一冊まるごとヴァイオリン  Albert 荘仲平  2014.10.15.

2014.10.15. 一冊まるごとヴァイオリン その歴史と美、製作と保全

著者 Albert 荘仲平(チョンピン チュワン) 1949年台湾高雄市生まれ。国立高雄工専機械科、国立台湾工業技術院工程管理科、英国リッツ大学工程管理研究所修士。台湾工業技術院講師歴任。ヴァイオリン製作、修理、研究に十余年にわたり従事

訳者 田中良司 1941年東京生まれ。ピアノ講師。台湾師範大(音楽学系)講師、経済部中央標準局委員歴任。バベル翻訳・外語学院(中国語)修了。()タナカアジアネットワーク主宰。日本ピアノ調律師協会参与。

発行日           2013.11.15. 初版発行
発行所           芸術現代社

『音楽現代』1410月号に広告
この奇抜なタイトルの奥に秘められた、ヴァイオリンの美しい夕映え、残照
現代社会の人の心に煌めき、さらには心の暗闇を癒す深い響き
ヴァイオリン製作者の眼に映った、16世紀ルネサンス時代の極め付けの工芸の世界、希代のプロジェクト、その精華、400年もの時を過ごしてきた楽器、演奏家、聴衆との一期一会。やがて再び歴史に埋もれた壁への回帰
人の心に無限に広がる憧憬、情熱、静寂、魂への回帰

日本の読者に寄せて
子供の頃から台湾でもあった鈴木ヴァイオリンが憧れだった
台湾の奇美(チメイ)博物館のヴァイオリンコレクションは世界的に知られる
現在では中国が世界のヴァイオリンの80%を生産
ヴァイオリンの前身楽器とも言われる多くの弓奏楽器は、もともと東洋の文化の中で育まれてきたものが、西洋にもたらされ、奏者や製作者と共に進化を重ねて現在の姿に発展してきたが、その発展のエネルギーとなったのも、自由な精神と絶えざる研究や努力、それを育む環境があったから

第1章        ヴァイオリンの歴史
世界の弓奏楽器の起源と進化 ⇒ 諸説あるが、現代のヴァイオリン属が17-18世紀に現れると、それまでの弓奏楽器が淘汰され、モダン・ヴァイオリン属の進化の幕開けとなる
弓を使って弾く弦楽器が最も早く現れたのはアジアで、5000年前のインド・アーリア人の古書に「ラーヴァナストロン」という楽器が登場。どんな形かは不詳
胴を立てて弾く弓奏楽器のルーツは、アラビアの「ラバーブ」で、琵琶に似た外形
より精緻な「ヴィオール(英国名、イタリア人は「ガンバ」)」に進化、15世紀にはヨーロッパ宮廷に普及
「エンシェント・ヴァイオリン」とも呼ばれるが、腕に抱えて弾く楽器とは区別される
ルネサンスからバロックにかけてブームになり、ヴィヴァルディやバッハもヴィオールの曲を作っている
腕で抱えて弾く弓奏楽器の起源は、紀元前にエジプトからヨーロッパに伝わった「リラ」(「クルート」とも呼ばれる)で、最古の記述は11世紀のフランスの吟遊詩集の挿画にある
最初は、ピックか指を使って歩きながら弾いていたので、弓で弾く擦弦楽器ではなかったが、9世紀には弓を使った記述がある
ヴァイオリン属を今日の発展に導いたのは、ドイツのバヴァリア生まれでリヨンに移住した革新的なヴァイオリン製作家カスパー・ティーフェンブルッカー。15世紀に生まれ、工芸の手仕事を得意とした。リヨンと北イタリアに別れて移り住み、ヨーロッパの注目を集めたが、オーストリアの弟子がドイツ流派の祖となったヤコブ・スタイナー兄弟で、プレシアのガスパロ・ダ・サロやクレモナのアマティへも影響を与えている
文献上初めて「ヴァイオリン」という言葉が使われたのは、1523年に北イタリアで書かれたビジネス書の中
誰がいつ発明したのか、正確なところはわかっていない
発祥の地として最も可能性が高いのは、北イタリアのプレシアで、16世紀初め、ルネサンス最盛期の頃
当初は、「市民の楽器」のイメージが強く、バレーやダンス・パーティの伴奏が主要な役割だったが、1564年フランス国王シャルル9世が上流社会の保守性に対抗してアマティから38挺の楽器を購入しヴェルサイユ宮殿の行事に使用
初めて独奏を行ったのは、イタリアのアンドレア・ガブリエリ
「近代音楽の遠祖」と言われるモンテヴェルディは、クレモナの生まれ。ヴェネツィアのサンマルコ寺院の楽長として、ヴァイオリンに深い理解を示し、積極的にオーケストラに加えるとともに、トリルやピチカート等の奏法を駆使してヴィオールに代わるオーケストラの主要な楽器に位置付けた
最初の職業的ヴァイオリニストは、ボローニャの作曲家でヴァイオリン・ソナタ作曲の先駆者でもあったアルカンジェロ・コレッリで、ボウイング(運弓法)を確立
ヴァイオリン協奏曲は、イタリアのジュゼッペ・トレッリが初めて作曲
演奏のテクニックの頂点を築いたのは、ジェノヴァ出身のニコロ・パガニーニ
184080年代、楽曲の音域の変化に対応して、ヴァイオリンの構造にも以下の改造が加えられる
1. ネックに角度(後方に傾斜)をつけ、弦の張力を強くした
2. 指板と平行にネックの長さを長くし、音域を広めた
3. 2項の修正により、駒の高さを高くした
4. バスバーの高さを高くし、厚みも増して、表板の強度、剛性が大幅に上がる
5. スチール弦の発明により、音域が広がる

