ジェフ・ベゾス  Brad Stone  2022.8.20.

 

2022.8.20. ジェフ・ベゾス 発明と急成長を繰り返すアマゾンをいかに生み育てたのか

Amazon Unbound               2021

 

著者 Brad Stone 20年以上にわたってシリコンバレーを取材してきたベテラン記者で、ブルームバーグニュース、グローバルテクノロジー部門の上席編集主幹を務めている

14-09 ジェフ・ベゾス果てなき野望』は『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラー入り、日本語を含む35か国語以上に翻訳。サンフランシスコ・ベイエリア在住

 

訳者 井口耕二 1959年生まれ。東大工卒。オハイオ州立大大学院修士課程修了。大手石油会社勤務を経て、98年に技術・実務翻訳者として独立。訳書に『11-12 スティーブ・ジョブズ Ⅰ・Ⅱ』

 

発行日           2022.4.25. 第1版第1刷発行

発行所 日経BP

 

 

 

はじめに

2019年、ベゾスの肖像画がワシントンDCのスミソニアン国立肖像画美術館に収蔵。ミュージカル《ハミルトン》の制作者リン=マニュエル・ミランダや『ヴォーグ』誌編集長アナ・ウィンターら6人と一緒

挨拶でベゾスは自らの人生を振り返って、「実験と間違いと失敗を繰り返してきた」という

アマゾンCEOに対する世間の評判はややこしくなっていた――業績は好調だが、称賛の声が上がるたび、批判が出る。社内の貧富の格差など社員や社会に対して、また思いのほか脆弱な地球に対して大会社が負うべき責任についての国民投票として語られるものとなった。2040年までにカーボンニュートラルにすると意欲的な宣言をしたが、足元の排出量は公表せず

l  倒産寸前、株価が10ドルを切ったことも

1994年ベゾスとマッケンジーはシアトルのガレージでカダブラという名のアマゾン・ドット・コムを立ち上げ、オンライン書店というアイディアは軌道に乗り、2年後にはベンチャー・キャピタリストが声をかけるまでに

'97年にはバーンズ&ノーブル書店との訴訟を乗り越えIPOを成功させ、扱い商品を増やす。長期株主利益の実現に向け、たゆまぬ発明、素早い意思決定、幅広い技術のあくなき活用が必要だと訴えるスローガン「デイ・ワン」が誕生

'99年には『タイム』誌の「今年の人」に選ばれるが、内実はぐちゃぐちゃで、2年後にバブルが崩壊すると株価は急降下、'01SECによるインサイダー取引疑惑の調査が入り、地震にもやられ、株価が10ドルを切ったが、AOLから1億ドルの投資を受けて生き延びる

回復のきっかけは、サードパーティーセラーの販売を許可したこと。誰から買うかは顧客が選べるよう、社外からの出品を許して品揃えを充実させた

アライドシグナルからジェフ・ウィルケをヘッドハントし、ロジスティックを一新するフルフィルメントセンターを立ち上げ

もう1人の副官アンディ・ジャシーには、自社のプラットフォームを顧客に開放するアマゾンウェブサービスAWSの新事業を任せる

iPodiTunesストアでアップルが音楽の販売を急伸させていることにヒントを得てキンドルを開発、大手出版社との厳しい交渉を経て新事業を確立

l  6ページ文書、ピザ2枚チームで勝ち目の薄い戦いを勝ち抜く

社員には顧客最優先、高い採用基準、倹約などリーダーシップ原則14か条に沿った行動を求めながら、自らはどんなことでも普通のやり方をしようとしない

パワーポイントは禁止、6ページのプレゼン資料の読み込みから始まり、実作業はピザ2枚で足りる人数のチームで行い、スピード第一、複数チームによる競合もある

分散型の極致といえる企業文化で、’11年には時価総額800億ドルに達する

オンラインショップにも売上税を義務付ける動きが広がり、当初は回避に注力したが、税金を払えば顧客の近くに事務所やフルフィルメントセンターを置けると考え、長期的見方に切り替える

l  時価総額1兆ドル、社員130万人の超巨大企業へ

前著以降も急成長――'12年の売上1200億が1兆へ、従業員15万が130万へ

バーチャルアシスタントのアレクサ、アマゾンエコー発売開始――音声操作の世界

AWSはデータサービスの種類を拡充、顧客をクラウドに誘い込んでいく

リアル店舗アマゾンゴーの1号店をシアトルに開店

アマゾンスタジオでハリウッドに進出――ネットフリックスに追随

サードパーティーセラーの取引が、2015年にはアマゾン本体の売り上げを上回る

オーガニックスーパーのチェーンのホールフーズマーケットを買収し食品事業に進出

配送を見直し、独自のネットワークを充実させ、UPSなどへの依存度を引き下げ

同時に、富や力の過度の集中に対する規制の動きが活発化

l  ベゾスはギークから世界一のアクションヒーローに

アマゾンと共にベゾスも変わる――自信満々のギークから実業界の大物に変身

慈善事業も開始、ブルーオリジンで宇宙へも進出、ワシントン・ポスト買収

'19年離婚発表、テレビのパーソナリティで知られるローレン・サンチェスとの不倫

本書では、短期間で急成長した理由を探り、ビジネス分野の競争にとって、いまの社会にとって、さらには地球にとって、アマゾンとベゾスの存在はプラスなのかそうでないのかを問い直してみたい。周囲の数百人にインタビューしたが、本人には話を聞けていない

大企業になってからも官僚的な面をそぎ落とし、画期的な新製品を開発できる企業文化を作り上げた猛烈CEOの物語

圧倒的な力をテクノロジー企業がわずか10年でつけてしまう様を描いた物語

道に迷ったかに見えた世界的に有名なビジネスマンが、コロナ禍で皮肉にも力と富が大いに増えていく中、歩むべき道を見つめ直す物語

そして、なにものにも縛られない状態になりかけたとき、一人の男と彼の大帝国になにが起きたのかを描き出す物語でもある

 

第I部         発明

第1章        アレクサ――ウーバープロダクトマネージャーとしてのベゾス         201016

2010年本社移転

当時一番大事にしていたのは、原則14条の第8条「でっかく考えろ」

人工知能や機械学習というコンピューターサイエンスの分野に関心

スタートレックの空想の世界の実現を目指したのがデバイスへの話しかけで、アマゾンエコーとして、またバーチャルアシスタントのアレクサとして知られるようになる

l  人手不足、技術的な難問にも動じない

ベゾスの発想をフォローするのがテクニカルアドバイザー。ベゾスに影のように従って歩く幹部候補生で、ベゾスの議論から学びそのアイディアを商品化する

検索機能の音声対応化とAWSのクラウドを組み合わせ、ボイスコンピューティングの技術を使い頭脳はクラウドに置き、音声のみで使うデバイスを考案

アップルのジョブズが生前情熱を傾けた最後のプロジェクトがバーチャルアシスタントSiriで、'1110月その機能を搭載したiPhone4Sが発売されたため、開発が急がれた

音声認識技術の会社ヤップ社を25百万ドルで買収し、デバイスに語りかけた言葉をコンピュータが理解できる形に変換する技術を開発

l  足りない技術は買う

コンピュータでの音声合成技術を持つポーランドのイボナ社を、’12年に30百万で買収

ボールダー在住のシンガー兼声優のニーナ・ローリーに吹き込ませた声を使って人工音声にする――音節に区切って分解し再合成すると実際には読んでいない単語や文も自然な形で読み上げることができる

l  ポンコツのアレクサに「いっぺん死んでこい」

チームが最初に目指したのは音楽の再生だったが、ベゾスはもっとでっかく考え、何でもしてくれる人工知能を考えていた

「ウェイクワード」――デバイスを待機モードから復帰させ、ユーザーの音声指示をアマゾンのサーバーに送って回答を得られるようにする、最初に語りかける言葉のことで、「アレクサ」か「アマゾン」が候補となる

試験機を設置したが、最初はまっとうな答えが返ってこず全く役に立たないもので「いっぺん死んでこい」とまで酷評された

l  数年に及んだアレクサのスマート化計画

'12年末イギリスのエピー社を26百万ドルで買収――トゥルーナレッジという質疑応答を開発した会社で、質問に対してSiriならウェブ検索が行われるし、グーグルの音声検索ならリンク一覧が返って来るのに対し、エピーでは質問そのものを解釈し回答を用意してくれる。巨大データベースを構築するナレッジグラフという技法を採用したものだが、最後はディープラーニングによる自然言語理解の技術が優位に立つが、今度は学習するためのデータが少なすぎた

l  ファイアフォン――アマゾン史上最大の失敗

スマホ市場が誕生、アップル、グーグル、サムスンの独占を崩そうと、ベゾスはタッチスクリーンの代わりに人の動きに反応する3Dスクリーンのアイディアに惚れ込んで参入を決断。'14年夏に発表したが、アンドロイドも使えず人気アプリも動かない評価は散々

