パナマ文書 Bastian & Frederik Obermayer 2017.3.30.
2017.3.30. パナマ文書
Panama Papers ~ Breaking
the Story of How the Rich and Powerful Hide their Money
Originally Published in the German Language
as “Panama Papers. Die Geschichte einerWeltwelten Enthullung” 2016
著者
Bastian Obermayer 1977年生まれ。南ドイツ新聞「調査報道」班副チーフ。国際調査報道ジャーナリスト連合ICIJメンバー。ミュンヘンの大学で政治学を修め、ドイツ・ジャーナリスト学校でも学ぶ。優れた調査やルポによってテオド-ル・ヴォルフ賞、アンリ・ナネン賞、ヴェヒター(監視人)賞等を受賞。カトリックのエッタール修道院寄宿学校で組織的に行われた性的虐待について調査し刊行
Frederik Obermaier 1984年生まれ。南ドイツ新聞「調査報道」班の編集者。国際調査報道ジャーナリスト連合ICIJメンバー。アイヒシュテットとボゴタの大学で政治学、経済地理学、ジャーナリズム学を修める。優れた報道業績により、CNNジャーナリスト賞、ヘルムート・シュミット賞、ヴェヒター(監視人)賞等を受賞
訳者 姫田多佳子 津田塾大卒。夫のドイツ赴任に伴いドイツ滞在5年。翻訳歴20余年
発行日 2016.8.27. 初版発行
発行所 KADOKAWA
第1章 プロローグ
ジョン・ドゥ(匿名の人物であることを自称)から、データに興味がないか電話があり、共有したいと返事 ⇒ 情報提供者から金の要求はなく、身元が割れると困る危険な情報だというので、暗号でのやり取りになる
最初にもたらされた断片的な情報を寄せ集めると、現在係争中のアルゼンチンの現職大統領の国費の海外流出事件に関する情報であることが判明
関係している会社はアメリカのタックス・ヘイヴンであるネバダ州で設立され、パナマのモサック=フォンセカという法律事務所が介在
史上最大の暴露プロジェクトの始まり
最終的には80か国以上から終結した約400人のジャーナリストがこれらのデータを調査し、多くの国家元首や独裁者が所有する秘密のオフショア・カンパニーを巡る話、武器、麻薬、血塗られたダイヤモンド、その他犯罪にも等しいビジネスで巨万の富を稼ぎ出す手口を教えてくれる話、読み手にこの世界の富裕層やスーパーリッチたちの租税回避を理解させてくれる話の数々が暴かれた
第1章 スタート
プーチンのビジネスについて精査
50ギガバイトを超えるすべてのファイルには、モサック=フォンセカが番号を付けられ、数千に及ぶオフショア・カンパニーに関して作成されたもの
モスフォンは、パナマに本拠を置くペーパー・カンパニーのプロバイダー
パナマは、常に過酷な従属関係を強いられてきた。長くコロンビアの貧しい1州だったのが、1903年、建設中のパナマ運河でアメリカの利益団体が一儲けを企んでルーズベルト大統領にパナマの分離独立派のために軍隊を派遣させ、独立させた。運河がパナマに返還されたのは1999年のこと
1927年の法律32で、会社所有者の秘密保持を保障し、「匿名会社」に対し非課税を認めた
会社設立の手続きは簡単で、数百ドル払えば、即座に自分の会社が手に入った
第2章 プーチンの謎めいた友人
チェロの巨匠セルゲイ・ロルドゥギンは、一貫してプーチンに好意的、70年代にプーチンが肩入れして、後年大金持ちにしてもらった1人。プーチンの娘の洗礼代父
プーチンの信頼する友人のほとんどは、プーチンによるクリミア併合後にアメリカによる制裁対象者リストに掲載されている
検察がモスフォンによって設立された123社を特定
ICIJの事務局長ライルにも連絡を取る ⇒ ICIは1997年設立、メンバーは推薦か招待者のみで、現在200人ほど。アメリカの調査報道ジャーナリズムの非営利団体であるCenter
for Public Integrity(CPI)のプロジェクトの1つ。両者とも寄付で運営され、大口の寄付者にはジョージ・ソロスも名を連ねる
ライルは2013年、「オフショア・リークス」のスローガンのもと、約50か国、ほぼ100人のジャーナリストが、世界中の権力者や金持ちが、財産隠匿のためにどのようにオフショア・カンパニーを利用しているのを暴く世界的な大スクープをものにした
第3章 過去の影
モスフォンの設立者ユルゲン・モサック。48年ドイツ生まれ。60歳代後半。弟がドイツのいくつかの州におけるパナマ名誉領事に任命されている。パナマで学び、70年から法律事務所に勤務。73年国家試験合格。その後ロンドン勤務ののち、77年独自の弁護士事務所立ち上げ。ノリエガ将軍政権下のパナマがコロンビアの犯罪組織メデジン・カルテルのの金融センター化した時、麻薬マフィアの大ボスの少なくとも1人に手を貸し、会社を設立させている。86年フォンセカの事務所と合併
フォンセカは、パナマで最も重要な政治家の1人。受賞歴のある有名作家。現大統領カルロス・バレラの顧問であり、内閣にポストを持ち、政権与党パナメニスタの代表代行の1人
南米のメディアにおいて、おびただしい数の汚職やマネー・ロンダリングといったスキャンダルに極めて密接に関与しているとされている ⇒ 典型的な例がアルゼンチン大統領にまつわるもので現在検察が追及している関連123社に絡んでいるほか、主流ではないが興味深い記事を書くことで有名な『ヴァイス』誌が14年末モスフォンについての記事を発表、「Evil
LLC(悪の有限会社)」と名付け、パナマの法律事務所の倫理的責任を激しく糾弾している
アイスランド現職首相グンラウグソン(本文書公表を受け16年辞任) ⇒ 07年、後に妻となる有名な人類学者パルスドッティルとともに英国領ヴァージン諸島のペーパー会社の株主として登場、09年株式の1/2を妻に1ドルで譲渡。同年進歩党の党首となって13年から首相。その間同国は、オフショア会社からの非合法の貸し付けが原因となって財政破綻、これに関わった何人かは投獄されている。09年に議会は議員に対し財産の申告を義務付け、1企業で25%以上の株式を保有する者は届け出が必要となったが、彼はしていないし、その年妻に譲渡したので、翌年は申告の必要がなくなった
第4章 コメルツ銀行の噓
コメルツのルクセンブルク支店が長年にわたってドイツ人顧客のためにペーパー・カンパニーを設立して脱税を幇助したとして捜査が入る ⇒ EUの貯蓄課税指令に基づく35%の源泉税を回避するため、パナマの会社名義の預金にしているが、ほとんどにモスフォンが絡む。ドイツの調査官は1百万ユーロ支払って資料を入手したというが、我々の手許にはより最新の同様な情報がある
大金を支払って脱税の情報を手繰り寄せるドイツの検査官に対して、スイスでは「経済的な機密を探る情報機関への犯罪幇助」と銀行の秘密保持の侵害の容疑で逮捕状が出ている
第5章 シリア内戦とモスフォンの関与
シリアの独裁者アサドの部下(通称bagman)にモスフォンが手を貸している ⇒ 権力者の財産を隠すのみならず、経済制裁からも逃れる
第6章 武装親衛隊からCIA、そしてパナマへ
モサックの父親は、ナチスの親衛隊から戦後アメリカ移住に際し転向、CIAの急送公文書にその名の記載があるが、目的は不明
第7章 UEFA(欧州サッカー連盟)本部ニヨンへ続く足跡
FIFA総会の全日、副会長2人を含む幹部7人が逮捕 ⇒ FIFA内部でのマネー・ロンダリング、詐欺、汚職の動きに関連しアメリカの司法長官の肝いりで逮捕劇が演じられ、14人が起訴。この事件がUEFAにも飛び火
第8章 釣りと発見と偉大な芸術の話
ナチスに略奪されたモディリアーニの絵にまつわる話
第9章 ホワイトハウスを背に
ワシントンDCに集まったICIJの仲間たちにリークされた情報について説明、今後の対応について協議 ⇒ 「プロジェクト・プロメテウス」と名付けられ、大きなネタは何か? いつそれを発表するか? どのテーマを共同で攻める?
