残酷平和論  鴨志田恵一  2012.7.22.

2012.7.22. 残酷平和論 人間は何をしでかすかわからぬ動物である

著者  鴨志田恵一 1943年ハルピン生まれ。46.11.日本に引き揚げ。ジャーナリスト。日比谷高校から東大を経て、66年朝日新聞入社。金沢、京都、大阪(社会部)在勤。外報部に長く、最初のアラビア語留学生を皮切りに、カイロ支局長やパリ支局長を務め、アラファトやゴルバチョフと交点を持つ。宗教や哲学に関心が深く、言論誌『RONZA』の創刊編集長として論壇に新風を送る。現在は法政大学での「平和論」講座に集中。剣道は教士7

発行日           2011.6.20. 初版発行
発行所           三五館

平和とは謎。よくわからないもの
自らの体験と観察から常々考えてきたことをぶつけたい
200310年法政大学社会部「平和論」講座の内容をまとめ、一部加筆したもの
最初の履修は100人程度だったが、2010年には400人を超えた

第1章        戦争が始まる原因と背景、構図
73.9.4次中東戦争勃発の現場に立ち会い、留学の目的どころではなく現地からのニュースを送り続けた体験から、戦争の目的を、領土拡大、資源獲得、自己の権威の昂揚等々15項目に整理

第2章        平和のもろさと共生の模索
1982年 フォークランド紛争を通じて、戦争の終り方について考察
当事者自身が和解交渉を進め合意し、共に共生を図ることこそ、最も確かな平和への道だが、人間同士の信頼関係という基盤がなければ成立しない
長年の戦争から共生へと転じた好例として、独仏の関係が参考になる ⇒ 諸国間の協調により欧州共同体を発足させた理性に学ぶことが多い
憎しみと許し ⇒ 憎しみや復讐の感情が、抑制のきかない力として人間を支配してしまうことを「関係の絶対性」(吉本孝明)と呼ぶ。人類の歴史を縛ってきたこの「関係の絶対性」の対立のうちにイラク戦争の最も困難な本質と核心がある。あくまで対話を通じて、共生を目指すforgivenessの精神こそ必要
古代ギリシャが、100年かけて部族社会から市民社会という概念を経て都市国家を作ったのは、その間の辛抱強い対話と論争の結果であり、これほど普遍性のある生き方はない
塩野七生「一神教とは諸悪の根源」 ⇒ 異なる一神教同士でも家族の中では共生し得る
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教のそれぞれの神は、普遍性、即ち「理」というものを人間に教えたいがゆえに、それぞれの預言者に言語化させたのだと思う ⇒ 仏教の「理」も同じ
中東紛争とは、民族や宗教対立ではなく、ユダヤ人という被差別者が国家建設を強引に進め、パレスチナ人という新たな被差別者を生み出した構図 ⇒ 人類一般の侵略と差別問題の連鎖構造
科学、芸術、マスコミで優れた業績を上げ、人類の進歩に寄与して生きたユダヤ人の生き方は、自己を超えて真善美を追究する進化したものであり、並外れた人類愛の体現者ともいえる。他方、自己の生存と安全確保をひたすら求め、ユダヤ人同士のネットワークで金融、商業による功利的蓄財に一生懸命な傲岸なユダヤ人がいる。お互いユダヤ人同士がどうにかしなければどうにもならないと認識しているはず

第3章        遺伝子と文化・文明の関係
“Peace”は、旧約聖書によれば「生きる希望」であり、鳩とオリーブの枝に象徴される
「平和」は、静的感性から来た言葉。一人一人の中の心の安寧、仏教でいう涅槃、「理」
3大一神教の始まりは4000年前に、自己に感謝し、奉仕する信仰をも持つ人間と契約を結んだ時。神の命令を絶対的に信ずる者に対しての神の約束の第1の受益者がアブラハム。正妻サラとの間の子イサクがユダヤ人の先祖、キリストもユダヤ人、奴隷ハガルとの間の子イシュマエルがアラブ人の先祖、その末裔がイスラム預言者ムハンマド
ガンジス河の東側には、仏教、婆羅門教(後のヒンズー教)という絶対神がいた
「ミームmeme」 ⇒ 76年に進化生物学者ドーキンスが提唱した概念で、「模倣子」「文化遺伝子」。DNAの遺伝子「ジーンgene」と対をなす。Memory(記憶)mime(模倣)を合わせた造語。人間が他者や環境のありようを真似て記憶し、その上でまた新たな真似をしてDNAを進化させるというもの。生物進化の謎を解く手がかり
「文明civilization」 ⇒ 科学技術など人類一般の普遍的進歩の成果
「文化culture」 ⇒ それぞれの民族固有の生活様式や美意識
異文化・異文明との出会い ⇒ 相手にとっても自分は異なるものであることを自覚することが重要

第4章        コミュニケーションとは何か
人間同士のコミュニケーションの目的は、相手を探るため、その相手と共存できるかどうかを測るところにある ⇒ 生身の五感をぶつけることが必要
仲良く前向きに交流するには ⇒ 約束事を守る、虚飾や欺瞞や誇張は排除、第三者も見ていると意識、「理」の現れであることを意識

第5章        マスコミの存在理由とは
時代の空気を伝えるとともに、時代の空気を作り出すもの、時代を映す鏡
ツール自体が如何に進歩多様化しようと、人間のコミュニケーション行為の本質は変わらないので、マスコミの存在基盤がコミュニケーションという範疇である限り、時代の中で進化していくべきもの
マスコミとは、定期的に継続発信し、客観的であることに尽き、マスコミがなければその社会は結局生き残れない
メディア・リテラシー(識字) ⇒ メディアの伝える内容を疑い、吟味し、勉強すること

