変  莫言  2013.5.3.


2013.5.3. 変 
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著者 莫言Mo Yan 1955年山東省高密県の「中農」と区分された農家生まれ。本名・管謨業。莫言は名前の一字を分解したもの、「言う莫(なか)れ」。政治や性のタブーに挑戦し続ける作風を主張するかのような命名。文化大革命期、小学校5年で問題を起こし放校となり、牧童や工場労働者を経て76年人民解放軍入隊。58年の戸籍制度施行により農村戸籍と都市戸籍に峻別され、農村から都市への戸籍移転は大学進学か解放軍入隊しかなかったため。上層中農の莫言は、貧農・下層中農を優先する共産党政権下では被抑圧階級で、村の幹部を買収することで実現した入隊は不利な境遇からの脱出を意図したもの。81年保定市の文芸雑誌『蓮池(れんち)』に『春夜に降りしきる雨』を発表。文才が認められ84年解放軍芸術学院(北京)入学。85年『透明な人参』で一躍有名作家となる。中国の作家では魯迅、沈従文などを好むという莫言の初期の短編群は極めて密度の濃い詩的かつ繊細な文体で読者を魅了。86年の長編『赤い高梁』が張芸謀監督によって映画化され、88年度ベルリン映画祭金熊賞受賞、莫言の名を世界的なものにする。89年の天安門事件後の一時期、中共保守派の批判を受け作品を発表できなくなるが、91年以降再び旺盛な創作活動を展開、大作を次々に発表。G. マルケス、W. フォークナーなどの影響を受けたと語る長篇は、魔術的リアリズムを駆使し圧倒的迫力で、体制批判を含みながら、文体・手法の大胆な実験も試みている。2012年中国籍作家初のノーベル文学賞。代表作に『酒国』『豊乳肥臀』『至福の時』『白檀の刑』『転生夢現』『蛙鳴』など
ちなみに魯迅は1920年代後半、ノーベル賞推薦の話を断っているが、ここにはやはり中国の世界における地位の大いなる変化が見て取れる(訳者解説にあるが、意味不明)

訳者 長堀祐造 1955年埼玉県生まれ。東大文卒、高校教員を経て早大大学院文学研究科博士課程中退。桜美林大助教授を経て、現在慶応大教授。文学博士。

発行日           2013.3.5. 初版第1刷発行
発行所           明石書店

自伝的小説

2005年ノヒーノ国際文学賞(イタリアの蒸留酒メーカー、ノニーノ家創設の文学賞。1984年に外国文学作品賞創設)受賞のためイタリアの北東部ウディーネに行った時、インド・コルカタのある出版社の編集者と知り合い、中国で30年来起きたとてつもない変化を描いてくれと頼まれ、「好きなように、好きなことを書いて」と言われて断りきれずに筆をとったものの、私には「好きなように書く」ことも「好きなことを書くこと」も出来ないのが初めて分かった

1969年当時の青島の小学校を放校された後の思い出が蘇る
烈士(革命のために犠牲になった人)の息子で数学の教師だった劉天光に、口が大きかったことから、「劉カバ→劉ガマ」と綽名を付けた張本人とされ放校処分に ⇒ 実際は、著者自身も後に『大口』という短編を書いたとおり、同病相哀れむ形で劉ガマを尊敬していた
いつもドジで、母親からも、「お前は〈吉報を伝えるフクロウ〉と」言われていた ⇒ 汚い声で鳴く、という中国の謎掛け言葉
放校された後も学校が好きで、追い出されるのと潜り込むのとイタチごっこをやっていた
73年綿花加工工場をやっていた叔父のコネで臨時工として雇われるが、農民という身分は変わらず、大学への推薦枠にはとてもは入れず、そこから抜け出すために兵隊に応募、毎回不合格だったが、76年漸くコネがうまくいって入隊
隊内で勉強したのが役立って、訓練大隊の教員に異動
76.9. 毛沢東の死 ⇒ 論理を超えた衝撃で、「血が裂けるような感覚」だったという ⇒ 毛沢東の死で中国は終わりだと考えたが、2年後天安門に行って、毛沢東の死が周囲にいい変化をもたらしていることに気付く
81年 『蓮池(れんち)』に『春夜に降りしきる雨』を発表
82年 士官昇進という破格の抜擢
84年 解放軍芸術学院文学科合格して感激
88年 北京師範大学と魯迅文学院共同運営の文学大学院院生クラスに入学
90年 リベラル派として『人民文学』誌上で名指しの批判を受ける
小学校時代の友人を通して、資本主義化した中国の経済発展の栄光と腐敗の象徴的な話を展開 ⇒ 改革開放で金儲けに成功した典型的人物を描写するとともに、自らはその誘いの乗らなかったことで、拝金主義と腐敗に否(ノン)を突き付けている