第10章 火花のように飛散して
新たにヒットしたキーワードには、ウルグアイの大統領候補、イラン・コントラ事件と繋がる武器商人、ペルーの情報機関トップ、ロシアの大富豪他があった
前国連事務総長アナンの息子の名前も ⇒ 13年、その息子はニューヨークタイムズに、「アフリカが搾取されている。タックスヘイブンを悪用して節税に手を貸している」として、特にナイジェリアを糾弾していたが、息子が関与していたペーパー会社の1つではナイジェリアの上院議員の息子が共同経営者だった
習近平の義兄弟の名前もヒット
第11章 怖れと不安
13年のオフショア・リークスで活躍した女性記者は、アゼルバイジャン大統領の近親者のオフショア・ビジネスを暴露したために、別件で逮捕され今なお拘留されている
第12章 シーメンスの裏金
10年の検察の発表で、裏金は会社に戻ったとされているが、その後もより高額の金が南米の隠し口座に流れ、それにモスフォンが関与している
第13章 協力者と共犯者
コメルツも他のドイツの地方銀行も数千万ユーロの罰金の支払いに応じているのは、脱税に手を貸したことを認めたからで、それらの銀行に対する訴訟手続きは打ち切られた
第14章 アルプスを望む密会
南ドイツ新聞本社にICIJのメンバーが集結してプロジェクト・プロメテウスの2回目の会議開催 ⇒ 最新では2.4TB、8百万のデータ、20万のペーパー・カンパニーの調査用プラット・フォームを作り、参加者がすべてを共有し、何ができるかを議論。世界中で16年春の同日、同時刻に、一斉にオンラインでモスフォンにまつわる記事を発表する
会議の直後、パナマ大統領が国連で、「税の透明性について国際協力を強め、課税上の問題を把握するため2国間における自動的情報交換の実現に向けて努力する」と発表するが、モスフォンは自らの顧客に送った手紙で、「大統領の演説は法律や規制のいかなる変更を発表したものではない」と説明。フォンセカは、大統領に最も近いアドバイザーであり、政権与党の代表代行でもあることを忘れてはならない
第15章 悪の法律事務所
モスフォン自体も、自分と自社系列会社の関係を秘匿しており、一見しただけではモスフォンの会社とわからない形で株式を保有しているケースが多々見られる ⇒ 偶然把握した情報では、持株会社だけで12社、参加の複数の事業目的の企業100社弱、カモフラージュ用の関連会社が100社余りで、企業総数は200を超えた。中核事業は、オフショア会社の設立・管理で、30か国以上に50のオフィスを持つ
第16章 スピリット・オブ・パナマ
モスフォンの第3の男が、アメリカのコメディ映画『クール・ランニング』の向こうを張って、「スピリット・オブ・パナマ」というボブスレーを14年のソチ五輪に出すべく同乗者を募ったが、本人が怪我して没になる ⇒ 現在は権限がないと言明しているが、10%の株主だったことや、他の持株会社の役員に名前が出てきたり、04年には正式にグループのパートナーになったというモスフォンのユーチューブでのイメージフィルムが残っている
第17章 世界を手に入れてもまだ足りない
オフショア・カンパニーには、オフィスや従業員はおろか、郵便受けさえないのが普通
ドイツでは、ペーパー・カンパニーのことを郵便受け(しかない)会社と呼ぶ
世界の富の半分以上を全人口の1%が保有する ⇒ 彼らの資産の隠れ蓑がオフショア・カンパニー
第18章 搾取マシーン
アフリカでは、目に見えない複雑な機械が大陸の富を略奪しようと動いている ⇒ 腐敗した独裁者と良心の呵責を感じない大企業と罪の意識を持たない銀行が欲に駆られて団結し、手に手を取って搾取に励んでいるが、モスフォンがその歯車の中心にいて、一連の所業が外から見えないようにしている
第19章 コミテロムの密会
15年、世界調査報道ジャーナリスト会議がリレハンメルで開催され、プロジェクトの仲間と「委員会室(コミテロム:オリンピックの指令室だった部屋)」を使って情報交換を行い、扱っている事例の中で明らかな法律違反やデューディリジェンス(本人の身元確認)義務違反、文書偽造、マネーロンダリング幇助などの存在を徹底して訪ねて回る
パナマの刑法典では、「隠れた受益者」を登録したり、「真の所有関係」を偽ることを禁止しているため、モスフォンは「自然人名義人」を提供するサービスを高額の手数料で請け負っているが、その人物とはフォンセカの元妻の父親
第20章 モンスターに支配されて
09年アメリカで少女暴行容疑で禁固8年の刑を宣告された犯人は、非合法の児童売春グループを作り、儲けた金を自分のペーパー・カンパニーを通じて洗浄しようとしたが、モスフォンは犯罪を知りつつ手を貸している ⇒ 犯人はロシアからの移民で、アメリカン・ドリームの体現者だったが、小児性愛的事業者という裏の顔を持っていて、米露を股にかけた大掛かりな組織を動かしていた
第21章 紅い貴族
11年、重慶市でイギリス人実業家がアルコール摂取による心臓発作で客死、解剖することなく火葬に付されたが、本人は「お茶一辺倒」の人間 ⇒ 薄熙来・谷開来夫妻と薄熙来が大連市長だったころからの親しい友人で、息子のイギリス留学に便宜を図る一方、裏ビジネスで大金を稼ぎ海外に送っていたが、謎の死を調査した公安当局が、谷開来による毒殺の事実が判明、共産党の信頼を揺るがしかねない事態に発展し、夫妻は逮捕され終身刑となったが、この事件の一部が今回リークされたデータと一致している
