10代からの情報キャッチボール入門  下村健一  2016.3.30.

2016.3.30. 10代からの情報キャッチボール入門 使えるメディア・リテラシー

著者 下村健一 1960年生まれ。東大法・政治コース卒。85TBS入社。報道アナ、現場リポーター、企画ディレクター。00年フリー。番組の取材キャスターを続ける一方、市民メディアアドバイザーとして活動。1013年内閣審議官として官邸の情報発信担当。現在慶應大特別招聘教授、関西大特任教授、白鴎大特任教授

発行日           2015.4.24. 第1刷発行
発行所           岩波書店

著者からのメッセージ
情報受ける時にも、発する時にも使える、4つのギモンと4つのジモン
インターネットは、思い込みを固める道具ではなく、思い込みを壊す道具として使おう!
具体的な事例A~Zで描くこの本に、予備知識は不要です


情報の加害者と被害者
情報をしっかり受け止めるための4つのギモン
結論を即断するな
意見か、印象か、ごっちゃにして鵜呑みにするな
1つの見方に偏るな
走っている犬と走っている人間の2枚の絵を、順番を逆にして見せる  人を先に見せると犬に追いかけられていると思い込み、逆に犬を先に見せると逃げた犬を追いかけていると思い込む


隠れているものがないか、スポットライトの周囲を見よ
情報をしっかり届けるための4つのジモン
何を伝えたいかーー明確さ
キメつけていないかーー正確さ
キズつけていないかーー優しさ
これで伝わるかーー易しさ
≪表現力=思いやり力≫と≪汗の総量一定の法則≫




身近なことでも政治なんだ 学生たち、渋谷で語り合う
20162210500分 朝日
 若い世代が政治参加の意味を考える催しが17日、東京都渋谷区であった。社会課題の解決策を参加者や専門家、記者がともに考える「未来メディアカフェ」(朝日新聞社主催)の一環。18歳から20代の学生29人が参加し、NPO法人YouthCreate(ユースクリエイト)代表の原田謙介さん(29)がコーディネーターを務めた。
 学生たちからは、学校で政治参加を教える授業内容の見直しやわかりやすい報道を求める意見が出た。慶応大1年の松本郁哉(ふみや)さん(18)は「メディアは柔らかいツイートをするとか、もっとSNSを活用して」と話した。
 学生たちは公園づくりのグループワークを通じて、政治参加を体験。高齢者や幼児の母親など与えられた役になりきって、多くの人が満足できるような設計案を話し合った。早稲田大3年の加地紗弥香さん(21)は「政治って知識がなければ、しゃべっちゃいけないと思いがちだけど、身近なことなら発言しやすい」と感じたという。

