インターネット ガバナンス  Laura DeNardis  2016.1.29.

2016.1.29. インターネット ガバナンス 世界を決める見えざる戦い
THE GLOBAL WAR FOR INTERNET GOVERNANCE  2014

著者 Laura DeNardis アメリカン大学コミュニケーション大学院教授。フォーチュン500企業や、政府機関等のアドバイザー、米国務省の国際情報通信政策アドバイザーリー委員会のメンバーを務める。インターネットガバナンスの世界的研究者

訳者 岡部晋太郎 2007年総務省入省。情報通信政策の企画・立案や情報通信産業の調査分析に従事、情報通信国際戦略局国際政策課所属。ミシガン大公共政策学修士

発行日           2015.9.20. 初版印刷          9.30. 初版発行
発行所           河出書房新社

訳者まえがき
インターネットガバナンスとは、特定の1つの管理者を持たないインターネットを運営する方法や体制
インターネットは、様々なネットワークの集合体で、それぞれのネットワークは異なる国において異なる文化の下、異なる主体によって管理されており、インターネット全体に責任を持つ管理者は存在しない。ということは、逆に言うと誰もがその管理に参加できることを意味するため、インターネットが社会のインフラとして浸透するにつれ、国家をはじめとした様々な主体がインターネットの管理に参加してきており、これまで培われてきたインターネットの在り方が変わろうとしているとともに、インターネットを今後どう運営していくかが世界中で議論となっている
きっかけとなったのは、スノーデン事件。米国政府がインターネット上で大規模な諜報活動を行っていたことが暴露され、インターネットの運営の在り方に関する議論が急速に高まる

