鳳雛の夢  上田秀人  2015.4.13.

2015.4.13. 鳳雛の夢

著者 上田秀人 1959年大阪府生まれ。大阪歯科大卒。歯科医師。97年桃園書房主催第20回小説CLUB新人賞佳作。10年『孤闘 立花宗茂』で第16回中山義秀文学賞受賞。14年版「この時代小説がすごい!」文庫書下ろし部門作家ランキング第1

発行日           2014.11.20. 初版1刷発行
発行所           光文社

l  『歴史人』2011.2.2014.1.連載に加筆修正したもの
l  鳳雛(ほうすう)とは、鳳凰の雛。転じて、将来すぐれた人物になることが期待される少年。鳳児。麒麟児(きりん)。「伏竜

第1章     竜の揺籃
1542年 伊達家14代当主稙宗(たねむね)と嫡男晴宗(はるむね)による内紛
越後の上杉の跡継ぎとして、稙宗の三男・実元を出すことに反対した晴宗が伊達家宿老たちを味方につけて蜂起、稙宗を幽閉したのが元々の起こり。稙宗も再起して紛争は7年に亘って続き、最終的には晴宗が父を蟄居させて15代当主となるが、稙宗は157女のほとんどを周辺の大名家に縁付けており、周辺の所領をそれらの大名の1人・相馬顕胤に譲る形で報復、相馬が勢いを得て伊達家に反旗を翻す
晴宗は若くして隠居し、嫡男輝宗に家督を譲ることで家臣の不満を抑えて勢いを取り戻し、相馬を攻撃するまでに回復したが、新たに晴宗と輝宗の反目が始まる
伊達家は藤原氏の流れをくみ、初め常陸の国に在ったが、頼朝の奥州征伐に従って功を上げ、伊達郡を賜り、その地名を冠した。一時は周辺各地の地頭職を兼ねるほどの勢威を誇ったが、乱世の洗礼で縮小
輝宗は、さらなる家臣の求心力を高めるために嫡男・梵天丸の元服を早めようとしたが、梵天丸が正室・義姫との間の子でありながら、幼少の頃に罹った疱瘡の後があばたとなっただけでなく右目を失明したこともあって、本人はうつむいたまま目立たぬようにしようとしたばかりか、家臣はもとより生母までが跡継ぎに相応しくないとして忌避
困った輝宗は、梵天丸を禅僧に預けて鍛え直してもらう ⇒ 梵天丸は、禅僧から見せられた不動明王の憤怒の表情を初めて見て、自らの醜さに拘っていたことを悔いる
1577年梵天丸元服、伊達藤次郎政宗と名乗る(「政宗」の名は、南北朝のころ置賜(米沢の郊外)を奪って現在の伊達家の基礎を作り中興の祖と言われた9代目の諱いみな)。守役は政宗の乳母の異母弟・片倉小十郎景綱
元服を待つようにして、お家騒動の元凶でもあった晴宗が死去するが、家中が1つにまとまる一方で、相馬への押さえでもあった晴宗がいなくなったことで対相馬対策が必要となる ⇒ 伊達、相馬両家の姻戚ながら周辺から領地を脅かされていた田村家の愛(まご)姫を嫁に迎える

第2章     初陣
1581年 相馬に加えて畠山、大内が動き出したのに対し、16歳で輝宗の別動隊を率いる形で初陣。周囲に守られて敵城を1つを落とす

第3章     天下の余波
1582年 信長死去
輝宗は、相馬の本拠まで攻めて和睦に持ち込み、南奥州の安定をもたらすとともに、伊達の名を大きく挙げた上で、政宗に家督を譲り仏門に入る
若輩の政宗が当主となったことで、周辺が騒ぎ出す ⇒ 最初が大内氏。稙宗の婚姻策のせいでどこの大名も何代か遡ればみな血族関係であるなか、政宗は情を断って霹靂(へきれき)を落とす
次いで畠山が、輝宗を盾にして刃向ったが、政宗は輝宗が殺されるのを覚悟の上で畠山を成敗、以後「人であることをやめる」と宣言