(18 私たちも投票します)AKB48、ジャーナリスト・津田大介さんと考える
20162210500
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 (4面から続く)
 マスメディアとは? 多くの人に発信、人手が必要
 津田 メディアの中でも、新聞やテレビ、ラジオ、雑誌は、マスメディアとかマスコミと言われます。なぜかわかりますか?
 向井地 メディアの意味はわかりましたが、「マス」って何でしょう?
 津田 例えば新聞は、家や学校、図書館、どこにでも置かれていますよね。
 茂木 みんな知っているし、誰でも見られる。数が多いという意味ですか?
 津田 そう。「マス」とは、英語で「大衆の」ということです。マスメディアは、多くの人に情報を伝える装置なんです。朝日新聞は、全国で何万部売れているか知っていますか?
 茂木 300万部?
 加藤 もっと多いのでは。500万部とか。
 津田 加藤さんが近いですね。660万部が全国に届いています。さっき「ひともメディア」と言いましたが、僕がこうやってマイクを使わずに話して聞こえるのは、せいぜい20人ぐらいでしょう。でも僕が朝日新聞に原稿を書くと、数百万人に届くわけです。
 加藤 マスメディアだと発信力が増えるんですね。
 津田 20~30年前までは多くの人に情報を伝えたかったら、アイドルになってCDを出すとか、テレビに出るとか、新聞社や出版社に入る必要があった。でも今は、ネットがあるから誰でも情報発信できる。
 なぜマスメディアが大きな存在になったのかというと、一度に多くの人に情報を届けるためにはお金がかかるからです。新聞やテレビで情報を発信するには、何億円もかけて仕組みを整えなければいけない。660万部の新聞を毎日発行するには、紙代や印刷代、輸送費がかかる。社員に給料も払わないといけない。でもネットはどうですか。
 茂木 スマホを使っていますけど、月数千円、多くても1万円ぐらいです。
 津田 どんなに情報を発信しても、月々の通信費だけで済みますよね。ところでAKB48に関わっているスタッフって何人ですか。
 向井地 スタッフの方の数はわからないけど、メンバーは日本で300人以上います。
 津田 朝日新聞には4600人の社員がいるそうです。読売新聞も大体同じ。かなりの人数で新聞を作っている。テレビ局ではNHKが一番多く、職員は全国に1万人います。
 向井地 そんなに?
 津田 マスメディアの情報には、ものすごいお金と人数と手間がかかっている。僕が出演する民放のニュース番組は200人で作っています。うち十数人が僕の10分間のコーナーのために働く。ネタを探して台本を書き、打ち合わせをしてVTRを作り、情報に間違いがないか確認して……。その繰り返しです。
 加藤 新聞の場合も、同じような手間をかけているのでしょうか?
 津田 新聞は、記者が取材して原稿を書く。上司のデスクが見て「ここを直して」などと何度かやりとりする。次に原稿をチェックする部署で記事に間違いがないか確認する。十数行の短い記事でも出すのに何人もの人が関わっています。
 どんな違いがある? 信頼度を分けるのは確認作業
 津田 校閲という仕事があります。新聞や出版業界には必要不可欠なものです。何をするのでしょう。
 茂木 書かれた原稿が間違っていないか、確認することでしょうか?