夫妻は、大連でフランス人建築家と組んで事業を拡大し、蓄財して海外に送り豪勢な宮殿をいくつも所有、それも全ていくつかの会社を通して所有していたが、イギリス人実業家が秘密の投資を知って谷を恐喝したため、谷が毒を盛ったということだった
習近平の義理の兄弟の名も出てきたし、天安門事件の際「北京の畜殺業者」と異名をとった李鵬の娘、他にも太子党の一員の名が続々と出てきた
習近平については、ブルームバーグが親族の財政的背景について調査し、株や不動産で巨額の蓄財をしたことを報道、習本人が私腹を肥やしたとは言っていないが、中国当局は直ちにインターネット上の情報アクセスを遮断した
第22章 ガスのお姫様とチョコレートの王様
ウクライナの現職大統領ポロシェンコは、チョコレートで財を成し、04年のオレンジ革命で頭角を現わし、14年の大統領選で勝利。その際自分の会社を売却して国家の安寧だけに専念すると公約したが、単に資産を国外に隠しただけだったことをデータが証明している
クリミア危機で自国の兵士が虐殺されている最中に、自分のペーパー・カンパニーの登録手続きをしていたことになる
同じくオレンジ革命で活躍し「ウクライナのジャンヌ・ダルク」と言われ、その後首相になったユリア・ティモシェンコも、アメリカ映画の違法コピーのレンタルビジネスで蓄財し、天然ガスの密輸や脱税の容疑で拘留されながら、オフショアを使って資産を隠匿
第23章 ドイツ、あなたの銀行
世界中では500以上の銀行がモスフォンのサービスを利用しているが、ドイツでは7大銀行のうち6行がスイスやルクセンブルクの子会社を通じてオフショア・カンパニーを斡旋、または管理している ⇒ 顧客のオフショア隠れを組織的に手伝っていたということ
他にも、正体の定かでないペーパー・カンパニーに口座を作らせ、それで儲けていたり、さらには海外支店を持たない小規模銀行の国外送金の取次業務もあって、マネーロンダリングの温床となっている
モスフォンのファイルによれば、ドイツ銀行だけで400以上のオフショア・カンパニーを顧客に斡旋または管理している
第24章 金融バイキングの略奪行
15年、8.2百万件、2TBのデータ全ての検索がICIJで可能となり、大騒ぎに発展
アイスランドの前首相の行状がさらに明るみに出たのみならず、現政権の独立党幹部の蓄財も次々と暴露
第25章 闇に消える足跡
リビアのカダフィの調査では、途中で手掛かりが途絶えたが、アルゼンチンの現職大統領夫妻の件では、後任大統領の名前がデータの中に見つかり、新たな疑惑に発展している
第26章 結婚の盟約、金の盟約
プーチンとロルドゥギンは、70年代に知り合い、お互い兄弟のようだったと述懐しているが、ロルドゥギンが関与するオフショアの口座を通じて20億ドル以上の金が動かされている ⇒ プーチンが蓄財しているとすれば、自分が直接関与する代わりに無限に信頼を寄せる親友の名前を使うことは十分考えられる
プーチンが友人たちと設立した協同組合オゼロ・コオペラティブも、もとは国内の別荘の共同所有が目的だったが、現在では莫大な資産を保有しているとされ、数々の伝説に包まれている
第27章 スター、スター、メガスター
モスフォンの顧客リストは胡散臭い人間ばかりではなく、世界的な有名人の名も沢山ある
メッシの在パナマのペーパー・カンパニーの名はメガスター・エンタープライズ社
メッシは、スペイン当局から脱税で起訴、禁固2年を求刑されているが、メガスター社のことは把握していない様子
第28章 第四の男とFIFA
FIFAの新会長インファンティーのは、就任早々「イメージと尊敬を取り戻す」と宣言したが、前職のUEFA事務局長時代、汚職事件で裁判中の事件の当事者の1人として登場している
インファンティーノは、巨額の金のスキャンダルにまみれたプラティニに代わってプラッターの後任会長に立候補し、劣勢を跳ね返して当選した
FIFAの汚職事件を調べた倫理委員会のメンバー自体が、モスフォンの顧客を何人も連ね、汚職事件の裁判で被告となっているので、目的とする世界のサッカー界の浄化はもとより、FIFA自体の浄化もほとんど困難
第29章 99%とタックスヘイブンの未来
モスフォンのサーバーから漏れ出したデータは最終的に2.6TBを超え、オフショアの世界がかつては考えられなかったくらいに深く詳しく、すぐそこにあるもののようにほぼリアルタイムで見せてくれた
オフショアの世界では、民主主義を象徴する数々のものが取り払われ、ほとんど絶対的な無責任体質が支配する空間で、何十ものタックスヘイブンにまたがるネットワークに遭遇すると裁判に持ち込めるほどの証拠を当局が揃えることは不可能
世界の金融市場で起こった信用危機により、多くの銀行に公的資金が投入されたが、タックスヘイブンの存在なしには起こり得なかったにもかかわらず、原因を作った人間たちはほとんど影響を受けていない
多国籍企業の節税に対する飽くなき欲求は凄まじく、そこでもオフショア・カンパニーが節税対策の中心的役割を果たしている
オフショア対策の有効な手段
① 銀行口座の情報を世界中での自動的にやり取りするシステムの構築
② 透明性の確保された世界規模の名簿の作成
第30章 オフショア世界の冷たい心
データの公表を直前に控え、激震が走る ⇒ 前大統領も関与した大規模な汚職事件を捜査していたブラジル当局が、ペトロブラスの工事契約で賄賂を受け取っていた容疑でモスフォンの従業員を拘束。当局は、モスフォンが巨大なマネー・ロンダリング装置だという証拠があると述べた
Ø 『パナマ文書』インターナショナル・エディションへのエピローグ 2016.4.27.
