天涯の船  玉岡かおる  2018.5.4.


2018.5.4. 天涯の船 上・下

著者 玉岡かおる
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三木市立三樹小学校三木市立三木中学校兵庫県立小野高等学校を経て神戸女学院大学文学部卒業。三木市立三木中学校で2年間教職に就いたあと文筆業に転向し、神戸大学の川端柳太郎に師事。子育て中の1987年、『夢喰い魚のブルーグッドバイ』で、神戸のタウン誌『月刊神戸っ子』の神戸文学賞を受賞。同作が1989年に刊行されて文壇デビューを果たす。おもに関西を舞台にした作品で多くの読者を獲得する。1997年、『をんな紋まろびだす川』が山本周五郎賞候補作になる。2008年、『お家さん』で織田作之助賞大賞を受賞。歯科医と結婚し、2人の子供をもうけて、兵庫県加古川市に在住。『ブロードキャスター』などテレビのコメンテーターとしても活動。関西テレビFNNスーパーニュースアンカーの木曜コメンテーターを担当(20094月からは月曜を、20079月までは金曜を担当)。フジテレビアナウンサー田中大貴は高校の後輩。熱狂的な阪神タイガースファン、また宝塚歌劇ファンとしても有名。2000年加古川市特別文化賞受賞。2006年兵庫県文化賞受賞

発行日           2006.1.1. 発行 (2003.2.新潮社より刊行)
発行所           新潮社(新潮文庫)

上巻
日本が近代化への道を急いでいた明治17年。下働きの少女ミサオは、米国への留学船で、姫君の身代わりに仕立てられていた。船酔いと折檻まがいのしつけの日々。が、ある夜ミサオは、運命の人・光次郎に出会う。上陸後、美しく成長したミサオは、青年光次郎と再会するが、皮肉にもオーストリアの子爵家の血を引くマックスに求婚され、二度と日本に戻らぬ決意で欧州へ嫁いで行く
下巻
実業家として成功した光次郎は、造船業でも名をあげ、片やミサオは、戦時下のヨーロッパで子爵夫人の地位を守る。時を経て2人は再び出会い、光次郎はミサオの導きで精力的に絵画収集に乗り出す。夢を追いかける男、苦難を乗り越えた女。今なお胸に秘め続ける、互いへの想いが遂げられる日は来るのか。2つの大戦のはざま、時代の波に翻弄されながらも、希望を失わなかった愛の絆


ニューヨークでアンティーク・ジュエリーの勉強をしている女性がパリのオークションで見たセンチメンタル・ジュエリーと分類される船のペンダント・トップに興味を覚え、裏に刻まれた”With Love From K”からその背後にあるストーリーを探して動き回る
ペンダントの裏が帯留めにも使えるように細工されているところから、贈られた女性は日本人に違いないと確信し、来歴を調べていくうちに、ミサオ・マルガレータ・ヒンメルヴァンドに辿り着き、その妹の孫娘が神戸にいると知って、ミサオのことを聞きにいく

姫路藩は、幕府に最後まで盾突いたため、新政府に追われる身となるが、藩主の分家筋の家老の酒井家は神戸に出て、お茶の輸出で財をなし、息子と娘をアメリカに私費留学させ、特に娘は鹿鳴館時代を迎え外国での経験がものをいうと思われての出立
ところが娘には相思相愛の男がいて、乳母がその想いを遂げさせるために、元藩士の遺児を身代わりに仕立てて船に乗せてしまう。彼女がこの小説の女主人公。乳母の企みを知った息子は洋上に出てしまったあとではいかんともしがたく、乳母は必死に身代わりを娘に仕立てるために厳しく仕込むが、船酔いと併せて逃げ出そうとするが、余計に乳母の厳しい対応に遭う。逃げ出そうとしたときに船内でちらっと目があったのが光次郎で、自分が身代わりであることを告白するが、光次郎はいかんともしがたい
一緒に留学したのが播磨・三田藩の九鬼の娘矩子で、身代わりとなった娘の妹から預かった手紙を渡し、船内で交遊を結ぶ
アメリカ上陸後は、身代わりとなった娘も観念して姫君に成りすまして学校で勉学にいそしむ
その中で光次郎の級友でもあったオーストリアの貴族に見初められ、光次郎に想いを寄せながらも、強い求婚を拒めずに結婚
貴族は若くして1人息子を残して死去、膨大な財産を継ぐことになった主人公は、第1次大戦の敗戦で没落、オークションで美術品を処分しようとしたときに、光次郎が現れる
光次郎は、帰国後神戸の川崎造船の跡を継いで初代社長に就任、第1次大戦では主人公からもたらされた戦争の情報によって、鉄を前もって手配し、船の値上がりを待ち、戦争の進捗とともに船の価格が上がり始め大もうけをする
その金を使って日本でも美術のレベルを上げなければいけないとヨーロッパの美術品を買い始めるが、見境なく言い値で買い漁る光次郎に対しそのアドバイザーとして紹介されたのが女主人公。二人の再会がお互いの気持ちを掘り起こさせる
戦後の不況と金融恐慌で光次郎の川崎造船も破綻、美術品のコレクションの一部400点だけがヨーロッパに保管されて残る
光次郎は、いずれ日本に美術館を建てて、女主人公をミューズとして迎えようと約束したが、関東大震災もあって美術館建設どころではなくなり、会社の破綻で完全に立ち消えとなり、主人公の帰国は叶わないまま光次郎は亡くなり、主人公は1人息子とともにアメリカに渡って、成功した息子とともに暮らす