 津田 正解です。原稿の文字や単語だけでなく、事実関係に間違いがないか、徹底的にチェックします。例えば、タイを旅行した作者が「まぶしいほどの月光が差し込んできた」と書いたら、その日のタイでまぶしいほどの月光が本当にあったのか、現地の天気も調べる。出版社や新聞社は校閲担当がこれをします。事実かどうかをいろんな人の目でチェックし、世の中に出すわけです。
 茂木 そんなに人の手をかけているんですね。ネットの場合はどうなんでしょう。いろんな情報が出ていますが?
 津田 ツイッターフェイスブックだと、思いついたらすぐ書き込んだり、うろ覚えのことでも書いたりしませんか。ネットメディアも社員が少ないことが多く、マスコミほど校閲に力を割けない。どれだけ手間やコストをかけるかで、情報の信頼度も変わってくるわけです。
 向井地 ネットは気軽に情報発信ができるけど、間違った情報が流れてしまう可能性もあるわけですね。
 津田 では次に、メディアごとに信頼度と、伝える情報の分かりやすさについて考えていきましょう。
 テレビの場合、映像の情報量はすごく多い。みなさんの笑顔も新聞で表現するより、テレビの方がすぐ伝わりますよね。テレビ局ではたくさんの記者やスタッフが情報の確認もしっかりやっていて、信頼度も高い。一方で情報の確認を一番やっているのは、日本だと新聞社ですね。みなさんはあまり新聞を読まないそうですが、なぜですか。
 茂木 自分が知りたいと思う情報がないというか……。テレビのほうが面白いし、見やすいからです。
 向井地 読むのに時間がかかるし、かたいイメージがあります。
 加藤 書いてあることが難しい。理解するのに時間がかかってしまいます。
 津田 なぜ難しいのか。日本では毎日、家に新聞が配られるので、記事も毎日読んでもらう書き方になっている。続けて読んでいないと、より難しいと感じますね。一方、米国やヨーロッパの新聞に宅配は少ないので、読者は買わない日もある。だから、その記事だけでわかりやすく、面白く読めるように書いている。
 加藤 他のメディアはどうなんでしょう?
 津田 週刊誌は正しいスクープもあれば、うわさ話を書くこともある。AKB48もいろんな雑誌で好意的に書かれることもあれば、ネガティブに書かれることもあると思います。ネットメディアも、記者がきちんと確認しているところもあれば、取材もしないで書き飛ばしているものもある。
 加藤 ネットに書いていることをそのまま信じてしまう人もいる。情報を受け取るための力をつけないといけないですね。
 津田 メディアといっても作り方や社員の数、かけている手間で信頼度に違いが出てくる。次回からはメディアごとの違いを意識したうえで、情報の読み解き方を考えていきましょう。
 =敬称略
 (構成・岡田慶子、貞国聖子、山田明宏、大西元博)
    *
 津田大介(つだだいすけ)さん 1973年生まれ。早稲田大社会科学部卒業、ジャーナリスト、大阪経済大学客員教授、京都造形芸術大学客員教授。メディアやIT・ネットサービスなどが専門分野で、著書に「ウェブで政治を動かす!」など。
 次回からは
 第2部では計4回にわたり、投票するためにメディアから必要な情報をどうやって集めるか、その情報の扱い方を話し合います。
 今月末に掲載予定の第2回は、今回比べた各メディアの特徴を踏まえて、情報に込められた意図を読み解く力=「メディアリテラシー」を考えます。
 来月中旬に掲載見通しの第3回は、情報が伝えられる具体例をもとに、メディアリテラシーをどうやって身につけるかを話し合います。来月下旬に掲載予定の第4回では、メディアとの接し方や、バランス良く情報を得る方法を考えます。