第4章     鬼の所行
政宗は、父の葬儀もしないまま、新たな陣触れを発し、畠山討伐に向かうが、佐竹を始めとする周辺諸国が反旗、お家存亡の危機となるが、辛うじて撃退

第5章     戦火連々
秀吉が天下を取ったあと奥州惣無事令を出して戦闘の停止を命じたが、政宗は秀吉が来る前に奥州平定を目指して動き出す

第6章     天下の風
奥州の名門・蘆名氏を滅ぼして居城を米沢から黒川城(地元では鶴が城、地元以外では会津若松城)に移す
伊達と豊臣の交流は、1584年輝宗が、本能寺に明智を討った後周囲を平定し始めた秀吉に使者を出したのが始まりだが、周囲の秋田氏、蘆名氏や佐竹氏に後れを取っている
会津落城直後に秀吉から、秀吉に近い蘆名氏を滅ぼしたとして詰問され、申し開きのため北条征伐で小田原に来る秀吉に会おうとする
母・義姫の実家・最上氏も秀吉に取り入ろうと、手土産に政宗の頸を差し出そうと、義姫を唆して政宗に毒を盛ろうとするが失敗、政宗は母を最上に帰し、母の溺愛していた実弟に死を命じる
小田原へ下った政宗に対し秀吉は怒りを解こうとしなかったが、仲立ちを頼んだ上杉や家康、利家らが政宗の覚悟を決めた態度に惹かれ、関白の怒りを解くことに成功、命拾いをする

第7章     奥州の行方
秀吉によって会津は召し上げられたが、その他の旧所領は安堵され、奥州平定の先陣を申し付けられる ⇒ 会津には、奥州探題として蒲生氏郷が入る
小田原に参陣しなかった奥州の諸大名は、悉く所領を秀吉に召し上げられたうえに、厳しく検地までされ、応分の負担を強いられるとともに、正確な地図が作成され、領内の隅々まで秀吉の手中に握られた
奥州の不満分子による一揆が頻発、政宗が裏で扇動しているとのデマを打ち消すために、政宗は秀吉に会いに上洛。兵1000の豪華な行列が京の耳目を集める

第8章     死地再度
政宗は、秀吉の歳と後継者難をついて、奥州の覇を密かに目論むが、南部藩のお家騒動に際して起こった九戸(実親)騒動を、秀吉自ら討伐の兵を起こして平定した後、再度にわたる奥州仕置き通じて領地替えを命じ、政宗は70万石超から60万石弱に減らされるとともに伊達郡からも米沢城からも追い出され、岩出山城(宮城県大崎市)に本拠を移す
新しい領地は一揆を平定した跡であり、領地替えにも少ない論功行賞に対しても家中の不満が募る中、漸く側室に長男誕生、兵五郎と名付ける
1594年 朝鮮征伐の第3陣として、前田、徳川に次いで出陣
苦戦を強いられた中、淀君に男子誕生で撤兵となり救われる
世継ぎ誕生で、関白になっていた秀次が切腹となり、その連座で秀次と親しくしていた政宗が疑われるが、今回も家康の口利きにより国入り(領地に戻ること)を禁じられただけで改易は免れ、伏見城の普請に加わる

第9章     天下再燃
1598年 秀吉死去とともに、家康に時代の流れが傾く中、愛姫に初めて生まれた五郎八姫と家康の六男・忠輝が婚約、さらに愛姫に長男・秀宗誕生。政宗は、周囲を取り囲む重臣からも嫌われている豊臣にこのまま仕えるより、力を持ちつつある家康の新しい天下に賭ける
家康は、まず新たに会津を任された上杉が、城を築き武器の備蓄を増やしているのを謀反の魂胆ありとして征伐を企図、その期に乗じるように石田光成が家康に謀反ありとして討伐を下知
関ヶ原で家康が勝つのを見届けてから、政宗は上杉の福島城攻めを決断するが、形だけに留まる
家康は2年で秀忠に跡を譲り、将軍職の世襲を宣言、奥州独立の可能性が断たれた政宗は、家康への臣従を誓い、命じられた江戸城普請をやり遂げて、秀忠から松平の名乗りと陸奥守の官名を与えられ、表向きは徳川の敵対象から外され、仙台に居城を移す
1614年 政宗は家康の豊臣追討令に呼応して大坂冬の陣に出陣
1615年 夏の陣で再度大坂出陣

