ドキュメント 電王戦  夢枕獏他  2014.4.24.

2014.4.24. ドキュメント 電王戦 その時、人は何を考えたのか

著者 

発行日           2013.8.31. 第1
発行所           徳間書房

2013年、歴史に残るドラマチックな戦いがあった。
プロ棋士 vs コンピュータ将棋ソフトによる55のチーム対局!
それは、我々にひとつの問いを突きつけた。
〈考える〉〈思考する〉という行為――
それは、人間だけの特別な力なのか、それとも、プライドという名のもと、人類に科せられた呪縛であるのか?
電王戦とは、一体何だったのかが、ここに語られる

はじめに
2013.3.23.4.20. 第2回電王戦
日本将棋連盟所属のプロ棋士と、コンピュータ将棋ソフトとの55の団体対抗戦
ニコニコ動画で2百万人
結果 131引き分けで人間側の負け越し
ルール 持ち時間各4時間

夢枕獏 「電王戦、その意義」
米長会長の置き土産 ⇒ 第1回を孤独に戦った米長だからこそできた決断
米長の『われ敗れたり』には、人間は年を取ると脳が衰えるという老いを意識したうめきが生々しく書かれている。がんの闘病中の昨年1月にコンピュータ将棋ソフト「ボンクラーズ」と戦って敗れた後、12月に逝去
コンピュータを開発した人も正装して対局者と同じように心の準備をしてきている ⇒ 人間対人間のドラマ

勝又清和6段 電王戦にいたる道程
1997年、IBM作成の「ディープ・ブルー」がチェスの世界チャンピオンのガルリ・カスパロフを破ったことが世界中の大ニュースとなったが、将棋はチェスとは頭脳ゲームの兄弟ながら「持ち駒再使用」というルールがあるため、コンピュータにとっては難しいゲームだったが、それがついにプロ棋士に実力が追いつくまでに強くなった
07年、渡辺竜王が「Bonanza」と対戦し、Bonanzaが善戦
10年、コンピュータの合議制ソフト「あから2010」が清水市代女流王将を破る
12年、米長将棋連盟会長(当時)がドワンゴの会長に、「コンピュータと戦うとしたら、羽生善治なら780百万円、女流トップで76.7百万円、自分だったら10百万円」と宣言したところから始まった第1回で、米長と「ボンクラーズ」が戦い、コンピュータが勝利
13年、第2回電王戦 世界コンピュータ将棋選手権の15位のソフト、プロ棋士は立候補と主催者の推薦で選ばれた5
プロ棋士とは ⇒ 13年度は160
世界コンピュータ将棋選手権は1990年に始まる。東大系のプログラマーが出てきて98年に優勝してから強くなる
06年、カナダの法人化学者が開発したBonanzaが初出場初優勝
ハードのスペックが高くなったことで、「全幅探索」が可能となり、「機械学習」によって人間における形勢判断を、駒の損得、駒の働き、玉の堅さ、手番といった要素から局面の善し悪しを判断する作業をすべて数値化
米長は、△6二玉の奇策で機械学習による形勢判断を狂わそうとした。初手△6二玉というのはプロの公式戦では1局もない。さらに玉自ら敵陣へのトライを狙って前半有利に進めたが、途中で流れが変わり敗れる
コンピュータ将棋がプロ将棋を変える、そういう時代が来ようとしている

2013.4.13. 羽生善治(棋聖、王位、王座) x 川上量生(ドワンゴ会長)
川上 現在世界最強の「GPS将棋」はパソコン約600台を繋げて29手先まで読める。羽生は3040手先を読むと聞くが
羽生 プロの棋士でも10手先を読み当てるのは相当難しい。97年にチェスの世界ではコンピュータに負けたが、それによってチェス界が衰退したという話は聞かない

第1局     ○阿部光瑠4 x 習甦(しゅうそ、開発者:竹内章)
阿部4段 ⇒ 1994年生まれ。竜王戦6組。順位戦C2
習甦 ⇒ しゅうそ。第22回世界選手権決勝5位。開発者:竹内章
大盤解説担当: 阿久津主税7
阿部4段の完勝

