シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相  John Carreyrou  2021.5.31.

 

2021.5.31. シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相

Bad Blood Secrets and Lies in a Sillicon Valley Startup       2018

 

著者 John Carreyrou 『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の調査報道記者として20年勤務後、フリーランス・ジャーナリストとして活動中。ピュリッツァー賞2度受賞。現在ニューヨークのブルックリンで妻と3人の子供と共に暮らす

 

訳者 

関美和 翻訳家。慶應大文・法卒。杏林大外国語学部准教授。投資銀行を経てクレイフィンレイ投資顧問東京支店長を務める

櫻井祐子 翻訳家。京大経卒。大手都市銀行在勤中にオックスフォード大大学院で経営学修士号取得

 

発行日           2021.2.28. 第1刷発行

発行所           集英社

 

著者まえがき

本書はセラノス元社員60数人を含む150人以上の関係者への数百件に及ぶ聞き取り調査をもとに構成。登場人物もほとんどが実名

 

プロローグ

2006年、エリザベス・ホームズがスタンフォードの学生寮で思いついたアイディアから始まって開発した装置をノバルティスが認め、資金提供を検討するという

役員の1人、CFOのヘンリー・モズリーは8カ月前に参加、70年代末にシリコンバレーに来て4社の財務に関わり2者を上場させた実績の持ち主で、セラノスに惹きつけたのはエリザベスの周りに集まる豪華なキャスト

取締役会会長のドナルド・ルーカスは、ソフトウェア起業家で億万長者のラリー・エリソンを育て、80年代半ばにオラクルを上場へと導いた高名なベンチャー・キャピタリスト。2人ともセラノスに出資

他にも取締役会には、スタンフォード大の花形教授で工学部副学部長のチャニング・ロバートソン。90年代末に煙草の中毒性に関する専門家証言を行ってたばこ産業に責任を認めさせ、65億ドルの和解金をミネソタ州政府に支払わせたことでも知られる

生命情報科学部門を指揮しているティム・ケンプは、IBM30年在籍した元幹部

営業責任者ダイアン・パークスは、製薬会社とバイオテクノロジー企業で25年の経験を持つ

製品担当のジョン・ハワードは、パナソニックの半導体子会社を統括した経験を持つ

共同創業者シュナーク・ロイは、インド系移民の子で化学工学の博士、スタンフォードのロバートソン研究室でエリザベスと共に学んだ仲

モズリーは、エリザベスに頼まれて投資家向けの業績見通しを作成

やろうとしていることは、指先を針で刺して数滴の血液を絞り出し、クレジットカードを厚くしたようなカートリッジに移し、トースターサイズのリーダーに挿入すると、カートリッジからデータがサーバーに送られ、解析された結果が送り返されてくる、という仕組み

シュナークがモズリーに洩らしたところでは、エリザベスが「セラノス1.0」と名付けた血液検査装置がうまく動かない時があるという。デモでは失敗に備えて、予め成功例を録画しておき、実演の最後に録画を見せる。ノバルティスに対するデモでも、2台の読み取り機の1台が不具合を起こし、録画を使ったという

モズリーの指揮下で、新たに165百万ドルという評価を得て、第3ラウンドの資金調達を終え、計47百万ドルを調達。創業3年のスタートアップとしては破格の評価だが、その前提とされたのが向こう18カ月で120300百万ドルの収益を生み出すという提携製薬会社5社との6件の契約であり、さらに15件の交渉進捗中の契約があるという

モズリーはシュナークの告白を聞き、さらに不信を抱いたのは、前提となる契約書を見たことがないことで、エリザベスに疑問をぶつけ、投資家を騙し続けるわけにはいかないと言った途端、エリザベスから解雇を言い渡される

 

第1章      意義ある人生

エリザベス・アン・ホームズは、幼い頃から起業家として成功するのだと心に決めていた

父方の祖先は、ハンガリー移民から裸一貫で起業し、全米屈指の大富豪となり、娘が主治医のクリス・ホームズと結婚。クリスは妻の後ろ盾を得てシンシナティ大医学部と総合病院を創設。クリスがエリザベスの祖父の祖父。母方の祖父はウェストポイント出身で、70年代初め徴兵制から志願制への移行を実行した傑物。父方は、祖父とその父が放蕩で一族を没落させた

高校2年でがぜん学業に目覚め、大統領奨学生としてスタンフォードに入学

父親は、公務員時代に数々の人道的支援活動を指揮、娘にも意義ある人生を送れと教え、エリザベスも入学に当たって、金持と人のためになる使命追求の両方を実現するためにはバイオテクノロジーだと考え、化学工学を専攻。化学工学科の顔と言われたチャニング・ロバートソンの研究室に入って博士課程で洗濯用洗剤に最適な酵素の探求をしていたシュナーク・ロイの研究を手伝う。1年目の冬には早くも起業を想定し中退を視野に入れていた

1年の夏シンガポール遺伝子研究所で夏期インターンシップを終えた後中退。研究所では年初から拡散していた未知の感染症SARSの医療現場で、注射針を刺したり鼻の奥を綿棒で拭ったりするローテクな方法で採取された患者の検体を検査しながら過ごし、この時の経験がもっといいやり方があるはずという確信に繋がる

シンガポールから戻ると5日間不眠不休で、腕に貼るだけで病状の診断と治療が同時にできるシール式検査法(アームパッチ)の特許出願書類を書き上げる

ロバートソンは、独創的な発想に感銘を受け、アイディアの実現にかける熱意と意気込みに目を瞠り、背中を押す。シュナークは学位取得後エリザベスの立ち上げた会社の社員第1号となり、ロバートソンは顧問として取締役会に参加

法人化した時の名称は「リアルタイム・キュアーズ」、その後「セラピー」と「ダイアグノシス」を掛け合わせた造語「セラノスTheranos」に社名変更

スタンフォード在住時仲良しの隣人の父親が著名なVCの経営者だったティム・ドレイパーを説得して100万ドルの出資を取り付けたことがエリザベスへのお墨付きに繋がる。ティムの祖父は50年代にシリコンバレー初のVCを設立、代々ベンチャー・キャピタリストとして成功

父親の長年の友人で元企業再生請負人として鳴らしたヴィクター・パーミリエもエリザベスの資金調達要請に応じる

2人を虜にしたのは、エリザベスの熱意と、ナノ/マイクロテクノロジーの原理を診断分野に応用するという斬新なビジョン。患者の皮膚から無痛で採決する粘着シール「セラパッチ」にマイクロチップを用いた検知装置を搭載、血液を分析して薬剤の送達量を制御すると同時に、担当医に無線で分析結果を送信できるとされた

専門的な質問に答えられないエリザベスを門前払いにするVCもあったが、04年末までには総額600万ドルの調達に成功

シュナークは、小さなシールですべてを行うのは無理と悟り、代わりに糖尿病患者向けの携帯型血糖値測定機に似た機器を開発したが、血液中の様々な物質の測定には機器の大型化が避けられず、妥協案として編み出したのがマイクロ流体力学と生化学を融合させたカートリッジとリーダーの組み合わせ。流路にあるフィルターによって赤血球と白血球の細胞が分離され、血漿だけが通過、抗体によってコーティングされた容器に流れ込んで抗体に触れると化学反応を起こし、リーダーがそれを読み取って結果に翻訳する仕組み。カートリッジと読み取り機を患者の家庭に置くのがエリザベスの夢で、患者が検査に出向く必要がない

入社18カ月後の05年末には「セラノス1.0」と名付けられた試作機が完成

併せて、製薬会社に血液検査技術の使用権を与えて、臨床試験中に薬剤の副作用を検出できるようにするという計画も、早期収益化に貢献すると目された

 

第2章      糊付けロボット

シリコンバレーで問題解決人の異名をとるエドモンド・クーは、エリザベスのビジョンに魅せられた1人。技術系スタートアップで技術的問題が持ち上がると決まって呼び出され解決してきた。セラノスの血液モニタリング技術によって、薬を患者に合わせてこまかく調節できれば、副作用から患者を救うことができる、エリザベスのいう年間10万人の副作用で死ぬ人を無くす、文字通り人命救済の画期的技術に思えた

エリザベスに口説き落とされ入社を決めたが、そもそもエドは電子機器専門で、医療機器は素人、その上試作機はまともに作動しない。さらに前提条件の「ごく少量の血液しか使わない」というエリザベスの、母が極度の注射針恐怖症だった影響からくる拘りが壁に

小型化はカートリッジにも及び、微量の血液の嵩増しのための生理食塩水に加え、抗体と反応させるための試薬も必要で、正確なタイミングで開閉する弁や、各種の液体の漏出による汚染を防ぐ装置など複雑極まりない装置となり、製造原価も200ドルを超え、瞬く間に資金は枯渇、2度目の900万ドル調達実施

化学的な仕組みを開発するのは生化学者のグループで、エドの装置開発グループとは情報交換もなく分断され、検体の血液の量が増えれば成功の見込みは格段に高まるがエリザベスは聞き入れようとしなかった

エリザベスが与えるプレッシャーで離職率は高く、経営幹部ですら長続きしない

そんな中、ロバートソンはマスコミに向かって、「第2のビル・ゲイツかスティーヴ・ジョブズの瞳を覗き込んでいることに気付き始めた」と発言

エリザベスは頑固だが、何人かのいうことは聞いていた。その1人が同棲相手のサニー。「シリーズB」ラウンドで投資してきたラリー・エリソンやドン・ルーカスにも耳を傾けていたが、250億ドルの資産を持つというエリソンは、オラクルを立ち上げた頃にそのデータベースソフトの機能を誇大宣伝し、不具合だらけのプロダクトを出荷していたのは有名な話で、医療機器では許されてはならないことで、決してお手本にしていい人物ではない

07年夏、エリザベスはファイザーを口説き落として、「セラノス1.0」を被験者宅に設置、毎日血液検査をし、セラノスが分析した結果をファイザーに送る約束を取り付け、テネシーの2人の末期癌の患者を対象に治験が始まる