170百万ドルの在庫を損失として計上――失敗を認めた功罪は種々。技術者は中間管理職がスマートスピーカーの開発に向けられたり、ベゾスの決断のミスで失敗した場合にはリスクを取ったことが評価されるとわかったことはよかったが、うまくいくはずがないという声が大きかったにもかかわらずベゾスの立ち受かって説得するだけの力を持つ者がいなかったこともはっきりした

l  ギリギリまで製品名が決まらない

巨額のコストをかけて音声データを集め、製品名もエコーを入れることに決まる

‘1411月アマゾンエコー発売

l  ベゾスは火にガソリンを注ぎ、制限を取り外す

発売後もサービス機能の追加が続く

音声操作に対応したアプリをサードパーティが作れるアレクサスキルキットをリリース、電球や目覚まし時計にアレクサを組み込んでもらうためのアレクサボイスサービスをリリース、ホッケーのパックくらいしかない小型・安価なエコードットの開発、バッテリーのもちがいいポータブルバージョンのアマゾンタップの開発など休む暇なく続いた

'15年の年末商戦では100万台のエコーを売り上げ

'16年末までに米国内で合計800万台を売り上げ、世界1のスピーカー会社になったが、グーグルがホームスマートスピーカーを発売して急追してきたのを機に、世界へ進出

l  世界中のアレクサが突然笑い転げる

バグにより世界中のアレクサが笑い転げたり、夫婦の私的な会話が第三者に転送されたりする事故もあったが、'19年には累計1億台を突破

2016年ベゾスはスクリーンを持つエコーショーの開発を進めていた際、プロトタイプに向かって「トランプを嘲笑う動画を再生しろ」と頼んでいたという。事態がどう展開するのか、ベゾスは全く見えていなかったわけだ

 

第2章        アマゾンゴー――つまらない名前で始めた極秘プロジェクト         201220

‘1211月ベゾスの肝入りでリアル店舗のチェーン展開の検討を開始

コンピュータによる音声認識とコンピュータビジョン、さらにロボット工学を結合してセルフサービスのリアル店舗を作る

コンビニサイズに絞り、列の待ち時間がないことを最優先に検討

l  成果が出ないなら別チームを作って競わせる

3年経ってもプロジェクトが実現しないため、書店の開設のための別チームを作り、'1511月に第1号店を開店。それに刺激されてアマゾンゴーの第1号店が’1612月社員に開放。想定外の問題を舞決して一般開放は1年後に延期

‘181月の第1号店を皮切りに全米に展開開始したが、商品はコンビニへの卸業者から仕入れ、独自のセントラルキッチンは断念。数千軒規模を企図したが、結果は26店に留まる。米労働統計で2番目に就労人口の多いレジ打ちの仕事がなくなるため政治的な問題に発展、クレジットカードに紐付けたスマホを持たない低所得者層や高齢者が使えないのも問題、さらにはニューヨークやサンフランシスコ、フィラデルフィアなどでは現金も使えるようにしなければならないとの法律も作られた

挫折にも拘らず、レジでの支払いなしに買い物ができることへの消費者の満足度は高く、この技術を中規模スーパーに応用して、第1号店アマゾンゴー・グロッサリーを’20年初にシアトルに開店

アマゾン4スターという店舗の全米展開も開始――アマゾンで4つ星以上の評価を得た商品に限定した店舗

アマゾン・フレッシュは大型スーパーだが、採用した技術はゴーテクノロジーではなく、競合させて開発したアマゾンダッシュカートで、歩きながら客が自分で商品をスキャンし、レジ精算をスキップできる技術

全米7000億ドルの市場規模を誇る食品スーパー業界に参入しない選択肢はなく、スーパーマーケットチェーンの買収が検討され、実現したのがオースティンに本拠を置くオーガニックを売りとするホールフーズマーケット

 

第3章        インド、メキシコに進出――カウボーイのように開拓せよ            201219

「あらゆるモノをあらゆる場所で売る」という大方針を実現すべく、大型投資を行ったのが13億人のマーケットであるインド

'04年に事務所を構えたが、同時に始めた中国への投資で手一杯だったために、現地エンジニアが独立してフリップカート社を立ち上げ、オンラインの書籍販売を開始

対中国投資は、現地のスタートアップを75百万ドルで買収して始めたが、本社のモデルの直輸入では現地のニーズに合わないまま、アリババなど現地資本に圧倒され、’16年のシェアは1%にまで落ち込み大幅な赤字を計上

l  狙って撃つな、撃って撃って撃ってからちょっと狙え

インドでは外国資本の直接投資が規制され、ウェブストアを開設して仕入れた商品をオンライン販売するという手法が使えないため、まずは価格比較のサイトを開設

次いで、サードパーティーだけの出店によるオンラインストア開設し扱い品目を増やす

インドのアウトソーシングを牛耳る巨人インフォシスの共同創業者と合弁会社を作り(アマゾンの出資比率は49)、その子会社クラウドテールが家電やスマホを扱い、たちまちアマゾンインドの最大のベンダーとなり、20億ドルの増資も実行

モディ首相にも会見し、AWSデータセンターをインドに置くことも検討したいとアピール

l  グーグル検索広告なしで苦戦したアマゾンメキシコ

インドでの成功が、他の発展途上国市場へと向かわせる

カナダへの展開の担当者が、米国の倉庫を利用すれば大陸全体を覆うサプライチェーンが可能となるとして、メキシコも視野に入れたのが’143

当時のメキシコは、リアル店舗も電子商取引もウォルマートのシェアが最大

ウォルマートの電子商取引のトップのガルシアのスカウトに成功

スタート直前になって、グーグル広告なしでどこまでできるかをメキシコで試すことになる――グーグルには年間広告料を3040億ドル払い、検索の1番上に商品を表示してもらっているが、グーグルは独自の通販サービス、グーグルエクスプレスを拡大し、アマゾンを脅かす存在になってきているところから、ライバル企業に依存するという危険な状態からの脱却が生命線に

’156月スペイン語のオンラインショップスタート。様々な広告媒体でグーグルの穴を埋めようとしたが不芳で、結局グーグル依存に戻り、何とか業績を回復

ガルシアの評判が悪く、2年で解雇された後、'19年妻殺害の容疑で逮捕。妻は一命をとりとめたが、直後に不審者に銃殺され、男が逮捕されたが、ガルシアは逃亡したままで、アマゾンメキシコに対してもメキシコ各地で抗議の声が上がった

l  アマゾンとウォルマートがインド企業を巡って殴り合う

インドではアマゾンとフリップカートが熾烈な争いを展開

ベゾスは意気軒高だったが、現場は問題山積――独自の物流網を構築し、2日で届けるプライム配送も開始が、業績は大赤字のまま

モディ首相は支持基盤の零細小売業者保護のために、オンライン市場でのサイト総売り上げの25%超を1社が占有することを禁じる法律を成立させる

業績に陰りの出てきたフリップカートがアマゾンに合併を持ち掛け、商品の住み分けによる競合の回避を提案したが、それぞれ相手の評価を巡って交渉は紛糾。それを聞きつけてウォルマートが介入、フリップカート社の77%を160億ドルで買収。大金持ちになったトップはすぐに離婚騒ぎを起こす

l  モディ首相の変心で一気に規制強化へ

アマゾンとウォルマートは年10億ドルの赤字を垂れ流しながら、扱い商品を広げ、零細小売業者を苦しめている

'19年モディが再選を果たすと、海外投資関連の法律が厳しくなり、アマゾンもウォルマートも子会社の所有権を手放さなければならず、メーカーとの独占販売契約も大幅な値引き販売も禁止される

ベゾスは投資の多角化でさらなる高みを目指す。オンラインショップの利用は国中に広がったし、デジタル決済も普及し、技術的未来に向けて進みつつあるのは間違いないが、ナショナリズムによる反発も強く、ある意味ベゾスが母国で直面する政治問題の予行演習になっている

 

第4章        AWSとプライムデーの躍進、そして過ちを認める                      201420

'14年は241百万ドルの赤字で、時価総額も20%ダウンの1430億ドル。バブルバスケット株だと言われたりしたが、本業で出した莫大な利益を新規事業に大胆につぎ込んだ結果で、漸く成果が上がるようになったのは’15年になってから