第2局     佐藤慎一4 x ponanza
佐藤4段 ⇒ 1982年生まれ。竜王戦6組。順位戦C2
ponanza ⇒ 第22回世界選手権決勝5位。開発者:山本一成
大盤解説担当: 野月浩貴7
密集した局地戦では処理速度の速いコンピュータが人間を凌駕するが、漠然とした広い局面で全体を見る能力は人間が勝る
持ち時間の余裕をもって考えることが必要
プロ棋士の一般的持ち時間は36時間

第3局     船江恒平4 x ○ツツカナ
船江4段 ⇒ 1982年生まれ。竜王戦5組。順位戦C1
ツツカナ ⇒ 第22回世界選手権決勝3位。開発者:一丸貴則
大盤解説担当: 鈴木大介8
終盤になるとコンピュータが強いという印象

第4局     塚田泰明9 x Puella α(引き分け)
塚田9段 ⇒ 1964年生まれ。竜王戦4組。順位戦C1
Puella α ⇒ 第22回世界選手権決勝2位。開発者:伊藤英紀(「ボンクラーズ」と同じ)
大盤解説担当: 木村一基8


第5局     三浦弘行8 x GPS将棋
三浦8段 ⇒ 1974年生まれ。竜王戦1組。順位戦A級。96年度棋聖
GPS将棋 ⇒ 第22回世界選手権決勝1位。開発者:東京大学ゲームプログラミングセンター
大盤解説担当: 屋敷伸之9


総括  大崎善生
コンピュータが、これまで独り占めしてきた棋士たちの名誉や立場を悉く簒奪するように思えて背筋を寒くしたが、今回の電王戦が大きな注目を集めた最大の理由も、その簒奪の過酷さとそれを何とか守ろうとする棋士たちの戦う姿に、まるでSF小説を現実に見せられているというリアリティがあったことと、棋士という立場を守ろうとする5人の戦士たちに何らかのロマンチックなものを感じたこと、それにも増してコンピュータが冷徹なまでの強さを発揮したこと、この第2回をもってコンピュータと人間の順位は正式に入れ替わったと言ってもいいのかもしれない
1局は、コンピュータの性能を見抜いての人間側の勝利
2局は、序盤の誘導を受けないように定跡プログラムをわざと外して挑んだというコンピュータ側の歴史的な勝利
3局は、第4手が人間の手によって指示されているという後味の悪いものになったが、その後のコンピュータの差し回しは素晴らしかった
4局は、コンピュータの弱点を突いた入玉決め打ちが賛否を呼んだ
5局は、人間の先入観の隙を突いた仕掛けをコンピュータが敢行、現役A8段に圧勝するという衝撃の結末




ドキュメント電王戦その時、人は何を考えたのか []羽生善治ほか
[評者]原真人(本社編集委員)  [掲載]朝日 20131013   [ジャンル]ノンフィクション・評伝 
人間対人間のドラマだった

 この春開かれたプロ棋士とコンピューター将棋ソフトの55の団体戦「電王戦」を200万人がニコニコ動画でみた。棋戦を超えた「人間対機械」という意味合いに関心も高まったのだろう。
 結果は棋士側の131分け。チェス王者がソフトに敗れてから16年。より複雑な将棋でもついに人間が負かされる時代がやって来た。本書はこの戦いに参加した棋士やソフト開発者らの証言集だ。
 将棋ファンである作家の宮内悠介や海堂尊、漫画家の柴田ヨクサルらによるインタビューが秀逸だ。技術面だけでなく、哲学的な質問も次々とぶつけ、次第に選手たちの精神世界をあぶり出していく。
 棋士たちは「対戦相手の表情から苦しいのは自分だけじゃないと思えるのだが、コンピューターは顔が見えず苦しんだ」「100メートル走なら人間が車に負けても当たり前。なのに将棋では同じ気持ちになれない」などと打ち明ける。
 一方で、ソフト開発者たちも自局以外では棋士たちに負けて欲しくないと思ったり、対局に正装で立ち会ったり、ウエットな一面を見せる。
 作家の夢枕獏は観戦していて「無駄なことを考えないのが人間。意味のないことまで考えるのがコンピューター」と気づく。そして、その機械を制御して戦うのはあくまで人間であり、「これは人間対人間のドラマだ」という。
 ただ完全解析が可能なゲームなので、いずれ人間が勝てなくなる日は来る。それは、将棋の終わりを意味することだと皆どこかで恐れている。
 三冠・羽生善治の感想がふるっている。そのときはルールを一つ変えるだけでいい、解明された答えが遠のき、また新たな問いが浮かぶ、と。
 産業革命以来、人間はずっと機械と能力を競ってきた。SF映画では、人類の未来の敵と言えば、宇宙人か機械と相場が決まっている。本書はその戦史に刻まれる、貴重な「人間たち」の記録である。
    