第1章        インターネットを管理する?
インターネットガバナンスを巡る争いは、政治・経済に関する権力が展開される、21世紀における新たな空間で行われる
本書の目的の1つは、インターネットが今現在どうガバナンスされているか、特にインターネットガバナンスを支える諸構造とガバナンスに関わる国際的な組織が持つ力を通じて、どのようにインターネットがガバナンスされているのかを明らかにすること
エンジニアの観点から、インターネットの実際の運用の在り方を理解するために必要となる技術的・歴史的な基本知識を提供したい
ガバナンス上の問題とは、技術的・経済的効率性に関わる問題であるとともに、セキュリティや個人の自由、イノベーション政策、知的財産権といった社会的な価値がどう媒介されるかに関わる問題でもある
グローバルなインターネットガバナンスに関して議論することは、これらの社会的価値をどう両立させるかについて考えることを意味する
これらの論争を社会の関心の下に置く必要があること、そしてインターネットガバナンスの未来と私たちの将来における表現や経済の自由が関係していること、その2つのことを示すことがこの本執筆の端緒
ドメインネームシステム(DNS=名前解決)  分散化されたサーバー群のことで、人間が読むことのできる英数字からなるドメイン名を、情報を宛先に届けるためにコンピューターが読み取る2進級のIPアドレスに変換するシステム。唯一のドメイン名を唯一のIPアドレスへ普遍的かつ一貫性のある形で読み換える。自律システムの1つでもある
このプロセスは、インターネットレジストリと呼ばれる機関によって監督されている
中でも権威レジストリと呼ばれるレジストリは、.com.edu等の各トップレベルドメインのドメイン名とIPアドレスをマッピングする(対応づける)中央集権化されたデータベースを管理している
.comを運用している権威レジストリはベリサインという会社で、ドメイン名とIPアドレスをマッピングした権威レジストリを、インターネットサービスプロバイダ等のネットワーク事業者が運用する「リカーシブサーバー」に配信することで、場所や国を問わず一貫して名前解決をする、普遍的で標準化されたメカニズムを作り出している
DNSフィルタリングによって、インターネットサービスプロバイダにレジストリから受け取る権威情報に手を加えさせ、ウェブサイトをフィルタリングしトラフィックの向かう先を変えることができるが、各国政府は本来主権の及ばない外国のレジストリにより管理されているトップレベルドメインについてもフィルタリングできないかを検討中
その一例が、米国議会による「オンライン著作権侵害行為防止法案SOPA」や「知的財産保護法案Protect IP Actまたはオンライン上の経済的創作活動に対する脅威と知的財産の窃取を防止する法案PIPA」はその典型例
インターネットガバナンスは、インターネットが動き続けるために必要な技術を設計・管理し、それらの技術を取り巻く実質的な政策を決めることを主な目的としている。この技術的なアーキテクチャには様々なシステムが層をなしている。具体的には①インターネットの技術標準、②インターネットにアクセスするために必要となる2進級のIPアドレスをはじめとする重要なインターネット資源、③DNS、④検索エンジンや金融取引ネットワーク等の情報媒介システム、⑤ネットワークレベルのシステム(インターネット接続やインターネットエクスチェンジ、インターネットセキュリティの媒介者等)
(1)        インターネットガバナンスの概念的フレームワークとなる5つの特徴
1.   技術的なアーキテクチャの決定が権力構造を決める  インターネットガバナンスを支えるインフラであるアーキテクチャが持つ政治性や内在的な価値を明らかにする
2.   コンテンツ管理の1形態としてインターネットガバナンスを支える技術が使われるようになってきていること
3.   インターネットガバナンスが民営化されていること  民間の主体が情報媒介者であれ金融決済や諸取引の媒介者であれ、これまで政府が担ってきた法執行機能を金銭的補償なしで実行することが求められ、しかもそれは多くの場合追加的費用の支払いが必要であったり、場合によっては責任を追及されたりすることさえある
ただ、民営化されたといっても、インターネットの規制について国家がすべての権限を明け渡してしまったわけではない
4.   インターネットのコントロールポイントが、衝突し合う価値観を巡るグローバルな争いの場となっていること  コントロールポイントが技術的な仕様や政策策定、非政府機関による交渉を通じてグローバルな緊張関係が解消される場となっている
5.   インターネットがグローバル化することによりローカルな地政学と集合行為問題(ある集団全体の目標に向けて合理的に行動することが、集団の構成員個人を利することにならない場合、集団の目標が結果として達成されないこと)の間に緊張が生じていること
(2)        インターネットガバナンスに含まれるもの
インターネットとその前身であるネットワークのガバナンスは1969年以来続いている
ガバナンスの境界線を意識せずに、誰かが技術標準を決定し、唯一のIPアドレスを分配し、ネットワークの様々な部分に組み込まれる価値観を選択してきた
1.   インターネットガバナンス研究は、インターネット利用に関する研究とは異なる
2.   インターネットガバナンスに関する諸問題とは、情報通信技術に関する広範な仕様や政策に関する問題ではなく、インターネット特有の技術的アーキテクチャに関わる問題である
3.   インターネットガバナンスにおいて行われることとは、標準化団体(ICANN)において行われることにとどまらず、民間企業が設定するルールや国家政策、国際条約、技術的なアーキテクチャの仕様等を含む
4.   インターネットガバナンスは、相互運用性や知へのアクセスを促進させる構造的なコントロール形態を含むものであるとともに、インターネットにおける自由を制限するための技術をも含む