同じ頃3人の元社員を情報漏洩で起訴。エドの前任者らが、セラノスの装置の障碍になっていたマイクロ流体力学の問題を解決できたと確信し、動物用の血液検査器の方が規制当局の承認を得やすいと判断し起業したためで、病的なまでに企業秘密が漏れることを恐れていたエリザベスの疑念が確信に変わり、社内でも情報管理がさらに厳格化

機器開発加速化のため、セラノスの機器より簡易な血液分析機を製造していたコレステックからトニー・ニュージェントをスカウト、トニーは人手に頼っていた血液検査室での手順の自動化に目をつけ、そのために糊付けロボットを導入、セラノスの新しい読み取り装置の核とする

マイクロ流体装置を放棄して新しいロボットに乗り換えたのは皮肉で、元々の装置を支える知的財産権の保護を求める訴訟を起こした直後のことだった

エドは用済みとなり解雇。ほどなくシュナークも研究に戻ると言って会社を去る

エリザベスは、実質的に糊付けロボットの改良版に過ぎない機器に大喜びして「エジソン」と名付け、安全性評価もろくに行わずに外部に持ち出す

 

第3章      アップルへの羨望

07年初iPhoneを発表して旋風を巻き起こしたジョブズとアップルを、エリザベスも憧れ、自らの血液検査システムを「医療版iPod」と呼び、すべての家庭に置かれる日が来ると予言

アップル社員のスカウトにまで目をつけ、iPhoneのデザインを手がけたプロダクト・デザイナーのアナ・アリオラをデザインの責任者として口説き、アップルの15千株を放棄させることに成功。さらに2人の仲間も加わり、デザインを担当

エリザベスは自身にもイメチェンが必要だとし、ジョブズに倣って黒のタートルネックに黒のパンツが定番の仕事着となった

新入社員にとって、IT責任者との小競り合いが日常茶飯事。社内の情報が分断されるような社内ネットワークの設定で、社員間や部門間の連携が阻まれ、生産性が著しく妨げられていて、ITチームが常時社員の行動を見張っているようだった

アナ・アリオラをセラノスに紹介したのは、ジョブズの古くからの親友の1人でアップルのソフトウェア開発責任者として成功し、退職後にセラノス取締役にヘッドハントされ、自らも150万ドルを投資したアヴィ・テヴァニアン。取締役会では、エリザベスの報告する収益予測がいつまでも実現せず、製薬会社の契約書も開示されず、装置の問題が毎期のようにころころ変わって報告されるのに疑問を抱き、エリザベスが財団を作って株式を委譲するという提案には反対したところ、すぐに会長のドンを通じて辞任強要があり、改めて過去1年の資料を見直して会社がすっかり変わってしまっていることに気付くが、エリザベスを孫娘のように無条件で受け入れているドンには受け入れてもらえず、逆に辞任を勧められる

アナもエリザベスの情報遮断には不満で、開発途上の装置の患者への治験に疑問を呈したところ、いるべきところを間違えていると言われ、憤然として辞表を提出

シュナークの辞任に際しても113万株を56万ドルで手放すという。直近の資金調達での価格から実に82%引きとなる法外な値引き幅に愕然とするが、その上会社が買取権を放棄してエリザベスが買い取ると言い、他の取締役にもそれぞれが応分に持つ買取権の放棄を迫られ、アヴィが拒否すると弁護士から、「不誠実」な行動をとったとして訴えるとの脅しが来た

アヴィは手を引く決断をし会長宛に、「会社側の意向に無条件に従わなければ、会社/エリザベスから報復を受ける恐れがあることを、取締役は知っておくべきだということを、取締役全員に周知させていただきたい」と訣別状を認める

 

 

第4章      さらばスラム街

08年初、セラノスは、スラム街にあった本社を、101の反対側の中心地に移転

移転を任されたのは、IT責任者のマット・ビッセル。移転前日の4時になってエリザベスから、今日中に退去しないと2か月分の賃借料を徴収されると言われ、何とかしろと無理難題を吹っ掛けられる。何とか説得はしたが我慢の限界。それまでも相次ぐ退職者の身辺調査などで嫌気がさしていた。昇給と昇進で引き留められたが固辞すると手のひらを返したような冷酷な扱いを受ける。何とかストックオプションは行使で来て、自らのコンサルティング会社を立ち上げる

エジソンの試作機を仲間内で実際に使ってみたところ、採血した血液をカートリッジに移すだけでもかなりの熟練を要することが判明

装置が完成もしていないのに、製薬会社との契約を安請け合いし、そこからの収益を大幅に水増しし取締役会に報告していることに気づいたのが、新たに営業部門の責任者として加わったトッド・サーディーというSAPなど多くの大企業の要職を歴任してきた男で、会長のドンに報告。トッドがセラノスの主要投資家で親友のベンチャー・キャピタリストであるキッシンの娘婿でもあるところから、ドンも事態を重く受け止め緊急取締役会を開き、エリザベスをCEOから降ろし後任を考えることにしたが、その後2時間に亘るエリザベスとの話し合いで取締役全員がエリザベスに説得され翻意。すぐにエリザベスによる犯人探しとなり、トッドほかの「筋のよい」社員が解雇され、社員離職率がますます高まる

アップルからの移籍組は全て姿を消した

 

第5章      子ども時代の隣人

ホームズ家とフューズ家は20年来の付き合い。ワシントンDCに住み、エリザベスと同級生の子供を持つ専業主婦同士が意気投合したが、役人のホームズと、成功した起業家であり医療機器の発明家であるフューズはそれほど親しくもなかった

ホームズはテネコからエンロンに転籍、破産で失職、世界自然保護基金WWFに職を得てワシントンに戻った時、ホームズ夫人がフューズ夫人にエリザベスが起業したことを伝えると、フューズは散々世話になっておきながら自分の専門分野にも拘らず事前に相談がなかったことに憤慨。セラノスのホームページからエリザベスの構想に欠陥を発見。検査結果に異状があった場合に担当医に警報を発信する仕組みが欠如していることを突き止め、セラノスの機器を対象にその装置を考案して特許を出願してしまう

08年、ホームズは親友でセラノスが最初の特許を出願した時に扱った弁護士にフューズの特許のことで相談。エリザベスが弁護士事務所に来て、特許抵触審査請求(出願特許の優先順位を審査)を依頼するが、フューズの前妻の息子が事務所のパートナーなので断る

 

第6章      サニー

チェルシー・バーケットは、エリザベスとスタンフォードの同級生で親友。09年、勤務先での激務の愚痴をこぼしたことからセラノス入りが決まり、製薬会社の検証試験部門に配属

同時にエリザベスの恋人だったサニーも入社、各部門に顔を出し、社員に横柄な態度を取り大声で命令し罵倒した。元々ドットコムバブルで濡れ手に粟で大金を稼いだ後、スタンフォードの北京語の夏期講座に社会人として唯1人参加、孤立していたエリザベスの味方になったが、エリザベスが起業するに際し、成功した起業家としてサニーを尊敬、指南を受ける

チェルシーが製薬会社に行ってデモをすると、不具合が多過ぎて、その理由も多種多様

ファイザーからは、検証試験の失敗の結果提携関係の解消が通告

嫌気がさしたチェルシーは1年余りで会社を去るが、同僚に別れを告げる事すら禁じられた

 

第7章      ドクターJ

2010年になっても未曾有の不況が進行していたが、シリコンバレーでは起業家精神が再燃の兆しを見せる。Facebookの爆発的成功にツイッターが続き、モバイルコンピューティングへの転換が加速するなか、ウーバーが登場。さらには超低金利で投資資金が高いリターンを求めて投資先を血眼で探すようになり、シリコンバレーは格好の標的に

シリコンバレーのイノベーションを利用して、不況で低迷した事業の活性化を図ろうとする老舗企業の経営幹部も出現、その代表が、ドラッグストアチェーンのウォルグリーンのドクターJことジェイ・ローザン

10年初、セラノスはウォルグリーンに接触、小型血液検査器を売り込む。事業の在り方を一変させる切り札としてセラノスの技術を高く評価。ウォルグリーンのような大企業にしては異例の速さで50百万ドル相当の検査器の事前購入と店舗への導入+25百万ドルの融資が決まり、セラノス本社で会合がもたれたが、検査室の案内を要請しても拒否され、自らの検体採種を申し出ても拒絶。ウォルグリーン側の臨床検査専門のコンサルタントは、セラノスのデータの比較検証を主張したが却下され、機器の分解も提携契約で禁じられる。ウォルグリーンはライバルのCVSに横取りされることを極度に恐れ、エリザベスの言いなりになっている

その頃セーフウェイも、医療費負担の増大が会社を破綻に追い込むとの危機感から社員向けの革新的な健康促進・病気予防計画を導入したが、エリザベスの検査機器に関心を持ってプレゼンを依頼、セーフウェイの売上低迷と薄利体質を打開する一手として、セラノスと契約を結び、30百万ドルの融資と、検査器設置のための店舗の大規模改装を確約

ウォルグリーンもセーフウェイも業務を分け合うことには満足できなかったが、新しい莫大な事業機会を逃すよりはマシ、と割り切る

 

第8章      ミニラボ

セラノスのテクノロジーは、僅かな血液検体で数百種類もの検査ができると伝えられていたが、実際エジソンでできるのは抗体が抗原と結合する免疫反応を利用して血液中の物質を測定する免疫アッセイと呼ばれる分類の検査だけで、ビタミンD濃度の測定や前立腺癌の診断のような臨床検査は含まれるが、コレステロールや血糖値の測定など定番の血液検査の多くには、別の検査技術が必要で、10年末新しいエンジニアを雇用、エリザベスが「ミニラボ」と名付けた新しい検査器の開発に着手

