ワーク・ルールズ 君の生き方とリーダーシップを変える  Laszlo Bock  2016.2.13.  

2016.2.13. ワーク・ルールズ 君の生き方とリーダーシップを変える
Work Rules! : Insights from Inside Google That Will Transform How You Live and Lead

著者:ラズロ・ボック(Laszlo Bock
 グーグルのピープル・オペレーションズ(人事)担当上級副社長。1972年共産主義政権下のルーマニア生まれ。マッキンゼーやGE勤務を経て、06年グーグル入社。人事部門のトップとして、6000人から世界70カ所以上のオフィスで働く6万人以上に増えていく過程でグーグルの人事システムを設計し、進化させてきた責任者。「グーグラー」の採用、成長、モチベーションの維持に関するあらゆる分野を束ねる。
 若いころからさまざまな仕事を経験し、コンサルティング会社やスタートアップで働き、俳優としてテレビに出演し、問題を抱える若者を支援する非営利団体の立ち上げに加わった。米西海岸のリベラルアーツカレッジの名門ポモナ・カレッジの評議員や、ベンチャーキャピタルの出資を受けている企業数社の顧問や取締役も務める
10年には『ヒューマン・リソース・エグゼクティブ』誌で人事部門の年間最優秀エグゼクティブに、14年には過去10年間に「HRに最も影響を与えた10人」に人事部門のエグゼクティブから唯一選出

鬼澤 忍(オニザワ シノブ)
 埼玉大学大学院文化科学研究科修士課程修了。主な訳書にサンデル『これからの「正義」の話をしよう』、同『それをお金で買いますか』、マグレイス『競争優位の終焉』、ワイズマン『滅亡へのカウントダウン』、アセモグル&ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか』、マエダ『シンプリシティの法則ほか
矢羽野 薫(ヤハノ カオル)
 会社勤務を経て翻訳者に。慶應義塾大学法学部卒。主な訳書にファング『ナンバーセンス』、シーゲル『ヤバい予測学』、スクラー『ディズニー 夢の王国をつくる』、ウッド『マイクロソフトでは出会えなかった天職』、パウシュ『最後の授業』、アッシュクロフト『人間はどこまで耐えられるのか』ほか

発行日           2015.8.13. 発行
発行所          東洋経済新報社


 従業員数6万人、世界中に70以上のオフィスを構える「大企業」に成長したグーグルだが、同社は自動運転車に代表されるイノベーションやクリエイティビティなど、ベンチャーマインドをいまだ失っていない。それを可能にしているのが、こちらも近年注目を浴びる、世界中から優秀な人材を集める採用力や先進的な働き方・職場環境だ。
 本書はそんなグーグルの人事制度の秘訣を、現役の同社人事トップが明かした、世界20言語で発売予定の話題の一冊である。著者はマッキンゼー、GEを経てグーグルに入社、社員数10倍に至る成長を設計してきた人物。同社の文化や働き方、採用、育成、報酬、さらには失敗、他社の事例も交えて「未来の働き方」について余すところなく解説している。
 同社には有名な20%ルールをはじめ、無料社員食堂、さらに遺族は社員の死後10年間、給与の50%を支給といった制度まであるという。それらはグーグルだからできるのではないか、という意見も根強いが、本書ではなぜそれをやるのか、実際のコスト、「文化」の重要性などから丁寧に反論、同社の人事思想があらゆる組織に応用できることを示す。
 同社の人事システムはいまもデータを重視してテストを重ねている。一読すればそれが監視のためでなく、逆に社員への信頼やよりよい制度への飽くなき探求のためだとわかるはずだ。豊富な資金力と6万人の社員による壮大な実験結果を利用しない手はない。経営者や人事関係者はもちろん、新たな働き方や組織に興味があるすべての人に必読の一冊。


第1章     創業者になろう
第2章     文化は戦略を食う
第3章     レイク・ウォビゴンの幻想
第4章     最高の人材を探す方法
第5章     直感を信じてはいけない
第6章     避難所の運営は避難所に任せる
第7章     誰もが嫌う業績評価と、グーグルがやろうと決めたこと
第8章     トップとボトムに注目しよう――二つのテール
第9章     学習する組織を築こう
第10章 報酬は不公平でいい
第11章 タダ(ほぼタダ)ほどステキなものはない
第12章 ナッジ/選択の背中を押す
第13章 人生は最高のときばかりじゃない
第14章 あなたにも明日からできること
人事オタクのためのあとがき



