オイルマンが書いた マルチ石油学入門  山崎時男  2023.11.8.

 2023.11.8. オイルマンが書いた マルチ石油学入門 化学知識から政治経済まで

 

著者 山崎時男 1931年生まれ。54年東大法卒。日商(現日商岩井)入社(石油担当)64年モービル石油入社。73年同社スエズ以東製品需給企画部長。74年同社取締役(需給・海運担当)、常務営業本部長、専務、副社長歴任、93年顧問退任

 

発行日           1994.10.4. 初版発行          1995.2.10. 第2刷発行

発行所           大空社

 

はじめに

エネルギーの現代の主役が石油。化学合成の原料としても幅広く使われている

54年総合商社に入り石油部門に配属。国内炭が年産50百万トンあり、石油の総需要は9百万kl(現在の1/25)。商社の石油業といっても低硫黄重油の輸入が大半で、カリフォルニアが主な供給地。以後石油は急成長し、日本では62年に、世界的には67年に、1次エネルギーの首位となる。第1次石油危機から20年経た今日では、供給面での不安は解消、価格も円建ての実質価格では石油危機以前並みにまで下がり、脱石油も進まず

40年業界に携わり感じてきたのは、石油は案外知られていない商品だということ

世界的に消費地精製方式が採用された理由、我が国がどれだけそのメリットを生かしてきたのか、内外価格差などを分かりやすく説明するための石油入門書を目指す

 

第1章        石油とは何か

原油Crude Oilから作り出されるもののうち、製油所Refineryで直接作り出されるものを石油製品と呼び、石油化学製品など、23次的に作られるものと区別。製油所で作られるもののうち、液体のガソリン、灯油、軽油、重油、潤滑油などを狭義の石油製品といい、本来は気体であるLPGや、固体のアスファルト、ワックス等は石油類と呼んで準石油製品扱いにしている

 

1. 原油の生い立ちと化石燃料

原油の成り立ちは、有機説が多数で、ケロジェン説が最有力。それを根拠に探索が進む

天然ガス、石油、石炭を化石燃料Fossil Fuelと呼び、主成分は炭素化合物。石油と天然ガスは炭化水素Hydrocarbonのみ

2. 天然ガスの成分

主にパラフィン系で、9割がメタン。沸点(162)以下に冷却すると液化して体積が1/580以下になる

3. 原油の成分

炭素数5のペンタン以上の炭化水素の混合物。石油製品は、特定の範囲内の炭素数を持つ炭化水素の混合体(ガソリンは512、灯油は918、軽油は1423、重油は16以上)

4. 原油の種類

軽質・重質原油――炭素数の少ない原油を軽質(API比重35以上)、多い原油を重質原油(30以下)、中間を中質原油と呼ぶ。92年度の日本の輸入原油の平均比重は35.8

低硫黄・高硫黄原油――不純物のうち最大の硫黄の含有量による分類。2.5%以上が高硫黄

石油の数量は、華氏60度換算のバレル(Bbl6.29Bbl1kl1Bbl159リットル、ドラム缶(200リットル)8分目)で表示

5. 原油の仲間たち

コンデンセート――NGL(天然ガス液)。天然ガスが地上の常温で液化したもの

ヘビーオイル/オイルサンド――タール状の超重質原油(API15以下)

オイルシェール――油母頁岩(ゆぼけつがん)

 

第2章        原油の探鉱・開発と生産

原油を生産するまでの段階を上流部門、輸送・精製・販売などを下流部門と呼ぶ

1. 探鉱

有機説に基づき探鉱活動が行われている

2. 開発

3. 生産

4. 原油の埋蔵量

5. 鉱業権

6. わが国の海外石油開発

 

第3章        石油の精製と製品

原油の精製は1847年頃より、灯火用として灯油Keroseneを取り出すことから始まる

1. 常圧蒸留

2. 石油製品

ガソリン(揮発油)――最も重要な性能が揮発性Volatilityとオクタン価Octane Number

ナフサNaphtha(粗製ガソリン)――最も軽質な液体留分。石油化学の原材料

灯油Kerosene――家庭用の白灯油で最高品質

ジェット燃料――高燃焼性や低温流動性が求められる

軽油――ジーゼルエンジン用、熱効率がよく高出力

重油――産業用燃料

潤滑油――工業用として性能は千差万別

ワックス――パラフィンワックスと呼ばれ、ろうそくや紙の耐水性や硬度を高める用途

アスファルト――90%が道路舗装用

LPG(液化石油ガス)――プロパンやブタンなど混合比率により7種類、燃料や石油化学用

3. 2次精製

 

第4章        石油の需給と価格

1. 需給の均衡化

消費地精製方式――石油製品の種類や量が多くなるにつれ、原油を消費地に運んで精製するほうしきで、第2次大戦後欧州向けの米国のマーシャル・プラン提供の一環として開始

2. 原油と製品の価格

3. 海上輸送と保険

4. 輸入金融と為替

 

