なぜペニスはそんな形なのか  Jesse Bering, Ph.D  2017.5.9.

2017.5.9.  なぜペニスはそんな形なのか ヒトについての不謹慎で真面目な科学
Why Is the Penis Shaped Like That?......And Other Reflections on Being Human?
2012

著者 Jesse Bering, Ph.D 75年ニュージャージー州生まれ。実験心理学者。学部と大学院では心理学を専攻、フロリダ・アトランティック大大学院修了、博士号取得した後、02年アーカンソー大准教授、06年北アイルランド・ベルファストのクイーンズ大認知文化研究所のディレクターを経て、14年ニュージーランドに移住、オタゴ大学サイエンス・コミュニケーション・センター准教授。コラムニストで、『サイエンティフィック・アメリカン』や『スレート』の常連寄稿者。著書に『性倒錯者』など
ウェブサイトは、www.jessebering.com

訳者 鈴木光太郎 新潟大人文学部教授。専門は実験心理学。東大大学院人文科学研究科博士課程中退。著書に『動物は世界をどう見るか』『オオカミ少女はいなかった』

発行日           2017.3.5. 第1刷発行
発行所           化学同人

ゲイが書いたヒトの性・生・死を巡る異色の科学エッセイ33
 

不適切なるものへの誘(いざな)
「物心がついてからずっと、僕は〈不適切な〉ことに真摯な興味を抱き続けてきたし、そう言いもしてきた。途中から自分でも気が付くことになったが、こうした僕の大真面目な疑問は、周りの人間を僕から少しづつ遠ざけた。僕が嫌われるのは、ちょっと分析的過ぎるからなのかもしれない。今も覚えているのは、小学6年の時に教室で隣の席の女の子に次のように聞いたことだ。「僕のおちんちんは立つと短剣じゃなくて三日月剣のような形になるんだけど、これって当たり前のことなのかな? それとも奇形ってことか」。…..
科学の世界には聖なるものなどなかったし、問いが馬鹿げていることも、してはならない問いというものもなかった。(実験することが倫理的に許されない場合があるにしても、議論することはできる)
本書は、何事も進化論的に考えたがる、無神論のゲイの心理科学者の目を通してみた世界

【男性生殖器について、知りたがったけど知らなかったことについて】
1.   どうしてぶら下がっているの? その理由
睾丸は温度調節の機能を果たす ⇒ 涼しく風当たりの良い陰嚢の中でそれまで眠っていた精子が、女性の膣の熱で劇的に活動を開始、この熱が受精を助ける
なぜ多くの哺乳動物が睾丸の入った陰嚢をぶら下げるように進化したのか ⇒ 低温構造の結果、ヒトの陰嚢の平均温度は通常体温37℃よりも2.53度低く、精子の生産に最適な温度34度と一致する
睾丸は挙睾筋の反射作用に自動的に反応する ⇒ この筋肉は寒い時(冷水を浴びせた時)には睾丸を収縮させ身体の近くへと引き上げ、暑い時には睾丸を弛緩させる役目を果たす
睾丸の位置が左右で違うのも、陰嚢内の可能な範囲内で絶えず移動することによって、放熱と冷却を受けやすい陰嚢の表面部分を最大にし、最適な温度の維持を可能にしている
ペニスが興奮すると、睾丸は収縮して上がる。挙睾反射は睾丸の温度を上げ、膣への射精に備えて精子を活動的にする
睾丸の障碍に対する鋭い痛み ⇒ 身体の部位による痛みの感受性の違いには、繁殖の成功において様々な適応が果たしている傷つきやすさと重要性が反映されている
日本の医者は、脊椎麻酔が効いているかどうかを確認するために、男性患者の内腿を針で刺して挙睾反応をチェックしたうえでメスを入れている

2.   自己フェラチオの道 (近づきはしたけど、まだまだ)
イラマチオとフェラチオ
自己フェラチオのできる人は1000人中2,3
コックサッカー(ペニスを吸う奴)
自己フェラチオ行為者には多くの場合、抑圧された同性愛願望があることが分かっている

