地面師  森功  2025.6.12.

 2025.6.12. 地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団

 

著者 森功 1961年福岡県生まれ。ノンフィクション作家。岡山大学文学部卒。「週刊新潮」編集部などを経て独立。2008年、2009年に2年連続で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」を受賞。『黒い看護婦』『ヤメ検』『同和と銀行』『大阪府警暴力団担当刑事』『総理の影』など著書多数。『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で2018年、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞。最新刊は、JR東海総帥と安倍政権の「ただならぬ関係」を暴いた『国商 最後のフィクサー葛西敬之』

 

発行日           2018.12.4. 第1刷発行     2019.2.8. 第3刷発行

発行所           講談社

 

2018年大宅壮一賞受賞後第1作の書き下ろし作品

 

 

はじめに

2016.11.30.日経電子版: 死亡女性になりすまし無断で不動産売買 容疑の4人逮捕

典型的な地面師詐欺事件の速報。中堅どころの地面師集団による犯行。主犯は喜田泰壽。4年前、都内の放置された土地に目をつける、被害額47百万円

なりすまし役のみ起訴され、他は不起訴。騙された不動産業者は、戸建ての建売業者に転売、すでに第3者が入居済み。所有者は死亡、相続人もなく、本来国庫に帰属するもの

裁判では国が負ける可能性が強く、事件は不起訴となり、闇に葬られる

終戦後間もない混乱期のどさくさに跋扈し、暗躍したのが戦後の地面師の始まり

1のピークは、1980年代後半のバブル期

地面師詐欺は、捜査員の隠語で「ニンベン」とも呼ばれる。汚職の「サンズイ」と同様

最初に注目されたのは、2016年の新橋駅前で起きた「白骨死体事件」

地面師詐欺は再びピークを迎えている。2018年積水ハウス事件の本格捜査に着手

 

 

第1章     「積水ハウス」事件

l  ストップされた工事

2017年、五反田の旅館「海喜館」の現場で建設工事に取り掛かろうとしていた積水の工務部が警察に誰何。通報者は「海喜館」の所有者海老澤佐妃子の代理人弁護士で、土地の詐取が表面化。2000㎡、総額70億円。積水は55億円を詐取

l  史上空前「55億円」の被害

海喜館は、佐妃子の父親が始めた老舗旅館で、父親が出奔後は母親が経営していたが、'75年母親が他界、佐妃子が相続するが、’15年廃業。体調を崩して入院。建物は廃墟に

その頃から、内田マイクと北田文明が動き出す

l  スター地面師

北田は1959年長崎県生まれ。第6章の世田谷の事件で逮捕。5指に入る大物地面師

北田の上を行くのが内田

地面師の犯行グループは、計画を立てる主犯のもとに、なりすましを見つけ教育する「手配師」、パスポートなど書類を偽造する「印刷屋/工場/道具屋」、振込口座を用意する「銀行屋/口座屋」、法的手続きを担う「法律屋」などから成る

内田は、佐妃子と隣接の駐車場の賃貸契約を交わし、土地所有者の本人情報を入手

l  会社の社名変更を使う手口

積水事件の前に、その準備ともいうべき捜査2課の手掛けた案件が、富ヶ谷の「東京音楽アカデミー」の所有地を巡る手付金詐欺。ターゲットは、小山カミンスカス操で、2000年代初頭にマンション開発業者として名を馳せたABCホームの元財務部長。北田が小山に任せた案件。休眠会社を買い取って土地所有者と同じ「東京音楽アカデミー」に社名変更し、売り手を装う。捜査2課は小山が詐取した金を引き出す映像を抑えたまま積水事件に向かう

l  端緒は融資詐欺

内田が最初に計画したのは、海喜館の不動産を担保にした融資詐欺。なりすまし役の手配師が「池袋の芸能プロダクション社長」秋葉紘子、なりすまし役が羽毛田正美、内縁の夫が常世田吉弘。いずれも逮捕。融資の受け皿となったのが銀座のアパレル業者。高利貸しから2億円引き出したが、倍にして返す約束だったため、内田はさらに高額を引き出そうとした段階で、アパレル業者から相談された小山の提案で、売買に変更。小山が買い手のターゲットに積水を紹介し、内田達に発破をかけた

l  ニセ地主の故郷

佐妃子には異母弟が2人いて相続権があり、2017年事態に気づいて慌てて相続手続きを済ませ、地面師一味を相手取り民事訴訟を提起。なりすましが、雑談で故郷の話をしたのを耳にして偽物と気づき、難を免れた不動産業者もいる

