個人の自由の尊重なども全部嫌いで、一旦全部リセットして、祓い浄めて、「真っ白な国」にしようということか
洋子もインタビューで語っていたように、岸信介の出来なかったことを叶えようとして頑張っている。いわば祖父の敵を取りたいということかもしれないが、岸が否定されているというのは、これだけ一族が華麗な経歴を残してきた以上、安倍の被害妄想
憲法改正にあたっては、制定過程の歴史的事実について、「最も真実らしい推理」をする努力をすべきで、その結果に対しては敬意を示すべき
戦後73年間、海外における戦争に巻き込まれずに来たのは、平和憲法の歴史的功績であり、海外で人を殺さず、国土は外国の軍隊からの侵略を受けていないという厳然たる事実は、「安全保障の成功」そのもの
改憲派は9条のせいで日本の安全保障が破綻していると主張するが、明確な根拠は示さず、ただ感情的な言葉を羅列するのみ。15年の安保法制の提案理由として安倍は「抑止力の向上」を主張、その根拠として自衛隊機のスクランブル発進回数を上げたが憲章はしていない。実際回数は戦後最高を記録しており、抑止力は効いていない
日本の安全保障環境の悪化の原因の一旦は、安倍外交の失敗にある
安倍政権には政策の適否を外形的数値的に検証するという姿勢がない。これほどエビデンスを示さない、政策の適切性について論拠を示さない政権は過去にない
自衛隊を9条に書き込むという安倍の主張は、そもそも公的制度は憲法に書き込んでおかないと機能しないという前提からしておかしい。あらゆる公的機関の機能は法律で規定されているのでそれに従えばいい
安倍が9条の加憲について、「変えても何も変わらない」と言っているのは、既に安保法制で戦争ができる仕組みを作ったので、もう実は取ったという認識でいるから

ü  時間意識の縮減と「嘘」
政治家に許されるのは、本当のことの1部を言い落とすところまでだが、今の政治家は嘘のつき放題。「食言」を検知できなくなったのにはメディアも責任がある
公文書は後世に政治的評価を下す際に必須の証拠として、また統治機構の安定性、継続性を担保するものとして、その管理は重要だが、現政権の体制は極めて杜撰
現代は、企業が長く継続したことより、いかに短時間でどれだけ儲かったかが高く評価されるので、目先の損得ばかりが優先して、長いタイムスパンでものを考える習慣そのものが失われつつある
嘘もばれて初めて嘘と認定されるので、短いタイムスパンならばれない

l  Special interview: 元森友学園理事長・籠池泰典&諄子夫妻に訊く!
「いまだから、話せること」
籠池が初めて安倍に注目したのは、小泉内閣の官房副長官就任時。日本会議も組織を挙げて応援。「美しい国 日本」には震え、教育基本法改正では「豊かな情操と道徳心を培う」といって同感したが、森友事件を通じて、安倍が「表面的なことで使っている」ことに気付く
森友学園事件の真実と功罪:
事件の裏側①      維新の会と藤原工業
安倍晋三記念小学校の建設を請け負っていたのは、維新の会から紹介された藤原工業。藤原は、橋下が知事になったあと、府の工事請負が急増

事件の裏側②      文書改竄と故・鴻池議員のコンニャク会見
国有地払い下げの件で籠池が鴻池事務所に相談、謝礼を渡したが、後日突き返され、安倍は鴻池を潰しにかかる ⇒ 後継者の息子を公認せず

事件の裏側③      一番許せない、昭恵さんの嘘





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憲政史上最長も見えてきた安倍政権。閉塞感が続く日本の政治だが、安倍政権のどこが問題なのか? 政治家・安倍晋三とは何者なのか? いま知っておきたい日本の政治で起きていること、日本の未来。
第1章は「まんが・安倍晋三物語」。岸信介の孫に生まれた安倍首相の誕生から第一次内閣辞任までを、特別取材班・佐々木芳郎氏が検証しまとめた物語を、漫画家・ぼうごなつこさんによる描き下ろし(80P超)。続く第2章は安倍話法と安倍史観から政治家・安倍首相を分析。第3章は思想家・内田樹氏と、「安倍晋三はなぜをつくのか?」について激論! 元事務次官・前川喜平氏から籠池泰典氏まで、安倍首相を知る面々にインタビュー。
東京新聞記者・望月衣塑子氏&特別取材班が、安倍政治を徹底的に考えてみた1冊です!