2016.4.3. 20:00pmネット解禁とともにパナマ文書が世に出る
世界で最も偉大な調査報道ジャーナリストの1人でウォーターゲート事件を暴いたウッドワードが、我々のプロジェクトを「ジャーナリズムの勝利」と呼ぶ
オバマは、課税逃れ対策は喫緊の課題だと表明。G20財務相・中銀総裁会議は、各国に課税逃れを防ぐ国際的ルール作りを求めた。欧州議会は独自の調査委員会を設置
いくつもの国で抜き打ち捜査や強制捜査が行われ、スイスではUEFAとスポーツ放映権ディーラーのオフィスが強制捜査を受けた
パナマのモスフォン本社も強制捜査の対象となり、モサックとフォンセカ個人にも捜査が及ぶ
アイスランドでは、グンラウグソン首相に対するインタビューでオフショアでの蓄財が露見、テレビで放映されたこともあって大規模な民衆デモが起こり、首相は退陣と撤回を繰り返した挙句に退陣。データのために職を辞した最初の政府首班となる
イギリスでは、キャメロン首相が当初「個人的問題」とし、次いで「オフショアで利益を得たことはない」となり、最後には利益を得ていたことを認めたため退陣要求のデモに発展
マルタでは、首相の側近2人がオフショアで蓄財したとして首相官邸に退陣要求のデモが押し掛け、「第2のアイスランド」と呼ばれた
アルゼンチンでは、発足したばかりの新大統領マクリが窮地に。自分の他に取り巻き達もパナマ文書に登場
パキスタンでは、シャリフ首相が非難を浴びる。子供たちのペーパー・カンパニーが海外に高額の不動産を所有。野党が大規模なデモを呼びかける
スペインでは、閣僚が辞任
デンマークでは大手銀行の責任者が議会で証人喚問を受ける
オーストリアとオランダでは、銀行の責任者の辞任が相次ぐ
FIFAでは、倫理委員会設立メンバーのダミアーニが辞任。刑事被告人となっているFIFA幹部とビジネスをしていたことが暴露されたのが原因
中国では、発表から数時間で検閲にかかり、リークした人が逮捕された
最後まで公表を躊躇ったのはロルドゥギンの記事 ⇒ プーチンの個人的スポークスマンが珍しく激昂して否定し、「情報攻撃であり、背後に特別な組織がある」と言ったが、ロシアの2人の仲間はアメリカの宣伝工作のスパイと非難され、ロシアの典型的な報復措置である税務調査を行うと脅された。プーチン自身も直後のテレビ番組で、「この挑発はアメリカの公的機関がやったもの。最初に記事を出した南ドイツ新聞は、親会社の親会社はゴールドマン・サックスだ」と非難(GSとの関係は誤りで、後にクレムリンが訂正し謝罪)したが、番組の中で、パナマ文書の情報が事実と相違ないと認めている
パナマ大統領は、無記名株廃止とともに、世界で行われている租税情報ならびに金融情報の交換に参加することを表明。他のタックスヘイブン諸国とともに、98番目の参加国となった
後は、ペーパー・カンパニーの真の所有者の名を明らかにするとともに、それを名寄せした世界商会名簿の作成が残る
パナマ文書 B・オーバーマイヤー、F・オーバーマイヤー著 倫理なき経済の実態 暴いた記録
2016/10/23 3:30 日本経済新聞 朝刊
2016年4月、パナマ文書が暴いたオフショア世界の闇。深い闇をたどった先に現れる意外な人物、巨額の富。まるで映画の世界だが、これは現実の世界。パナマなどタックスヘイブンを舞台に、巨額の蓄財を隠そうとする多彩な登場人物が暗躍する、非合法な脱税システムの世界である。
本書は、正体不明の告発者がパナマの法律事務所内部の生データを南ドイツ新聞にリークしたところから、そのドキュメンタリーが始まる。リアルタイムで絶え間なく送られてくる、巨大なデータを多くのジャーナリストたちが分析し、発表に至るプロセスが、時間の経過に合わせて生々しく記述されている。
本書では、「悪の法律事務所」を中心とする闇のビジネスモデルの全容が、章を追い、分析が進むにつれて、次第に解き明かされていく。世界の政治家、犯罪者、富裕層、セレブたちがタックスヘイブンのペーパーカンパニーを駆使し、姿が見えないように、非合法に蓄財、租税回避、マネーロンダリングしているという驚くべき現実。
各章ごとに新たに登場してくる意外な人物たち。その真の所有者を隠すために、法律事務所が数多くのペーパーカンパニーを設立し、無記名株を発行、名義上だけの所有者、取締役が表に立つという複雑な仕組みも同時に明らかになっていく。本書が最終的に示す複雑・多様な全貌は想像以上のものである。
こうして、80カ国以上、約400人のジャーナリストがデータを1年以上にわたって分析した結果がウェブに掲載されている。驚くべきことに、多くの国のリーダーたちが、国内の混乱をよそに裏でせっせと蓄財に励んでいる。コンプライアンスを順守すべき法律事務所がその中心に位置し、その事務所への「危ない」顧客の紹介に、信用を守るべき銀行自身が関与しているケースがある。表の顔と異なる裏の顔の使い分けである。
倫理なき経済の実態を暴き出した歴史的な意義は大きい。現に、本文書の発表により、現職の首相が辞任に追い込まれるなど、国際政治は大きく揺さぶられている。
告発の背景には、貧者と富者の富の格差など、民主主義の存立への懸念がある。リークの告発者、ジャーナリストには大きなリスクが伴う。そのリスクをあえて負う危機感がひしひしと伝わってくる。タックスヘイブンの闇を最終的に解消できるのか。ジャーナリストの告発に続く訴追は可能なのか、など残された課題は重い。
(姫田多佳子訳、KADOKAWA・1800円)
▼B・オーバーマイヤー氏は77年生まれ。F・オーバーマイヤー氏は84年生まれ。ともに南ドイツ新聞に所属。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)メンバー。
《評》専修大学教授 徳田 賢二
Wikipedia
この文書は、1970年代から作成されたもので、総数は1150万件に上る。文書にはオフショア金融センターを利用する21万4000社の企業の、株主や取締役などの情報を含む詳細な情報が書かれている。これらの企業の関係者には、多くの著名な政治家や富裕層の人々がおり、公的組織も存在する。たとえば、マレーシアの政府基金1MDB をめぐる汚職事件をきっかけとする捜査の進む途中で、実業家のKhadem al-Qubaisi が、パナマ文書に載っているオフショア会社を経由し、ジュネーヴに本店があるエドモン・ド・ロチルド銀行のルクセンブルク支店で口座を開設したことが分かっている。
パリ家とイスラエルのコネクションにちなみ、あと一例を挙げる。Bank Leumi とBank
Hapoalim それぞれの子会社も掲載されている。前者はボーア戦争の年にAnglo
