松本清張と水上勉 藤井淑禎 2025.12.23.
2025.12.23. 松本清張と水上勉 著者 藤井淑禎 1950 年生まれ。立教大学名誉教授。立教大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。専門は近現代日本文学・文化。著書『「東京文学散歩」を歩く』(ちくま新書)、『乱歩とモダン東京』(筑摩選書)、『純愛の精神誌』(新潮選書)、『清張 闘う作家』(ミネルヴァ書房)、『漱石文学全注釈 ―― こころ』(若草書房)、『名作がくれた勇気』(平凡社)など 発行日 2025.9.15. 初版第 1 刷発行 発行所 筑摩書房 ( 筑摩選書 ) 序 章 清張と勉 ―― その軌跡 l 実は似た者同士 ? 対照的な作家とされるが、風貌や、本業の文学でも松本はノンフィクションや歴史評論、水上は自らの分身を主人公にした私小説や自らを固くした人物の評伝など、対照的な作家人生を歩んだものの、好一対にも見える。共通する最大のものは色々なジャンルに手を出す雑食性。作家以前の水上が「 31 の職業を持つ男」と呼ばれたのに対し、松本も 15 歳から様々な職業を転々とする。文学の方でも、松本は『点と線』 (‘58) の前にいろんなジャンルの小説を書きまくり、ミステリー界ではトリック重視の本格派の領袖である乱歩を貶め、純文学では川端の『伊豆の踊子』に『天城越え』 (‘59) という刺客を差し向け、新進気鋭の評論家江藤淳を『砂の器』 (‘61) で犯人のモデルに仕立てるなど好き勝手に振舞う l 雑食の果てに――社会派推理小説の時代の終焉 ミステリーの出世作『点と線』の中に早くも、ノンフィクションの『日本の黒い霧』 (‘60) の予兆が見られるが、小説かノンフィクションかの岐路に立たされ、徐々に後者に軸足 水上は貧乏暮らしを告白した私小説『フライパンの歌』 (‘48) が脚光を浴びて、私小説家のレッテルが貼られるが、『点と線』の影響で社会派推理小説『霧と影』 (...