15時17分、パリ行き  Anthony Sadler他  2018.4.16.


2018.4.16.  1517分、パリ行き
The 15:17 to Paris 
~ The Story of a Terrorist, a Train, and Three American Heroes  2016

著者
Anthony Sadler 俳優、作家、講演家。事件当時、カリフォルニア州立大サクラメント校4年生
Alek Skarlatos オレゴン州軍特技兵
Spencer Stone 元アメリカ空軍3等軍曹。講演家。事件当時は1等兵
Jeffrey Stern ジャーナリスト。『ヴァニティフェア』誌、『エスクァイア』誌、『タイム』誌などに寄稿。著書にアフガニスタンの私立学校を通じてアメリカが人々に与えた影響を描く『The Last Thousand(2016)がある

訳者 
田口俊樹 
不二淑子

発行日           2018.2.10. 印刷  2.15. 発行
発行所           早川書房(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

2015.8.21. 15:17にアムステルダム駅を出発した高速列車はパリに向かっていた。だがその車内に、イスラム過激派の男が武装して現れた。乗り合わせたアメリカ人の3人の若者は異変に気付き、即座に行動を起こす、彼らはいかにして500名超の乗客を救ったのか? 衝撃的な事件の全貌と、やがて英雄となる普通の若者の偶然に満ちた人生を語る傑作ノンフィクション。クリント・イーストウッド監督映画原作


プロローグ カリフォルニア州立大学生 アンソニー・サドラーとアイユーブ
81820日アンソニーから牧師の父へ、元気でいる旨のメール
高速列車タリス9364号 北フランスを走行中 乗客554名 アンソニーとアレク、スペンサーの3人がテロリスト1人を縛り上げる、もう1人のテロリストは頸動脈を切られて瀕死の状態
1985年シェンゲン協定によってヨーロッパ国内の人・物の往来が自由になった
モロッコ生まれのアイユーブ・ハッザーニは、2年間スペインに出稼ぎに行った父親と離れて暮らす

第1部        米国空軍兵 スペンサー・ストーンとアイユーブ
スペンサーがアンソニーとパリに行くといったとき、パリの『シャルリー・エブド』のテロ襲撃事件直後で母親は不安を感じる
アレクとスペンサーは幼友達、母親同士が姉妹のような緊密関係に
アンソニーは、弱小運動部の助っ人としてほかの2人の学校に編入されてきた黒人のバスケットボール選手だが、素行が悪く、他の2人とともに校長室の常連。特にアルファベット順の名簿で3人並んだところが余計に悪かった
学業を終えるまで何一つ成し遂げたことがなかったが、空軍のパラレスキュー隊を見つけて志願しようとまず基準をクリアーするための肉体改造に取り掛かり1年で受験したが最後の視力検査で落とされ、他の部署に回された後、ポルトガルのアゾレス諸島の基地に配属
溜まっていた休暇をとってアレクとヨーロッパ旅行を計画。途中でアレクが抜けてアンソニーが加わる
予定通り2人はローマで合流
初日からローマでバカ騒ぎをしてスペンサーは足を骨折したと思ったらそれほどでもなく無事旅行が続けられた
ベルリンに行ったとき、ホテルでスウェーデンから来たハードロッカーに勧められ行く先をアムステルダムに変更
テロリストと格闘、目をやられて半分見えないままアゾレスにいた間に習った柔術の心得が役立ってテロリストの1人を羽交い絞めにする
アイユーブは父親を追ってスペインに渡り、ハシシ(麻薬の一種)販売容疑で逮捕。ジブラルタル湾の見える街貧富の格差の大きい街アルヘシラスに移住、新しく開設されたモスクに出入りするようになってから警察から注意人物として監視対象に
そのころ、イスラム過激主義の2つのグループが合併 ⇒ ヌスラ戦線と呼ばれたシリアの反政府武装組織と、イラク・イスラミック・ステートと名乗る組織が合併し「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」となり、14年にはイラク首都近郊のファルージャを掌握、さらに1200年前イスラム世界が科学や発見、公正さや秩序の中心だったころのアッバース朝の首都で今でも主要な大都市ラッカを奪取
14年アイユーブは、携帯電話会社に採用されフランスに渡るが、スペイン当局が渡仏を知ってフランス情報機関に警告を発すると合法的な監視下に入り、直後に解雇され、姿をくらます

