逆説の軍事論 平和を支える力の論理  冨澤暉  2015.7.28.

2015.7.28. 逆説の軍事論 平和を支える力の論理

著者 冨澤暉 1938年東京生まれ。都立日比谷高、防衛大卒。60年自衛隊入隊。戦車大隊長(北海道上富良野町)、普通科連隊長(松本市)、師団長(練馬区)、方面総監(札幌市)、陸上幕僚長(東京都港区)を歴任。退官後、東洋学園大理事兼客員教授として、安全保障、危機管理を担当。153月教職を辞し、現在同大理事兼名誉教授。日本防衛学会顧問。財団法人偕行社副理事長

発行日           2015.6.20. 初版第1刷発行
発行所           basilica

なぜいま集団安全保障なのか。左翼の夢想と右翼の妄想を排したリアル軍事論
五百旗頭真(日本防衛学会会長) 「軍事の実際を最もよく知る人が語る良質の安全保障論、それが本書」

序章 軍事というパラドックス
軍事ないし防衛という概念を構成する様々な要素について述べると同時に、その総体の輪郭らしきものを浮き上がらせることが本書の目的
軍事を考察するに際し、その本質及びその現実的位相に関して最小限の知識が必要
軍事とは、いつの時代においても極めて現実的かつ重要な概念
軍事は、平和維持に直結する機能でもある
軍事とは畢竟、政治に属するシステムであり、それをどう位置付け、どう用いるかは、国民が選んだ政治システムが決めるべきもの
軍事とは、人間社会固有の概念であり、人間の本質である「闘争本能」と「闘争回避本能」という人間固有の矛盾した特性であることをまずは押さえておかねばならない
秩序を担保するためには、「権威」と「力」が必要 ⇒ 「権威」は、それぞれの社会₍国家₎の歴史、文化、宗教に根差し、その実態は世界の各地域、各国家によって千差万別、一方の「力」は公権力と呼ばれ、一般には警察だが、現代世界では軍事力に加えて、「渉外機能としての外交力」の比重が高まっている
日本における軍事に位置づけ ⇒ 戦後70年、日本に軍事力が存在しなかった時代はなく、様々な軋轢があったアジアの中で「国内に軍隊が存在することによって平和₍秩序₎を維持してきた」というのが事実
自らの生命・財産・文化を守るために最も効果的な安全保障の手段を検討し、議論し、国民の責任において決定しなければならない

第1部        軍事の変遷
第1章        軍隊と平和
「軍隊」とは、武力の行使と準備により、任務を達成する国家の組織
「準備」が大切な意味を持ち、軍隊が持つ抑止力としての意味が大きい
武力行使の実行と準備が平和にもたらす効果について一度考えてみる必要がある
安全保障の設計には、外交と軍事両面が重要
「平和」と「主権(独立)」の両方が必要であり、守るべきもの
国益を形成する「力」と「利益」と「価値」

第2章        総力戦の時代
ナポレオンの出現によって戦争の様相が一変 ⇒ 兵役が国民の義務となり、兵士は無限に補充できるようになるとともに、作戦や補給などの専門知識を持ったスタッフにラインを補佐させ、効率性、機動性を飛躍的に向上させて欧州の制覇に向かう
その総力戦ですら、クラウゼヴィッツは終焉を予言

第3章        核と冷戦の時代
アメリカ一極体制を揺るがしたのは、ソ連の核兵器開発と、朝鮮戦争でアメリカを苦しめた中共の義勇軍が体現した「非対称脅威(ゲリラ・人海戦術)
朝鮮戦争の教訓 ⇒ 核兵器が国家の政治的判断として実際には使えないこと、ナポレオンが始めた総力戦は核兵器の登場を機に第2次大戦で幕を下ろしたという2つの点で軍事的に画期的な戦争だった
ベトナム戦争の教訓 ⇒ アメリカが徴兵制から志願制に切り替え、純軍事的な遺産としてはヘリコプターの活用とスマート⁽誘導⁾爆弾