Palestine Bank というアングロアメリカンを想起させる名前で創立しただけあってバークレイズとも関係している。バブル崩壊したころ、バンク・レウミの議決権は大半をユダヤ機関が握っていた。ユダヤ機関はウォール街大暴落の年にハイム・ヴァイツマンがつくったロビー多国籍企業である。1979年にはイスラエル内企業の株を40億イスラエルポンドも所有するコンツェルンとなっていた。後者のバンク・ハポアリムは、イラン・コントラ事件で密輸の送金を受けたことが分かり預金者の暗躍が疑われた。本社所在地がテルアビブロスチャイルド通り50番地(50th
Rothschild Boulevard)である。
合計2.6テラバイト
(TB) に及ぶ内容は、匿名で2015年にドイツの新聞社『南ドイツ新聞』に漏らされ、その後、ワシントンD.C.にある国際調査報道ジャーナリスト連合
(ICIJ) にも送られた。世界80か国・107社の報道機関に所属する約400名のジャーナリストが、この文書の分析に加わった。2016年4月3日、この文書についての報道は、149件の文書と伴に発表された。関連企業・個人リストの一部追加で20万社超の法人情報は、同年5月10日、日本標準時では同日午前3時にウェブサイトで公開され、オフショアリークスの検索システム(ICIJ Offshore Leaks Database)に統合され、完成版は随時発表される予定である。
同年12月、エドモン・ド・ロチルド銀行が香港から撤退することが同行筋で明らかとなった。
モサック・フォンセカ法律事務所は1977年、ユルゲン・モサック (Jürgen Mossack) とラモン・フォンセカ・モーラ
(Ramón Fonseca Mora)
により、パナマの首都のパナマシティーで設立された法律事務所である。同社のサービスはオフショア金融センターにおける企業の設立、オフショア企業の管理と資産管理サービスの提供を含む。この会社は40以上の国に事務所を持ち、500人以上の従業員を雇用している。
取引相手は30万社を超え、うち大部分はイギリスの海外領土のタックス・ヘイヴンで登録する会社である。連携機関にはドイツ銀行、HSBC、ソシエテ・ジェネラル、クレディ・スイス、UBS、コメルツ銀行、ABNアムロ銀行などの大手金融機関がある。このうち、ドイツ銀行とHSBCとクレディ・スイスは、2016年6月30日に国際通貨基金から、他のメガバンクとの密接なつながりを理由に金融システムへの潜在的なリスクを指摘された。 モサック・フォンセカ法律事務所はこれらメガバンクのクライアントのために、税務調査官に金融取引を追跡させることができない複雑な財務構造を作ることができる。流出事件が発生するまで、モサック・フォンセカ法律事務所は『エコノミスト』に「世界で最も口が堅い」オフショア金融業界のリーダーと評価されていた。『ガーディアン』によると、モサック・フォンセカ法律事務所は「世界で4番目に大きなオフショア法律事務所」である。
2015年8月、ドイツの地方紙『南ドイツ新聞』が、匿名の情報提供者から、2.6テラバイト(TB)のモサック・フォンセカ法律事務所関連文書を入手した。その後、ワシントンD.C.にあるICIJにも送られた。80カ国の約400名のジャーナリストが分析に加わった後、2016年4月3日に分析の結果が発表された。法律事務所の共同設立者は5日、文書を破棄したことはなく、国外サーバからのクラッキングによるものであり、モサックフォンセカは、法律を犯していないことを明らかにした。
流出した文書のデータ量は2.6TBと、2010年のアメリカ外交公電ウィキリークス流出事件(1.7ギガバイト
(GB))、2013年のオフショア・リークス(英語版)
(260GB)、2014年のルクセンブルク・リークス
(4GB) や2015年のスイス・リークス
(3.3GB) より遥かに大きい。文書には、1970年代から2016年の春までに作られた480万4618件の電子メール、215万4264件のPDFファイル、111万7026件の写真、304万7306件のモサック・フォンセカ法律事務所の内部データベースの概要ファイル、32万0166件のテキストファイル及び2242件のその他のファイルが含まれる。流出したデータには、約21万4千社のオフショア会社の電子メール・契約書・スキャン文書などが入っている。
2017年2月にはマネーロンダリングなどの容疑でパナマ検察がモサック・フォンセカ法律事務所の経営者2人を逮捕した。ブラジル国営石油公社ペトロブラスの汚職事件で、賄賂をめぐる不透明な資金の扱い方を指南し、資金洗浄に関与したとされる。
漏洩したのはモサック・フォンセカ法律事務所が1970年代から2016年初までに作成した、合計2.6TBの1150万件の機密文書であり、21万4488社のオフショア法人に関する情報が含まれる。これらの文書は80か国のジャーナリストにより分析されている。ICIJのジェラード・ライル理事長
(Gerard Ryle) がこの漏洩事件を「オフショア金融市場に対する今までで最も大きな打撃」と評した。HSBCにロスチャイルド、そしてロイヤル・バンク・オブ・スコットランドの部門で由緒あるCoutts が親会社として注目された。
報道によると、複数の政治家やその親族がオフショア会社と金銭的・権力的なつながりを持っている。例えば、アルゼンチンのマウリシオ・マクリ大統領はバハマのある貿易会社の取締役であるが、この情報はブエノスアイレス市長時代に公開しなかった。ただし、当時非株式取締役に関する情報公開の必要があったかどうかは不明である。また、『ガーディアン』の報道によると、FIFA倫理委員会の委員の1人とエウヘニオ・フィゲレド元副会長
(Eugenio Figueredo) との間には、利益相反の故に大規模な争いがあったことも明らかにした。2016年5月12日、オーストラリアのマルコム・ターンブル首相が文書に名前を発見された。
肩書は文書流出時
国
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首脳
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肩書
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任期・在位
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備考
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2015年12月10日
– 在任中
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2004年11月3日
- 在位中
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2014年6月7日
– 在任中
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1996年5月28日
- 1997年7月2日
