資本主義の終焉と歴史の危機 水野和夫 2014.10.22.
2014.10.22. 資本主義の終焉と歴史の危機
著者 水野和夫 Wikipedia参照
発行日 2014.3.19. 第1刷発行 8.12. 第10刷発行
発行所 集英社(集英社新書)
資本主義の最終局面にいち早く立つ日本。世界史上、極めて稀な長期に亘るゼロ金利が示すものは、資本を投資しても利潤の出ない資本主義の「死」だ。他の先進国でも日本化は進み、近代を支えてきた資本主義というシステムが音を立てて崩れようとしている
16世紀以来、世界を規定してきた資本主義というシステムがついに終焉に向かい、混沌をきわめていく「歴史の危機」。世界経済だけでなく、国民国家をも解体させる大転換期に我々は立っている。500年ぶりのこの大転換期に日本がなすべきことは? 異常な利子率の低下という「負の条件」をプラスに転換し、新たなシステムを構築するための画期的な書!
はじめに
地球上のどこにもフロンティアが残されていない今、資本主義の死期が近づいている
資本主義は「中心」と「周辺」から構成され、「周辺=フロンティア」を広げることによって「中心」が利潤率を高め、資本の自己増殖を推進していくシステム
アフリカのグローバリゼーションの進行で、地理的なフロンティアは残っていない
「電子・金融空間」でも、株式の高速取引化のためのシステム投資競争が昂進し、一億分の一秒単位で投資しなければ利潤を上げることができない
政策金利は概ねゼロとなり、資本の自己増殖も不可能に
もっと重要なことは、中間層が資本主義を支持する理由が無くなってきている ⇒ 自分を貧困層に落とすかもしれない資本主義を維持するインセンティブが生じない
資本主義が遠くない将来終わりを迎えるのは必然的な出来事
第1章
資本主義の延命策でかえって苦しむアメリカ
いまだにどの国も経済成長を追い求め、企業は利潤を追求し続けているが、「成長教」にしがみつき続けることが却って多勢を不幸にし、近代国家の基盤を危うくする
利潤をあげる空間がないところで無理矢理利潤を追求すれば、そのしわ寄せは格差や貧困となって弱者を襲う ⇒ 中間層が没落して弱者に転落
中世封建システムから近代資本主義システムへの転換と同じように、経済システムの大きな転換が迫られている
資本主義への転換期は1450~1640年 ⇒ 「長い16世紀」
13世紀に利子率がローマ教会によって公認され、資本家が誕生して以来の大転換の時期
1997年日本が先鞭をつけた利子率の異常な低下 ⇒ 17世紀初頭、ジェノヴァで金利が2%を下回る時代が11年続いて以来
金利≒資本の利潤率 ⇒ 異常な低金利ということは、資本主義が機能していないこと。投資が隅々まで行きわたって、利潤を得られる新たな投資先がない状況
16世紀のイタリアは山の頂上までワインのためのブドウ畑になっていた
資本主義の終りの始まりは1974年 ⇒ 日英の国債利回りがピーク(アメリカは81年)
2度のオイル・ショックと75年のヴェトナム戦争終結により、「もっと先へ」と「エネルギーコストの不変性」という近代資本主義の大前提が成立しなくなった
「もっと先へ」 ⇒ 空間の拡大こそ、近代資本主義の必須条件
交易条件=輸出物価指数/輸入物価指数 ⇒ 資源を安く入手し、効率的に生産した工業製品を高い値段で輸出すれば、高い利潤を得ることができる
原油を中心とする資源価格の高騰によって、先進国の交易条件が急激に悪化、利潤率の趨勢的な下落が始まる
アメリカは、近代システムに代わる新たなシステムを構築するのではなく、別の「電子・金融」という空間を生み出すことで資本主義の延命を図ることに成功 ⇒ ITと金融自由化によって新たな収益機会を創設。1971年のニクソン・ショックにより、ドル・金のリンクを外し、同時にインテルがCPUを開発したことが金融革命に繋がる。金融業の全産業利益に占めるシェアが85年以降急増、02年には30.9%に
アメリカの金融帝国化を後押ししたのが、新自由主義という考え方 ⇒ 政府よりも市場の方が正しい資本配分が出来るという市場原理主義で、80年代のレーガノミックスに始まるが、結果は中間層を豊かにすることはなく、格差拡大が進行
