政治家の見極め方  御厨貴  2016.4.11.

2016.4.11. 政治家の見極め方

著者 御厨貴(みくりやたかし) 1951年東京都生まれ。東大名誉教授。放送大学教授。青学大特別招聘教授。専門は近代日本政治史、オーラルヒストリー

発行日           2016.3.10. 第1刷発行
発行所           NHK出版新書

オーラルヒストリーから「時事放談」の司会まで、さまざまな形の政治家ウォッチングから見えてくる彼らの素顔と本音とは?
政治家の器とは何かといった本質的な問いから、彼らの不可解な振る舞いの解釈まで、一番知りたいことに明快に答えます!
18歳選挙権や2016年参院選など喫緊のテーマも織り込み、政治としっかり向き合う術を説く新感覚の入門書

序章 ゲーム感覚で政治を楽しむ
甘利明・経済再生担当大臣が、現金授受疑惑を受けて辞任したのを機に、あらためて政治家の質が問われている
21世紀に入って、政治の様相が大きく変わっている  キーワードは以下の3
   ゲーム  旧世代には予想もつかない動き。ゲーム感覚でビッグデータを読み解いたり、ネットを使って票集めをしたりする
   コストパフォーマンス  企業の説明責任が確立し、損得勘定が浸透
   等身大  政治家が「あちら側」の人ではなくなってきた
55年体制のもと、自民党が営々として築いてきた政治インフラとキャリアパスが戦後の政治家を作り育ててきたが、90年代に入ってから情勢が様変わりして、次の総理候補も見えなくなってきた  背景にあるのが小選挙区制や派閥の解体現象などによる政治のインフラ劣化

I 安倍政権のカラクリ
第1章        なぜ政治家の人材は底をついたのか
1.   官邸  安倍政権の最大の特徴が「官邸主導」であり、「官高党低」となって政党が機能不全状態。スピード感はあるが、必ず死角が存在
2.   官僚  小泉政権とそれに続く自民党の猫の目総理の出現、さらには民主党政権によって目の敵にされた官僚は、本来の仕事ができなくなって飢餓状態からさらには自信喪失に陥ったが、安倍政権によって漸く仕事がやりやすくなったものの、経産省優遇、財務省冷遇の「傾き」の代償は小さくない
3.   政党  官邸主導の政策に党内からは一切異論が出ないだけでなく、総裁の対抗馬も後継者も出ない現体制の構造は、一見盤石に見えて実は脆弱そのもの
4.   派閥  自民党がこれだけ弱体化した背景にあるのが派閥の解消
5.   小選挙区制  派閥の弱体化を招いたのは、戦後最大の贈収賄事件と言われるリクルート事件(1988)をきっかけに浮上した政治改革、中でも96年の小選挙区比例代表並立制の導入。派閥が勢力拡大を図った中選挙区制が政官財癒着の温床として排斥され、代わって組織力と資金力のある政党ほど有利なので2大政党制につながると期待されて登場したのが小選挙区制。欧米では当選するために鎬を削る過程で政治家が育って行ったが、日本では政党全体が前面に出るため派閥とは無関係に党の公認を取りさえすればあとはレールに乗っていれば済む。巨額の政党交付金も求心力を弱める効果となる
6.   公共事業  公共事業に関わっているかどうかが政治家の大きなファクターになっていたが、低成長時代になって公共事業を通じた地元とのつながりがなくなり、政治家としてのリアリティを失う

第2章        なぜ安倍政権の支持率は落ちないのか
1.   総理  小選挙区では党公認を得ることが決定的に重要となり、総理大臣の権限が拡大し、公認権や人事権などが個人に集中し、「総理の大統領化」が進む。大統領化を目指したのは中曽根、橋本、小泉、安倍
中曽根は後藤田に阻まれる。橋本は、周囲から権力を押さえられ反発したが、党内抗争に敗れる。小泉は大衆を味方につけてカリスマを演じ、辞任後は元老にも残らず
大統領化は世界的な現象。権力者の個人的なネットワークに支えられてリーダーシップを発揮する時代に
2.   解散  05年の郵政解散を境に、総理の持つ解散権の意味が変わる。行使しないことに意味があった時代から、総理の都合で勝手に大義もなしに行使される時代になった。14年のアベノミクス解散が好例
3.   支持率  政権支持率と政権が進める個々の政策への評価にずれが生じてきている。安倍政権の「北風政治」は、政治的経験の浅さは否めず、政治という言葉の意味を小さくしてしまった
4.   保守  保守とは「守るべき何か」を持ち、それを大事に守ろうという思想であり態度。その意味で安倍は保守ではない。昔の自民党は保守の右から左までを幅広く取り込んできた「包括政党」で、さまざまな理念と立ち位置にある各派閥の領袖が順繰りに政権を担う疑似政権交代を繰り返すことができたが、現在の自民党は異論・反論が全くでないどころか、安倍は理念優先のイデオロギー政党に変えようとしているし、憲法を頂点とした基本的枠組みを打破・改変しようとしている。先が見えない状態

