神と黄金  Walter Russell Mead  2014.9.8.

2014.9.8. 神と黄金 イギリス、アメリカはなぜ近現代世界を支配できたのか
God and Gold

著者 Walter Russell Mead 外交史家、外交評論家。バード大外交・人文科学教授および論壇サイトThe American Interest総合監修者。外交問題評議会ヘンリー・A・キッシンジャー米外交政策上級研究員を歴任。フォーリン・アフェアーズ、ニューヨーク・タイムズ紙などに定期的に寄稿。主著『神の加護Special Providence(2002)は、英エコノミスト誌が「世界で最も重要なノンフィクション賞」と評したライオネル・ゲルバー賞を02年に受賞

訳者    寺下滝郎 1965年呉市生まれ。88年学習院大法学部政治学科卒。99年東洋英和女学院大大学院社会科学研究科修了。修士学位論文『日本における外国経済界のロビイング~在日米国商工会議所(ACCJ)を中心に』で長野賞受賞。翻訳家

発行日           2014.4.30. 第1刷発行
発行所           青灯社

17世紀以降、英米は一度も負け組に回ったことがない。その強さの秘密は、2つのG、神と黄金の特殊な接合にある。つまり資本主義と結託した特異なキリスト教こそが鍵

本書の6つの問い
1.    アングロ・アメリカ人が世界政治に突き付けている独特の政治的・文化的課題をは何か?
2.    アングロ・アメリカ人が新たな世界秩序を形成するための軍事的・経済的・政治的争いに勝利したのはなぜか?
3.    アングロ・アメリカ人は敵を打倒し、グローバルな秩序を構築するための経済的・軍事的資源をいかにして動員することが出来たのか?
4.    アングロ・アメリカ人が自分たちの力によって平和な世界がもたらされようとしていると、かくも度々信じたのなぜか?
5.    アングロ・アメリカ人がことあるごとに見通しを誤ってきたのはなぜか?
6.    アングロ・アメリカ勢力はいつまで存在し続けるのであろうか? 過去30年以上に亘るアングロ・アメリカ勢力の歴史は、いかなる意味を持つのか?

序論 アングロ・アメリカ勢力と世界を巡る「6つの問い」
本書は、世界の歴史にとって大国アメリカが存在する意味について考察
アメリカ社会がもたらそうとしている変革がいかなる種類のものであるのか、またその大いなる変革の取り組みが人類の未来にいかなる影響を及ぼすのかについて明確に分かっている人はいない
アメリカによる国際秩序と大国アメリカは、17世紀後半にまで遡る英語圏勢力の伝統を様々な形で受け継いでいる
アングロ・アメリカ勢力が強まるにつれ、その強まる軍事的勝利が世界にとっていかなる意味を持つのかについて、完全に見誤るということがますます多くなってきている ⇒ 英語圏の覇権が誕生し、長期間続くことを予告したが、平和と繁栄の黄金時代はなかなか訪れない
1部では、「文明の衝突」について考察 ⇒ 17世紀以降世界の形成を巡って英語圏勢力と争ってきた様々な敵対諸国との間の衝突について検討し、アングロ・サクソン文化について探究し、対抗勢力の間に生まれた「反アングロフォン(英語国民)」のイデオロギーについて吟味
2部では、イギリス、アメリカを世界の大国に押し上げた軍事的・外交的・経済的戦略に焦点を当てるとともに、アングロ・アメリカ文明がわれわれの生きている世界をいかにして築き上げてきたのかについても概観し、ワスプの世界の主要な特徴の幾つかについて描出
3部では、6つの問いのうちの第3の問いについて考察 ⇒ 資本主義と宗教の接合
4部では、英語圏において今も支配的なパラダイムを形作ってきたイデオロギーを確立するためにアングロ・アメリカ世界がその宗教的信仰と歴史的経験とをいかにして総合したのかに注目 ⇒ ウィッグ史観=自由社会の穏やかで漸進的な進歩がアングロ・アメリカの歴史においてのみならず、より広く世界においても支配的な力となっていると見做す歴史理論
5部では、アングロ・アメリカ人の楽観主義が事あるごとに見通しを誤ってきたのはなぜか? アングロ・アメリカ勢力の成功の歴史はより壮大な世界の歴史の中でいかなる意味を持つのか? について考察

