審議官  今野敏  2023.7.31.

 2023.7.31. 審議官 隠蔽捜査9.5

 

著者 今野敏(こんのびん) 1955年北海道生まれ。上智大在学中の78年に『怪物が街にやってくる』で問題小説新人賞受賞。レコード会社勤務を経て、執筆に専念。06年『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞を、08年『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞と日本推理作家協会賞を、17年『隠蔽捜査』シリーズで吉川英治文学賞を受賞。様々なタイプのエンターテインメントを手掛けるが、警察小説の書き手としての評価も高い

 

発行日           2023.1.20. 発行

発行所           新潮社

 

 

²  空席                   (初出:『小説新潮』20199月号)

キャリアの竜崎伸也は、大森警察署長から神奈川県警刑事部長に異動

竜崎は原理原則を何より大切にした

後任が北海道警から着任前に品川署管内でひったくり事件発生、第2方面本部から大森署にも緊急配備の指示が来る

直後に署内でタクシー強盗発生、緊急配備の必要があるが同時に2件の配備は出来ないため、通信指令本部にタクシー強盗優先を伝えたが、第2方面本部が譲らず

途方に暮れた副署長が新署長にお伺いを立てる間に、警務課長が竜崎に私的に相談し指示を仰ぐ。両者を同一犯として追いかけることを示唆され事なきを得る

 

²  内助                   (初出:アミの会()著『惑―まどうー』)

竜崎が大森署長の頃、焼死体発見のニュース報道を見た妻の冴子はデジャヴを感じる

デジャヴの元を辿ると空き家で同様の強姦殺人事件があり、未解決だったことがわかる

その勘を頼りに捜査をしたところ、見事真犯人に辿り着く

 

²  荷物                   (初出:『小説新潮』20187月号)

竜崎の息子は大学生。予備校時代にプレッシャーからヘロインに手を出し、自首したので不起訴になったものの、父親は大森署に降格異動させられたという前歴の持ち主

友人からポーランド人女性の同級生を紹介され、その女性の友人から荷物を代わりに受け取ってもらいたいと頼まれ引き受ける。ポーランド人男性から荷物を預かるが、女性とコンタクトが取れないまま中身を見るとどう見ても覚醒剤。再犯に怯えた息子を見抜いたのは母親で、竜崎が問いただし鑑識にブツを回すと、料理に不可欠な岩塩だったことが判明

 

²  選択                   (初出:『小説新潮』20202月号)

竜崎の娘は広告会社勤務。入社して間もない

出勤途上で痴漢騒ぎに巻き込まれ、被疑者を拘束したため、事情聴取され、大事なプレゼンの仕事に遅れそうになったが、何とか間に合った。その後、痴漢が示談金目当ての詐欺だと判明、被疑者拘束を手伝った美紀は仲間だと疑わて所轄署の刑事課の尋問を受け、さらに上司からもプレゼンした顧客から予算を削られた責任を追及され、八方塞がりでノイローゼになりそうになり、父親にこぼすと、すべてが自分の勝手な思い過ごしと分かり、冷静になって周囲を見れば皆自分を守ってくれていたことがわかって安心した

 

²  専門官                (初出:『小説新潮』20207月号)

竜崎が刑事部長として赴任した神奈川県警本部の捜査一課のベテラン警部補は、抜群の仕事をするがいつも1人で動くはみ出し者でキャリア嫌いで率直な批判をして憚らない

着任早々強盗事件発生、竜崎が捜査本部設置の動きがあるか問い質したのに対し、部下は勝手に部長の指示があったものとして動き出したため、はみだしが自分1人で十分と反発、竜崎に直訴に及んだため、部下の誤解・忖度が発覚。竜崎から直接の指示で捜査を一任されたはみだし者はすっかり竜崎に心服

 

²  参事官                (初出:『小説新潮』20209月号)

2人の参事官がいて、1人はキャリア、もう1人は地方(じがた:ノンキャリ)で、お互いいがみ合っているとされ、本部長から何とかしろとの特命が出る

個人的な問題に関心がなかった竜崎は、ちょうど起こった拳銃発砲事件で2人の参事官を直接呼んで互いの関係を確認、好き勝手な言い合いをしながらも2人が絶妙の関係で仕事をしていることを見抜く

 

²  審議官                (初出:『小説新潮』20221月号)

横須賀の米軍基地近辺で起きた殺人事件で被疑者が基地に逃げ込んだ可能性があったところから、海軍犯罪捜査局NCISの協力を仰ぎ、NCISの特別捜査班が県警の捜査本部に参加していたことに対し、警察庁長官官房の刑事局担当審議官が自分に報告がないといってクレームをつけてきた。よく調べるとNCISと日本の警察の捜査協力の端緒を開いたのが審議官だったことが判明、以後NCISに関わることは全て自分に仁義を切ってしかるべきと思い込んでいた節があり、次の協働プロジェクトの口利きを頼んで機嫌を直してもらう

 

²  非違(ひい:不祥事)                    (初出:『小説新潮』20222月号)

竜崎が大森署長時代に無視されていた第2方面本部の管理官が、署長が美形のキャリア女性に代わった途端頻繁に出入りするようになる。はみ出し刑事の非違行為調査をちらつかせながら署長を一目見に来る。署長ははみ出し刑事と一緒にボートレースに行って管理官の疑念を晴らす

 

²  信号                   (書き下ろし)

キャリア会に初めて出席したところ、話題は深夜の車の通りもない交差点で歩行者信号が赤だったときに渡るか渡らないかの議論となり、本部長が渡るといったことが翌日マスコミに漏れ、地方(じがた)の交通部長が本部長に対し自分たちの苦労が水の泡になると食って掛かってきた。部長の抗議の背景にはキャリアに対する地方の反感があり、竜崎はキャリア会への赤信号だと警告

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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