検査には既存の3種類の検査器を使う必要があるが、サイズへの拘りがネック

11年春、デューク大を卒業したエリザベスの弟が縁故採用で入社、弟が学友5人を連れてくるが、何れも血液診断装置の会社で働くような資格はないのに社内では優遇

「ミニラボ」の開発加速へ向けた圧力がかかるが、問題はエリザベスとサニーが、試作機と管制機の違いを理解しないこと。開発しているのはあくまで試作機で、検証と微調整が必要で、最低でも3回は繰り返すが、サニーは一度も検証していない第1号機の試作機を基に100台分の製造部品を発注

未解決の問題の1つが温度管理だが、サニーは無関心

サニーの横暴で何人もの社員が辞めていく

 

第9章      ウェルネス戦略

セーフウェイの業績は低迷、12年初の決算発表で、新事業として「ウェルネス戦略」と称してセラノスとの提携を示唆。350百万ドルを投じて1700店舗の半数以上を改装し高級診療所のための空間を確保するよう指示したが、契約後2年経っても進捗は見られず、11年の東日本大震災まで機器製造遅延の理由として持ち出された

すっかりエリザベスの虜にされていたCEOのバードは、社内の疑問の声にも耳を貸さずセラノスの言いなりになっていたが、漸く社内の診療所で血液検査サービスが提供されることになったが、驚いたことにセラノスからは採血技師が来ただけで診療所で採血し検体はセラノスに送ることになっていた。採血もランセット針による簡易方式に加えて従来方式の静脈に針を刺す方法がとられ、検査の一部は外注に出され、結果も2週間待たされる。その上、結果を別の検査機関で再検査してみるといくつも正反対の答えが出てきた

セラノス本社の検査室には、まだミニラボが開発途上で患者の検査を行うには程遠い状態だったことから、独自で開発した検査器が1台もなく、市販の血液・体液分析器のみ

1年経っても新事業の進捗は見られず、遂に13年初セーフウェイはバードの退任を発表。それでもセーフウェイにとっては、取り残される恐れが、提携解消の決断を思い止まらせる強力な要因になっていた。バードは諦めずに独自の会社を立ち上げ医療系スタートアップとしてエリザベスと連絡を取ろうとしたが、エリザベスが折り返してくることはなかった

 

第10章   「シューメイカー中佐とは何者だ?

11年末、エリザベスは海兵隊クラブでアメリカ中央軍司令官ジェームズ・マティスに会った際、その場の思い付きで、戦場での血液検査が兵士の治療と救命に役立つことをアピール、マティスはアフガニスタン戦場での実地試験実施を指示。すぐに管轄の陸軍医療局の規制遵守部門副責任者のシューメイカー中佐に回付され、セラノスが軍関係者にプレゼンをするが、FDAの規制対応が不十分として却下

エリザベスは、現場での血液検査は「自家調整検査LDT」なのでFDAの管轄外であり、本社の検査室さえ認証を取得していれば問題はないと言い張るので、中佐はFDAの確認を取れといったがいつまでもなしの礫なので直接FDAの旧知の担当者に確認の電話をしたところ大騒動に発展。エリザベスは中佐の妨害に憤激してマティスに直訴、セラノスの効果を信じ切っていた将軍は何とか導入をしようとするが、軍の規制の前にはいかんともしがたく、漸く「限定目的試験」として軍の通常の血液検査と同じ結果が得られるかの確認のための検査をすることに同意。ところがいつまでたってもエリザベスは試験を開始しようとせず、13年初にはマティスが司令官を退任。中佐も年央には退役、同僚から餞別に、マティスと直接対決した勇気と生き残りを称賛された「生存証明書」を贈られた

 

第11章   導火線(フューズ)点火

11年、エリザベスがフューズとその前妻の息子ジョンを機密情報の窃盗の疑いで提訴

フューズの特許出願は10年末に成立、「セラノスの検査器を家庭に」というエリザベスの構想の邪魔をしていた

エリザベスが雇った弁護士はデイヴィッド・ボイーズで、90年代のマイクロソフトに対する反トラスト法違反訴訟で司法省の弁護士を務め、ビル・ゲイツを20時間にわたって質問攻めにした後、00年の大統領選を巡る訴訟ではアル・ゴアの代理人を務め、法曹界での地位を確固たるものにした。エリザベスがボイーズに与えた報酬は@15ドルのセラノス株30万株

ボイーズの主張はいずれも根拠がないか希薄

 

第12章   イアン・ギボンズ

エリザベスの特許の共同発明者として繰り返し登場するのがイアン・ギボンズ。ロバートソンから紹介された教授の共同研究者で、セラノス設立後初めて雇った経験豊かなイギリス人科学者。専門分野は免疫アッセイで、0510年の間化学部門を指揮

検査機器の精度に対する考え方や、縦割りの管理方法への不満、さらにはエリザベスがいとも簡単に真実を捻じ曲げ、対外的な説明でも嘘が多いことをロバートソンに愚痴ると、右から左へエリザベスに伝わり、親友に裏切られて解雇となったが、同僚の嘆願で平社員同様の身分で復職。13年には重度の鬱病となり、そこへフューズ側の弁護士からの証人喚問の連絡がいき、切羽詰まって自殺。エリザベスは、限られた古参社員だけに知らせ追悼式を行うとあったが、式は行われず彼を知る社員は憤慨

 

第13章   シャイアット・デイ

ウォルグリーンとセーフウェイでの血液検査サービスの本格展開を控え、エリザベスが広告戦略担当として選んだ代理店が長年アップルを担当してきたシャイアット・デイ、年間600万ドルの顧問料を払う

ウェブサイトや広告の表現について、裏付けを取ろうとしても明確な回答はなく、サイトの公開の直前になって大袈裟な表現がすべて書き換えられたことから、広告代理店の担当者も本当に技術があるのか疑うが、代理店の担当のトップは、”Think Different”のキャンペーンで一時代を築いてきた天才クリエーターのリー・クロウがアップルに奇跡をもたらしたように、セラノスが自分を伝説の存在にしてくれるかもしれないと信じ込んでいたので、下から上がってくる疑念に対し取り合わなかった

 

第14章   いざ本番

13年夏、ミニラボの開発から2年半たってもまだ検査室内でしか検査をしておらず問題山積

最大の問題は企業文化で、開発環境は最悪

1年前にはウォルグリーンと新たな契約を結び、132月の血液検査開始と引き換えに1億ドルを受け取り、さらに40百万ドルの融資まで受けていた

ミニラボは使える代物ではなかったために古いエジソンを取り出し、世間を騙すことにした

医師からの検査依頼の最も多い生化学アッセイに対応するためにシーメンスの検査装置を、少量の血液検体でも検査できるように改造したうえ、検体の血液量を水増しするために生理食塩水で希釈。製造元も認可当局も承認していない方法で装置を使うことを考え、シーメンスに追加発注し9月の本番に備える

3年前、ある製薬会社と共同で行った研究で、エジソンの測定値のエラー率がとんでもなく高いことが判明、提携が打ち切られたが、それ以降何一つ改善されないままだったため、一般の患者を対象にした本番と聞いて何人かの技術者が辞めていった

 

第15章   ユニコーン

139月、セラノスの血液検査の一般サービス開始に先立ち、エリザベスがウォール・ストリート・ジャーナルに特集記事掲載を仕掛ける。記事の最後には、「(この若き秀才は)次のジョブズかビル・ゲイツだ」とのジョージ・シュルツの言葉が引用されていた。エリザベスが2年前シュルツに会い、11年にはセラノスの取締役に迎え、シュルツがセラノスのことをWSJに紹介していた。WSJで記事を書いた編集委員のジョセフ・ラゴはオバマケアを徹底解剖した手厳しい論説記事でピュリッツァー賞を受賞した記者だが、エリザベスの話を疑うこともなくインタビューして掲載

その直後にはセラノスのサービス開始のプレスレリースが行われる

WSJの記事と新事業のプレスレリースをもとにエリザベスは最低でも60億ドルという企業価値を提示して資金調達に走る

13年秋までには、シリコンバレーに凄まじい勢いで資金が流れ込み、評価額が10億ドルを超えるいくつものユニコーンが誕生。現在39社だが、間もなく100を超えるという。未上場のまま資金調達ができたため、株式上場に伴う厳しい監視の目から免れる。その1つが配車アプリのウーバー(35億ドルの評価額で361百万ドルを調達)であり、音楽配信サービスのスポティファイ(40億ドルで250百万)

クリストファー・ジェームズとブライアン・グロスマンはヘッジファンドの経営者で経験豊富。WSJの記事を基にセラノスに接近。エリザベスから業務の内容や業績予想を聞かされたが、それ以上に圧倒されたのは華麗な取締役の顔ぶれ。軍を退役して迎えられたマティスのほかシュルツやキッシンジャー、元国防長官のウィリアム・ペリー、元上院軍事委員長のサム・ナン、元海軍大将ゲイリー・ラフヘッドなど。みなシュルツと同じフーヴァー研究所のメンバーで、エリザベスが11人株式と引き換えに取締役の席を用意。これをみて、国防総省との契約も大きな収益源になるに違いないと思い込み、@17ドルで565万株余り取得

 

第16章   孫息子

シュルツの孫は、スタンフォード大近くの祖父の家を訪ねた時エリザベスに会い、目指すヴィジョンに感銘を受けインターンを経てセラノスに入社、免疫アッセイ部門に配属されるが、エジソンの内部を見て熱が冷め、検査の精度を測定してさらに疑念を深める

ウォルグリーンの店舗でのサービス開始の市場としてアリゾナを選び、検体を宅配便で本社に送り、シーメンスの改造機で分析しようとしたが、搬送中に温度変化が起こり血液が凝固

エリザベスの30歳の誕生祝をシュルツが開き、孫も呼ばれ、親しくなったこともあって、予てからの疑念をエリザベスにぶつけるが、サニーから悪意に満ちた返事が来て辞職すると言ったら、エリザベスはシュルツに連絡して孫に脅しをかけてきた。シュルツは孫のやったことは間違っていると諭す。シュルツなりに人脈を通じて調べた結果、エリザベスの理想に入れ込んでいるのは明白で、孫にもセラノスのことは忘れて自分の道を行けと勧めた