AWSの財務状況が10年目にして初めて公開され、その成長率と収益率でウォールストリートに衝撃をもたらす――’14年の売上46億ドル、成長率年50

'156月には中国のライバルを真似てプライムデーというビッグセールを導入

‘158月『ニューヨーク・タイムズ』が、アマゾンの攻撃的企業文化に注目。株価が年間で倍以上に跳ね上がった

l  発表者はルーレットで決める

'06年サービスを開始したAWSは、当初スタートアップや大学研究室が主なユーザー

クレジットカードで処理能力を追加できるし、ネット経由でアマゾンサーバーにソフトウェアを置いて動かすことができるなど便利で、ギークを皮切りに広がっていった

次々にスタートアップが生まれ、急成長で必要になるたびにAWSがサーバーを増強して提供。大不況後のテクノロジーブームを支えた柱の1本といえる。功績はiPhone以上

'20年現在、AWSの年商は454億ドル。シンプルストレージから、整理されたデータを保存したり検索して取り出したりできるように事業用データベースを構築したのが成功

ネットフリックスと共同でクラウドバージョンのリレーショナルデータベースやデータウェアハウスの機能を開発

'12年には、レッドシフトというクラウドに保存しているデータを分析できるウェアハウスを導入。’15年には、リレーショナルデータベースのオーロラを展開

AWSの魅力を一番広げたのが各種データベース

l  AWSの成長率は驚異の70

‘15年イスラエルのチップメーカー、アンナプルナラボを4億ドルで買収――高性能なマイクロプロセッサーを安く製造してサーバーに搭載し、ライバルが真似のできないコストメリットをデータセンターで実現するのが目的

AWSが売上の10%近くを占め、財務状況を報告せざるを得なくなったために、成長率(70)、利益率(19.2)ともに投資家やアナリストの驚異となり、1日で時価総額が15%跳ね上がった――アマゾンは儲からないという神話が完全崩壊した一瞬

l  初めてのプライムデーは史上最高の売上、それでもベゾスが怒りまくる

‘15年アリババの独身の日セールに刺激されてプライム会員増強を主眼に715日にプライムデーと銘打ってセールを実施、売上は史上最高となったが、ソーシャルメディアの反応は批判的で、ベゾスは成功だったことをはっきりさせろと怒りまくった

販売総数は3440万点、プライム会員も120万人増加

l  夢から覚めたアマゾン社員たち

プライムデーのリーダー2人は疲れ果て、1人は休暇を取った後マイクロソフトに転職、もう1人も別の仕事を社内で探し、4年後には転職し、アマゾンの口座も解約

アマゾンの顧客最優先に疑問を持ち始め、その結果地域経済や気候、倉庫作業員に様々な影響を与えたり、お金を儲けているのに社会に役立てようとしない姿勢、労働環境の悪さ、女性やマイノリティが上位職に少ないなど、疑問を感じる社員が増えてきた

l  下劣でモチベーションが下がる人事制度を刷新

‘15年第2四半期の決算発表で株価は18%跳ね上がり、時価総額でウォルマートを抜いて世界一の小売業者に

企業文化が弊害を生み始め、最大の問題は離職率の高止まり。『ニューヨーク・タイムズ』の内情暴露記事の掲載で、社内の不満が噴き出す

一般的なシリコンバレーのCEOと違ってベゾスは組織、文化、イノベーションをとことん追求する。優れたリーダーより頭の切れる社員を雇い、それを優れたマネジャーにするのが人事部門の役割とした

最下層の首を斬るスタックランキング制度を推進――GEでは採用にだけ適用したが、ベゾスは会社全体に適用。下劣なやり方だが、それによって会社は今も革新的

会社の文化を変える試みが始まり、スタックランキングは廃止、不服申立制度の創設、勤務評定制度の変更などの改革が行われる

l  年商10兆円企業に史上最速で駆け上がる

'15年の12カ月で、アマゾンの姿は劇的に変化、創業者のイメージも同じくらい変化

最高の効率を誇る企業文化を作った現場監督としても、アレクサやキンドルを産んだ天才発明家としても知られるようになった

 

第5章        ワシントンポスト再建――「民主主義は暗愚に死す」                    201318

トランプがワシントンポスト紙に弾劾演説を浴びせた原因は不明だが、その1つは大統領選におけるトランプ陣営の戦い方を同紙が批判的に報道してきたからかもしれない

'1512月のケスラーのコラム「ファクト・チェッカー」で、オサマ・ビンラディンによる脅威を9.11以前に予見していたとする馬鹿げた共和党の主張を細かく吟味。トランプが演説の中で予見していたと断言したのに対し、ケスラーは「4ピノキオ(大嘘)」を与えた

それに反応してトランプは、アマゾン、ワシントンポスト、ベゾスにツイートを乱射

「ベゾスはワシントンポストの買収で税逃れをしている」とのトランプの主張は、ベゾスが個人でワシントンポストを買収したのとアマゾンの利益とを混同

ベゾスは反論しようとしたが、オバマのコミュニケーションディレクターからスカウトされた広報担当のジェイ・カーニーは、反論は火に油を注ぐ様なものなので無視するようアドバイス。いつもとは逆のパターンだったが、ベゾスの意向が通って、ブルーオリジンの席を用意すると反論。トランプも大統領になったらアマゾンは苦労すると脅かして応酬。ベゾスも政治的な乱闘に参加

l  ワシントンポストを250百万ドルのポケットマネーで買収

国政報道を強みとするワシントンDCの地域新聞だが、広告もウェブに流れ、求職求人広告もウェブサイトに持っていかれ、リーマンショック以降7年連続で売上が減少

‘05年にはザッカーバーグからフェイスブックへ出資の約束を取り付けたが、より高い企業価値評価をしたベンチャーキャピタルに持っていかれ、グラハムはフェイスブックの取締役にはなるが、ウェブコンテンツは無償であるべきというザッカーバーグの宣託を繰り返し聞かされる。’11年メディア大手が記事の有料化を進めたが、その流れにも乗り遅れ、身売りする以外手はなくなっていた

密かに興味を持っていたベゾスは、古い友人であるグラハムの言い値で買い取り、編集部には独立性を認め、社説の担当者の辞任も認めなかった。昔ながらのニュースをバランスよく盛り込む「バンドル」を推進すると宣言する一方、オンラインを優先するなどの改革の実行を要求

「首都の一番重要な新聞を救わない理由はない」「独立しでしっかりした報道機関がなければ、社会や民主主義がおかしくなる」というのがベゾスの主張で、レーガンの補佐官を務めた政治ニュースサイトのポリティコの共同創業者で初代社長フレッド・ライアンをスカウトしてCEOに据える

l  ジェフイズムの改革が成果を上げる

居残った上層部が4年間で1億ドルの赤字を出す計画を策定した際は、即座に却下

デジタルメディアのスペシャリストを採用し、世間の注目を集める機会を増やす

広告部門や地域ニュースは縮小する一方、ニュース編集室と技術部門については計画的に人員を増強し、常識にとらわれないアイディアを出す

6ページメモで報告してもらい、熟読して細かな点まで追求するのが、創造的・革新的な思考を部下に強制するベゾス一流の反復プロセス。ワンウェイドアとツーウェイドア(失敗してもやり直せる)の違いや、実権の倍増はイノベーションの倍増に等しい、「階級よりデータ」で「正解に至る道はいくつもある」(いいアイディアを上司に否定された場合、他のマネジャーに話しをもっていくべき)といったジェフイズムを浸透させる

ワシントンポストの現旧社員から見てベゾスが犯した明らかな間違いは、年金制度の凍結や確定拠出年金への移行で、ベゾスとギルドの仲は冷え込み、抗議のピケが張られたが、あくまで少数派だったものの、トランプからは格好の口撃の口実となった

l  ベゾスの魔法が老舗を3年でよみがえらせる

ベゾスが最も注力したのはワシントンポストのプロダクトであり技術――読者の興味によって記事を評価する基準作りを求める

ベゾスが持ち込んだ中で一番は、実験の文化――失敗を恐れなくなった

アマゾンの子会社ではないと説明しても、ベゾスが関わっているというだけでスポンサーが集まってきて、広告収入は3年で40140百万ドルに急増

デジタル版の購読契約は3年で300%以上増え150万件を超え、'21年には300万に

l  世界の偉大なリーダー50人に選出

ワシントンポスト救済の功もあって'16年フォーチュン誌が選ぶ世界の偉大なリーダー50人の上位にランク

よほどワシントンDCが気に入ったのか、カロラマ地区の豪邸を23百万ドルで購入

ワシントンポストのミッションを一言にまとめたスローガンとしてベゾスが提案したのは、ウォーターゲート事件を報じたボブ・ウッドワードのスピーチの一言、大昔の上告裁判判決文に書かれた1文――「民主主義は暗愚に死すDemocracy dies in darkness