英米両国民の共通の歴史というテーマを取り上げた

1部 海象(せいうち)と大工
第1章     神はわれらの側にあり――クロムウェルからブッシュ・ジュニアにいたる内部の敵との戦い
1656年 クロムウェルは英国議会で演説し、イングランドの敵は「国の内外を問わず、この世界の邪悪な者たちすべてである」と言った ⇒ 300年後も生き続ける言葉・思想

第2章     価値観を共有するアングロ・サクソン人――ルイス・キャロル『海象と大工』とデフォー『生粋のイングランド人』
アメリカ人にとっては、イギリス人と同類と見做されて「アングロ・サクソン勢力」と括られるのは耳障り ⇒ 歴史的にアメリカ人の会話において「アングロ・サクソン」という言葉は、「劣等な」マイノリティや移民から古き「良き」アメリカ人種を区別するために使われてきたもので、アメリカ人が甦らせたくない記憶
イギリスの力が衰退するとともに「アングロ・サクソン」という言葉は使われなくなったが、サッチャー以降の復権でまた外交の常套語として再び使われるようになった
アングロ・アメリカへの見方が最も的確に英語で表現されているのは、『鏡の国のアリス』の中の詩『海象と大工』で、それぞれイギリスとアメリカを寓意的に描いているが、アングロ・サクソン系プロテスタントによくある高邁な理想主義のたわいない話を滔々と語っている ⇒ 海象と大工が牡蠣を散歩に誘い、お互い相手に見られないようにして牡蠣を食べてしまうが、その道義性にアリスが失望する話
1771年の歴史試論では、「人類がその下で幸せに暮らせる政府の形成にもしも本当に全能の神が関与したのだとするなら、我々サクソン人の父祖によってイングランドに打ち立てられた政府こそまさにそれであった」と、アングロ・サクソン人を新たな高みへと引き上げた ⇒ この考えに特別の関心を示したのがトーマス・ジェファソンで、アングロ・サクソンの価値観の重要性を生涯唱え続けた

第3章     彼らはわれらをいかに憎みしか――英語国民とワスプ嫌いの人々を隔てる壁
憎悪の対象となることこそ、アングロ・サクソンが世界の多くの地域で古くから受け継いできた光栄ある伝統 ⇒ アングロフォビア(イングランド嫌い)、現在では反アメリカニズム
一貫して反対してきたのがフランス ⇒ 17世紀後半から続く対立関係にあり、敬虔で文明化の進む陸の帝国ローマと野蛮で守銭奴たる海洋通商国家カルタゴとの間の古代の戦いの再演
世界中で巻き起こるアングロ・アメリカ文明・勢力に対する抵抗と恐怖・憎悪はワスポフォーブ(ワスプ嫌い)とでも呼ぶべきもの ⇒ アングロ・アメリカ文明の核心を悪とし、その内なる悪がアングロ・サクソン国家の政策と慣行に露呈しているとみる
全ては途方もなく無慈悲な残酷さから始まる ⇒ 対スペイン戦争で活躍したイングランドの英雄たちはみな海賊であり、戦争におけるアングロ・アメリカ人の残虐性に対する非難は20世紀を通して続いた
ヨーロッパの伝統は、アングロ・サクソンとその追随者たちの神なき資本主義をユダヤ人勢力の台頭と結びつけている ⇒ 1290年イギリスから追放されたユダヤ人は、クロムウェルの時代に帰還を許され、17世紀以降その地位を高め、19世紀末になるとユダヤ人とアングロ・アメリカ資本主義との間の結びつきは自明のこととされた