3.   なぜペニスはそんな形なのか? 突起の謎
ペニスこそ、ヒトの進化の数十万年以上の年月の間に自然が成形した道具
近縁の類人猿のものとは形やサイズが大きく異なる ⇒ 他の霊長類に比べ異様にでかい
チンパンジーは、長さも外周もヒトの約半分
形についても、亀頭と亀頭冠はヒト特有
長いペニスは、膣の届きにくい部分に精液を残すために有利なだけでなく、膣を充たして膨らませることによって、最大で7日間は女性の粘液中で生きることができる他の男性の残した精液の置換を容易にする
ヒトのペニスが女性の膣から競争相手の精液を効果的に置換するように、性交中のスラストに同期して精液を「掻き出す」よに形作られた。とりわけ亀頭冠は、他の男性の精液を拭い取ることによって、特別な除去装置の役目を果たす
猫のペニスは150ほどの鋭く尖った棘の帯を備え、メスの膣の内壁を文字通り引っ搔くため、猫の性交では耳をつんざくような鳴き声がする

4.   早漏のなにが「早過ぎ」?
膣外で射精するほど早漏でないなら、早漏のなにが「早過ぎ」なのか ⇒ 膣内性交で出来るだけ早く射精した方が生殖の点で利点を持ちえた
男性がオルガスムに達するのは膣に挿入してから平均して2分後だが、女性の方はその2倍の長さがないとオルガスムに達しないという事実がある
異性同士の快楽を求めるセックスが可能になったのは避妊具のような最近の技術的発明によってだという
ヒトのセックスの特性を他の霊長類の射精の時間的特性と比較してみたところ、セックスが短時間で終わる種ほど、配偶に関係した行動では攻撃性が低い
男性の膣内射精の潜時は遺伝する ⇒ かつては集団内で個人差があったが、時とともに「早い射精の割合が多くなり」、早く射精する(感じやすいペニスを持った)男性の方が、危害が加えられるのを避け、より長生きし、その結果高い地位を占め、最も望ましい雌たちを獲得する機会が多くなったはず
男性の射精潜時の個人差と対になるのが、女性の性的満足と思えるが、女性の快楽は、自然が偶然投げ入れたヒトのセックスの喜ばしいが重要でない特徴と見做された
性的に興奮していない雌が相手の場合は、雌の性器が乾いているので「痛み」の問題もある
自発的なセックスが迅速である必要があるのなら、きわめて明白なのは、雌が協力しなければならない。もし彼女が濡れていなければ雄は「摩擦が大きいのに挿入」しなければならず、それは雌に痛みの体験をもたらすだけでなく、雄のほうにも快感をもたらすことはなかったであろう
ヒトの種だけで進化した独特な社会的認知能力と関係している可能性がある ⇒ 数万年ほど前に、我々の祖先はセックスの間に相手への共感を体験出来る唯一の種になり、以降男性はセックスで自分が満足するだけでなく、相手を満足させることについても考えるようになり、その結果意図的に性交の行為を長引かせて、彼女のために自分のオルガスムを遅らせることができるようになったのかもしれない