内田樹研究室 2019.5.28.
東京新聞の望月衣塑子さんと特別取材班による『安倍晋三大研究』(KK ベストセラーズ)の中で望月さんと対談をしている。その中の私の発言の一部を「予告編」として掲載する。
今回のトランプ来日の「異例の接待」に安倍政権の従属的本質が露呈したが、その仕組みについても私見を述べている。
 安倍さんがつく嘘には、「シナリオがある嘘」と「シナリオのない嘘」の二つがあるみたいですね。とっさに口を衝いて出た「シナリオがない嘘」から始まって、「シナリオのある嘘」へと移ってゆく。
 もろもろ不祥事のきっかけは、首相の意図せざる失言です。「それは言ってはダメ」ということを不用意に洩らしてしまう。その場で自分を大きく見せようとしたり、相手の主張を頭ごなしに否定するために「言わなくてもいいこと」を口走ってしまう。その点については自制心のない人だと思います。「その点についてはさきほどは間違ったことを申し上げました。お詫びします」とちょっと頭を下げれば済むことなのに、頑強に誤まったことを拒否する。
 性格的に自分の非を認めることがよほど嫌なんでしょうね。だから、明らかに間違ったことを言った場合でも、「そんなことは言っていない」「それは皆さんの解釈が間違っている」と強弁する。「立法府の長です」なんていう言い間違いは、国会で平身低頭して謝らないと許されない言い間違えですけれど、これについても絶対に謝らなかったですね。間違いを認めず、勝手に議事録を改竄した。
「立法府の長」とか「私や妻が関係していれば」発言がその典型ですけれど、不用意なことをつい口走ってしまう。その失敗を糊塗するために、官僚が走り回って、つじつまを合わせて、もともと言ったことが「嘘ではないこと」にする。首相の不作為の「言い損ない」がまずあって、それをとりつくろうために官僚たちが「シナリオのある嘘」を仕込む。第二の嘘には間違いなく「シナリオライター」がいると思います。誰か「嘘の指南役」がいて、「こういうステートメントでないと、前言との整合性がとれないから、これ以外のことは言ってダメです」というシナリオを誰かが書いている。(...)
 こういう違法行為で最終的に罪に問われるのは、実行犯である官僚たちなわけですよね。政治家はあくまで「私は知らない。そんな指示を出した覚えはない」と言い張る。それに、官僚たちにしても、たしかに具体的な指示を聞いたわけではないんです。上の人間に皆まで言わせず、その意向を察知して、「万事心得ておりますから、お任せください」と胸を叩くようなタイプでないと出世できない。だから、「忖度」というのは政治家と官僚が「阿吽の呼吸」で仕事をしている限り、原理的にはなくなることはないと思います。
(...)
 首相の「とにかく非を認めるのが嫌だ」という頑なさは常軌を逸していると思います。でも、人は失敗を認めないと、誤りの修正ができない。失敗を認めない人は同じ失敗を繰り返す。過去の失敗だけでなく、これから取り組む政治課題についても、自分の能力が足りないから「できない」ということ言いたくない。だから、「できもしない空約束」をつい口走ってしまう。人格的な脆弱性においてここまで未成熟な為政者をこれまで戦後日本にはいたことがない。このような為政者の登場を日本の政治プロセスは経験したことがないし、予測してもいなかった。だから、そういう人間が万一出て来た場合に、どうやってこの為政者がもたらす災厄を最小化するかという技術の蓄積がない。
 アメリカは、その点がすぐれていると思います。デモクラシーというのは、つねに「国民的な人気があるけれど、あきらかに知性や徳性に問題がある人物」を大統領に選んでしまうリスクを抱えている。アメリカでは、建国の父たちが、憲法制定時点からそのリスクを考慮して、統治システムを設計した。「問題の多い人物がたまたま大統領になっても、統治機構が機能し続けられる」ようにシステムが作られている。
『アメリカのデモクラシー』を書いたアレクシス・ド・トクヴィルがアメリカを訪れたときの大統領はアンドリュー・ジャクソンでした。トクヴィルはジャクソンに面会して、このように凡庸で資質を欠いた人物をアメリカ人が二度も大統領に選んだことに驚いていますけれど、同時に、このような愚鈍な人物が大統領であっても統治機構が揺るがないアメリカのデモクラシーの危機耐性の強さに対して称賛の言葉を書き記していました。
 いまでもそうだと思います。ドナルド・トランプは知性においても徳性においてもアメリカの指導者として適切な人物とは思えませんけれど、とにかくそれでもアメリカのシステムは何とか崩れずに機能している。議会や裁判所やメディアが大統領の暴走を抑止しているからです。
 アメリカ人は政治に大切なものとして「レジリエンス(復元力)」ということをよく挙げますけれど、たしかに、ある方向に逸脱した政治の方向を補正する復元力の強さにおいては、世界でもアメリカは卓越していると思います。そして、いまの日本の政治過程にいま一番欠けているのは、それだと思います。復元力がない。
 日本の場合、明治維新以後は元老たちが総理大臣を選んできました。非民主的なやり方でしたけれど、「国民的人気はあるけれど、まったく政治的能力のない人間」が登用されるというリスクは回避された。戦後の保守党政治でも、「長老たち」の眼鏡にかなう人物でなければ首相の地位にはつけなかった。でも、そういう「スクリーニング」の仕組みはもう今の自民党では機能してないですね。(...)