あとがき
物語の出発点は、三田藩最後の藩主の娘の墓にCho((ちょう)/てふ)とあった名前で、短命で終わった彼女に代わって尋ねた妹好子の足跡から創造が始まる
好子の嫁いだ相手が現川崎重工の初代社長松方幸次郎だが、幸次郎の夢に寄り添った女たちの記録はない

参考文献
『クーデンホーフ光子の手記』 シュミット村木眞寿美/編訳 (河出書房新社刊)




評価:★★★★
 日本が激動した時代、海を渡りオーストリィ人と結婚しながら、ひとつの恋を胸に秘める少女を描く大河小説。付き人として海を渡るはずが、あるじの身代わりにされ、厳しい教育を受ける少女時代は読んでいて息が詰まるほどハードではらはらさせる。留学時代、慣れない米国で生活する様子や、最初は折檻ばかりしてきた乳母と次第にうちとけていくさま、兄との関係が変容していくさまは見ごたえたっぷりだ。後半へ向かうにつれて物語が加速し、場面が飛び飛びになってしまうのが残念。後半の恋愛以外のエピソード、たとえば子育ての話やオーストリィ貴族としての誇りを身につけていく過程も見たかった。また、女性読者を必ず惹きつけるであろう豪華絢爛なアクセサリーやドレスの描写がいい。だんだん恋愛中心に話が進んでいくところといい、古き良き少女漫画を思い出してしまうのは私だけだろうか。

評価:★★★★★
 人生には山あり谷ありとはいうけれど、これほどに波乱万丈な生き方があるだろうか。ミサオの生涯は高浪に船が翻弄されるように弄ばれている。
 この本は、アメリカに留学するために向かう船に身代わりとして乗せられたミサオが、明治初期から太平洋戦争までの長い時代を生き抜く姿と波瀾に満ちた恋愛物語を描いている。
 なによりも心を揺さぶるのは、どんな苦境にも彼女が決して潰れてしまわないところ。それは、燃え盛る炎のような激しい情熱ではない。まだ残る武士の娘という、じっと耐える日本の女性の生き方である。しかし、泣き寝入りせず、凛として努力する姿は、静かに私の心を打った。
 厳しすぎる運命にあうミサオだが、一つだけ救われるところがある。それは愛する人がいるということ。これも物語を大きく引っ張っていく主題だけれど、懸命に生きる彼女に心の支えがあるというのはうれしい。日本の成長という時代の勢いとあわせ、気持ちを高揚させてくれる一冊だった。

評価:★★★★★
 まさに大河小説。上巻では姫路藩家老の娘、美佐緒の身代わりのミサオとして、下働きの娘が蒸気船に乗せられアメリカに向かうところから、波乱の十年を経て、ヒンメルヴァンド子爵夫人となるまでを、そして下巻ではミサオと、アメリカ行きの蒸気船の中で出会った桜賀光次郎(後の川崎造船所社長)との道ならぬ恋の行方を描く。
 上巻のハイライト、ミサオが、光次郎の親友マックス(後のヒンメルヴァンド子爵)に求婚されると、ミサオに想いを寄せていた光次郎は黙って引き下がる。日本男児らしい不器用さゆえに求愛できないまま、親友に先を越され、恋と友情を秤にかけて身を引く光次郎。光次郎に想いを寄せながらもマックスの押しの一手に、最後は応えるミサオ。
 だが、互いへの想いを引きずるミサオと光次郎は、下巻では世界を股にかけて怒涛のメロドラマを繰り広げる。そこに孫文や吉田茂までが絡んでくるスケールのでかさ。もうあっぷあっぷである。完全に物語の世界に溺れてしまった。特筆すべきは、ミサオを美佐緒の身代わりとして船に乗せた計画の首謀者、お勝の造形。実に秀逸。

