画家の食卓  林綾野  2013.8.5.

2013.8.5. 画家の食卓

著者  林綾野 キュレーター。アートキッチン代表。美術館での展覧会企画、美術書の企画・執筆を手掛け、独自の視点でアートと食の関係の研究を進める。

発行日           2013.2.27. 第1刷発行
発行所           講談社

200810月より、月刊『料理王国』にて連載されたものを編集、加筆してまとめたもの。食の専門家であり、絵画の愛好家でもある北村美香さんが「画家の食いしん坊ぶり」に興味を持って下さり企画を立案、3年間連載を支えてくださった

はじめに~画家の食卓を探して
パウル・クレーが愛したリゾットの味わい、古代ローマ、ポンペイの町で口にされていたパンの食感、江戸の町で人気を博した天ぷらの香り、食を巡るキーワードは想像を掻き立て、その時代やその場所に対するリアリティを深めてくれる

第1章     旅する画家たち
Ø  パウル・クレー                        ポルチーニのリゾット
スイス・ベルン近郊に生まれ育つ。「バウハウス」で活躍するが、売れない画家の頃はピアノ教師の妻の傍らで、「主夫」として料理の腕を振るう
ふんだんにきのこの入ったリゾットは最も愛した料理

Ø  ゴッホ                                   ジャガイモスープ
オランダ南部の出身。酪農王国オランダの食卓にチーズ、ミルク、ジャガイモは欠かせない存在。初期の代表作『ジャガイモを食べる人々』
を始め、何度か題材とする

Ø  アルブレヒト・デューラー          ローストチキン
皇帝マクシミリアンの庇護を受けるが、急逝により窮地に立たされ、未回収の絵画の報酬を巡り直接談判のためアーヘンに向かうが、その時1520年の旅日記に「ローストチキン」が登場

Ø  ポール・ゴーギャン                   ジャム入りデザートオムレツ
株の仲買人だったが、市場の暴落で絵画の道にのめり込む
食いしん坊だったゴーギャンは、自らも料理に長けていて、タヒチでも隣人を招いて食事会を企画、自らのメニューに「ジャム入りデザートオムレツ」が出てくる

Ø  ジャン=エティエンヌ・リオタール         ホットチョコレート
ジュネーヴ生まれの宮廷肖像画家。マリア・テレジアの厚遇を受け、写実性に富んだ画風に特徴。その代表作に『チョコレートを運ぶ少女』があり、ホットチョコレートが題材

Ø  歌川広重                                魚づくし 鯵の焼き浸し、海老の煮出し
人気作家になった広重が書いた『魚づくし 鯵に車海老』は、元々狂歌師たちが仲間内での配布を目的に自費制作したものの内の1枚。余りの好評に一般向けにも刊行された
鯵、車海老とも江戸湾で獲れ江戸の食卓に頻繁に上がっていた

第2章     郷里を愛した画家たち
Ø  ヨハネス・フェルメール             ひき肉のロースト レモンソース
スペインから独立したばかりのオランダでは、海の幸と美味しいビールが常にあり、世界各地からもたらされた風変わりな食材が食卓を彩っていた
へーリング(ニシン)の塩漬け
レモンは輸入食材

Ø  ピーテル・ブリューゲル             フランドル風プリン
いつどこで生まれたか謎の画家
『農民の婚礼』で食後に出される「お粥」とも「プリン」ともつかぬお皿も謎

Ø  古代都市ポンペイ                     フォカッチャ
パン屋が賑わっていた。酵母を使って焼いたと想像される

Ø  アルフレッド・シスレー             シュークル・ドルジュ
大麦の麦芽で作られる水飴(麦芽糖)とグラニュー糖を溶かしたキャンディのこと。シスレーが終の棲家として選んだパリ南東60㎞の町モレ=シュル=ロワンの名物

Ø  歌川国芳                                江戸の海老天
団扇絵の中に、サクッと音を立てながら海老天を口いっぱいに頬張る様子が描かれている

Ø  伊藤若冲                                果蔬料理
京都の青物問屋に生まれた若冲の晩年の作『果蔬(かそう)涅槃図』 ⇒ 大根を入滅した仏陀に見立て、その死を嘆き悲しむ弟子たちを野菜と果物で描き、沙羅双樹はトウモロコシの枝で表す

Ø  源氏物語絵巻                                    夕霧と玄米粥
具体的な「食」にまつわる記述は意外に少ない
夕霧の物語には「粥」が2度登場、どちらも朝餉

第3章     美食家の画家たち
Ø  ジョヴァンニ・セガンティーニ     全粒粉のタリアテッレ
7歳で母と死別、父にも見放されたセガンティーニは孤独のうちに唯一の慰めとして絵に没頭。ほどなく才能を認められて、家族とともにスイス・サヴォニンに移住、幸せに暮らす。イタリア人としての気質が色濃かったという彼に似合いそうなのが、麦の香ばしさとざらりとした食感が際立つ全粒粉のタリアテッレに濃厚なスイスチ-ズをたっぷりとかける一皿