第10章  夢の終り
家康の時代が盤石となって政宗は自らの奥州制覇という夢の終りを悟る
嫡男・秀宗は、政宗の夏の陣での褒賞もあって与えられた宇和島10万石をもらい、宇和島伊達として立藩
伊達家は、秀吉の下に人質に出された秀宗の次に生まれた忠宗が徳川の人質となって秀忠の1字を偏諱としてもらっていたところから伊達家の嫡男とせざるを得なくなっていた
政宗にとって、謀反の旗としての価値があった家康の六男・忠輝は、1616年家康死去の最期の場に息子で唯一呼ばれず、さらに夏の陣での不行跡を理由に改易流罪
政宗は、海外貿易の拠点を領内に探し、イスパニアとの交易を望んで、支倉六右衛門を送り出していたが、秀忠に目をつけられることを恐れて帰国後蟄居させる
3代家光になって、政宗は伊達家存続のため家光のご機嫌をとり、家光もただひたすら媚びる政宗を寵愛、伊達の父とまで呼んだ
政宗は、領内荒れ地の開墾に手を付け、扶持米を廃止する代わりに知行地を与える
北上川を改修、豊かな農地とその河口に良港を得、領地の米を江戸に運んで高値で処分




冬を待つ城 [著]安部龍太郎 鳳雛の夢 [著]上田秀人
[評者]本郷和人(東京大学教授・日本中世史)  [掲載]朝日 20150201   [ジャンル]歴史 
奥州の大義求める苦難の戦い

 東北の戦いの歴史は、苦い。「征夷(せいい)」大将軍・坂上田村麻呂の侵攻、源頼義・義家父子による前九年の役、鎌倉武士が大挙して押し寄せた平泉の討滅、豊臣秀吉の「奥州仕置(しおき)(征服)」、錦の御旗を翻す官軍に敗れた戊辰戦争。中央権力は東北の自由を許さず、いつも屈従を強いてきた。このうち、秀吉の「奥州仕置」をテーマにする時代小説が、前後して2冊刊行された。
 まず安部龍太郎氏の『冬を待つ城』。天正191591)年、秀吉に敢然と反旗を翻し、15万の大軍に包囲されて滅んだ九戸政実(くのへまさざね)(南部氏の一族)を描く。主人公は政実の弟、久慈政則(くじまさのり)。彼の目を通して、九戸城(岩手県二戸市)に立てこもる政実の、どう見ても無謀な戦いの真相が次第に明らかになる。
 政実は、私利私欲から判断を誤ったのではない。「奥州の大義」のために命を懸けたのだ。一方で、これを滅ぼそうとする豊臣政権の側にも、特別な思惑があった。普通、秀吉による天下統一の総仕上げ、といわれるこの戦いは、実は朝鮮出兵を見据えてのものだった……。著者による謎ときの秀逸さに、何度もうならされる一冊である。
 政実の知名度は高くないが、伊達政宗の名は歴史好きなら誰もが知る。彼の活躍と苦難を描くのが、上田秀人『鳳雛の夢』。生母に愛されず、父と弟を犠牲にしながら、政宗はひとり覇業を歩む。その彼に仕え、親友のように、時に兄のように、支え続けたのが片倉小十郎であった。
 二人の夢。それは「奥州制覇」、そして奥州の自立。強大な中央政権が二人の前に立ちはだかる。だが政宗は夢をあきらめない。秀吉・徳川家康、二人の天下人と渡り合いながら、彼はいかにして伊達家を、また東北を守り抜いたのか。周知のように、政宗と小十郎の夢はかなわなかった。けれども著者のけれんのない筆致は、とてもすがすがしい読後感を与えてくれる。
    ◇
 『冬を待つ城』新潮社・2160円/あべ・りゅうたろう、『鳳雛の夢』光文社・2052円/うえだ・ひでと



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