 

第17章   名声

143月、ボイーズからフューズ親子に対し2年半にわたる訴訟の和解が持ち掛けられる。弁護士の力の差は歴然で、フューズ側の証人として有効だと思われたギボンズの死も大きな痛手であり、負けが現実味を帯びてきたこともあり、相手の弁護士費用まで負担させられた場合を考えると和解受け入れを余儀なくされる。フューズの特許引き揚げの見返りにセラノスは訴訟を取り下げ、和解金はなし。エリザベスの完勝に終わる

ボイーズ事務所から訴訟の話を聞いたフォーチュン誌がセラノスに興味を持ち表紙にしようと取材を始める。豪華な取締役陣に取材すると、とりわけシュルツとマティスがエリザベスをべた褒めしたのを聞いて本物だと確信。14年央フォーチュンの巻頭特集に掲載されると、エリザベスは一躍時の人に。表紙の顔写真の横には印象的な見出しが躍る、「血に飢えたCEO」

セラノスの企業価値が明かされたのはこの記事が初めて。フォーブスが、「血が沸き立つほどの偉業」のタイトルで続き、「アメリカで最も裕福な400人」に選ばれる。USAトゥデイやテレビでも取り上げられ、講演の依頼が殺到、数々の賞も受賞、オバマ大統領からはグローバル起業家大使に任命され、ハーヴァード大医学部の名誉ある理事にも選出

国民的セレブとしてメディアに出ずっぱり、セレブの特権をふんだんに利用

それを演出したのは、シャイアット・デイから最高クリエイティブ責任者にスカウトされた元セラノスの担当者パトリック・オニール

人々がエリザベスの話に惹きつけられた理由の1つは、セラノスの簡単便利な血液検査で病気を早期発見すれば愛する人を早く失わずに済むという、心温まるメッセージで、講演でも個人的な体験を語って人々の感動を誘う。癌で1年半前に叔父が亡くなったのは本当だが、エリザベスとは疎遠だったことは話から抜けていた

社員数が500人を越えたところで、旧フェイスブック本社にあった本社をスタンフォードの物件に引っ越し。たまたまそこはWSJの印刷所のあった土地

ウォルグリーンの40店舗でのウェルネスセンター業務開始に際しては、アカデミー賞監督のエロール・モリスを起用してCMを撮影したが、放映は数週間で中止に。指先穿刺と聞いていたのに、注射針で採血されたとのクレームが出たためだった

 

第18章   ヒポクラテスの誓い

検査室主任アラン・ビームも、規則を無視した経営陣のやり方に抵抗、検査室の品質管理データへもアクセスできず、再三の改善提案も無視され、当局の検査の目を誤魔化すよう指示され、内部告発もやろうとしたが、辞職願と出すと新たな守秘義務契約への署名を求められたので、拒否すると訴えると脅かされる。弁護士に相談すると、セラノスに対抗しても金に糸目をつけず、しかもボイーズが相手では分が悪いので、会社の言うことを聞くよう諭される

14年末の『ニューヨーカー』誌にもエリザベスの人物像が紹介された際、ある病理学者アダム・クラッパーが指先の1滴の血液で数十種類もの検査ができるという謳い文句に疑問を抱き、査読データの代わりに引用されていた医学雑誌をチェックすると、雑誌自体いい加減で、データも1種類だけで患者も6人というお粗末なものだったので、信用できないとブログに書く。それを見たフューズはコンタクトを取るが、書いた以上のことを証明するにはまだ証拠が足りないと言われがっかりしたが、偶々ネットを通じてセラノスを辞めた検査室主任から電話があり、お互い医師として「第一に害を与えるなかれ」とヒポクラテスの誓いを立てた仲だということから話す気になったと言って、セラノスで起こっている不正の数々を説明。それを聞いたフューズはアダムに連絡を取るが、アダムはそれ以上の対応を以前取材を受けたことのあるWSJの調査報道記者に任せることにした

 

第19章   特ダネ

152月、アダムの話を聞いた私は、『ニューヨーカー』誌を読んでいていくつもの疑問を持っていたが、アダムからの連絡で調べ始めると、1年半前のWSJの論説記事が見つかる。自らの蒔いた種がエリザベスをスターダムに押し上げるのに一役買っていたのは気まずい状況だったが、論説と報道はお互い干渉できないよう一線が引かれているので心配はない

アダムの紹介でフューズ父子やギボンズの未亡人に話を聞くが、重要なのはアラン・ビームの話。セラノスの弁護士の脅しを恐れるアダムから、匿名を条件に話を聞くと、不正は規制回避に加えて、エリザベスが社長でCOOのサニーと付き合っていること、それを取締役会に隠していること、さらには患者に危害を及ぼし兼ねないことに驚き、大きな手掛かりに興奮し、裏を取り始める。アランに紹介された元社員の何人かにコンタクト、何れもひどく怯えていて完全な匿名を条件に話し始める

指先穿刺による採決は、毛細血管から絞り出した血液には細胞や組織が混入するため、検査精度は落ちるし、その欠陥を解決する方法はまずありえないことが判明

アランの話からシュルツの孫のことを聞き、連絡を取ると、彼も怯えながら匿名を条件に話し出す。祖父に汚名を雪ぐ時間を与えたいというのが取材に応じた理由

セラノスが間違った検査結果を患者に送り付けていると証明するために、患者に別の検査機関で再検査させた医師を探して証言を取るとともに、自身でもウォルグリーンで血液検査を受ける。静脈採血をされたので指先ではないのかと聞くと、検査の一部に必要だということだった。同時に最寄りの一般の検査機関でも採血してもらい、比べることにした

他にも何人もの患者がセラノスの検査の異常値に錯乱させられ、確認の再検査で高額の負担を強いられたりしていた

調査を始めたことをセラノス側が知って広報の代理をする会社から私に連絡が入ったので、エリザベスとの面談と検査室の見学を依頼したが、スケジュールがとれないとのことで拒否

WSJには”no surprise”の原則があり、記事が出る前に報道の対象者に記事の内容を逐一伝え、すべてに反論する時間と機会を十分に与えることになっている

シリコンバレーに出向いて、いくつもの証言を聴取し、裏付けが取れたので、間もなく記事を書けると確信したが、敵を甘く見ていたことを思い知らされる

 

第20章   待ち伏せ

私がセラノスに送った質問書から、エリザベスは私の情報がシュルツの孫から出たものだとしてシュルツに圧力をかけ、シュルツも孫に新たな守秘義務に署名しろと言ってくる。シュルツ夫人やキッシンジャーは次第にセラノスを疑い始めていたが、シュルツは全くエリザベスの言いなりだった

私の取材申し込みから逃げ回っていたセラノスがようやく取材に応じ、WSJ本社で会う

 

第21章   企業秘密

WSJに来たのはボイーズ以下の弁護士でセラノスからはNo.3のダニエル・ヤングだけ

ダニエルは09年入社の若い生物工学博士、セラノスの血液検査装置に「予測モデリング」を組み込むために採用され、エリザベスのお気に入りとなっていまだに会社に残っている稀有な存在

80項目ほどの質問事項のほとんどに対し、企業秘密を盾に回答を拒否、これでは取材の意味がないとクレームすると、癇癪を起こすことの繰り返しで終わる

セラノスの脅しは、情報提供者の元に次々と襲い掛かり、WSJ宛てにもボイーズから企業情報の全面的引き渡しを求めて脅しがかかる

 

第22章   マッタンツァ

15年央、FDAがセラノス独自の指先穿刺による単純ヘルペスウィルスI型検査を承認、アリゾナ州で医師の指示書がなくても個人で血液検査が出来る法律が成立。何れもセラノスの強い働き掛けによるもの。検査の承認はあくまで単発の承認でセラノスの技術へのお墨付きではないが、エリザベスは社内で大々的に目標達成を祝う

エリザベスは、オバマの精密医療推進計画の立ち上げにも関与しており、私の知り合いのFDAの幹部も、政治家と深く繋がっている企業の摘発は難しいとこぼす

エリザベスはさらに大掛かりなお披露目の準備を進め、バイデン副大統領を検査室見学に招く。偽の完全自動化した検査室を作り上げ、バイデンはセラノスの見せかけのFDAへの協力姿勢を高く評価

数日後、エリザベスがWSJの論説欄に寄稿、ヘルペス検査が承認されたことを鼻高々に強調し、FDAは全ての臨床検査を精査すべきだと論じているのを見て私は吹き出した

私の記事の証人たちに対するセラノス側の攻撃が激化、記事の掲載を早めようとしたが、担当編集者や弁護士によるチェックにはかなりの時間がかかる

マッタンツァとは、シチリア島に古くアから伝わる伝統漁師の儀式で、海に入った漁師が、魚に気付かれなくなるまでじっと待ち、魚が大量に寄ってきたところで一斉に捕獲するもの。私のボスはこの儀式になぞらえて、じっと待てという

 

第23章   危機対応

セラノスは新たに430百万ドルを調達、最大の投資家が125百万ドル投資したルパート・マードック。マードックはWSJの親会社ニューズ・コープの所有者で、14年初めてブレークスルー賞のパーティでエリザベスから話しかけられ、後日投資を勧誘され、近く提携をするという循環器では世界一のクリーブランド・クリニックのCEOに確認しただけで投資を決断

エリザベスは何度かマードックに私の記事は間違いで、セラノスが大きな痛手を受けると訴えたが、マードックは編集部が公正に扱うと信じていると言って取り合わなかった

WSJが主催するテクノロジー・カンファレンスにエリザベスが登壇することになっていたので、その前に記事を出そうとしていたところに、ボイーズが編集長の所に乗り込んで最後の悪あがきを始めるが編集長は応じない

2015.10.15.私の記事は「もてはやされたスタートアップの行き詰まり」という地味なタイトルで一面に掲載、「人々を勝手に実験台に使うのは間違い」と結び旋風を巻き起こす