丁寧すぎる解説が「理想の職場」を体現  
 あちこちの書店で平積みになっている黄色い装丁。ベストセラーのようなので見ると、「理想の職場」と名高いグーグルの人事のお偉いさんが書いた本、という触れ込みです。
『ワーク・ルールズ!』(ラズロ・ボック 著 鬼澤忍、矢羽野薫 訳 東洋経済新報社) 定価:本体1980円+税拡大『ワーク・ルールズ!』(ラズロ・ボック 著 鬼澤忍、矢羽野薫 訳 東洋経済新報社) 定価:本体1980円+税
 でも「グーグル本」は2014年に経営トップの書いた決定版的な本が出ています。こちらはグーグルのサイトイメージを使った白い装丁の『ハウ・グーグル・ワークス私たちの働き方とマネジメント』(日本経済新聞出版社)
 この本はとても丁寧に「グーグルが何を考えているか」を解説していました。
 でも、とにかくグーグルで働いている優秀な人を賞賛しつづける内容に、少し食傷気味になったのも事実です。
 ですが『ハウ・グーグル・ワークス』で人材確保を扱った章は、その「優秀な人」を集めるために絶対に妥協せず、社員全員を採用にあたらせる方法論を記した面白いものでした。
 今にして思えばその章に、わが社の人事のトップがどの企業にも応用できるよう詳しく書いた企画を準備している、と予告もされていました。
 その企画が『ワーク・ルールズ!』だったわけで、ならばもう一冊付き合ってみようか、とグーグルの人の思惑通りに読むことにしたわけです。
 ところがこの本、翻訳は高水準、本文デザインも読みやすく配慮されているのに、読んでも読んでも終わりません。550ページを軽く超える分量で、著者が何を考えて諸制度を設計し、背景にどのような思想を取り込み、どんなフィードバックを得たか、執拗に書き込んでいます。
 ある程度は時系列に沿っているのですが、ひとつの制度ごとに丁寧に一連のプロセスを書くものだから、「なんでグーグルの社員食堂のメシはタダなんやろか」という疑問の答えを知るには、450ページくらいまで読み進めないといけません。
 その間、著者は何度も何度も新制度のおかげでこんな感謝のメールを受け取った、というエピソードを披露。社員食堂へたどり着く前にお腹いっぱいになります。
 さらに注も充実しています。
 「雨が降っているときに、走るのと歩くのでは、走るほうが濡れない」という豆知識から、「社員食堂がタダだと近所の飲食産業に打撃では、という批判があるけれど、使う食材は地元のものを優先している」という言い訳まで、普通に読ませる内容です。従ってまた読み進めるのに時間を費やす、という次第です。
 イヤミめいたことを書いていますが、じゃあこの本は悪い本かというとぜんぜん違います。むしろ濃密なネタが詰まった、きわめてコストパフォーマンスの高い良書です。本書から孫引きして、安直なビジネス書なら何冊も作ることができるでしょう。
 ではなぜ本書はくどいくらい丁寧に諸制度の背景と実行後のフィードバックを書き込んでいるのか。おそらく本書が、グーグルの大方針である「公正」「透明」を自ら実践しているからだ、と私は考えます。
 「公正」については、「賞賛される幸福な働きかたはグーグルの特殊例なのではないか?」というツッコミに先回りして、制度導入の具体的なノウハウを詳細に描きます。理屈としては、本書を読めばどの会社でもグーグル的な制度を実践できるわけです。
 具体的には「無料の社員食堂」だけではなく、「管理職に無断で、社員が社員にボーナスを払える」「採用基準は『自分より優秀な人』」「社員が自分で肩書きを選べる」などの諸制度が解説されるわけですが、これを実際に導入した結果に起こるイヤな事態も書かれています。
 たとえば、社員食堂からタッパーにおかずを詰めて持ち帰る人が出たらどうするか。
 そこで「透明」の原則が貫かれます。つまり、起こったことを率直に全社員に開示する。すると「おかずの持ち帰りはやりすぎなんじゃないか」という空気が社内に満ち、だんだんと社員の行動は善意に従ったものになる、のだそうです。
 つまり本書は、誰でも実践できるように「公正」な手続きを書き、本当に実践したらどうなるかも「透明」に正直に書く、というスタイルで、自らグーグルの企業文化を体現しているわけです。
 加えて、「でも……」と「実践しない理由」を語ってしまう多くの人事担当者に対して容赦はありません。新しい試みに「イエス」という勇気を持てないのは、社員を信用してないと公言するのと同じだ、と厳しい指摘もなされています。
 あまり透明ではない諸々のもとで働いている平社員としては、つい「そうだそうだ」と拍手してしまいます。
 だけど、「どうすればグーグルに入社できるか」という個人的な関心への答えは、当たり前ですが透明には書かれていません。
 もちろん、採用する側から見た基準は書かれています。認識能力テストで高得点を取り、構造的面接で高い評価を得れば採用されるそうですが、グーグルに憧れている凡人が知りたいのはそういうことじゃないですよね。
 そういえば、元グーグルの方々を取材したときも、「グーグルの合格基準って何ですか」的な質問は、「守秘義務があるので……」と回答を断られたのでした。
 ここは透明じゃないのか、と嘆くべきか、それとも「お前のレベルじゃ話にならないからこう言ってんだよ察しろ」というメタメッセージを受け取るべきなのか。
 おそらく後者なんだろうと思うにつけ、自らと「理想の職場」との距離の遠さを痛感してしまう夏の終わりでありました。