 彼の生育環境がどうであったか、どのようなトラウマを抱えていたのか、そういったことを心理学的に分析することは安倍政治を理解するためには、いずれ必要になると思います。でも、問題は彼の独特のふるまいを説明することではなくて、嘘をつくことに心理的抵抗のない人物、明らかな失敗であっても決しておのれの非を認めない人物が久しく総理大臣の職位にあって、次第に独裁的な権限を有するに至っていることを座視している日本の有権者たちのふるまいを説明することの方です。いったい何を根拠に、それほど無防備で楽観的にしていられるのか。僕にはこちらの方が理解が難しい。どうして、彼のような人物が政治家になれ、政党の中で累進を遂げ、ついに独裁的な権限をふるうに至ったのか、それを可能にした日本の統治機構と有権者の意識の方に関心がある。
 これは安倍晋三という政治家個人の問題ではなくて、日本のデモクラシーの制度の問題だからです。この六年間、ずっと政権批判をしてきましたけれど、最終的に、安倍晋三という個人を分析してもあまり意味がないというのが僕の得た結論です。彼を「余人を以ては代え難い」統治者だと見なしている多くの日本人がいるわけですけれど、そのような判断がいったいどういう理路をたどって成立するのか、その方に僕は興味がある。安倍さんはいずれどこかの時点で首相の地位を去る。でも、彼を独裁的な権力者にして担ぎ上げた政治体制と国民意識がそのあとも手つかずで残るなら、いずれ第二第三の安倍晋三が出てくることを防ぐ手立てがない。(...)
 彼を担いでいるのは「対米従属マシーン」という政官財学術メディアを巻き込んだ巨大なシステムです。彼らは日本の国益よりアメリカの国益を優先的に配慮することによって、アメリカから「属国の代官」として認証されて、その地位を保全されている。清朝末期にいた「買弁」と機能的には同質のものです。
 ただ、清末の買弁が自分たちは「悪いこと」をしているという犯意があったのに対して、日本の対米従属マシーンのメンバーたちにはその意識がありません。彼らは「アメリカの国益を優先的に配慮することが、日本の国益を最大化することだ」ということを本気で信じているか、あるいは信じているふりをしている。だから、主観的には罪の意識はないのです。日本のために、国土と国民を守るためにアメリカに従属していることのどこが悪い、と自分を正当化することができる。
 もともとこの仕組みは「対米従属を通じての対米自立」というきわめてトリッキーな戦後日本の国家戦略の産物だったわけです。最終目的はあくまで「対米自立」だった。吉田茂の時代から田中角栄の時代まで、サンフランシスコ講和条約から、沖縄返還まで、その軸はぶれていないと思います。
 でも、安倍政権では、もう「対米自立」は国家目標としては掲げられていない。「対米従属という手段」がどこかで自己目的化した。対米従属マシーンのメンバーであることによって国内での高い地位と高額の収入を約束されている限り、彼らにしてみたら、対米従属はエンドレスで続いて欲しい「ステイタス・クオ」であるわけです。
 ふつうの国の統治者は自国益を最優先するけれど、安倍政権は自国益よりもアメリカの国益のほうを優先する。日本国民から吸い上げた税金をアメリカの軍隊や企業にどんどん注ぎ込む。日本の国内産業の保護育成を犠牲にしても、アメリカの企業のために市場を開放する。アメリカの国際政策はどんな不細工なものでももろ手を挙げて賛成する。世界を見渡してみても、これほどアメリカにとって便利な政府は存在しない。だから大事にして当然です。
(...)