エリザベスを持ち上げていた各誌が記事を取り上げ、シリコンバレーにも衝撃が走る

ネットスケープのマーク・アンドリーセンは、妻が『ニューヨーク・タイムズ』紙のスタイル欄で「世界を変える5人のビジョナリー起業家」という見出しでエリザベスの特集を組んだばかりで、エリザベス擁護に回る

セラノスはウェブサイトに声明を出し、「根拠のない作り話」と斬り捨て

FDAが抜き打ち検査に入り、セラノスの検査機器を無認可の医療機器だと判断、使用禁止にしたことを知って翌朝第2弾の記事を書くと、大スキャンダルがさらに炎上

エリザベスは、WSJのカンファレンスに登壇し、嘘八百を並べ立てた。直後にセラノスはウェブサイトで長い反論文を掲載したが、記事の信憑性を覆すような記述は一つもなく、WSJは私の記事を全面的に支持するとの声明を出す

カンファレンス後、セラノスは取締役を入れ替え、シュルツ、キッシンジャー、ナンを始め高齢の元政治家を新たに作った名誉職的な「理事会」入りとし、代わりにボイーズを入れ、敵対的な姿勢を示す

その後も私は4本の記事を書き、ウォルグリーン、セーフウェイの撤退、記事掲載直前の新たな資金調達の予定、検査室にまともな責任者がいないことなどを暴露

それでもまだエリザベスは女性誌グラマーの”Woman of the Year”授賞式に臨み、ロバートソン教授も人命のかかる検査を市場に出すには相応の「認証」が必要で信頼できないものを出すはずがないとしてセラノスの検査精度への疑念を切り捨てる

こんな茶番を終わらせることができるのは、規制当局だけで、臨床検査室を取り締まるメディケア・メディケイド・サービスセンターCMSが厳しい処分を下すしかない

 

第24章   裸の女王様

私の記事が出る直前に、検査室勤務だった元社員からCMSの査察官に告発のメールが来る

すぐに抜き打ち検査が行われ、さらに2カ月後にも再検査した結果、重大な欠陥が発見され、「患者の健康と安全を危険に晒している」と指摘

その間にもエリザベスは、ヒラリー・クリントンの大統領選挙戦の資金集めパーティーを開き、政界との深い繋がりを誇示

ようやく手に入れた査察報告書を見ると、セラノスの間違いだらけ、欠陥だらけの悪事が詰まっていた。すぐにWSJの電子版に全文が掲載され、さらにCMSからの通告文も掲載、留目の一撃となる

漸くエリザベスも事態の深刻さを認め、NBCの人気番組《トゥデイ》に出演し、「打ちのめされている」と悔やむように言ったが、自分が命の危険に晒した患者たちに謝るつもりはないようだったセラノスの社員も株主も、ウォルグリーンもみなWSJの記事を見て初めて査察の結果と検査の禁止の可能性を知った

シュルツの孫に会うと、スタンフォードに戻って研究を続けていた。セラノスの弁護士事務所から突き付けられた誓約書に署名をしなかったが、驚いたのは40万ドルもの弁護士費用が掛かったことと、シュルツと絶縁状態になったこと。シュルツは記事掲載後もエリザベスの肩を持ち続けて、95歳の誕生パーティにもエリザベスを呼んでいた。16年夏、アメリカ臨床化学会でエリザベスが独自のテクノロジーの内側を世間にお披露目することになり、そうすれば疑いが晴れるとシュルツは信じていた

エリザベスは、検査室の失敗の責任を認めたが、サニーの首を差し出すことで自分は居座る

セラノスは、CMSからの検査室使用禁止処分を避けるため苦肉の策として、これまで2年間にエジソンで行った数万件の検査結果をすべて無効扱いとした

ウォルグリーンは契約を解除し、ウェルネスセンターをすべて閉鎖。独自に訴訟を起こす

セラノスは、CMSの禁止命令により検査業界から追放され、さらにサンフランシスコの地方検事局が刑事捜査を開始、SECも民事での調査を開始

臨床化学会でのエリザベスの話はミニラボの製品発表会のよう。家庭や病院に設置して本社とサーバーでつなげば検査室はいらないという。実現できる可能性は未知数だが、自信たっぷりに聴衆に話しかけるエリザベスは、稀代の売り込み屋で、現実歪曲空間を作り出し、人々に束の間だが疑惑を忘れさせる力を持っていた

批判的な記事が相次ぎ、ミニラボの使用例として挙げた蚊を媒体とする感染症のジカウィルスの検査がFDAから安全策がとられていないとして却下されると、投資家たちも裁判に訴え始めるが、大半の投資家は追加の株式を受け取って和解。マードックは@1ドルで買い戻させ、巨額の税控除を受ける

ボイーズの事務所は、連邦当局の捜査への対応を巡ってセラノスと対立し顧問を辞め、ボイーズ自身も数カ月後に取締役を退任

エリザベスは、CMSの命令に不服を申し立てようとしたが、観念して検査室を閉鎖、アリゾナ州司法当局とは465万ドルで和解、州はセラノスの検査を受けた76千人余りに検査費用を払い戻す。カリフォルニアとアリゾナで無効とした検査数は100万件に上り、10人が詐欺と医療過誤で訴え、暫定的集団訴訟としてまとめられアリゾナ州の連邦裁判所で争われることになった。原告が被害を証明できるかどうかは未知数

 

エピローグ

記事掲載の数日後、エリザベスは自社検査装置の臨床データを公開して記事が間違っていることを証明すると断言したが、ミニラボについての査読付き論文が専門誌に掲載されたのは2年余り後、それも検体は太い注射針で採血されたものであり、検査種類も一握りしかない

サニーは、16年にエリザベスと別れた後行方不明だったが、ファンドの起こした訴訟の証言録取のため弁護士事務所に現れる

17年央、ファンドとの訴訟を43百万ドルで和解、ウォルグリーンとも25百万ドルで和解

17年末には投資家から集めた9億ドルの大半を訴訟に使い果たし、何度かのリストラで800人の社員は130人弱まで減り、本社も縮小、破産寸前になるが、プライベート・エクイティからすべての特許を担保に1億ドル調達して凌ぐ

18年に入ると、SECがセラノスとエリザベス、サニーを詐欺で提訴。和解のためエリザベスは大量の株式と支配権を手放し、50万ドルの罰金を支払うが、サニーは和解に応じず起訴

刑事捜査も進み、詐欺で起訴されることはほぼ間違いない

1980年代初めに作られた造語「ベイパーウェア」は、前宣伝ばかりで実現しない霞(ベイパー)のようなソフトやハードのことを指すが、シリコンバレーのお家芸でもあり、エリザベスはそんな大風呂敷文化を踏襲したばかりか、あらゆる手段を使ってどこまでも嘘を隠し通そうとした

13年末の取締役会で、エリザベスは自分の保有株1株当たり100票の議決権を与えることを力づくで決め、99.7%の議決権を握ったため、それ以降取締役会はエリザベスの意のままになった

全てを操っていたのはエリザベス。会う人を次々と手玉に取り、自分のいいように動かしていた。最初に彼女の手に落ちたのはチャニング・ロバートソン。彼女にお墨付きを与えたのが高名な工学教授、次にベンチャー・キャピタリストのドン・ルーカスの後ろ盾と人脈のお陰で資金調達ができ、ウォルグリーンやセーフウェイのトップがその次の後ろ盾になり、ジェームズ・マティス、ジョージ・シュルツ、ヘンリー・キッシンジャーが後に続き、トリがボイーズとマードック

良心が欠落した人、良心をほとんど感じない人を「ソシオパス」と呼ぶ。エリザベスがソシオパスかどうかは別として、道徳観がひどく歪んでいるのは間違いない。第2のジョブズになりたいと願うあまり、いつの間にか健全な助言に耳を傾けることをやめ、ずるをし始めてしまった。あまりに野心が強すぎて、どんな邪魔者にも我慢が出来なかった。自分が富と名声を手に入れる過程で誰かが傷つくとしてもそれは仕方のないこと。そう思ってしまったのだ

 

 

 

 

 

集英社 Home Page

「エンロン」以降、最大の企業不正が行われた血液検査ベンチャー「セラノス」事件

ジョージ・シュルツ、ヘンリー・キッシンジャーなど百戦錬磨の大物たちはなぜ若きCEO、エリザベス・ホームズに騙されたのか!?

「ショッキングな結末を迎えるサスペンス。ページをめくる手がとまらない。

セラノス事件の内幕は、信じられないほど、ひどい」ビル・ゲイツ

「指先からとる1滴の血液で、あらゆる病気を調べることができる!」革新的な血液検査の技術を発明したとして、アメリカのメディアから『第二のスティーブ・ジョブス』ともてはやされたエリザベス・ホームズ。だが、彼女が率いたバイオベンチャー「セラノス」の内幕は、過剰な野心、傲慢さ、虚言、パワハラが渦巻いていた。

現代社会の様々な側面が凝縮したシリコンバレー発巨大詐欺事件の全容を、敏腕記者が地道な取材で証言を積み重ねながら、暴いていく。

<著者>

ジョン・キャリールー 『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の調査報道記者として20年勤務後、フリーランス・ジャーナリストとして活動中。ピューリッツアー賞を二度受賞。
<訳者>
関美和 翻訳家。慶應義塾大学卒、杏林大学外国語学部准教授。投資銀行を経てクレイ・フィンレイ投資顧問東京支店長を務める。主な訳書に『ゼロ・トゥ・ワン』『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』『お父さんが教える13歳からの金融入門』『ファクトフルネス』などがある。
櫻井祐子 翻訳家。京都大学経済学部経済学科卒。大手都市銀行在籍中にオックスフォード大学大学院で経営学修士号を取得。訳書に『1兆ドルコーチ』『NETFLIXの最強人事戦略』『CRISPR』『OPTION B 逆境、レジリエンス、そして喜び』などがある。

 

 

産経新聞 書評

『BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル全真相』 全米を震撼させた事件

2021/4/11 14:45

 