第2章        世界のヴァイオリンづくりと源流
形態上の違いから、イタリア流派とドイツ流派に別れる
Ø  ドイツ流派 ⇒ 表板にアーチ形の膨らみがあり、外観がいくらか角張っている。ニスハウス塗で、やや乾いた感じ。音色は柔和で温かみがあり、気さくで淑やかな女性が歌うアリアのようで、バロック時代以前に流行した当時の社会の曖昧さに通じるものがある。主な製作地はドイツ、オーストリア、チェコ
Ø  イタリア流派 ⇒ 表板のアーチがいくぶんフラット。ニスはしっかりとした感じ、音色は明るく深みがあり、大ホールでの独奏にも十分適応可能で、今日世界の主流
Ø  プレシア派 ⇒ 北イタリアの都市。ヴィオール、リュート等の木製楽器の製作地として著名。甘美な音色より、音量を大きく力強くすることを目指す
クレモナ派 ⇒ アマティを祖として、多くの名家を生む
Ø  アマティ・ファミリー ⇒ 1540年アンドレア・アマティが15歳でヴァイオリン作りを開始。貴重な工芸品として大切に収蔵すべきとの自らの想いをこめて製作者の名前を初めて刻した。2人の息子アントニオとジロラモ、ジロラモの息子のニコロによって磨きがかけられた。ガルネリ、ストラディヴァリ等多くの弟子を育てたことでも特筆に値
Ø  ストラディヴァリ・ファミリー ⇒ 設計、製作、開発に尽力、新たな技芸を創出するとともに、最適な規格・基準を設定。166622歳で木工の徒弟を辞め、ニコロ・アマティについてヴァイオリン作りを手伝い始める。黄金時代は晩年1695年以降で、93歳で死去するまで製作を続ける。ベルゴンツィはただ1人の弟子
生涯で約1100挺のヴァイオリンを製作、今日まで残されているのは約550挺、他にチェロが50挺、ビオラ12
Ø  ガルネリ・ファミリー ⇒ バルトロメオ・ジュゼッペ・ガルネリ2世、通称ヨーゼフ・ガルネリ・デル・ジュスが製作したヴァイオリン。ラベルに十字架とラテン語で短く「HIS(イエスは人類の救世主)」と記したことからそう呼ばれる。ストラディヴァリに学ぶが、作風は大きく異なり、より力強く、深みのある音色が特徴。全盛期は30代の173035年。ストラディヴァリが皇室・貴族向けが多かったために保存状態がよかったのに対し、ガルネリは一般向けが多く、保存状態は比べようもなく、現存するのも150挺のみ
19世紀初頭、パガニーニが1742年製ガルネリの「カノン砲」でヨーロッパ全土を征服して以来、ストラディヴァリと並び称されるようになる
Ø  ガダニー二・ファミリー ⇒ ロレンツォ・ガダニーニはストラディヴァリの弟子とされるが、その息子ジョバンニ・バティスタも傑出した製作者であり、独自の特徴を持つ
Ø  ドイツ・オーストリアのヴァイオリン生産 ⇒ チロルで発展、最も有名な製作者はヤコブ・スタイナー。日本最初のヴァイオリン量産工場を作った鈴木政吉が大正年間に視察したのは、ドイツで最も早くヴァイオリンの生産を工業化した都市ミッテンヴァルト
Ø  フランスのヴァイオリン生産 ⇒ クレモナから移住した職人たちが作り始める。フランスの功績は弓の設計と製作で、「弓のストラディヴァリ」と称されるフランソワ・トルテによってフランスを弓の製作で世界のリーダーに押し上げる。ヴァイオリン生産の名人は、ヴァイオリンの重鎮都市ミルクール出身のヴィヨーム
Ø  イギリスのヴァイオリン生産 ⇒ オールド・ヴァイオリンの鑑定や販売など、企業活動の分野で貢献。19世紀に活躍したヒル・ヴァイオリン商会は鑑定の権威と称えられる

