「しんにょう」がついている国字  西井辰夫  2018.7.9.


2018.7.9. 「しんにょう」がついている国字 不思議な字「辷」 不死身な字「込」

著者 西井辰夫 1931年生まれ。東大法卒。著書に『酒を搾り袖を絞る――国字と国訓を考える』『奇妙な国字』

発行日           2018.7.3. 第1刷発行
発行所           幻冬舎メディアコンサルティング

「中国人と日本人とで基本的動作にあまり違いはないと思われるのに、動作を表すための国字がなぜ本で必要とされたのであろうか」
「辷」と「込」に焦点を当て、そ登場を徹底的に調べ上げた「国字」研究の決定版
なぜ動詞に国字が必要だったのか
日本人が日本人のために作った漢字「国字」
中国からもたらされた漢字だけでは正確に表せなかった日本人特有の感性をひも解く


はじめに
国字は中国にない日本固有のものを表すために作られた。魚偏や木偏の名詞が国字に多いのは当然だが、動作にまでなぜ国字が必要とされたのか
「しんにょう」を例にとって国字成立の事情の一端を理解しようとする
「しんにょう」はもともと「道を行く」の意なので、漢字で網羅されているはずだが、国字が20字あって、うち動詞は「辷」と「込」の2字、この2字がいつごろから使われ始めたのか、使い方や意味がどのように変化したかを調べたのが本書
                                                            

第1部        国字と「しんにょう」
第1章        国字
国字とは日本人の作った漢字のこと ⇒ 鰯
日本語を書くために漢字を使ったが、いろいろ工夫して当てはめていった ⇒ 平仮名、片仮名、漢文訓読(返り点など)、変体漢文(日本語化した漢文)
国訓とは、漢字を本来の意味とは全く違う意味に使って、その意味に適した訓みを与えたもの ⇒ 鮎(元来ナマズ)
国字とは、中国にない日本独特のものを表記するため、漢字を模し、漢字の作法に準じて日本で作られた字。原則として音(オン)がない(「働」は例外) ⇒ 鰯
漢字の構成:
l  六書という機能で作る考え方 ⇒ 象形、指事、会意、形声、転注、仮借
l  偏旁冠脚 ⇒ 部品(構成要素)を組み合わせて作る考え方
l  部と部首
第2章        「しんにょう」
(にょう)は字の構成要素であり、部首字 ⇒ 漢字の左から下の部分に着く字形
部首字は「辵(ちゃく)」だが、他の字と結合して新しく字を作るため繞の形をとるとき「しんにょう」や「辶」の形となる

第2部        「辷」
第1章        すべる
第2章       
第3章       
第4章        江戸時代の「すべる」
第5章        明治時代――「辷」と「滑」の共存
第6章        「辷」と「滑」の違い――まとめ

第3部        「込」
第1章        「込」の意味について
第2章        文献に見る「込」
第3章        複合動詞を作る「込」
第4章        「こむ」雑記二題

第4部        まとめ
(1)  「辷」について
戦後当用漢字が制定されるまでは「辷」も広く使われていた
中国渡来の「滑」を古くから日本人は「なめらか」を表記する字と理解し形容詞的に活用、動詞はすべると理解して「辷」を作字した
「滑」も明治期より少し前に「すべる」の訓みも使われるようになり、「辷」と並んで使われた
当用漢字で「滑」が唯一の「すべる」となったため、現在では専門用語として「脊椎辷り症」や「地辷り」くらいにしか残っていない
ただ、「辷」も元々は「すべる」表記のために作られたものではなく、平安後期には「まろぶ」として誕生、鎌倉時代には「ころぶ」と訓まれ、それが江戸時代に「転」に圧迫されて「すべる」に変身した。「辷」の「一」は数字の「一(イチ)」ではなく大きな長い障碍物と考えられる
「辷」の弱点は、「辷」独自の分野が消失したことと、造語力(「辷」を使った熟語がない)のなさ

(2)  「込」について
「「込」は「道を行く」意を表す「辵」と「入」の合成字 ⇒ 「入って行く」ことが原義なら、なぜ「こむ」の漢字表記に使われたか、「中に入る」なら「入」だけで十分なのになぜ「込」が作字されたか
日本人の感性で「こむ」にぴったりくるものがなかった ⇒ ただ「囲った中にものを入れる」だけではなく、「それをそこに置いておく」ことも表そうとして新しい字が作られた
平安時代には作られたと思われるが、意味・用法が複雑になり活用形が変化しても、この言葉の本義は変わらない
他の動詞に下接して複合動詞を作る機能が、自動詞・他動詞の区別もないほど飛躍的に拡大し、柔軟に造語を輩出 ⇒ 「思い込む」「煮込む」「打ち込む」「見込む」
現代では、重要不可欠な感じとなっており、不死身な字と言える

(3)  むすび
国字成立の由来はわからないことが多いが、「辷」と「込」にはそれぞれの違った理由があってその字が必要とされてきた事情らしきものが推測できる
国字には会意文字が多いというが、成立の根拠となる法則のようなものがあるわけではない ⇒ 国字一つ一つについて、その使われ方の歴史を辿っていくと、思いがけない成立と変遷の過程の中に字の持つ環境の変化に対する対応力、生命力のようなものを見出せるかもしれない




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