第2部        オレゴン州軍特技兵 アレク・スカラトスとアイユーブ
アレクは、アフガニスタンに出征、特殊部隊の基地の安全確保の任務に就く
復員してテキサスに戻る途中、給油で立ち寄った女友達のいるドイツにスペンサーからメールが入り、行く先をアムスに変更したことを知らされ、合流するためにアムスに向かう
アムスを発ってパリに向かう列車の1等車に乗り、ブリュッセルを過ぎる。ブリュッセルでアレクは客室乗務員が降りるのを見ていたが、その後ろで火力で武装した男が乗り込んできたのは見えていない。しばらくすると、後ろのほうで大きな物音がしてガラスの割れた音がするとともにライフルを構えた上半身裸の男が客車に近づいてくる
ちょうどその頃、パリのアメリカ大使館に通信社から電話が入り、アメリカ海兵隊員がパリ行きの列車内でテロを未然に防いだがコメントが欲しいという
たまたま列車に乗り合わせた大使館員がいたが、その職員が報告できたのは、列車が停車し、ルートが変更になり、血だらけの男が搬送されたということだけ
自国民の安全確保の任務は領事職員の仕事でそのために特別の訓練を受けていたが、3人がどこにいるのか見当もつかなかった。軍人の保護は駐在武官の役目なので軍が出動
親指を切られたスペンサーが病院にいることが判明、さらに他の2人もホテルにいることが分かり、報道陣に囲まれて一躍スターになった
8月の土曜日だというのに、大臣始め各所からアメリカと大使館への感謝の言葉が浴びせられた。オバマ大統領からも2人に電話がかかる
3日後にレジオン・ドヌール勲章が授与される
15年『シャルリー・エブド』襲撃事件の際、アイユーブはフランスがアフリカの植民地に与えた暴力の写真をSNSに投稿し、フランスこそテロリストの国家だと主張、シリアのジハードの入口となるイスタンブールに向かった後、ヨーロッパでジハード戦士志望者が最も多いベルギーに行く。そこからさらに21日のアムス発1517分のパリ行きの列車に乗る。バックパックには拳銃、カッターナイフ、ボトル入りのガソリン、ハンマー、300発近い銃弾の入ったマガジン、AK-47ライフルが詰まっていた
乗ったのはアメリカ人3人が乗ったのと同じ1等車
トイレで上半身裸になってライフルを肩に外に出ると、順番を待っていた男と鉢合わせ、ライフルを取られたので拳銃で撃ち殺す。来合わせたほかの乗客が逃げる。追いかけて拳銃の引き金を引くが不発、慌てて間違って安全装置をかけてしまう。ほかの男が飛び掛かってきて床に倒れライフルも手から離れる

第3部        カリフォルニア州立大学生 アンソニー・サドラーとアイユーブ
事件が終わってアメリカに帰国した後、5か月後にオレゴンの学生が銃撃事件を起こし9人を殺して自殺したが、テロリストではなかった
銃撃のあったコミュニティ・カレッジはアレクの通っている学校で、たまたまアレクは不在だったが、もしいたら防げたのではないかという無言の圧力が、邪悪な暴力事件が起こるたびに自分たちの上に重くのしかかってくるかのように感じられた ⇒ 殺された人々に対する責任の一部があるとでも言われているようで、これからもずっとこういうことが自分たち3人に付きまとうのだろうか?
本人たちにも理解できないほど、あまりに多くの方向に引っ張られ、殺到するメディの要望に振り回されていた
3人でじっくり考える時間もないまま、神経が高ぶり、興奮し、事件の時のことを思い出す
ニューヨークで3人で飲んでいた時、他の男と肩が触れ、男が殴り掛かってきたので取っ組み合いの喧嘩になり、殴り倒した後我に帰る
翌日ベルギーの首相から国の最高勲章授与、レセプションでは二日酔いに耐えて凌いだ
スペンサーが喧嘩で殺されかけた
パリでテロリストによる銃撃事件発生、多数の人が死んだというニュースが流れ、自分たちがアイユーブのテロを防いだための報復かという思いに悩まされる
フランスからサクラメントに戻った途端、大勢の報道陣に囲まれ、家にはテレビ局のトラックの集団が取り巻いていた
記者会見をして、しばらくの休養を宣言
ようやくドイツの空軍基地で静養中のスペンサーと連絡が取れ、同じように英雄扱いされていることを知る
メディアへの出演依頼が殺到
9.11の碑の前で似たような名前を見つけ、自分のしたことの重みにようやく気付く
サクラメントで3人の歓迎パレードに続いて、ホワイトハウスでオバマ大統領の執務室で面談、そのあとペンタゴンで国防長官から勇敢さを称える民間人最高位の勲章を授与、スペンサーには空軍の勲章であるエアマンズ・メダルと戦傷章であるパープル・ハート勲章、アレクには陸軍の勲章であるソルジャーズ・メダルを授与された
ようやく、間違いなく誰かのために何かをしたのだと実感した