中間業者がいくつも登場するケースもあり、いざ事件として発覚すると、そこに関わった登場人物の多くは、自分たちもニセ地主だと気づかずに騙された被害者だと主張するので、捜査が難航する。海喜館の場合も間にIKUTA HOLDINGS(生田)という会社が介在

l  街の不動産屋より大手

佐妃子が入院した1カ月後、佐妃子の代理人弁護士と小山が生田に物件を紹介、公証人役場で所有権移転の仮登記し、生田が親しくしていた積水に転売

l  常務が前倒しした決済

小山と生田が、積水ハウスとの売買契約をまとめ、手付け金12億円が払い込まれ、売買予約の登記手続きができる。直後に佐妃子名義の内容証明が4通も積水に届き、なりすましなので取引中止を要求してきたが、積水は怪文書として無視。積水の担当常務は、なりすましを本人と確信しており、「自分が書いたものではない」との確約書を取るだけで、本人の再確認手続きをしないどころか、契約妨害を避けるため決済日を大幅繰り上げ

生田は人脈の広い著名人、2年前に小林興起事務所に登記を置かせてほしいとの依頼があり、小林夫人もIKUTAの役員

l  調査報告書の裏事情

積水が、事件の経過概要と再発防止策を公表。代金支払いの8日後、登記申請が却下され、詐取が発覚。被害額は、売買代金から、積水が代わりになりすましに売却したマンションの代金を差し引いた55.5億円となっている

l  会長追い落としクーデターの舞台裏

積水では責任追及で会長と社長が対立。取締役会で和田会長が阿部社長の解任動議を出すが、事前の根回しにも拘らず、55で動議は流れ、阿部が会議に戻って議長解任を提案。議長が交代して、阿部が和田の解任を動議、和田が取締役を追われる。マンション事業を進め、海喜館取引にも積極的だった阿部が、ワンマン会長を追い落とす社内根回しが出来ていた。個人株主が阿部を訴え、その頃から警視庁の本格捜査が始まる

l  主犯格を取り逃がす

生田以下8人が一斉検挙、さらに北田も含め5人逮捕するが、主犯格の1人、カミンスカスこと旧姓小山操は検挙直前にフィリピンに高飛びし取り逃がす

佐妃子は決済直後に死亡。その後内田も逮捕されるが、詐取された金の行方は不明のまま

 

第2章     地面師の頂点に立つ男――内田英吾こと内田マイク

l  内田マイクの正体

2016年末、警視庁は浜田山の地面師詐欺事件の被疑者として内田を摘発。内田は、20年ほど前に「池袋グループ」と呼ばれた犯罪集団のボス

2000年代初頭、小泉首相肝煎りの都市再生本部のもと、都市の再開発計画が次々に立ち上がり、一気に不動産バブルとなって、地面師グループが暗躍。'03年内田の摘発で、5グループの存在が判明。暴力団の直接の関与も明らかになって大量検挙により、多くが引退する中、内田は服役後に復活。今や日本の地面師集団の頂点に立つ

l  マンション開発ブームの裏で

内田は、ITバブル当時のマンションブームに乗って地上げを手伝い頭角を現す。新興ディベロッパーの多くが、失敗したり脱税などで消えていく。ABCホームの脱税で社長と一緒に有罪となったのが小山で、企業の税務対策などをやっているうちに巻き込まれた

l  ホームレスが50億円の住宅ローン

'05年摘発されたのが、ホームレスにマンションを買わせて銀行ローンを組ませて荒稼ぎした山口組系の森内らのグループ。給料の源泉徴収票を偽造したなりすましの一種で、総額50億を詐取