5.   ヒトの精液の進化の秘密
男性と交際中の一緒に住む女性同士では、月経の周期が同期するが、一緒に住むレズビアン同士では同期しない ⇒ コンドームを使わずにセックスする女性の身体は、一緒に暮らす女性同士の月経周期を「同調させる」ホルモン(=精液からくる)を放出する
異性愛の女性とレズビアンを分ける特徴の1つが、女性の生殖管中の精液の存在で、レズビアンは精液の関係しないセックスをする
ヒトの男性が1回あたりに射精する平均的精液の15%にしか精子が含まれておらず、残りは「精漿(せいしょう)」と呼ばれる
女性の膣が薬を運ぶのに理想的な経路だということが分かっており、精液も女性の生理的状態を微調整する何らかの化学的特性を持っている可能性が大
精液は極めて複雑な科学的プロフィールを持っていて、特別な機能を持つ50種類以上もの成分(ホルモン、神経伝達物質、エンドルフィン、免疫抑制物質)を含む、中でも重要なのは気分を良くする一連の物質。不安を和らげる化学物質は、コルチゾール(愛情を高める作用あり)、エストロン(気分を高める)、プロラクチン(自然の抗鬱薬)、オキシトシン(気分を高める)、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(抗鬱薬)、メラトニン(催眠物質)、セロトニン(抗鬱作用のある神経伝達物質)などで、他にも似たような物質が含まれる
コンドームを使う女性は、使わない女性に比べ鬱の症状が有意に少ないのみならず、まったくセックスしていない女性よりも鬱の症状が少ない
精液の抗鬱作用に対し、性感染を得意とするHIVウィルスは、これらの適応的抗鬱因子よりもずっと後になって進化したウィルスであり、明らかに人の精液を乗っ取るようになった結果、精漿中の特定タンパク質はこのウィルスを精漿外にある時に比べ10万倍も強力にする
パプア・ニューギニアのサンビア族では、少年が大人のペニスをフェラチオしてその精液を飲むという儀礼が残る
ヒトの精液中の最も奇妙な成分は、FSH(卵胞刺激ホルモン)LH(黄体形成ホルモン)という女性ホルモンで、ヒトの女性は他の霊長類と違って季節や標準的な周期に支配された生殖パターンを持たず、月経の周期を外部に教える明白な信号もないところから、それを知ることのできない男性にとって、セックスの結果として女性を妊娠させることは、他の霊長類に比べ偶然に頼る部分が大きいため、女性の排卵を促すように男性自身の精液の中のこれら女性ホルモンが機能する ⇒ チンパンジーの精液にはFSHはなく、LHも微量
精液に晒された女性は、集中を要する課題や認知課題でよい成績を示す
男性フェロモンによって女性のサイクルが正常化?  ~ドミトリー(寄生宿)効果~
大学の女子寮、同じオフィスのOL寮など子供を産める年齢の女性が共同生活をしている場では、いつのまにか生理周期がそろってくる現象がみられます。これをドミトリー効果(本書では「マックリントック効果」)といって、女性の生理周期に同性・異性の性フェロモンが関与していることが明らかにされています ⇒ 1971年、生体心理学者のマーサ・マクリントック教授がこの現象を調査して論文としてネイチャー誌に発表し、フェロモンの存在を唱えたのが事の発端

【お互いの体が母なる自然によってどのようにデザインされているか、なぜ人間がニキビに悩む唯一の類人猿なのか、一見当たり前の身体部分についてよくわかっていない多くのことについて】
6.   あそこの毛――ヒトの陰毛とゴリラの体毛
陰毛は、性的成熟の視覚的信号という利点がある半面、ケジラミというコストももたらす
ケジラミは、ゴリラの剛毛で育ったもので、祖先がゴリラの肉を食べた際に人に寄生するようになり、剛毛に似た陰毛を育てた
陰毛を剃れば、ケジラミは防げるが、淋病やクラミジアが増える
「無毛の風潮」は西洋諸国で勢いを増しつつあり、男女とも過半が陰毛を除去した経験を持つ。ただし、性的指向や性別に関係なく、主要な動機は見かけに関係している

7.   カニバリズムの自然史
平均的なヒトの大人では、食用可能な部分は30
カニバリズムは、すべての人に共通する真の生物学的適応であり、生物学的な遺伝の一部 ⇒ ヒトの進化の初期の時代には、ある程度以上の飢餓状態になると食人が発生
種内での肉食が観察されるのは1300種に及ぶ ⇒ 通常は栄養や環境のストレスの点から説明が可能だし、ヒヒのように健康でない子を食べて生存能力のより高い子を育てるという繁殖方略となることもある
哺乳類の母親も出産後に排出される胎盤をいろんなやり方で食べる
ヒトを含む霊長類の場合は、飢餓によって動機づけられているのが特徴で、他の種と同様真の適応を表している
ヒトの世界では、その残虐な生贄とカニバリズムの儀礼で名高いのはアステカ族