訳者解説
本書は、ソ連・中国などの失敗に終わった社会主義を回顧するというタリク・アリ編『ベルリンの壁崩壊』叢書”What Was Communism?” 1
文化大革命から改革開放30年を経た今日までの中国を、自伝文学というスタイルを貫きながら描き上げた
被抑圧体験を経た生活者としての庶民的観点と、そこを起点とした作家としての批判的精神とを、2つながら保持して書くというぎりぎりの線を歩んでいる。見事な二重性と言えるが、そこに危うさを見る人たちがいるのも事実
本書内で自らのことを「莫邪(ばくや)」と命名しているが、「邪(よこしま)()し」とも読め、「邪」が跋扈する現代中国を揶揄するような命名


変 莫言著 時代の変化を描く自伝的小説 
日本経済新聞朝刊2013年4月142013/4/14
 現代中国を代表する作家莫言(ばくげん、モーイエン)による自伝的小説である。短編に近い中編小説でありながら、1949年人民共和国建国前に父親が豊かな自作農であったため政治的差別と貧困、そして「容貌奇怪」に苦しんだ少年期、人民解放軍に入隊し、小学校中退ながら独学で訓練大隊の教員となり、やがて創作を開始する青年期、そして世界的大作家となる中年期という人生の大変化が、ペーソスたっぷりに語られている。
(長堀祐造訳、明石書店・1400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)
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(長堀祐造訳、明石書店・1400円 書籍の価格は税抜きで表記しています)
 そのいっぽうで、故郷の幼馴染みや解放軍の上官・戦友のエピソードにより、時代の変化も生き生きと描いている。高級インテリ政治犯たちが小学校代用教員を務める傍らで、エリート国営農場では朝鮮戦争(50年開戦、53年休戦)の英雄がソ連製のトラックGAZ51を乗り回していた人民共和国毛沢東時代(~76年頃)、故郷の駅前の国営食堂を個人営業の店が圧倒していくトウ小平時代(~97年)、そして小学校時代の悪友が共産党官僚と結託し、不動産投資で成金へとのし上がっていくポストトウ小平時代という具合である。
 それにしても、朝鮮半島の戦場で烈士の鮮血を車体に塗り付けたGAZ51は霊性を帯びて精霊に化身する、という解放軍ベテラン運転手の述懐を聞いて、語り手の「私」が軍用トラックと農場の同型トラックとが恋愛し、交尾して子トラックを産む夢を見るとは、中国魔術的リアリズムの面目躍如たるところがある。しかも結末部では、農場トラック運転手の娘であった美少女が、共産党地元エリートたちと不幸な結婚を繰り返したのちに、娘の芸術学校入学の口利きを頼みに、2010年頃に「私」を訪ねてくるのだ――1万元(約13万円)の賄賂持参で……
 莫言は昨年12月のノーベル文学賞受賞記念講演「物語る人」で、「私は一人の物語る人です」と語った。確かにコンパクトながら本書でも、激変する人生、激動する中国において習得されてきた物語りの絶技が、余すところなく披露されているのである。
(東京大学教授 藤井省三)