'15年、浜田山の土地詐取事件で内田が、グループ8人と共に逮捕

l  地面師集団の役割分担

犯行グループが大勢いて、役割や関与の程度も様々なため、主犯を取り逃がしたり、逮捕時より起訴する人数が大幅に減ったりするのも地面師事件の特徴

浜田山事件では、内田と八重森という2人の主犯格を含め、10人逮捕、うち7人起訴

犯行の第1段階は、狙い目の土地を物色し地主の情報を集める

次いで、地主のなりすまし役のスカウト=手配師。企画立案者とは別に存在

l  なりすまし役のスカウト

訳アリを束ねている手配師のネットワークのようなものが各地にある

なりすまし役は、犯罪歴のない、素人が多い。報酬も少なく小遣い稼ぎの感覚で手を貸す

なりすまし役さえ捕まらなければ、立件されづらい

l  マニキュアで指紋を消して

指の腹全てに透明のマニキュアを塗って指紋を残さない

仲間内のブローカーを不動産売買の間に入れることで、買い手を信用させるとともに、ばれた時関係者を逃がせるようになっている

地面師として生き残っていく連中は、何度逮捕されてもその背景について口を割らない。それが彼らの信用力になって、次の仕事がしやすくなるが、今回はなりすまし役が日記を残していて、地面師たちの命取りになる

l  逃走した地面師のボス

内田に懲役7年の実刑判決。最高裁に上告中に保釈。上告棄却の決定とともに逃走。単なる収監逃れではなく、内田が恐れたのは新たな事件の捜査だった

 

第3章     新橋「白骨死体」地主の謎

l  五輪人気で高騰「マッカーサー道路」

2016年、愛宕署が女性の遺体発見。噂に過ぎなかった新橋地面師事件が確定的に

2014年完成の「マッカーサー道路」に面した土地が急騰した中で起きたのが白骨死体事件

l  16億円の資産家

老朽化した賃貸ビルと自宅を相続した女性の土地は、100坪余りで、公示価格でも16億円を超える。女性は遺体で発見され、土地は転売されていた

l  群がった地上げ業者

バブル崩壊、母親死去後、女性の生活が乱れ、ホテルを転々とする生活となり、荒れた土地には地上げ業者や地面師が群がる。再開発に興味を示した中にNTTグループがいたが、女性が売却を拒否し続けたので、虫食い状態の土地の再開発計画は頓挫

l  三倍になる借地権

地上げ業者と地面師の境界は曖昧。地上げ屋がこの界隈の小さな土地や借地権を買い取って高額転売を狙ったケースも多い

地主の女性は、放蕩が祟りホームレス同様になり、アル中で保護されたこともある

l  白骨死体の謎

'14年には、住民税滞納で都税事務所に差し押さえを食らう

地面師は、翌年には女性の住所を大田区に移し、直後に不動産登記簿上の名義が不動産会社に移転され、6回の転売を経てNTT都市開発のものとなる。その1年余後に死体発見

なりすまし役が捕まらないこともあって、警察は白骨死体発見を事件性なしとして処理

l  描かれた事件の絵図

全体のアイディアを出したのが内田。NTTに手付け金を出させ、実存する会社に転売差益を餌に社名貸しを持ち掛けて転売を繰り返す。地主の女性に相続人はおらず、本来国庫に返上されるべき土地だが、NTTも正式な売買契約を結んでいて瑕疵はなく、再開発計画は土地の所有権を曖昧にしたまま進み、犯人は未だ摘発できていない

 

第4章     台湾華僑になりすました「富ヶ谷事件」

l  目をつけていた土地

山手通りの富ヶ谷交差点から東に入った井の頭通りの北側に放置された土地147

2015年、同業者からの紹介で不動産業者が一旦土地を買い取って、マンションデベロッパーに転売する計画を立てる。総額6.5億円

プロの司法書士や弁護士が騙されるのは、本人の力量不足もあるが、それ以上に技術の進歩で、印鑑や書類など本物を作ったり、偽造した印鑑で正規の印鑑証明を取ってきたりすると、見分けがつかないという面もある。本件も弁護士が不動産屋のプロの目を曇らせた

l  吉祥寺に住む台湾華僑

土地の所有者は吉祥寺在の華僑。話を持ってきたのは、弁護士資格を剝奪された男。剥奪後もイソ弁だった事務所で働き、コンサルタントなどの肩書を持つ

地主の代理人を通して話が進み、なかなか本人に会わせてもらえなかった

l  引き延ばされた本人確認

親弁自身も正式な立会人になっていたので信用。契約場所もその弁護士事務所。決済日のわずか3日前になって漸くなりすましの地主と面談がかなう

l  公正証書の嘘

本人である旨の公正証書まで用意。同日登記となったが、法務局で印鑑証明の生年の記載相違から売り主が偽物だとして拒否され、詐取が発覚。司法書士は単なる錯誤だとして見過ごしていた。土地代金の払い込み先は弁護士事務所になっていたが、自分たちは地主の代理人の指示で名前を貸しただけだと居直ったので、買主は刑事告訴

