作文の技術  外岡秀俊  2022.1.25.

 

2022.1.25. 「伝わる文章」が書ける 作文の技術 名文記者が教える65のコツ

 

著者 外岡秀俊 ジャーナリスト。元朝日新聞東京本社編集局長。1953年札幌生まれ。東大法在学中に、小説『北帰行』で文藝賞受賞。77年朝日新聞社入社。学芸部、社会部、外報部、ニューヨーク特派員、アエラ編集部、編集委員、ヨーロッパ総局長などを経て、06年東京本社編集局長に就任。11年退職。

 

発行日           2012.10.30. 第1刷発行

発行所           朝日新聞出版

 

はじめに

この本の成り立ち:

文章を磨くには;

作家やエッセイストが書いた優れた文章、美しい文章を模範として、真似ること

実際に書いた具体的な文章を通して、欠点や改善すべき点を洗い出し、表現を改めていく

第1章        基本編――読者からのエッセイを募集して読者が共通して感じる文章上の「悩み」や「工夫」を洗い出し、その過程で汲み取った技法上のポイントを纏める

第2章        応用編――技法をさらに掘り下げ、文章を書く「心がまえ」を考える

第3章        実践編――優れた文章を読み解くことを通して、どうすれば、より「文章を磨く」ことができるかを纏める

この本が目指すもの;

いい文章を書くときの原則

   相手に正確に意味が伝わる

   相手に誤解を与えない

   相手に負担をかけない

   心地よい読後感が残る

文章の3要素――正確さ、わかりやすさ、美しさ

正確さの代表格は法律の条文で、言葉を厳格に定義する

美しさの典型は詩で、言語の美を追求

わかりやすさの典型は新聞記事で、中学生が理解できる文章が標準

いい文章を書くコツは、この3つの要素が均等にバランスを保つように配慮すること

まずは、「正確」で、「わかりやすい」文章を書くことを目標にする

 

第1章     基本編――1文を簡潔に書く

01     1文を短くする

1つの文は出来るだけ短く

読点で文章に切れ目を入れ、読点を句点に置き換えられないかを考える

特に文章の出だしは簡潔に

 

02 「複文」を「単文」にする

「複文」とは、複数の述語を持った文章が、1つに畳み込まれている文章で、単文に分けて書くとわかりやすい

複数の術語を持つ文章に「重文」がある――複数の文が並列する文章で、単文にするといい

 

03     読点を句点にする

文章をすっきりさせるコツの1つが、読点を句点にする

単語の並列は、言葉の潜在的な力を引き出し、表現にインパクトをもたらす

 

04 「位置」を示す

文章の早い段階で、時間と空間の「位置情報」を示し、読み手に手がかりを与える

 

05 読点の打ち方

正解はなく、基本は、「文章を読みやすくする」「誤解を避ける」の2

1つの文章で「位置情報」が変わる場合は、必ず読点を打つ

 

06 主語を明確にする

主語がわかりにくくなると、論旨や意味が不透明になりがち

複文を導く主語には、「は」ではなく、「が」という助詞に変えるのが原則

 

07 主語の転換

1つの文章の途中で主語が変わると読者に混乱を招くので、統一するか、2文に分ける

主語は、できるだけ述語と距離を置かないようにする

 

08 「かかる言葉」は、近くに置く

結びつきが強い言葉同士は、できるだけ近接させる

副詞と動詞や、形容詞と名詞など、「かかる言葉」は出来るだけ近くに置く

 

09 文章を安定させる

「自分の失敗は、・・・・したことにある」よりは、「…したことに原因がある」の方が安定

 

10 平易な表現にする

4字熟語+「する」という表現は、「2字を」+「2字する」に言い換えられる

専門用語は、カッコで括って手がかりになる説明で補う

 

11 くどい表現をすっきりさせる

1つの文章の中で「それ」という指示代名詞を使うと、文章は複雑化する

 

12 受け身表現を避ける

モノを主語にし、ヒトを受け身にする表現は使わないようにする。外国語の翻訳調になる

 

13 ムダな言葉を省く

見た目にもすっきりさせる。二重の表現を避ける

 

14 符号の使い方

チョンチョンカッコは極力避ける。欧米では「いわゆる」の意で使い、実際とは違うことを意味するが、書き手の意味とは違った解釈をされる場合もあり、誤解を避けるためにも普通の「 」を使う