第2章        インターネットを動かす重要な資源
日々インターネットが動き続けるために不可欠な「重要インターネット資源Critical Internet Resources」のコントロールに関して、その技術的な複雑性と、歴史的に議論を巻き起こしてきた分野について取り上げる
CIRには、IPアドレスやAS番号(各自律システムに割り当てられる唯一の2進級の番号)、ドメイン名が含まれる
DNSによって与えられる仮想識別子は、世界において唯一のものでなければならないという要件が、中央集権化された管理を必要とし、その資源を誰がコントロールし、保持するのかといったことに関するグローバルな争いは、インターネットガバナンスにおいて長く続く問題の1
CIRとは、インターネットに固有の論理的資源のことで、グローバルに唯一の識別子で、ある程度の中央集権的な調整を要するという特徴を有する  これら資源の運用上の重要性が、グローバルな唯一性という技術的要件と相俟って、何らかの形の中央集権的な監督を必要とし、そのことがこれらの資源を誰がコントロールし、どう配分するのか、という議論のもととなっている
識別子は、69年当初には5ビット、72年には8ビット、81年には32ビットに拡大(ビットとは、0か12進数のこと)
一般的には、ドット付き10進表記法と呼ばれる略記法で表される  32ビットを8ビットづつに分け、それぞれを2の倍数を使って10進数に変換してドットで区切る表記法  01000111  0+64+0+0+0+4+2+171
32ビットによる表記法では43億個の唯一のアドレスを使用することが可能だが、ウェブができた後は不十分となり、利用可能なアドレス数を増やすためのインターネットプロトコルヴァージョン6(IPv6)を推奨、125ビットにまで拡大
ドメインとは管理者のこと。ドメインの目的と期待される使用方法とは、集権的な管理を要する名前管理機能を分割し、下位の管理者に割り当てること
中心となるのは「トップレベルドメイン」というシステム  1984年スタンフォード研究所内SRINetwork Information Center:NICがすべてのドメインの調整者としての役割を果たし、最初に作られたのは政府のための .gov、教育機関のための .edu、商業利用のための .com、軍事機関のための .mil、様々の組織のための .org、国名を表す国際標準化機構ISO2文字の標準コードを基にした国別コードに従って国別コードトップレベルドメイン(ccTLD:英国の .ukや中国の .cn)などが作られた
各トップレベルドメイン空間はさらにサブドメインに分けられ、www.law.yale.eduといったURLの構文により表現  yaleが第2レベルドメイン、lawが第3レベルドメインという階層構造を持ち、各ドメインの管理調整はそれぞれのサブドメインに任される
DNSにおける技術的な頂点とは、インターネットのルートサーバーとルートゾンファイル、さらに正確に言うとルートゾーンデータベースとして知られる、1つの原ファイルから構成される
DNSと並んで重要なのがAS番号(Autonomous System)  通信企業やコンテンツプロバイダー、インターネットサービスプロバイダ等のネットワーク事業者が持つそれぞれの自律システムを相互に接続してインターネットが構成されるが、それは共通のルーティングプロトコルに従ってそれぞれの機器が作られているからで、それぞれの自律システムごとに統一された世界で唯一の2進数で表されるAB番号によって事業者が識別される。共通のプロトコルはBorder Gateway Protocol:BGPとして知られる
ハーバード大は11、イエール大は29、スタンフォード大は32、グーグルは15169Facebook32934(2進数?)  IPアドレスと同様、誰がその番号配分をコントロールし、どう配分しているのか?
インターネットの名前や番号は、当初1人の個人・ジョン・ポステルによって管理され、その機能はIANA:Interneto Assigned Numbers Authorityと呼ばれ、米国商務省との契約により規定されていた  IANAは最終的に加州で設立された民間非営利の会社として、1998年に米国政府との契約下に設立されたICANNという組織の1機能となった
ICANNは以下の機能を提供:
   IP番号ブロックを地域インターネット番号レジストリに直接割り振るための方針決定とその割り振り
   地域インターネットルートサーバーシステムの監督
   新たなTLDがルートサーバーシステムに加えられた際の政策決定の監督
   普遍的な持続性を維持するためのインターネットの技術パラメータの割り当ての調整
ICANNがインターネットのドメイン名とアドレス双方に持つ重要なガバナンス権限と、米国商務省との契約上のつながりはずっと物議を醸してきている
ルートゾンファイルの管理・監督は、米国商務省の内部機関である電気通信情報局NTIAによって行われ、NTIAは一部の機能をバージニアのベリサイン社に委
ルートサーバーシステムは12の組織にある13の別個のルートサーバーによってコントロールされている  「運用事業者間の高レベルの信頼」に基づく「密接に結び付いた技術集団」
ホスト名
管理者
a.root-servers.net
VeriSign. Inc.
b.root-servers.net
Univ. of Southern California
c.root-servers.net
Cogent Communications
d.root-servers.net
Univ. of Meryland
e.root-servers.net
NASA
f.root-servers.net
Internet Systems Consortium, Inc.
g.root-servers.net
U.S. Dept. of Defense
h.root-servers.net
U.S. Army
i.root-servers.net
Netnod
j.root-servers.net
VeriSign. Inc.
k.root-servers.net
RIPE NCC
l.root-servers.net
ICANN
m.root-servers.net
WIDE Project
サブドメインの運用管理は、レジストリ運用事業者に委任され、運用事業者はトップレベルドメインを管理する  ベリサインは、 .com .netをはじめとするドメインを運用、中国科学院にある中国ネットワークインフォメーションセンターは .cnドメインに責任を持つ
トップレベルドメインは数百のレジストラを持ち、それれは様々なトップレベルドメイン内のドメイン名を割り当てられ、ウェブで使うドメイン名を顧客に販売している
IPアドレスの配分  現在はICANN下にあるが、もともとはIANAIPアドレスとAS番号に配分を担っており、アドレスの備蓄と割り当て権限を以下の5つの民間非営利組織である地域インターネットレジストリRIRに委任
l  AfriNIC(アフリカ)  2004年承認
l  APNIC(アジア太平洋)
l  ARIN(カナダ、アメリカ合衆国、北大西洋諸島)
l  LACNIC(ラテンアメリカ、カリブ)  2005年承認
l  RIPENCC(ヨーロッパ、中東、中央アジアの一部)
インターネットガバナンスが出来上がった21世紀の初頭より、ICANNRIRの新規設立を監督しているが、今後これ以上増やさない意向
IPアドレスとプライバシーの関係  インターネットは誰もが匿名で参加できる公共の場のように見えるが、立ち入るためには個人を特定できる情報を持つ管理者の承諾が必要であり、インターネット上でやり取りされる情報に付け加えられるISPから与えられた唯一の番号識別子と、ネットワークサービスプロバイダが収集している個人の身元を特定するデータが組み合わさると、重大なプライバシー上の問題が生じる
トップレベルドメインTLD拡大のインパクト  米国商務省の監視のもとにICANNが承認するが、巨大市場をもたらすため、新規TLDの承認には慎重を要する。従来、ジェネリックトップレベルドメインgTLD22ccTLD250存在していたが、2012年初めにgLTDの一括募集があり、1930通の申請があった。多言語で書かれたものや多くの企業が商標化された企業名や製品名を使ったTLDを申請
.xxxは、アダルトエンターテインメント産業のためのTLD
CIRのガバナンスを巡る緊張は続いており、米国商務省もICANNへの影響力を漸減すると公表、国連のインターネットガバナンス作業部会も米国政府によるインターネットの名前や番号への一方的な監督を手放すよう直接的に求めたが、米国政府はルートゾーンファイル等の限られた部分については権限を保持し続けていて、ガバナンスに関する論争の中心テーマになっている