 徳間書店・1680円/30人近くの対談、インタビュー、執筆で構成されている。


3回将棋電王戦全5局を総括。「14敗」の意味するものとは?
2014.04.20 デジタル
 2014412日、将棋のプロ棋士5人と5つのコンピュータ将棋ソフトが対決する団体戦『第3 将棋電王戦』が閉幕した。最終結果はプロ棋士側の14敗で、昨年の『第2回』と合わせると271引き分け(持将棋)と大きく負け越し。現在のコンピュータの実力は、プロ棋士の平均どころか、間違いなくトップクラスと言ってよいものであることは明らかだ。

 人間とコンピュータが将棋を指したら、どちらが強いのか。そのシンプルな疑問に答えるための棋戦としての電王戦は、いま大きな岐路に立たされている。もう決着はついてしまったのではないか。強くなる一方のコンピュータに対して、たとえこれから森内俊之竜王名人、羽生善治三冠、渡辺明二冠のようなタイトルホルダーをぶつけても、すでに手遅れなのではないか。

 しかし『第1回』から取材を続けてきた記者としては、そう単純に「もう電王戦は終わった」「コンピュータは名人を超えた」とは言いがたいところがある。それは一将棋ファンとしてプロ棋士に肩入れしているからでも、この記事を読むであろう将棋関係者に対して不用意な発言は慎もうなどという意図からでもない。その逡巡の理由を『第3回』の総括をしながら考えていきたい。

 まずは『第3回』の将棋の内容を、それぞれ大まかに振り返ってみよう。当日の放送を見ていない方も、電王戦の公式サイトから無料でニコニコ生放送のタイムシフトや棋譜などを確認できるので、ぜひご覧いただきたい。

1局 菅井竜也五段vs習甦

 先手の真っ向勝負の中飛車を後手が厚みで押しつぶしたという将棋。実は『第2回』でツツカナと対戦した船江恒平五段は、当時から検討室で「コンピュータは(振り飛車と居飛車の)対抗系だと、どちらを持っても強い。なかなか勝てない」と語っていた。その意味では、振り飛車党の菅井五段は目先の勝ち負けよりプロとしての矜持を優先したとも言える。練習対局の勝敗はほぼ五分だったようだが、若手屈指の実力を持つ菅井五段が力負けしてしまったという意義は重い。

 なお船江恒平五段の発言はツツカナとの対局前のもので、将棋の内容に大きく影響する可能性があったため、当時は記事にすることを控えていた。しかし、現在では複数のプロ棋士があちこちのメディアでコンピュータの対抗系での強さを証言している。ちなみにコンピュータ同士の対抗系では居飛車側の勝率が非常に高いため、特別な設定が施されていない限り、コンピュータが振り飛車を選択することは少ない。

2局 やねうら王vs●佐藤紳哉六段
 やねうら王の初手端歩突き(1六歩)には開発者も含め誰しも驚かされたのだが、結局は先手四間飛車に対して後手居飛車穴熊と、アマチュアにもおなじみのきわめてオーソドックスな戦型に落ち着いた。プロレベルだとたいてい穴熊側が勝つためプロの対局ではあまり見られなくなった形だが、佐藤六段の一瞬のスキを突いた6四歩打~7三歩成からやねうら王が優勢になり、そのまま押し切った。

 第1局に続いて中盤で拮抗し、指し手の選択肢が広い局面(将棋用語で「ねじり合い」と呼ばれる)になった。ねじり合いでは直観で指し手をしぼって読む人間に対し、先入観なくベタ読みするコンピュータの計算速度が最大限に活かされるため、人間側が不利になりやすいのではないかということが言われ始めていた。むしろ人間が勝つとすれば、直線的に長手数を読めるような、選択肢の少ない激しい戦いではないか、と。