2部 すべての国より畏怖と羨望の的となりし
第4章     海洋国家システムのヴァージョン・アップ――オランダからイギリスを経てアメリカへ
アングロ・アメリカ人には紛れもなく世界を支配するための秘密の基本計画があって、彼らは300年間それに忠実に従ってきたという学説があり、秘密の計画を「グリニッジ長老の議定書」と呼ぶ ⇒ 書き残されたものではなく、自然のままに行動し、自国の地勢、文化、社会の論理に従うことによって、世界の中で自分たちが直面する問題をうまく処理しつつ、自国の状況に適した柔軟性、永続性のあるグローバルな力を身につけながら、一連の課題や紛争に取り組む
「グリニッジ長老の議定書」は、ユダヤ人の世界征服計画を記した「シオン長老の議定書」のもじり。グリニッジは、ロンドン防護の戦略的要衝にあり、18731998年の間、王立海軍兵学校があり、海洋国家イングランドゆかりの地であることから、それに因んでつけたもの
アングロ・サクソン国家による世界制覇に向けた地政学的国家戦略の基礎となったのが「海洋の力」 ⇒ オランダによって発明され、イギリス、アメリカが採用した海洋国家秩序

第5章     フランス、この厄介な国――イギリスの海洋国家システムに挑戦するナポレオン

第6章     世界は彼らの牡蠣であった――英語文化圏としてのイギリス帝国の拡大
1815年ワーテルローでイギリス軍がフランスを破って以降、イギリスの資本と貿易が先鞭をつける形で広大な非西洋世界をグローバルな資本主義経済へと大規模に引き込み始め、イギリスの宣教師は世界の至る所にキリスト教を広める

第7章     力の源泉――英語圏における公信用と私的信用の制度的基盤・イングランド銀行
1694年 イギリス議会は、膨らむ国の債務を管理・整理する特権をイングランド銀行に与えることを承認 ⇒ 国の商業活動に関与するとともに、公債を引き受け戦費を供給
課税技術の点でも対抗勢力に優る ⇒ 公債制度はオランダに倣ったものだが、歳入制度はイギリス独自のもので、オランダやフランスに比べ税率が高くより統一的に課税され、政府による専門的徴収と管理が進んでいた
英語圏における公的信用と私的信用の制度的基盤を担ったイングランド銀行の金融制度は、オランダの制度に範を取り、イギリス以前からすでに大陸間の金融制度が運営されており、商人たちは本国から遠く離れた場所で商売をしていた ⇒ イタリアの銀行業が優位にあった時代は、イタリア人(=ロンバルド人)の銀行家たちが頻繁に往来していたことに因んで名づけられたロンバード・ストリートが、20世紀後半までロンドンの金融センターになっていた
財政金融の核となる機能は、効率的な資源配分に関わる ⇒ イギリスはその優れた国家財政によってフランスとの軍事的争いで決定的に有利な立場に立てたし、英語圏はその優れた民間金融によって近代史のほとんどの期間ほぼすべての商業分野において優位な立場に立てたし、この優位性の政治的・軍事的な強みは数字では表せない
国家財政の世界を民間経済と結びつけることに手腕を発揮したのが一部の巨大金融会社で、モルガンやベアリングズなどは、ある段階では主権国家の活動を商売にした

