終わった人  内館牧子  2018.10.19.

2018.10.19. 終わった人

著者 内館牧子 1948年秋田市生まれ。武蔵美卒後、13年半のOL生活を終えて、88年脚本家としてデビュー。テレビドラマの脚本に『ひらり』(93年第1回橋田壽賀子賞)、『てやんでえッ!』(95年文化庁芸術作品賞)、『毛利元就』(97NHK大河ドラマ)、『私の青空』(00年放送文化基金賞)、『塀の中の中学校』(11年第51回モンテカルロテレビ祭テレビフィルムブモン最優秀作品賞及びモナコ赤十字賞)、など多数。95年日本作詩大賞(唄・小林旭/腕に虹だけ)。武蔵美大客員教授、ノースアジア大客員教授、東北大相撲部総監督、元横綱審議委員、元東京都教育委員、元東日本大震災復興構想会議委員。03年大相撲研究のため東北大大学院入学、06年修了、その後も研究を続ける

発行日           2015.9.16. 第1刷発行       2016.3.2. 第9刷発行
発行所           講談社

釧路新聞、室蘭民報、東奥日報(夕刊)、岩手日報、茨城新聞、上毛新聞、山陰中央新聞、四国新聞に掲載されたものに加筆
著者初の新聞小説

2017年映画化
監督:中田秀夫、舘ひろし(田代)、黒木瞳(千草)、広末涼子(浜田久里)、臼田あさ美(道子)、今井翼(鈴木)、ベンガル(工藤)、清水ミチコ(山下夫人)、温水洋一(山下)、高畑淳子(美雪)、田口トモロヲ(トシ)

上野さんの推薦

今まで仕事一筋だった田代が定年退職となり、毎日愚痴ばかり言って過ごす。これからの余生をどのように過ごせばいいのかわからず妻の千草や娘の道子に愛想をつかされながらも自らの第二の人生を試行錯誤しながら家族や友人たちとのつながりを通して確立していく。誰もが人生の転機を向かえた時に考えさせられるテーマをコメディ化している。館が扮する田代が情けないやら背中を押してあげたくなったりの面白くてちょっと切ない物語