8.   なぜにきびができるのか?――裸のサルとにきび
ヒトと他の動物を分け隔てするものの1つがにきび
類人猿の毛皮を失ったところに原因がある ⇒ 無毛の皮膚は、適応的目的で急速に進化した結果。通常は毛を潤滑にする役目を果たすはずの蝋質の皮脂にとって、毛が無くなったために、皮脂が毛穴を作って代わりにそこを塞ぎ始め、時として皮膚の表面に噴出する
肌のきれいな人と比べると、にきびがある人に不快な概念を自動的に結びつける、不当で無意識的で本能的な反応こそ、ヒトの進化的起源を露呈している
社会的感受性の強い人ほど、にきびは単に厄介者というだけでなく、その人の自己概念の核心部に入り込み、事故や火傷による顔の損傷に関係した悩みに匹敵するほど、心の健康に重大な問題を引き起こし得る
にきびは、一時的な美容上の厄災と思えばいい。皴ができるようになれば消えてなくなる

【脳のなかをセックスや性器との関係で探る】
9.   脳損傷があなたを極端なほど好色にする
不運にも前頭前皮質の背外側部の損傷に見舞われたら、ワーキングメモリーなどの能力が一気に低下。日常的な認知能力が損なわれる脳損傷を負った人に大いに同情する
他方、性欲やほかの多淫な動機を制御し抑制するように進化した灰白質の一部が破壊的な損傷を負った場合も、同様に寛大でいられるか ⇒ 1939年発見されたタリューヴァー=ビュシー症候群は性的衝動の制御能力の完全な崩壊をもたらす悪名高い神経疾患で、感染した幼児が自分の性器を過度にいじる等の異常な性行動を示したり、女性の癲癇患者で頻発する発作を食い止めるために左の側頭葉の切除手術を受けたがうまくいかず、術後に同症候群の症状が現れ、辺り構わずマスターベーションをしたり、相手構わず攻撃的にセックスに誘ったりした。似たような癲癇発作を持つ他の人々も発作後には性的亢進状態になった
自由意志は物理的損傷によって妨げられる。すべては脳に基づいているなら、自由意志について客観的に考えることが可能な程度、その複雑さ、その限界についてもそれが言える

10. 脳の中の性器
古代の解剖学の命名法では、脳の内部に外陰部、ペニス、睾丸、尻、アヌスなどの名がつけられた部位がある

11. 好色なゾンビ――夜間の性器と夢遊
すべての健康な男性に夜間に、ほとんどは夢を見ている時に時計仕掛けの様に起こる一連の夜間睡眠時勃起現象がそのまま持続して「朝立ち」となるが、この勃起現象は夢を見ているレム睡眠時に頻発する ⇒ 昼間の性的活動には関係しておらず、年齢とともに低下し、テストステロンの量と正の相関がある。女性も同様にレム睡眠の時に膣が濡れた状態になる
セックスソムニア=睡眠時性的行動症は基本的に好色なゾンビのようなもの ⇒ 睡眠中に女性をおかそうとした夢遊病歴のある男性が、解離状態にあって自分の行為については意識できなかったとして無罪になった例がある

12. マスターベーションと想像力
真剣にある人間の隠れた性的願望について知りたいのなら、マスターベーションの絶頂にある時にその人間が心の目で何を見ているかを考えてみるのがよい
古典的なポルノを用いた研究では、男子大学生が平均で72時間に1回の割合で射精に至るマスターベーションをしており、多くの場合「相手があってのセックスに先立つ48時間以内にマスターベーションをしている」
男性は多くの場合、毎日セックスをするのではないなら、セックスを最後にしてから2日以内にマスターベーションをして快感を得ている
霊長類ではヒト以外にマスターベーションをするケースは極めて少ない
性的空想の発達は、男性の始まりが11.5歳、女性が12.9
男性の空想は、視覚的で明瞭な身体の細部を伴っているのに対し、女性の空想は、ストーリー展開、感情、愛情、人間関係、そして恋愛をより多く伴っている