l  地面師とタッグを組む元弁護士

元弁護士に話を持ち込んだ地主の代理人という人物も、素性は不明

同じ様な土地の詐取事件がほかにもいくつか起こっている。売り手代理人と称する不動産業者から入手した売り主本人の確認書類のコピーを買い手から見せられた土地の所有者が偽造に驚き、所有権移転禁止の仮処分を申請して、事なきを得たケースもあるが、もし土地が善意の第3者に渡った後では取り戻せなくなる可能性もある

l  地面師とタッグを組む元弁護士

騙された買い主は弁護士事務所を訴えると同時に、弁護士会に対し懲戒処分を申し立て。警察も積極的に動き、持ち主が台湾に戻っていることを確認したが、元弁護士は加担の事実を否定、過失については裁判への影響を理由に黙秘

l  内田マイクとの接点

弁護士事務所に振り込まれた金の振り分け先に、浜田山事件(2)で逮捕された地面師の名がある。内田一味の若頭

l  弁護士の過失

買い主は、弁護士事務所を、偽造書類を見抜けないままそれを行使したことを過失として損害賠償で訴えた

l  裁判所が認定した前代未聞の賠償

親弁は、全面的に事実を認めるが、認知症まで持ち出して抵抗。親弁と元弁護士の間で仲間割れを始める。東京地裁は、抵抗を一蹴、全額の賠償を認める

弁護士会も業務停止6か月の懲戒処分を科したが、警察の動きは鈍いまま

 

第5章     アパホテル「溜池駐車場」事件の怪

l  架空の生前贈与

傘寿過ぎの1人身の女性が親から相続した曳舟駅近くの3階建てのビルと土地、時価1

スカイツリー人気で価格は上昇。女性は主治医に、ビルを病院にでも使ってくれと相談した噂が広まり、一気にブローカーなどが動き始める。地面師事件にも名を連ねる札付きの司法書士亀野が、すでにこの土地の売買契約が成立していると偽って、土地を担保にした融資を町金に持ち掛ける。同時に主治医に関する書類を偽造して、この土地が主治医に贈与されたとして登記を済ませ、不動産会社に売却話を持ち込む。持ち主になりすました典型的な地面師の取引で、事件が明るみに出たのは4年後の2017

地面師グループ6人が逮捕。うち主犯格など2人が起訴されたが、捜査2課の狙いはアパホテルが騙された溜池の駐車場用地12億円を超える取引で、さらに10人逮捕

l  大都会の異様な空間

外堀通りの日商岩井のビルから六本木通りに抜ける道沿いの駐車場の土地、114坪、時価10億以上。極端なホテル不足からこの土地に目をつけたのがアパグループ。所有者は1969年に地主の資産管理会社に移転、さらに同族会社「万安楼」に移る。万安楼は老舗料亭を売却し、現在は「銀座タワー」という25階のタワマンになっており、巨額の資産を保有

2013年、突然駐車場の売買登記がなされ、賃借人が追い出されそうになったところから事件が発覚。もともとの地主の死去後も相続がされないままに放置されていたのが地面師につけ込まれる原因。相続人2人は高齢、認知症で施設に入所

詐取を計画したのが司法書士の亀野。秋葉紘子がなりすまし役を手配

l  逮捕された中間業者

アパを探してきたのが船曳のビルで逮捕された地上げで名を馳せた不動産ブローカーだが、本人は被害者と主張。アパとの間で民事訴訟になったが、和解が成立している

アパの購入金額は12.6

l  釈放された手配師

2017年、事件が発覚して、地面師グループ12人が逮捕されるが、大半は不起訴で釈放

l  なりすまし犯の言い分

なりすまし犯も逮捕されたが、高齢で記憶にムラがあり、断片的で脈絡がない。それも地面師たちの計算に入っている。結局容疑否認のまま釈放

 

第6章     なりすまし不在の世田谷事件

l  「焼身自殺しようかと思った」

アパ事件容疑者の逮捕直後の'17年末、NTT寮だった世田谷の土地・建物を巡る詐欺事件で、内田と北田の本格捜査に踏み切る

l  二重売買という新たな手口

NTT寮の持主(個人)から犯行グループが買い取って、不動産業者に転売する方式

なりすましはおらず、犯行グループは単なる仲介者として登場し、最終的に不動産業者から振り込まれる購入代金をせしめるという手口。物件を紹介してくれた紹介者に利益を落とすための仕組みとしては一般的

