わかったつもり  西林克彦   2026.10.3.

 2026.10.3.  わかったつもり 読解力がつかない本当の原因

 

著者 西林克彦 1944年台湾・高雄市生まれ。教育心理学者。東北福祉大学総合福祉学部社会福祉学科教授。1967年東京工業大学理工学部卒業、1974年東京大学大学院教育学研究科博士課程中退。1976年より宮城教育大学講師、1991年同大学の教育学部教授就任、2010年4月より東北福祉大学総合福祉学部社会福祉学科教授。2025年、瑞宝中綬章受章。著書選『間違いだらけの学習論』

 

発行日            2005.9.20. 初版発行          2025.4.20. 39刷発行

発行所            光文社 新書

 

 

はじめに

本書は、文章をよりよく読むためにはどうすればよいのかを述べたもの

その際の最大の障碍は、自分自身の「分かった」という状態

本書は、授業実践の研究会「仙台月いちの会」の活動が抜きには考えられない

 

第1章 「読み」が深まらないのはなぜか?

1.  短い物語を読む

2.  「わからない」と「わかる」と「よりわかる」

部分間に関連がつかないと、「わからない」という状態を生じる

 

3.  「わかったつもり」という困った状態

「わかったつもり」の状態は、放っておくと進展しない。かなり意図的に対策を講じないと脱出は難しい

 

第2章 「読み」における文脈のはたらき

1.文脈がわからないと「わからない」

言葉や単語がわかっても、何の話かがわからなければ、話はわからない

あることがらに関する、私たちの中に既に存在しているひとまとまりの知識を「スキーマ」と呼ぶ。「何の話」=文脈かがわかると、その関連のスキーマが「活性化」され理解が深まる

 

2.文脈による意味の引き出し

3.文脈の積極的活用

文脈を色々活用することにより、文章の理解が進む

 

第3章 これが「わかったつもり」だ

1.「全体の雰囲気」という魔物(その1)

文章における「全体の雰囲気」が、「部分の記述」から、「全体の雰囲気」に都合のよい「意味を引き出し」てしまう。「雰囲気」とは、読み手が勝手に読み取った「文脈」に他ならなず、勝手に「雰囲気」に合った理解をしてしまう

 

2.「全体の雰囲気」という魔物(その2)

3.「わかったつもり」の手強さ

『正倉院とシルクロード』では、明確に「シルクロードを通ってイランからやってきた」確証があるのは没食子だけにも拘らず、読者の多くがいくつもの宝物がやってきたと思い込む。さらに、世界から伝わる多くの文化財が収蔵され、昔のままの姿で残されているのは珍しく、「世界の宝庫」と呼ばれるとの記述についても、確証がないまま記憶に刷り込まれている。丹念に読み込むことによって、最初の「わかったつもり」を壊すと、次なる矛盾が出てきて、「よりよくわかる」ための契機となる

 

第4章 さまざまな「わかったつもり」

1.「わかったつもり」を作り出す“犯人”たち

「わかったつもり」は「物足りない読み」がもたらすが、さらに、「間違った読み」からも「わかったつもり」は引き起こされる

「正倉院が世界の宝庫」という文脈は、「わかり過ぎる」ほどに存在して、かなり刷り込まれているため、その部分が読み飛ばされて内容を深く理解しようとしない

部分の記述が比較的「新鮮」に感じられるなら、あまり「読み飛ばし」されない

部分の読みが不十分だったり間違ったりしていると、間違った「わかったつもり」が成立し、そのどちらも本質的な違いはない

 

2.文脈の魔力

文脈は「諸刃の剣」で、適切な文脈がなければ「わからない」状態を引き起こすが、存在する文脈が強力であればあるほど、それによる間違いを引き起こす可能性が高くなる

「わかったつもり」がどのような文脈によって引き起こされるのか

①    文章の構成そのものから、読み手がミスリードされやすい「わかったつもり」が存在する――文章の結末に強く影響された文脈を、読み手が作り上げ、それを使って各部分を読み間違うことで、「わかったつもり」に誘われてしまう

②    「いろいろ」というわかったつもり――「いろいろあるのだな」と認識した時点で、実は人はそれ以上の追求をやめてしまう。個別に詳述されていても、一般論の段階で思考停止する

 

3.ステレオタイプのスキーマ

もともとステレオタイプ化された「勧善懲悪」や寓話的枠組みでの読み取りなどが生じる可能性が大きい――読み手が自分の持っている「ステレオタイプのスキーマ」を文章に簡単・粗雑に当てはめてしまうことによって、間違った「わかったつもり」や不十分な「わかったつもり」を作り出してしまうことがある

Ex. 「鶴の恩返し」では、鶴がただ男と一緒に楽しく過ごしたくて男の下に来て機を織ったと書いてあっても、恩返しのために機を織ったと間違って読んでいるケースがほとんど

 

第5章 「わかったつもり」の壊し方

1.「わかったつもり」からの脱出

まずは、自分は「わかっている」と思っているが、「わかったつもり」の状態に過ぎない、と明確に認識することが必要

慣れ親しんでいるスキーマを意識しながら文章にあたり、それに反する部分を意識的に見つける

自分が「どうも通りのよい、当たり障りのない解釈・読み取り」をしているなと感じたら、文章に誘発された「ステレオタイプのスキーマ」の魔力を疑ってみる。文章を読んで概略や解釈を述べる時に、「当たり障りのないきれいごと」が出てきたら要注意