第3章        ヴァイオリンの識別と価値
ヴァイオリン識別の要点
1.   音色が甘美で心地よく、繊細さや発音性のよさがある。柔らかい音から力強い音まで表現の幅が広い
2.   音域が広い。最低音から最高音まで幅広い音域で演奏が可能
3.   弓のあらゆるテクニックに対応が可能 ⇒ スピッカート、トレモト、グリッサンド
4.   短いピチカートが可能
5.   重音の演奏が可能
6.   フルートのようなフラジョレット・トーンが出せる
外観の美しい構造
スクロールの美 ⇒ 左右対称の文様、手加工の味わいある彫り込み
胴身の美 ⇒ ルネサンス時代の完璧な黄金分割の比率に基づく造形美
表板と裏板の美  パーフリングに象徴
ニスの美 ⇒ 天然の素材を使って調合
弾きやすさの識別 ⇒ 動態識別
音の識別 ⇒ 音色、発音性、強さ、ダイナミックス、バランス
1910年のブラインドテストで1位になったのは、フランス製の新しい作品、ストラディヴァリは2位。12年、21年にもパリで実験が行われ、いずれもストラディヴァリは他の後塵を拝する
1936年 カーネギーホールで盗難にあった1736年製ストラディヴァリの「ギブソン」が100ドルでナイトクラブのヴァイオリン弾きに売られ、51年間弾き続けて死ぬ直前に由来を明かしたが、誰もストラディヴァリの音を聴き分けられなかった
オールド・ヴァイオリンの美 ⇒ 弾き込みの効果として、こくのある円熟した音色

第4章        ヴァイオリンのニスの秘密
ストラディヴァリは精緻な設計図や工具、型板など完全な形で残しているが、ニスについての記録はない
ストラディヴァリの音色の秘密はニスにありとされていたが、その後の研究では、ヴァイオリンの音波や振動に直接的な影響はないとされ、伝承も途絶えた

第5章        ヴァイオリンマーケット
ヴァイオリンの金銭的価値
1. 工場製ヴァイオリン
2. 工房で製作されたヴァイオリン ⇒ 手工ヴァイオリンの価値は製作者の名前で決まる
3. 中古ヴァイオリン ⇒ 大半は廉価な工場製
4. 骨董ヴァイオリン ⇒ 名器はすべて登録されている。19602000年で100
ヴァイオリンマーケットのワナ ⇒ ヴィヨームがストラディヴァリなどの名器の複製に取り掛かり、模造品づくりの嚆矢となる
1951年 スイスで大掛かりな詐欺集団が組織され、欧米の多くの音楽家から巨額の現金を騙し取る