文章に「追記」したり、丸カッコで補足するのも避ける――書き換えができなかった時代の名残であり、極力使用は避ける。地の文にしても効果は変わらない

「・・・・」や「!」を多用すると、書き手の思いが先に立って、読み手をひるませ、興覚めにさせたりするし、文章の途中で符号を使うと、文章の流れがせき止められ、リズムが乱れる

 

²  疋田さんの文章術① 「洋服ダンスとハンガー」

30年ほど先輩の疋田さんからの文章指導

日曜版の「世界名画の旅」は、1面で謎を出し、3面でその背景を探り謎解きをする。記事をジャンプする仕掛けは、いかに最後まで読んでもらうかという点にある――長文ほど大切になるのは、文章を貫く心棒があるかどうか。文章を書く論理や精神が一定していないと美辞麗句の連なりで終わる。そのためには、「見出し」が結論になるような一貫した探求を続けること

書き手がある仮説を持って物事を調べ始めると、その「仮説」は必ず、現実によって裏切られる。その「裏切り」がニュースであり、「発見」になる。どんな事件、事象でも人は先入観や偏見を持っている。それを意識化して「仮説」にすれば、現場に行っても焦点は定まり、何に着目すればいいのかわかる。現場でその「仮説」を検証する。こうした一貫した探求の結果、「結論」が出る。それが「見出し」や「タイトル」となる

疋田の言う「心棒」とは、「仮説」を持って現場で検証し、「結論」を引き出す強靭な探求精神のこと

 

15 「ですます」体と「だ」体

「ですます」体は柔らかな印象。一方、「だ」体は厳しく、簡潔な印象

「ですます」体では、無駄な言葉を省き、構成に気を配って、冗長にならないようにする

「だ」体では、漢字を減らしたり、言葉や会話の引用をちりばめたりするなど工夫

いずれの文体を選択するかは、文章のテーマや書き手の気分による

1つの文章で両者を混用しないのが原則

 

16 地の文の「思い」をカッコでくくる

地の文に書き手の「思い」が語られている場合は、その部分を鍵かっこに括ると読みやすく、文章が締まる。客観的な「地の文章」と主観的な「思い」をカッコで区別すると、より明快に読み手に伝わる。「発言」や「会話」の場合にも応用ができる

 

17 同じ言葉は省く

同文中や近接する文章に同じ語句が使われる場合、ほとんどは表現の工夫によって使う数を減らせる。同じ言葉があちこちにあるとだらしなく、乱雑な印象を与える

 

18 重言を避ける

1文に同じ「語」が使われる「重言」を避けるのが基本――馬から落ちて落馬する

 

19 回りくどい表現を避ける

同じ意味の表現が重なって、回りくどい印象になる場合がある――「被災地におらず、実際に震災を経験していない」は、「実際には震災を経験をしていない」だけで十分。2つの文章を書いて意味があるのは、「被災地にいなかったが、震災を経験した」か「被災地にいたが、震災は経験しなかった」のどちらか

 

20 「絵にもかけない」を書く

文章を書くのは、もともと表現しにくいこと、言葉に表せないことを、何とか言葉にして、他人に伝えたいと思うから。自分の気持ちを過不足なく表現していることは稀だし、他人がそれを正確に汲み取ってくれるとは限らない。「言葉にできない」という表現は、文章を書く目的自体を最初から放棄する空疎な言葉

自分が感じている「無力感」や「苦悩」などの気持ちが、どのようなものか、もう一歩突き詰め解析してみる

 

21 形容詞をデータに置き換える

「ひどく暑い」より「気温35度」の方がイメージが正確

 

22 常套句を疑う

「ニコニコ」や「バタバタ」のようなよく使う決まり文句は、便利な反面落とし穴がある。使い勝手がいい分、読み手に強い印象となって残らず、すっと読み過ごされてしまう

その場の状況をいきいきと伝えるには、こうした「常套句」を使わず、別の表現を考える

 

23 読み手に「手がかり」を残す

社会に定着した言葉になっていない生煮えの言葉は、必ず初出で読者に手がかりを残す必要がある。ごく普通に使われている英語や専門用語の場合にも言える

 

l     疋田さんの文章術② 「絵コンテ」と編集の力

「世界名画の旅」では、取材前に5本分の「絵コンテ」(仮説)を作り、同時並行で取材を行う

終了後、5本それぞれに内容を分け、ストーリーに沿って編集する

インタビューでは相手が話し易いように聞き、編集では読者が読み易いようにまとめる

 