(18 私たちも投票します)メディア情報の正しさ、どう確認? AKBと考える
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 第2部・第2回 メディアリテラシーを考える メディアの特質を理解し、情報の意図を読み解く
 今夏から新たに選挙権を得るAKB48の3人と、ジャーナリストの津田大介さんによる「私たちも投票します」(第2部)は今回、メディアリテラシーについて話し合います。前回はメディアとは何かを考えました。第2回は、様々なメディアが伝える情報と向き合い、それを読み解く力について語り合います。
 判断し見抜くリテラシーを
 津田大介 前回は、メディアによって情報の信頼度やわかりやすさが違うことを話し合いました。
 加藤玲奈(れな) 情報が正しいかどうかを確認する校閲が大切という話でした。
 津田 今回は、大量の情報の中で何が正しくて何が間違っているのかを、どう判断したらいいかを考えたいと思います。
 向井地美音(むかいちみおん) ツイッターSNSで流れている情報について、本当なのかと疑問に思うことはありますね。
 津田 それを見抜く力をメディアリテラシーと言います。リテラシーとは読み書きの能力のことなので、メディアについての読み書き能力です。
 向井地 新聞やテレビについて、今までそんな風に考えたことはありませんでした。
 津田 記事に書いたり、テレビで放映したりしたことは、全部何らかの意図で「情報」としてまとめられている。それを批判的に読み取る能力、ちょっとうがって見る能力です。友達に話を盛(も)る人っていません?
 茂木忍(もぎしのぶ) 確かにいますね。
 津田 そんな時、実際はそこまで大したことじゃないだろうから、あの子の話は2割引きで聞こうとか、逆にこの人の言うことはまじめに聞こうとか思いません? そういう判断基準を、我々は相手に対して自然と作っている。それをテレビや雑誌、新聞に対しても同じようにしようというのがメディアリテラシーです。例えばスポーツ新聞って、どんな新聞だと思いますか。
 茂木 普通の新聞とは少し違う感じですね。ちょっとネット寄りというか。
 津田 多くのスポーツ新聞は朝刊紙ですが、夕刊紙もある。特に夕刊紙だと過激な見出しのそばに小さく「か?」と付けたり、例えば「宇宙人ついに見つかる」みたいな見出しの記事もあったりする。好きな人は面白がって買うけれど、話を盛りがちな人に対してと同じように、記事の内容をすべてうのみにしているわけじゃない。
 向井地 情報を受け取った時、自分で一回考えてみて、それから理解する、とするべきなんですね。
 津田 雑誌や新聞に対しても、それぞれのメディアの特徴を知った上で、割り引いたり信用したりして考えるのがメディアリテラシーなんです。友達や仲間と話す時も同じです。相手がどんな人かわかったうえで、どこまで話していいかを考えますよね。
 加藤 私はSNSで発信する前に、これって本当のことかなって、一呼吸置いて考えます。送った言葉は世の中に出てしまうから、気をつけています。
 津田 それもメディアリテラシーです。辞書には、「様々なメディアが伝える価値観、イデオロギーなどをうのみにせず、主体的に解読する力」とある。