東大卒のエリート街道を歩いていたまじめでこれといった趣味もない田代だったがメガバンクに入って同期のトップを走り続けながら最後の役員就任の一歩手前で同期に負けて出世コースを外され、出向となり、そのまま戻ることもなくて定年の日を迎えることになる。出社最後の日も定刻まで机に座り、時間が来た。と同時に部下からの花束贈呈と拍手。「またいつでも来てください」と言われながらも「本当に来たらバカにされるのだろう」と思いながら、定年の時だけは黒塗りで家まで送り届けられる。「施し」と思うが受け入れる。家に帰るとテーブルにご馳走が並べられ孫たち迄来て「ご苦労様でした」と労われ、母や義母からのビデオレターまで用意される。この日は感無量となり、田代はこれまで支えてくれた千草に「これからは2人の時間を大切にしよう。今度ゆっくり温泉でも行こう」と提案するが、美容師で多忙な千草は「12日くらいなら付き合う」と突き放される。
退職した翌日からフリーになったものの、何の趣味もない田代は毎日千草に愚痴ばかり言ってはテレビのグルメ番組を見たり公園を散歩したりするが、暇を持て余す。翌日には千草の仕事が終わるのを待ち、アッシー君を申し出るが、翌日からは拒否。仕方なく次の日も図書館や公園に行くが行っても年寄りばかり。昼はコンビニ弁当を食べる。妻や娘には愛想をつかされ、恋でもしたらとからかわれる始末。銀行時代のそんなある日、高校時代のラグビー部の仲間二宮に30年ぶりに出会う。二宮もエリート街道を歩いていたが、大手商社の人事部で人の人事に無理やり介入するやり方に嫌気がさしてやめ、妻の実家の工務店の仕事を手伝いながら、今は自分の好きなボクシングのレフェリーとなり、生き生きと毎日を過ごしている。田代はやはり仕事をしている自分が一番だと職安に行って仕事を探し、医療機器販売会社を見つけ面接に行くが、「東大卒などうちにはとんでもない、ただどんな人かだけあってみたかった」と言われる。定年後の長い時間をどうやって過ごすかわからないでいると、千草の従弟のイラストレーターのトシに勉強することを勧められ、大学院受験の準備のためにカルチャースクールに通う。その受付で30代のバツイチの秋田美人浜田と出会い、時々食事に行く仲に発展。互いに東北の訛りで楽しくは過ごすようになる。さらにスポーツジムに行こうと決意し行ってみるとイケメンの若い鈴木に出会う。鈴木が運転手付きのベントレーを乗り回しているのが不審だったが、ある日鈴木から自分の会社の中身を見てほしいと頼まれ、ネットショッピングとゲームソフトの開発をやっている会社の会計帳簿などをチェックし意見を言うと顧問になってほしいと頼まれる。会計士とともに鈴木の会社の事業計画などの作成を手伝うと、生き返る自分を感じる。千草も美容院の手伝いから独立を計画、田園調布の奥座敷の東雪谷に格好の貸店舗を見つけて開業準備に入る。鈴木の会社ゴールドツリーではアジアを重視し、ミヤンマーで有力政治家が絡む通販大手の会社から大口の受注を獲得、田代も出向いて採用に関与、順調に滑り出したが、突然鈴木が大動脈解離で死去。顧問も引こうとしたが、若い社員たちに東大出の重しが必要と迫られ、社長を引き受ける。ミヤンマーで政変が起こって受注先企業が倒産、3億の代金回収が不能となり、ゴールドツリーも共倒れとなり、田代は個人保証で、退職時130百万円あった資産は120百万円返済等に充当され、手元には15百万円しか残らない。千草に話すとびっくり仰天、これからの計画が狂う以上に、田代の資産の半分は自分のものであり、それが一瞬にして消えたことに怒りが収まらない。田代は千草に離婚を切り出すが拒否され、贖罪として主夫をやるしか他に方法を考え付かない。
千草の美容院の内装など手伝ってもらったお礼にトシを食事に誘った後、トシのマンションに行って飲み直しているところに久里がいきなり、明日の朝一緒に食べる干物だと言って持って入ってくる。久里がトシの女だと知って田代はびっくりしたがそれ以上に久里は田代を見てしどろもどろになる。家に帰って道子に全てを見通され、自分の妄想とバカさ加減を知る
母校が甲子園の県大会決勝まで進んだため応援に行こうと二宮から誘われ、久しぶりに故郷に帰り、友達が皆それぞれに分相応に輝いているのを見て故郷の良さをしみじみと感じる。高校時代トップを争っていた秀才も故郷に戻って実家の小さな写真やを継いでいる。聞けば交通事故で嫁と息子を失い、自暴自棄になりかけて実家に戻り、認知症の父親の面倒を見て暮らしている。それを見て田代は素で行くことを漸く決心し、友達にも会社が倒産したことを告げ、母を世話している妹にも真実を話す。友達からは岩手復興のためのNPOの活動の手伝いを頼まれ、一緒にやることを決意。89歳の母は息子が帰ってきたことだけを素直に喜び、東京に戻るときも黙って送り出してくれたが、様子は察しているようだ
千草の好きなようにしてくれと言い出すが、千草は離婚はしないと言い、「卒婚」だと言い出す。別居でお互い好きな人生を歩もうということで、先の煩わしいことはその時考えるという。田代は盛岡に帰ることを決め、列車に乗っている間に、千草からメールが来て、田代の実家に一緒に挨拶に行くという



コメント

このブログの人気の投稿

近代数寄者の茶会記  谷晃  2021.5.1.

自由学園物語  羽仁進  2021.5.21.

新 東京いい店やれる店  ホイチョイ・プロダクションズ  2013.5.26.