調べる技術 小林昌樹 2023.6.14.
2023.6.14. 調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス
著者 小林昌樹 1967年東京生まれ。'92年慶應大文卒。同年国会図書館入館。05年からレファレンス業務に従事。21年退官し慶應大でレファレンスサービス論を講じる傍ら、近代出版研究所を設立して同所長。22年同研究所から年刊研究誌『近代出版研究』を創刊。専門は図書館史、近代出版史、読書史
発行日 2022.12.23. 初版第1刷発行
発行所 皓星社
はじめに
l 本書はどんな人に向くか
本書は、調べ物のノウハウ(レファレンス・チップス)を一般の人にいくつか例示するもの
こんな人に向く
仕事でちょっとした調べ物をする人
趣味で好きなことを調べている人
理系的なことを調べるのではなく人文社会的なことを調べる人
日本の風俗/習慣や社会に興味がある人
引っ込み思案で質問しづらい人
調べ物をしたいのに図書館に出かけづらい人
閲覧系の司書
AND検索やOPACなど一通りの調べ方を知ってはいる人
l 本書で使うことばについて
―チップス(ティップス)――ちょっとしたコツのことを「トリック&チップス」というが、スキル、テクニック、ノウハウなどと同意
―レファレンス=参照――文献や記録を参照したり、事情通に照会したりすること
―レファレンスとリサーチの違い――ここでいう「リサーチ」とは、サーチに強意のreが付いた言葉で、しつこく探索することで初めてその考えが確かなものになること。それに対し、レファレンスは、割と1回限りのチェック作業
―NDL(国立国会図書館)――国会図書館と国立中央図書館も兼ねるが、両者を兼ねるのは世界でも戦後の日本とアメリカ議会図書館ぐらい
―DB(データベース)――コンピュータで提供される組織化されたデータの集合でオンラインで使うものがほとんど
l 参照する相手
―あたる相手が大切――然るべき参照相手を探すには――レファレンスは他者に判断や記憶を委ねている点がサーチと違う。その他者の信用は参照する側で判断駿河、然るべき参照相手とは何か、どのように参照するのがよいのか、それらのノウハウが必要
―然るべき他者→本やDBといったツール――いつでも気兼ねなく参照できるのがレファレンス図書やオンラインDB。それらを総称してレファレンス・ツールという
―専門家は専門外のレファレンスができない――レファレンス自体を専門にする職業が必要
―レファレンスを専業とする仕事→司書――専門を横断的にレファレンスする仕事を「レファレンス・サービス」と称してやってくれる
l レファ司書の強み――学際、未知、その他
個人の知識量には上限があるが、判断や記憶を外部装置に預けてしまえば、その制約はなくなる。レファ司書なら、専門を問わず未知の事柄に答えることが可能になった
l とりあえずググればよくなったが…
普通の人がキーワードから文献を、手元で探せるようになった
l Googleにも使い方があろうかと
いろんな検索のツールをどう使えばいいか、目的ごとの使い方を説明してくれるものがあるといい。本書はそんなメモを書きだしたもの
第1講
「ググる」ことで、我々がやっていること――世界総索引でアタリをつける
l 技法やら予備知識やら、知っているべきことにも大きさがある
l Googleならではの役割とは? ――検索によって我々は何をやっているのか
l アタリ(見当)をつける――調べる事柄の重みや現在からの遠さを測る
l 昔の職人的レファレンサーは新聞を全部読んでいた――まずは「見当づけ」をしてから調べる。新聞記事の汎用性は、レファレンス・チップスの1手法でもある
l その先へつなぐ者――アタリをつけることこそGoogleならではの役割
l Googleがやってくれないこと――アタリをつけた後の専門的ツールをどのように引くかはレファ司書の仕事だった
l 専門的ツール類の一覧――Googleの後で引くべきものの一覧を以下に示す。NDL人文リンク集が一番役立つように思われる
規模 |
図書(冊子)を採録するもの |
ネット情報源を採録するもの |
小(厳選) |
長澤『レファレンス・ブック』 |
NDL人文リンク集 高鍬『デジタル情報資源の検索』 各大学/県立図書館のDBリンク集 |
中 |
『日本の参考図書』 NDL参考図書紹介 |
『データベース台帳総覧』 調べ方案内(NDLリサナビ内) |
大(網羅的) |
『日本書誌の書誌』 NDLオンラインの専門情報室開架分 |
NDL データベース・ナビゲーション・サービス |