第3章        インターネットの標準を決める
インターネットプロトコルの政治性をテーマにする
インターネットプロトコルとは、異なる企業によって作られた機器が情報を交換するための標準(規格)または設計図のことで、下記のほか数百存在
l  Wi-Fi(fidelity)  ローカルな無線伝送を行うためのIEEE802.11仕様を基にした規格群
l  Bluetooth  免許不要の周波数を使う無線規格の1つで、極めて短距離の通信に用いられる
l  JPEG  画像ファイル標準
l  http  ウェブブラウザとサーバー間での情報のやり取りを可能にする
l  MP3フォーマット  音声ファイルを符号化し圧縮する
l  VolP  IPネットワーク上で音声をデジタル形式で伝送するためのコミュニケーション規格群
l  TCP/IP  ネットワークに関する基本的な標準で、インターネット進化の磁場の中心
1960年代終わり~70年代にかけて、米国防総省から財政的な支援を得て、インターネットプロトコルの開発が始まる。インターネットの父と呼ばれるヴィントン・サーフとロバート・カーンがTCP/IPプロトコル群の原型となるものを開発した技術者
TCPは伝送制御プロトコルであり、IPはインターネットプロトコルで、1970年代にアーバネット・プロジェクトで働いていた技術者たちによって開発され、1986年彼らが設立したIETFによって標準化が進められている
IP2つの重要なネットワーク機能の標準方式を提供  インターネット上で情報を伝達するためのパケットのフォーマッティングとアドレッシング
World Wide Web Consortium:W3C  もう1つの中心的なインターネットにおける標準化団体。ジュネーブの欧州原子核研究機構CERNの研究者・バーナーズ・リーが1989年分散型ハイパーテキストシステムを提唱、数年後にWorld Wide Webとして実用化し、94年にW3CMIT内に設立