第8章     イートン校の運動場――消費革命、交通革命、情報革命、大衆文化、スポーツの発展
アングロ・アメリカ陣の資本主義が地球規模の広がりを持ちながら人間生活の物理的条件を一変させ、それが引き起こした文化的・社会的変化は未曽有の真にグローバルな文化と共同体の創造を促すとともに、政治経済学における革命をなし遂げる
アングロ・アメリカ陣の金融と急速に進歩する市場主導の技術革新とが結合することによって誕生した大量消費社会においては、富もまた国民からの贈物
消費革命に連動し、それに影響を与えたのが輸送革命
タイムリーな情報にますます高い価値を置くようになる ⇒ より速く優れた通信と輸送に対するアングロ・アメリカ人が執着を強める
新たな富裕層の出現や、新たに生まれた技術やメディアがもたらした世界の変革は、英語圏における大衆文化の形成を促し、以来ずっと非英語圏の人々を恐怖させるとともに、魅了してきた
オッカムの剃刀(レイザー) ⇒ 14世紀のフランシスコ会での教えの1つで、必要でないものは削ぎ落とすべしという原理で、未だにアングロ・アメリカ哲学は懐疑主義と無駄の排除(Parsimony)として、彼の強い影響下にある
シンプルさへの熱情とシンプルこそ力なりという信念は、アングロ・アメリカ人の生活に多くの面で影響を与えている
英文法にしても、英語は元来高度に屈折した言語だったものが、情報伝達手段として効率化され、簡潔さ、シンプルさ、使いやすさのお蔭で英語が世界のビジネス言語となる
19世紀のイギリスは、世界の工場であり、世界の運動場 ⇒ ポピュラーなスポーツの大半が、イングランドを発祥の地とし、ルール化されて他の世界に拡散していった
1825年頃、ウェリントン公は、「ワーテルローの戦いはイートン校の運動場で勝ち取られた」と言ったとされる

第9章     ゴルディロックスと西洋――資本主義という荒馬を御す英語国民の国
ゴルディロックス ⇒ イギリスの民話「さんびきのくま」に出てくる主人公の少女の名、と同時に「金髪の娘」を意味する普通名詞であり、「ほどほどの」「ちょうど良い」「適度な」といった状態を示す慣用句でもある
英語圏の社会が勢力を伸張していった裏には、他のヨーロッパの国々に比べ、あまり伝統に縛られず、変化を喜んで受け入れ、反対意見を許容するということ、とりわけ資本主義が創造し要求する変革がたとえ大混乱を招き、時として痛みを伴うものであったとしても、それを容認する社会であるということがあった。近現代を通じて英語圏勢力は、人類の行進の先頭に立ち、民主的資本主義の世界にますますのめり込んでいく

3部 アングロ・サクソンの態度
第10章     ワスプと蜜蜂――「開かれた社会」と「閉ざされた社会」、「動的宗教」と「静的宗教」
アングロ・サクソン文化の社会的・心理的要因 ⇒ 宗教と哲学
哲学者ベルグソンが言う「開かれた社会」と「閉ざされた社会」

第11章     ブレイの牧師――宗教への固執と懐疑主義との共存
『ブレイの牧師』とは、18世紀のイギリスの風刺詩で、バークシャー州の小さな村ブレイの牧師が主人公で、時勢の変化に合わせて自らの立場をコロコロと変えた
騒々しい時代を生き抜くためには、牧師のような無節操な生き方が求められた

第12章     教義対教義――カトリックとプロテスタントと啓蒙思想のせめぎ合い

第13章     白のクイーン――「開かれた社会」における宗教の役割
英語圏は聖書、伝統、理性をジャグリングしながら進み、ますます開かれてゆく社会へ、宗教が社会的・経済的変化の要請に絶えず適応する社会へと向かう。必ずしもキリスト教的であるとは限らず、絶えざる変態を正常な望ましい人間の状態として受け入れ、動的な宗教としてより強く激しく人々の心を揺さぶるようになっていった
「常に改革されるべし」は、資本主義のモットー
「白のクイーン」 ⇒ 『鏡の国のアリス』に出てくる話?