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2015年1月23日
- 在位中
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2013年5月23日
- 2016年4月7日
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2012年10月25日
- 2013年11月20日
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1999年3月12日
- 12月21日
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1988年12月2日
– 1990年8月6日
1993年10月19日 – 1996年11月5日 |
2007年暗殺
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2004年5月28日
- 2005年4月7日
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2000年7月19日
- 2003年10月22日
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1995年6月27日
- 2013年6月25日
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2007年4月3日
- 2013年6月25日
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1986年5月6日
- 1989年7月30日
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2008年死去
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さらに以下46か国もの政治家・公職者、そして政府関係者の親族や友人の名前も文書で公表された。
例えば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の本人の名前はないものの、3人の友人の名前は文書にある[33]。また、中国の習近平共産党総書記の義兄、同李鵬元首相の娘、デーヴィッド・キャメロン首相の亡父、マレーシアのナジブ・ラザク首相の息子、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領の子供達、カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領の孫、パキスタンのナワーズ・シャリーフ首相の子供達、南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領の甥、モロッコのムハンマド6世国王の秘書、メキシコのエンリケ・ペーニャ・ニエト大統領の財政的支援者(「大好きな契約者」)、韓国の盧泰愚元大統領の息子、コフィー・アナン元国連事務総長の息子などの政治家の親族や友人の名前を挙げられる。
プロサッカー界においてもいくつの要人や選手の名前が載っている。例えば、南米サッカー連盟の元会長であるエウヘニオ・フィゲレド、欧州サッカー連盟の元会長であるミシェル・プラティニ、FIFAの元事務局長であるジェローム・バルク、アルゼンチンのプロサッカー選手リオネル・メッシなどが挙げられる。レアル・ソシエダに至ってはチーム内複数の元選手の名前(ヴァレリー・カルピン、サンデル・ヴェステルフェルト、ダルコ・コバチェビッチなど)が載られる。また、イギリスのプロゴルファーニック・ファルド、ドイツのレーシングドライバーニコ・ロズベルグ、インドの俳優アミターブ・バッチャンとその息子の妻で女優のアイシュワリヤー・ラーイ、香港の俳優のジャッキー・チェンのようなスポーツ界・芸能界の有名人の名前もある。パナマ紙『エル・シグロ』(El
Siglo) によると、ジャッキーはイギリス領ヴァージン諸島にある6つのダミー会社の株主になっている。
モサック・フォンセカ法律事務所は長年にわたって巨大な数の企業の管理を行っており、特に2009年にその数は8万社を超えていた。パナマ文書には21か所のオフショア金融センターにある21万社を超える会社の名前が記載されており、そのうち半分以上はイギリス領ヴァージン諸島で設立したもので、パナマ・バハマ・セイシェル・ニウエ・サモアなどの地域に設立したものも多い。モサック・フォンセカ法律事務所は100カ国以上のクライアントとは業務上の関係があり、そのうち多くは香港・スイス・イギリス・ルクセンブルク・パナマ・キプロスの企業である。この法律事務所は500社以上の銀行・法律事務所・投資会社とともに、クライアントの要望に応じて1万5600社以上のペーパーカンパニーを作った。そのうち、HSBCは2300社、デクシア、J.サフラ・サラシン (J. Safra Sarasin)、クレディ・スイス、UBSはそれぞれ500社、ノルデア銀行は約400社のオフショア会社の設立に手伝った。
ICIJと提携し、共同通信社と伴にに解明作業に参加している朝日新聞社の調査と分析によると、リストには日本国内を住所とする約400の個人や企業の情報が含まれるが、政治家などの特別職は含まれていないとしている。
このうち、報道されたものとしては、警備会社セコム創業者の飯田亮と戸田壽一とその親族につながる法人がある。飯田と戸田は、1990年代から当時の時価にして700億円の持ち株を、イギリス領ヴァージン諸島やガーンジーに設立された、複数のオフショア法人に名義移転させていたとされている。
複数の専門家は、この措置によって、両名の親族ないし遺族への贈与税や相続税が、かなり圧縮される結果になっていると指摘している。東京新聞の取材に対し、セコムは「税務当局に詳細な情報開示を行って、適正な税金を納めている。課税を免れるためのものではない」と書面で回答したが、情報開示や納税の具体的内容に関して、説明していない。
2016年4月26日、日本在住者や日本企業が株主や役員として記載された回避地法人が、少なくとも270法人に上ることが分かった。5月10日までに判明した主な企業は、ソフトバンクのグループ会社、大手商社の丸紅、伊藤忠商事、そして広告代理店最大手の電通などであった。また個人も400人(重複含む)ほど含まれていることが分かり、コーヒー飲料大手のUCCグループの代表者の上島豪太や楽天代表者の三木谷浩史社長なども記載があった。