それから数年、大騒ぎの政権に対してワシントンポストが鋭い報道を続けたため、ベゾスやワシントンポストに対するトランプ大統領のツイート口撃も苛烈になっていき、アマゾンに対しても新たな規制を作るとの脅しがある

ワシントンポスト紙にとってベゾス一流の経営手腕と技術楽観論に大きなメリットがあったことは間違いないが、ワシントンポスト紙の所有がアマゾンにとって、彼自身にとって大きな負担を強いることになるとは予想撃出来なかった

 

第6章        プライム・ビデオの成功とハリウッドスキャンダル                    201019

'16年末映画《マンチェスター・バイ・ザ・シー》をアマゾンで配信するキャンペーンの一環として、ビバリーヒルズのベゾスの邸宅でセレブを招いてパーティーを開く

ハリウッドはベゾスでもちきりとなり、ゴールデングローブ賞後のアフターパーティーもビバリーヒルトン最上階のスターダストボールルームで盛大に主催、映画の主演ケイシー・アフレックは主演男優賞を獲得、翌月のオスカーもセクハラ疑惑の逆風の中で受賞

アマゾンはエンターテイメント業界の未来を形作るハリウッドのアップスタートとしてネットフリックスと同列に語られるようになり、高く評価されさまざまな賞を獲得する作品をベゾスの電子商取引に載せたが、思ったほどの貢献は達成できなかったため、新たな指示がベゾスから出され、物議を醸すことになる――「ゲーム・オブ・スローンズみたいなやつが欲しい」

l  宿敵、ネットフリックス

'10年ごろアマゾンは映画やテレビ番組をオンラインで販売

ネットフリックスが、月8ドルで古いテレビ番組や映画の見放題というプログラムを開始

元々ネットフリックスの買収を考えていたベゾスだが、ライバルにチャンスを先取りされて考えたのが、プライム会員を対象にサブスク型動画配信を無料で提供すること

導入時の年会費は79ドル、その後2回値上げで現在は119ドル

サービスの名前はプライム・ビデオ

20世紀フォックスのライブラリーを配信する権利を240百万ドルで買い、ソニーやPBSBBCとも人気番組など多数の配信契約を締結するが、ネットフリックスも同様にコンテンツの買取に走り、泥沼の争いを続けるがライバルとの差別化は出来ずに終わる。HBOやショータイムなど有力テレビ局が10年前に学んだのと同じことを学んだ結果に。独自構成でユーザーを惹きつけるには、自分たちでコンテンツを作る方がいい

l  試行錯誤の「科学的スタジオ」で賞を勝ち取る

自主制作のスタジオをロサンゼルスに確保

'10年ベゾスの提案に従って「科学的スタジオ」と銘打って、脚本の一般公募を受け付けヒット率を上げようとしたが、全体的に質の悪いものばかりで、諦めるのに8年かかる

《トランスペアレント》を主題にしたシリーズがヒットして、’15年初ストリーミングシリーズとして初めてゴールデングローブ賞を受賞――獲得したのはミュージカル・コメディ部門の作品賞、主演男優賞

l  絶好調のアマゾンスタジオ、くすぶる幹部トラブル

ベゾスは映画が大好きで、オリジナルコンテンツの制作という新事業に自ら没頭

自主制作部門トップが、番組のプロデューサーの女性に対するセクハラ容疑で社内調査が入るが、結局はお咎めなしに終わる

l  テレビ・映画の転換点で巨費を投じて勝負に出る

ベゾスが映画・テレビ事業に本腰を入れ始める

メディア事業はアマゾンプライムの魅力と[粘着性]を高め、アマゾンに落ちるお金を増やしてくれるとベゾスは考えたが、動画閲覧が購買行動に繋がる証拠はなく、動画関係の膨大な支出を正当化できるような証拠もない。プライム自体が会員数を急速に伸ばしているので、全体が見えにくくなっている

アマゾンでは、プライムビデオを世界242か国に料金別建てで展開しようとして準備中

HBOの《ゲーム・オブ・スローンズ》に肩を並べる大ヒット作を狙うが、ある程度の賞は取れてもいずれも大ヒットには至らず

l  不出来な作品、セクハラ騒動

ベゾスはアマゾンスタジオの作品に我慢できなかったが、スタジオでは依然として有名人を引っ張ってきてはつまらない作品ばかりを作り続け、性犯罪で摘発されることになるワインスタインとも入魂の間柄だし、婚約した女優で脚本家の作品を取り上げるなど公私混同も見られ、セクハラ糾弾の#MeToo運動にも足を掬われる

l  スキャンダル発覚、アマゾンスタジオ幹部も更迭

‘10年から続くキャンプファイアは、サンタバーバラのリゾートを借り切って文学者や社交界の名士を家族ぐるみで多数招待したアマゾンの恒例行事。参加者は秘密保持契約を結んで、イベントのことを外部に漏らしてはならないことになっている

'17年のキャンプファイアの最中にワインスタインの性犯罪疑惑がマスコミの報道するところとなり、アマゾンスタジオのトップでハリウッド育ちのロイ・プライスのセクハラ疑惑も改めて暴露され、内部からの不満の盛り上がりもあって辞職に追い込まれる

その後もプライムビデオ関連の支出は’1850億ドル、’1970億ドルと高水準が続くが、どれだけのリターンがあるのかという疑問への答えは明らかにされていない

ベゾスは新規事業に集中しがち。アマゾンの原点であり、最大の収益源であるはずの商品の購入、販売、在庫管理、物流などの分野にはあまり注意を払わない傾向がある

 

第II部       レバレッジ

第7章        マーケットプレイス――品ぞろえマシン                                                                                                                   200220

l  セルフサービスでレバレッジを効かせる

米国事業の売上は‘15年に年率25%で伸びていたが、’17年には33%と加速

業務レバレッジの追求に成功、全てが好循環となって費用より売上が伸びている

少しでも効率を高め、レバレッジを改善。人手に頼っていた作業はアルゴリズムに取って代わられる。売れ筋商品の予測やそれに基づく仕入れ発注、在庫管理や物流拠点の利用など、システムの開発にはかなりの先行投資を要するが、何年かのうちに変動費の削減で十分おつりが来るほどの効果が得られる。これこそ究極のレバレッジで、小売事業をセルフサービス主体の技術プラットフォームという形に変換し、最小限の人手でキャッシュを生み出すマシンに変える

「フルフィルメント By Amazon(FBA)」は、出品者から送られてきた商品をアマゾンの倉庫に保管し、売れたら顧客に送る仕組みで、出品者に商品の保管や出荷の強みを提供する

ベゾス語録:「コスト削減に注力しろ。コストを回収するために料金を徴収するのではなく、コストを抑えた上で自分たちの価値を最大化するために料金を徴収する」

「コストを減らせないから値上げするなどもってのほか。コスト削減の方法は発明するもの」

「平均なぞ目安にするな。大事なのは実際の数字、最高値であり最低値で、なぜそうなったのかだ。平均はものぐさの証にすぎない」

FBAと並行してアマゾンマーケットプレイスの育成に注力。サードパーティの売り手がアマゾンウェブサイトで新旧の商品を売れる仕組み

l  重視すべきは質なのか量なのか

'16年、国境を越えたネット通販マーケットが拡大し、安価な中国製商品が洪水のようにネットに流れ込むのを見て、一旦失敗した中国進出の再試行を目論む

中国の販売業者が使えるオンライン市場を中国に作ろうとした

市場の拡大に伴って起きるのが、質と量の論争だが、ベゾスは両者ともに追い求めた

l  中国系セラーの詐欺対策、安全対策が後手に回る

セラーは皆善人というストーリーを捨てられなかったが、実際に商品の制作現場に出向いてみると、縫製工場でもエレクトロニクス工場でも同じ工場内を2つに仕切って、片方でまともな商品を作る一方で、隣で同質のプライベートブランド商品を作り、全く異なる値段で出荷していた。小売りの世界が根底から変わろうとしている

l  米国セラーや有名ブランドが猛反発

'16年には米国のセラーが、アマゾンのオンラインストアに安物の中国製製品が溢れることへの抗議の声を上げ、ナイキやイケヤなど多くのブランドがアマゾンから商品を引き上げると通告