第4章        サイバーセキュリティのガバナンス
重要なインターネットインフラを守るため、分散化された官民の責務について論じる
コンピューター緊急対応チームCERTや、信頼できる第三者として公開鍵暗唱方式によりインターネット上の取引を認証する認証局CAといった、インターネットセキュリティの保護を目的とする官民からなる組織的なフレームワークについて紹介
インターネットセキュリティを脅かす攻撃が近年、政治的活動の1形態として行われるようになってきていることも紹介

第5章        インターネットのコア
インターネットのバックボーンインフラが織りなす地政学と、ネットワークの相互接続とインターネットエクスチェンジにおけるピアリングの仕組みについて説明
相互接続合意を取り巻く技術的な仕組みや市場の仕組みについて説明
インターネットには1つの「コア」があるわけではなく、異なる事業者により運用され、お互いに接続し合うIPネットワークの集合体で、2つの通信事業者同士が接続し合ったり、複数の事業者が相互接続点を共有したりしてグローバルなインターネットを形成している  パケットを交換するために行われる技術的なネットワークの相互接続とビジネス上の契約は、インターネットガバナンスにおける重要な分野の1
ピアリング契約  ピアとは「同等の人」の意で、ピアリングとは同等のネットワーク規模を持つ事業者が無償でお互いのトラフィックを交換することを意味する
他のネットワークとのピアリング契約のみを通じて世界中のインターネットのどこにでも到達でき、トランジットコストを払うことのない事業者をTier 1という  レベルスリー(米国)、ベライゾン、AT&TNTTコミュニケーションズ
Tier 2事業者は、ピアリングはしているが、グローバルなインターネット全体に到達するためにTier 1事業者にコストを払って、彼らのネットワークを通じてパケットを送る
Tier 3事業者になると、トランジットを購入するだけで、売ることはない
インターネットエクスチェンジIXPは異なる企業のバックボーン回線が相互接続し、パケットを交換し、適切な目的地へパケットを送り届けるための物理的な接合点  最初に作られたのは1993年で、全米科学財団NSFがそのネットワークを民営化し、4つの企業、アメリテック、MFS、パシフィックベル、スプリントに運営を委託。翌94年にはロンドンインターネットエクスチェンジLINXが設立され、現在では世界中に100以上存在、多くは非営利組織で、途方もない量のトラフィックを交換することを基本的な使命としている

第6章        ネット中立性
インターネット政策上の課題の1つだが、地理的に閉ざされた問題
中立性の問題とは、ラストワンマイル(ネットワークの末端で、主にエンドユーザーである個人がネットワーク事業者を通じてインターネットに直接アクセスする手段を指す)のインターネット接続を取り扱うもの
中立性における根本的な問いとは、インターネットサービスプロバイダーが特定のインターネットトラフィックに対して差別的取り扱いをすることを法的に禁止すべきかというもの
「差別的」とは、特定のトラフィックをブロックし、また通信帯域を制限(速度を制限)すること
ネットワーク処理能力の急速な向上により、ネットワーク事業者がトラフィックの中身をチェックできるようになったため、ベイロード(情報の中身)上のコンテンツの中身によって、トラフィックの扱いを変えることがかなりの範囲で技術的に可能

第7章        SNSや検索エンジンが果たす公的役割
私的な情報媒介者が、グローバルな情報の流れをコントロールし、個々人のオンラインにおける権利を規定する際に果たす公共政策上の役割を考える
情報媒介者とは、通常、個人情報を収集することと引き換えに無料でサービス提供を行う民間企業のことで、サービス利用者に対してターゲティング広告を表示