第2講
答えを出す手間とヒマを事前に予測する――日本語ドキュバースの3区分
l 主題と時間と空間と――あらかじめコスト予測≒時間の長短をする
l レファレンスの難易度表――日本のことであれば、前近代・戦前・戦後の3時代に区分すると、調べの難易度がまるで違うことがわかる
l 戦後の文献世界――現在の日本人が生きている言説空間は、進駐軍が来て国立国会図書館が出来た文献世界「ドキュバースdocuverse(文章宇宙)」。特殊な時期の資料としてプランゲ文庫があるが、GHQの網羅的な事前検閲の結果積み上がったメディア情報のデータベースとして活用可能
l 戦前の文献世界――現代日本の基本構造ができた時代だが、関東大震災や、太平洋戦末期の空襲で書物が焼失したため調べが困難なものが多い。また、帝国図書館では雑誌・新聞の収集率は低い
l 前近代の文献世界――明治初めからは納本制度などで日本語ドキュバースにも最低限の近代的枠組みがあるが、それ以前を調べるのは困難だが、調べるニーズ自体が出ることが少ない
l 文献残存率と基本構造は呼応する――戦時期の価格統制令で古本の価格も統制されたが、文献のレア度とレファ困難度が直結するわけではない
l 日本語空間(≒国)について――戦争を主題とする本で関与国が等しく扱われている場合は、敗戦国側に分類する。満洲や、米軍支配下の沖縄は「外地・外邦」に分類
l こんなことを考えたきっかけ――国が違うと文献世界の感覚もまるで異なる
第3講
現に今、使えるネット情報源の置き場――NDL人文リンク集
l 大きい書誌DBはネットでタダで見られる
l リンク集があるといいなぁ・・・・――どのURLにどんなDBがあるのかの一覧がリンク集で、その公的一覧が『データベース台帳総覧』
l NDLの人文リンク集を知っておくと便利――国会図書館の「リサーチナビ」のサイトに格納されている『人文リンク集』
l NDL人文リンク集の利点――700件以上の情報サイトを採録するリンク集
l 現に使える――「リンク切れが少ない」ことが重要
l とっさに調べる――さっと調べるレファレンスでは、「多すぎない」ことも重要
l NDC(日本十進分類法)さえ知っていればどこへでも飛べる――人文リンク集はNDC順に各ジャンルや個々のリンクが並ぶ
l 実際に見てみよう
l 人文リンク集の工夫――「便利ツール」がある一方、公開が限定されている場合もある
l 人文リンク集の弱点
第4講
ネット上で確からしい人物情報を拾うワザ――人物調査は3類型で
l 人物調査の3類型――有名人、限定的有名人、無名人の3区分に分類
l 無名人の調べは、ケモノ道だが、半有名人の調べは?
l 限定的有名人の「限定」がキモ――限定的な枠内での有名人の場合は、その限定ジャンルを明確にするためにGoogleブックスを活用
l 契約DBと無料DB――契約DBの「WhoPlus」が82万名を記録している。Web NDL Authorities(典拠)が膨大な名前を持っている
l 試しに使ってみる――限定的有名人の多くがこのDBで最低限の情報がわかる
l NDL典拠「使用上の注意」
l 関連するレファ本、同様のDB――NDL典拠の収録人数は100万名
第5講
見たことも、聞いたこともない本を見つけるワザ
l 未知文献を見つける方法――特殊なキーワードを使う。NDLオンラインを件名で引けば見つけられるが、件名のない本もある
l 求める事柄の件名を見つけるには2つの方法
l 細目の不備をどう補うか
第6講
明治期からの新聞記事を「合理的に」ざっと調べる方法
l 新聞紙のこと――新聞紙の資料としての価値に気付いた畸人・宮武外骨が明治新聞雑誌文庫を開いたのは1927年、それまでは消耗品として廃棄。国会図書館にすべて保管されるようになったのは戦後
l 記事を検索する手段は2つ――ネット情報源の新聞DBと、冊子の新聞集成(図書)
l 新聞DBの引き方――3大紙とも契約DBなのでどこかの図書館で検索する
l 新聞集成を引く――縮刷版に検索用の目次をつけたものを何年も蓄積して横断検索ができるようにしたレファレンス図書のこと
l スクラップブック由来の新聞DBを――ネットでタダで引ける新聞DBとしては、新聞記事文庫(神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ)があり、明治末から1940年頃までの経済記事をカバーしている
l 明治~昭和初期の『官報』も新聞紙DBとして使える――NDLのデジコレでタダで引ける。1883~1952年をカバー。戦前の官報は「社説のない新聞紙」と見做せる
第7講