‘17年ブランド登録の仕組みを導入、抵触するセラーのアカウントを削除

‘19年詐欺的行為の防止に5億ドルを支出、悪意の業者のアカウント250万件を却下

販売量の上位1万セラーのうち49%が中国だといわれ、'20年には米国通商代表部が、5か国のアマゾンサイトを偽造品や海賊版があまりに多い「札付きの販売サイト」と指弾

 

第8章        アマゾンフレッシュ、プライムナウ――アマゾンの未来はCRaP                                                                                 201220

ホールフーズは、食べ物にはもっと気を付けるべきとの考え方を世の中に広めたアントレプレナーだったが、2年連続の売上減少、株価低迷に直面し、物言う投資家が食いついた

l  アマゾンフレッシュはゆっくり熟成

アマゾンの元々のプロジェクトは生鮮食品のホームデリバリーサービス

食品デリバリーの第1世代ウェブバン('01年倒産)での経験者を採用して、’07年アマゾンフレッシュ開業

CRaP:がらくたCan’t Realize a Profitの略。脚立やホワイトボードなど箱に入らない商品や配送しにくい商品。水や袋詰めのリンゴなどスーパーで売られている安くて嵩張る商品を指したりする

シアトルからシスコ、ロス、ニューヨークに展開したが、非効率で不評

l  グーグル、インスタカートとの競争にプライムナウで参戦

食料品の即日配送サービスのライバル出現で、アマゾンの目の色が変わる

1つはインスタカートで、'12年元アマゾンの物流部門の下層のエンジニアがサンフランシスコで始めたもの。ベンチャーキャピタルから相当額の資金を集め、大手スーパーと提携してスマホ片手にピッカーが商品を集め、ドライバーが自分の車で配送。すべて委託で固定費がほとんどない

もう1つがグーグルが’14年から始めたグーグルショッピングエクスプレス。年会費95ドルで、大手スーパーの品物を即日配送。アマゾンとグーグルは検索関連ではライバル同士

アマゾンが対抗して始めたのがプライムナウ。人気商品に限定して都市部に大型倉庫を借りて始めたが、生鮮食品はホールフーズなど大手から拒否されて扱えず

日用品は食料品の業界で勝とうとするなら、自前のサプライチェーンを構築しなければならなかった

l  プライベートブランドで競合の売れ筋をパクった疑い

'15年幅広い食料品・日用品のプライベートブランド立ち上げを企図。ブランド名はブルームストリート。目標はコストコの年間300億ドルを売り上げるカークランドシグネチャー

生活雑貨や衣料品などではすでにプライベートブランドを展開しており、成功も失敗もあった。紙おむつでは粗悪品で大失敗

ベゾスの陣頭指揮で、あらゆる製品で社内の競い合いが始まる。自社のデータベースにはカスタマーレビューがすべて記録され、そこからパターンを抽出すれば定評ある商品をさらに改善するヒントが得られるし、販売面でも自社ブランドの商品を検索結果で目立つ広告スロットに加えたり、さらにはマーケットプレイスの販売データを見れば消費者の好みがどちらに向かっているのか、どういう製品がよく売れているのかがわかるので、どの商品をコピーすればいいのか直ぐに分かる。個別の販売データを商品開発に流用するのは禁じられているが、同じ社内でやろうと思えば覗き見することはいくらでも可能で、違法スレスレの行為が横行

l  奇想天外なプロジェクト

「ステーキトラック」なるプロジェクトは、トラックにステーキ肉を積んで、住宅地で売り歩くというもの

1頭だけの牛の肉から作った「シングルカウバーガー」を開発

いずれもベゾスの思いつきから始まったが、評判は芳しいものではなかった

l  個性的で有名な食料品店、ホールフーズを手に入れる

‘17年春プライムナウは全米33都市で、アマゾンフレッシュは14都市とロンドン、ドイツで展開していたが、何れも赤字でレバレッジもスケールも思ったように進んでいない

一方で、第3のライバルとしてウォルマートが登場、食料品のオンラインで大きな成果を上げつつあった

そんな状況下のアマゾンに、物言う株主に食い物にされそうになったホールフーズがタイムリーに泣付いてきた――137億ドルの買収が成立、創業者のジョン・マッキーはCEOに留まる。アマゾンの時価総額はこの日1日だけで156億ドル増加

FTCも、競争を阻害することにはならないとして買収を承認

相互の商品の乗り入れや補完が見直され、プライムナウとアマゾンフレッシュは一本化、ホールフーズの品揃えも活用

それから5年でアマゾンはたくさんのCRaPを売るようになる

 

第9章        物流――ラストマイルの支配から脱却せよ                                                                                19992021

アマゾンの物流・配送は世界最大級の精巧なもの

‘12年までに急速に倉庫網が拡大、全米に40カ所、海外に20数か所となったが、何れも労務費を抑えるために辺鄙な所ばかり

'17年には全米140カ所、海外数十カ所に増加、多くは都市部に展開

アマゾンは反労働組合で知られている。会社と作業員の間に労働組合を割り込ませても神様である顧客にとっていいことはないというのがアマゾンの考え方

l  エアコンをケチるなど倉庫作業員を厳しく締めつける

ベゾスに言わせると、アマゾンが抱える大きな問題は時給で働く人が自分のことしか考えずに不満ばかりであること。作業員が労働組合を作り、ストライキや手間のかかる契約交渉をするからうまく回らない自動車業界と同じ。配送センターFCの作業員は昇進しない限り勤続3年を上限とする、あるいは3年後は給料が上がらない

倉庫で気温が上がり過ぎて倒れる作業員が続出、社会問題に発展

l  キーバのロボットで荷物量を5割増しに

ベゾスは、加速度的に高まる売り上げの増加率よりFCのコストの増加率を低くして、業務レバレッジを実現できるやり方を考えろと檄を飛ばす

ルンバに似たロボットを作ったスタートアップのキーバシステムズを'12年に775百万ドルで買収、FCにキーバのロボットを導入し、ピッカーが走り回って商品を集めるやり方から、商品の入ったコンテナをロボットが動かす形に変える

キーバは、アリの巣などを意味するホピ族の言葉

l  物流ネットワークも全部自前で作る

オンラインショッピングの急速な普及で、一番の配送パートナーであるUPSが圧倒される量となり、ルイビルにある最大の配送センタがパンクし、'13年のクリスマスには配送の間に合わない荷物の山が出来た

対策として集荷から配送まですべてを自前でやることが検討され、まず全米16カ所にソートセンターを新設、日曜の配送を米国郵便公社USPSに持ち込み、日曜配送を実現。USPSは数量ベースでアマゾンのトプキャリアとなる

USPSは信頼性に問題あり、最終目的はあくまで顧客の家まで届ける「ラストマイル」ネットワーク(アマゾンロジスティックス)の構築

一番の問題は配送業界における労働組合の問題で、労組との関わりを回避するために、デリバリーサービスパートナーDSPと呼ばれる独立系の配送業者と取引関係を結び、外注に出せば、労組のみならず配送事業に係るトラブルや賃金格差などの問題を回避できる

合法的に不平等を悪化させかねない行為で、各業界で広がりつつあり、政治問題化

l  裏切り、そして15年の友情に消えない傷

'15年末には数千台のトレーラーを購入、長距離輸送業者に外注

都市部にデリバリーステーションという小さな施設を作り、荷物を仕分けして配送業者に渡すが、ドライバーの質のばらつきと配送の料金体系が問題に

配送業者と顧客のトラブル多発で降格させられたロジスティックのトップが他社にスカウトされると、競業禁止義務違反で訴え、ロジスティックを共に築いてきた友情は破綻

l  飛行機40機リース

'14年のクリスマスで、UPSが航空便に載せるアマゾンの荷物量を制限したため、独自で飛行機をチャーターする――アマゾンエアの始まり

ベゾスが’13年テレビでドローン配送の準備を進めるとぶち上げるが、空輸ネットワークとは別物で、ドローンの利用はその後7年経ってもテスト以上に進んでいない

航空会社2社の株式を所有するとともに40機の航空機のリース契約を結び、’16年から専用機として使用。毎年航空機を増やし、’17年にはシンシナティにハブを建設

建設費用は14.9億ドル、新規雇用2000人、40百万ドルの州の税制上の優遇措置を取り付けたが、数年前テスラの電気自動車用バッテリー工場をネバダに作ったときは、新規雇用6500人に対し13億ドルの税制優遇を獲得。ベゾスはライバルのイ―ロン・マスクに大負けしたことを忘れず、2年後のHQ2では各地の地方政府を巻き込んで大騒ぎを起こす

l  行き過ぎた効率重視、続く悲劇

輸送ネットワークを急ピッチで進める一方で、泥臭い事業によくあるリスクの大半を上手に公的システムに負担させた――ドライバーの健康保険や、FCに至る大混雑する道路の補修も、繫忙日だけ雇うアルバイトの閑散期の支援などで、やがてメディアや世論の糾弾を浴びる