第8章        インターネットと知的財産権
インターネットアーキテクチャと知的財産権の関係について検討し、その中でインターネットインフラが著作権や商標の保護のために使われていることを明らかにする
コンテンツ産業は著作権を保護するうえでのターゲットを、個人の訴追やコンテンツの削除に始まり、いまやインターネットインフラや情報媒介技術に移してきている
「スリーストライク制(段階的レスポンスともいう)」  知的財産権を複数回侵害した人の個人的インターネットアクセスを停止する制度
ドメインネームシステムDNSも、当初はコンピューターがサイトの場所を見つけ出すためにしか使われていなかったが、新たに開発された技術を加えることにより知的財産権を違法に販売・共有したと思われるウェブサイトへのアクセスをブロックできるようになり、知的財産権保護のためのインフラ的道具となりつつある
マルチメディアのデジタル化は、コンテンツの完璧な複製をたやすくした。処理能力の増加は無限となり、コンテンツのデータ処理を容易にしたし、通信容量の増加はコンテンツの伝送を可能にし、標準化された動画MPEGや音声MP3、画像JPEGの符号化フォーマットが異なる機器間でのコンテンツ利用を可能にした  そのことが海賊行為をも容易にし、デジタルコンテンツへの支配力の低下が主要なメディア産業にとって最大の経済的懸念事項となっている
知的財産権保護に使われる3つのインフラ
   著作権侵害サイトを罰するための検索順位付け  検索結果から直接リンクを削除するか、常習者のサイトの順位を下げるか、いずれかは決めかねている
   著作権侵害常習者のインターネットアクセスを遮断するスリーストライク制
   DNSを用いた知的財産権保護のためのドメイン名差し押さえ

第9章        インターネットガバナンスの暗黒技法
2011年 エジプト政府によって引き起こされ、数日間にわたり続いたインターネット接続の停止は、インターネットの歴史における衝撃的な政治事件
同年 サンフランシスコのBARTが、駅構内での警官によるホームレスの射殺事件に関する抗議デモを止めさせるために駅構内での携帯電話サービスを停止したことに対し、意図的なサービス停止が合衆国憲法修正第1条に規定された表現の自由を奪うものとして猛烈な反対運動が起こる
インターネットガバナンスに関連する4つの技術的な手法について検討
1.   ディープパケットインスペクションDPI  ネットワーク事業者が最近手にした手法で、インターネット上を流通するパケットのペイロードを検査し、一定の基準に従ってそれらのパケットの帯域制限を行ったりブロッキングしたりするために用いられる技術
文字情報だけの時代はインターネットを流れるコンテンツは均質だったが、マルチメディアアプリケーションのように大きな通信容量を必要とし、なおかつ音声を伴うものは伝送の遅延(ネットワーク・レイテンシ)を最小化させる必要から異なる種類の性能を必要とし、特定のパケットを他のものよりも優先する技術的理由となる
従来、パケットのルーティングや統計的な分析、ネットワーク管理やトラフィックの最適化にパケットのヘッダー情報のみを利用してきたが、コンピューターの処理能力の向上がパケットの実際の情報の中身を検知することを可能にしたことからDPI技術の導入を促している
DPIが情報を検閲し、操作する能力を持つことは、片方で情報に含まれる個々人のプライバシーの保護という問題に直面する
2.   「キルスイッチ」技術  コンテンツのブロッキングやアクセスの停止を可能にするインターネット上の集中ポイント
3.   委任された検閲  情報の検閲や市民の個人情報を収集したいと考える公的機関が、民間企業に命じて代行させる
4.   DDoS攻撃  無数のコンピューターが無意識のうちに集団となって標的のコンピューターに向けて膨大なリクエストを殺到させ、そのサイトへアクセスできなくする手法