 アメリカにとって、安倍晋三というのは一面ではきわめて好都合な政治家だけれども、危険な政治家でもある。集団的自衛権を発動して、アメリカの海外派兵の「二軍」として働くこと、アメリカ製の武器をどんどん買ってくれること、巨額の「ホスト・ネーション・サポート」予算で米軍基地を維持拡充してくれることなどは米軍にとっては大変好ましいことでしょうけれど、そういう日本の「軍事優先」がどこかで節度を超えて、軍事上のフリーハンドを要求するようになると、それはアメリカにとっては東アジアに新たなリスク・ファクターが出現することを意味する。
 もし、改憲が「アメリカから押し付けられた憲法」を否定するだけでなく、アメリカの統治原理そのものを否定することを意味するとしたら、ホワイトハウスもいい顔はしないでしょう。その点では、アメリカは必ずしも一枚岩ではない。日本を実質的に支配しているのは「アメリカ」というより、端的に米軍とそれにつらなる軍産複合体です。対米従属といいますけれど、実質的には日米合同委員会を通じて日本をコントロールしているのは米政府ではなく在日米軍です。そして、米軍の意向は必ずしもアメリカ人すべての意向ではない。当たり前です。現に、『ニューヨークタイムズ』のようなリベラル系のメディアは一貫して安倍内閣のナショナリズムや改憲志向や慰安婦問題への取り組みを批判してきた。
 改憲で日本が平和主義を捨てることを望んでいる隣国はアジアにはいません。改憲を強行すれば、当然中国韓国はじめてアジア諸国との外交関係は緊張する。そのようにして西太平洋の地政学的安定を損なうことをおそらく多くのアメリカ人は望んでいない。
 アメリカからすれば「いまで十分」ということだと思います。平和主義国家としては桁外れの防衛予算を組んで、アメリカ製の兵器を買ってくれている。これ以上好戦的な国になってもらうことはない。アメリカの本音は、「日本は黙ってアメリカの言うことを聞いていればよい」ということに尽くされると思います。
 僕たちは忘れがちですけれど、アメリカにとって日本は太平洋戦争で二九万人のアメリカ兵を殺した国です。日本では『鬼畜米英』はもう死語ですけれど、『リメンバー・パールハーバー』は今でもアメリカでは感情喚起力のあるスローガンです。日本は属国だけれど、かつての敵国なのです。属国として厳しい支配下においているのは、ほんとうのところはこの「おべっかつかい」を信用していないからです。この感情的な非対称を日本人は忘れているんじゃないですか。


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望月 衣塑子は、日本の新聞記者中日新聞社の社員、政治活動家。201810月現在、東京本社社会部記者。
l  経歴[編集]
東京都生まれ[1]。父親は記者、母親は演劇関係者の家庭に生まれる[2] 東京学芸大学附属大泉小学校中学校東京学芸大学附属高等学校を経て、慶應義塾大学法学部卒業。大学卒業後、中日新聞社に入社(東京新聞の間違い)。東京本社へ配属[1] 千葉支局、横浜支局を経て社会部東京地方検察庁特別捜査部を担当。その後東京地方裁判所東京高等裁判所を担当。経済部などを経て、201710月現在社会部遊軍[1]2人目の育児休業後の20144月から武器輸出や軍学共同の取材を開始。このテーマで講演活動も続けている。
20173月から森友学園加計学園の取材チームに参加し、前川喜平文部科学省事務次官へのインタビュー記事などを手がけたことや、元TBS記者からの準強の被害を訴えた女性ジャーナリスト伊藤詩織へのインタビュー、取材をしたことで、「告発している2人の勇気を見ているだけでいいのか」と思い立ち[2]201766日以降、菅義偉内閣官房長官記者会見に出席して質問を行うようになった[3][4]。内閣官房長官の記者会見を選んだ理由について本人は、「森友学園、加計学園などの問題を取材する中で政権の中枢に問題意識を持ち、国民の疑問や怒りを自分で直接ぶつけてみようと思った」[5]「私にできることは、政府のスポークスマンである官房長官に質問することだった」[2]などと語っている。
201712月、日本における武器輸出の拡大や軍事研究費の増加について報じた「武器輸出及び大学における軍事研究に関する一連の報道」が「第23回平和・協同ジャーナリスト基金賞」の奨励賞に選ばれた[6][7]