‘16年末アマゾンの荷物だけを運ぶ独立系運送業者が人身事故を起こし、ブラックな業務実態が暴露されるとともにアマゾンから尻を叩かれていることも顕在化、刑事は無罪となったが民事では14百万ドルで和解。その間にも同様の事故が60件以上も発生、うち13件では死者もでている

口では安全性を重視するとは言いながら、デリバリーパートナーまで広げることを怠り、生産性、コスト効率を最優先するため問題が多発。事故を起こしたパートナーとは縁を切るが、アマゾンエアでも飛行機の墜落死亡事故を起こしていて、平均以下の待遇や経験不足の傾向が指摘されていた

l  物流業界が大きく変わる

アマゾンロジスティックスの配送シェアが20%近くとなり、フェデックスを上回り、UPSをも追い越しそうになると、さらに小規模の独立系配送会社が必要となり、ホリデーシーズンを中心にドライバーを増やすために小規模業者への車両や制服、燃料などの割引制度を導入、さらに大型バンの割引リースを始め、1000社以上が新規に立ち上がり、’19年には自社配送が取扱量トップとなる

独自の配送ネットワークの構築により小売り事業は根本的に変わる――人口密度が高い地域の近くに商品を置き、プライムのみならずプライムナウやフレッシュの配送も一体化すると、ドライバーの効率が上がり、配送効果がよくなる

アマゾンの扱いが減ったUPSやフェデックスも日曜配送を強いられ、方針を転換。フェデックスはアマゾンとの関係を断ち切り、アマゾンもサードパーティにフェデックス利用を禁止する措置で対抗

アマゾンの自前の配送ネットワークはアマゾンにレバレッジ効果をもたらし、プライム配送を2日から1日に短縮、会費15ドルの食料品配送もプライム会員には無料。コロナ禍でオンラインに集中したのが追い風となる

中学のバンド指導者が’99年入社してロジスティックを担当して以来、あらゆる障碍を突破し、親友との友情を損ない、低賃金労働者の尻を限界まで叩き、負担すべき莫大なコストを社会に押しつけ、ベゾスのビジョンを実現し、最高のアマゾンリーダーであることを示したのがデイブ・クラーク。ベゾスと同じくらいクリエイティブで無慈悲だと証明

 

第10章     アマゾン内広告――裏庭に金鉱をみつける                    2000年代後半~19

創業した会社の日常業務から一歩退いて、宇宙事業や、’17年には風力発電にも参入

北米小売り事業のレビューで思わぬ質問がベゾスから出る――アマゾンのホームページには昔からバナー広告が掲載され、最近では商品を検索すると大手メーカーやマーケットプレイスの零細セラーが出す広告がトップに出てくる。これらの売上が’17年には28億ドルにも上り、しかも年率61%で伸びている。広告売り上げを除くと本業の経済性はむしろ悪化しているのに気付いたベゾスは、昔の利益率を取り戻せと檄。業務効率が後退しているのはベゾスが貶すデイ・ツー企業で、アマゾンは常にデイ・ワンであり続けなければならない。小売部門のCFOは翌年転職

海外小売り事業はもっと広告売上に隠れて本業は厳しい状況であることが発覚

l  制約は多く、データは出さないアマゾン広告

広告の掲載そのものについては価格の引き下げに利用できるとベゾスも前向き

アマゾンは実際に何を買ったかのデータを持っているので、単なる検索以上の質の高いデータを保有していたにもかかわらず、本格的に広告に参入するのは、ヤフーやグーグルなどがオンライン広告で歴史的な高みにまで上がった後のこと

湯水のごとく交際費や経費を使う広告業界のやり方とアマゾンとは相容れなかった

自社の広告には細かな指示が飛び、業界の常識を覆す駄目出しが頻出

広告主に対しては、顧客のデータは一切公開せず、広告にタグをつけてその効果を測定することも認めず、広告の効果はアマゾンからの報告だけで満足しなければならない。その上広告の内容についても、会社のロゴの色にケチをつけたり、007のバナー広告に銃が映っているのは自社のポリシーに反すると通告したり、無茶な注文が多発

l  ベゾスの決断で検索広告に乗り出す

マーケットプレイスの伸びにつれ、長くなる検索結果ページで自社の商品を何とか目立たせようとするセラーに対して、目立たせてやるから金を払えというのは、検索エンジンで目立たせる対価をグーグルが徴収しているのと同じこと

アマゾンのグーグル型検索広告オークションは、スポンサープロダクトと呼ばれる

広告と検索語の関連性を正しく判断するのが難しい――グーグルには20年の歴史があるが、アマゾンにはまだない

スポンサー広告が効果的なのも否定できないのも事実だが、広告が絡むと純粋な検索結果という平等な場が歪むのも事実で、’16年から通常検索の結果に混ぜる形で一部で試験的にページの上半分にスポンサー広告を表示すると、ユーザーの購入が有為に減少することは分かったが、長期的な影響は不明なまま、莫大な収入を考慮して全面的採用が始まる

検索ページのトップに広告を置いたことで状況が一変。クリックしてもユーザーはアマゾンの外に出ることはなく、商品ページに飛ぶだけ。その商品を買ってくれれば弾み車が回る。ほぼセルフサービスなのでコスト管理の必要もないのでレバレッジが生まれる

l  広告を出さないとアマゾンで商品をみつけてもらえない

同種商品が多過ぎて迷うときにアドバイスする機能がアマゾンチョイスで、’16年にアレクサの機能として開発され、検索結果でスポンサープロダクトと並ぶ位置に表示されるようになる――高評価などによりアマゾンチョイスのバッジがついた商品はよく売れた

アマゾンベーシックのバッテリーなどプライベートブランド提供の部署からバッジをつけろとの圧力もあって、ベーシック商品ではアマゾンのプライベートブランドに最も多くのバッジがついた

その結果、検索エンジンで普通に見つけてもらえるとは思えないので、検索広告の出稿が増えていく――議会の反トラスト法委員会で、検索結果は最初の1ページしか見ない消費者が多いことから、アマゾンは広告を買わないと商品が売れない状況を作ったといわれる

‘17年には売上で、スポンサープロダクトがバナー広告などディスプレー広告を抜き、広告費収入が46.5億ドル、対前年比58%と急増

l  絶大なる効果を上げたコスト削減

まずは、スポンサー広告事業の利益を小売事業が掠め取る状況の改善が必要

ベゾスの号令で、これからは利益重視となり、金食い虫や新規採用も基本的に凍結、アリババに水を開けられた中国市場も投資を減らし'19年には撤退

検索エンジンを活用して、アマゾンチョイスも商品の収益性を考慮して選択、商品のプロモーションから販売までブランド自身が管理できるツールを用意して人手を煩わせないように改良

併せて組織のフラット化を試行――マネジャーは部下が6人以上と決められたので、部下の取り合いとなり、条件がクリアできなければ、他の部門の部下となるか退職しかない

実質的なレイオフで組織のスリム化を図る――デイ・ツー会社になるのを回避するベゾス流のやり方。官僚主義を排し、日常業務の判断に顧客の声を反映する、荒々しいスタートアップ時代の意識やモチベーションを維持することが大事。成長すれば複雑になり、複雑になると成長は止まる。これが成長のパラドックス

スリム化に合わせて「管理範囲」発令があり、増員のスピードは下がるが利益率は急上昇し、‘18年だけで、純益は30100億ドルに急増、時価総額も55007300億ドルに

 

第11章     ブルーオリジン――1歩ずつどん欲に                                                                                                                      200021

'00年に始まったブルーオリジンは、長期の宇宙滞在を目指し、ニューシェパードという繰り返し使えるロケットで弾道宇宙飛行をするプログラムだが、無人機を2機失うなど進捗がはかばかしくない

2年後に同じ目的を共有して始まった競争相手のイ―ロン・マスクによるスペースXのファルコン9ロケットはすでに商用衛星や軍事衛星を何機も周回軌道に運んでいるし、’16年には大西洋上のドローンプラットフォームに軟着陸させることにも成功