第4章        新たな脅威の時代
冷戦終結後の90年代、世界中の軍隊は、リストラとIT化が進む
戦後70年における軍事の変遷
   陸戦から空戦へ
   通常兵器から核兵器へと進み、再び通常兵器に
   個別的安全保障から集団安全保障へ
   「外交の失敗を覆す軍隊」から、「外交のための軍隊」へ
   「国民軍」から、「国民に信頼され委嘱されたエリート職業軍」へ
   「人力中心の軍隊」から「機械化・ロボット化・IT化された軍隊」
   「戦乱時を戦う軍隊」から「平和維持のための軍隊」へ

第2部        世界秩序をめぐる各国の動向
第5章        揺らぐ核の抑止力
米ソ二大国の時代は、「相互確証破壊MAD」という理論のもとに両国が均衡を保ってきたが冷戦の終了とともに核拡散の問題が発生、それに対し「ミサイル防衛MD」戦略が登場
「虚の兵器」たる核兵器は世界秩序維持のために、今後も引き続き必要で、アメリカは核軍縮を進めようとしているが、それがそのまま核廃絶を目指すものと誤解してはならない。それが軍事的、政治的現実
ミサイル防衛構想の目的は、自衛ではなくアメリカ主導の世界秩序維持であり、明らかに集団安全保障の範疇で考えるべきもので、そのシステムの外にある者は「孤立者」であり、「問題国家」と認識されるということになるわけで、日本が最も注意しなければならないのは「問題国家」と見做されてしまうこと

第6章        北朝鮮という脅威
現在の日本にとって現実に存在する軍事的脅威は北朝鮮
195058年の朝鮮戦争は、北朝鮮・中国・ソ連対国連軍の戦いで、現在休戦中
国連は、休戦を維持・監視するために韓国に国連司令部を置き、日本にも7つの基地と後方司令部を保有。北朝鮮が91年に国連加盟の際、国連駐留軍の解体を申し入れたが認められていない
日本が直接北朝鮮に対して、攻撃や派兵等の事態に対しては、韓国ですら強烈にアレルギー反応を起こす
時代とともに兵器の役割も変わるが、現在重要な兵器は戦車 ⇒ 対テロ・ゲリラ戦では極めて有効

第7章        中国の軍事力
中国が武力をもって尖閣列島を侵略しようとすれば、日本も断固として戦わねばならないし、日本が動かなければアメリカも動くはずがない
尖閣を始めとする南西諸島問題で最も警戒すべきは、中国が非武装の民衆を上陸させ、そこに彼らの生活圏を作り上げてしまうことで、大量に押し寄せてきた場合には防ぎようがない
実効支配をより大きなものとするために重要なことは、海上保安庁や警察あるいは自衛隊に領域警備のための任務と武力行使の権限を与えることであり、その際の武力行使は国際法上も認められた権利であり、武力行使を伴わない警告は警告にならない
中国の日本に対する「文攻武嚇」は、日本の侵略ではなく、日本の弱体化が目的 ⇒ 最も警戒すべきは沖縄への関与であり、秘かに沖縄独立支援の動きすらある
アメリカが日本の独立を認めている以上、日本を守るのは日本自身であり、アメリカの責務ではない。諸外国と共同でお互いの利益線(グローバル・コモンズ)を守りつつ、最も効果的な自らの主権線を自らの手で守らなければならない。そのためには堅固な基盤的防衛力を構築していくべき
アメリカは、中国との軍事交流を進めており、多国間共同訓練にも中国を誘っている
防衛交流の重要な目的は、「互いに相手国を侵略する意思がない」ことを確認しあうことと同時に、「テロなど世界共通の敵に対して共に戦う」という軍の目標と相互信頼を確認すること

第8章        現代の帝国アメリカ
アメリカの軍事戦略は4年毎に見直されるが、現在は混沌。状況に応じどのような道にも進めるように準備し、調整して具現化していく国である以上、日本も柔軟に対応できるような態勢をとるのが基盤的防衛力整備の本質

第9章        ロシアおよびその他の地域
ロシアの安全保障政策の基本は、対NATO
親米だがアメリカと同盟を組まないインドとインドネシア
北朝鮮には対抗するが、中国には対抗しないオーストラリアと韓国

