クラウド時代の思考術  William Poundstone  2017.11.3.

2017.11.3.  クラウド時代の思考術 Googleが教えてくれないただひとつのこと
Head in the Cloud: Why Knowing Things Still Matters When Facts Are So Easy to Look Up    2016

著者 William Poundstone 1955年生まれ。ノンフィクション作家。著書に『囚人のジレンマ』『大暴露』など

発行日           2017.1.20. 第1刷印刷       1.30. 第1刷発行
発行所           青土社

序 事実はもはや時代遅れ
知識の不足は問題ではなく、瑣末な事実など気にしない文化の中にどっぷりと浸っている
この文化はただ単に、ハリウッドに留まらず、現代アメリカの文化である

I      ダニング=クルーガー効果
1.    「ジュースを塗ったのに」
知識や技術に最も欠けた者の特徴は、知識や技術の欠損を全く理解できないこと
ダニング=クルーガー効果 ⇒ 自分の無能力を認識できないことが、思い上がった自己評価を導く(1999年発表)
20世紀の恐怖は、機器に取って代わられるという恐れだったが、21世紀の恐怖は、給料が安いうえに知識もそれほど豊富ではないが、機器によって強化された人間に取って代わられる恐れ
教育の永遠のジレンマは、事実を教えるべきか、あるいは技術を教えるべきかということ
アメリカでは、筆記体の学習をカリキュラムから削除 ⇒ 筆記体で書くことに価値があるかどうかではなく、その代わりに教えられることよりも価値を持つかどうかということ
ミレニアル世代(80年代初め~00年代初めに生まれた人々)は、知識の新しい獲得方法、即ち知識を必要としない生き方の先導者
現代のメディアが我々の集合的な脳をダメにしたとするなら、そのダメージはまずミレニアル世代に顕著に現れるはず
スマホはネットの回答を瞬時に教えてくれるので、知識にすぐアクセスできる機器が身近にあり、その中で成長した人々にとっては、事実を記憶する必要性の見直しは不可避のものに思える
知識を獲得するために必要とされる努力の価値が、それを得たことで得る利益を上回っているかどうか
2.    無知の知図
3.    愚か者の歴史
4.    5人に1人の法則
5.    情報に乏しい有権者

II    知識のプレミアム
6.    事実に値札をつける
7.    エレベーター・ピッチ・サイエンス
8.    グラマー・ポリス、グラマー・ヒッピー
9.    ナノフェイム
10. エビはコーシャーか?
11. 哲学者とリアリティ番組のスター
12. セックスと不条理
13. ゴールポストを動かす
14. マシュマロ・テスト
15. 浅学の価値

III   文化を知らない世界
16. 知的レベルの低下が厳しいとき
17. キュレーションの知識
18. 氷の謎
19. キツネとハリネズミ
ギリシャ時代の言葉「キツネはたくさんのことを知っているが、ハリネズミは1つの大きなことを知っている」 ⇒ キツネがマクドナルドで、ハリネズミがウェンディーズ
高得点が高所得、良好な健康状態、そして時に他の積極的な性格などと相関している
事実を学ぶことで、他の方法では習得できない認知技能を作り上げることが可能となる

2017.3.19. 朝日
(書評)『クラウド時代の思考術』 ウィリアム・パウンドストーン〈著〉
 適切な「検索」、知識・能力が必要
 アメリカ人、とくにミレニアル世代がどんどんバカになっている。いや、ぼくが言っているのではない、この本にそう書いてあるのだ。著者は高名な科学ライター、彼自身の調査を含む多くのデータにもとづいての結論だ。説得力は高い。
 キーワードのひとつは、ダニング=クルーガー効果。能力の低い人ほど自分を過大評価するという現象で、アメリカの心理学者が1999年に発見した。
 インターネットがこの効果を増幅する。ネットで検索すれば情報は簡単に手に入るから、誰でもたくさん情報を集めて勉強したような気になる。自分は物知りだという自己認識が、ますます肥大する。
 だが、それは錯覚だ、と著者は言う。適切な検索には相応の知識とリテラシーを必要とする。これらの低い人がいくら検索をしても、偏向した自分の意見を補強する材料を手に入れるだけだ。ネット検索は悪循環をさらに悪化させる悪魔の道具でしかない。
 本書では直接触れられていないが、2016年のトランプ現象を予測する事柄もあちこちに顔を出す。たとえば、アメリカとメキシコの国境に造る壁の効果や費用についての見積もりは、知識がない人ほど楽観的だった。
 厄介なことに、知識があれば事足れりというわけではない。地球温暖化のように複雑な現象になると、むしろ科学的知識が豊富な人ほど、自分の政治イデオロギーに適した解釈を下す傾向が強い。知識がイデオロギーを補強する役割しか果たさなくなるのだ。
 著者は対応策として、新聞やテレビなど、プロによって編集された従来型マスメディアの重要性を強調する。読者はそれを通して自分が興味のない領域の情報にも触れるからだ。処方箋(せん)としてはいささか頼りない印象がぬぐえないが、インターネットというこの荒々しい暴力的技術を使いこなすためには、一読しておくべき書である。
 評・佐倉統(東京大学教授・科学技術社会論)
     *
 『クラウド時代の思考術 Googleが教えてくれないただひとつのこと』 ウィリアム・パウンドストーン〈著〉 森夏樹訳 青土社 2592円
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 William Poundstone 55年生まれ。ノンフィクション作家。著書に『囚人のジレンマ』『大暴露』など。