なぜグーグルは社員をとことん信じるのか
――
書評『ワーク・ルールズ!』
20150730
ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する本連載。10回目は、グーグルの人事責任者が書いた『ワーク・ルールズ!』を取り上げる。
グーグルの人事制度は徹底的にデジタル
グーグルの人事制度と言えば、「最高の人材を獲得する」「勤務時間の20%を自由に使える」など、一般企業とかけ離れたエピソードがいくつも並ぶ。昨年発売されたHow Google Worksでは、同社会長のエリック・シュミットが、「トップの仕事で人材獲得が最も重要」と紹介し大きな話題となった。
それに続き、ついに同社の人事責任者がグーグルの人事制度を余すことなく紹介した。それが本書『ワーク・ルールズ!』である。
そもそもなぜこれほどまでにグーグルは注目されるのか。それは彼らの理念、「世界中の情報を整理し、世界中の人々にアクセスできて使えるようにすること」にあると思われる。ここには、「顧客」という言葉も出てこなければ、事業についても一切触れていない。目指すべき世界観を示しているのみである。そのグーグルが世界で最高の時価総額企業となっているのだ。
同社の人事システムと言えば、データを重視しファクトベースで評価するなど、IT企業らしいデジタル技術を使った制度が有名だ。コンピュータに頼る仕組みづくりは、人間をあたかも「01」のデジタル記号に置き換えた仕組みと思われがちである。しかし、本書を読むと、それが誤解であることがよくわかる。グーグルの人事制度のカギは、人間の習性や可能性への理解の深さとさえ読み取れる。
自由へのあくなき信念
たとえば、グーグルの採用では配属先の上司の意見は尊重されない。むしろ、配属先の部下に面接の権限をゆだねるという。上司は自分にとって都合のいい人を採用しようとする。しかし、それはその人物が優秀かどうかとは関係ない。「自分より優秀な人材を採用せよ」と号令をかけるグーグルでは、「この人から学びたい」という部下からの意見を尊重するのだ。かのグーグルでも採用の権限を現場マネジャーから引き離すのには苦労したという。しかしそれによって同社は階層的な組織ではないことを、社内にも強烈に伝えることができたという。
人はいかにバイアスでモノを見てしまうかを同社はよく理解しているのだ。誰しも自分の仕事を助けてくれる人を高く評価してしまう。これを許せば、組織の上位者にとって都合のいい人が評価される仕組みが出来上がってしまう。
これはグーグルが目指す「誰もが自由に発言できる」風土を崩してしまう。
基本的にグーグルの制度の基礎にあるのは、人に自由を与えればよい仕事するという信念である。モチベーションに関しても同社は、外発的動機からの行動では学習力が弱まると考える。社員に自由を与えることで、内発的動機が引き出され、自然と社員の成長が促されるというのだ。
本書で触れる範囲は実に広範囲だ。企業文化、人材採用から、人事評価や報酬の決め方まで人事政策に関して、ほぼ網羅している。グーグル人材論の決定版と言えよう。
その思想はシンプルで美しい。人の可能性をとことん信じる精神である。しかし「言うは易し行うは難し」。仮にトップがグーグル型の人事制度を導入したとしても、現場の管理職が対応するには、ハードルが相当高い。それは、管理職から権限をはく奪することこそ、グーグルの神髄だからだ。偉い人より優秀な人を尊ぶグーグルでは、それでも管理職はチームをまとめ組織の目標を達成しなければいけない。使えるツールは、役職に与えられた権限ではなく、個人のビジョンやリーダーシップ力。同社の管理職は丸腰で、手ごわい相手(部下)と対峙するスキルが求められるのだ。この状況で結果を出す管理職ではないと、グーグルでは務まらないということだろう。
最も印象的だったのは下記の一文である。「人は根本的に善意だと信じる人もいれば、そう思わない人もいるだろう。善意を信じるなら、起業家として、チームの一員として、リーダーとして、マネジャーやCEOとして、その信念に一致する行動を取るべきだ」。つまりグーグルは徹底しているのである。







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