荷風の昭和 川本三郎 2025.10.14.
2025.10.14. 荷風の昭和 前後篇 著者 川本三郎 1944 年東京生まれ。文学、映画、漫画、東京、旅などを中心とした評論やエッセイなど幅広い執筆活動で知られる。著書に『大正幻影』(サントリー学芸賞)、『荷風と東京』(読売文学賞)、『林芙美子の昭和』(毎日出版文化賞・桑原武夫学芸賞)、『白秋望景』(伊藤整文学賞)、『成瀬巳喜男 映画の面影』、『「男はつらいよ」を旅する』(共に新潮選書)、『マイ・バック・ページ』、『いまも、君を想う』、掌篇集『遠い声/浜辺のパラソル』など多数。訳書にカポーティ『夜の樹』、『叶えられた祈り』(共に新潮文庫)などがある。 発行日 2025.5.20. 発行 発行所 新潮社 ( 新潮選書 ) 『波』 2018 年 6 月号~ 2024 年 8 月号の連載を大幅に加筆改稿 まえがき 永井荷風 (1879 ~ 1959) は、明治、大正、昭和の 3 代を生きた。近代の文学者のなかでも稀有な例。本書は、その中でも昭和をどう生きたかに焦点を絞る 生き方自体も独自の光を放つ。近代の作家の中でも、これほど個に徹し、芸術に身を捧げた作家も珍しい。本書は、作品と同時にその生き方も対象にしている 花柳小説作家、好色作家とも呼ばれるが、拙著『荷風と東京』では、そうではなく、荷風は終生東京という町を愛し、町のあちこちを歩くことで文学を作り上げていった都市の作家であることを強調 2014 年ノーベル賞受賞のフランス人作家パトリック・モディアノは、「偉大な作家の何人かは 1 つの都市と結びついている」として、バルザックとパリ、ディケンズとロンドン、ドストエフスキーとサンクトペテルブルグ、そして荷風と東京を挙げた 本書は、その都市の作家である荷風が、ことの多い激動の昭和をどう生きたかを検証 群れることを嫌い、個として生きようとした荷風の悪戦苦闘ぶ...