歓喜の仔  天童荒太  2013.4.28.


2013.4.28. 歓喜の仔 上下

著者 天童荒太 1960年愛媛県生まれ。86年『白の家族』で第13回野性時代新人文学賞、93年『孤独の歌声』で第6回日本推理サスペンス大賞優秀作、96年『家族狩り』で第9回山本周五郎賞、2000年『永遠の仔』で第53回日本推理作家協会賞、09年『悼む人』で第140回直木賞

発行日           2012.11.20. 第1
発行所           幻冬舎
初出 『パピルス』29(2010.4.)44(2012.10.)連載に加筆修正

占領下の東京で、保証債務を背負った父親が若い女と夜逃げ、過酷な取り立てに窓から落ちて植物人間になった母親を抱えた3人の子どもの生活
長男誠は高校を出て働きに出るが、昼の市場での仕事に加え、取り立て屋の指図で夜の中華料理屋のバイトと覚醒剤の詰め替えの作業(アジツケ)をやらされ父親の債務の返済をさせられる。おくてで真面目一方の父親がプロポーズを渋っている間に、相談に乗っていた従兄が犯して生ませた子
次男の正二は小学校5年生、母親の世話をしながら妹の幼稚園の送り迎えをやり、夜は兄の詰め替え作業を手伝う。クラス仲間との接触を断ち、生活から色が消える
長女の香は幼稚園
3人の父親・信道は、子供の頃、渋谷のホコ天で暴走してきたトラックにはねられて両親と弟を亡くし、伯父に引き取られ、たまたま愛子の勤める会社に技術職として就職
3人の母親・愛子は、1人娘で厳格な父親に育てられ、祖父の興した会社に勤める。たまたま友人の結婚式の二次会の受付をした時信道と初めて会う。信道は伯父の息子(従兄)に頼まれて受付をしていた。さらに3か月後、鬱病から30歳で自殺した信道の会社の先輩の葬式の受付で2人は再会。なんとなく付き合いが始まり、従兄も交えた交際となる
愛子の24歳の誕生日に告白する予定が、当日仕事で抜けられなくなり、愛子はたまたま電話してきた従兄と会うことになり、その行きがかりで従兄におかされ、その勢いで愛子の方から信道を誘い結ばれる
子供が出来たのを知って、愛子の父も、何も3流の相手とは、と言いながらも結婚を認めざるを得ず
その後、愛子の父の会社は、無理な拡張が祟って他人の手に渡り、腕を見込まれて残った信道も、先行きの暗さから、鍼灸師に誘われ転職、とんとん拍子に経営が軌道に乗り、3人の子宝にも恵まれ、裕福にもなって幸せに暮らす
そこへ、従兄が投資話を持ち込み、鍼灸院の金持ちの顧客を紹介したところ、投資が失敗し、取り戻すために従兄の借金の保証人となり、結局保証債務だけが残る。多額の保証債務を纏める話で乗り込んできたのが暴力団で、信道は10年家族から身を隠して働けば自由になれると言われて、家族の前から姿を消したことになったが、実は愛子に止められて断ろうとしたときに突然死、それを見た愛子も精神障害に、さらにその場に戻ってきた正二がとっさの判断で信道を床下に埋め、誠には、女と逃げたと嘘をつく
誠は、組仲間の何人かから何回かタレこみへの誘いを受けたものの、都度断っていたが、一番信頼していた兄貴分からの誘いに乗ることを決心。ところが当日になって地元の警察の方がビビッて中止となったにもかかわらず、組のチンピラのタレこみで、当初の計画では未成年の強制労働で被害者になるはずが、覚醒剤関連の容疑者として3人兄弟のアパートもがさ入れに遭い、誠は組のものから逃げろと指示されるが、兄弟と一緒にいるべきだと思い直して捕まるのを覚悟でアパートに戻り、弟妹と一生一緒にいることを誓う。アパートからは計量器やシーラーは見つかったものの、肝心の覚醒剤は隠していたパンダのぬいぐるみをたまたま遊びに来た妹の友達が持ち出していて見つからず、微罪で済むことを暗示

若い人へ――謝辞に代えて
萌芽は16歳の時。映画監督になりたいと突然夢見て物語のヒントを書きつけるようになり、シナリオにしてコンクールに送ってみては落選する日々だった
新人賞を取った後、幾重もの山にぶつかり、自分なりに道を見出したと思えたのは十数年経ってのこと。いくつもの幸運と出会いの重なりで今に至る。この時始めて書いた短編小説が本書の基となっている。百余枚だった作品が千枚に。枚数をはじめあらゆる制約を払い、けれどあのころの初心に還り、ただ一心に自分の今のすべてを書き尽くすことに努めた。25歳の時に本当に書きたかったものはこれ、とはさすがに言えないが、25歳の、また16歳の私に、こう言いたい想いもある。君が始めた、君から始まっている。君の鬱屈や劣等感や悩みや怒りや迷い、無謀な夢と、願いの強さから始まっている、と。
そして、君は自分のことばかりでまだ見えていなかったが、君の努力とは無関係な、この国の現代という時間に生まれた縁、爆弾も地雷も身近でない場所で、あんな人、こんな人に囲まれて育った巡りあわせによって、支えられてきたんだ、と。
新人賞の審査員だった方々、直接お礼を言えないままとなった中上健次さん、20年前に初めて作品を刊行するときに過分の推薦文をくださった村上龍さんに心から感謝する。自分に「もたらされているもの」を知るきっかけを下さったことで、私はいまここにいる。


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