24 言葉を補う

「読者に疑問を残さない」のが鉄則――説明を補うゆとりがない場合は、むしろ削除して疑問を残さない

論理の飛躍を防ぐには、文章の要点を箇条書きにしてみる

言葉が舌足らずになっていないか――チェックする簡単な方法は、声に出して読んでみることで、どこかに段差やギャップができ、すらすらと読めないことが多い

 

25 体言止めは使わない

名詞で終える文章を「体言止め」という。「直感かも」と語尾を省略した文章を「言いさし」と呼ぶ――不特定多数を相手にする文章では、極力避ける。相手にその後の解釈を委ねることになりぞんざいな印象やなれなれしい感じを与えやすい

不特定多数を相手にする場合は、読者に書き手に関する予備知識がないので、正確に意味が伝わるよう心掛ける

 

26 話し手は誰か

会話文では、誰が話者か、最初のセリフに暗示するのがよい

語尾で性別を示唆するだけでも構わない

 

27 「上中下」は必要か

「必要上」「教育上」「~した上」など、多くは使う必要がない

 

28 「並列」には、読点を打つ

同格の品詞を並べて使うことを「並列表現」というが、どこかに点を打って読みやすくするのが原則

読点が続くとどこで区切るか分かりにくい場合は、句点で切ってもいい

 

29 接続詞を省く

接続詞の多くは省くことができる

論理的な文章では、あえて接続詞を際立たせることで、論理の骨組みを明確にするが、情景の描写では、接続詞を省くほうが、文章がキリッと引き締まる

 

30 基本動詞は、ひらがなで書く

漢字かひらがなかは個人の好みだが、基本的な動詞はひらがなで書くと、字面が柔らかくなり、読みやすくなる

 

l 疋田さんの文章術③ いい文章とは

「無味無臭の文章/真水のような文章」

「天声人語」の2代後の担当者辰濃和男が疋田から学んだこと――①硬直した思想/権威主義に対して抗議すること、②過剰な表現を排する/文章のセンチメンタリズムを排する、③生身の人間の声を大切にする

偉ぶらないこと、②事実やデータを重んじること、③読む人への気配りを欠かさない、④「いい文章を書こう」と思わないこと

 

31 ひらがなの「連鎖」を断つ

ひらがなが続くと、文章の切れ目が一目でわからないので、あえて漢字に置き換えたり、カタカナにしたり、読点を打ったり、かぎカッコで括ったりする

 

32 「 。」派 vs 「  」。派

文法の問題ではなく、好みの問題

カッコの後に地の文章が続く場合はカッコの後に句点をつけるが、それ以外はつけない

 

33 強い文は、独立させる

強めたい文章は、前後を改行して独立させると、より効果が高まる

会話や言葉の引用の場合にも応用できる

 

34 同じ語尾を繰り返さない

表現が重なるとくどい印象。特に同じ語尾が繰り返されると、文章のメリハリがなくなる

 

35 「ナリチュウ」表現を避ける

「願いたい」「祈りたい」などの表現は、主語や責任の主体が曖昧、誰に何を求めるのか不明

報道で使われる「成り行きが注目される」という「常套句」は、「ナリチュウ報道」と呼ばれ、文意が不透明。「思われます」なども同類

何かを主張する場合には、責任の主体を明示し、率直に論旨を展開する

 

36 強い「のだ」は控えめに

文章の緩急はリズムによって生じる。「~のだ」は、「急」を代表する強い表現なので、繰り返し使わず、ここぞという場所に1つだけ使う方が効果的

 

37 同じ構文を使わない

同じ構文は、単調にならないよう、繰り返しは避けるのが基本

文章でも、書き手の姿勢や細やかな気遣いに、自ずとにじむ「その人らしさ」がある

 

38 数字は「マイナス発想」で

訴求力を高めるには、データを引き去り、できるだけシンプルにする=「マイナス」の発想

数字が多く出てくる文章では、「数字を少なくする」ことが読みやすくするコツ

 

39 引用はカッコで示す

引用部分を明確に区分するためにカッコで括るのが原則。読みやすくもなる

引用は、できれば出典を明示した方がいい――読み手に探す手がかりを与える

 

l 先輩たちの文章術 さまざまな工夫

いい記事とは、読者に「驚き」を与え、「納得/共感」を喚起する文章

問いと答えを並べる――疑問を列記した後、それぞれの答えをわかる範囲で書く

形容詞をデータに置き換えるための小道具――情景をデータで補強するコツ

レイアウト――小見出しの位置を工夫するなど、見かけの読みやすさ、美しさも工夫

 