【性倒錯、フェティシズム、無性愛などを批判的かつ中立的な目で見る】
13. 小児性愛と思春期性愛
思春期性愛は、思春期の初めの時期(およそ914)に当たる子どもを性的に好む大人
小児性愛(ペドフィリア)は、思春期以前の子どもに対する性的好みを示す
後期思春期性愛は、1516歳を好む大人
老人性愛者は、もっぱら高齢者(65歳以上)に性的に興奮する人
マイケル・ジャクソンは、小児性愛者ではなく、思春期性愛者だったのかもしれない ⇒ 最初の妻リサ・マリー・プレスリーの母親プリシラがエルヴィスの目を釘付けにしたのは彼女が14歳の時であり、リサも思春期性愛の賜物として生まれた
オスカー・ワイルドの有名な言葉:「あえてその名を呼ぶことをしない愛」は単なる同性愛ではなく、「若者に対する年長の男性の偉大なる愛」だったからだ
アンドレ・ジッドの自伝の中にも、アルジェでオスカー・ワイルドとともに少年相手の男色行為をしたことが書かれており、一部始終を公にしてからかなり経って47年にノーベル賞を受賞している ⇒ ワイルドは、ロンドンでこの猥褻行為の罪で2年の重労働の刑を言い渡され、最後は不遇と貧困の中で亡くなった

14. 動物性愛
獣姦を描いた先史時代の絵は、シベリア、イタリア、フランス、フェザン(現在のリビア)、スウェーデンで見つかっている
キンゼイの報告には、アメリカの農家育ちの男性の50%が、様々な種類の家畜との「性的接触」を持ったとある。女性が少なく、婚前交渉が厳しく禁止されていた田舎の環境では起こり得た

15. 無性愛者の謎
生涯にわたってヒトに(動物にも)性的に惹かれることが全くない人々が男女に拘わらずいる。セックスに無関心で興味もない

16. 足フェチ――ポドフィリア入門
歴史的には、女性の足が文化的に性愛の対象になるのは、社会における性感染症の流行と符合しているように見える。足に対する嗜好は、病気の流行に伴って盛衰してきている
13世紀の淋病、16/19世紀の梅毒、現代のエイズの流行において裏付けられている
16世紀のスペインでは、歴史的に初めて、画家たちが女性の足の姿を描き始め、「つま先をちょっとだけ」見せた靴が大流行したという

17. ゴム偏愛者の物語

【女性の心と身体に焦点】
18. 女性の射出
女性の性的興奮に伴う通常の膣内分泌液のことではなく、男性のオルガスムに伴う多量の精液の放出に似たもので、オルガスムの際の相当量(350cc)の液体の排出のこと

19. 「ファグ・ハグ」――男が好きな男を好きな女
フランス語ではスーレット(小さな姉妹)、ドイツ語ではシュヴァーレンムッティス(ゲイのママ)、メキシコではホテラス(「ホタ」はファグのこと)、日本では「おこげ」
「ハグ」の基本にあるのは、それらの女性が「自分の身体を良いものとは感じておらず、その結果として、異性愛の社会的場面に特有の、女性の身体的魅力の重視とその厳しい評価を回避しようとして「ゲイの世界」へと逃げ込む」というもの
自分の恋愛生活が貧弱なほど、自分を異性愛の男性には望ましくないと思っているほど、友人としてゲイの男性をより求めるはず。ゲイにも生殖能力のないただのゲイではないのがいて、特にアルコールが入った時などには予想していなかったことが起こった
レズビアンと付き合いたいという異性愛の男性は、驚くほど数が少ない ⇒ 「ダイク・タイク」や「レズブラ」

20. 女性のオルガスムの謎
女性のオルガスムは、変化する一過性の強い快感であり、変性した意識状態を引き起こす。通常は膣周囲の横紋筋の不随意で律動的な収縮で始まり、それと同時に子宮や肛門の収縮や筋緊張(性的に引き起こされた血管充血がこれによって部分的に解消される)を伴うことが多く、一般には幸福感と充足感がもたらされる
男性と違って、女性は自分の遺伝子を広めるためにオルガスムを持つ必要がない。それゆえ、生物学的にみると、女性のオルガスムの「適応的機能」については、いまだに激しい議論がある ⇒ 男性の射精反応の奇妙な副産物に過ぎないとの説がある
クリトリスは、ペニスと同一の原基から発生するところから、基本的にペニスの女性版といえるので、女性のオルガスムも膣への刺激よりもクリトリスへの刺激によって起こる
ただ、高学歴の女性ほど、セックスよりマスターベーションでオルガスムを経験することが多いとか、オルガスムの頻度と男性パートナーの身体的魅力度の間に正の相関があることとか、女性のオルガスムは一回の射精液中のより多量・良質の精子の保持を可能にするとかいう報告を耳にすると、副産物説にも疑問を禁じ得ない