91年のソビエト崩壊により、東側諸国が資本主義の世界市場に取り込まれ、新たなマーケットが一気に広がり、国際資本の移動の自由が確保されると世界のマネーが一気にアメリカに吸収され、さらに商業銀行の投資銀行化を進めて実体経済以上に信用創造を進め、資産価格の値上がりによって利潤を極大化する方向にすすむ
「長い16世紀」においても、「陸の国」スペインから「海の国」オランダ、次いでイギリスへと覇権が移っていて、現代と同じ「空間革命」が起こっていた ⇒ 新たな空間を創造することで、ルールや価値観までも変えてしまった
グローバリゼーションとは、「中心」と「周辺」からなる帝国システム(政治的側面)と資本主義システム(経済的側面)にあって、「中心」と「周辺」を結びつけるイデオロギーに他ならない
資本のための資本主義は、民主主義にとって不可欠の、価値観を同じくする中間層の存在すら破壊。さらには、民主主義を機能させるには情報の公開性が大原則となるが、しばしば情報が特定の人に独占されている
バーナンキFRB議長による量的緩和策も、富裕層のみを豊かにするバブルを醸成するもの
量的緩和によってベース・マネーを増やせば増やすほど、物価ではなく資産価格の上昇をもたらすだけ ⇒ 景気浮揚効果は閉鎖経済を前提とした国民国家経済圏の中でのものであり、グローバリゼーションが進んだ現在、直接的な効果には疑問
アメリカの金融帝国は、世界中から資金を集めてはバブルを起こして、莫大な収益を上げてきたが、バブルが崩壊するたびにさらなる「成長信仰」が強化され、信用収縮を回復させるために再び「成長」を目指して金融緩和や財政出動が総動員され、それが原因となってまた新たなバブルが引き起こされる
第2章
新興国の近代化がもたらすパラドックス
新興国の成長・発展も、ロールモデルが輸出主導にある限り、すぐに限界が見えてくる
現在の課題は、先進国の過剰マネーと新興国の過剰設備の解消 ⇒ 2つの過剰の是正が信用収縮と失業を生み出すところに課題解決の困難さがあり、時間をかけるしかない
「長い16世紀」では、穀物の価格が急騰 ⇒ 先進地域であるイタリアなどの地中海地域と、新興地域である英仏蘭独、そして後進地域の東欧諸国の3つの経済圏が統合され、人口の増加が始まったのを契機として、供給に制約のある食糧需要が非連続的に高まった結果。1545年ボリビアでのポトシ銀山の発見により、新世界の金銀が大量にヨーロッパに流入し、貨幣価値が下落、消費者物価を引き上げた。この「価格革命」は「歴史の危機」であり、新たな資本主義・主権国家システムへの移行によって吸収されていく
「価格革命」の起きる前のイギリスの消費者物価が、1316~1477年に平均年0.6%下落、ピーク時の38%にまで落ち込んでいたことに注目 ⇒ 長期のデフレ期は「封建制の危機」とも呼ばれるが、農業技術の革新が進み、生産性が上がって供給が十分な水準に達した結果、物価水準が緩やかに下落していったともみられる
物価水準が緩やかに低下する一方で、ペストの流行による人口減少から、相対的に労働者の実質賃金が趨勢的に伸び、その分希少な労働力維持のために荘園の支配者たちが労働者(農民)の租税貢納を重くすることも出来ず、割を喰った。その結果封建領主層は没落し、封建制システムが危機に陥り、封建領主は支配権を失っていった
15世紀後半になると、封建領主の中でも力を持つものが国王となって、絶対王政を確立、権力を集中して危機を克服しようとする ⇒ 資本が国家と一体化することで、国家が利潤の独占に向かう。労働者の実質賃金を引き下げ、自らの利潤を確保
「長い21世紀」では、1995年の国際資本の完全自由化により、世界中のマネーがウォール街の管理下に入るとともに、新たな信用創造が始まった結果、資源価格が高騰。「長い16世紀」と同様、第1次大戦終了後から労働者の実質賃金は一貫して上昇していたが、70年代半ば以降の「価格革命」により賃金カットが始まる ⇒ 1999年以降、企業の利益と雇用者報酬の乖離が始まる
「長い16世紀」の「価格革命」は、新興国イギリスの1人当たりGDPが先進国イタリアに追いついた時点で収束していることから考えると、「長い21世紀」の「価格革命」は、中国が日米に追いついた時点で収束することが予想される ⇒ およそ20年後?