評価:★★★★★
 号泣! 明治、大正、昭和、三つの時代を跨いだ大河ロマン小説。アンティークのオークションに絡む手紙から始まる。どこかで聞いた様な始まり方だが、暫く我慢すると、いきなり引き込まれのめり込める、波瀾万丈の大作。
明治維新、全ての価値観が覆り、父母を亡くし転落の一途を辿る姉妹。女衒に買い取られる寸前に奇跡的に助かる。そして、本当の始まりは、青い青い大海原をいく船上。姫路藩・家老家の息女・三佐緒の世話のために同行させられた、下働きの没落武士の姉・あやねは突然ミサオに仕立て上げられる。「おひいさま」になるべく繰り返される教育、厳しい叱責。ミサオは逃走を謀った。その時、運命の人・光次郎と出会う。
与えられたのは、運命か宿命か。すり替わった人生。どちらの生き方が幸せなのかは、誰にも判らない。真っ暗闇の中で見た一条の光を頼りに、必死に足掻くだけであろう。
ミサオと光次郎にモデルがいるのも興味深い。

評価:★★★
 初めわくわく、中あれれ?、終わりよければすべてよしという感じの話だった。上下巻合わせて1000ページ近くにも及ぶ大河小説についてこんなまとめ方も乱暴なのだが。
 前半はほんとおもしろかった。駆け落ちした良家の娘の身代わりとなり、アメリカへ留学させられることになった下働きの少女。過酷な試練に耐えながら、立派な淑女に成長したミサオはオーストリア貴族と結婚するが、その心には忘れられないひとりの男性光次郎がいた。なんとやきもきさせられる展開!
 しかし下巻も半ばを過ぎてミサオと光次郎が結ばれてからが、ちょっと濃厚過ぎ!ハーレクインロマンス、ここに極まれり。別にメロドラマっぽいのが悪いとか、中年の恋がいけないとか言っているのではない。もう少し早くふたりの恋を成就させてあげればよかったのにという、純粋に主人公たちの心情を思い遣っての感想。もっと息子を大切にしてやれ、という不満がないでもないが、ハーレクインは女の夢ですから。

評価:★★★
 姫路藩家老のひいさま酒井ミサオの身代わりとして生きるように命じられた主人公の、苦難に満ちた一生涯。
初めはただの身代わり人形でしか扱われなかった少女が、アメリカでの教育を受けるため渡航を通じて自分がやるべきことを見出していく姿はいじらしく、エールを送りたくなりました。
ここに登場する女性達は、常にお家という枠組みの中で大きく束縛され、自分の意思とは全く反した人生を送っていく。
思いを寄せる人に飛び込んでいきたいのだけれど、家柄のことを考えると、そして身代わりとして嘘を突き通しながら生きている自分の事を考えると躊躇してしまう主人公。
少しメロドラマチックだなあ、なんて思ったりもしたのだけれど、それは現代に生きている自分の考え方なのかな。
明治維新頃であれば、当然のことなんだし。男女が人前で口を聞くことすらはばかられる時代なんだし。
個人的に心に残った人物は、お勝さんですねえ。
当初はとても憎々しい人物だっただけに、その後の変化していく様と主人への熱い忠誠心が素敵でした。

評価:★★★★
 明治の初め、アメリカへ渡った少女の波乱の生涯。それも表向きは旧姫路藩の家老の娘だが、実は身代わりとされた下働きの少女が、身代わりであることを隠しながら、しかも自立した人間へと成長していく生涯を描いた感動の力作。何かの作品の帯に人間と人間関係を描ききった作品と紹介されていたが、その本よりも、この「天涯の船」の方がその評価にふさわしいように感じた。主人公ミサオ(実は菊乃)と桜賀光二郎の明治、大正、昭和という3つの時代と日本、アメリカ大陸、ヨーロッパにまたがる大恋愛もさることながら、近代化を進める明治や戦争へ向かう大正の日本の様相がミサオという女性の目を通して描かれて、それもまた読む楽しみを与えてくれた。松方コレクションで有名な松方幸次郎とドイツの公爵家へ嫁いだクーデンホーフ光子、そして九鬼家の歴史にインスパイアされて書かれたのだろうが、キャラクター造形の秀逸さは、日本の女性作家では珍しいのではないだろうか。主人公と姪との巡り合いなどちょっと都合がよすぎじゃないと思うところはあるけれど、それも瑕疵と感じさせない、物語の愉悦を味あわせてくれる1冊(上下なので2冊?)であった。