 血液を一滴調べるだけで全ての病気が分かる。こんな夢の検査装置を開発したのはエリザベス・ホームズだ。彼女が創業したセラノスは90億ドルの企業価値となり、自力で史上最年少のビリオネアになった。取締役に名を連ねるのは、元国務長官のシュルツ、マティス、キッシンジャーなど大物政治家たち。オバマやバイデンでさえ称賛を惜しまない。ところが彼女の偉業は全てが虚だった。

 この全米を震撼させたセラノス・スキャンダルの全真相を克明に描いた本書は、まるで倒叙ミステリーのように面白い。もちろん、犯人は彼女である。彼女の嘘を誰も徹底追及できないのだ。おいおい、騙されてるぞ、とハラハラのし通しだ。

 トランプ政権で国防長官を務めたマティスでさえ騙され、陸軍へ検査装置を無理やり納入しようとする。彼女に不信感を抱く中佐が、納入阻止を試みる。マティスの怒りを買った中佐の運命やいかに? シュルツの孫であるタイラーはシュルツに彼女の嘘を説明するが、なんと孫より彼女を信じるのだ。彼女は、自分に逆らう者をすぐに首にするばかりではなく、超大物弁護士による徹底した恫喝訴訟(スラップ)を行う。その結果、誰もが恐怖で口を閉ざす。しかし、勇気を振り絞ったタイラーたちがウォールストリート・ジャーナル記者の著者に告発する。

 彼女や大物弁護士たちは記事を阻止するべく激しく恫喝するが、著者も編集長も一歩も引かない。さらに、オーナーであるメディア王、ルパート・マードックは彼女からどんなに懇願されても記事掲載に全く圧力をかけない。セラノスが破綻したら約125億円大損するにもかかわらず、だ。日本だったらどうなのだろうかと思ってしまった。

 彼女は、記事によって全てが暴露されても「女性差別」と居直る始末だ。著者は彼女のことを良心の呵責を覚えない「ソシオパス」だという。私に言わせると究極のジジ殺しである。

 金余りの現在、日本にも彼女のような起業家が多く存在しているのではないだろうか。最先端技術、派手なパフォーマンス、若さなどに幻惑されたい旧体制の老人たちがいつまでも居座っている国だから。(ジョン・キャリールー著、関美和、櫻井祐子訳/集英社・2090円)

 

 

東洋経済 書評(途中まで)

技術革新と詐欺は紙一重 シリコンバレーの病理描く
評者/サイエンスライター 佐藤健太郎

BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相』ジョン・キャリールー 著/関 美和、櫻井祐子

[Profile] John Carreyrou ニューヨーク生まれ、パリ育ち。米デューク大学で学位取得。1999年から20年間、「ウォールストリート・ジャーナル」の調査報道記者として勤務、同僚とともにピュリツァー賞を2度受賞。セラノス社に関する報道でジョージ・ポルク賞など複数の賞を手にした。

世の中には、読む前から面白いこと疑いなしという本がある。本書もその1冊と思いながら手に取ったが、期待を軽々と超えていた。

 

本書が取り上げるのは、スタンフォード大学を中退したばかりのエリザベス・ホームズが19歳で創設したバイオベンチャー・セラノス社のスキャンダルだ。指先を穿刺(せんし)して採った微量の血液から多くの病気を診断できる技術が、中核とされていた。

エリザベスはその異様なほど低い声と、圧倒的なカリスマ性で、次々と信奉者を獲得していく。スタンフォード大の花形教授や、米政府の高官を務めた超大物を何人も取締役に迎え、名だたる投資家の支援を得て、セラノス社は十数年のうちにシリコンバレー最大のユニコーンと称されるようになる。その企業価値は90億ドルと評価され、エリザベスは自力でビリオネアに上り詰めた史上最年少の女性となった。ジョブズを真似た黒いタートルネックに身を包んだ彼女は、多くの雑誌の表紙を飾る時代の寵児となった。

だが華やかに見せかけた外見とは裏腹に、セラノス社の内部は実にお寒いものだった。目論見通りの血液検査はまるで実現せず、アップルから引き抜いたデザイナーにデザインさせた検査機器は、張りぼて同然だった。思うように開発が進まぬ焦りから、ついには被験者の生命を危険にさらしかねない不正行為にまで手を染める。しかし彼女と相棒のサニーは、社員に実情を知られぬよう社内のつながりを分断し、疑いを持った者は次々に追放した。退職者が内情を暴露することのないよう、凄腕(すごうで)弁護士を使って脅迫まがいのことまでしている。

だがこうした虚飾の城にも、ついに崩壊の時がやってくる。執念でセラノス社の欺瞞を暴き出した者こそ、本書の著者だ。エリザベスとの攻防戦の迫力は圧巻というほかない。

若い女性の起こした生物学絡みの捏造事件ということでSTAP細胞事件と比べたくなるが、規模も質も比較にならない。不思議なのは、海千山千の男たちが、手もなくエリザベスのいい加減な言葉を信じ込んでしまったことだ。これは単に個人のカリスマ性などでは片付けられそうにない。そこには、「次のジョブズ」を渇望する、シリコンバレーの「病理」とさえいえる何かがありそうに思う。

 

 

Business Insider

シリコンバレーの「詐欺」と「破壊」の一線——あるスタートアップの栄光と没落から考える

海部 美知/Michi Kaifu ENOTECH Consulting CEO

Sep. 23, 2018, 09:00 AM TECH INSIDER

イーロン・マスクの奇行が続き、彼とテスラ社の評価は下がりつつあるが、それでも「やはり余人を持って代えがたい」という考え方もまだ強い。

そんなシリコンバレーの風潮について、少々考察してみたい。

テスラCEOでもありSpaceXCEOでもあるイーロン・マスク氏。同社が提供する月旅行の最初の乗客にZOZOTOWNを運営する前澤友作氏が選ばれたことも大きな話題に。

先日、『Bad Blood - Secrets and Lies in Silicon Valley Startup(バッド・ブラッド - シリコンバレー・スタートアップの秘密と嘘)』という本を読んだ。9月に完全に消滅したTheranos(セラノス)というベンチャーの栄光と没落のドキュメンタリーである。

同社は、「一滴の血液で、あらゆる血液検査を迅速にできる革新的な技術を開発した」ことをうたって2003年に創業した医療ベンチャーで、2017年までに合計7億ドル(約700億円)を調達、ピーク時で時価総額が100億ドル(1兆円)にまでなったとされている。

結局、このベンチャーの「画期的技術」は実は中身がなく、そのオペレーションはほとんど詐欺と脅迫で成り立っていることがバレてしまい、没落に至る。

ちょっと考えれば「これっておかしいよね」と気づくはずなのに、これだけ多くの人がだまされたのはなぜか?そこがこの「シリコンバレーの風潮」の難しいところなのだ。

医療コストを下げる「世界を救う技術」

セラノスCEOを務めていたエリザベス・ホームズ。一時は革新的な技術を開発したと脚光を浴びたが、それが全くの「嘘」であることが判明し、同社は9月に解散を決定した。

REUTERS/Brendan McDermid

 

 

アメリカでは血液検査は独立の検査ラボで行われ、内容によって異なるが平均で1500ドル(約15万円)もかかる。保険でカバーされることが多いが、保険の内容によっては自己負担になる。検査ラボは大手2社が寡占状態である。

アメリカのGDP17%もが医療費に費やされており、大きな社会問題になっている。医療コストを大幅に下げる技術や仕組みは、「世界を救う」。

当時19歳だった創業者のエリザベス・ホームズは、この理想の実現のための「革新的技術」を考案した。実際にはそれはあくまで「こういうのがあったらいいな」というアイデアに過ぎず、「核」となる確固たる技術があったわけではない。最初は「小さな検査機器を家庭に置き、指から取った血液一滴でその場で検査」から始まり、技術的な壁にぶつかるたびにだんだん後退していった。

自殺者出しても膨張した成功ストーリー

それでも開発を続けるには資金が必要で、資金を集めるためには投資家を説得するなんらかの材料が必要だ。その材料として、架空の「実施事例」を作り上げたり、機器が出す検査結果をごまかしたり、取った少量の血液を薄めたり、最後には単に静脈血をシリンダーにとって市販の機械で検査するという「ごく普通」の検査になったり、といった「嘘」を積み重ねていった。

開発部門には、そもそもありもしない技術を「なんとしてでも作れ」という無理なプレッシャーがかかる。まじめな従業員が社内で異議申し立てをしても幹部は聞く耳をもたず、「訴訟」や「盗聴」などいろいろな脅迫手段を駆使して、情報を外に漏らさないように締め付けた。辞めさせられたり、良心の呵責に苛まれて自発的に辞めたり、自殺者も出るほどで離職率は異常に高かった。

にもかかわらず、会社はどんどん資金を集め、成功ストーリーは膨張していった。その理由はいろいろある。

キッシンジャーやマードックまで

まず、ホームズ自身にカリスマ性や人(投資家、協力者)をひきつける力があることだ。

彼女は、引き込まれるような大きな目の、なかなか見栄えのする女性である。最初は家族のつながりのある人から始まり、どんどん有名人の人脈を広げていき、会社の取締役にはヘンリー・キッシンジャー元国務長官など錚々たる大物が並び、ウォルマートの創業家やメディアの大物ルパート・マードックなどといった大物投資家を集めていった。

そして、「世界を救う」という目的に貢献したい多くの人の善意と、「シリコンバレーで大成功した初の女性創業者」というスターが欲しいという地元やメディアの期待が上昇気流となって彼女を持ち上げた。

疑問は「イノベーションの阻害要因」

セラノスの「事業パートナー」として、血液検査を店頭で提供することになっていた大手ドラッグストア・チェーンのウォールグリーンズは、「世界を救う」という理想と、自分が引けばライバルに権利を取られるという恐怖の両方に絡め取られ、セラノスのやり方はいろいろとおかしかったにもかかわらず、「途中で交渉を打ち切る」という勇気が出なかったという。