 加藤 イデオロギーって何でしょう?
 向井地 考え方みたいなものですか。
 津田 価値観はわかりますね。何に対していいと思うか、悪いと思うか。AKB48の中で、価値観が分かれるものって何ですか。
 茂木 握手会の対応とかは、メンバーによって分かれるかもしれません。
 向井地 パフォーマンスも。元気に一生懸命踊る派と、表現で観客に魅力を伝える派みたいな……
 津田 それも価値観ですね。イデオロギーは、向井地さんが「考え方」と言ったけれど、ちょっと補足して簡潔に言うと「政治的な考え方」です。
 様々な意見触れ、視野広がる 例えば原発問題、分かれる賛否
 津田 例えば原発をどうするかは、日本を二分する問題ですね。朝日新聞の世論調査=注=でも、原発をゼロにしたい人が7割程度いて、2割強は原発が必要だと思っている。主な全国紙5紙の論調を比べても原発については意見が分かれています。大まかに言うと、朝日と毎日は原発ゼロに近づけた方がいいという考え。一方で読売と産経、日経は原発は当面使った方がいいという考えです。
 加藤 知りませんでした。家では朝日新聞を購読していますが、比べてじっくり読んだことはないので。
 津田 記事を読む時に「そういう立場なのか」と知っているかどうかで、読み解き方も変わる。それが、主体的に解読する力につながります。
 茂木 メディアごとに考えが違うわけですね。
 津田 物事には裏表があります。原発が必要だという人はなぜ必要と言うんだろう、原発ゼロという人はなぜなくした方がいいと言うんだろうと、両方の考え方に触れる。一面的な見方に陥るのでなく、いろんな考え方に触れることで視野が広がります。
 茂木 一つの考え方をうのみにせずに、いろんなメディアに触れることが大事なんですね。
 津田 そうすれば、自分の考え方もわかってくるはずです。さらに情報を読み解くためには、自分の発信力も鍛える必要がある。「情報のギャップ」という言葉がありますが、どんな意味でしょうか。
 向井地 うーん、わからないです。
 津田 硬い言葉で言うと、情報が受け取る人の家庭環境や教育水準、普段接するメディアによって偏ることで、本来伝わるべき情報が伝わっていない状況――という意味です。会話している時に、相手の全然知らないことをずっとまくし立てる人っていますね。その人は情報のギャップを意識できていないんです。
 向井地 私たちは情報を発信する側でも、受け止める側でもありますよね。
 津田 一番いいのは、親や親戚に説明できるかを意識すること。わかりやすい説明を心がければ、発信力が鍛えられる。そうすればテレビや新聞の情報を見たり読んだりする時も、こういう意図なんだと読み解けるようになる。
 茂木 私たちもステージに立って、たくさんの方に話すことも多いので、伝え方を意識したいです。
 津田 人に話したり、ステージで表現したりすることで、わかることも多い。情報はそのように使って、初めて価値が出るのです。
 =敬称略
 (構成・岡田慶子)
 (注)朝日新聞が昨年8月に実施した全国世論調査(電話)で、原子力発電を今後どうしたらよいかと質問すると、「ただちにゼロにする」は16%、「近い将来ゼロにする」が58%、「ゼロにはしない」が22%だった。