2018年、菅との会見での質問をまとめた動画と単著が「マスコミの最近のありように一石を投じるすもの」として、2017メディアアンビシャス賞の特別賞に選ばれた[8]
20191115日、望月の活動を追ったドキュメンタリー映画『i-新聞記者ドキュメント-』(監督:森達也)が公開された[9]
l  新聞記者として[編集]
日本歯科医師連盟に対する取材[編集]
日本歯科医師連盟のヤミ献金事件をスクープした[2][10]
前川喜平に対する取材[編集]
加計学園問題で「官邸から総理の意向という圧力があった」と主張する前川喜平前事務次官が在職中に出会い系バー通っていたという報道について、望月は前川に取材を重ね、前川の「女性の貧困について実地の視察調査だった」という主張が「本音であろうと推察するに至った」とし、「出会い系バーに通う普通の男性の目的と前川氏の目的意識には雲泥の差がある。」と述べている[11]
66日午前の官房長官記者会見で望月は10回の質問を行った[12]
l  伊藤詩織に対する取材[編集]
伊藤が2017529日にした記者会見の記事の扱いが小さく、東京新聞社内の反応が鈍いと感じたことから本人取材を決意し、201766日に約3時間にわたりインタビュー[2]68日の官房長官記者会見で「当時の刑事部長の判断で(逮捕をせず)任意に切り替えた」「刑事部長の判断で覆ったことなどない」などと質問した。伊藤は、他の記者が連絡を絶つなかコンタクトを続けてきた望月について「聞いて終わりじゃなくて事件の本質を見いだそうとしている」「信頼に足る」と感じたという[10]
l  官房長官記者会見での取材[編集]
通常の官房長官記者会見では記者の質問は1人が23問で10分程度だが、201768日で望月は加計学園問題と伊藤詩織の訴えに関して、40分の時間をかけて23回の質問を繰り返したことで注目を浴びるようになる[4][13]。望月は「私は政治部でなく、社会部の記者です。社会部で警察検察の幹部とやりとりをしてきたなかで、執拗に質問しないと、肝心なことを答えないことを、身に染みて知っています。答えをはぐらかし、時にはウソもつかれます。」と意義を説明している[14]
2017825日午前の官房長官記者会見において、学校法人加計学園の獣医学部新設の可否を検討する大学設置・学校法人審議会の答申をめぐり望月が不適切な発言をしたとして首相官邸報道室は東京新聞に対し91日に書面で抗議を行った。抗議の理由は「未確定な事実や単なる推測に基づく質疑応答がなされ、国民に誤解を生じさせるような事態は断じて許容できない」というものだった[15]
記者会見での記者の質問に官邸報道室が注意喚起をすることはあったが、文書で抗議するのは異例な事態であり[16]産経新聞92日に「官邸報道室 東京新聞を注意 『不適切質問で国民に誤解』」という記事を掲載した。この抗議文書は東京新聞官邸キャップの了承のもと内閣記者会の常駐各社に配られたものだが、望月は「産経新聞になぜかリークとして記事が出た」と主張し、菅官房長官に「その結果、(望月に対する)ネット上の誹謗中傷や言論弾圧が行われている。政府としては今、どのように受け止めているのか」と迫ったが「ネットにいろいろ書くというのは、それはいろんな方の自由であるということも事実じゃないでしょうか。政府としてはコメントすることは控えるべき。」と退けた[15]
915日、官房長官会見の場で望月は「(文書は内閣記者会に常駐する)全社に出していて誤りだった。撤回して謝罪したい」と「産経新聞になぜかリーク~」発言の誤りを認め謝罪した[17]。翌920日、東京新聞は望月のリーク発言に対し「事実ではありませんでした。抗議を真摯に受け止め、発言を撤回いたします」と19日付の文書で回答した[18]。また、抗議の内容についても、望月は「文科省の正式発表後と印象を与えたとすれば、落ち度があった」などと取材に答えた[19]
日刊ゲンダイは、事情通の話として、94日夜、東京新聞本社に中年男性の声で「ネットニュースに出ている(望月)記者は、なぜ政府の言うことに従わないのか」「殺してやる」との予告電話があったと報じている[20]
