季語体系の背景 地貌季語探訪  宮坂静生  2018.2.14.


2018.2.14. 季語体系の背景 地貌季語探訪

著者 宮坂静生 1937年長野県生まれ。俳人。信州大名誉教授。現代俳句協会会長。月刊俳句誌『岳』主宰。地貌季語発掘を提唱し、第45回現代俳句協会賞。『語りかける季語 ゆるやかな日本』で第58回読売文学賞。

発行日           2017.10.25. 第1刷発行
発行所           岩波書店                  


ことばには貌がある。そのことばには、土地の貌が映し出されている。地貌のことばを探索する俳人は、その貌の現場に赴き、季節と共にことばが立ち上がる様を目撃してきた。どうしてもそのことばでなければならない現象、営み、情念、願い。これまでの季語の範疇を超えて、愛着にあるこの土地の、このことばでこそ、詠みたい―――。地貌季語への期待と展開の実践書










季語体系の背景 宮坂静生著 風土に根ざす人の息づかい
2018/1/27付 日本経済新聞
フォームの終わり
 「歳時記は日本人の感覚のインデックスである」とは寺田寅彦の言葉である。俳句は、その歳時記の季語を活(い)かし表現することで、俳句そのものを豊かにしてきた。しかし、季語は時代によって変遷、消滅、再生を繰り返す。近年の急速な社会生活の変化のため、人々の記憶から消え去ろうとしている季語はけっして少なくはない。
(岩波書店・3700円)
みやさか・しずお 37年生まれ。俳人。信州大名誉教授。現代俳句協会会長。著書に『語りかける季語 ゆるやかな日本』など。
※書籍の価格は税抜きで表記しています
(岩波書店・3700円)
みやさか・しずお 37年生まれ。俳人。信州大名誉教授。現代俳句協会会長。著書に『語りかける季語 ゆるやかな日本』など。
書籍の価格は税抜きで表記しています
 著者は、そうした季語を単なる自然の季節感受の言葉としてではなく、古代からの人間の原風景を伝え、今に生きて働く言葉として捉え直すことに長年取り組んできた。季語には京文化や農耕生活だけではなく、それ以前の人々の命の営みが蓄えられている。それぞれの土地にそれぞれに生きる人々の息づかいが直(じか)に聞こえる言葉なのだ。それを著者は地貌季語と呼ぶ。本書はその地貌季語を、採集し言葉の財産として体系立ててまとめたものだ。
 沖縄から北海道、そして、地元の長野まで全国各地を自ら歩き、各地の俳句から見いだした季語が、背景となる生活や環境、歴史とともに紹介されている。例えば「やませ」という風の季語は、もともと全国各地で用いられていたが、塩釜在住の俳人佐藤鬼房の俳句によって東北、北海道に夏、凶作をもたらす冷湿な風として定着したと指摘する。俳句によって言葉が磨かれ、歴史的現実が言葉の奥行きを深める。そこに地貌が表れる。他にも、各地の風土に根ざした俳句が柳田国男や谷川健一の言説などを踏まえて、具体的に解説されている。「沖縄俳句歳時記」など各地ごとの歳時記への言及もあり、簡明で説得力に富む。
 地貌は季語だけでなく、人間の営み全体に存在していることにも気づかせてくれる。シベリア抑留など戦争の悲惨な歴史から生まれた俳句や東日本大震災での被災の俳句にもまた地貌は表れる。
 地貌季語の探訪は著者のライフワーク。その契機となったのは社会変化に伴い俳句の自己変革を意識したときという。「自己の内なる茫漠(ぼうばく)とした風土をいかに捉えるか」という問題を正面から受け止めたのだ。内なる風土とは、生者としての自己と言葉に棲(す)む死者とが一体となる世界でもある。本書は季語の世界をまた一段新しい次元へと押し上げてくれている。
《評》俳人 高野 ムツオ


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