こういう勢いがついてしまうと、それに疑問をはさむ人は「悲観論者」「イノベーションを阻害する勢力」として切り捨てられてしまい、止めることがますます難しくなる。

スティーブ・ジョブズの場合、彼がとんでもない理想で大風呂敷を広げ、それに技術があとからついてきて実現するという形で、アップルはイノベーションを推進した。アップルがあまりに大成功したために、「既存の秩序を破壊するほど(ディスラプティブ)のイノベーションは、こうした強引なやり方がある程度なければできない」と信じられ称賛され、場合によってはその理想を実現するために従業員を追い詰める「ブラック企業」であっても仕方ない、という考え方がシリコンバレーでは有力である。

「できるまではごまかせ」

Bad Blood』の中で、この風潮は「Fake it till you make it」(できるまではごまかせ)と表現され、マイクロソフトもアップルも、過去に何度もこういうことを経てきていると指摘されている。

エリザベス・ホームズを支持した人たちも、こうした考え方があったからこそ、多少疑問をもってもそれを振り払った。そして、イーロン・マスクが一方的に切り捨てられることがないのも、同じ理由だ。

シリコンバレー在住でベンチャーとのつきあいが長い、コンサルタントの渡辺千賀さんは、ブログの中で「なぜジョブズは成功しホームズは失敗したのか」について書いている。

「コア技術の著しい進歩という背景があったからこそ、それまで『できそうでできなかったもの』『できたけれどイマイチだったもの』をコンセプトとして押し出し、それを世の広めるエバンジェリストであるジョブズのような人が成功できた。一方、エリザベス・ホームズが目指した『一滴の血液で数百種類の血液検査を可能にする』というゴールは技術的に不可能だった」

進化のスピードも、実際に世に出てユーザーに可否が評価されるスピードも早いIT技術に比べ、研究開発にもユーザーへの影響の評価にも時間のかかる、医療の分野では同じ法則を適用するわけにはいかない、ということもある。

テスラは「世界を救う」技術なのか

では、テスラの「電気自動車」の場合はどうなのか?

人によりいまだにこの点の評価が分かれていることが、イーロン・マスクの評価を難しくしている。マスクは、すでにまとまった数の電気自動車を世に出し、ユーザーからの評価も得ているので、エリザベス・ホームズほどの「無根拠・詐欺師」ではない。ここまでは、よかったのである。

しかし、私は「鋳物とプレスで金型の量産効果がとても大きいガソリン車に比べ、電気自動車の電池とモーターは量産効果がより小さい」と思っているので、彼が「テスラのモデル3を量産すれば、より多くの人の手に、低コストでエコな電気自動車が行き渡る」という「世界を救う」理想は、実現が難しいのではないかと思っている。「そもそも実在しない理想の技術を作れと従業員を追い詰めている」という面では、ホームズと同じ失敗に陥る可能性もあると考えている。

嘘を見破るに「汗をかく」

実際にセラノスの検査機器で間違った検査結果を出されて被害を被った患者もいたが、少数のうちに止めることができたのは不幸中の幸いだった。ホームズの嘘にだまされて大損を被ったのは、億万長者の投資家ばかりで、この程度の損はハエが止まったぐらいのものだ。その意味では、スキャンダルといっても、大した被害は出ていない。

ホームズの嘘を見破っていた人たちもいる。それは、シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)である。

前出の渡辺さんは、さらにこうブログに書いている。

「これだけの大規模増資ならばほぼ必ず含まれているはずのセコイアやアンドリーセン・ホロウィッツなどの大手ファンドが全く投資家リストにない。これは、シリコンバレーのベンチャーとしては異例なことである。」

「シリコバレーを代表する大手ファンドであり、医療系ベンチャーにも数々の投資をしてきたグーグル・ベンチャーズ(GV)の代表は、『何度かセラノスへの投資を検討したが、あまりに不明瞭な点が多かったため投資しなかった』と話している。実際GVの社員がセラノスの検査所に血液検査を受けに行ったら、指先からではなく腕から静脈血をたくさん取っていることが判明し、『宣伝に偽りあり』と判断したとも言っている」

海千山千のシリコンバレーのインサイダーたちは、セラノスを持ち上げる賞賛の嵐の中でも、静かにセラノスを切り捨てていた。

「誰かがほめていたから」ではなく、「自分の目で見て判断する」ことができるかどうかが、こうした嘘を見破れるかどうかの違いとなる。

そして、その判断力を養うには、現場の話を聞いたり現場を見たり、製品を使ってみたり、文献を読み込んだりなどといった「汗をかく」ことが必要である。シリコンバレーでベンチャー投資をしようとする日本企業が最近多いが、「現実歪曲空間」を称賛する空気や、有名人を並べたハッタリにだまされないようにするためには、結局「自分で苦労して経験を積む」ことしかない、と渡辺さんは結論づけている。

 

海部美知:ENOTECH Consulting CEO。経営コンサルタント。日米のIT(情報技術)・通信・新技術に関する調査・戦略提案・提携斡旋などを手がける。シリコンバレー在住。

 

 

 

シリコンバレー最悪のスキャンダルセラノス事件とその教訓

2021.4.27

著者: ANOBAKA たかはしゆうじ@jyouj__ )


シリコンバレーの歴史は称賛とスキャンダルで形作られてきました。

巨大なSNS帝国を築き上げたFacebookのデータ流出問題。Googleの素晴らしきテクノロジーの影につきまとう軍事利用への疑惑。Uberの画期的な交通プラットフォームと創業者の素行不良。スティーブ・ジョブズもイーロン・マスクもピーター・ティールも、スタートアップの英雄たちは畏怖と尊敬だけでなく、世間からの疑念を常に集めていました。

移民も女性も黒人も社会的マイノリティーであろうと、誰もが全てを手に入れることのできるアメリカンドリームの世界は寛容です。富、名声、世界を変えられる権利……。だが、同時にその実現のため、倫理観の欠如が見られる行動も現れます。

ジョブス以来、カリスマ性と虚勢によって不可能なことを実現する「現実歪曲空間」がシリコンバレーでは美化されてきました。実際にそのような魅力と中毒性を持った人物は稀にしか存在しないにもかかわらず。

そんなシリコンバレーで起きた代表的なスキャンダルが2015年の「セラノス事件」です。セラノスの失墜がシリコンバレー、ひいてはテック系スタートアップにもたらした教訓は大きいものでした。

 

#1. セラノス事件虚構の三日天下

セラノス事件の詳しい内幕はBAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相に描かれているので、ここでは事件の概要について簡潔にまとめます。

画期的だったバイオベンチャー

エリザベス・ホームズがセラノスを立ち上げたのは2003年のことでした。当時、彼女は19歳でスタンフォード大学を中退したばかりでした。

セラノスは血液一滴であらゆる病気を発見できる血液検査スタートアップです。200以上の病気がわかるとされていました。セラノスはa world in which no one would have to say goodbye to a loved one too soon.(誰も愛する人に早過ぎる別れを言わなくていい世界)というホームズのビジョンのもと拡大していきました。

セラノスの取締役には、ニクソン政権期の国務長官ヘンリー・キッシンジャー、レーガン政権期の国務長官ジョージ・シュルツ、クリントン政権期の国防長官ウィリアム・ペリーなど、アメリカ政界の大物たちが揃っていました。みな、ホームズのカリスマ性に心酔していました。

セラノスの開発した検査器はホームズのドラスティックなプレゼンによって、大企業や投資家を引き寄せました。指先の少量の血を採取して、分析器を用いると、200以上の病気の検査結果がすぐに判明する技術を開発したと宣言していました。

このふれこみで、アメリカのドラッグストアチェーン大手の「ウォルグリーン」から資金を得たセラノスはウォルグリーンの店舗で検査事業を開始しました。最盛期には企業価値1兆円を超す評価をされていました。

ホームズはスティーブ・ジョブスの再来と持て囃され、『Forbes』などの雑誌で特集を組まれていました。約40億ドルにも上る資産を築き上げ、アメリカ社会で最も成功した女性起業家となったのです。

暴走したカリスマ女王

しかし、セラノスの全ては虚構でした。実際にそのような技術を開発できたわけではありません。少量の血液で200以上の病気の検査を行うことはできません。それぞれに必要な血液量は違うのです。そのため、一部の検査をシーメンス製の分析器を使って検査していました。しかし、それでも不正確な検査結果を出しています。なんと病気があるのに正常だと結果を出すこともあったようです。患者の命を危険に晒していたのです。

セラノスの武器は技術力でなくペテン師の才能、セラノスの顧客は患者ではなく金を出してくれる投資家だったのです。

しかし、セラノスはホームズの絶対王政によって情報を管理していました。それぞれの部署にアップルを彷彿とさせる秘密主義を徹底させ、退職していった社員には秘密保持契約を結ばせ、口を封じていました。

投資家たちに対しても秘密主義を貫いていました。それでも、シリコンバレーのVCはホームズとセラノスの耳障りの良いストーリーに酔いしれ、称賛を送りました。しかし、実はシリコンバレーの名門VCの多くはセラノスを称賛こそするが、投資の実行はしていません。Google VenturesのようにDDを行い、セラノスに共鳴しなかったVCも多々あります。セラノスの資金は提携企業、投資信託、小規模のVCから供給されていたのです。

さて、ホームズ独裁を支えたのは彼女のパートナーでもあったラメッシュ・サニー・バルワニでした。彼は2009年にCOOとして就任し、ホームズの専制が行えるような空気、風潮を作り出していきました。

ホームズとサニーが作り出したセラノス帝国は時代の寵児として繁栄し、称賛のメッキは剥がれないかのように思われました。

崩れた玉座

しかし、2015年に事態は急変します。セラノスの嘘をウォール・ストリート・ジャーナル(以下「WSJ)の記者ジョン・キャリールーが見抜きました。彼はセラノスの技術に懐疑心を持ち、セラノスを退職した元社員に接触していきました。

そして、しっかりと証言や裏取りをした上で、WSJHot Startup Theranos Has Struggled With Its Blood-Test Technologyという記事を出しました。この記事を境にセラノスは崩壊していきます。