菅官房長官は20181127日、出入国管理法改正案について質問した望月に対し「全く事実と違うことの質問はすべきでない」と述べた。[21]
l  辺野古土砂投入の質問と官邸の「制限」要請[編集]
 望月は20181226日の官房長官記者会見で、基地移設工事にともなう沖縄・辺野古沿岸への土砂投入について「現場では今、赤土が広がっております」「埋め立てが適法に進んでいるか確認ができておりません」などと指摘し、政府の対処を尋ねた。この質問について、官邸は1228日、報道室長名で「汚濁が広がっているかのような表現は適切でない」「特定の記者が事実に基づかない質問を繰り返している」と反論。記者クラブ「内閣記者会」に対し、問題意識の共有と事実に基づく質問を求め、文書で申し入れた[22][23]
 この申し入れについて、新聞労連日本ジャーナリスト会議(JCJ)が「官邸の意に沿わない記者を排除する」「司会役が数秒おきに(質問を)妨げている」などして抗議声明を出し[24][25][26]朝日新聞北海道新聞が社説で「質問制限を求めるようなやり方は不当で、記者の排除、選別にもつながりかねない」「『事実誤認』と言うには、根拠が乏しい」などと批判した[27] [23]
 菅官房長官は28日の会見で「質問妨害はやっていない。正確な事実に基づく質問を心掛けて頂けるように協力を依頼した」と答えた[28]
l  講演活動[編集]
2017925日、望月は新潟県平和運動センターで「武器輸出と日本企業-安倍政権の危険なねらい」と題した講演を行ったが、講演直前になり主催者が「望月記者が話したいことを話せないので、産経だけは駄目だ」として、報道各社が加盟する新潟県の県政記者クラブで会の告知を行いながら取材拒否を行った[29]。望月は取材拒否について「私が断ったのではなく、主催者側が記事の内容で脅迫的なことや、妨害的なことが私自身に及ぶということを懸念して、主催者判断でお断りした」と説明している[30]
l  評価[編集]
肯定的な評価[編集]
ノンフィクション作家吉永みち子毎日新聞7月の第三者機関「開かれた新聞委員会」で「聞くべきことを聞いてくれた」と望月を評価した[16]
TBS金平茂紀顧問は「チャキチャキの江戸っ子風の潔さがあるように感じた。いい意味での社会部記者の記者魂を保持している人だ。」と望月に好意を寄せており[31]、その取材姿勢に対しても「政権と記者とのなれ合いの空気を一変させた」と評価している[32]
ジャーナリストの青木理は「会見で率直にただすのは当然で、こういう記者が増えれば日本のメディア会見もずいぶん風通しがよくなるのでは」とコラムで評価している[33]
否定的な評価[編集]
評論家石平は、中華人民共和国民主化運動に深く関わり後に日本に帰化した自身の経緯を踏まえて、「彼女のやっていることは、何のリスクもない民主主義国家で意地悪質問で政府の記者会見を妨害するだけだ。そんなのを『権力と戦う』とは、吐き気を催すほどの自惚れだ!」と批判している[34]
産経新聞2017914日の記事で「根拠が定かでない情報や私見を織り交ぜた質問も多い」と評している。記事は望月が官房長官会見の場で発言した「官房長官が出会い系バーに行って、女の子たちの実態を聞かないのか?」や「金正恩委員長側の要求に応えるよう冷静に対応するように働きかけることをやっているのか」等を取り上げた[12]
l  著書[編集]
単著
望月衣塑子 『武器輸出と日本企業』 角川書店角川新書〉、2016710日。ISBN 978-4-04-082086-6
望月衣塑子 『新聞記者』 角川書店角川新書〉、20171012日。ISBN 978-4-04-082191-7 2019年に映画化。『新聞記者 (映画)』を参照。
共著
池内了古賀茂明; 杉原浩司; 望月衣塑子 『武器輸出大国ニッポンでいいのか』 あけび書房、2016923日。ISBN 978-4-87154-148-0
古賀茂明; 望月衣塑子 『THE独裁者』 ベストセラーズ、2018126日。ISBN 978-4-58413-840-3
望月衣塑子森ゆうこ 『追及力』 光文社新書、2018117日。ISBN 978-4-334-04330-8
望月衣塑子マーティン・ファクラー 『権力と新聞の大問題』 集英社新書、2018615日。ISBN 978-4-087-21037-8