第6章        ヴァイオリンの構造
84の部品
表板の厚さは、僅か3㎜、そこに18kgの弦張力が伸ばし掛かる
楽器全体では30kgの弦の圧力を受け止める
胴は、10枚の板で作られた共鳴箱 ⇒ 音に最も強い影響力を持つ表板はスプルース、その他は楓。最低5年は自然乾燥を行う
パーフリングpurfling ⇒ ヴァイオリンの表板と裏板の縁に本体の木とは別の材料を埋め込み、装飾およびひび割れの進行を防ぐ目的で施した象嵌
f字孔 ⇒ サウンドホールとも呼ばれ、表板が最もよく振動するエリアを作り出す。f字のデザインは製作者によって異なるが、向かい合った2つのf字上部の間隔はほぼ42
指板はコクタンが多い

第7章        ヴァイオリンの製作
第8章        ヴァイオリンの手入れと保全
雑音が生じたらすぐ原因を探り修理へ

第9章        弓の歴史、構造、選び方と製作
近代の完璧な弓をつくったのがフランスのフランソワ・トルテ ⇒ 18世紀末のパリで弓作りを家業とした
弓毛の固定リングを平行移動できるフロッグを考案
弓毛を扁平状にする
内反りになったスティックの完璧な弧のアーチや、理想的な重量バランスを設計
最適な材料としてブラジル、アマゾン流域産のペルナンブコを使用 ⇒ 今日でもこれに代わる素材は見つかっていない

第10章     ヴァイオリンの音響原理
音の要素
1.   振動数frequency=周波数 ⇒ 1秒間の振動回数。単位Hz。ヴァイオリンの主要な音域は10001500Hz
2.   音の高さpitch ⇒ 振動数に対する感覚。ヴァイオリンの音の高さは弦の長さや質量(直径)、張力で決まる
3.   音の強さstrength=音圧、音響出力 ⇒ 単位デシベルdB、ヴァイオリンの通常の高さは約50dB。音波の振幅の量で決まる
4.   基音fundamental frequency ⇒ 波形の中で振動数の最も低いもので、音の高さを決定する
5.   倍音harmonic, overtone ⇒ 振動数が基音の整数倍となる音。振幅の量は基音より小さく、およそ1/51/50程度。ヴァイオリンの音の波形は、基音と倍音の複合波形であり、倍音を特に多く含む
6.   音色tone ⇒ 波形が一定の音色を表す。同じ音でも楽器によって耳で聴く感じが違うのは音色が異なるから
7.   楽音musical tone ⇒ 基音と倍音で構成された複合音。人が耳で聴くことができる音で、一定の音色感を持ち、波形に周期性がある
8.   騒音noise ⇒ 波形が複雑で、不規則な振動によって起きる音
音色の秘密 ⇒ 弦は弓毛の摩擦によって振動を起こすが、表面積が小さいので音波を放射することは出来ず、弦の振動エネルギーが駒を通過するときの振動によって表板と裏板が共振することにより音色が生まれる。下塗りのニスが板の内部に浸透し、木質を補強して胴を振るわせるエネルギーの量と、レスポンス(発音性)を向上させる。木質が強化されれば、材の厚さをより薄くすることが出来、一層共振しやすいものになる
音の指向性については、オーケストラ演奏ではヴァイオリン独奏者の立つ位置や第一ヴァイオリン奏者たちが占める場所は、ヴァイオリンの表板が聴衆と向き合う形となり、表板の放射音はストレートに聴衆席に伝わっていく
ストラディヴァリ・ヴァイオリンの音色の秘密
1. ニスの効用説 ⇒ ニスについてのみ記録がないところから、秘法だとされた。表板の振動にはマイナスに作用するが、下塗りのニスは木質の補強に役立つ
2. 木材材質説 ⇒ ストラディヴァリは小氷河期(ヨーロッパでは16451715)に入る直前に生まれ、小氷河期に生育した強くて堅い樹木により、密度の高い細胞壁の厚い素材が得られた




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