‘17年新たにNASAのスペースシャトル関連の仕事の経験もあるボブ・スミスをCEO

l  カメであれ、ウサギになるな

ベゾスの宇宙への興味は祖父譲り、高校の卒業生総代で宇宙ステーションの話をしている

当初液体燃料ロケット以外の可能性を探ったが、効率を考え従来型のロケットを再利用できる形にして製造コストを抑えることにした

費用を無理のないレベルに抑え、一定ペースで歩み続け着実に成果を出して行くべしとされ、「カメであれ、ウサギになるな」と発破をかけられた

‘15年祭利用可能なブースターでの宇宙飛行に成功、ブースターも軟着陸して回収し、初めて成果らしい成果を上げる

l  大きな目標、下がる士気、ベゾスの感情爆発

目標はどんどん大きくなるのに、必要な資源は必要最小限しか与えられず、注文ばかりが増えて社員の士気も生産性も上がらず、ベゾスもスタッフにも双方に不満がたまって爆発

'16年アマリカ天文学会宇宙飛行賞を受賞してもだあれも喜ばない

l  イ―ロン・マスクに追いつき、追い越すための大転換

着実な前進は諦め、予算も大幅に積み増しして態勢の挽回を図る。そのためにアマゾンの株式10億ドルを売却

トランプ大統領が、'24年までに月面再到達の計画を発表すると、月に輸送便を飛ばす新たなプロジェクト「ブルームーン」が始まり、大手航空宇宙企業からの引き抜きで一新

l  宇宙開発は壮大な慈善事業なのか

太陽光という無尽蔵のエネルギーで動く宇宙ステーションを太陽系のあちこちに建設し、そこで1兆人もが暮らし、働く未来を実現することが最終目標だといい始めた

お金持ちの道楽ではなく、慈善事業に精を出す立派な実業家として見てもらう

'217月漸くベゾスは弟らと共に勇人宇宙旅行に成功、念願のカーマンライン(海抜100㎞以上を宇宙空間とする仮想ライン)に到達

スペースX’20年に打ち上げ回数100回に到達し国際宇宙ステーションに人を送り続けていて、大きく水を開ける

 

第III部     無敵のアマゾン

第12章     2本社――操業許可を得る                                                                                 201419

'18年までには既存の各事業とも自転するようになり、固定費に対するレバレッジは凄まじいものがあり、時価総額も右肩上がりで増加

アマゾンの急成長でシアトルの街がパンク状態となる一方、地域の慈善活動に貢献していないとの不満も噴出するようになり、企業責任追及の動きが加速。社内でも人が急増して会議やイベントのたびに非効率が顕在化

'17年第2本社建設を発表、HQ2と呼ばれる

l  都市を競わせるというベゾスの名案

ボーイングのワイドボディ777開発やマスクのリチウムイオン電池工場建設に際し、州を競わせ莫大な減税措置を引き出していることに倣って、これまでその種の恩恵とは無縁だったベゾスも、長期にわたって減税措置を与えてくれる場所を探すよう指示

5万人の新規雇用と15年で50億ドルの投資を公表し、それをエサに競わせるというのもベゾスのアイディア

l  238都市がアマゾン第2本社の誘致に名乗りを上げる

傲慢な手法に批判も出ながら、全体としてはベゾスが期待した通りの結果となり、町の名前をアマゾンに変えるという奇策まで登場

l  シアトルの人頭税を撤回させる

238通のプロポーザルから最終選考に残ったのはダラス、ロス、ニューヨーク、ノーザンバージニア、ナッシュビルの5都市――インセンティブが最優先事項だったが、重視されたのは大都市であること、人材の確保、企業に優しい政治環境だった

ワシントン州は個人から所得税を徴収していない全米7州の1つだが、新たに人頭税を導入し、従業員1人当たり275ドルを課すことで、貧困などの社会問題への投資に充当しようとするものだったが、スタバなどの企業と協調して何とか阻止する一方、将来に備えてシアトル市内での総雇用を抑え、隣のベルビューに本社機能の一部を移転

テックラッシュの進行によりテック企業のせいで地域がもの凄い勢いで変わっていくことへの住民の反感も募る

l  選ばれた都市、落選した都市の両方から不満が噴出

‘1810月ベゾスが成長の場所をシアトル以外とすると決断したことから、1カ所で賄うのは無理となり、HQ2はニューヨークとノーザンバージニアの2カ所とし、さらにナッシュビルに小さめの本部も置くとし決定

落選した都市からはもとより、ニューヨークでも住民の声を聞いていないとの反発が出る

l  地元の反対でまさかの白紙に

ニューヨークでは反対の草の根運動が始まり負けが決まる。アマゾンでは種々対策に乗り出したが、深刻な社会問題を抱えた住民の感情的な反発には有効な対策は見当たらず

公聴会ではつるし上げとなり、最後は労働組合の強いニューヨーク市で、アマゾンは今後とも労働者の組織化は認めないと断言して勝負あった

失敗の原因がベゾス自身にもあったことから、反省らしい反省は行われず、担当者の更迭もなかった。自業自得の災難だったが、業務上の支障はなく、アマゾンは無敵

 

第13章     大スキャンダル――ややこしくなる要因                                                                                 201821

192月、HQ2計画を破棄すると発表した直後、ベゾスの元テレビキャスターとの不倫部と離婚のニュースが流出。ベゾスの言行不一致に驚愕が走る

自ら事故を起こしてヘリコプター嫌いのベゾスが操縦の練習を始めたり、ベゾスの持ち株会社が新たにヘリコプターを購入したり、HQ2ではヘリポート設置を予定したり、さらにはクラスB株式発行の可能性を打診したりと、不審な行動がみられるようになっていた

タブロイド紙に格好の話題とされる一方、サウジのサルマン皇太子が、カショギの殺害に皇太子が関与したとワシントンポストが報道したことに対し、ベゾスに腹を立てていた

ベゾスにとって過去最大の危機――メディアの調子をどこまでコントロールできるかに加え、ベゾスという人間の気骨や品性が問われ、難関をどう切り抜けるかを試されている

l  控えめな妻と情熱的な新恋人

妻マッケンジー(旧姓タトル)はプリンストン大学英語科卒の小説家

注目を集めるのが好きでセレブの仲間入りに積極的なベゾスに対し、あまり派手好みではなくプライバシーを気にするマッケンジーとでは生き方が違う

'18年ごろから、夫婦円満を装いながら、ローレン・サンチェスとの付き合いが始まる

サンチェスはアルバカーキ―出身の48歳、業界に対影響力を持つタレント事務所会長のパトリック・ホワイトセルと’05年結婚、様々な意味でマッケンジーの対極にある女性

文字が読めない読字障碍で苦労したが、USCを中退、地方放送局に就職、テレビ番組のアンカーを務めたり、映画にも出演。結婚生活の躓きからベゾスに接近

l  兄の裏切り

2人の関係を知ったサンチェスの兄がゴシップ誌エンクワイアラーに20万ドルで情報を売る

l  やばい写真で脅かすタブロイド紙にベゾスが反撃

‘191月エンクワイアラーから2人に取材の申し込みで驚いたベゾスはツイッターで離婚協議に入っていることを告白したため、エンクワイアラーも急遽特集を掲載、オンラインで公表。同誌のオーナーと親しいトランプもツイートでベゾスをこき下ろす

l  サウジアラビア皇太子は敵か味方か

ベゾスはサルマン皇太子と個人的に親交を結んでいる

‘18年ワシントンポストにサルマン皇太子の専制を批判するコラムを寄稿したカショギがイスタンブールのサウジ大使館に軟禁されたとの連絡が入り、ワシントンポストはサウジ政府を叩くとともに、米国社会にサウジボイコットを呼びかける

サルマンは以下で組織されたツイッター部隊が、ベゾスを人種主義者と攻撃し、アマゾンのボイコットを呼びかける

サウジによる米国実業家へのハッキングや、ベゾスの不倫をエンクワイアラーに漏らしたとか、いろいろ推測はされているが、事実は不詳

l  ベゾスはどこに向かうのか

ベゾスとサンチェスが一緒に露出する機会が増えていく

'19年離婚成立。アマゾン株式1970万株、380億ドルが渡されたが、ギビング・プレッジに署名して資産の半分以上を寄付すると宣言

ベゾスは攻勢に転じ、カショギの死の1周年にイスタンブールの元サウジ大使館前で、カショギの結婚相手と共に式典に臨み、サルマン皇太子への敵意を明確に示す

歴史的な美術品を次々に買ったり、不動産取引の記録を塗り替えたり、スーパーボウルの会場ではしゃいだり、会社と報道のどちらで姿を見るのが多いかわからなくなる

 