第6章        人は死刑判決を下せるのか
2009年の裁判員制度の施行で、一般人も「死刑判決」に関わることになったのを機に、改めて「死刑制度」を問い直してみる ⇒ 職務としての裁判官の責任とは別の重たさがある
フランスは1981年に死刑廃止 ⇒ 人命尊重は人権思想の基本であり、民主主義が人権に立脚している以上、民主主義国家であることと死刑制度は共存できない
欧州で死刑を維持しているのは、最後の独裁国家ベラルーシのみ ⇒ 全世界では全廃が95か国、通常犯罪で廃止が9か国、事実上廃止が35か国、存続11か国(2010年現在)
司法とは極めて人間的で、か弱く、周囲の状況によって判決も大きく影響される
人間の生き延びようとする天命を絶ってはならない。他者に対しても自分に対しても同様で、人類共通の唯一の絆

第7章        憲法9条の理念と機能
我々世代以上は、「戦争放棄」という理念と引き換えに生かされている
理念はいつも言語化していないと、ただの空論に終わり兼ねないが、よくよく自分で反芻し、絞り切ったものをきちんと発すべきだし、行動する以上覚悟が必要
「論理」と「事実」は別個のものだが、それを魂で結びつけながら、人間は時空を歩いて生きていく存在 ⇒ 「理業一致」(剣道の世界)こそ人間の生き方の道筋であり理念
人間だけが未来を概念として持てるのであれば、人間は未来を創るべき
国家権力には大いなる弱点 ⇒ 構成している人間が極めて少ない。平和を危うくしているのは国家権力そのもの。監視していないと平和は脆く崩される

コインの裏表のように戦争か平和化の二元論ではなく、コインの側面という中間状態こそが歴史の本体なのではないか
さらに、側面を広げて球体にすれば一元論に概念転換できる ⇒ いまこそ二元論から、戦争、平和のどちらでもない「自律調和」という球体の一元論に進化すべき時だ


200301
ジャーナリズムと百科事典の接点とは?
鴨志田 恵一さん
(かもしだけいいち)
元・朝日新聞社記者、宇都宮大学/鶴見大学講師
朝日新聞社で長年、記者として活躍し、今年からは宇都宮大学の国際学部や鶴見大学の文学部で教鞭をとる鴨志田恵一氏。講義内容はマスコミやジャーナリズムについて。ジャーナリストと教師という二つの視点から、ジャパンナレッジを語ってもらった。
日本語力の大切さ
 英語教育に携わって私が強く実感していることは、外国語習得には母語の国語力が非常に重要だということです。われわれ教育者も常に外国語と日本語の関係性を念頭に置いて、教育を考えていく必要があると考えています。どういうことか具体的に説明しましょう。
 たとえば、科学のある法則について、日本語ですでにそれを学習し、理解していれば英語でも理解しやすくなります。外国語習得の効果的な方法の一つに「多読」がありますが、多読の際に日本語での背景知識があるかないかで、理解のスピードや集中力が大きく変わってくるのです。私は自分の授業でも、生徒に多読させ、生の英語に触れる機会をつくっていますが、やはり事前に日本語の資料を収集させて予備知識をつけさせるようにしています。こうすることで、初めて読む英文の内容でも、コンセプトを理解しているので内容を格段に理解しやすくなるのです。
 ジャパンナレッジは、この多読を効果的に行うツールとして、非常に役立つものだと考えています。『日本大百科全書』や『現代用語の基礎知識』などで事前に背景知識を強化しておくことが容易にできます。さらに、『ランダムハウス英和大辞典』をはじめ、『プログレッシブ英和中辞典』『プログレッシブ和英中辞典』が同時に検索できることにより、背景知識の収集を行いながら、英単語や例文なども参照できるのは非常に便利です。
 統計的にははっきりしていませんが、母語でのコミュニケーション能力(読み・書き・話す)が高い人は、外国語を習得する際のコミュニケーション能力も高いというケースが多いといわれています。つまり日本語力の高さが外国語習得のカギになるといえるでしょう。
ネットワークが変え始めたジャーリズムの現場生
 ところで、ネットワークの発達によってジャーナリズムの現場も大きく変わってきました。実際、私が退職する数年前、朝日新聞社でも全社員にパソコンが給与されました。そして、使いこなせる連中は、画面と向き合う時間がどんどん長くなっていきました。地球の裏側の情報だって瞬時に手に入れることができるし、公官庁や企業のホームページも、どんどん充実してきていますから、ある程度の情報はいつでも閲覧できます。つまり、基本的な取材や事実確認は、時間を選ばず、座ったままで行えます。記者にとって、これほど便利なことはありません。記者時代、とにかく足で情報を収集し、原稿用紙とにらめっこしていたかつての自分の姿が、縄文人か、弥生人のように感じてしまうほどです。
 いずれにせよ、記者たちも画面の上で多くの情報を収集し、そしてそのまま原稿を入力するようになってきました。たとえば、ニュースバリューを判断したり、過去の事実を確認するために自社の過去記事のデータベースを検索する記者は多いようです。ただ、過去記事の検索は、言葉の意味や歴史的事実を調べるのには向きません。そういう検索は、やはり百科事典が最適です。そんな百科事典の知識を画面上で確認できるネット上の辞典サイトは便利な、特に締め切りが迫っている段階では重宝するはずです。中でも、ジャパンナレッジは複数の辞事典を横断して閲覧できるだけに、よりありがたい存在といえます。
 ジャパンナレッジに注文があるとするなら、欧米の辞事典をより多くタイアップしてほしい。そうなれば、大学などの研究者が非常に重宝するはずです。ジャパンナレッジの質と信用も大きく向上させることにつながるでしょう。



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