資本主義の発展によって多くの国民が中産階級化するという点で、資本主義と民主主義はセカンドベストと言われながらも支持されてきたが、一億総中流が実現した途端に資本主義は中産階級を没落させ、資本が国家を超えて粗暴な「資本のための資本主義」に変質
当然のことながら、新興国の近代化は、先進国の達成した近代化とは異なり、全員が豊かになるわけではなく、資源の有限性を考慮すると、豊かな国と貧しい国という二極化が進み、それは国境を超えて先進国内での格差の拡大にもつながる
第3章
日本の未来を作る脱成長モデル
資本主義を延命させる「空間」はほとんど残されていない ⇒ 新しい経済・社会システムの誕生が待たれる
先進国中最も早く資本主義の限界に突き当たった日本こそ、新しいシステムを生み出すポテンシャルが大きい
資本主義の限界とは、資本の実物投資の利潤率が低下し、資本の拡大再生産が出来なくなってしまうことで、その代わりに「電子・金融空間」にマネーを注ぎ込み、バブルを引き起こすことで資本主義が正常運転しているかのような擬装を図る ⇒ バブル崩壊という形で矛盾が露呈、さらなる利潤率の低下を招く
「景気と所得の分離」 ⇒ 景気が回復しても所得が増えない。経済成長と賃金の分離は、資本主義の最終局面での特徴
アベノミックスの第1の矢=金融緩和によるデフレ脱却 ⇒ 資本が国境を超えて自由に移動する現代においては、マネーの供給を増やしても物価上昇にはつながらない
第2の矢=積極的な財政出動 ⇒ 既に経済が需要の飽和点に達している日本では、いくら財政出動を増やしても、内需中心の持続的成長軌道に乗せることは出来ないどころか、過剰設備を維持するために賃金を圧迫することになりかねない
第3の矢=法人税減税や規制緩和 ⇒ 成長を至上命題とする既存システムへの拘泥では問題解決にはならない
デフレも超低金利も、新たな経済システムを構築するための与件と考えるべき ⇒ ゼロ成長でも維持可能な財政制度の構築、安いエネルギーの自給体制構築によるエネルギー問題の解消が考えられる
第4章
西欧の終焉
ユーロ加盟国がギリシャを見捨てなかったのは、ユーロが経済同盟というより政治同盟であり、最終的にはドイツ第四帝国の性格を強めていくから
現在欧州を襲っている危機は、歴史の危機であり、西洋文明の根幹にかかわる問題で、西洋文明そのものの「終焉の始まり」の可能性すらある
金融帝国=「資本」帝国として君臨しようとする米英に対し、ヨーロッパ統合という理念に基づいた「領土」の帝国化を目指す独仏との確執
巨大化する資本の動きに対し、「国民」という枠組みを取り払って国家を大きくすることによりグローバリゼーションに対応しようとしたのがEU方式 ⇒ 政治統合が究極の目的だが限界
第5章
資本主義はいかにして終わるのか
グローバル資本主義とは、国家の内側にある社会の均質性を消滅させ、国家の内側に「中心/周辺」を生み出していくシステム
社会の基盤である民主主義も破壊 ⇒ 民主主義の経済学的意味は、適切な労働分配率を維持すること
ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレが、定常状態への必要条件であり、脱成長こそ本来目指すべきもの
終わりに――豊かさを取り戻すために
超低金利が続く理由 ⇒ 資本主義の終焉
新しい定常化社会とは、ゼロ成長社会。拡大再生産のために「禁欲」し、余剰をストックし続けることに固執しない社会
Wikipedia
証券エコノミストとしての経済分析の一方、マクロ経済、国際金融を文明史論的な視野から見た著作で知られる[要出典]。仙谷由人の経済ブレーンであり[1]、民主党政権では政権入りし内閣官房内閣審議官などを務めた。
略歴[編集]
·
1980年
·
1998年 同社金融市場調査部長
·
2000年 執行役員
·
2005年 参与・チーフエコノミスト
著書[編集]
·
『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』 日本経済新聞出版社、2011年。
·
『資本主義という謎』 NHK出版生活人新書、2013年。
コメント
コメントを投稿