40 伝聞に気をつける

「~によると」という表現は、書き手が直接聞いた場合に限る

伝聞の内容は、カッコで括って、地の文章と区別する――あくまで「伝聞」として扱い、距離を保つことが必要

 

41 「敬語」よりも「敬意」を

短い文章に多くの敬語や丁寧語が並ぶと、少し回りくどい印象が残る――過剰な敬語は、書き手の「敬意」ばかりが前面に出て、文章を辿る邪魔になる

敬語は、1文で1回使えばいい

 

42 表記のあれこれ

「僕」と「ぼく」、一度使ったら、混在は避けるのが基本

通常、単位はカタカナで表記

本を引用する時には必ず、著者のフルネームと発行元を明記――本を探す人の手がかり

略称が定着していない言葉については、文章の初出のときに正式名を書く

 

43 間違えやすい表現

同じ動作や事柄を並列させる「~たり」は。2回目以降の「~たり」を必ず書く決まり

 

44 記事は手本にならない

新聞記事には、短い中に多くのデータを盛り込むため、日本語として不自然な表現がいくつもある――体言止めや言いさしの多用で、コラムや文化欄の寄稿は参考になるはず

 

45 二字の動詞を減らす

記事をやさしくするための改善の筆頭が「二字の漢字を使う動詞を減らす」――公文書に頻出するが、動詞などの「言いまわし」はわかりやすくシンプルにした方がいい

 

46 漢数字と洋数字

書き手の好みだが、同文中での混在は避ける

助数詞などとセットになって定着している言葉や、慣用句では漢数字を使う――「一つ、二つ」は「ひとつ、ふたつ」とセットになっている言葉なので漢数字

 

45 オノマトペに工夫を

日常の音や声を言葉にする「擬音語」と、「ツンデレ」など、様子を言葉にする「擬態語」の総称をオノマトペ(仏語)という。一つに決まった表現はない

l     メールの作法

   迅速に返事を書く――とりあえずの返事をする

   用件のみを書く――表題に発信人の名前を書き簡単に用件に触れる。時候の挨拶などは入れるとしても末尾に

   同報メールは事務文書だけ――相手との私的な感情が絡む文章はCCで他人に送らない。同報メールは、自分がきちんと仕事をしたという証拠を残し、第三者に確認してもらうというイメージ

   感情のしこりに気を付ける――感情的な表現は極力避ける

   行をあける――段落ごとに行替えし、1字下げて読みやすくする

   「便利さ」の落とし穴に気をつける――対面できない場合の補足であって、代替手段にはならない

 

誤りやすい慣用句・表現・表記

l 愛想を振りまく ⇒ 愛敬を振りまく、愛想がいい

l 明るみになった ⇒ 明るみに出た、明らかになった

l 足元をすくう ⇒ 足をすくう、すくわれる

l 押しも押されぬ ⇒ 押しも押されもせぬ

l 汚名を晴らす ⇒ 汚名をそそぐ(すすぐ)

l 汚名を挽回、汚名を回復 ⇒ 汚名を返上、汚名をそそぐ

l 過半数を超える ⇒ 半数を超える、過半数を占める

l 元旦の夜 ⇒ 元日の夜

l 疑心暗鬼を抱く ⇒ 疑心暗鬼を生じる

l 口をつく ⇒ 口に出る、口をついて出る

l 従来から(より) ⇒ 従来、以前から

l 照準を当てる ⇒ 照準を合わせる

l 食指をそそる ⇒ 食指を動かす、食欲をそそる

l 食指を伸ばす ⇒ 食指を動かす、触手を伸ばす

l 白羽の矢を当てる ⇒ 白羽の矢を立てる

l 陣頭指揮を振るった ⇒ 陣頭指揮を執った

l 成功裏のうちに ⇒ 成功裏に

l 製造メーカー ⇒ 製造会社、メーカー

l 積極さが感じられる ⇒ 積極性が感じられる

l 雪辱を晴らす ⇒ 雪辱を果たす、屈辱を晴らす

l 1日目 ⇒ 第1日、1日目

l 貯金を蓄える ⇒ 貯金する

l 二の舞を繰り返す、二の舞を踏む ⇒ 二の舞を演じる

l 念頭に入れる ⇒ 念頭に置く

l 的を得た発言 ⇒ 的を射た発言

l 3日とあけず ⇒ 3日にあけず

l 預金を引き下ろす ⇒ 預金を下ろす、預金を引き出す

l 老体にむち打つ ⇒ 老骨にむち打つ

l 論戦を張る ⇒ 論陣を張る、論戦を挑む

l     私には役不足だ ⇒ 私には荷が重い、私では力不足だ

 