3局 豊島将之七段vs●YSS
 豊島七段が、プロの実戦ではほとんど前例がない「横歩取りでの6二玉」の形にYSSを誘導して見事に圧勝。1000局近くシミュレーションしたという深い研究でYSSの弱点を知り尽くしていたのでは……と終局直後は思われていたのだが「6二玉になる確率は5%程度」で、たとえ6二玉でも必勝とは言えず、それどころか難しい変化もあって成否はわからないというのが実情だったようだ。

 コンピュータとの対局で事前に貸し出しがあれば、必勝法を見つける、あるいはそれに準ずるような研究が可能ではないかと思われるかもしれない。しかし、プロ棋士数名に尋ねてみても、電王戦レベルのコンピュータが相手では、よほど時間をかけて数千局の統計をとっても、指し手の傾向をつかんだり、やっと中盤で少し有利かなという展開にできる程度だという。もちろん実際の対局では、その研究から先も最後までノーミスで指し続ける必要がある。

 中盤までは超早指しで、ねじり合いにはせず、思い切りよく攻めこんで指し手の選択肢を減らし、勝負どころでしっかり時間を使う等、この将棋は実際のところ、たんに「豊島七段がうまく指した。強かった」というのが正しいだろう。そもそも豊島七段は菅井五段と同じく通算勝率7割超えの超強豪である。デジタルに強く考え方も柔軟な若手というのも、コンピュータの相手として適していたと言えるのではないか。

4局 ツツカナvs●森下卓九段

 相矢倉の定跡「森下システム」で知られる森下九段にふさわしい、がっぷり四つの相矢倉の将棋に。いくつかコンピュータらしいアクロバティックな指し手や手順があったが、優勢になってからは着実に自分の優位を細かく積み重ねる「まるで森下九段のような」指し回しを見せたツツカナが勝利した。

 基本的に相矢倉は先手が主導権を握ることが多い戦型なので、できれば森下九段の先手番で見てみたかった将棋ではある。とはいえ森下九段を相手に横綱相撲を見せたツツカナは、やはり強い。終局後の森下九段は思いのほか明るく、ツツカナのおかげで将棋に対する熱意が復活したと語り、実に楽しそうな姿がきわめて印象的だった。

 ちなみに森下九段は、この対局の前から、コンピュータと指すときの新しいルールをいくつか提案している。まず決して物忘れをしないコンピュータに対抗して、頭のなかだけでなく「自由に動かしてよい盤駒を別に用意する」こと。また持ち時間を使い切ったあと、秒読みではなく「115分」などにして、できるだけ「ヒューマンエラー」をなくすこと。大きな部分はこの2つだ。

 記者会見で森下九段は「このルールなら私でも5局全勝まちがいなし!」と豪語していたが、この提案の真の意図は、これなら人間がコンピュータに勝てるから、という話ではない。どちらが勝つにせよミスで勝負が決まることが減り、より純粋な将棋の技術の攻防を見せられるという趣旨である。

 さすがに電王戦全体にこのルールを適用するのは時期尚早というか、プロ棋士が盤駒を使って検討しながら戦う姿を見たくない将棋ファンも多いかもしれないが、昨年末の『電王戦リベンジマッチ』や『電王戦タッグマッチ』のように、森下九段がエキシビション的にツツカナと再戦するなら、その際はひとつお試しとして、このようなルールでもよいのではないだろうか。

5局 屋敷伸之九段vsPonanza
 大将戦は、なんと第3局と同じ「横歩取りでの6二玉」の形に。もちろん屋敷九段は、勝ちやすいと考えて誘導したはずだ。またプロ棋士とコンピュータの見解が食い違っていたという意味では、おそらくこの対局が最も好対照だった。終盤の入り口まで、プロ棋士はほぼ全員先手持ち、検討室のコンピュータはすべてが後手持ちという状態だったのだ。

 特に注目すべきは、88手目の7九銀打からの十数手。この88手目まで屋敷九段は駒損した上に攻めこまれているが、駒の効率は自分のほうが良く、ギリギリ勝てると見込んでいた。7九銀打には、王様が手順にスルスルと逃げ出せるので「驚いたが、ひと目ありがたい」と考えていたようだ。検討室のプロ棋士たちの直後の見解も、ほぼ同様だった。