記述の「まとめ」と「例示」が対応しているか。論の運びの上で大きな隙間を、「当たり障りのないスキーマ」を使って、自分で勝手に埋めていないか

「部分を読む文脈」を交換していくことによる効果は絶大。「文脈の交換」によって、その時々における「わかったつもり」を壊しながら、読みが進展していく

①    「わかったつもり」の状態

②    「新たな文脈」によって、新たな意味を見出す

③    見出された意味を、既存の「わかったつもり」との矛盾の発見

④    新たな矛盾を関連付けた「よりわかった」状態

自分が気に留め、積極的な「文脈の交換」によって矛盾を発見することによってしか、新たなものは見えてこない。できるだけ開かれた姿勢を保って、探求を果てしなく続ける

 

2.解釈の自由と制約

一読後の「わかったつもり」からの脱出が最も困難。一旦そこを抜けると、後は矛盾などが次々に見つかり、それなりに対応していけば、少しづつ「読み」が深まる

自らの解釈の「正しさ」を信じたり、強調すれば、他の解釈を排除することに繋がる

解釈が妥当か否かを「正しさ」に求めるのではなく、周辺の記述や他の部分の記述との「整合性」だけに求めるべき、というのが筆者の考え

 

3.試験問題を解いてみる

「整合性」を満たさない解釈は受容できない

ただし、現在の国語教育では、文章の解釈は自由であっていいと言いながら、実際の授業や試験では、ただ1つのものが正答とされる

整合性のある解釈は、複数の存在が可能

 

4.まとめ

①     部分間の関連がつかないと、「わからない」状態を生じる

②     文脈の交換によって、異なった意味をうまく引き出す。文脈に引き出されたそれぞれの意味の間で関連が出来ると文がわかる

③     「わかったつもり」になりやすい原因として、i)文章の構成に読み手が惑わされたためと、ii)読み手の既存のスキーマに影響される場合、がある

④     新たな文脈の導入などにより、新たな矛盾や無関連を引き出し、新たな関連付けを見出して「わからない」から「よりわかった」状態へ

⑤     読み手の「想像・仮定」の構築によって、「読み」を深めていくが、そこに立ちはだかるのが現在の国語教育――整合性がある限り、複数の「想像・仮定」=「解釈」があっていいし、その限りで正答は1つに限らない

 

 

 

 

 

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後から考えて不充分だというわかり方を、「わかったつもり」とこれから呼ぶことにします。この「わかったつもり」の状態は、ひとつの「わかった」状態ですから、「わからない部分 が見つからない」という意味で安定しているのです。わからない場合には、すぐ探索にかかるのでしょうが、「わからない部分が見つからない」ので、その先を探索しようとしない場合 がほとんどです。
「わかる」から「よりわかる」に到る過程における「読む」という行為の主たる障害は、「わかったつもり」です。「わかったつもり」が、そこから先の探索活動を妨害するからです。
(本文より一部改変して抜粋)

【「わかったつもり」のパターン】
□
「間違った」わかったつもり → 部分の読みが不充分だったり、間違ったりしている
□
「結果から」というわかったつもり → 文章の結末に強く影響される
□
「最初から」というわかったつもり → 文脈・文章全体の雰囲気に惑わされる
□
「いろいろ」というわかったつもり → 「ものごとにはいろいろある」という認識が、それ以上の探索を止めさせる.

 

 

 

(売れてる本)『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』 西林克彦〈著〉

2026年7月25日 朝日

 ■「暗黙の常識」が誤読させる

 読書についての啓蒙書は数多く出版されている。最近では「読解力が足りない」ことについて様々な書籍や媒体で警鐘が鳴らされているが、本書はこの問題にユニークで、認知心理学的に「絶対間違いのない」観点を提供している。

 人は文章を読むとき、使われている単語や文法がすべて理解できてもその意味を理解できない。まず、その文章が何についてのものか見定めて、そのことについて(認知心理学で「スキーマ」と呼ぶ)自分が暗黙に持っている常識を発動させ、行間を埋め、自分で文意についての仮説を構築しながら文章を読み進めていく。しかし、スキーマで行間を埋めるときに、文章には書かれていないことを「書かれている」と思い込んだり、読み飛ばしをしてしまい、誤読してしまう。つまり、スキーマという常識を使ってテキストを理解することは、絶対に必要でありながら、誤読も避けがたい「両刃の剣」なのである。

 だれもが「わかっていたと思っていたが実は誤解していた」という経験があるはずだ。その理由がわかり、すっきりする。ありがたいことに「スキーマの罠」から逃れる心構えも伝授してくれる。ハウツーの解決法ではないが、だからこそ本書の知見は時を超えた普遍的な価値をもち、20年以上前に出版されてから売れ続けている稀有なベストセラーになっているのだろう。

 私は子ども時代からずっと国語だけは得意で、読解力はあると思っていた。しかし、本書によって、自分も誤読の罠に搦めとられていたことに気づかされた。認知心理学者の私もまた、人類に普遍的な認知バイアスである「わかったつもり」のことをよく知ってはいても、それから逃れることはできないことを思い知らされたのであった。

 今井むつみ(認知心理学者)

     *

 光文社新書・770円。05年9月刊。42刷22万3千部。「タイパやコスパが重視される現代だからこそ、脳の認知メカニズムにさかのぼって『正しく読む技術』を説く本書の価値が多くの方に再評価されている」と担当者。

 

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