第14章  エクセルショー! ――ヤンキーの向上心に与える資本主義とカルヴィニズムの影響
プロテスタント文化の方がカトリック文化よりもビジネスで成功する傾向にあることは、16世紀以来ヨーロッパでは絶えず指摘されている
カルヴィニズムは、神から召された天職として世俗の職業を重視するところから、成功は神によって救済される者に選ばれた印。同時に重要なのが、慎ましく真面目に生きること
資本主義的価値観と今日の英語圏を形成したプロテスタントの動的宗教文化との間の繋がりは強く機能、市場経済と社会変革が神の意志の現れであるという広く行き渡る信念を生み出す。社会の進歩は神の恩寵を受けていることであり、社会が全体として正しい方向に進んでいることの印だった
ロングフェローの詩『エクセルショー』については『高きにすゝめ』という名訳があり、ロックフェラーが1863年に設立した最初の石油精製所の社名がExcelsior Works

第15章  ジャイロスコープとピラミッド――アメリカ社会が依拠する理性、啓示、伝統のアングリカン社会
頭文字を大文字のAで綴るAnglicanとは、イングランド国教会を源とし、カンタブリ大主教と信仰を共にするキリスト教の教会のことで、小文字で始まる場合は、アングリカン・コミュニオンの教会に属していると否とに関わらず、宗教的・社会的問題は理性と啓示、伝統を組み合わせることによって解決すべきという考え方を受け入れている人や場所や物を指し、その意味で今日のアメリカ社会はアングリカン社会であり、依然としてアン女王時代のアングリカン・トリニティに依拠している
理性、啓示、伝統は、アメリカ人の生活における価値観と権威の多元的に拮抗する原理

4部 神は何を為し給ひしや
第16章  歴史とは何ぞや――現代世界を形成している2つのメタ物語 (1) アブラハムの物語
古代中東に起こったアブラハムのイデオロギーは、拡大と発展を続け、今日ほぼ全世界に行き渡り、そこから数々の宗教・哲学体系が派生している

第17章  歴史との戦い――現代世界を形成している2つのメタ物語 (2) 資本主義・進歩主義の物語
人間の持つ潜在能力の多面的な開花が、現代におけるもう1つのメタ物語
資本主義は、装いを新たにしたアブラハムの世界観そのものであり、アブラハムの物語を確固たるものとしたのが資本主義の物語

第18章     黄金のミーム――見えざる手、ウィッグ史観、神との契約
悪との戦いというアングロ・アメリカ人の伝統は、歴史との戦いという思想にいとも簡単に転じる ⇒ 終局へと向かう歴史の進歩は神の意志の現れ
大勢の買い手と売り手が各々勝手に私利を追求する行動の中から社会秩序を創造する「見えざる手」というアダム・スミスの瞠目すべきイメージは、何世紀にもわたってアングロ・サクソン人の心を様々な形で支配してきた洞察である ⇒ 遍く広がる「見えざる手」への崇拝は、アングロ・サクソン人を大国の地位に上らせたもっとも重要な要因の1
イングランドの歴史、とりわけコモン・ローの歴史は、「見えざる手」の思想を英語圏の文化と感性に深く根付かせる役割を果たす
名誉革命というもともと18世紀のウィッグ党員の物語に与えられた呼称である「ウィッグ史観」は、今日見えざる手に導かれて、徐々に、確実に、否応なく展開される資本主義的進歩の物語として語られるアングロ・アメリカ人特有の歴史観を指す
契約の思想は、アメリカの歴史の極めて早い時期に入ってきた ⇒ メイフラワーのピューリタンがもたらし、17世紀のアングロ・アメリカ人の精神に多大な影響を与えたカルヴァン神学の中心的な活力ある思想の1つであり、カルヴィニストは神が人間と結ぶ継続的な契約の物語として聖書を解釈する
アメリカ人にとって、自分たちが選民であることは始めからほぼ自明のことであり、神との間に何か特別の関係があるという信念が一段と強まっている
「ミーム」とは、イギリスの生物学者ドーキンスの造語であり、生物の遺伝子のような再現・模倣を繰り返して受け継がれていく社会習慣・文化を指す。アリストテレスなど古代ギリシャの哲人たちが唱えた概念としてある「黄金の中庸」に掛けたのが「黄金のミーム」