Wikipedia
莫言(ばく げん、モー・イエン、1955217 - )は中華人民共和国作家。本名は管謨業(かん ぼぎょう、コワン・モーイエ)。筆名は「言う莫(なか)れ」を意味する。
山東省高密市の農村で生まれ育ち、60年代の文化大革命のために小学校中退を余儀なくされた。1976人民解放軍に入隊。軍に在籍しながら執筆活動をはじめ、1985の『透明なにんじん』で注目される。故郷を舞台に抗日戦争を描いた『赤い高粱(コーリャン)』(1987)は張芸謀(チャン・イーモウ)監督で1988に映画化され、ベルリン映画祭で金熊賞を受賞している。
ガブリエル・ガルシア=マルケスウィリアム・フォークナーの影響を受け、マジックリアリズムの手法で中国農村を幻想的かつ力強く描く作風。『豊乳肥臀(ほうにゅうひでん)』は「露骨な性的描写が多い」として、中国では一時発売禁止となっていた。その他の作品に『酒国(しゅこく)』『白檀(びゃくだん)の刑』など。2006には福岡アジア文化賞を受賞。2009の『蛙鳴(あめい)』では一人っ子政策のタブーに挑み、2011に同作品で中国文学の最高権威茅盾文学賞を受賞している。
20121011、「幻覚的なリアリズムによって民話、歴史、現代を融合させた」としてノーベル文学賞を受賞。中国系の作家では2000高行健1987フランスに亡命)が同賞を受賞しているが、中国籍の作家としては初[2][3][4][5] 莫言は中華人民共和国検閲中国のネット検閲金盾)を容認するなど「体制側の作家」との批判を受けており、2009ノーベル文学賞を受賞したヘルタ・ミュラーがその受賞を批判した[6][7]
著作 [編集]
年は日本語訳の刊行年
小説 [編集]
『赤い高粱』 井口晃訳、徳間書店19894月。 - 監修:松井博光野間宏
『赤い高粱』続、井口晃訳、徳間書店、199010 - 監修:松井博光野間宏
紅い高粱 井口晃訳、張競解説、岩波書店20031216日。
「秋の水」『中国幻想小説傑作集』 竹田晃編、藤井省三訳、白水社199012月。
『中国の村から 莫言短篇集』 藤井省三長堀祐造訳、JICC出版局19914月。 - 収録:「秋の水」、「古い銃」、「白い犬とブランコ」、「片手」、「金髪の赤ちゃん」、「わたしの「墓」」。
「縄・前歯」『笑いの共和国 中国ユーモア文学傑作選 藤井省三編、藤井省三訳、白水社、19926月。
『花束を抱く女』 藤井省三訳、JICC出版局、199210月。 - 収録:「透明な人参」、「蠅・前歯」、「花束を抱く女」、「莫言インタビュー」。
「女郎遊び」『ノスタルジア 今福竜太ほか編、藤井省三訳、岩波書店19961118日。
酒国 特捜検事丁鈎児の冒険 藤井省三訳、岩波書店、19961025日。
現代中国短編集 藤井省三編、平凡社19983月。 - 収録:「良医」、「お下げ髪」。
豊乳肥臀』上下、吉田富夫訳、平凡社、19999月。
至福のとき 莫言中短編集 吉田富夫訳、平凡社、20029月。 - 収録:「至福のとき」、「長安街のロバに乗った美女」、「宝の地図」、「沈園」、「飛蝗」。
白檀の刑』上下、吉田富夫訳、中央公論新社2003725日。
白檀の刑』上下、吉田富夫訳、中央公論新社2010925日。
白い犬とブランコ 莫言自選短編集 吉田富夫訳、日本放送出版協会20031025日。 - 収録:「竜巻」、「涸れた河」、「洪水」、「猟銃」、「白い犬とブランコ」、「蠅と歯」、「戦争の記憶断片」、「奇遇」、「愛情」、「夜の漁」、「奇人と女郎」、「秘剣」、「豚肉売りの娘」、「初恋」。
四十一炮』上下、吉田富夫訳、中央公論新社、2006310日。
転生夢現』上下、吉田富夫訳、中央公論新社、2008210日。
『犬について、三篇』 東アジア文学フォーラム日本委員会編、立松昇一訳、トランスビュー〈中国現代文学選集 2〉、201011月。
牛 築路 菱沼彬晁訳、飯塚容解説、岩波書店、2011216日。
蛙鳴(あめい) 吉田富夫訳、中央公論新社、2011525日。
評論 [編集]
「吉田先生について」『吉田富夫先生退休記念中国学論集』 吉田富夫先生退休記念中国学論集編集委員会編、汲古書院20083月。
オルハン・パムクの世界 大きな「雪」のこと」『トルコとは何か』 藤原書店〈別冊『環』 14〉、20085月。
台本 [編集]
「ボイラーマンの妻」『動乱と演劇 ドラマ・リーディング上演台本』 菱沼彬晁訳、国際演劇協会日本センター〈ITI紛争地域から生まれた演劇 その3〉、20123月。 - 平成23年度文化庁次代の文化を創造する新進芸術家育成事業。
映画化作品 [編集]
紅いコーリャン』(製作年:1987年 張芸謀監督 原作『赤い高粱』 1988ベルリン国際映画祭金熊賞受賞)
至福のとき』(製作年:2002年 張芸謀監督 原作『至福のとき』)
故郷の香り』(製作年:2003年 霍建起監督 原作『白い犬とブランコ』 第十六回東京国際映画祭東京グランプリ受賞)
脚注 [編集]
1.    ^ “The Nobel Prize in Literature 2012 Mo Yan” (英語). Nobelprize.org (20121110). 20121110日閲覧。
2.    ^ Jasmine Wang; Sandi Liu (20121011). “Mo Yan Wins 2012 Nobel Prize in Literature, Academy Says” (英語). Bloomberg (Bloomberg)20121110日閲覧。
3.    ^ Jasmine Wang; Sandi Liu (20121012). 中国、ノーベル賞に異なる対応-莫言氏は劉暁波氏の釈放求める (日本語). ブルームバーグ(ブルームバーグ) 20121110日閲覧。
4.    ^ ノーベル文学賞に莫言氏 中国国籍の作家で初 (日本語). 中国新聞 (中国新聞社). (20121011) 20121110日閲覧。
5.    ^ 内藤泰朗; 川越一 (20121011). 村上春樹氏また受賞逃す 中国の莫言氏がノーベル文学賞 (日本語). MSN産経ニュース (産経新聞社). オリジナル20121110日時点によるアーカイブ。 20121110日閲覧。
6.    ^ 莫言氏へのノーベル文学賞は大失敗独女性作家読売新聞. (20121125) 20121125日閲覧。
7.    ^ 莫言氏への授賞「破滅的」 09年のノーベル賞受賞者 47NEWS. (20121125) 20121125日閲覧。

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