Ø  エドゥアール・マネ                  ホワイトアスパラガス オランデーズソース
印象派の父マネの代表作『一束のアスパラガス』。『アスパラガス』という姉妹作もある ⇒ 収集家の依頼で描いたが、出来栄えに喜んだ依頼主が800フランに色を付けて1000フラン送ってきたのに応えて、「お送りした束から1本抜け落ちたアスパラガスがある」と言って新たにアスパラガスを1本だけ書いた絵を彼に送ったという
ホワイトアスパラガスは、ルイ14世が好み、「マドモアゼルの指先」などという愛称まである

Ø  クロード・モネ                        リヨン風ポーチドエッグ
食への思いは熱く、自筆で綴った『料理ノート』を6冊も残している
「リヨン風ポーチドエッグ」もその中の1つで、卵入りグラタンとも言えるシンプルな料理

Ø  アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック          酒の肴のチーズトースト
早逝の画家が何よりも執着したのが、食事を楽しむ仲間がいること
南仏の大家族の中で育ち、大人数で食卓を囲むのが当たり前
『鰐のメニューカード』は、自ら招待客のために書いたもの
そんな画家が愛した一品が酒の肴のチーズトースト

Ø  ジャン・シメオン・シャルダン     パテ・ド・カンパーニュ
独学で絵を学び、中産階級の家庭内の様子を描く
『オリーブの瓶』には、他の食材と共に巨大なパテが描かれ、重厚な存在感を放つ


第4章     生涯を芸術に捧げた画家たち
Ø  ハンス・メムリンク                            洋梨のタルト
古都ブリュージュで活躍。ベルギー七大秘宝の1つ『聖ウルスラの聖遺物箱』を遺す

Ø  アンリ・ルソー                        ヴァレンシア風パエリア
ルソーが妻を書いた肖像画に惚れこんだピカソが、まだ評価されていない尊敬するルソーを励ますために芸術家仲間たちを集めた会で、ピカソの恋人が習い覚え提供したのがパエリアだったという

Ø  ポール・セザンヌ                     焼きリンゴ
最もシンプルで単純なモチーフに、深い意味愛と新しい表現の可能性を託そうとしたセザンヌの試みを代表するのが『リンゴとオレンジ』
描くために買い込んだたくさんのリンゴはテーブルの上で萎びていたに違いなく、焼きリンゴにするしかなかった

Ø  フランツ・マルク                     ハムとクヌーデル
ミュンヘン出身の画家は、動物たちの姿を通して、その純粋さを表現していくことを目指す ⇒ カンディンスキーと共に、精神性を第一に表現しようとする青騎士の思想を唱え、そこにパウル・クレーも顔を出した
ハムと、ミュンヘン名物のクヌーデル(肉料理などの付け合せにするジャガイモなどで作った団子)を肴に話が弾んだかもしれない

Ø  ハンメル・ルーディング             海老のカクテル、フルーツカクテル
『苺の入った中国製の陶器とレーマーグラスのある静物』では、貿易で外国からもたらされた豪華で豊富な食材が描かれ、それらは贅を尽くしたカクテルに仕立てられるが、画家の育ったオランダの町ライデンは、スペインの圧政に最後まで抵抗して、独立の足掛かりとなったところで、画家の絵とは対照的な貧しく簡素な食こそが建国を支えていた

Ø  ルーシー・リー                        チョコレートケーキ
ウィーン生まれ、ナチスの侵攻でイギリスに亡命した陶芸家。バーナード・リーチに酷評されるが釉薬に気を配り、独創的で鮮やかな色合いを好んだ
彼女が好んで作ったのがチョコレートケーキ、ウィスキーの香りを仄かに放つこのケーキは若き日を過ごしたウィーンへの思いが込められていた

Ø  高橋由一                                焼き豆腐、油揚げの煮浸し、田楽
佐野藩士の家柄。日本画を学びながら、西洋のリトグラフに魅せられ、苦労して洋画の道を進む
代表作が油絵で日本の食材を描いた『鮭』、『豆腐』 ⇒ 洋画に馴染みのない人々がより抵抗なく受け入れられるような題材を選んだ

Ø  有元利夫                                ほうれん草のチャーハン
戦後の岡山生まれの洋画家。38歳で早逝。代表作『花吹』は深く傾倒したイタリア・ルネサンス期の美術の面影が宿る
遺稿の中に「ほうれん草のチャーハン」のレシピがあった ⇒ 味の素が登場するのも80年代を思わせて微笑ましい


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