地主は仙台の山林との抱き合わせの売却を希望しており、北田と内田は、世田谷の物件の売却(5)と、仙台の物件を抱き合わせた売却(20)の話を同時並行して進める

世田谷の物件の売却は地主本人が立ち会っているので、なりすまし役はない

l  詐欺の舞台装置

転売方式を実行するためには、2つの別の部屋を用意してそれぞれの契約を行い、同一場所で資金の決済を確認するが、世田谷の物件では、急遽地主が別の銀行を指定してきたため、決済が振り込みとなり、購入代金が地主に渡る前に消えた。一種の篭脱け詐欺

l  29億円の見せ金

受け渡しの当日になって購入者は、物件を地主との間に入ってから買い取るという会社(プリエ)を紹介され、仲介者との間に更に人が入ることになる。北田らは地主に対し、プリエは山林も抱き合わせで買うように説明。プリエの資金力を懸念した地主に対しては、北田が小切手でプリエに入金した29億円の残高を見せていた

l  「間違えて振り込んだ」

地主が買い手の資金力を確認する方法としては、銀行に買い手の口座の残高証明書を出してもらうのが普通だが、それでは小切手入金の但し書きが記載されるのでばれるため、ATMの伝票を利用。そこにも小切手入金分の記載はあるが、小さくて司法書士も見落とす

購入代金が仲介者に振り込まれたが、仲介者が振込先を間違えたと嘘を言い、プリエも入金がない以上、地主への支払いは出来ないといって姿を消す

l  消えた五億円の行方

仲介者が間違えて振り込んだ金はその日のうちに消えてなくなり、土地詐取事件の捜査が始まるが、仲介者やプリエなど関係者が逮捕されたのは2年半後

l  杜撰な捜査

仲介者を問い詰めて警察に突き出すが、なぜか出頭した北田共々、警察は彼らからまともに話を聞くこともなく、当日中に釈放

l  荒唐無稽の共犯説

警察では、購入資金を銀行から借りたことを、仲介者とグルになって銀行を騙そうとしたと見做したようで、それ自体地面師詐欺グループがよく使う捜査攪乱のための逃げ口上で、警察がまんまとそれに乗せられた結果、捜査が遅々として進まなかった

l  裏の裏を読んだ警察

被害者の顧問弁護士が大物ヤメ検で漸く警察が動き出すが、検察が釈放し兼ねないといって、警察の動きは鈍いまま

l  逮捕状が出た内田マイク

主犯格の地面師はさほど多いわけではなく、同じ犯人がいくつもの事件に関わっているケースがほとんどなので、1つの事件を迅速に捜査すれば、被害の拡散は防げる

 

第7章     荒れはてた「500坪邸宅」のニセ老人

l  二課のリベンジ捜査

冒頭の喜田不起訴のリベンジとして捜査2課が掘り起こしたのが南麻布の不動産詐欺事件

不起訴の1年後、喜田は南麻布の100坪の土地とマンションを2.4億で売却し逮捕

l  偽造ではないニセ印鑑証明

1979年、中野区弥生町の517坪を相続したが、土地建物とも荒れ放題に放置

‘16年、劇場型詐欺事件発覚。紛失による印鑑再登録が発端。偽造免許証で印鑑登録廃止を申請したあと、新たに印鑑登録をして、公証役場で本人確認の証明を取得。すぐに土地を売却、4億円余りを手にする

l  二重のなりすまし

すぐに地主が馴染みの不動産屋から移転登記の話を聞かされ、詐欺が発覚

それを察知した地面師が、転売のニセ情報を流すとともに、食指を動かした買い手に対し、ニセ地主と最初の売買のニセ購入者が現れ、移転登記のされていない物件の転売契約を結ぶ。総額6億円の1/2ほどを詐取された。二重のなりすましで、両者とも行方不明

地主は、所有権移転禁止の仮処分を申し立て、被害届を提出

騙された買い手も、地面師詐欺に顔を出す人物で、真相は闇の中

l  電通ワークス事件との共通人脈

2010年代の節電ブームに乗って電通ワークスが始めた事業所向けのLED取り付け事業は、代理店に電通が巨額の製造コストを前払いする形で始まったが、発注・受注を繰り返す循環取引で、詐欺総額は120億円、うち56億の前渡金が消えたという