その調べ物に最適の雑誌記事索引を選ぶには
l 本は今、わりあいと見つかる――国会図書館NDLの全国書誌データがネットで検索可能
l 記事はまだまだ難しい――雑誌記事索引は1949年に始まったばかり(元祖雑索)
l 「事項索引」は特定タイトルの本だけを検索できるもので、その本の末尾に載っているのが普通。「語句索引」は専門分野など数えるほどしかない
l 元祖雑索の硬直性と、代わりに出てきた民間の雑索――NDLの雑索は国営で融通が利かないところから民間ベースの雑索
l 雑索にはそれぞれ採録年代の範囲と得意ジャンルがある――元祖雑索は戦前の記事が非対象
l 採録年代がまず大切――採録の対象とした時代をチェック
l 得意ジャンルが次に大切――得意ジャンル=採録誌をチェック
l 何から引くべきか―大学や図書館にいればざっさくプラスからか――万能の雑索はないので、より収録範囲が広いものを先に引く
事例1: 戦前の作家藤澤清造についての文献――ざっさくプラスの詳細検索画面で「論題名」に「藤澤清造」を入力すると31件出てくる、ヒット結果の年代別表示もトレンドの把握に役立つ。元祖雑索、デジコレの目次検索などでも数件出てくるので結果リストを作成
事例2: 「ファースト・シューズ」の風習の起源・由来を知りたいーー風俗史、生活といったジャンルの記事を予想し、Fujisan目次>ウェブ大宅>雑索プラスの順で引く
第8講
索引などの見出し語排列で落とし穴を避ける
l インデックスをちゃんと引けてる?――本を「引く」際に重要なのは、インデックス=索引で、見出しの排列(=配列)規則を理解し、求める見出しを探し当てなければならない
l 見出しなんて50音順に決まってる!・・・・ん?――「あ」の漢字から始まっていてもアルファベットの場合もある
l いろはの順番は我々には・・・・大正期までの辞書、人名事典ではいろは順排列が多く、「い」と「ゐ」などを混排(こんぱい=等価に扱う)するケースも頻出
l 電話帳式――見出し先頭の読み(50音順)で排列した上で、さらにカナ>かな>漢字(画数順)に並べる方式
l 字順排列letter-by-letterと語順排列word-byword――人名では姓と名を区切るか区切らないかでも排列が異なる
l 百科事典排列vs国語辞典排列―長母音カウントの有無――「アーチ」は百科事典排列では「あち」となり「愛国心」より後になるが、国語辞典排列では「ああち」となり前へ
l 濁音、半濁音は後回しだったり――清音に置き換えて排列し、拗音、促音の小字は直音に置き換えて排列されるのが一般的
l 戦前の本にある「活字を組んだ順」のもの――原稿が揃ったものから順次印刷所に版面を組ませ、最終的に索引を使うことで引けるようにしたものもある
第9講
Googleブックスの本当の使い方
l 日本人にとって「使い物に」なったのは2006年から――米国大学にある日本書のプレゼンスは欠かせない。2007年に慶應大から日本語書籍12万冊が入ったが、同時期ハーバード大から英語など1550万冊分が入っているのと比べたら雲泥の差
l 新しくって著作権OKの本は説明しませぬ――最近の本でGoogleブックスに著作権者や出版社がOKを出したものは、思い込みを実証するには使えるが、質問の答えを検索するには役立たない。近年の全文検索はNDL人文リンク集で十分間に合う
l 1995年以前の著作権未処理のものが重要――日本の場合、’95年以降デジタルのテキストが劇的に増えたので、それ以降はネット検索が容易なので、Googleブックスが本当に必要になるのは’95年以前のことを調べる場合
l 引けるのは図書、雑誌――Googleブックスが役に立つ対象は図書と雑誌で全文検索できる状態にあること
l 読むのには使えない。一部しか見えず、テキストに前後入替がある――著作権者相手の訴訟でGoogleはあくまで索引だと主張したため、全文をそのまま読めるようにはなっていない。テキストが限定表示されているので、同じページ内で適当に入替
l 誤変換たくさん!――日本語ないし漢字のOCRの精度がかなり悪く誤変換が多い
l だから結局、本の現物に戻らないといけない――本来の索引の機能しか果たしていないということ
事例1: 「全米が泣いた」というフレーズの初出はいつか?――前後をダブル・プライム(クォーテーション)で括ったフレーズ検索「”全米が泣いた”」で検索、さらにツールバー「期間指定なし/21世紀/20世紀・・・・」で「20世紀」を選ぶと、最初に1981年の『キネマ旬報』が出てくるが、順不同なので全部見ていく
l Googleブックスに関するその他のチップス――
