真説 孫子  Derek M.C. Yuen  2018.7.16.


2018.7.16. 真説 孫子
Deciphering Sun Tzu How to Read The Art of War    2014

著者 Derek M.C. Yuen袁彌昌 1978年香港生まれ。香港大卒後、英国ロンドン大経済政治学院(LSE)で修士号。英国レディング大でコリン・グレイに師事、戦略学の博士号を取得(Ph.D)。香港大講師を務めながら、コメンテイターや民主化運動に取り組む。主な研究テーマは孫子の他に、老子、クラウゼヴィッツ、毛沢東の戦略論

訳者 奥山真司 1972年生まれ。カナダのブリティッシュ・コロンビア大卒後、英国レディング大大学院で博士号(Ph.D)取得。戦略学博士。国際地政学研究所上席研究員、青山大非常勤講師

発行日           2018.2.10. 初版発行         5.20. 4刷発行
発行所           中央公論新社


序章 西洋における孫子
『孫子兵法』は、約2500年前(紀元前512年頃)に書かれた古代中国の兵書
1772年フランス語に翻訳されパリで出版されたことから、中国人はナポレオンが応用したと主張するが、確たる証拠はない
孫子の著作は、それ以前のことがすべて含まれており、欧米では中国の戦略的世界観の中心にあると理解されてきた
20世紀の戦略家であるリデルハートとボイドによって、孫子の理論が西洋の戦略思想を孫子に調和させるような形で再定義して再理論化された
本書の目的は、西洋の孫子研究にルネサンスを起こすことを追求 ⇒ 実践的な手引書
    中国の戦略思想を理解するための全般的な思考の理論的枠組みを提供
    『孫子兵法』誕生に貢献した要因や流れについてのより詳細な歴史分析を提供
    孫子の『孫子兵法』と老子の『道徳経』の関係性について強調
    『孫子兵法』が軍事的・戦略的な文書であり、究極的には戦略的な視点で検証さるべきであることを主張
本書の焦点は、孫子の検証だけに限定せず、孫子についてのこれまでの分析や発見を利用して新たな道を切り拓こうとしたもの、西洋における中国戦略の理解促進に役立てる
l  中国の戦略思想や戦略文化の基礎
l  戦略書としての『道徳経』の紹介と、中国の戦略思想の中における老子の位置づけの探求
l  中国の軍事的弁証法
l  中国の戦略における認識論
l  西洋の戦略思想の「東洋化」
l  中国の戦略思想と文化の研究の将来の方向性の提示
l  東洋と西洋を超越した、戦略の一般的理論の確立

第1章        中国の戦略思想の仕組み
哲学的背景を、西洋とはあらゆる面で異なる中国の戦略思想の体系全体を概観することにより紹介

第2章        『孫子兵法』の始まり
『孫子兵法』の軍事、戦略、外交そして文化などの背景や、孫子が生きていたころの「時代精神」を検証

第3章        孫子から老子へ:中国戦略思想の完成
中国の戦略思想の研究における新たな議論を紹介

第4章        孫子を読み解く
翻訳プロセスの中で失われた『孫子兵法』の隠れた前提を再発見する

第5章        西洋における孫子の後継者たち
中国と西洋の戦略論の融合が、戦略の一般理論を確立する際に潜在的に有益な役割を果たす可能性を示唆

第6章        中国の戦略文化
中国の戦略文化に注目。中国の戦略文化を研究する西側の専門家を批判

終章 
筆者が疑問に感じてきたのは、リデルハートとボイドが東洋にアイディアを求めたことについて、なぜ誰も疑問を感じてこなかったのかということ
中国の戦略思想には西洋の戦略理論の枠組みに必要とされていたいくつかのカギとなる要素が含まれており、それらは中国の文献から輸入するしかなかったという事実を突き止めた
『孫子兵法』を適切かつ正確に検証すれば、西洋の戦略思想にとって莫大な価値を持つものとなるはずだが、西洋では孫子の戦争に関する格言だけを誤って強調してしまい、中国の戦法が「詭道」だけを強調してその目標のためにはあらゆる手段を徹底的に使うことを教えている、という誤解に繋がってしまった ⇒ このような功利主義的な視点では、孫子の戦争に関する哲学まで気づくことはできない。ところが中国の戦争哲学を理解するには、やはり中国の歴史、哲学、文化に慣れるために勉強するしかない。本書が第1歩として役に立つはず






真説孫子デレク・ユアン著
軍事力だけでない戦略思想
日本経済新聞 朝刊
2018414 2:30 [有料会員限定]
日本で『孫子兵法』くらい有名な戦略書はないだろう。今から約2500年前の中国の古典であるが、その簡潔な教えは古くから浸透しており、関連書の出版は現代でも後を絶たない。また、その価値が20世紀になって認められた欧米でも、今やクラウゼヴィッツの『戦争論』と並ぶ戦略の古典として位置付けられるようになっている。
だが、『孫子兵法』の真価は本当に理解されているのだろうか。むしろ、その簡潔さゆえに有名な格言ばかりに目を奪われ、表面的な理解にとどまっているのではないか。そうした疑問から、『孫子兵法』が持つ本来の意義を詳細に検討したのが本書である。
著者は香港出身で中国の戦略思想を体得するとともに、英国の大学院で欧米の戦略理論に関する専門知識も身につけている。この資質を活(い)かし、欧米の戦略理論と比較しつつ、『孫子兵法』が持つ固有の価値を明らかにしている。
本書に一貫するのは、『孫子兵法』の教えを正しく解釈するには、中国特有の戦略思想を理解すべきだという主張である。根底には、戦争を軍事力だけでなく、あらゆる手段を用いた総体的な争いとする前提がある。この思想に基づく『孫子兵法』は、欧米の戦略理論のように軍事に特化せず、政治や外交を含む、体系的かつ高いレベルの戦略を論じているという。
また、中国の歴史や哲学を深く知ることも不可欠と強調する。とりわけ、同じ時期に成立した老子の思想を抜きにして『孫子兵法』は理解できないという。両者は、石をも押し流す勢いがあると同時に、相手の動きに柔軟な対応もできる水のような姿を理想とする。これは、戦略において目的と手段の合致を重視する欧米に対し、状況に応じて手段だけでなく、目的も変化させる姿勢を特徴とする。こうした哲学は連綿と継承され、現代中国の戦略を理解する上でも欠かせない要素となっている。
正しく解釈された『孫子兵法』は、欧米にはない視点をもたらし、普遍的な戦略理論を生み出すことに役立つと著者は結論する。古典には、多様な解釈を可能にし、それによって新たな価値を創造する力がある。その意味で、不朽の名著である『孫子兵法』の新しい地平を開拓した本書の功績は大きい。
《評》防衛研究所主任研究官塚本 勝也
原題=DECIPHERING SUN TZU
(奥山真司訳、中央公論新社・2900円)
著者は78年香港生まれ。香港大で講師を務めながら民主化運動に取り組む。




















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