'14年以降14人が詐欺容疑で逮捕。主犯格が「新宿グループ」を率いた地面師の親玉津田悦資と「総武グループ」の高橋利久。’16年の1審も翌年の高裁も無罪。循環取引を認めながら詐欺には当たらないという玉虫色の判決

'09年、成城の100坪の地面師詐欺事件では、新橋のグループが暗躍、1.2億を詐取し、八重森ら8人逮捕

l  弁護士事務所の開設費用として

地主やその親族と一緒に動くケースもあり、被害者と加害者の境が曖昧に。ある資産家の息子のケースは、’06年頃競馬の予想会社が流行り、詐欺まがいの行為で当たり外れのトラブルなどが多発、弁護士事務所を開いたら儲かるのではと、父親の土地を使って金を作る。実際には、弁護士の名義だけ借りて非弁活動をやり仲裁料を手にする

l  「引き込み」役の親族

息子が地面師たちを呼び込んで融資金詐欺に加担。息子の印鑑証明を取って、名前と生年月日だけ変造すれば簡単に父親のニセ印鑑証明ができる。開発業者に持ち込んで買い戻し条件付きの融資を受け、短期で返済後に所有権を戻す方式だったが、返済が滞っているうちに父親に発覚、警察沙汰になる。息子も含め逮捕者を出したが、貸し手の開発業者に暴力団との繋がりがあったところから、被害者もグルではないかと疑い始め、捜査が複雑化

l  根絶やしにはできない

結局刑事事件としては立件できず仕舞い。一連の取引そのものをなかったことにする登記上の錯誤扱いにして、土地はもとに戻り、被害届も取り下げられ、何事もなかったことに

恐らく貸し手の損は、地面師たちの間で、ほかの物件で埋め合わせしたのだろう

 

おわりに

地面師事件の多くは捜査が難航し、立件に至っていない

逮捕や起訴された地面師事件はさほど多くないが、詐欺行為そのものは数限りなく起きていて、立件された案件だけでも同じ様な顔触れがあちこちで見受けられる

なりすまし役の高齢者は、逮捕しても証言能力に乏しいケースが少なくなく、捜査の壁となっている

 

 

 

 

 

講談社 ホームページ

ネットフリックスドラマの「参考文献」となったノンフィクション。

ドラマに出てくる事件の「本当の話」は、すべてこの本に書いてある。

石洋ハウス=積水ハウスは、なぜ地面師グループにコロッと騙されたのか?

ハリソン山中=内田マイクは本当にあんなに残虐なのか?

小池栄子演じる麗子=秋葉紘子(こうこ)はどうやってなりすまし役を集めるのか?

ピエール瀧演じる「司法書士上がりの地面師」は、実際はどんな役割をするのか?

現実はドラマより恐ろしく、ドラマよりエキサイティングだ。

 

積水ハウス、アパホテルなど、不動産のプロがコロッと騙された

複雑で巧妙な手口が本書で明かされる。

地面師はあなたの隣にいる。

 

何食わぬ顔で社会に溶け込み、ある日勝手にあなたの土地を売り飛ばすかもしれない。

不動産関係者、銀行関係者だけでなく、全国すべての不動産オーナーはこの本を読んでおいたほうがいいだろう。

 

 

 

 

『地面師』森功が読む ジャーナリズムの神髄に触れる3

2025.4.9. 日経Book Plus

Netflixドラマでも大人気となった『地面師たち』は、実際に起きた不動産詐欺事件がヒントになっています。原作の元本となったのが森功さんのルポルタージュ『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』でした(文藝春秋4月号から続編の連載を開始)。ディープな取材で社会問題に切り込む大宅賞受賞作家の森さんに、ノンフィクションを取り巻く現状と、その魅力に出会うことができる作品について聞きました。

1回目 『地面師』森功が読む ジャーナリズムの神髄に触れる3 今はここ
2
回目 森功 「見ているはずのもの」から事実を掘り起こした3
3
回目 森功 圧倒的な取材で事実を突きつけるノンフィクション

 ノンフィクションは今、厳しい時代にあります。雑誌の廃刊や部数減少で、雑誌ジャーナリズムそのものが廃れてきているのが昨今の現状。これまで月刊誌や週刊誌には、社員記者を鍛える伝統があったり、フリーのライターと一定の契約をして書かせたり、各社スタイルの違いはあっても、現場で取材をして記事を書く記者としての訓練の場になっていました。しかし、雑誌そのものが売れないために、人員を絞り取材費を絞り、ノウハウの蓄積が失われています。