第10章     インターネットガバナンス、そしてインターネットの自由
未解決の課題と今後問題となりつつあるトレンドについて分析
未解決の問題の1つに、相互接続におけるルールを変え、インターネットエクスチェンジに政府の規制が導入される可能性のある国際的な議論の高まりがある
個人情報や位置情報と引き換えに無料の情報やソフトを提供するオンライン広告がはらむプライバシー上の問題も検討
技術的なインフラレベルにおいて匿名性を確保できなくなっている現在の状況も、将来の表現の自由に影響をもたらす未解決のインターネットガバナンス上の課題
1980年代後半締結された国際条約である国際電気通信規則は、伝統的な回線交換方式を使った音声トラフィックの国際交換を規制し、国連の下部組織である国際電気通信連合ITUの監督下にあるため、インターネットの相互接続に当てはめようとすると、相互接続も国連の監視下に入ることとなり、例えばロシアや中国といったネット上の表現の自由に対してあまり良い実績を残していない国々に大きな力を与えることになる
インターネットガバナンスとは、インターネットの管理・運営に関するマルチプレイヤー型のシステムで、標準策定やサイバーセキュリティ、相互接続契約と、様々な分野に広がりを持つ。したがって、誰がコントロールすべきなのかという問題ではなく、それぞれの文脈における最も効果的なガバナンス形態を決めるべきものであり、マルチステークホルダリズムと呼ばれる複数のステークホルダー間のパワーバランスによって決定される




インターネットガバナンス ローラ・デナルディス著 管理の課題、多様な視点から解説
2015.11.15. 日本経済新聞
フォームの終わり
 「続きはウェブで」というテレビ広告が多くなってきた。日本では簡単にインターネットにアクセスできるようになっている。
http://www.nikkei.com/content/pic/20151115/96959999889DEBE6E2E0E2E1E3E2E3E6E3E3E0E2E3E79F8BE7E2E2E2-DSKKZO9402036014112015MY5000-PN1-2.jpg
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 しかし、インターネットの裏側は実に複雑になっている。端末がつながる回線の向こう側にサーバーがあって、リクエストを送ると情報が返ってくるというのが単純なイメージだろう。
 現実には、ある会社のコンテンツを見るためにURLを打ち込めば、それは特定のIPアドレスに変換され、媒介するさまざまなシステムをくぐり抜けた上で(しかし瞬時に)、コンテンツを届けてくれる。
 もし、すべての経路上のシステムがうまく動かなければ、コンテンツがブロックされたり、別のサイトに転送されたり、やりとりが盗み読まれたりすることもある。コンテンツを提供する会社のシステムに全く問題がなくても、途中のシステムに問題が起きれば、そういうことが起きかねない。
 誰に責任があるのか。インターネットは分散的に統治・管理されている。これを「インターネットガバナンス」と呼ぶ。インターネットは中央で管理する者がいないネットワークのネットワークだと言われてきた。今もその通りだが「中央で」いないだけの話であり、個々のネットワークの管理者が無数と言えるほどたくさん存在し、それぞれが分散された権限を持っているというのが実態である。
 インターネットガバナンスに影響力を行使できるのは、各国政府だけでなく、国際機関、サービスを提供している通信事業者やコンテンツ事業者、あるいは悪者ハッカーも含められるだろう。
 本書の著者は、米国の首都ワシントンDCの大学教授である。以前はエール大学のロースクールで法律と社会の視点から情報通信技術を分析するプロジェクトを運営していた。そのためか、本書の最初の数章の技術的な解説は、やや読みにくい。しかし後半に読み進むにつれて示される法律や政治が絡む多種多様な問題の解説は興味深い。例えば、物理的には以前と同じく存在しているウェブ・サーバーも、経路情報を「差し押さえ」られるだけで、インターネットからは忽然(こつぜん)と消えてしまうという。
 現在のインターネットには差別すら溢(あふ)れつつある。それは利用者の人種に基づく差別ではなく、送信される通信の形態や内容に基づく差別である。「インターネットガバナンスが、インターネットにおける自由を決める」と著者は言う。本書は、文系のためのインターネット論として良い論点と題材を提示してくれている。
原題=THE GLOBAL WAR FOR INTERNET GOVERNANCE
(岡部晋太郎訳、河出書房新社・2600円)
著者はアメリカン大教授。米国務省の国際情報通信政策アドバイザリー委員会メンバー。
《評》慶応大学教授 土屋 大洋


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