2018.3.11. 朝日
福永信が薦める文庫この新刊!
 (1)『娘たちの空返事 他一篇』 モラティン著 佐竹謙一訳 岩波文庫 907
 (2)『1517分、パリ行き』 アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーンほか著 田口俊樹、不二淑子訳 ハヤカワ・ノンフィクション文庫 972
 (3)『バカのものさし』 養老孟司著 扶桑社文庫 702円
     *
 (1)空返事とは心のこもってない応答のこと。親の決めた、高齢の金持ちの男との結婚を目前に娘の心は揺れ動く。「本心」とは裏腹の言葉が口から出る。自分の心を見失う。台詞(せりふ)だけの奇妙な世界だからこそ、様々な解釈を読者の心に宿す。著者は二百数十年前に活躍したスペインの劇作家。併録作「新作喜劇」は演劇界を徹底的に皮肉る傑作。誰か上演してほしいなあ。(2)本人達(たち)が自ら演じて話題のイーストウッド監督最新作の原作。3人の米国青年がテロを未然に防いだノンフィクション。列車内でテロリストに直面した時の行動を微細に描写。3人の記憶は一致しないが、それは彼らの心の中身を書いているから。本書の白眉(はくび)。(3)子供達の質問に答える問答集。くしゃみをすると脳が出ますか、とか、脳のことを考えて何がわかるんですか、などの難問に予想外の答えが用意される。「心はどこにあるか」の答えが面白い。「運動はどこにあるか」とは問えない、それと同じと著者は言う。心は揺れ動く時、その姿を見せるのだろう。
 (小説家)
福永 信(ふくなが しん、1972622 - ) 小説家、同人活動家。東京都出身。京都市在住。京都造形芸術大学芸術学科中退。
1998、「読み終えて」で第1ストリートノベル大賞受賞。『リトルモア』に小説を掲載し、2001年に初の作品集『アクロバット前夜』を刊行。2006、同人作家として柴崎友香名久井直子長嶋有法貫信也とともに同人誌Melbourne1』を刊行。「アーティスト・イン・笠島」に招聘。2007、先のメンバーとともに同人誌第二弾『Иркутск2』を刊行。2012年、『一一一一一』で第25三島由紀夫賞候補。2013年、『三姉妹とその友達』で第35野間文芸新人賞候補。2015年、第5早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。
デビュー作品集『アクロバット前夜』は、横書きで、1頁目の1行目が2頁目の1行目につながり、最終頁の1行目が1頁目の2行目につながる、という極めて珍しい頁構成となっている。2009年に、内容はそのまま、通常の縦書きに再構成された『アクロバット前夜90°』が刊行された。
単行本化に際して、雑誌掲載作を大幅に改稿することがある。
現代美術にも造詣が深く、『あっぷあっぷ』は村瀬恭子の絵画作品と小説の文章が併録される構成、『一一一一一』、『三姉妹とその友達』は台詞を中心とした演劇的作品である。
柴崎友香には「現代美術的っていうかインスタレーションのように小説をやってる」と評されている。


CNN co.jp 
パリ行き列車内に武装した男、乗客らが取り押さえ 3人負傷
2015.08.22 Sat posted at 09:42 JST
CNN オランダ・アムステルダム発パリ行きの高速鉄道車内で21日、ライフル銃や刃物などで武装した男が乗客らを襲い、当局によると、3人が負傷した。男は居合わせた米兵らに取り押さえられた。
事件があったのは国際特急列車タリスの車内で、列車はベルギーを走行中だった。取り押さえには米空軍隊員や州兵、民間人が関与した。欧州テロ対策当局は当初、米海兵隊員が男を取り押さえたと述べていた。
取り押さえに参加した一人、アンソニー・サドラー氏はCNNの取材に対し、男はトイレから上半身裸の格好で、自動小銃AK-47を肩から下げた状態で出てきたと説明。友人のアレック・スカラトス氏が「やつを捕まえろ」と叫ぶと、もう1人の友人、スペンサー・ストーン氏がスカラトス氏に続き男に突撃。サドラー氏も含めた3人で男をたたき、スカラトス氏が男からライフル銃を奪ったという。
その際スペンサー氏はカッターナイフで切りつけられ、頭や首などに多数の傷を負った。親指は切断寸前だったという。
サドラー氏は別の乗客の助けも借りて男を縛り上げた。また、のどを切られた男性に気が付き、スペンサー氏が止血の処置を行ったという。
当局によると、男はカッターナイフのほか複数の刃物も所持していた。
列車は行き先を変更し、パリ北方185キロのアラス市に向かった。
アラス市の広報担当者によれば、負傷者のうち2人は重傷だが命に別条はない。このうち1人は米国人。また、フランスの俳優ジャン・ユーグ・アングラード氏が手に軽傷を負ったとした。
当局者によれば、男はモロッコ国籍。イスラム過激思想を持っているとみて欧州テロ対策当局が動向を注視していたという。別の治安筋はこの男について、フランスの情報機関に知られた存在であり、過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」に共感していたようだとしている。ただ、具体的にどの組織に忠誠を誓っていたのかは不明。
当局者によれば、男は多くの弾薬を持っていた。無差別殺傷が食い止められた形であり、公式には発表されていないもののテロ行為の疑いがあるとしている。
ベルギーのミシェル首相は短文投稿サイトのツイッターで「テロ攻撃を非難する」と述べ、被害者への同情を示した。フランスのカズヌーブ内相は、「野蛮な暴力攻撃」として事件を非難し、パリの対テロ検察当局が捜査に着手する見通しだと述べた。海兵隊員の助力に対して「感謝と称賛」を表明している。
米国防総省の報道官はCNNに対し、「報道を把握しており、現時点では米軍の兵士1人が事件で負傷したことのみ確認している。命に別条はない」と述べた上で、引き続き状況を注視する姿勢を示した。


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