 

 

 

第2章     応用編――伝わる文章を意識する

 

01 タイトルをつける

不特定多数を相手にする文章では、テーマのほかに、必ずオリジナルの「表題」と書き手の名前を書く――「表題」はそれに続く文章を一目でわかるように表す見出し

表題の形態 ⇒ 文章の要約、テーマの提示、文章への誘導

 

02 「段落替え」では1字下げる

場面や論理が転換したり、飛躍したりする場合に、文章は次の段落に移る

段落の冒頭を1字下げで始め、段落の変わり目を読み取ることができるようにする

 

03     まず「設計図」を作る

与えられたテーマや自分が決めた主題に沿って「設計図」を作ることから始める

小噺やエピソードを冒頭にもってきて、読み手が入りやすくする

 

04     文章を直す

実際に書いた文章の要旨を箇条書きにしてみると、不足の要素や論理の飛躍など、改善点に気づく

 

05     文章構成を考える

「起」や「結」よりは、「承転」に心を配るべき

始まりや終わりはそれなりの形になるが、「承転」は工夫次第で千変万化の多様性が生じる

 

06 「行ったり来たり」を避ける

書いた文章を、いくつかの要素に分けて分類すると、前後の入れ替えが簡単にできる

 

07 文章を入れ替える

比喩を使う場合には、まず本分で説明してから、改めて比喩を書くほうが確実に伝わる

 

08 論理的な文章

ある主張をするときに、大前提を示し、あらかじめ反論を抑えておくことが重要

「今回の事件は許されないことだが」という立場を示してから、論点に移る

論点を表にすると、自分の論点や主張の空白、「考慮していなかった部分」が見えてくる

 

09 書き出しは軽やかに

「書き出しは軽やかに」することが基本。既知の情報については書く必要がない

 

10 大切な場面は丁寧に

喜怒哀楽の感情は文章を書く起点なので、できるだけ丁寧に、その状況や理由を書く

 

11 心を中継する

自分の気持ちをそのまま文章にぶつけるのではなく、第三者に向かって、実況中継する

 

12 山場のつくり方

一旦文章をフラットにし、余計な部分を省き、焦点を鮮明に合わせることが、文章の山場を作る方法

かぎカッコには、文章のインパクトを高める機能があるので、文章にメリハリがつく

 

13 ピントを合わせる

焦点を明確にさせるために、文章に「導線」となる言葉を入れておくことにより、読み手をスムーズに流れについてこさせる

 

14 「場面」の描き方

文章ではよく、「場面「を描けといわれる。あるシーンを映画のように切り取って、いきいきと描くように、という教え

「観察」と「配列」がポイント――鋭い観察から得た言葉で表現し、短い文章を重ねていきいきと動きを再現。主語を省略し、短い文章で畳み掛けるのも「場面」をいきいきとさせるコツ

 

15 文章の結び方

「余韻が残る結び」を書くためには――自分が体験したことを「場面」で描き、淡々と客観的に描写することで、初めて人にも受け入れられる文章になる

 

16 推敲をしてみる

推敲の方法は、①自分で文章を読み直し改める、②他人に読んでもらう

「なぜ伝わらなかったのか」、「なぜ誤解を与えたのか」という「理由」にまで遡って考える

 

²     文章のジャンル

エッセイ ⇒ 「随想」。筆の赴くまま、身辺雑記や社会について、筆者の考えや感じ方を綴った文章

ノンフィクション/創作 ⇒ ある種の世界を仮構し、その世界の中で事実や虚構を展開させる

ノンフィクションでは、文章や事実にデータという「核」が必要。「核」に信憑性がなければ、文章の価値はゼロ。書き手の「見方」は事実とは明確に区別する必要。データを省略してもいいが、事実にない要素を加えてはならないし、公平の原則から、不都合なデータを省いてはならない。追跡可能性にも配慮し、引用データや証言など特定しておくことが必要

小説では、「現実らしさ」を装うために様々な工夫が必要

 