「天涯の船」を読んで
作・玉岡かおる
玉岡かおる?どっかできいた名前・・・
あ、土曜日の夜、「ブロードキャスター」でコメンテーターしてる人や!
失礼ながら、この方が作家というのを知らなかった!
でも裏表紙のあらすじを見て、興味が湧いてきた。
『日本が近代化への道を急いでた明治17年。
下働きのミサオは、米国への留学船で、姫君の身代わりに仕立てられていた。
船酔いと折檻まがいのしつけの日々。が、ある夜ミサオは、運命の人・光次郎に出会う。
上陸後、美しく成長したミサオは、青年光次郎と再会するが、皮肉にもオーストリアの子爵家の血を引くマックスに求愛され、二度と戻らぬ決意で欧州へ嫁いで行く。』
上下2巻、息もつかせぬ迫力でどんどん引き込まれていった!
この青年「光次郎」こそ、かの有名な松方コレクションの松方幸次郎氏であることが、だんだんわかってきた。
氏はのちに、川崎造船所の初代社長となり、「造船王」と呼ばれ、巨万の富を得る。
そのお金で、日本に西洋美術を集めた美術館を作る目的で、数千点にも及ぶ絵画を購入する。
西洋の美術作品だけではなく、当時外国に散逸した日本の浮世絵をも収集した。
その金額たるや、今の価値に換算して数百億円といわれる!
何とも、グローバルで豪快な男がいたものである!
一方ミサオは、本物の三佐緒の身代わりとして、船に乗せられ、生涯三佐緒を演じていかなければならなかった。死ぬような辛い思いを何度もして、でも、彼女も本来は誇り高き武士の娘!いつしか本物の「レディー」として、外国の人たちからも尊敬と憧れを一身に受ける女性に成長していく。
光次郎と留学船で出会ってから、お互いに惹かれあいながらも、本心を明かせない二人。
そして米国に留学中に、光次郎の親友であるオーストリアの子爵家のマックスに出会い、彼の誠実で熱烈な求愛に、光次郎は自分の愛をミサオに告白できず、やがてミサオは欧州へ嫁ぐ。
マックスとの間に1人の息子も授かり、子爵夫人としての平和で幸せな日々が続く。
しかし、マックスの死、第一次世界大戦、やがては第二次世界大戦・・・
時代の波に翻弄されながらも、光次郎とミサオの思いは、オーストリア・フランス・イギリス・スイス・・・と舞台を変えながらも高まっていく。
旧姫路藩の武家の娘であるミサオは関西弁、旧薩摩藩の武家の子息である光次郎は鹿児島弁!このふたりのやりとりが、ずっと変わらないのはおもしろい。
ミサオがマックスと結婚して欧州へ行ったあと、光次郎も親の勧める縁談で、ミサオの留学中の親友である矩子と結婚する。夫が欧州で画廊ごとごっそり絵画を買っては、日本の家に莫大な請求書が届くのを、貞淑な妻矩子は文句も云わず金策してせっせと払っていく。
しかし、夫が欧州へ行き三年も帰らず、ミサオに心奪われてるのを、女のカンで悟った矩子は、自分の信頼する若い女中を夫の秘書にするべく、欧州へ送り込む。
夫の気持ちが、ミサオから若い女中に移ることを願う、妻のすさまじいまでのプライドだったかもしれない。
夢を追いかける男、苦悩を乗り越えた女。今なお胸に秘め続けるミサオと光次郎の、互いへの想いが遂げられる日はくるのか。
時代はうつり、世界経済も日本経済も戦争によって大きく変化していく。
光次郎の巨万の富も破綻し、世が世なら「お姫様」だった矩子を無一文にしてしまい、光次郎は矩子に両手をついて頭を下げたといわれる。
皮肉にも、ここにきてやっと夫を自分のもとに取り戻せた矩子は、女として初めて安らぎを得ることができた。
ミサオは、息子シュテファンが事業を成功させ、晩年は息子の家族と米国で平和に暮らしたといわれる。
この壮絶なドラマを読み終わって思ったのは、著者が3年間を費やして書き上げるまで、膨大な資料を研究したり、数々の取材もした上で出来上がった作品だろうという事。
読者は、ただ読み進むだけで楽しませてもらってるが、書く人は血の滲むような苦労をしたんだろうな-
あらためて、玉岡かおるさんのすごさに敬意を表したい。



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