21. 意地悪の進化――なぜ女の子どうしは残酷なのか?
小学1年生に、大西洋の向こう(ヨーロッパ)では、おむつのことを「ナプキン」、クッキーのことを「ビスケット」というと言ったら、どっと笑いが来て大騒ぎになった
生殖可能な時期にある男性と女性の標準的な攻撃パターンの顕著な差異 ⇒ 10代の少年や若い成人男性は直接的な身体的攻撃をする傾向が強いのに対し、それと同世代の女性は際立った社会的攻撃を示したり、少なくともこのようなタイプの攻撃を取る強い心理的傾向がある
意地悪さの程度は、女性の生涯において正規曲線を描くはず ⇒ 閉経後の女性で、平然と他の女性の恋路の邪魔をする人は見たことがない

【同性愛についての超刺激的な最新の幾つかの研究に焦点をあてる】
22. ゲイに道は聞くな
同性愛者はホルモンの出生前の影響が残った身体的特徴として、いくつかの「集団レベルの」指標を示すことが多い ⇒ 良く知られているのが「2D:4D効果」といって、人差し指と薬指の長さの比が、同性愛の女性や異性愛の男性よりも大きい
ナビゲーション能力が不十分なこともその一例で、位置情報取得の能力も、それを人に説明する能力も劣る

23. 抑圧された欲望としてのホモ恐怖
ゲイであることを隠すために、極度のホモ恐怖者だと見せたが、多くのホモ恐怖の男性は陰に同性愛願望を持っていることがある

24. 失恋、性的嫉妬とゲイ
ヒトは自然には一夫一妻ではなく、自然淘汰によって明らかに「ペア以外の性交相手」を求めるよう――自分の遺伝子を再生産するためにパートナー以外の人間ともセックスするよう――形作られてきたのだから、これらの哺乳類の昔からの本能を抑えることが無益であり、誠実で健全な他の関係を破綻させても仕方がない
失恋の悲嘆は、パートナー以外の相手とセックスしたいという衝動と同じように心理学的適応である
ゲイの男性は、パートナーの性的不貞に「異性愛者ほど病的じゃない」

25. トップかボトムか、それとも
挿入する役に回った方がより多くの快感が得られる人々は俗に「トップ」、反対が「ボトム」
ゲイの多くは両方

26. プレ同性愛者――性的指向を予言する
将来ゲイやレズになる子供のことを「プレ同性愛者」と呼ぶ
将来同性に惹かれるようになるかどうかを予測する指標として、性愛とは直接関係しない行動的手掛かりを見つける ⇒ 子供の頃の性別典型的行動において逆のパターンをとる
性的指向が予言できたら、世の中はもっとゲイやレズに取って生きやすくなっていたかもしれない

【どのように宗教が私たちの進化した心から生じるのか、どうして標準的な埋葬の習慣が私たちのためにも地球のためにもならないのかを論じる】
27. (日曜だけは)敬虔な信者
信ずる者がより善く振舞うのは、神が自分たちを見ており、罪深い行為を不快に感じているということを様々な災いの形で自分たちに伝えてよこすと思っているから

28. 産めよ、増えよ――信者の産む子どもの数
「産めよ、増えよ」は旧約聖書にある直接的な指令の中の最初のものだが、いくつもの宗教集団では、神の繁殖の命令を過度に重視し、共同体の子孫を完全なものにするために優生学を研究することさえして、結局共同体が崩壊している

【自殺、生きる意味、喜びや幸福の進化についての心揺さぶられる重要な問題】
29. 亡き母の木
30. 自殺は適応的か?
ヒトは自分の直接の繁殖的見込みが低くなった時に、そして同時に、自分が存在し続けることが自分の遺伝的血縁者の繁殖の妨げになって包括適応度を下げると感じた時に、自殺する可能性が最も高い
最近自殺を考えたことがあるのは同性愛の男性と精神病患者が最も多く、最近の自殺未遂は刑務所の服役者が最も多かった