第3章     実践編――他人の文章に学ぶ

01 「伝わる」文章を書くには

同時通訳の優れた技能は、「伝わる言葉」という基本動作の集積

「伝わる文章」に最も欠かせないのは、相手に対する「誠意」――自分が書く日本語が不備であることを自覚し、様々な読み手を想像して相手の負担を減らし、誤解の目を摘んで、意味が正確に伝わるよう不断に努力することが「誠意」

 

02 優れた文章に学ぶ

 

² 企画書の書き方

いちばん大切なことは長さ――Executive summeryA4にして1枚が原則

事実関係やデータを示すのであれば、「ファクト・シート」を添付

 

 

 

 

ぼくは未来の親友を失った 外岡秀俊さんを悼む 寄稿・池澤夏樹

2022119日 朝日

 人生にはすぐ横のトラックを走る仲間を見ながら行くということがある。競走ではなく並走。

 外岡秀俊はそういう相手だった。

 会ったのは二回ほどしかないし、それも立ち話くらい。友人とは呼べない。

 しかし彼が朝日新聞のヨーロッパ総局長としてロンドンにいた時から署名記事はすべて読んできた。ぼくもフランスに住んでいたからいちいち納得することが多かった。国際関係を理解するセンスを共有していると思った。

 東日本大震災の後で三陸地方に通い詰めていた時期、彼が阪神淡路大震災について書いた『地震と社会』は座右の書だった。何を考えても先回りされている。

 ここ十年ほど彼とぼくは共に札幌に住んでいた。ぼくは気ままな移住であり、彼の方は母親のそばで暮らしたいという理由での早期退職と聞いた。しかし互いに忙しい身と思って直(じか)に会うことを遠慮してきた。ジャーナリストで作家であっても他人との距離を大事にする人だという印象がどこかにあった。

 2017年、ぼくが館長を務めていた北海道立文学館で「チェーホフ展」を開催することになった。この著名なロシアの作家はモスクワからはるか東のサハリンに来ている。それも本業の医師として徒刑囚の疫学的な調査のために。そしてサハリンは北海道の隣の島だ。

 この催事の時、ぼくは外岡さんに講演を頼んだ。彼はこれに本気になって応じ、わざわざサハリンに取材旅行に行き、その成果を用いて充実した話をしてくれた。パワーポイントの画像の使い方がうまかった。

 まず四枚の世界地図で十九世紀後半のチェーホフの苦難の旅の背景を見せる。

 1 岩倉使節団

 2 ペリーの黒船

 3 バルチック艦隊

 もう一つは、と講壇の彼が問う。

 客席のぼくは思わず手を挙げた――

 4 八十日間世界一周、ジュール・ベルヌ

 正解だった。

 ただの知識ではない。ものの考え方の経路が同じなのだ。

 一事が万事、彼が朝日新聞の北海道版に書いていたコラム「道しるべ」を一々納得しながら読んだ。ジャーナリストとしての取材力・解析力がすごい。

 中原清一郎という(ぼくに言わせれば地味すぎる)ペンネームで書いた小説、『未(いま)だ王化に染(したが)はず』『ドラゴン・オプション』も『カノン』も読んだ。奇想を長篇(ちょうへん)化する力に感心した。

 去年、2021年の1218日、彼は北海道立文学館で「啄木と賢治――北方文化圏の旅」という講演をした。石川啄木は彼が最初に書いて文芸賞を得た小説『北帰行』のテーマでもある。才能の使い道を二択で選んで新聞の方に身を振った。

 この日の講演のために彼は九十枚以上のパワーポイントを用意した。会場には行けなかったがこの素材はぼくの手元にも届いた。九十分間、元気いっぱいで話すさまが臨場感として伝わる。

 その五日後に彼は心不全で急死した。六十八歳。

 この先、会って飲んで喋(しゃべ)って、長い時間があると思っていた。

 ぼくは未来の親友を失ったのだ。

     *

 そとおか・ひでとし 1953年生まれ。東大法学部在学中、「北帰行」で文芸賞受賞。77年に朝日新聞社に入社し、学芸部、ニューヨーク特派員、論説委員、ヨーロッパ総局長を歴任。2006年に東京本社編集局長・GEに就任し、戦時下の報道責任を検証する連載「新聞と戦争」を企画した。11年の退社後はジャーナリストとして活動。中原清一郎名義で小説「カノン」などを発表した。写真は2014年、「カノン」が刊行された頃。

 

 

 

 

 

 

 

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