5分でわかるクラウド・コンピューティング (1/5)
栗原 潔
弁理士。技術士(情報工学)。 IT、知財、翻訳サービスを中心とした新しいタイプのリサーチ会社。 東京大学工学部卒業、米MIT計算機科学科修士課程修了。
日本アイビーエム、ガートナージャパンを経て20056月より独立。 ITmedia Alternative BLOGにて テクノロジー時評Ver2」を執筆。

なぜいま、クラウド・コンピューティングなのか。過去の類似コンセプトとの相違や、クラウドの階層と提供事業者、普及度は?
[栗原潔,テックバイザージェイピー(TVJP]
 クラウド・コンピューティングという言葉が聞かれるケースが多くなってきています。あたかも雲から何かが降ってくるかのようなイメージで、ネットワーク上にあるサーバのサービスを活用できるというコンピューティング形態を指す言葉です。「確かにイメージとしては分かるのだが、あいまいでまさに『雲をつかむような』話だ」と考えている人も多いのではないでしょうか? また、SaaSやグリッド・コンピューティングなどのクラウド類似の概念は以前から存在しているため「どこが新しいのか?」といぶかる人もいるでしょう。
 以下では、クラウド・コンピューティングの言葉の定義、具体的内容、企業ユーザーへの影響などについて見ていくことにします。
1.クラウド・コンピューティングとは
 前述のとおり、クラウド・コンピューティングとは、ネットワーク上に存在するサーバが提供するサービスを、それらのサーバ群を意識することなしに利用できるというコンピューティング形態を表す言葉です。ネットワークを図示するのに雲状の絵を使うことが多いことからきた表現です。雲の中にはハードウェアやソフトウェアの実体があるが、その中身は見えない(気にしなくてよい)というイメージです。
1 クラウドの中身は見えないもの
 『ウェブ進化論』の梅田望夫氏の表現を使えば「あちら側」の世界ということになるでしょう。また、サン・マイクロシステムズの創業以来のコンセプトである“The Network Is The Computer”を別のいい方で表したともいえます。
 クラウド・コンピューティングという言葉は20068月に開催されたSearch Engine Strategies Conferenceにおいて、GoogleCEOのエリック・シュミット氏が言及したことで広まったといわれています。しかし、ネットワークを雲の絵で表現するのははるか昔から行われていた慣行なので、クラウド・コンピューティングという言葉もそれ以前から使われていた可能性も高いと思われます。
 なお、クラウド・コンピューティングの「クラウド」はいうまでもなく“cloud”(雲)ですが、同じく注目のキーワードであるクラウドソーシング(企業がネットを通じて不特定多数の人に問題解決を依頼すること)のクラウドは“crowd”(群衆)ですので注意が必要です。
2. クラウドと過去の類似コンセプトとの相違
 クラウド・コンピューティングについて最も多く聞かれる疑問は「昔からいわれていた話ではないか?」「どこが新しいのか?」というものでしょう。
 結論を先にいってしまえば、クラウド・コンピューティングはまったくの新しい言葉というわけではありません。
 過去からある概念のグリッド、SaaS、オンデマンド・コンピューティング、ユーティリティ・コンピューティング、ユビキタス・コンピューティングなどはすべてクラウド・コンピューティングの範疇(はんちゅう)に含まれるといってよいでしょう。
 クラウド・コンピューティングは、このような、いままさに起きつつあるさまざまな動向を総称するための言葉と考えるべきです(このような包括的用語を「アンブレラ・ターム」ということがあります)。
2 いままさに起きつつあるさまざまな動向を総称する「アンブレラ・ターム」
 その点では、クラウド・コンピューティングという言葉の位置付けはWeb 2.0という言葉に似ているといえます。Web 2.0という言葉に対しても「すでに起きている現象のいい換えであり新しい要素がない」との批判が聞かれたこともありました。
 しかし、Web 2.0という「アンブレラ・ターム」が一般化したことは、ネットの世界で起きつつある多様なトレンドの把握が容易になったという点では意義があったといえます。クラウド・コンピューティングも、これと同様な役割を果たしていくと考えられます。
3. なぜクラウドなのか?
 では、なぜいまクラウド・コンピューティングに注目が集まっているのでしょうか? クラウド・コンピューティングは一時の流行にすぎないのでしょうか?それを判断するためには、クラウド・コンピューティングの普及を推進する要素について考えてみる必要があります。
 クラウドのテクノロジー的な推進要素としては、コンピュータとネットワーク帯域幅のコストが極めて安価になった点があります。
 過去のネットワーク帯域幅が比較的高価であった時代には、データをできるだけ利用者の近くに置くことで応答性を向上し、ネットワーク・コストを削減することが重要でした。
 しかし、いまでは、データを社外の集中管理されたデータセンター内のサーバに置いても十分な性能が達成できるケースが多くなっています。
 そして、情報システムのコスト面における最大の課題は運用コストなどの人件費になっています。人件費を削減するためにはサーバ群をできるだけ集中して運用することが重要です。