 一方で、開発者たちは自分たちのソフトがはじき出す評価値をあまり信用できていないようだった。7九銀打以降、王様が上の方に逃げ出す展開だと評価関数がうまく働かなくなるからだ。コンピュータが苦手な入玉の状態に近くなればなるほど、そうした傾向は強くなる。開発者たちは「自分のソフトが負けるときによくあるパターン」を熟知しており、本局は開発者たちの直観では怪しい雰囲気が漂っていたのだ。

 厳密な判断はきわめて難しい一手だが、局後にPonanza開発者・山本一成氏がブログに公開した自戦記の内容も含めて考えると、当面の結論として7九銀打は、やはりあまり好ましくない手だったのではないだろうか。この段階では屋敷九段のほうがPonanzaより正しく局面を評価しており、自分の間違いに気づき始めたPonanzaがなんとかしようと指した勝負手というイメージだ。

 屋敷九段の103手目8一成香がほとんど唯一の、しかし重大なミスで、かわりに6六歩や4九飛であれば、いったいどんな将棋になっていたのか……というところ。昨年の大将戦はGPS将棋が底知れない強さを見せたが、今年はむしろ敗れた屋敷九段の強さ、大局観や形勢判断の正確さが光ったように感じている。
 全体的な話としては、コンピュータ側は昨年より明らかにひと回り強くなっている。『第3回』ではハードウェアがドスパラの「GALLERIA」に統一され、『第2回』のように何十台、何百台ものマシンを使ったクラスタ構成は取れなくなったが、ソフトの評価関数の精度は上がっている。もし来年『第4回』があれば、さらに強くなることが容易に予想される。
 しかし、それでもなお記者は「もう電王戦は終わった」「コンピュータが名人を超えた」とは言いがたい。何をもって「終わった」「超えた」とするかという定義の問題もあるが、まず実際の将棋の内容と、プロ棋士や開発者たちの発言を総合すると、271引き分けという数字ほどの差を感じないというのが大きい。もちろん、このレベルの極限の勝負では、ほんのわずかな差がモノを言うところではあるが。

 そもそも現役のタイトルホルダーがまだ電王戦に出場していないということもある。日本将棋連盟会長の谷川浩司九段は、記者会見で「タイトルはスポンサーのもので、将棋連盟のものではない(ので自分たちだけで電王戦に出場させることを決定できない)」というニュアンスで立場上苦しいコメントを出していたが、さすがにそろそろ、どうにかしないとマズイ状況かもしれない。

 コンピュータは本当に強くなった。そのことは3回にわたる電王戦を通して、もう世間にも十二分に知れ渡っている。またその間、プロ棋士たちもコンピュータ将棋ソフトの仕組みや指し手の背景にある読みの傾向などについて、すさまじい速度で詳しくなっている。それはこの『第3回』で取材するなかで記者が特に感じた部分だ。

 たとえば菅井五段は、この『第3回』でYSSPonanzaが指した「横歩取りでの6二玉」を改良し、郷田真隆九段に快勝している(棋聖戦決勝トーナメント:48日)。コンピュータは進化するが、プロ棋士たちも強くなる。研究も日々、更新され続けている。一方的にコンピュータの成長速度に追い抜かれるだけでなく、抜きつ抜かれつというストーリーも、ありえない話ではないのではないか。


 一切が未定という『第4回』に対する世間的な期待は、やはりタイトルホルダーの登場だろう。しかし、個人的には今年と同様のルールでプロ棋士側にタイトルホルダーなしでも、勝ち負けは別にして、十分に面白い将棋を見られると考えている。塚田泰明九段が第4局の記者会見で発言していたように、対コンピュータ戦には向き不向きもある。『第2回』と『第3回』で若手のみが勝ち星を挙げたことを考えれば、若手メインの5人であっさり勝ち越しというのも、まったくない話ではない。

『第3回』のニコ生のリアルタイムの総来場者数は213万人と前回を上回り、第5局は71万人と1番組あたりの過去の将棋放送史上最高を記録したという。はたして来年はどうなるのか。開催そのものも、55の団体戦になるのかもまだ不明だが、勝ち負けでも将棋の内容でもそれ以外の部分でもよいので、また電王戦が将棋にとって、人間とコンピュータにとって、新しい驚きをもたらす未来を期待したい。

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