第19章     ウィッグ・バビロン――「歴史の終り」と「文明の衝突」

5部 歴史の教訓
第20章     海洋国家の将来――アメリカ衰退論と海洋国家の大戦略「グリニッジ長老の議定書」
「グリニッジ長老の議定書」(4章参照)は、アメリカが国際舞台で追求し得る最も有効な大戦略 ⇒ 議定書第5条にある「自由な価値観と制度を世界に広く行き渡らせること」を実践するのが「文明間の外交」であり、その際の参照点となるのが後述のニーバーの思想

第21章     ゴーストダンサーたち――アメリカとイスラーム世界との関係
海洋国家勢力の歴史を学べば、アングロ・サクソン国家とイスラーム世界の関係をもっと筋道立てて考えることができる ⇒ これまで海洋国家勢力は宗教戦争に巻き込まれていたが、プロテスタントとカトリックはうまく溶け込んでいるし、プロテスタントの宗教改革が、いかなる問題があろうとも、近代の動的社会を発展に向かわせる環境を作ったことは間違いなく、イスラーム世界内部においてのみならず人生における多元主義の肯定的価値観を認める流れが徐々にでも広がっていけば、両者の融合も十分考えられる
ただし、安易な楽観主義は必ずや失望を招く ⇒ 歴史の発展過程で自分たちの感情を著しく害された集団が、その心の傷がますます癒えにくくなるような形で変化して行った例を多く見るが、その問題の根源は、力に勝る外国勢力から負わされた歴史的は苦痛と屈辱にある
海洋国家秩序とアメリカは、集団認知を求めるアラブ世界を非常に多くの面で激しく失望させている。アラブ世界との文明間の外交を巧みに実践することは、この地球上でもっとも困難だが、最も重要な作業の1
アメリカとアラブ世界の間でもっと深い出会いEncounter(トインビー『歴史の研究』を想起)が無ければ、両者の関係に進展は望めない。そして出会いを成功させるためには、大工はもっと口を慎み、もっと耳を傾けることを学ばねばならない

第22章     文明間の外交――ラインホールド・ニーバーの洞察
冷戦期アメリカの道徳的・政治的な自己認識に多大の貢献をしたのがニーバー(18921971)。プロテスタントのリベラルな牧師。傲慢(pride)の罪がをこの世に作りだすとし、キリスト教的な教義と結びつけられた、外交問題についてのリアリズム及び近代的「正しい戦争についての提言を行って、オバマにも影響を与えている

第23章     歴史の終りとは――グローバル社会の発展と永続革命
長い人間の歴史の中で、アングロ・サクソン時代はいかに位置付けられるのか?
有史以来となる真の意味でのグローバル社会を創造したことは、いかに不正義・不完全であろうと間違いない
3つの拮抗するヴィジョンに引き裂かれている
1のグループは理性を主張する人々からなり、普遍的な論理、原理、法こそが国際秩序にとって唯一相応しい、かつ現実的な基準であると信じている
2のグループは宗教を主張する人々からなり、世界的大宗教の1つが公式は国際秩序にとって必要な基盤となると信じる
3のグループは伝統の信奉者であり、多様な形の文化やアイデンティティ政治の擁護者。自らの価値観や文化を国際社会の基準とすべきと考えるポピュリスト・ナショナリスト
3つのヴィジョンが拮抗しているということは、グローバル社会はそれが存立し得る限りにおいて、国際機関はそれが世界の多様な社会や文化の要求にこたえ得る限りにおいて、アングリカンでなければならないだろう ⇒ グローバル社会と国際機関は、権力が制限され、時として矛盾する前提から出発し、対立する視点からの解釈・正当化を許容する形で構築されなければならない。1つの体系的全体ではなく、ごったまぜの状態
資本主義は変化の加速する未来へと我々を導いている。今後も社会的変化の波は続き、それは世界中の経済的・政治的関係が絶えず不安定な状態に置かれるであろうことを示唆しているが、アメリカ社会の大半の人々は、「見えざる手」を楽観的に信じつつ、アングロ・アメリカ世界を形成した価値観が今後とも日々の経済的・政治的追求を成功に導く価値観になると信じ続けるに違いない
「歴史の終り」とは「アブラハムの歴史の終り」であり、「停滞と安定の時代」ではなく、成長と変化を指向する人間の本能に適合した「永遠に騒々しい社会」が実現する時なのかもしれない。それは「資本主義社会の永続革命」とも言える。その終局に向かってアングロ・アメリカ人が突き進む