 故に、極めて多数のサーバを集中管理し、多くの企業や消費者にサービスを提供するクラウド・コンピューティングのモデルはコスト的に有利です。
3 サーバ群をできるだけ集中して運用することのメリット
 ビジネス的な推進要素としては、情報システムの柔軟性や俊敏性の重要性が増している点が挙げられます。一から自前でシステムを作り上げるよりも、他社が提供する既存サービスを活用した方が有利なケースが増えています。
 これらの推進要素は一時の流行ではなく、ITの世界で今後長期的に継続していくメガトレンドです。そう考えてみれば、クラウド・コンピューティングも一時の流行で終わる動向ではないといえるでしょう。
4. クラウドの階層とプレイヤー
 では、クラウド・コンピューティングの雲の中身は具体的にはどうなっているのでしょうか? ユーザーが雲の中身を気にせずにサービスを利用できるのがクラウド・コンピューティングのポイントですが、クラウド・コンピューティングでサービスを提供する側のベンダとしては雲の中身を気にしないわけにはいきません。
 もちろん、雲の中身の実体は多様なサーバとストレージ群を稼働するデータセンター群、その上で稼働するアプリケーション群、そして、ネットワークなのですが、階層を3つに分けて考えることでその機能が理解しやすくなるでしょう。
図4 雲の中身の実体を3つの階層に分けて考えてみよう4 雲の中身の実体を3つの階層に分けて考えてみよう
 最下層にあるのは、クラウド基盤層です。これは、サーバやストレージのハードウェア機能を提供する層です。具体的には仮想化テクノロジーによる柔軟な構成変更、データセンターによる堅牢な運用などが求められます(もちろん、グリーンITの観点から電力効率性の高さも求められるでしょう)。
 その上の階層はクラウド・サービス提供層です。クラウド上のアプリケーションを提供するための基本的サービスを提供する層です。この層に対するインターフェイスはWeb APIと呼ばれることもあります。
 Salesforce.comが提供するForce.comなどのサービスは、アプリケーション開発環境をクラウド上で実現したものであり、一般にPaaSPlatform as a Service)と呼ばれますが、この階層に属するといえます。
 また、従来型のOS的な機能をクラウド上で実現するWeb OS的な発想も今後は普及してくるでしょう。例えば、Web上でWindowsに似た環境を実現するサービス・プロバイダーも存在します。
 最上位階層はクラウド・アプリケーション層です。エンドユーザーが利用できるアプリケーションを提供する層です。SaaSはこの階層に属します。ここでのアプリケーションは、企業向けの業務アプリケーションにとどまらず、ワープロやスプレッドシートなどのオフィス系アプリケーションやコラボレーション系のアプリケーションなども含まれます。
 特定の階層にフォーカスするプレイヤー(例えば、基盤層にフォーカスするインターネット・データセンター事業者)もあれば、全階層にフォーカスするプレイヤー(例えば、GoogleAmazonSalesforce.comなど)もあります。
5. クラウドの普及度
 では、今後、クラウド・コンピューティングはどのように普及していくのでしょうか。 ここでは、消費者向け市場と一般企業向け市場を分けて考えることが必要でしょう。
 消費者向け市場、特に、携帯電話向け市場においては、クラウド・コンピューティングの世界はすでに実現しているといえます。携帯電話の利用者は、サーバの存在など気にせずに自由にサービスを利用しています。
 一般企業向け市場ではどうでしょうか? SaaSに代表されるようにクラウドは企業向けにも着実に普及しています。しかし、一般的な大企業においては、依然としてシステムを社内に導入して利用する形態(オンプレミス型と呼ばれます)が一般的です。
 特に、企業業務の根幹を支える基幹系においては今後長期間にわたってオンプレミス型が一般的であると考えられます。
 これらのシステムでは、信頼性の要件が極めて厳しいことが多く、問題が発生した場合には、当事者が集まって再発防止策を講じることなどが求められます。
 残念ながら、いまのクラウドの仕組みではこのような厳しい要件に答えることはできません。障害が発生すればできるだけ短期間に回復できるよう努力する、場合によってはペナルティとして利用料金を返金するというレベルです。
5 「自前主義」のオンプレミスとの使い分けがカギとなる
 結局のところ、企業におけるクラウドは、信頼性に関する要件が多少緩やかであり、かつ、迅速な展開が求められる短期戦術的なアプリケーションから利用されていくことになるでしょう。「自前主義」の重要性は段階的に減少していきますが、「自前主義」がまったく不要になることはありません。
 クラウドの重要性が段階的に増していくことは確実と思われますが、当面の間、企業はクラウドとオンプレミスをどのように組み合わせていくかをIT戦略の中心にしていくべきです。すべての情報システムが瞬く間にクラウド型になるというような無責任な予測を真に受ける必要はありません。


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