 新聞ジャーナリズムも同様です。紙面を減らし、人を減らし、働き方改革もあって与えられた仕事のほか、記者が独自のテーマで追いかけ続ける余力がないのではないでしょうか。取材の足腰が弱くなっていると感じます。

 書く場が減ることによって、ノンフィクションそのものが崩壊してしまうのではないかという危機を感じています。そうしたなかで、今回は3回に分けて、新聞や雑誌の取材現場で足腰を鍛えられたノンフィクションライターの作品を取り上げました。

圧倒的な調査量で史実を突き付ける

『奪還 日本人難民6万人を救った男』 城内康伸著、新潮社

 圧倒的な取材と調査量で、多くの人が知らなかった史実を明らかにしたのが『奪還 日本人難民6万人を救った男』。

 第2次大戦の終戦直後、朝鮮半島には約70万人の民間邦人が住んでいた。南朝鮮地域では早々に引き揚げが始まり、翌春までに完了するも、北朝鮮地域では進駐したソ連軍により北緯38度線が封鎖。北朝鮮地域で日本人の正式な引き揚げ事業が始まる194612月までの約1年半、難民となった在留邦人は、満州から南下した人を含め推定32万人。民間邦人のうち、27万人以上が自分の足で南朝鮮地域に脱出し、26000人以上が飢えと病で死亡した。

 取り残された日本人のために、朝鮮半島や旧ソ連との人脈を駆使して奔走し、約6万人の脱出を手助けした一民間人である松村義士男のドキュメントであり、同時に、凄惨な状況を知る引き揚げ史の側面ももっています。

 著書の城内康伸さんは、中日新聞社(東京新聞)でソウル支局長、北京特派員などを歴任し、朝鮮半島および中国に関して深い知見をもつ人。戦後80年を目前に控え、存命の方たちを探し当て、直接話を聞くことができるぎりぎりのタイミングだったことでしょう。本人は、もう少し取材したかったと言っていました。当初は、内容が堅過ぎて売れないのではないかと思われたようですが、これまでほとんど知られることがなかった史実を掘り起こした作品。まさに城内さんの取材の蓄積がなければできなかった、胸に迫る一冊です。ぜひ多くの人に読んでほしいと思います。

 

離島の農協を舞台にした巨額横領疑惑に迫る

『対馬の海に沈む』 窪田新之助著、集英社

 ある男の死から、農協のJA共済、いわゆる保険事業で起こった横領疑惑の真相に迫っていく、まさしくルポルタージュの形式をとった本です。

 死んだ男は、対馬という人口3万人ほどの離島の農協(JA対馬)で、日本一のセールスマンになり、何度も表彰されている。死後の調査で明らかになったのは22億円を超える横領疑惑。何が起きていたのか、共犯者がいたのではないかという仮説を立て、過去の広報誌や映像を調べ、島中を歩き回って取材をしていく過程で、農協の共済システムそのものに不正の温床があるのではないかという背景を浮かび上がらせていきます。

 台風などで物件が被害を受けると多めに保険金を請求し、その分、被害者にも多めにお金を渡すことで自分ももうかる仕組み。手口は保険金詐欺に通じるものですが、何十人もの顧客の印鑑と通帳を預かり、契約と解約を繰り返した。それでも発覚しなかったのはなぜか。顧客にも金が入る、職員も「自爆営業」を強いられる過大なノルマから救われるという、謎が解き明かされていく。

 自分が感じた違和感を掘り下げていくことで別の構図が見えてくるのは、ノンフィクションライターの書き手として醍醐味のひとつ。JAグループの日本農業新聞の元記者である著者が、多くの人が気に留めていなかった事件を追って、一般には知られていない農協の実態までを描いていくという手法が斬新で魅力的な作品です。

 

終の棲家(すみか)から見えてくる、高級とは何か

『ルポ超高級老人ホーム』 甚野博則著、ダイヤモンド社

 2025年、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、約5人に1人の割合になります。親の問題、あるいは自身の将来を考えて、老後をどこで生活するのかは、多くの人にとって大きな関心事でしょう。