神と黄金イギリス、アメリカはなぜ近現代世界を支配できたのか(上・下) [著]ウォルター・ラッセル・ミード [訳]寺下滝郎
[評者]水野和夫(日本大学教授・経済学)  [掲載]朝日 20140803   [ジャンル]歴史 
「変化=進歩」の驚くべき楽観性

 書名のとおり、本書の中心テーマは宗教(神)と資本主義(黄金)の関係にある。著者はかつて外交問題評議会(CFR)の上級研究員だった。CFRにはキッシンジャーら米外交政策の大物が名を連ねており、米保守本流の考え方を窺(うかが)い知ることができる。
 原著は2007年に出され、リーマン・ショック(08年)や、オバマ米大統領の「米国は世界の警察官ではない」発言(13年)の前であるという点を割り引いても、米指導層が世界および米国の将来に関して、いかに楽観的であるかに驚かざるを得ない。本書は次のように締めくくられる。アメリカは「奇異なる標語の旗を手にして突進を続けていくことだろう。旗に綴(つづ)られし言葉はただ一言、『エクセルショー!』」。
 1841年、H・W・ロングフェローの詩にうたわれた「さらなる高みへ(エクセルショー)!」は、米国読者に熱い共感を生んだ。著者はいう。詩に描かれた英雄にとって「普通の暮らしを追い求めることは、(略)不道徳(ヴィシャス)な欲望なのである」と。
 この高み志向が「なぜアングロサクソン人がかくも素早く、かくも徹底的に資本主義を取り入れたのか」を解きほぐす。
 資本主義には「変化と発展が不可避」である。本書によると、資本主義台頭後、歴史は「循環の記録であることをやめ、西へ西へと進み続ける旅とそれを阻む壁の破壊の物語に変わった」。また、哲学者ベルクソンの「開かれた社会」「閉ざされた社会」を論じ、蜜蜂の「閉ざされた」社会には「必ず終わりがくる」が、「変化と成長」を取り入れ「開かれた」人間社会は「閉ざされた社会」より進んでいると断言する。
 16世紀に起こった宗教改革は「進歩的変革」という概念を誕生させ、変化は「教会は日々新たに改革されなければならない」という呼びかけに対する応答、あるいは進歩と理解され、それ自体が崇拝の対象となったと著者はいう。
 世界の変化に応じて変化した信者は「神に近づく」。経済においても精神面においても「変化=進歩」教は、アングロサクソン世界の頂点に立つ。変化が「永続的で、必要な、さらには神聖視されるべき要素」として捉えられたことで、己の過去を捨て、神の示す未来に従えという「アブラハムの物語」と「資本主義の物語」が一体化したのである。
 クリントンの「変化」とオバマのそれとは真逆の関係にあるが、いずれも「もっと速く駆け上がれ」と変化を強要した。その結果がサマーズの「長期停滞論」の原因なのではと評者は思う。変化を拒むことができない社会は本当に自由で健全な社会なのか本書を読んで大いなる疑問が湧いてきた。
    
 青灯社・各3456円/Walter Russell Mead 米バード大学外交・人文科学教授。論壇サイト「アメリカン・インタレスト」総合監修者。「フォーリン・アフェアーズ誌」の定期的書評筆者。ニューヨーク・タイムズ紙などにもしばしば寄稿している。

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