検索語にいろんなバリエーションを考える
雑誌などの巻号がデータにない場合、表紙画像を拡大するとわかる場合がある
ページのデータは間違いが多いが、桁が違ったり、部分的にあっていることもある
普通名詞より固有名詞で検索した方がショートカットになることも
第10講
NDL次世代デジタルライブラリーは「使える」
l 「次ぎデジ」――「次世代デジタルライブラリー(略称” ツギデジ”)」が結構役に立つ
l 次ぎデジはデジコレ全文データとは違うもの――OCRシステムが既存と違う
l (当面は)戦前期全文DBとして「使える」――「画像検索」ではなく「全文検索」を選択
l 初出の調査で使える――「立ち読み」の初出例を調べた際に有効に働く
l 次ぎデジのチップスいろいろ――
文字の正規化――新漢字でも旧漢字でも対応
年代ソート――デフォルトの並びは「一致度」なので、必要に応じ他の並びに切り替え
l 日本の学問が全部書き変わる?――『日本国語辞典』の初出例が全部繰り上がるのではないか。日本語を対象とする学問は、いままでタイトルか、せいぜい目次レベルしか検索できなかったものが、全ジャンルについて検索できるようになる
第11講
「として法」――目的外利用こそ玄人への道
l 知識分野1つ当たり150冊のレファ本があるけれど――辞典・事典系のレファ本が1ジャンルに150冊あっても答えが出ないこともあるが、ベテラン司書になると何とか他ジャンルのレファ本を使って答えを出す
l レファ司書のレゾン・デートル――「丸善の雑誌カタログはないか? 昭和戦前期に日本でどんな美術の洋雑誌が読めたのか知りたい」と言われた時、「図書館で販売書誌は保存しないので見当たらない」でも間違いではないが、「洋文献も載る美術の専門書誌」を「当時国内でどんな洋雑誌が読めたかのリスト」として使う方法を知っていれば、「『日本美術年鑑』の昭和2年版から7年版には、文献の項に「外国美術雑誌」があるので、それに載っていれば当時国内でその洋雑誌が読めたことになる」と回答できる
l 「として法」事例いろいろ――
戦前の百科事典は大項目主義で知りたいことが見出しや索引に出ないので、『日本国語大辞典』を百科事典として使う
明治からの古本屋の店舗数は、『警察統計』を「出版統計」として引く
第12講
答えから引く法
l レファレンサーは苦手なことばかり聞かされる――趣味などの職業的専門家がいないような知識ジャンルなどは困るケースが多い
l 頼朝佩刀(はいとう)の銘は?――「頼朝」と「彼の刀」という2つの要素に対し、「大きい事柄より小さい事柄から調べると効率的」という法則を使って、「刀」のレファ本から引いてみると、「刀剣」についてのレファ本はほぼ完璧に揃っているのに、持ち主から刀の銘が引けるレファ本は1冊もないことが判明
l 答えから引く方法――サブカル系の情報はネットでそれなりの量を検索できるようになっていたので、ブログに「頼朝の佩刀」が出ていないかググったところ銘が判明
l 「答えから引く」の欠点――ネットに上がっている以外にも佩刀があった場合には、それが出てこない可能性がある
l 「わらしべ長者法」や「要素合成検索法」でフォローする――すでに得たキーワード(答)からさらに検索をして新しいキーワードを拾う「わらしべ長者法」や、すでに得たキーワード複数個を同時に検索することで同種のもののリストを見つけるという「要素合成検索法」などを適用してみるべき
l Wikipedia日本語版はサブカル項目で使える――サブカルで一定以上のブームを呼ぶとWikipediaでそれなりにレファレンス(=典拠参照)のついた項目が立項される
l 過渡期の終焉?―NDLのデジコレがいよいよ真価を?――'22年から著作権未処理だった膨大なデジタル化史料が登録者に公開される
第13講
バスファインダー(pathfinder調べ方案内)の見つけ方
日本の図書館でレファレンス・サービスが広がらなかったのは、形に残らなかったから
l パスファインダーってナニ?――「調べ方のメモ」のことで、「〇〇を調べるには、××を△△というキーワードで引きなさい」という内容。アメリカでは1960年代から始まり、図書館には司書がレファレンス・カウンターに常駐してメモを渡している。日本でも20年くらい前からはやり始めた
l パスファインダーの要素――①トピックス、②その概要、③カード目録で探す場合のアドバイス、④よく使われる関連書、⑤配架の場所など
l 「書評を見つけるには」というパスファインダーがあるとして――NDLの自館サイトの「リサーチ・ナビ」に置いてあるパスファインダーがリンク集になっていて役立つ