 老人ホームといえば、食堂にあるテレビのチャンネルを巡って口論をするなど、入居者同士のささいな小競り合いもある共同生活の場を一般的には想像するかもしれませんが、超がつく高級老人ホームでも実態は同じなのか。入居一時金は数千万円~数億円、月々の利用料が数十万円の全国の施設を取材し、入居者やスタッフから話を聞き、潜入取材や業務体験を行ってその実態を明らかにしたルポ。

 豪華客船さながらのアクティビティと食事、快適なサービスがある施設もあれば、なかには「入居者カースト」というべきコミュニティが出来上がっている施設や、経費削減優先で調味料はカビだらけの悪徳施設もある。大企業の経営者など社会的に成功したとされる人や大物といわれる人たちがどんな終末を迎えるのか、やっかみも含めた世間の興味をすくい上げ、今の時代を切り取っています。

 著者は自民党の幹事長や経済再生担当大臣などを歴任した甘利明氏の金銭疑惑などをスクープした『週刊文春』のエース記者で、フリーランスとなりノンフィクションライターに転じた人。介護の問題についても著書があり、今後の作品にも期待している作家です。

取材・文/中城邦子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/吉澤咲子

 

 

 

積水ハウス55億円詐欺事件 地面師 獄中からの告発 森功

『文藝春秋』202546月号

'244月、主犯格で逮捕されたカミンスカスから手紙が来る。本人は、最高裁まで争い、懲役11年が確定し服役中

無罪を訴え、事件の構図を、地面師グループ→エマイユ横澤(太田)→羽毛田→カミンスカス→イクタ→積水、とし、横澤が物件の売却を依頼され(元付け)カミンカスに持ち込んだものだが、エマイユの実態は不明で、横澤に騙されたという

事件には謎が多く、逮捕者は17人だが、起訴したのは10人のみで、事件の全容は不透明

事件の発覚は、積水の発表だが、積水は登記が出来なかったとだけ言って、詐欺とはいっていない。被害総額は70億円

カミンスカスは、不動産関係の仕事に就いた後、マンションデベロッパーとして急成長したABCホームの塩田社長と知り合い脱税を手助けし共に逮捕。3度目のリトアニア人との結婚で、小山姓を変える

間に入ったイクタが55億で買って積水に70億で売り、15億を抜いたが、地面師に騙されたとして不起訴。ただ、積水からは返還訴訟を起こされている

カミンスカスは、紹介料として2億の内1憶だけを受け取る

仮契約後に積水が怪文書として無視した内容証明については、積水が海喜館の内覧会を要求、羽毛田は体調不良を理由に代理人の弁護士を立ち会わせて、積水の疑念を一掃

'16年、横澤が企んだのは、この土地を担保にした20億の融資話。それを聞いたカミンスカスが、55億の売買を提案。横澤は取引から外され、公判記録からもの存在が消えている

それもあって、積水は怪文書を横澤の仕業と思い込んだようだ

横澤は、その後30社以上の企業に買収を仕掛け、買収された企業の社長の多くが、詐欺で訴えているため、目下逃げ回っている

海喜館の情報を最初に入手したのは北田(不起訴)で、北田から土地の構図などを入手したのが土井(主犯格として実刑)。土井の話に誘い込まれたのがカミンスカス(実刑)で、取引の現場に立ち会っていたところから主犯格と見做された

消えた金の行方は捜査でも解明できていない。積水は払ったのは手付けの14億と本契約時の49億、計63億。羽毛田が積水のマンションを購入、その購入代金7.5億を別途預かっていたので、被害額は55.5億。カミンスカスに渡った紹介料の1億以外は行方不明

騙し取られた後、積水はカミンスカスと行動を共にし、佐妃子の異母弟を探しだし、正式に土地を買い取ろうとしたが、異母弟がすぐに気付いて所有権移転の仮登記抹消を求めてイクタを提訴したので、地面師の入る余地はなく、異母弟は旭化成不動産に売却

なりすましの逮捕がなければ刑事事件として成立しないため、地面師はなりすましの逃避工作をするが、逃走資金の負担で仲間割れが起こり、なりすましは逮捕され、以後芋蔓式に関係者が逮捕されていった。カミンカスもフィリピンに高飛びしたが、本国送還で逮捕

 

 

 

 

 

 

 

コメント

このブログの人気の投稿

近代数寄者の茶会記  谷晃  2021.5.1.

安曇野  2011.11.8.  臼井吉見

新 東京いい店やれる店  ホイチョイ・プロダクションズ  2013.5.26.