(18 私たちも投票します)情報読み解く力が大切 AKBと考える
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 第2部・第3回 メディアリテラシーの身につけ方 具体例から情報を判断するポイントを考える
 今夏から選挙権を得るAKB48の3人と、ジャーナリストの津田大介さんによる「私たちも投票します」(第2部)は今回、情報の読み解き方を具体例から考えていきます。同じ情報でも、受け取る順番や発信した側の意図によって、受け取り方は違ってきます。様々な情報をどう判断したらいいかを話し合います。
 見る順番で全く逆に見えることも
 津田大介 前回は情報を読み解く力、メディアリテラシーが大切だということを話し合いました。今回は、具体的にどう読み解けばいいのか、考えていきましょう。ジャーナリストの下村健一さんの本=注=ではこんな例が紹介されています。2枚の絵を順番に見せます。1枚目は男の子が走っています。2枚目は犬が走っている。何が起きていると思いますか。
 加藤玲奈(れな) 犬が男の子を追いかけているように見えます。
 茂木忍(もぎしのぶ) うん、男の子が犬に追いかけられている。
 向井地美音(むかいちみおん) 私も同じように見えます。
 津田 ではもう1回。今度は1枚目が犬、2枚目が男の子です。どうですか。
 向井地 あっ! 男の子が犬を追いかけている。
 津田 見る順番によって見え方が違ってくる。順番を変えるだけで、全く逆のものに見えるわけです。情報を読み解く場合も同じです。同じ素材でも順番や切り取る部分を変えると、全然違うストーリーになる。
 例えば、アイドルグループ・SMAP(スマップ)の解散騒動をめぐる報道では、あるスポーツ紙が「(事務所の)経営者の視点から見れば、解散で得をする人間は一人もいない」と書きました。記事に経営者のコメントはないので、情報源を隠しながら事務所の言い分を書いたのではと想像できます。それに気づけるかがメディアリテラシーです。
 加藤 記事の書き方、見え方にも気をつけて、情報を読み取らないといけないわけですね。
 津田 情報を読み解ける力が身についてくると、記事を読んだ時、誰からの情報に基づく記事かとか、情報源を隠すように書かれた記事だな、といったことがわかってきます。
 茂木 ふだんネットで、ニュースのまとめサイトをよく見ます。サイトによってそれぞれ書き方や見方が違うなって思います。
 津田 2014年9月4日付の朝日新聞と毎日新聞日本経済新聞の1面を比べてみましょう。安倍晋三首相が内閣改造を発表した記事が載っています。
 同じ記者会見を取材した記事ですが、それぞれの新聞が重要だと考えて、1面の見出しに取った言葉や方針はそれぞれ違っています。朝日は「政権安定を優先」、毎日は「地方・女性に重点」、日経は「経済を最優先」。同じ素材を使っているのに全く違います。
 3紙を読めば、新聞によって重要だとするニュースが違うというのがわかりますが、普通は読み比べない。それが情報のギャップにつながるわけです。
 加藤 たくさんのメディアでいろんな情報に触れることが大切なんですね。
 津田 ネットには信頼度が高い情報もあれば、低い情報もある。新聞は情報の信頼度は高いけれど、正しい情報だとしても、それぞれ意図が込められていることもあります。
 本当っぽい情報、信じていいの? 即断せず、ほかの見方意識を
 津田 いま進行中の米国の大統領選挙を例に考えます。ある候補の演説会の写真を見ると、前列に黒人と白人が半数ずつ写っています。実は会場にいる聴衆のほとんどは白人ですが、写真だけを見ると、この候補が「多様な人から支持を受けている」という印象を持つかもしれません。
 茂木 それは意図的にやっているんですか。
 津田 実は、報道陣のカメラ席の前だけに、黒人や移民が集められているんです。主催者は来場した彼らにそこへ座ってもらうことで、報道を通じて、人の目にどう映るかをわかっています。聴衆の配置で事実とは違うメッセージを発することができるからです。
 加藤 写真だけだったり、一つのメディアを見るだけだったりすると、わからないことが多いと。
 津田 表面的には正しい情報でも、裏に意図があるかもしれない。さきほど紹介した下村さんの本には、情報の意図を読み解くコツが四つ書かれています。
 一つ目は「結論を即断しない」。情報を聞いた時、すぐにうのみにはしないということです。
 加藤 確かにうわさ話は多いから、そうなのかなと思うこともあります。
 津田 うわさ話って楽しいし刺激的ですが、私は3人ぐらいから同じ話を聞いて、初めて信用度が高いんだなと判断しています。
 向井地 ネットの情報でうそっぽいなと思うこともありますが、簡単に信じてしまうこともある気がします。だから、本当の話か確認してから、伝えるようにしています。
 津田 そうですね。新聞に書かれていると本当っぽいけどまだわからない、というふうに自分に言い聞かせた方がいい。
 コツの二つ目は、事実と、意見や感想を区別して考えることです。記事でも、事実なのか、それとも書いている人の意見なのかで大きく違う。例えば「冷酷な仕打ち」と書いてあっても、それは事実ではなく、書いている人の意見や感想を反映したものです。
 茂木 情報の内容が偏った見方かもしれないから、いろんな方向からみることが大事なんですね。
 津田 そうです。三つ目は、ほかの見方がないか探すことです。男の子と犬の絵で、順番を変えるだけで見え方が変わりましたよね。例えば集会などで、主催者がある人のことを強くアピールしたいと思ったら、印象に残るように最後に紹介することもある。
 四つ目は、隠れているものはないか、意識することです。注目される情報だけでなく、その周りも見る。大統領選の写真がそうです。想像したり現場に行ったりすると、わかることもあります。
 =敬称略
 (構成・貞国聖子)
 