II かつて政治家は異人だった
第3章        なぜ昔の政治家はキャラが立っていたのか
1.   吉田茂  外交官時代から、国家のことを考えず私利私欲に走る政党政治家を全く信用していなかったが、彼の悲劇はその政党を自らが率いなければならなかったこと。メディアに背を向けた結果、国民に向けて語る言葉と振る舞いを遂に会得しなかった。GHQが間接統治した戦後の大混乱期にあって、GHQに対して物申す態度をもって、下を従えるというアナログ独裁者、反議会主義、反民主主義でなければ当時の政治は動かせなかった。反時代的な宰相を演じることで時代を大きく動かしたのは、政治の大いなる皮肉
2.   鳩山一郎  公職追放され、パージ解除直前に脳卒中で倒れた鳩山には世間の判官びいきがメディアを動かし、政権交代までもっていったのは、映像によって誇張された虚像を国民が見ることによって生じたダイナミズム
重光葵も一時吉田、鳩山の争いに加わったが、メディアに威圧的態度で接したため鳩山人気の中で消えた。代わって登場したのが岸信介。A級戦犯容疑者でありながら無罪となり、わずか8年後に石橋の病気辞任の後を受けてタナボタ式で首相に就任するが、ダークのイメージは強く「極悪人」のイメージが形作られる
3.   池田隼人  池田以前は国家の経綸を語れるのが宰相の器とされていたが、池田は全く語れなかった。池田個人というお粗末な素材を周りすべてが支えようとしたところに特色。初の派閥「宏池会」誕生。初の戦後は首相として、国民所得倍増計画を唱道し国民の圧倒的支持を得て安定政権の道を歩む。総理や政治家に求められる資質が一変。強烈な個性が政治を左右する時代から、優秀なブレーンを引き寄せる資質が問われる時代に
4.   佐藤栄作  岸が弟に、戦前の価値観に戻すことを期待したが、むしろ霧を払うように戦前的なものを切り落としていく。秘密主義者。78か月の長期政権中に自己学習してメディア戦術を体得したと思われたが、退陣会見でメディアを追い出して直接テレビカメラの前で国民に話しかけようとしたが、カメラが映し出したのはメディアを怒鳴って追い出す形相で、本人が意図しない本質を映し出してしまうという映像の本当の怖さを知らなかった
5.   田中角栄  最初にメディアを意識。拝金主義の「土建屋」から抜け出せない田中に代わって「陰のグループ」が壮大な国土ヴィジョンをぶち上げる。本人は社会の大衆化とともに政治は庶民の心に届かなければやっていけないことを本能的に理解し、72年の総選挙では「列島改造論」を掲げ、庶民をつかむ言葉で語りかけるとともに、政治に速度の感覚を取り入れ国民の支持を得ていく