ソフトバンクは「設立したのは、中華人民共和国のIT(情報技術)企業で、同社は設立に関係せず、要請を受けて事業参加したが撤退した」と説明した。丸紅、伊藤忠商事両社は、いずれもビジネスのための出資だとし「租税回避は目的でない」と説明した。UCCホールディングスは「日本の税務当局に求められた情報は随時開示し、合法的に納税している。租税回避が目的ではない」と述べた。楽天は「節税や脱税を目的としたものではない」と述べた
同5月27日、朝日新聞は民進党の石関貴史の資金管理団体「石関たかしを育てる会」で会計責任者を務めた地元・群馬県内の青果仲卸会社社長が、タックスヘイブンにある会社の株主としてパナマ文書に載っていたと報じた。社長は「海外でのビジネス展開が目的で設立したが、事業は行っていない。すべて適法に処理している」と説明し、石関事務所は「(朝日新聞の)取材を受けて初めて知った」と述べた。
同11月27日、朝日新聞とNHKは漫画家のいがらしゆみこの名前がタックスヘイブンにある会社の役員としてパナマ文書に載っていたと報じた。いがらしの名前があったのは、英領バージン諸島の会社の登記関連資料で、1998年12月から2002年3月まで役員を務めたことになっていた。さらに、住所がいがらしの自宅と一致し、後任の役員に娘の名があった。資料には、いがらしと娘の署名が同じ筆跡による漢字で記されていたが、いがらし母娘のものとは別の筆跡であったことから、事務所は「第三者が勝手に名前を使ったのではないか」と述べ、いがらし本人も「びっくり。なんじゃらほいっていう感じ」「まったく身に覚えがない」と否定した。
モサック・フォンセカ法律事務所は『マイアミ・ヘラルド』
(The Miami Herald) とICIJに対し、約2900字の声明を出した。そこで個人が匿名のままオフショア会社で租税回避をする可能性を低下させるために、世界中の法律・コンプライアンスについて確認していたと述べた。また、当会社はマネーロンダリングに関する金融活動作業部会の議定書を引用し、すべての会社が口座開設と取引を開始する前に、その最終的受益者を特定する必要があると強調した。
パナマ文書公開によって、アイスランドでは首相のシグムンドゥル・ダヴィード・グンラウグソンがタックス・ヘイブンを利用した資産隠し疑惑が浮上し、議会前で数千人が辞任を求めて抗議した。アイスランド政府の報道官によると、シグムンドゥルの妻がタックス・ヘイブンに所有する会社は、破綻したアイスランドの銀行に計5億クローナ(410万ドル)以上を投資していた。
流出事件後のインタビューにおいて、アイスランドのシグムンドゥルとその妻は私生活がジャーナリストによって侵犯されたという公式声明を出し、個人財産情報の公開には全く問題がないと主張した。シグムンドゥルは退陣しないと表明したが[56]、アルシングにおける内閣総辞職の要求が予想される。また、スウェーデン・テレビとレイキャヴィーク・メディアによるインタビューでオフショア会社の件を聞かれたところ、シグムンドゥルは激しく否定した後、その場を立ち去った。2016年4月5日、シグムンドゥルは一転辞任を表明した。パナマ文書の流出を受けて政府首脳が辞任するのは初となる。
イギリスでは、首相デーヴィッド・キャメロンの亡き父親の名前が挙がった。キャメロンとその周辺はパナマのオフショアファンドの所有を否認してきたが、後になって首相就任前に一時保有していたことを認めた。キャメロンは適切な税務処理を行ったとして所得税は支払ったものの、キャピタル・ゲイン税は発生しなかったため、払っていないと釈明した。また、亡父から相続した遺産30万ポンドの中にオフショアのファンドが含まれているか認識していなかったと述べた。
過去には、キャメロンが「租税回避地を使った脱税は許さない」と発言していたことから、言動不一致のキャメロンの人気は急落し、政党支持率も労働党党首ジェレミー・コービンを下回った。イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票を巡る議論でも、「EU残留派」であるキャメロンの求心力が弱まったことで、当時のロンドン市長ボリス・ジョンソン率いる「EU離脱派」の勢いが強まった。
ロシアでは大統領プーチンの友人であるセルゲイ・ロルドゥーギン(英語版)の名前が挙がった。彼はオフショア取引に関連した事業を拡大し、プーチンがこれに関与した可能性が指摘され、政府は疑惑打ち消しに追われている。
ロシア連邦政府はこの流出事件を「西側の陰謀」と呼び、プーチンが今回の事件の「主な標的」であり、西側諸国はプーチンを恐れるゆえにオフショア金融の情報をわざと漏洩させたと主張した。ペスコフは「プーチンとロシアの安定性、そして次期選挙を混乱させるのが今回の事件の主な目的だ」と述べた。
4月14日、プーチンはテレビを通じた国民との直接対話で、パナマのオフショア口座にある数十億ドルの資産に関与している可能性を否定し、アメリカの「挑発」だと断じた。そして、流出情報やそれに基づく報道は今年の議会選挙のためにアメリカが背後で仕組んだ策略だと語り、アメリカの政府関係者・投資銀行が情報流出に関わっていることを示唆した[65]。しかし、この場で南ドイツ新聞がアメリカの金融機関ゴールドマン・サックスの資本の傘下にあると「珍しく」間違った発言をしてしまい、翌日にペスコフが訂正・謝罪した。また、プーチンがロルドゥーギンを「財産の大半を楽器の購入に使った」などと難のある擁護したことについて、政権が「動揺」していることの表れとみる向きもある。国民の多くは政府の汚職に批判的だが、支持率8割を誇るプーチンの支配体制は盤石で、主要メディアに対する情報体制もあって反発する声は表に出ていない。
なお、5月9日にはロシア軍の援助を受け、アサド政権がISILから奪還したパルミラで、チェリストであるロルドゥーギンらが演奏会を行い、シリア騒乱へのロシア軍介入の成果をアピールした。プーチンはビデオ映像を介して、出演者らの「多大な努力と絶対的な勇気」を称賛し、映像は国営放送でロシアに生放送された。ロルドゥーギンが出演することで、国民の不信を抑える目的があったとされる。
習近平党総書記(最高指導者)など現職・旧指導部の親族に関連する情報が文書に含まれるが、中華人民共和国では、パナマ文書についての報道規制・金盾による検索制限がかかっている。文書に関する初期報道が殆ど削除され、検索エンジンで調べても、適切な検索結果が見つからない。
ウクライナのポロシェンコ大統領は自身の租税回避疑惑について、「説明責任を果たしていた」「極めて透明性が高い」と主張した。ポロシェンコが所有した菓子会社の売却を委託された法律事務所は公開声明で、イギリス領バージン諸島にあるオフショア会社はウクライナの法律に基づいて設立されたものであると述べた。