セラノス側の多くの妨害工作にもかかわらず、WSJに続いて他のメディアも記事を出していきました。ホームズの純資産は0とされてしまいます。2016年にセラノスは臨床検査の免許を剥奪され、社員の解雇やラボの閉鎖もあり、2018年に解散しました。

同時期にホームズとサニーは起訴されました。裁判は2020年夏に開かれ、有罪になった場合は懲役20年に処されるとされています。

煌びやかな創業者、夢を魅せるプレゼン、称賛する投資家とメディア、政界の大物に支えられた取締役会……。これら全てが一瞬にして崩れ去ったのです。嘘で塗り固められた伏魔殿の中身は驚くほど空っぽでした。

#2. 教訓と爪痕ペテン師の罪と罰

セラノスの事件から私たちは多くのことを学ばなければいけません。そうでなければ、テクノロジーに対する不信を人々から払拭することはできないからです。

行きすぎた秘密主義

セラノスの不気味さは単に行きすぎた秘密主義によるものです。ホームズはAppleを作ることを目指して、代表的な文化である秘密主義を取り入れました。外部からセラノスの技術がどうなっているのか秘匿され、辞めた社員にも口止めすることで数年にも渡って、誰も実態を把握できていなかったのです。セラノスについて得られる情報はホームズの口からだけです。

それでもセラノスに対して、投資家や大企業が投資をし、メディアが称賛を送ったのはそれを良しとするシリコンバレーの文化があったからなのです。誰もが彼女ホームズをスティーブ・ジョブズに重ね、そのカリスマ性を信奉していました。

もちろん秘密主義自体は悪いことではありません。実際、テクノロジーやリーガル面に関して外部に公開したくないものはスタートアップなら多かれ少なかれあるでしょう。その結果、Appleのような時代を変える企業を輩出することができます。

しかし、それが嘘を隠すものであってはいけないのです。この文化はホームズのような人間が脚光を浴びるように演出するのにあまりにも適していました。ビジネスにおいて、性善説は成り立たないということでしょうか。

実際、セラノス以降もアメリカではデタラメな技術をあたかもできたように詐称しているスタートアップがいくつも出ています。テスラのライバルとされているEVスタートアップ「Nikola Mortor」もその一つです。同社は2020年にGMとの提携を発表した後、投資家に技術の虚偽性を指摘されました。ただし、この事件はまだ疑惑の段階なので、現在、証券取引委員会と司法省が調査を開始しています。

私たちは創業者のカリスマ性とその口から出る美辞麗句についつい騙されそうになってしまいます。彼ら彼女らの語る世界は楽園のように錯覚してしまうからです。しかし、投資家こそカリスマ性に惑わされず真贋を見抜かなければなりません。

眠りの小五郎の活躍に胸を躍らせるのではなく、裏側で事件を解決している江戸川コナンの存在にまで気づくことができるのかどうかが試されているのです。

株主は顧客ではない

セラノスの顧客は決して患者ではありませんでした。医療の分野で革新をもたらすバイオスタートアップであるにもかかわらず。むしろ、虚偽の検査結果によって、患者を危険に晒していました。

ホームズが見ていたのは投資家です。ホームズ持ち前のスピーチ力と演出力で、セラノスはシリコンバレーのマネーゲームにおいて勝利を手に入れたのです。これは資金調達至上主義の文化によるものかもしれません。

Forbes』や『Techcrunch』で大規模調達が大々的に報じられて、ユニコーンの誕生に拍手喝采な世界がよりホームズの視線を狂わせてしまったのでしょうか。

そのスタートアップが本当に実現したいものは何なのか?いつの間にか目線が投資家に向いていないか?お金集めが目的になっていないか?

資金を獲得するのは手段でしかありません。それを目的にして目の前のターゲットを見誤ったら、セラノスのように虚偽で固められたブラックボックスになってしまいます。

真摯にコツコツ泥臭く検証して、プロダクトを磨くこと。軸をぶれさせないで突き抜けること。当たり前かもしれませんが、セラノスの件からこれらの重要性が改めて分かります。

メディアと投資家の罪

一番悪いのはもちろんセラノスですが、メディアと投資家に関しても責任の一端はあります。

WSJの報道が出るまで、ホームズの言い分を疑いもせず、セラノスを手放しで褒め続けたメディア。成功者としてのホームズの虚像を作り出してしまったことについては反省しなくてはいけません。あるいは、凄腕のジャーナリストが盲目になるほどホームズの魅力は本物だったのでしょうか。

投資家に関しても似たようなことが言えます。このビッグウェーブに乗り遅れてはいけないと皆が同じ会社に投資するという事例がシリコンバレーにはいくつかあります。あの人が投資してくれているならきっと成功するだろうと。誰もが彼女について評価しているのだから、間違い無いだろうと。結果的に巨額の損失を出してしまいました。

もちろんセラノス側が全てを開示しているわけではないので、メディアも投資家も騙されてしまうのは仕方ないかもしれません。彼らも被害者です。

しかし、きちんと皆が一列に並び、称賛を送るのは不可思議なことです。健全な批判や疑問こそが企業を成長させるのではないでしょうか。

シリコンバレーは多くのスキャンダルを経験しました。倫理観のおかしなニュースが幾度も駆け巡ったのも事実です。しかし、同時にそれを教訓として発展してきたのもまた事実です。また、シリコンバレーは今や医療や自動運転車など人の命を左右する領域にまで拡大しています。以前までの倫理観では世間は納得してくれないでしょう。

この事件はいまだ記憶に新しい出来事です。スタートアップとそれを取り巻くエコシステムにとって、セラノス事件から学べるところは学び、成長の一つの要因としたいものです。

 

 

Wikipedia

セラノス(: Theranos)は、血液検査を手がけていたアメリカ合衆国カリフォルニア州の企業。20189月に解散を決定した。

概要[編集]

スタンフォード大学の化学工学科の2年生だったエリザベス・ホームズは、2003年に大学を中退、「少量の血液で200種類以上の血液検査を迅速かつ安価に出来る」というふれ込みで、医療ベンチャー企業Theranos』を創業した。

20146月に約35千万ドル(380億円)を調達したことでTheranosの時価総額は約800億ドル(9000億円)になったとされ、株式の過半を所有するホームズは「自力でビリオネアになった最年少の女性」として話題になった。オラクルラリー・エリソンも投資しており、社外取締役にはジョージ・シュルツ国務長官を始め、ウィリアム・ペリー国防長官ヘンリー・キッシンジャー国務長官等、錚々たる面々が揃っていた。Appleの影響を多分に受けた同社は徹底した秘密主義で、全ての決済権はホームズが握っていた。

事業内容は、被験者の指先から採取した少量の血液を診断センターに輸送し、「エジソン」という自社開発の診断器を使って迅速に検査結果を出すというもので、1滴の血液で30種類の検査項目を実施できるという。大手ドラッグストア・チェーンであるウォルグリーンの、全米数十カ所の店舗に血液採取センターを設置していた。

しかし、2015年にウォール・ストリート・ジャーナルが、Theranosによる血液検査の信憑性に疑問を投げかける記事を掲載してから、投資家の評価は下がり、さらにTheranosの年商が1億ドル(110億円)に達していないことが、フォーブスの調査で明らかになった。

2016年夏に、医療保険当局によって臨床検査の免許を取り消され、2016105日、3カ所の検査施設を閉鎖すると共に、従業員のおよそ40%に当たる340人を解雇すると発表した。

2017年、2年間にわたる臨床検査ラボの運営停止を受け入れて、連邦機関のメディケア&メディケイド・サービスセンター(CMS)と和解。今後は自社で検査ラボを運営するのではなく、小型検査機器「ミニラボ」を医師や病院に売るとしている。

20184月、従業員125人の内、新たに100人を解雇。

20186月、連邦検察は、創業者で最高経営責任者だったエリザベス・ホームズと、元ナンバー2でホームズと恋人関係にあった最高執行責任者のサニー・バルワニを、詐欺罪で起訴。

20189月、株主に対して会社の解散をメールで通知。残った資金は同日から数ヵ月以内に債権者に対して返済される予定。

主な株主[編集]

20185月に開示された資料によると、Theranosが集めた投資総額は68630万ドル。この投資で100万ドル以上を失った人物は、最低でも10名に上るとしている。

名称

出資額

出資時期

ウォルトン家

15000万ドル

2014

ルパート・マードック

12500万ドル

不明

ベッツィ・デヴォス

1億ドル

2013 - 2015

コックス家

1億ドル

不明

カルロス・スリム

3000万ドル

不明

オッペンハイマー家

2000万ドル

不明

ライリー・ベクトル

600万ドル

不明

 

 

エリザベス・ホームズ(Elizabeth Holmes)は、アメリカ合衆国の著名詐欺師

経歴[編集]

2003年、スタンフォード大学の化学工学科の2年生の時に大学を中退して少量の血液で200種類以上の血液検査を迅速かつ安価に出来る医療ベンチャー企業Theranosを創業した。 20146月に380億円を調達してTheranosの時価総額は9000億円になったとされ、株式の過半を所有する創業者のホームズは、「自力でビリオネアになった最年少の女性」として話題になった。

スティーブ・ジョブズを意識してか、常に黒のタートルネックのセーターを着用している。このためセラノス社の室内温度は、18度前後に設定されていた。

セラノス社は、画期的な血液検査技術の開発で投資家から資金を得ていたが、アメリカ食品医薬品局などの調査により、自社の技術を使用した検査は一部にすぎず、大半を他社の検査機器などで行っていたことが指摘されるようになった。20183月、証券取引委員会と詐欺罪に関する訴訟で和解。ホームズはセラノスの支配権を放棄した上で株式の大半を返還し50万ドルの罰金を支払ったほか、ホームズが保有するセラノス株1,900万株の放棄、今後10年の間、上場企業の役員や取締役への就任を禁じる内容となっている。

 

 

         

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