永田浩三; 望月衣塑子 『フェイクと憎悪 : 歪むメディアと民主主義』 大月書店、2018618日。ISBN 978-4-272-33094-2
望月衣塑子伊藤詩織三浦まり; 平井美津子猿田佐世 『しゃべり尽くそう!私たちの新フェミニズム』 梨の木舎、20189月。ISBN 9784816618055
望月衣塑子; ぼうごなつこ; 佐々木 芳郎 『「安倍晋三」大研究』 ベストセラーズ、2019526日。ISBN 978-4584139059
望月衣塑子前川喜平マーティン・ファクラー 『同調圧力』 角川書店角川新書〉、201968日。ISBN 978-4040823027
寄稿[編集]
望月衣塑子「世界の潮 武器輸出の旗振り役誕生 : 防衛装備庁発足」『世界』第876号、岩波書店201512月、 25-28頁、 ISSN 0582-4532 NAID 40020635122
望月衣塑子「国策化する武器輸出 : 防衛企業関係者は何を思うか (特集 死の商人国家になりたいか)」『世界』第883号、岩波書店、20166月、 90-99頁、 ISSN 0582-4532 NAID 40020811318
望月衣塑子「安全保障技術研究推進制度と共同研究協定 (特集 軍事研究と学術)」『科学』86第10号、岩波書店、201610月、 1037-1043頁、 ISSN 00227625 NAID 40020939258
望月衣塑子「メディアは政権の支配を脱したか 萎縮・忖度からあるべき姿へ」『Journalism』第328号、朝日新聞出版、20179月、 ISBN 9784022811073
南彰(朝日新聞)・望月衣塑子「安倍政権ファクトチェック100 五年九カ月の言葉で振り返る」『世界』第913号、岩波書店201810月、 44-53頁、 ISSN 0582-4532
望月衣塑子「〈検証〉武器輸出――もうやめたほうがいいのでは?」『世界』第914号、岩波書店201811月、 96-107頁、 ISSN 0582-4532
l  出演番組[編集]
テレビ[編集]
l  脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
1        a b c d e f g h i 紀伊國屋書店. “角川新書 武器輸出と日本企業”. 2017623日閲覧。
2        a b c d e f g 紀伊國屋書店. “角川新書 新聞記者”. 20171013日閲覧。
3        ^ “AERA 2017626日号”. 201787日閲覧。
5        ^ “メディアは政権の支配を脱したか 萎縮・忖度からあるべき姿へ 論座#WEBRONZA 2017925”. 2017926日閲覧。
8        ^ 2017年メディアアンビシャス大賞 受賞一覧 201839日閲覧。
9        ^ 石川智也 (20191112). 望月衣塑子はタブーなのか? 森達也、新作『i』でメディアの忖度に迫る朝日新聞 20191126日閲覧。
10     a b AERA 2017124日号 5257頁「現代の肖像」望月衣塑子
16     a b “異例、東京新聞抗議 解禁前情報基に記者会見で質問” (2017921). 2017923日閲覧。
21     ^ 菅官房長官、東京新聞記者に「事実と違う質問すべきでない」産経新聞. (20181128) 2019228日閲覧。
22     ^ 東京記者の質問に「事実誤認」 官邸報道室が再発防止要請産経新聞. (20181228) 2019211日閲覧。
23     a b “[1] 北海道新聞社説 官邸の質問制限 「知る権利」狭める恐れ 2019210]”. 2019211日閲覧。
31     ^ 漂流キャスター日誌53 民進党が終わった日 WEB論座 20171010
32     ^ 「安倍政権の大罪 メディア支配」『週刊金曜日』1155号、金曜日、2017年、31-33
33     ^ 理の眼 無用のお貸し下げ舞台””毎日新聞. (2017919) 20171015日閲覧。



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