 (注)走る男の子と犬の例や、情報を読み解くコツは「10代からの情報キャッチボール入門――使えるメディア・リテラシー」(下村健一著、岩波書店)で詳しく紹介されています。


(18 私たちも投票します)メディアと上手に付き合う方法は? AKBと考える
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 第2部・第4回 どうやってメディアと付き合うか バランス良く情報源を確保する方法とは
 今夏から選挙権を得るAKB4の3人と、ジャーナリストの津田大介さんによる「私たちも投票します」(第2部)の第4回は、メディアとの上手な付き合い方を話し合います。前回は情報の読み解き方を具体例から考えました。今回は、情報をバランス良く得る方法について語り合います。
 ネット・紙・人が情報源
 津田大介 前回は、情報の読み解き方について考えました。では、どうやったら、その能力を身につけられるのか。大切なのは、ネット、紙、人の三つの情報源をうまく活用することです。栄養のバランスが偏ると不健康になるように、情報の入手先もバランスが肝心です。
 向井地美音(むかいちみおん) ネットからだと、情報が簡単に手に入るので、つい頼ってしまいます。
 津田 皆さんはスマホを使っていますし、生活になくてはならないものでしょう。大事なのは、ネットで流れる情報の特徴を知ったうえで接することです。
 茂木忍(もぎしのぶ) ネットには、だれが発信したのか分からない情報もありますね。
 津田 そう。もう一つ特徴がありました。
 茂木 特にSNSとかまとめサイトの情報には、正確じゃない情報も含まれています。
 津田 そうです。でもネットの情報は速い。最新のニュース速報をチェックできるし、INE(ライン)ツイッターで思ったことをすぐに発信できる。新聞やテレビにはない視点の情報もあります。アイドルグループ・SMAP(スマップ)の解散騒動をめぐっては、存続を喜ぶ声がある一方、ツイッターで「かわいそう」などと違った見方も出ていました。ただ、ネット情報の信頼度はやっぱり低いので、便利だけど踊らされないように気をつける必要がある。
 加藤玲奈(れな) ネットには読みたい情報やニュースも多いけれど、「これは本当かな」って思うこともあります。
 津田 おすすめは紙の情報、特に本です。本は読むのにかけた時間に対して得られる情報の密度が濃い。校閲など多くの人手をかけた情報なので信頼度も高い。調べ物をする時にスマホでよく検索をすると思いますが、真剣に学ぶなら書店や図書館で本を探して読む方が得られるものが多いですよ。ところで、いま興味のあることは何ですか。
 加藤 料理が上手になりたいと思っています。
 津田 料理を学びたいなら、料理の本を買って読むといいです。1、2時間かけて読めば、効率よく知識が身に付く。ネットの検索だと、「これがほしい」と思う情報がなかなか見つからないこともあります。
 加藤 確かにそうですね。では、テレビの情報はどうなんでしょう。
 津田 テレビは1時間の番組を見ても、本ほどの知識は入らないでしょう。分かりやすいけれど、受け身で見るものだから身に付きにくい。何かの問題を知るきっかけとして見るのはいいけれど、自分で主体的に調べる場合は、本を読んだ方がいいと思います。
 偏った見方に陥らないためには バランス考え自分の力に
 津田 ネットと紙だけでは十分でなく、人からの情報も大切です。前回、米大統領選の演説会場での写真を例に、黒人の聴衆が目立つ写真とは違って、本当は聴衆の大半が白人だったという話をしました。この話を教えてくれたのはテレビ局のプロデューサーです。
 茂木 そうだったんですか。
 津田 これは本にもネットにも出ていない情報です。大統領選を毎回取材している人なので、情報をつかむことができた。人からじゃないと得られない、生きた情報の例ですね。
 向井地 人と話すことはとても大切なんですね。
 津田 世の中には、その人しか知らないノウハウがたくさんある。3人が関わっている芸能界の仕事にもノウハウがたくさんある。いろんな人から生きた経験や知識を聞くことができれば、役に立つと思います。
 向井地 確かに私たちは大人のひとと話す機会も多い。そう考えると、恵まれた環境にいるんですね。
 津田 大事なのはバランスです。僕の場合は、ネットやスマホから得る情報がだいたい3割、紙が3割、人から話を聞くのが4割といった感じです。
 向井地 私はネット6割、紙は1割、人が3割くらいかな。
 津田 皆さんの好きなバランスでいいと思う。例えば、ネットが5割、紙が2割、人が3割でもいい。どれかだけに頼らず、この三つを情報源として確保しておけば、偏ったものの見方に陥ることを防げます。
 向井地 自分の中でバランスをとるわけですね。
 津田 解剖学者養老孟司さんはベストセラー「バカの壁」(新潮社)で、「知るということは、自分がガラッと変わること」と書いています。人は常に学びながら、変化していくものなんだと。知識を得て、行動し、変化していく過程で自分というものができていくのです。
 茂木 情報が自分を変えるきっかけになる?
 津田 今回のテーマに当てはめると、ネット、紙、人の三つから情報を得ます。でも単に情報を得るだけでは意味がなくて、その情報を使う必要がある。学びによって得た知識や情報をきっかけにして、自分の行動を変えていく。例えば、AKB48として新しいダンスの踊り方を人から教わる。でも、踊り方を本で読むだけでは身につかない。自分の体を使って動かすからこそ、初めて体得できる。それと同じです。
 茂木 情報を得る際にも、自分でいろんなメディアに触れて、いろんなものの見方ができるようになることが大事なんですね。
 津田 選挙で投票する時には、まず情報を適切に得る必要がある。さらに、その情報を自分の中でかみ砕いて理解し、自分の行動を決めたり、変えたりしなければならない。
 情報を読み解く力があれば、こんな未来の日本にしたいという自分の基準ができます。メディアリテラシーを身につけることは、この党に投票しよう、この政治家に投票しよう、といった判断をするための大切な一歩になるはずです。
 =敬称略
 (構成・山田明宏)


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