第3部        日本の軍事
第10章     21世紀の日本の安全保障
アメリカと国連は世界秩序維持のための車の両輪であり、国際法の基本はあくまで国連憲章にある
徴兵制復活論は過去のもの ⇒ 軍隊の技術化、専門化により志願制でしか対応できない
核武装論も時代錯誤
国際環境の変化、特にテロの激化に対しては、「専守防衛」では対応しきれない
「世界の平和」こそが「日本の平和」
現代における軍事力の役割とは:
   アメリカ主導の一極秩序を維持するためのバランスウェイト(重石)、あるいは、バランサー(釣り合いをとる人)となること ⇒ 存在・抑止の役割
   「世界秩序を崩し、二極・多極化を目論む毒蛇・毒虫」を退治すること ⇒ 即応・対処の役割
   世界秩序が崩壊した時への準備 ⇒ 準備・定礎の役割
在沖縄の米軍基地についての純軍事的考察
   嘉手納空軍基地 ⇒ 極東最大の空軍基地でありアメリカの世界戦略を支える重要な軍事基地の1
   普天間基地は海兵隊が管掌、その規模はグアム、ハワイに分散されたので以前の1/3に縮小しているが、一義的な任務が朝鮮祐史への対応にあることから、日本にとっては基地の存在が極めて重要。飛行場のみならず、北部訓練場も、対ゲリラ戦訓練に活用されており、飛行場とセットの重要施設
沖縄の米軍基地は、日本の防衛のためにあるのではなく、アメリカの世界戦略に組み込まれた存在

第11章     集団的自衛権と集団安全保障
集団安全保障=国際安全保障 ⇒ 世界の平和を目指す
国際法上の「自衛権」は、1837年に米英両国間で紛争になったキャロライン号事件以降に確立されたアイディアで、急迫性・違法性、必要性、相当性・均衡性の3要件を基礎とする
現在の国連の建前では、加盟国が攻撃を受けた場合は、直ちに国連に報告し、安保理が必要な措置を取った後は、直ちに自衛行動を中止しなければならない
日本周辺でアメリカが自衛戦闘をしていて、集団的自衛権の行使を認められた自衛隊が支援して戦うことになった場合、国連がなにがしかの決議をして多国籍軍が出動することになれば、日米両軍は直ちに自衛戦闘を中止して多国籍軍の一員として戦闘に入る
自衛権というのは、集団安全保障システムの中での特例として認められた、特別に許される自力救済手段
自衛権は、権利だが、集団安全保障は義務を伴う
日本は、アメリカや友好国が世界平和を維持しようとしている、その同じ土俵に立って積極的に活動し、直接的に寄与しなければならない時期に来ている ⇒ 日本だけの視点で話をしてもすれ違うだけ

第12章     部隊(自衛隊)の運用

終章 これからの自衛隊
集団安全保障と自衛の両方、つまり防衛を担当する武装組織を各国では軍隊と呼んでいる、それが世界の常識。NATOに所属する各国軍も、今や自衛よりも集団安全保障のための集団的措置に寄与することを重視
今何よりも大切なことは、世界から孤立する「一国平和主義」を正し、自衛隊を国際社会の一員として国際秩序の安定に寄与する軍にすることだと考える
OBからの21世紀の陸上自衛隊への期待
   世界秩序維持の重石、バランサーとしての役割 ⇒ アメリカを中心とする諸外国との多国間訓練を盛んにし、多国籍軍としての即応性を保持し、もって世界秩序を乱す勢力の出現と戦争の発生を抑止すること
   パワーバランスをかいくぐる毒蛇、毒虫のような脅威への対応
   世界秩序崩壊への備え
   上記3点に共通するものとして、国民、地元民、友軍、ボランティア団体等の絶大な信頼と支援がなければ自衛隊は何もすることができない

あとがき 自衛隊は強いのか
艦艇の総トン数では世界の57位、作戦機の数では世界20位、兵員総数では世界30位前後の陸軍


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