第4章        なぜスポーツ紙の1面に政治家が登場するのか
6.   中曽根康弘  メディアを意識したパーフォーマンスを全身で繰り広げる。科技庁長官時代の原子力開発や「総理公選論」をぶち上げ、55年以来読売のナベツネと刎頸の友となる。浅利慶太がメディア戦略に加担。田中他と違うのは、演出が裏目に出たときに一切言い訳をしなかったこと。弁明した人はすぐ揚げ足を取られて泥沼にはまる。ロッキード事件の「ハチの一刺し」を境に政治上の事件や出来事が芸能ショー化していくが、中曽根の後は鳴かず飛ばずで、93年には野党に転落
田中が竹下を徹底的に嫌ったのは、政治の夢とロマンを矮小化してしまったところで、2人は決定的に離反
橋本と小渕以外は総理の器ではなかったため、メディアのほうから政治家に仕掛けるようになって、政治のショー化が進む
テレビ司会者に追い詰められて「政治改革法案を何としても成立させたい」と口走ってしまったために選挙で負け、政界再編の引き金を引いてしまった宮澤は、メディアに敗れた最初の総理であり、以後メディアは政治をリードする
7.   小泉純一郎  90年代のメディの変化を読み取って自らの戦略に全面的に取り入れて表舞台に登場。国会議員の支持者の少なさをメディを味方につけることによって克服。小選挙区制の導入とともに政党交付金が出たために、派閥よりも総裁が強くなり、総裁と幹事長が一体となって派閥を超えた中央集権体制を確立。世論調査が行われる時期に新しい政策をぶつけると、メディアは必ずその政策の是非を問うようになるため、政策内容と政権支持率には乖離が生じ、首相と自民党の支持率の間にも強い相関関係が見られれなくなる。テレビ向けにワンフレーズ・ポリティックスを開発、政治ドラマの主人公として振る舞い人気を博する。小泉の討論術は2者択一を迫る喧嘩術であり、天才的にうまかった

III 新旧政治家の生態拝見
第5章        なぜ政治家は上座と下座にこだわるのか
政治の世界では、最初に応援演説をしてくれた人が一番の恩人
空間的な位置取りに上下関係が現れる
上下関係を守る自民党の政治家は先を譲り合う作法を身に着けていたが、若い政治家にはその作法がなく、派閥の解消とともに仕込んでもらう場もない

第6章        なぜ政治家はケータイにすぐ出たがるのか
新しく台頭しつつある現在の政治家の生態
テレビ放映の影響で、政治家にとっての本当の戦場は裏側にあり、国会は最後の与野党間の儀式、公開パフォーマンス・ショーになっている
政治家という職業に対する捉え方が大きく変わっている  議員を一時的な職場と考える人が増加
携帯の普及が政治家に与えた影響は計り知れない  肉体や肉声を使った身体的コミュニケーションが激減、ということは政治家が群れなくなったということ
外部とのコミュニケーションを欠かさないよう、条件反射のように必ず携帯には出る
あまりにも今の安倍政治が人材面で行き詰まっているから、小泉進次郎のような若手人材に期待せざるを得ない。安倍に後継者が登場しない状況は異常であり、育成機能というか、政治家自体が生存してくホメオスタシスが失われている
これからの政治を担う人材は、従来型のスタイルではなく、いままでの構造や機能を変えていくような試みから生まれてくるはず

IV 等身大政治家の可能性
第7章        なぜ2016年参院選で政治の潮目が変わるのか
若手の人材育成を考えるならば、小選挙区制への手入れが必要  あまりにも目まぐるしく変わりすぎると新人が育たない
次の参院選では、これまでやりたいことをやって実現させてきただけに、守勢に立たされるのは避けられない  国の政策をきちんと国民に届けることができるのか、安保法制を進めるにしてもどれだけ説得的に展開できるのかが問われる

第8章        なぜ芸人は小泉純一郎が好きなのか
テレビの世界での政治家と芸能人の共生はこれからも進む
橋下徹の出現で、政治の見方が180度変わった  メディアが取り上げ、世間の耳目を集める
ネット世界の一部を牛耳る堀江貴文もその可能性を秘めている
実業界や起業を志す若い世代にも、政治家が1つの職業として視野に入ってくる時代になり、政治を「使えるリソース」として利用し、異業種を繋いでいくようになる
新しい時代に即した政治家の見極め方とは、新しい政治の可能性をどこに見出すべきかと同義語で、等身大政治家の可能性は、今ある社会的な分断を繋いで閉塞した政治状況を打開することにあり、そのためには①相互交流ができること、②これまで政治と関わりのなかった分野の人間と政治の世界を繋ぐこと、③地域と政治を繋ぐことで政治参加へのハードルを下げる





『政治家の見極め方』御厨貴著
2016.3.27. 日本経済新聞

フォームの終わり
『政治家の見極め方』御厨貴著 著名な政治史研究者による抱腹絶倒の政治漫談だが、不真面目な本ではない。司会を務めるテレビ番組などで出会った大物国会議員らの言動から読み取れる政治の一断面を活写した。真理は細部に宿るという。「中曽根さんは人前で演説するとカゼが治った」など政治家とは何かを知るのに役立つエピソードが満載だ。(NHK出版新書・820円)


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