31. 自殺者の心のなか
コタール症候群 ⇒ おもな症状は否定妄想で、自分が既に死んでいると信じている

32. ヒトラー問題で考える自由意志
自由意志が錯覚でしかないと思うと、反社会的になる傾向がある

33. 笑うネズミ
哺乳類動物間の笑いの「システム」の違いは、脳領域や発声器官に於ける種間の構造的差異を反映している
典型的には、笑いは豊かな社会的信号として機能し、他の人がいる所で生じる ⇒ ヒトの笑いの適応的機能


訳者あとがき
本書は進化心理学のディープなエッセイ集。ベリングがオンラインマガジンの『スレート』のコラムと『サイエンティフィック・アメリカン』のオンライン版コラム『ベリング・イン・マインド』に書いたものが収められている。アメリカ版はサイエンティフィック・アメリカンから、イギリス版はダブルデイから2012年に刊行
進化心理学は、認知科学や進化生物学(あるいは社会生物学)の発展を受けて、1990年代前半に心理学の世界に鳴り物入りで登場。ヒトだけが持つ身体的・心理的・社会的特性について、なぜそれがそうなのかを進化的適応という側面から考察してゆく。最初は、性差の問題、性的魅力、不倫や浮気の理由、、性的嫉妬、子への投資と子殺し、だましや欺きといった社会的知能などを取り上げていたが、その後版図を拡大し、科学が扱うのを躊躇してきた問題にも踏み込んでいった




2017.4.9. 朝日
(書評)『なぜペニスはそんな形なのか ヒトについての不謹慎で真面目な科学』 ジェシー・ベリング〈著〉
 問いにタブーなし、身近で軽妙
 タイトルからして思わずギョッとするかもしれないが、これほど画期的な本はあまりない。だれもが一度は疑問を持ちながら、ちゃんと考えたことも、だれかに聞いてみたこともない。それほどに普遍的で身近な下半身の話題について、最新の学説と自説の展開を、ユーモアを交えて行ってくれているのがこの本だ。
 問いのひとつひとつは、もしかしたら不快に思う人がいるかもしれない。だからこそ「タブー」とされてきたわけだが、実験心理学者でもあり、ゲイでもあることを公表している著者にタブーはない。
 ペニスはどうしてぶらさがっているのか。なぜあんな形なのか。そもそも子孫を残すためにもっとも大事なものをおさめている陰嚢(いんのう)が、どうして無防備な状態で、しかもアシンメトリーにぶらさがっているのか。進化のためを考えるなら、なぜ人類は早漏ではないのか(遅漏な動物は攻撃性が高いのはなぜか)。人間以外の動物がほとんどしないマスターベーションとはなにか。足フェチってなんなのか。失恋とはなにか。同性愛をどう解釈したらよいのか。自殺とはなにか。
 この本の優れたところは、こうした「問い」を立てる勇気をもったこと、そしてその問いに対して過去どういう考察と実験が行われ、なにがわかったとされてきたかという先行研究をわかりやすく紹介してくれているところだ。そして著者の考えがそこに添えられる。いまのところこれが暫定的に正しいと思われていますが、あなたはどう思いますか、と喫茶店で問いかけられているよう。読みながら笑えて、真剣に考えられて、身近なのに知らないことだらけの話題。コラム形式の33編というサイズも読みやすく、翻訳も軽妙で見事。「科学の世界には聖なるものなどなかったし、問いが馬鹿げていることも、してはならない問いというものもなかった」と著者はいう。この科学への敬意の姿勢が気持ちいい。
 評・サンキュータツオ(学者芸人)
     *
 『なぜペニスはそんな形なのか ヒトについての不謹慎で真面目な科学』 ジェシー・ベリング〈著〉 鈴木光太郎訳 化学同人 2700円
     *
 Jesse Bering 75年米国生まれ。実験心理学者。ニュージーランド・オタゴ大学准教授。『性倒錯者』など。


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