第14章     強くなり過ぎた代償――審判を受ける                                                                                 201420

尾欧米諸国は事業で大成功したアントレプレナーを基本的に褒め称えるが、同時に、人間味の感じられない巨大企業には疑いの目を向けがちだし、桁違いの金持のことは悪しざまに言うことがある

ビッグテックの広範な影響力に対する全面戦争の幕開け

ベゾスも、業種を問わず巨大企業は検討、精査、検分などすべきと賛成し、社内にはかつてのスーパーマーケットチェーンのAPを教訓とするよう対応を指示

下院反トラスト小委員会も、デジタル経済における競争の現状を調査し、テック企業のやり方を非難している――業界の支配的地位を悪用して零細業者をいじめている

l  倉庫作業員の時給を上げて批判をかわす

このような動きに対し、アマゾンはコミュニケーションの部門の人員を増員して情報収集に努め、対応を検討している

‘18年にはバーモント州選出のバーニー・サンダース上院議員が倉庫作業員の報酬を取り上げ、ベゾスの富を批判、「ストップ・ベゾス」法案を提出して、会社に雇われているのに公的支援に頼る人の数に応じて会社に課税しようとした際には、既に州ごとに決められている最低賃金を上回っていたが、さらに上乗せして時給を増額する一方で、業績による上乗せを減額して労務費の増嵩を最小限に抑えている

サンダースは時給引き上げには満足したが、その後は連邦所得税を払っていないとの批判に転じる

l  トランプ大統領の横やり

トランプは大統領在職中に、ことあるごとにアマゾンやベゾス、ワシントンポストに対し、繰り返しツイッターやインタビューで叩くが、攻撃には根拠がなく応戦は不要の内容が多いが、’18年に入札が行われた国防省の技術インフラをクラウドを使って再構築しようとするJEDIプロジェクトでは、10年間に100億ドルの投資が見込まれ、クラウド市場のシェア47.8%を誇るAWSが圧倒的優位にあるとみられていたが、大激戦の末、トランプも選定に介入してきた結果、対抗馬のマイクロソフトに決定

アマゾンは、大統領の圧力による不正があったと連邦裁判所に提訴、(21年国防省はマイクロソフトへの発注を白紙撤回、マルチベンダー方式への転換を検討と発表している)

l  議会証言で集中砲火を受ける

1990年代末米政府が独禁法違反でマイクロソフトを訴えた際、裁判で電子メールや会議録などが会社に不利な証拠として使われたことの二の舞を避けるため、アマゾンでも社内での言葉使いには細心の注意が向けられている

トランプやサンダースに加えて、法学研究者、議員、規制当局による反トラスト活動が活発化、市場における一方的な支配力の排除に向けて動き出す

'19年デジタル市場における競争を超党派で調査すると発表、'20年反トラスト法小委員会はベゾス、ピチャイ、ザッカーバーグ、クック4人への証人喚問を実施――ベゾスに対しては、アマゾンが所有するサードパーティのデータを利用してプライベートブランドを開発したという情報の真偽に関し質問が集中

l  友好的だったセラーも苦しめる国際化と自動化の弊害

アマゾンをパートナーとして利用し成功したセラーが、次第に手数料も広告料も上がって利益が出なくなり、検索すると自社製品と並んでアマゾンベーシックが出てくるなど弊害が出てきたのに、アマゾンは改善に手を貸さなかったため、ウォルマートなどに移したところ、成長がまた戻ったという。他のアマゾンで成功したセラーにも、成功の直後からアマゾンの扱いが変わってきて凋落していく事業の実態が浮上

売れ筋商品が突然アマゾンから消えることもあり、アカウントマネジャーに対応を依頼すると年数万ドルのプレミアムサービスに申し込んだらすぐに復旧したという話もある

アマゾンが自身でもコントロールできないほど、低価格商品の選択肢が爆発的に増え、会社が複雑になってしまっている

l  アマゾンの巨大すぎる支配力を弱める方法

反トラスト小委員会の報告書には、ビッグテック企業について申し立てられた苦情の数々と厳しい結論が記載され、議会及び反トラスト関連の政府機関が競争を立て直すべく努力しなければならないと結論付ける――対策として企業の分割も出されたが、一概に違法と判断するほどの独占力を持っているとも言い切れず、一筋縄ではいかない

個別に競争を抑制するような内部規定の改正や、サードパーティセラーの違法行為の責任をアマゾンに負わせるなどの案もあるが、もっと大きなAWSなどでの収益を価格競争に使ったりするような、部門間の収益調整などをどう評価するかは未解決のまま残された

 

第15章     CEO交代――パンデミック                                                                                 201921

公私にわたる種々の問題にも拘らず、アマゾンの業績は順調に見える

'19年には、2040年までに炭素排出量を実質ゼロにすると約束する「気候変動対策に関する誓約」を発表

‘20年にはインドを再訪するが、地元企業の中にはベゾスを経済的テロリストと呼んで抗議運動を展開。インド競争委員会も不当な値引きで競争を抑制している疑いで調査を開始すると発表

にも拘らず、アマゾンの業績は好調で、プライム会員は2年で5割増の150百万人となり、時価総額は1兆ドルを超え、ベゾスの個人資産も1240億ドルとなる

l  倉庫の密集発見システムから検査キットまで自作する

‘202月のパンデミック発生に対し、緊急事態宣言発出の遥か前から厳戒態勢をとり、事務所職員の年内在宅勤務となったが、倉庫関係は大きなリスクを背負って働かざるを得ず、ベゾスが陣頭指揮を執って八面六臂の大活躍

ベゾスは仕事ぶりを積極的に公開するようになり、厄介な時にリーダーシップを発揮してきたとの評価がさらに上がることに

いつもの成長至上主義に逆行するやり方をせざるを得ず、セールスプロモーションは大半が中止、購入履歴が似た人が買っている商品の表示もストップ、「フルフィルメント By

Amazon」の商品配送も医薬品など必要最小限に限定、FCでは監視カメラを活用し密集を避ける方策を講じる。自前の検査体制も構築

l  内部告発者には容赦なし

反対にオンラインショップは大賑わい

社内感染者の増加で、フランスでは労働組合が立ち上がりFCの閉鎖へと発展

感染警告の出し方が問題に――検査結果が判明した段階で、同一建物で働く人に通知

社内から対応への批判が出て、メディアにも取り上げられたが、情報漏洩の社員はすべて解雇――いずれも密回避の指示や許可なしにメディアの取材を受けてはならないとするガイドラインに抵触したためで、声を上げたことへの報復ではないとするが、信じ難い

l  特級エンジニアからの批判

プログラミング言語XMLの開発者の1人でAWSVPであり、あちこちの問題を解決してきたが、ついに我慢しきれなくなって退職し、内部告発者の解雇や不当解雇、作業員の軽視などを自分のウェブサイトで展開

危機に際して社員が抱く当然な不安の発露を、アマゾンがムキになって摘み取ったことへの不満であり、立場の最も弱い労働者が守られていないというアメリカ社会全体の問題への抗議でもある

l  人間味あふれる大幹部が去る。そして守り神も去る

'20年末棚卸の時期が来て、ニューノーマルへの移行が進む

アマゾンはコロナ禍を追い風に拡大、年末の時価総額は1.6兆ドル、ベゾスの個人資産は1900億ドル

小売部門を牽引してきたジェフ・ウィルケ(53)が退職――厳しいアマゾンに多少なりとも人間味があるとしたらこの人とおいて他にいないという人物

他にも多くの人が様々な理由で会社を去る。経営トップ25人のSチームはジェンダー的にも人種的にも偏っていたが、変わり始める

マッケンジーも公約通り60億ドルを慈善事業に寄付すると同時に再婚

ベゾスも遅れて100億ドルのアース・ファンドを立ち上げるなど動き出す

'21年ベゾスは年内にCEOをアンディ・ジャシー(53)に譲って会長に退くと宣言――ジャシーは初代テクニカルアドバイザーを務め、いまはAWSのトップ

アマゾンがある方が世の中にとっていいのか、という問いの答えはこれからだが、既にアマゾンなしの生活など想像もできないところまで来ていて後戻りはできない

 

 

Wikipedia

ジェフ・ベゾスとAmazonについては、『22-05  Invent Wander』参照

 

 

 

 

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