日本では、菅義偉官房長官が文書流出事件について「日本企業への影響も含め、軽はずみなコメントは控えたい」と述べ、また、日本国政府としては調査しない旨を述べた。麻生太郎財務大臣は、パナマ文書で暴露された各国首脳らの租税回避地利用問題について、「疑惑が事実であるとするなら、課税の公平性を損なうことになるので問題だ」と懸念を示した[76]。国税当局は公開された法人や個人について、適正に納税しているか確認を進める方針であり、星野次彦国税庁次長は、「(パナマ文書の)報道を関心を持って見ているし、課税上問題が認められれば、税務調査を行うことになると思う」「当然興味はあるし、調べる」と述べた。
2016年5月23日、財務省はパナマと税務情報を交換する協定を締結することで合意した。パナマが2国間で租税協定を結ぶのは、日本が初めてである。これにより国税庁は、パナマにある日本人の銀行口座情報を定期的に把握できるようになり、個人番号と併せて課税逃れを封じ込めやすくなる。
シンガポールは、2016年4月に調査を開始し、財務省
(MOF) と通貨庁(MAS、中央銀行)が「シンガポールの個人あるいは組織による不正の証拠があれば、われわれは断固たる措置を取ることをためらわない」と共同声明を発表し、厳正に対処する姿勢を示した。
パナマ文書によって、シリアの大統領バッシャール・アル=アサドの従兄弟ラミ・マクルーフ(英語版)とハーフェズ・マフルーフ(英語版)がアメリカによる経済制裁を回避するために、ヴァージン諸島のペーパーカンパニーを利用していたことが明らかになった。ラミ・マクルーフはアサド体制における縁故資本主義の中心にいる人物とみられている。
パナマ文書の流出によって、イタリアの画家アメデオ・モディリアーニの絵画、第二次世界大戦の最中にナチス・ドイツに略奪されたと見られる『杖を突いて座る男』の現在の所有者が特定された。絵が2500万ドル(約27億円)相当の価値があると見なされ、2016年4月中にスイスのジュネーブで現地の警察当局に押収された。
2017.4.11. 朝日
「パナマ文書」ピュリツァー賞 解説報道部門でICIJなど3団体・社
米国の優れた報道に贈られるピュリツァー賞の受賞作が10日、ニューヨークのコロンビア大学で発表され、解説報道部門で、各国指導者らのタックスヘイブン(租税回避地)関与の実態を暴いた「パナマ文書」を報じた「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」など3団体・社が選ばれた。
▼2面=国境越えた協働
ICIJは、カリブ海の英領バージン諸島などの租税回避地の会社設立などを手がけるパナマの法律事務所の内部文書を入手。設立された21万余の法人に関する情報を分析し、会社株主に名を連ねていたアイスランド首相が辞任に追い込まれたほか、税逃れ対策の国際ルール作りを後押しするなど、世界的に大きな影響を与えた。
この報道には、約80カ国のジャーナリスト約400人が国や報道機関の枠を超えて取り組んだ。日本からはICIJと提携する朝日新聞と共同通信の記者が加わり、日本人が会社の利益や知的財産権を租税回避地の法人に移した事例などが見つかった。同賞は米国での報道が対象だが、授賞理由の中ではこうした国際的連携にも触れられた。
国内報道部門では、昨年の大統領選期間中に候補者だったトランプ大統領の慈善活動の誇張ぶりを探ったワシントン・ポスト紙のファレンソルド記者に授賞。国際報道部門では、政敵の排除やネット上での攻撃などで権力を拡大するロシアのプーチン政権の姿を描いたニューヨーク・タイムズ紙が選ばれた。(ニューヨーク=鵜飼啓)
2017.4.12. 朝日
「パナマ文書」80カ国の記者連携 ピュリツァー賞、朝日新聞記者参加のICIJなどに
米国の優れた報道に贈られるピュリツァー賞の受賞作が10日、ニューヨークのコロンビア大学で発表された。解説報道部門で、各国指導者らのタックスヘイブン(租税回避地)関与の実態を暴いた「パナマ文書」を報じた「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」など3団体・社が選ばれた。日本ではICIJのパナマ文書報道に朝日新聞や共同通信の記者が参加している。国内報道部門は、昨年の大統領選で、共和党候補だったトランプ氏への徹底的な調査報道を貫いたワシントン・ポスト紙のデービッド・ファレンソルド記者の受賞が決まった。
■租税回避地、実態暴く
パナマ文書は中米パナマの法律事務所から流出した約1150万件の電子ファイル。南ドイツ新聞が匿名の人物から入手し、ICIJを通じて約80カ国、約400人の記者が共有し、取材した。
選考委員会は授賞理由で「6大陸にまたがる記者たちの協働で、タックスヘイブンの隠された構造と世界的な規模を明らかにした」と評価した。
昨年4月に報道が始まった後、アイスランドのグンロイグソン首相やスペインのソリア産業相が辞任に追い込まれた。国際サッカー連盟のインファンティノ会長の不正疑惑が持ち上がるなど、スポーツ界にも波紋が広がった。
ICIJのまとめによると、約80カ国で税務当局などが調査を開始。昨年12月までに、コロンビアやスロベニアなどで少なくとも1億1千万ドル(約122億円)の未申告の税金や資産を押さえたという。
国際的な税逃れを防ぐ枠組み作りも後押しし、税情報を交換する枠組みに入っていなかったパナマやバヌアツなど一部のタックスヘイブンが参加を表明した。パナマ文書の流出元となった法律事務所の創業者は資金洗浄容疑で逮捕された。
ICIJは1997年に発足した非営利の報道機関で、パナマ文書以前にもタックスヘイブンに関する取材を続けてきた。ジェラード・ライル事務局長は「画期的な新事実を明らかにし、世界的なインパクトがあったと認められて光栄に思う」とコメントした。(編集委員・奥山俊宏、パリ=寺西和男)
■トランプ氏徹底追及 国内部門、献金巡る報道受賞
国内報道部門の受賞が決まったワシントン・ポスト紙のファレンソルド記者は選挙中、トランプ氏の関係する慈善団体「トランプ財団」が、他人からの献金を自身の関連企業の和解や肖像画の購入にあてていたことなどを次々と暴いた。
ポスト紙によると、同記者は450もの慈善団体に連絡を取り、トランプ氏から寄付を受けたことがあるか裏付け取材を行った。また、ツイッターなどを駆使して取材の途中経過を公開しながら、幅広く情報を募るという手法を取ったことも授賞理由となった。
米国では現在、マスメディアに対する信頼がかつてなく低下。ギャラップ社による昨年の調査では「すごく信用する」「かなり信用する」と答えた人は計32%で、1972年に調査を始めてから最低に。特に共和党員の間では14%にとどまる。トランプ氏が、自身に批判的な一部マスメディアに批判を繰り返したり、ツイッターで直接言葉を発信したりすることなどが影響したとみられる。
ポスト紙は調査報道取材を強化。カトリック教会の神父による性虐待と組織的もみ消しを暴いた、ボストン・グローブ紙の編集局長だったマーティー・バロン氏を編集主幹に起用、スクープを連発した。
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