l ある種の分類でディレクトリ的に格納されているのだが――「パンくずリスト」(Webページの階層順にリンクをリスト化して表示したもの)を1ランク遡ると、関連したパスファインダーが見つかる
l 分類がついているものは、そこから再検索――「パンくずリスト」はパスファインダーの属性=分類を示しているので、関連した他のキーワードで再検索が可能
l パスファインダーを見つけるには→簡単な方法――検索エンジンで「書評 調べ方」で検索すればよい。「調べ方案内」とは、パスファインダーの国会図書館における翻訳語
第14講
レファ協DBの読み方――レファレンス記録を自分に役立つよう読み替える
l レファ協(レファレンス協同データベース)は司書が回答するQ&Aサイトである
l 「同じことは、2度と聞かれない」―1回性の再現性は?――2度と聞かれることがないような質問でも、事例として読めるようにしないといけない
事例: 「大明堂(だいめいどう)という出版社について」――①1段階抽象化法(固有名詞の普通名詞化)により、個別出版社に関する検索から、「戦前創業した中堅出版社の社史について」と質問を読み替える、②参照されているレファレンス・ツールが参考になる
l 事案を事例として読む――質問部分は一段抽象化して読み、回答については参照したレファレンス・ツールをグルーピング化して読むと、「検索戦略」が読めるようになる
同じ魔法が使えるようになるために――あとがきに代えて
l 「当たり前」を超えて――「当たり前」をどこまで意識化し言語化できるかが本書の意義
l 私の「創案」――ベテランなら無意識にやっていることを意識化し言語化した
l まだあるチップス――
悉皆リストで仮定法――例えば、ある地方の武士全員のリストに出ないので、農工商系人物でないかなという前提で調べ直す
「月号」の話――表紙「月号」と実際刊行月のズレに注意
勝手に形態素解析法――長めの固有名でノーヒットの場合、単語間にスペースを入れて再検索すると意外に出る
l 個々のツールを覚え込むのが技法ではない――ツールはグルーピングで憶え、セットで使うこと
好書好日
小林昌樹「調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス」 参照すべき情報源と出会える
「調べ物においてキチンと答えを出す」には「情報源」を制するのが近道。「検索語」だけに頼っていては雑多な情報の中で迷子になるばかりである。
「調べた情報」をテレビ番組などに提供するリサーチャーは「情報源」が生命線。仕事柄、司書のレファレンス(調べ物相談)に助けられた経験は多い。特に著名人の家族史をたどる番組の取材では、秋田・京都……多くの地域図書館で、調査に活路を見いだしてもらった。
館内蔵書にとどまらず、インターネット検索でも「アタリをつける」勘どころがすごいのだ。膨大な資料と対峙する国会図書館司書であれば、そのテクニックの集積も更にすさまじかろう。本書にはそんな秘伝・奥義が、ズラリと並んでいる。比喩ではなく、巻末の「索引」に本当にズラリと並んでいる。
実は私、「索引」付きの本を収集する癖があり、三千冊くらいは手元にある。「索引」には、ちょっとうるさい。
「索引」の構成や語句選びからは、著者のメッセージ、本のスタンスなどが浮かび上がり、本文を読む前に内容を想像するのが楽しい。で、本書の「索引」であるが、ブラボー!なのだ。本文へのワクワクを強く誘う。
いくつか紹介すると……「ドキュバース(文章宇宙)」といった難解用語から「アイドル研究」など身近な話題、「わらしべ長者法」のようなオリジナル技法、「全米が泣いた」という、「なぜこの本で?」といったトピックスまである。
多彩な「参照すべき情報源」と邂逅できる本書は、誰にとっても頼もしい。多数の固有名詞の採録は、実用書のみならず、「調べもの史」の読み物としてもとても面白かった。
今や「調べる」は日常生活の中に完全に溶け込み、「一億総検索時代」。手軽に情報を手にできるからこそ、「レファレンス力(りょく)」を磨いて、「確かな情報」が得られる「情報源」へのアプローチを究めたい。
喜多あおい(リサーチャー)=朝日新聞2023年2月18日掲載
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皓星(こうせい)社・2200円=6刷2万5千部。昨年12月刊。「リポートを書く学生や、調べ物をする企業人などに読まれている」と担当者。
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