第5章        世界の石油産業

1. 石油産業の歴史

1838年フランスのローランがオイルシェールから、46年にはカナダのゲスナーが石炭から、それぞれ灯油を作ることに成功。47年には英国のヤングが原油から蒸留と硫酸洗浄により無色・無臭の灯油のほか、潤滑油やパラフィン・ワックスを作り出し、石油精製の祖といわれる。炭坑付近で湧出した原油のみで、2年後には原油が涸渇

1854年、ペンシルベニア州タイタスビルで弁護士のビゼルが世界初の石油会社ペンシルベニア・ロック・オイル設立、水面に浮かぶ原油を医薬用に売る。原油採掘はドレークが別会社のセネカ・オイルを設立し、59年出油に成功、近代石油産業が誕生

1863年、ロックフェラーはオハイオ州クリーブランドに製油所設立、70年スタンダード・オハイオとし、本格的に石油の精製・販売に乗り出す。79年には全米の精製能力の90%を支配。80年代半ばにはオハイオ、インディアナ両州で油田が発見され上流部門にも進出。82年には36の石油会社を実質支配するスタンダード・オイル・トラストを設立。99年にはスタンダード・ニュージャージーを設立して持株会社支配に移行

1911年反トラスト法訴訟で解散命令を受け、33の独立した会社に分割されたが、スタンダードと名の付くニュージャージー(Exxon)、ニューヨーク(SOCONY、現Mobil)、カリフォルニア(SOCAL、現Chevron)、インディアナ(AMOCO)、オハイオ(SOHIO、現BP US)のほか、コンチネンタル(CONOCO)、マラソン、アトランチック(ARCO)など、ほとんどが単独でも大企業。ニュージャージー、SOCONYSOCALはメジャー

メモ: Exxonはニュージャージーの半分の資産と名称を引継いで発足したが、商標にはスタンダードオイルの頭文字をとってそのままエスオーEsso”と読んだもの、世界中何語で読んでも同じ発音。しかしスタンダード本家の響きがあり、同じスタンダードの名の付く他社もあるので問題となり、72年に商標と共に社名もエクソンに変えた。改名に当たっては大変な費用をかけ何万という候補名の中から選んだが、最有力候補のエンコEnco”は、日本語の意味から落とされた。改名後も世界中の社名やマークを変えるのには膨大な費用がかかるので、日本をはじめ特に問題のない国々では引き続きエッソを使う

1890年代初め、ロサンゼルス近郊のSan Joaquin Valleyで大油田発見、ユニオン・オイルUNOCALが誕生、1901年にはヒューストンで大噴出があり、テキサス会社TexacoとガルフGulf(メロン財閥)誕生

1884年、スマトラ島で油田が発見され、オランダ人によりロイヤル・ダッチ社が設立され一貫操業を開始

2. 戦後の展開

3. 主要組織と会社

OPEC

国際エネルギー機関IEA――主要消費国間で国際エネルギー計画に関する協定締結し、OECDの下部機構として設立

 

第6章        日本の石油産業

1. 石油産業の歴史

668年、越の国(新潟)から燃える水が大津宮に献上されたとの記述が日本書紀にある

石油の本格的利用は、維新後米国からランプと共に灯油が輸入されてから

2. 戦後の発展

1947年、石油配給公団設立――米国の援助資金による輸入製品を公定価格で配給

50年以降太平洋岸の製油所再開。49年より国際大手石油会社との資本提携開始

 

終章 環境問題とエネルギーの流れ

1. 環境問題の発展

2. 炭酸ガス対策

3. 代替エネルギー

4. 環境対策をめぐる問題点

5. 炭素税(環境税)

6. むすび

 

 

 

 

(天声人語)ジャニーズ事務所の改名

20231020

 米国のある石油大手が、ブランド強化のため新たな社名をつけることにした。コンピューターに意味のない文字列を作らせて発想を広げる。いくつもの候補の中から選んだのは、Encoだったガソリンを売る会社が「エンコ」とは、これいかに。若い方はなじみが薄いかもしれないが、日本でエンコといえば、乗り物の故障を意味する俗語である。そりゃダメだと差し替えられて、結局「エクソン」に落ち着いた。山崎時男著『オイルマンが書いたマルチ石油学入門』が伝えるエピソードだ社名や商品名は最も短い自己紹介文だ。音の響きや伝える意味が大事になる。先日の記事にあった横文字を訳せば「微笑(ほほえ)む」か。長年の性加害が明るみに出たジャニーズ事務所が「SMILEUP.(スマイルアップ)」に名を改めた。一人でも多くの皆様が笑顔になれるように、と公式ページは語っている被害者への補償に専念し、タレントのマネジメントなどは別の会社が担う。そちらの名前は、月末までファンクラブで公募しているというネーミングが功を奏した例に、ネピアの「鼻セレブ」がある。かつて「モイスチャーティシュ」として店頭に並んだが、いま一つだった。中身は全く同じなのに、改名で売り上げは急増した名は変われども中身は同じ――スマイル社や新会社は、そうであっては困る。救済を求める被害者に誠実に向き合い、調査報告書で指摘された社内体質の閉鎖性を改める。信頼の回復は、ようやくそこから始まるはずだ。

 

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